説明

極細繊維不織布およびその製造方法

【課題】 微細な塵埃を補足する効果や、油性の汚れを払拭する効果など、扁平形状の極細繊維の特性をより高めるとともに、保形性はもちろん耐久性に優れた、ワイピングクロス用途に好適な極細繊維不織布およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 構成繊維が実質的にアルカリ不溶性繊維のみからなり、アルカリ不溶性樹脂成分とアルカリ可溶性樹脂成分とから形成された分割性複合繊維のアルカリ可溶性樹脂成分を除去して得られる断面が扁平形状の極細繊維、及び熱接着性繊維を含み、構成繊維がニードル及び水流によって絡合しているとともに前記熱接着性繊維によって結合している極細繊維不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、極細繊維を含有する不織布に関し、特に微細な塵埃を効率的に清拭、捕捉するためのワイピングクロスとして好適な極細繊維不織布、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から極細繊維の特性を利用した不織布が提案されており、例えば極細繊維が微細な塵埃を補足するという特性を生かした用途としてワイピングクロス用の不織布がある。具体的には、自動車、コピー機などのOA機器、家具、台所などの用途に使用するワイピングクロスとして、油性、水性の汚れのいずれの払拭性にも優れ、しかも保形性に優れたものが求められており、その要求を満たす一例として、特許文献1のワイピング用不織布が提案されている。
【0003】
この特許文献1によれば、繊度0.5デニール以下の繊維を主体とする極細繊維層、親水性繊維を主体とする親水性繊維層、及びこれらの層間に位置する熱融着性繊維を含む融着繊維層の、少なくとも3層からなるワイピング用不織布が提案されている。このワイピング用不織布は繊度0.5デニール以下の繊維を主体とする極細繊維層があるため、微細な汚れでも払拭することができ、繊度0.5デニール以下の繊維が親油性の合成繊維であれば、より油性の汚れを払拭しやすいという利点を有している。ここで、極細繊維層を構成するのは0.5デニール以下の繊維であり、通常断面形状が略円形の2種類以上の樹脂からなる易分割性繊維を分割することにより得られる極細繊維の断面形状は鋭利な角をもつ扁平な形状を有するので、より油性の汚れを払拭しやすいという特性があることが記載されている。そして、この特許文献では、易分割性繊維からなる繊維ウエブと親水性繊維を含有する繊維ウエブを融着繊維からなる繊維ウエブを介して積層し、水流で絡合処理を行なうことにより、易分割性繊維を分割して極細繊維とすると共に、3層の繊維ウエブを絡合させ、その後、絡合した繊維ウエブを加熱処理することにより、熱融着性繊維を融着させ、ワイパー用不織布を得たことが記載されている。
【0004】
しかし、この特許文献では水流で絡合処理を行なうことにより、易分割性繊維を分割して極細繊維としているので、完全に分割されない易分割性繊維が残留することとなり、本来目的とする極細繊維の数自体が得られないか、あるいは扁平な形状の極細繊維が充分に得られないという問題があり、その結果、微細な塵埃を補足する効果や、油性の汚れを払拭する効果が不充分になるという問題があった。また、この特許文献では熱融着性繊維を含む融着繊維層を中間に配置した3層構造とすることにより保形性を確保しているが、伸縮性の異なる繊維層が積層されているため、ごわごわした感触となり、使用し難いという問題があった。また繊維ウエブを形成するための工程が複雑となり、その分生産速度が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、微細な塵埃を補足する効果や、油性の汚れを払拭する効果など、扁平形状の極細繊維の特性をより高めるとともに、保形性はもちろん耐久性に優れ、さらにワイピングクロス用途に好適な極細繊維不織布が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−93350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決して、微細な塵埃を補足する効果や、油性の汚れを払拭する効果など、扁平形状の極細繊維の特性をより高めるとともに、保形性はもちろん耐久性に優れ、さらにワイピングクロス用途に好適な極細繊維不織布およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は、請求項1に係る発明では、構成繊維が実質的にアルカリ不溶性繊維のみからなり、アルカリ不溶性樹脂成分とアルカリ可溶性樹脂成分とから形成された分割性複合繊維のアルカリ可溶性樹脂成分を除去して得られる断面が扁平形状の極細繊維、及び熱接着性繊維を含み、構成繊維がニードル及び水流によって絡合しているとともに前記熱接着性繊維によって結合していることを特徴とする極細繊維不織布である。この発明により、微細な塵埃を補足する効果や、油性の汚れを払拭する効果など、扁平形状の極細繊維の特性をより高めるとともに、保形性はもちろん耐久性に優れ、さらにワイピングクロス用途に好適な極細繊維不織布を提供することが可能となる。
【0009】
請求項2に係る発明では、請求項1に記載の極細繊維不織布からなるワイピングクロスである。
【0010】
請求項3に係る発明では、アルカリ不溶性樹脂成分とアルカリ可溶性樹脂成分とから形成された分割性複合繊維と、アルカリ不溶性樹脂成分を含有する熱接着性繊維とからなる繊維ウエブをニードル及び水流によって絡合し、次いで前記熱接着性繊維を加熱することによって構成繊維を結合し、次いでアルカリ液にて前記アルカリ可溶性樹脂成分を溶出することを特徴とする極細繊維不織布の製造方法である。この発明により、微細な塵埃を補足する効果や、油性の汚れを払拭する効果など、扁平形状の極細繊維の特性をより高めるとともに、保形性はもちろん耐久性に優れ、さらにワイピングクロス用途に好適な極細繊維不織布の製造方法を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
微細な塵埃を補足する効果や、油性の汚れを払拭する効果など、扁平形状の極細繊維の特性をより高めるとともに、保形性はもちろん耐久性に優れ、さらにワイピングクロス用途に好適な極細繊維不織布を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は本発明に適用される極細繊維または分割性複合繊維の断面の例、(b)は本発明に適用される極細繊維または分割性複合繊維の断面の別の例、(c)は本発明に適用される極細繊維または分割性複合繊維の断面の別の例、(d)は本発明に適用される極細繊維または分割性複合繊維の断面の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る極細繊維不織布およびその製造方法の好ましい実施の形態について詳細に説明する。なお、極細繊維不織布の製造方法については、極細繊維不織布の説明の中で説明する。
【0014】
本発明の極細繊維不織布は、構成繊維が実質的にアルカリ不溶性繊維のみからなる。アルカリ不溶性繊維としては、例えばアルカリ不溶性の樹脂成分から形成されるナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系繊維、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系繊維、ビニロン繊維などを挙げることができる。また、アルカリ不溶性の樹脂成分を2成分以上複合して形成される、複合型の繊維を挙げることができる。また、芯鞘型の複合繊維で、鞘部にアルカリ不溶性の樹脂成分を有する複合繊維を挙げることができる。
【0015】
ここで、「実質的に」とは、後述するように、アルカリ不溶性樹脂成分とアルカリ可溶性樹脂成分とから形成された分割性複合繊維のアルカリ可溶性樹脂成分を除去して断面が扁平形状の極細繊維を形成する際に、アルカリ可溶性樹脂成分が好ましくは5質量%未満、より好ましくは3質量%未満、さらに好ましくは1質量%未満残留した状態を含むことを意味する。
【0016】
また、「極細繊維、及び熱接着性繊維を含む」とは、本発明の極細繊維不織布が1層からなる場合は、その層に極細繊維と熱接着性繊維を両方含むことを意味し、極細繊維不織布が2層以上不離一体に積層されている場合は、極細繊維不織布全体として極細繊維と熱接着性繊維を両方含むことを意味する。したがって、本発明の極細繊維不織布は、例えば、ある層のA層が極細繊維100%からなり、別の層のB層が接着繊維100%からなり、絡合によってA層中の極細繊維の一部がB層に入り込む、および/または絡合によってB層中の接着繊維の一部がA層に入り込む形態の極細繊維不織布を含んでいる。
【0017】
また、前記構成繊維は、アルカリ不溶性樹脂成分とアルカリ可溶性樹脂成分とから形成された分割性複合繊維のアルカリ可溶性樹脂成分を除去して得られる断面が扁平形状の極細繊維を含んでいる。ここで、アルカリ不溶性樹脂成分とアルカリ可溶性樹脂成分とから形成された分割性複合繊維としては、一成分を他成分間に放射状に配した断面形状をもつ菊花型繊維、異なる成分を交互に層状に積層した断面形状をもつバイメタル型繊維があり、具体的には、例えば図1の(a)、(b)、(c)、(d)に断面を例示するように樹脂成分1と樹脂成分2とからなる複合繊維を挙げることができる。なお、図1の(a)では、樹脂成分1をアルカリ不溶性樹脂成分とし樹脂成分2をアルカリ可溶性樹脂成分とすることができる。このような断面形状の分割性複合繊維の樹脂成分1または樹脂成分2を、アルカリ液を用いて溶解除去することによって、断面形状が扁平形状の極細繊維を形成することができる。本発明では、極細繊維が鋭利な角をもつ扁平な断面形状を有するので、微細な塵埃を除去するとともに油性の汚れを払拭しやすいという利点がある。また、アルカリ可溶性樹脂成分を除去して得られる極細繊維であるので、単に水流により分割して発生した極細繊維と異なりほぼ完全に分割した極細繊維であり、極細繊維としての効果を十分に発揮できるという利点がある。
【0018】
特に、図1(a)または(c)のように、極細繊維の断面形状が略三角形の場合は、三角形の角が鋭利な角となるので、特に微細な塵埃を除去するとともに油性の汚れを払拭しやすいという利点がある。また、図1(b)のように、樹脂成分1と樹脂成分2とが層状に積層されており、分割後に繊維断面が偏平形状となるような極細繊維を含むことにより、場合により水流による絡合が高度に生じソフトな風合いと耐久性に優れた不織布とすることができる。偏平形状に関しては、長軸の長さをaとし短軸の長さをbとすると、偏平度a/bの値が3以上であることが好ましい。偏平度a/bの値は例えば100個以上の走査型電子顕微鏡の映像を平均して求めることができる。
【0019】
前記分割性複合繊維は、水流により分割する繊維であることも可能である。この水流により分割する繊維とは、金属性ネットやプラスチックネットなどの多孔性支持体上に、分割性複合繊維を含む繊維ウエブを載置して、その上方から繊維ウエブに向けて、高圧のノズルから水流を噴射する方法によって、アルカリ不溶性樹脂成分とアルカリ可溶性樹脂成分とに分割する繊維である。このような繊維であれば、分割すると同時に細繊維化したアルカリ不溶性樹脂成分からなる極細繊維同士が絡合して、より耐久性に優れた極細繊維不織布となるので、好ましい形態である。
【0020】
前記極細繊維の繊維径は、7μm以下であることが好ましく、0.5〜7μmがより好ましく、2〜7μmが更に好ましい。7μmを超えると微細な塵埃を補足する効果や、油性の汚れを払拭する効果などが低下する場合があり、また柔軟性や、風合いに劣った不織布となり、水流による交絡がし難くなり、その結果不織布の耐久性が低下する場合がある。また、0.5μm未満では、極細繊維の強度が低下して、その結果不織布の耐久性が低下する場合がある。
【0021】
なお、極細繊維の繊維径は走査型電子顕微鏡の平面、又は断面の映像で確認できる直径で表すことができる。直径にバラツキがある場合は前記映像のうち例えば任意の100個の数平均値で表すことができる。繊維の断面形状が円形でない場合は、繊維断面と同じ面積を有する円の直径で表すことができる。なお、使用される原料の繊度(デシテックス)が分かっている場合は、次式で得られる繊維径で表すことができる。
【0022】
D=(4d/π・10・ρ)0.5・10
(ここで、D:繊維径(μm),ρ:繊維を構成する高分子重合体の密度(g/cm),d:繊維の繊度(デシテックス),π:円周率)
【0023】
また、前記極細繊維の構成繊維中に占める割合は50〜96質量%であることが好ましく、60〜94質量%であることがより好ましく、70〜92質量%であることが更に好ましい。50質量%未満であると、極細繊維による微細な塵埃を補足する効果や、油性の汚れを払拭する効果などの有利な特性が充分に発揮されない場合があり、96質量%を超えると接着性繊維の割合が低下して、構成繊維を充分に結合できず耐久性に劣る極細繊維不織布になる場合がある。
【0024】
本発明では、前記構成繊維はさらに熱接着性繊維を含んでいる。当該熱接着性繊維としては、構成繊維の融点の中で最も低い融点を有する単一成分からなる熱接着性繊維が適用可能であり、また構成繊維の融点の中で最も低い融点を有する低融点成分と、この低融点成分よりも高い融点(好ましくは10℃以上高い融点、より好ましくは20℃以上高い融点)を有する高融点成分とからなる、2種類以上の樹脂成分からなるサイドバイサイド型、芯鞘型などの複合型の熱接着性繊維が可能である。なお、前記熱接着性繊維の接着温度は、極細繊維を含有する構成繊維を接着により結合させる際に払拭性が低下することがないように、極細繊維の融点よりも10℃以上低いことが好ましく、より好ましくは20℃以上低いことが好ましい。
【0025】
前述の単一成分からなる熱接着性繊維としてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどの樹脂を主体とする繊維を例示でき、複合型の熱接着性繊維の樹脂成分として、6ナイロン/ポリエチレン、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/エチレン−酢酸ビニル共重合体、6ナイロン/66ナイロン、高密度ポリエチレン/低密度ポリエチレンなどの組み合わせが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
また、前記熱接着性繊維の構成繊維中に占める割合が4〜50質量%であることが好ましく、6〜40質量%であることがより好ましく、8〜30質量%であることが更に好ましい。4質量%未満であると、構成繊維を充分に結合できず耐久性に劣る極細繊維不織布になる場合があり、50質量%を超えると極細繊維不織布の柔軟性や拭取り性能が低下し過ぎる場合がある。
【0027】
また、本発明では、前記構成繊維は断面が扁平形状の前記極細繊維と前記熱接着性繊維以外にも、他の機能性を付加する目的で、本発明の特性を大きく低下させない範囲で、他のアルカリ不溶性繊維を含有することも可能である。
【0028】
また、前記構成繊維の繊維長さは、不織布の各製造方法での繊維ウエブの形成に適した長さを適用可能であり、例えば乾式法やエアレイ法であればカード機に供給するステープル繊維として好適な15〜110mmであることが好ましく、スパンボンド法であれば連続した長繊維が適用可能である。これらの製法中でも、乾式法やエアレイ法であれば、スパンボンド法と比較して分割性複合繊維と熱接着性繊維を均一に混合可能であること、また湿式法と比較して細繊維不織布の強度がより優れるという点で、好ましい繊維長は15〜110mmである。
【0029】
本発明では、前記構成繊維がニードル及び水流によって絡合しているとともに前記熱接着性繊維によって結合している。ニードルによる絡合は、公知の方法で行うことが可能であり、例えばニードルパンチ用の針を用いて、針深さ1〜20mm、針密度100〜1000本/mの条件で行うことが可能である。また、水流による絡合は、ニードルによる絡合の後で行われることが好ましい。この水流による絡合は、公知の方法で行うことが可能であり、例えば金属性ネットやプラスチックネットなどの多孔性支持体上に、アルカリ不溶性樹脂成分とアルカリ可溶性樹脂成分とから形成された分割性複合繊維と、アルカリ不溶性樹脂成分を含有する熱接着性繊維とからなる繊維ウエブを載置して、その上方から繊維ウエブに向けて、高圧のノズルから水流を噴射する方法を適用することができる。
【0030】
前記水流の発生に用いる好ましいノズルとしては、例えばノズル孔が一列又は複数列に配置されたノズルがあり、ノズル孔の列は生産方向と交差する方向に配置される。ノズル孔の孔径は直径0.05〜0.5mmが好ましく、0.1〜0.3mmがより好ましく、0.1〜0.18mmがさらに好ましい。また隣り合うノズル孔の間隔は0.2〜4mmが好ましく、0.3〜3mmが好ましく、0.4〜2mmがさらに好ましい。ノズルから噴射される水流の形状は柱状が好ましいが、ノズル孔から離れるほど水流の太さが広がるような円錐形状も可能である。またノズル内の圧力は好ましくは0.1〜15MPaである。また前記ノズルを複数配置しておくことも可能であるが、エネルギー消費効率から考慮すると全て合わせて10台以内のノズル台数で噴射処理することが好ましい。
【0031】
本発明では、前記構成繊維がニードル及び水流によって絡合していることが必要であり、ニードルによる絡合と水流による絡合が併用されることにより、構成繊維の絡合と高い繊維密度を得ることができる。すなわち、ニードルパンチは繊維を絡合する効果が大きい利点があるものの極細繊維不織布の見掛け密度を高める(又は繊維密度を高める)効果に乏しいという問題があり、特に分割性複合繊維のアルカリ可溶性樹脂成分を溶解除去した後はルーズな構造になり繊維組織崩れ易いという問題がある。その一方で、水流絡合は繊維を絡合する効果が比較的小さいものの極細繊維不織布の見掛け密度を高める効果に優れるという利点がある。そこで、ニードルによる絡合と水流による絡合の併用によって、互いの欠点を補い両者の利点を相乗させることが可能となり、構成繊維の絡合と高い繊維密度を得ることができる。
【0032】
また、本発明では、構成繊維がニードル及び水流によって絡合しているとともに前記構成繊維が熱接着性繊維によって結合していることが必要である。この結合は、熱接着性繊維がその低融点成分の融点以上の温度で加熱処理されることで、低融点成分が他の繊維に融着して繊維間の結合が生じる。この加熱処理は、ニードルによる絡合と水流による絡合が行われた後に、またアルカリ液によるアルカリ可溶樹脂成分の溶解処理前に行われることが好ましく、このような方法により、繊維組織の崩れを防止するとともに、アルカリ可溶樹脂成分の溶解処理後に柔軟性に優れるとともに耐久性に富む極細繊維不織布を得ることができるという利点がある。すなわち、まず接着性繊維同士が繊維交点で確実に接着固定して、強固な繊維構造の骨格を形成し、その骨格の中で、分割性複合繊維がアルカリ処理によって分割され極細化して、分散が生じ、繊維の自由度が高まる。また、接着性繊維が分割性複合繊維に対して融着して形成された融着樹脂からなる接着交点はアルカリ処理によって、アルカリ不溶性樹脂成分からなる極細繊維との小さな接着交点となり、すなわち融着樹脂の一部が剥離して小さな融着樹脂となることで、繊維の自由度が高まるのである。
【0033】
本発明の極細繊維不織布の面密度は、30〜150g/mが好ましく、40〜100g/mがより好ましく、50〜80g/mが更に好ましい。30g/m未満であると、ニードルによる絡合が不充分となり耐久性に劣る場合があり、150g/mを超えると柔軟性が低下する場合や、極細繊維不織布の中間層の極細繊維の特性を充分に生かしきれず、過剰品質になる場合がある。
【0034】
また、本発明の極細繊維不織布の厚さは、0.3〜1.5mmが好ましく、0.4〜1.0mmがより好ましく、0.5〜0.8mmが更に好ましい。0.3mm未満であると、手に持った時に厚み感に乏しく感じる場合や、拭き取り性能が劣る場合があり、1.5mmを超えると柔軟性が低下する場合がある。なお、厚さは1cmあたり20gの荷重時の厚さで表すものとする。
【0035】
また、本発明の極細繊維不織布の見掛け密度は、0.04〜0.3g/cmが好ましく、0.07〜0.2g/cmがより好ましく、0.09〜0.18g/cmが更に好ましい。0.04cm未満であると、繊維組織が崩れ易くなる場合があり、0.3cmを超えると柔軟性が低下する場合がある。
【0036】
また、本発明の極細繊維不織布の柔軟性の指標となる剛軟度の値は好ましくは100mm以下であることが好ましく、より好ましくは85mm以下であり、さらに好ましくは70mm以下である。なお剛軟度はJIS L1096に記載される、剛軟性8.19.1A法(45度カンチレバー法)に準じて測定した値を用い、タテ方向とヨコ方向の平均値を用いるものとする。また本発明の極細繊維不織布の湿潤時の幅引きは10%以内であることが好ましく、より好ましくは8%以内であり、さらに好ましくは7%以内である。なお幅引きの試験は、250mm幅×500mm長さの試験片を水に浸漬し、端部をバーに固定して持ち上げた時の幅引きの値(mm)を測定し、その測定値の250mmに対する割合(%)で表すものとする。
【0037】
本発明の極細繊維不織布の用途としては、ワイピングクロス、皮膚洗浄材、床ずれ抑制材、フィルタ、電池用セパレータなどがあるが、特に好適な用途としては、極細繊維の特長を十分に発揮できる点、及び耐久性に優れる点でワイピングクロスを挙げることができる。ワイピングクロスとしては、自動車、家具、台所などを対象として手で作業する用途や、コピー機などのOA機器、精密部品などを対象として機械によってクリーニングする、例えば半導体用クリーニングテープなどの用途に用いられるワイピングクロスを挙げることができる。
【0038】
本発明の極細繊維不織布の製造方法は、アルカリ不溶性樹脂成分とアルカリ可溶性樹脂成分とから形成された分割性複合繊維と、アルカリ不溶性樹脂成分を含有する熱接着性繊維とからなる繊維ウエブをニードル及び水流によって絡合し、次いで前記熱接着性繊維を加熱することによって構成繊維を結合し、次いでアルカリ液にて前記アルカリ可溶性樹脂成分を溶出することを特徴とする。この製造方法によって、本発明の極細繊維不織布を製造することができる。
【0039】
「アルカリ不溶性樹脂成分とアルカリ可溶性樹脂成分とから形成された分割性複合繊維と、アルカリ不溶性樹脂成分を含有する熱接着性繊維とからなる繊維ウエブ」については、前述の説明をそのまま適用することができる。また、「繊維ウエブをニードル及び水流によって絡合し、次いで前記熱接着性繊維を加熱することによって構成繊維を結合」することについても、前述の説明をそのまま適用することができる。
【0040】
本発明の製造方法では、繊維ウエブをニードル及び水流によって絡合し、次いで前記熱接着性繊維を加熱することによって構成繊維を結合して、絡合・結合繊維ウエブを形成し、次いでアルカリ液にて前記アルカリ可溶性樹脂成分を溶出する。このアルカリ液としては、アルカリ水溶液を用いることが好ましく、アルカリ水溶液に、前記絡合・結合繊維ウエブを浸漬して、アルカリ可溶性樹脂成分を溶出して除去する。この処理に際しては、例えばアルカリ可溶性樹脂成分がポリエステル樹脂成分であれば、水酸化ナトリウムの6%水溶液を95℃に加温して、その水溶液中に30分間浸漬することにより、ほぼ100%の溶解除去が可能である。
【0041】
なお、アルカリ液によりアルカリ可溶性樹脂成分を溶出した後に、乾燥処理を行うが、この乾燥処理の温度条件としては、特に極細繊維不織布に柔軟性が要求される場合には、前記熱接着性繊維の低融点樹脂成分の融点未満の温度で乾燥処理を行うことが好ましい。また、特に極細繊維不織布に耐久性が要求される場合には、前記熱接着性繊維の低融点樹脂成分の融点以上の温度で乾燥処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明するが、これは発明の理解を容易とするための好適例にすぎず、本発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【0043】
(拭取り性能の試験方法)
5人のモニターによって、予め、たばこの煙によって曇ったメガネのレンズを拭き、拭き残りの有無、キズ発生の有無、リントの付着の有無、作業性の良否の4項目についての状態を目視または判断して、全ての項目において良好であることを全員が判断した場合を○とし、3人以上が良好と判断した場合を△とし、2〜0人が良好と判断した場合を×とする。
【0044】
(実施例1)
図1の(c)に示す断面形態を有する2.2デシテックスの分割性複合繊維(繊維長51mm、樹脂成分1は45質量%の6ナイロン樹脂、樹脂成分2は55質量%のポリエチレンテレフタレート樹脂からなる16分割)95質量%と、1.1デシテックスの熱接着性繊維(繊維長38mm、芯成分がポリプロピレンで鞘成分がポリエチレンからなる芯鞘型複合繊維)5質量%を混合して、カード機に投入して、繊維ウエブを形成した。次いで、この繊維ウエブをニードル処理(針:40番、針深さ:8mm、針密度400本/cm)によって絡合した。次いで、この繊維ウエブを金網コンベアー上に載置した後、金網コンベアーを移動させながら、この繊維ウエブの両面に対して、ノズル(ノズル孔の孔径が直径0.13mm、ノズル孔の間隔0.6mm、ノズル内圧力12MPa)から柱状水流を噴射することによって、この繊維ウエブを水流の作用によって更に絡合した。次いで、絡合後の繊維ウエブを150℃のドライヤーに入れて加熱処理を行い、熱接着性繊維によって構成繊維を結合して繊維シート(面密度:約120g/m、厚さ0.41mm、見掛け密度0.29g/cm、分割性複合繊維の比率:95質量%)を得た。その後、この繊維シートをPP製の筒状多孔体に巻回して、この巻回した状態のまま、95℃のNaOH水溶液(6質量%)中に30分間浸漬して、ポリエチレンテレフタレート樹脂成分をほぼ100%溶出させた。次いで、酢酸によって中和、水洗、脱水、乾燥(120℃)の各工程を経て、極細繊維不織布を得た。
得られた極細繊維不織布の断面を走査型電子顕微鏡の映像で観察すると、前記2.2デシテックスの分割性複合繊維が8個の部分に分割して、6ナイロン樹脂からなる平均繊維径が約4μmの扁平形状の極細繊維となっていた。
また、この極細繊維不織布は、面密度が63g/mであり、厚さが0.54mmであり、見掛け密度0.12g/cmであり、極細繊維の比率が90質量%であり、剛軟度は38mmであり、湿潤時の幅引きは6%であり、拭取り性能は○であった。
【0045】
(実施例2)
実施例1において、2.2デシテックスの分割性複合繊維80質量%と、1.1デシテックスの熱接着性繊維20質量%を混合して、カード機に投入して、繊維ウエブを形成したこと以外は実施例1と同様にして、繊維シート(面密度:約120g/m、厚さ0.45mm、見掛け密度0.27g/cm、分割性複合繊維の比率:80質量%)を得た。その後、この繊維シートを実施例1と同様の各工程を経て、極細繊維不織布を得た。
得られた極細繊維不織布の断面を走査型電子顕微鏡の映像で観察すると、前記2.2デシテックスの分割性複合繊維が8個の部分に分割して、6ナイロン樹脂からなる平均繊維径が約4μmの扁平形状の極細繊維となっていた。
また、この極細繊維不織布は、面密度が68g/mであり、厚さが0.64mmであり、見掛け密度0.11g/cmであり、極細繊維の比率が64質量%であり、剛軟度は65mmであり、湿潤時の幅引きは0.8%であり、拭取り性能は○であった。
【0046】
(実施例3)
実施例1において、2.2デシテックスの分割性複合繊維74質量%と、1.1デシテックスの熱接着性繊維26質量%を混合して、カード機に投入して、繊維ウエブを形成したこと以外は実施例1と同様にして、繊維シート(面密度:約120g/m、厚さ0.51mm、見掛け密度0.24g/cm、分割性複合繊維の比率:74質量%)を得た。その後、この繊維シートを実施例1と同様の各工程を経て、極細繊維不織布を得た。
得られた極細繊維不織布の断面を走査型電子顕微鏡の映像で観察すると、前記2.2デシテックスの分割性複合繊維が8個の部分に分割して、6ナイロン樹脂からなる平均繊維径が約4μmの扁平形状の極細繊維となっていた。
また、この極細繊維不織布は、面密度が72g/mであり、厚さが0.73mmであり、見掛け密度0.10g/cmであり、極細繊維の比率が56質量%であり、剛軟度は112mmであり、湿潤時の幅引きは0.0%であり、拭取り性能は△であった。すなわち、拭き残りの有無、キズ発生の有無の2項目において不良があり、総合評価において拭取り性能は△であった。
【0047】
(実施例4)
図1の(c)に示す断面形態を有する2.2デシテックスの分割性複合繊維(繊維長51mm、樹脂成分1は6ナイロン樹脂、樹脂成分2はポリエチレンテレフタレート樹脂からなる16分割)100質量%をカード機に投入して、面密度108g/mの繊維ウエブAを形成した。次いで、1.1デシテックスの熱接着性繊維(繊維長38mm、芯成分がポリプロピレンで鞘成分がポリエチレンからなる芯鞘型複合繊維)100質量%を別のカード機に投入して、面密度12g/mの繊維ウエブBを形成して、前記繊維ウエブAの上に積層して積層繊維ウエブを形成した。次いで、この積層繊維ウエブをニードル処理(針:40番、針深さ:8mm、針密度400本/cm)によって絡合した。次いで、この積層繊維ウエブを金網コンベアー上に載置した後、金網コンベアーを移動させながら、この積層繊維ウエブの両面に対して、ノズル(ノズル孔の孔径が直径0.13mm、ノズル孔の間隔0.6mm、ノズル内圧力12MPa)から柱状水流を噴射することによって、この積層繊維ウエブを水流の作用によって更に絡合した。次いで、絡合後の積層繊維ウエブを150℃のドライヤーに入れて加熱処理を行い、熱接着性繊維によって構成繊維を結合して繊維シート(面密度:約120g/m、厚さ0.42mm、見掛け密度0.29g/cm、分割性複合繊維の比率:90質量%)を得た。その後、この繊維シートをPP製の筒状多孔体に巻回して、この巻回した状態のまま、95℃のNaOH水溶液(6質量%)中に30分間浸漬して、ポリエチレンテレフタレート樹脂成分をほぼ100%溶出させた。次いで、酢酸によって中和、水洗、脱水、乾燥(120℃)の各工程を経て、極細繊維不織布を得た。
得られた極細繊維不織布の断面を走査型電子顕微鏡の映像で観察すると、前記2.2デシテックスの分割性複合繊維が8個の部分に分割して、6ナイロン樹脂からなる平均繊維径が約4μmの扁平形状の極細繊維となっていた。また、この極細繊維を主体としたA層と、熱接着性繊維を主体としたB層とが、不離一体に積層されて2層構造となっており、A層中の極細繊維の一部がB層に入り込むと共に、B層中の接着繊維の一部がA層に入り込んでいた。
また、この極細繊維不織布は、面密度が62g/mであり、厚さが0.56mmであり、見掛け密度0.11g/cmであり、極細繊維の比率が80質量%であり、剛軟度は48mmであり、湿潤時の幅引きは1.2%であり、極細繊維を主体としたA層での拭取り性能は○であった。
【0048】
(比較例1)
実施例1で、2.2デシテックスの分割性複合繊維100質量%をカード機に投入して、繊維ウエブを形成したこと、この繊維ウエブをニードル処理によって絡合せずに、水流の作用によって絡合したこと、及び絡合後の繊維ウエブに加熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、繊維シート(面密度:約130g/m、厚さ0.55mm、見掛け密度0.24g/cm、分割性複合繊維の比率:100質量%)を得た。その後、この繊維シートを実施例1と同様の各工程を経て、極細繊維不織布を得た。
得られた極細繊維不織布の断面を走査型電子顕微鏡の映像で観察すると、前記2.2デシテックスの分割性複合繊維が8個の部分に分割して、6ナイロン樹脂からなる平均繊維径が約4μmの扁平形状の極細繊維となっていた。
また、この極細繊維不織布は、面密度が73g/mであり、厚さが0.81mmであり、見掛け密度0.09g/cmであり、極細繊維の比率が100質量%であり、剛軟度は32mmであり、湿潤時の幅引きは25%であり、拭取り性能は×であった。すなわち、リントの付着の有無、作業性の良否の2項目において不良があり、総合評価において拭取り性能は×であった。
【0049】
(比較例2)
実施例1で、2.2デシテックスの分割性複合繊維100質量%をカード機に投入して、繊維ウエブを形成したこと、この繊維ウエブをニードル処理によって絡合せずに、水流の作用によって絡合したこと、及び絡合後の繊維ウエブに加熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、繊維シート(面密度:65g/m、厚さ0.23mm、見掛け密度0.28g/cm、分割性複合繊維の比率:100質量%)を得た。
得られた繊維シートはアルカリ液による処理がなされておらず、その断面を走査型電子顕微鏡の映像で観察すると、前記2.2デシテックスの分割性複合繊維の約75%が2〜16個の部分に分割して、6ナイロン樹脂からなる扁平形状の極細繊維となっており、残りの約25%は分割していなかった。また、1/16に分割している極細繊維の平均繊維径は約4μmであった。
また、この繊維シートは、剛軟度は57mmであり、湿潤時の幅引きは2%であり、拭取り性能は×であった。すなわち、拭き残りの有無、キズ発生の有無の2項目において不良があり、総合評価において拭取り性能は×であった。
【0050】
実施例から明らかなように、実施例1〜4の極細繊維不織布は、微細な塵埃を補足する効果や、油性の汚れを払拭する効果に優れ、特にワイピングクロス用途に好適な極細繊維不織布であった。これに対して、比較例1〜2の極細繊維不織布または繊維シートは、特に拭取り性能に劣っていた。
【符号の説明】
【0051】
1 樹脂成分
2 他の樹脂成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成繊維が実質的にアルカリ不溶性繊維のみからなり、アルカリ不溶性樹脂成分とアルカリ可溶性樹脂成分とから形成された分割性複合繊維のアルカリ可溶性樹脂成分を除去して得られる断面が扁平形状の極細繊維、及び熱接着性繊維を含み、構成繊維がニードル及び水流によって絡合しているとともに前記熱接着性繊維によって結合していることを特徴とする極細繊維不織布。
【請求項2】
請求項1に記載の極細繊維不織布からなるワイピングクロス。
【請求項3】
アルカリ不溶性樹脂成分とアルカリ可溶性樹脂成分とから形成された分割性複合繊維と、アルカリ不溶性樹脂成分を含有する熱接着性繊維とからなる繊維ウエブをニードル及び水流によって絡合し、次いで前記熱接着性繊維を加熱することによって構成繊維を結合し、次いでアルカリ液にて前記アルカリ可溶性樹脂成分を溶出することを特徴とする極細繊維不織布の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−216042(P2010−216042A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65423(P2009−65423)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】