説明

構造部材の亀裂補修装置および亀裂補修方法

【課題】構造部材を融点以下の温度で、最小限のエリアのみ熱履歴を加え、補修個所を最小限にとどめ、かつ小型化した構造物の亀裂補修装置及び亀裂補修方法を得る。
【解決手段】構造部材1の亀裂部2に押圧回転装置6により接合ツール7を加圧接触させ、接合ツール7を回転させて亀裂部2と接合ツール7との接触面に摩擦熱を発生させ、この摩擦熱によって構造部材1を軟化させて摩擦攪拌接合により亀裂部2を接合して補修する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造部材の亀裂を除去することなく補修する構造部材の亀裂補修装置および亀裂補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば原子炉の炉心シュラウドのような構造部材に亀裂が生じた場合、その亀裂を補修するためには、構造部材表面から亀裂を完全に除去し、その後にアーク溶接などの熱源を利用し、ワイヤを添加しながら溶接で亀裂除去部を埋め、補修していた。
【0003】
しかしこのような従来の亀裂補修方法であると、亀裂の除去工程と、亀裂除去部の溶接工程などの多くの補修工程を必要とし、補修作業に時間がかかる。
また、構造部材である母材に対しての入熱が大きいことから、難溶接材料および放射線部材への溶接に対する適用が敬遠されていた。
【0004】
そこで最近では、これら構造部材に対して亀裂を除去することなく補修する方法として、高密度エネルギーを熱源とするレーザ溶接を用いた亀裂補修方法や、比較的深い溶込みが得られるA-TIG溶接を用いた亀裂補修方法が開発されてきた(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−287062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、いずれの亀裂補修方法とも母材を溶かす方法であり、最低でも母材を溶かすだけの熱量を母材に入熱する必要があった。
しかし、原子力機器などにおいては、放射線量の問題で母材を溶かすことによりヘリウムバブルが発生し、溶接欠陥を生じることがあり、母材の融点以下での補修が望まれていた。
【0006】
また、補修個所は最小限にとどめ、最小限のエリアのみ熱履歴を与えることが望ましい。
また、現地での作業では構造部材の形状や寸法の制約上、小型の補修装置でなければアクセスできない部位もある。
【0007】
さらに、母材の補修部の酸化を防ぎ、母材の温度を常に一定に保ち、補修条件を安定化させるために、水中環境での補修も行わなければならない場合もあり、このような水中での保守作業が行える亀裂補修装置が望まれるなど、多くの技術的な課題があった。
【0008】
本発明は以上の課題を解決するためになされたものであって、構造部材の母材を溶かすことなく、熱履歴を与えるエリアを必要最小限に小さくし、小型で、水中環境においても作業の行える構造部材の亀裂補修装置および亀裂補修方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するために本発明の請求項1記載の構造物の亀裂補修装置は、構造部材の亀裂部と加圧接触し、構造部材と相対的に回転し、構造部材との接触部に摩擦熱を発生する接合ツールと、前記構造部材と接合ツールとの相対的な回転を与える回転装置と、前記接合ツールを保持する保持部材とからなることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の構造物の亀裂補修方法は、構造部材の亀裂部と接合ツールとを加圧接触させる手段と、加圧接触した接合ツールを構造部材に対して相対的に回転させ、接触面に摩擦熱を発生させる手段と、前記摩擦熱により構造部材を軟化させ、亀裂部を接合させる手段とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の構造部材の亀裂補修装置および亀裂補修方法によれば、構造部材の母材を溶かすことなく、熱履歴を与えるエリアを必要最小限に小さくし、小型で、水中環境においても作業が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態を示す図である。図1において、符号1は、表面に亀裂2が生じた構造部材(以下母材と称する)、符号3は、前記母材2を載置し、第1の軸線である矢印X軸線に沿って水平方向に移動可能な移動台座、符号4は、前記移動台座3と相対的に移動可能な固定支柱、符号5は、前記X軸線と直角な第2の軸線である矢印Y軸線に沿って水平方向に移動可能なように前記固定支柱4に取り付けられた移動架台、符号6は、前記移動架台5に取り付けられ、前記母材1に対して第3の軸線である矢印Z軸線に沿って垂直方向に移動可能な押圧回転装置、符号7は、前記押圧回転装置6と前記母材1との間に挟まれ、押圧回転装置6の垂直下降動作により加圧力をもって母材1に押し付けられる接合ツールである。
前記押圧回転装置6は、垂直下降動作により接合ツール7を母材1に押し付けるると共に、接合ツール7を母材1に押し付けたままの状態で回転させる回転装置を備えている。
【0013】
次に上記亀裂補修装置の作用について説明する。亀裂2を生じた母材1は移動台座3上に載置され、図示しない固定装置により固定される。
接合ツール7は母材1の亀裂2部分に当てられ、上方から押圧回転装置6により亀裂2部分に適当な圧力で加圧接触される。
【0014】
これと同時に接合ツール7は亀裂2に加圧接触されたままの状態で押圧回転装置6により回転させられる。
接合ツール7の回転により、接合ツール7と母材1との接触面に摩擦熱が生じ、その摩擦熱よって母材1が軟化され、摩擦攪拌接合によって母材1の融点以下の温度で亀裂2を接合し、亀裂を補修することができる。
【0015】
亀裂2がある長さや形を有している場合は、それに応じて移動台座3および移動架台5をX軸線、Y軸線に沿って水平移動させながら亀裂2に沿って亀裂補修を行うことによって、亀裂2の全長に亘って接合することができる。これにより接合完了した部分には接合ビード8が形成される。
【0016】
このように本実施の形態によれば、母材1の亀裂補修を亀裂2を除去することなく行うことができるので亀裂除去工程を省略でき、補修工程を短縮することができる。
また、摩擦攪拌接合によって母材1の融点以下の温度で亀裂2を接合するため、母材1へ投入する熱量が小さくて済み、母材1を溶かすことなく、熱ダメージが少なくなり、難溶接材料や放射線部材への適用も可能となる。
【0017】
さらに、移動台座3や移動架台5のX軸線、Y軸線に沿った動きにより、亀裂補修個所に沿って接合ツールを移動させることができるので、補修個所を最小限に留め、熱履歴を与えるエリアも最小限にすることができる。
【0018】
母材としてオーステナイト系ステンレス鋼またはNi基合金に適用する場合には、接合部を微細組織化することにより応力腐食割れを防止することが可能である。また、母材としてガスタービン部材のようなCo基合金に適用する場合には、接合部を微細組織化することにより高温強度を向上させることが可能である。
【0019】
さらに、亀裂補修後、補修部の表面硬化層をグラインダーなどの除去装置で除去し、さらにショットピーニングなどで圧縮応力を付加することにより、補修部表面の応力腐食割れを防止することができる。
【0020】
次に本発明の第2の実施の形態について図2を参照して説明する。なお、以下の実施の形態の説明において、図1に示す第1の実施の形態と同一部分には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0021】
図2において、9a、9bはCCDカメラのような撮像装置で、接合ツール7の近傍、例えば、母材1の移動方向であるX軸線に沿って接合ツール7の前後に、レンズを接合ツール7と母材1との接触面に向けて、支え部材10a、10bによって押圧回転装置6に取り付けられている。
11は前記撮像装置9a、9bからの撮像信号を受け、接合ツール7と母材1との接触面の状態を面画上に画像表示するモニタである。
【0022】
本実施の形態によれば、撮像装置9a、9bで撮影した撮像信号をモニタ11の画面に画像表示することより、図3(a)に示すように亀裂の補修状態が目視で確認できるので確実な亀裂の補修を行うことができる。
【0023】
また撮像装置9a、9bの向きを適宜調整することにより、亀裂2の形や向きなどの位置情報を確認しながら亀裂を追従し、それに応じて移動台座3および移動架台5をX軸線、Y軸線に沿って水平移動させながら亀裂補修を行うことによって、亀裂2の全長に亘って接合することができ、短時間で、確実な亀裂2の補修が行えるるる。
【0024】
さらに、図3(b)に示すように撮像装置9a、9bで亀裂補修の終了した接合ビート8をモニタ画面上で確認しながら亀裂補修を行えば、亀裂補修後の形状の確認が行え、より正確な亀裂補修を行うことができる。
【0025】
次に本発明の第3の実施の形態について図4(a)、(b)を参照して説明する。
図4は本願発明による亀裂補修装置を原子炉の炉心シュラウドの亀裂補修装置へ適用した場合の実施の形態を示す図である。
【0026】
図4に示すように、原子炉の炉心シュラウド20の内面に亀裂が生じた場合、この亀裂を補修する亀裂補修装置21を支えたサポート22をシュラウド20上部から亀裂補修部まで挿入する。
【0027】
亀裂補修装置21は、亀裂の近傍に配置するためサポート22の上下2箇所で保持された接合ヘッド23を有し、この接合ヘッド23は、シュラウド20の亀裂補修個所と密着させるため真空排気装置24を有している。
【0028】
接合ヘッド23は、図4(b)に拡大して示すように、図1に示す押圧回転装置6に相当する押しつけ軸25と、同じく移動架台5に相当する移動軸26(Y軸線)、移動台座3に相当する移動軸27(X軸線)との駆動軸を有し、接合ツール1をシュラウド20の亀裂部に加圧接触させながら回転軸28により回転させる。
【0029】
このように接合ヘッド23に駆動軸をもたせるため、亀裂補修装置自身はコンパクトになり、接合ヘッド23の大きさ以上の空間がある部位の亀裂補修が可能となる。
また、亀裂補修装置自身に可搬性があるため、亀裂がある部位に補修装置を持っていき、補修時の反力をサポート22で受けることにより接合が可能となる。
【0030】
また、亀裂の方向が縦向きの場合は移動軸26(Y軸線)を主移動軸とし、横向きの場合は移動軸27(X軸線)を主移動軸として移動させることにより、横向・縦向姿勢での接合が可能となる。
さらに水中で亀裂補修する場合は、前記真空排気機構24により補修面の水分を除去するため、補修面が酸化せず、水中補修作業が行える。
【0031】
また必要に応じ補修面に不活性ガスを注入することも可能であり接合ビード状態を確認し、いずれの手法も取れるようになっている。
なお、前記実施の形態においては、母材1と接合ツール7とは相対的に回転可能であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す斜視図。
【図2】本発明の第2の実施の形態を示す斜視図。
【図3】本発明の第2の実施の形態におけるモニタ画面を示す図で、(a)は亀裂位置確認画面を示す図、(b)はビート形状確認画面を示す図。
【図4】本発明の第3の実施の形態を示す図で、(a)は斜視図、(b)は要部を拡大して示す斜視図。
【符号の説明】
【0033】
1…構造部材(母材)、2…亀裂、3…移動台座、4…固定支柱、5…移動架台、6…押圧回転装置、7…接合ツール、8…接合ビート、9a、9b…撮像装置、10a、10b…支え部材、11…モニタ、20…シュラウド、21…亀裂補修装置、22…サポート、23…接合ヘッド、24…真空排気装置、25…押しつけ軸、26…移動軸、27…移動軸、28…回転軸。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造部材の亀裂部と加圧接触し、構造部材と相対的に回転し、構造部材との接触部に摩擦熱を発生する接合ツールと、
前記構造部材と接合ツールとの相対的な回転を与える回転装置と、
前記接合ツールを保持する保持部材とを備えたことを特徴とする構造部材の亀裂補修装置。
【請求項2】
接合ツールが、第1の軸線と、この第1の軸線と略直角に交わる第2の軸線に沿って前記構造部材と相対的に移動可能であることを特徴とする請求項1記載の構造部材の亀裂補修装置。
【請求項3】
接合ツールの近傍に撮像装置を設けたことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の構造部材の亀裂補修装置。
【請求項4】
接合ツールを第1の軸線に沿って移動させる第1の移動軸と、接合ツールを第2の軸線に沿って移動させる第2の移動軸と、接合ツールを回転させる回転軸と、接合ツールを亀裂部に押し付ける押し付け軸とを有し、亀裂補修部へ可搬なサポートに支えられた接合ヘッドを有することを特徴とする請求項2記載の構造部材の亀裂補修装置。
【請求項5】
構造部材の亀裂部と接合ツールとを加圧接触させる手段と、
加圧接触した接合ツールを構造部材に対して相対的に回転させ、接触面に摩擦熱を発生させる手段と、前記摩擦熱により構造部材を軟化させ、亀裂部を接合させる手段とからなる構造部材の亀裂補修方法。
【請求項6】
構造部材がオーステナイト系ステンレス鋼、Ni基合金またはCo基合金であって、亀裂補修部の組織を微細化することを特徴とする請求項4記載の構造部材の亀裂補修方法。
【請求項7】
亀裂補修後、補修部の表面硬化層を除去し、圧縮応力を付加することを特徴とする請求項4記載の構造部材の亀裂補修方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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