説明

横葺き屋根の施工方法

【課題】横葺き屋根材の後端側を切断することなく水上終端部まで葺き上げることができる施工性の良い横葺き屋根の施工方法を提供する。
【解決手段】吊子を介して屋根下地5に固定される横葺き屋根材6を軒先から水上側へと葺き上げていくにあたり、吊子として、横葺き屋根材前端の折り返し板部6cと係合する係止用板部10bの前後長さが短い一般吊子Aと、一般吊子Aよりも係止用板部10bの前後長さが長い調整吊子Bとを併用し、軒先から水上終端部までの横葺き屋根材6の割り付けに基づいて調整吊子Bの使用個数を設定して、横葺き屋根材6の前後方向での重ね代を変えることにより、横葺き屋根材6の後端側を切断することなく水上終端部まで葺き上げるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊子を介して屋根下地に固定される横葺き屋根材を軒先から水上側へと葺き上げていく横葺き屋根の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新築、改修を問わず、横葺き屋根材を軒先から水上側へと葺き上げていくと、棟部や外壁立上り部などの水上終端部に突き当たる最後の1段は、横葺き屋根材の前後幅に合わない中途半端な寸法となるのが普通である。
【0003】
そのため、従来では、最後の1段については、図4や図5に示すように、棟部11や外壁立上り部15などの水上終端部に突き当たる横葺き屋根材6の後端側(図中に仮想線で示した部分a)を現場で切断し、切断端部を上方へ曲げ加工して、特許文献1にも見られるような水返し面となる立上り板部6dを形成して、寸法合せする必要があり、多大の手間を要していた。
【0004】
殊に、化粧面となる主板部、主板部の前端から下方へ折れ曲がった見掛厚面となる折曲板部、折曲板部の下端から後方へ折り返された折り返し板部、主板部の後端から上方へ折れ曲がった水返し面となる立上り板部、立上り板部の上端から前方へ折り返された吊子固定面となる折り返し板部の夫々に凹凸リブを形成して、意匠性を高めた横葺き屋根材の場合、凹凸リブの成形によって立体的な断面形状となるため、現場作業による後端側の切断や曲げ加工が難しく、熟練した板金作業員の不足が叫ばれている昨今、大きな問題となっている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−96780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を踏まえてなされたもので、その目的とするところは、横葺き屋根材の後端側を切断することなく水上終端部まで葺き上げることができる施工性の良い横葺き屋根の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明が講じた技術的手段は、次の通りである。即ち、請求項1に記載の発明による横葺き屋根の施工方法は、吊子を介して屋根下地に固定される横葺き屋根材を軒先から水上側へと葺き上げていくにあたり、吊子として、横葺き屋根材前端の折り返し板部と係合する係止用板部の前後長さが短い一般吊子と、一般吊子よりも係止用板部の前後長さが長い調整吊子とを併用し、軒先から水上終端部までの横葺き屋根材の割り付けに基づいて調整吊子の使用個数を設定して、横葺き屋根材の前後方向での重ね代を変えることにより、横葺き屋根材の後端側を切断することなく水上終端部まで葺き上げることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成によれば、調整吊子は、横葺き屋根材前端の折り返し板部と係合する係止用板部の前後長さが、一般吊子のそれより長いので、調整吊子によって固定された前後2段の横葺き屋根材同士の重ね代は、一般吊子によって固定された前後2段の横葺き屋根材同士の重ね代よりも大きくなり、その分、トータルとしての前後幅(葺き幅)が短くなる。つまり、水下側に配置された横葺き屋根材の後端を調整吊子によって屋根下地に固定し、当該調整吊子の係止用板部に、水上側に配置する横葺き屋根材(次の段の横葺き屋根材)の前端の折り返し板部を引っ掛けた状態において、当該横葺き屋根材は、係止用板部の延長された長さ分、前方に位置をずらした状態に葺かれることになり、調整吊子によって固定された前後2段の横葺き屋根材のトータルとしての前後幅(葺き幅)が、一般吊子によって固定された前後2段の横葺き屋根材トータルとしての前後幅より短くなる。そして、この前後幅の短縮距離は調整吊子の使用個数に比例するから、調整吊子の使用個数が増えるほど、一般吊子を使用した場合のトータルとしての前後幅との差が大きくなる。
【0009】
従って、軒先から水上終端部までの横葺き屋根材の割り付けにより、棟部や外壁立上り部などの水上終端部に突き当たる最後の1段の横葺き屋根材が中途半端な寸法になると算定された場合、当該横葺き屋根材の葺き幅が不足する寸法に応じて、調整吊子の使用個数を増減し、必要回数の調整を行うことによって、横葺き屋根材の後端側を切断することなく水上終端部まで葺き上げることができる。
【0010】
たとえ、調整吊子の使用個数の設定による葺き幅の調整だけでは、横葺き屋根材の割り付けができず、微調整の必要があるケースが生じても、調整吊子の係止用板部を必要長さに切断すれば足り、この場合でも、横葺き屋根材に比して横幅の狭い調整吊子を切断することになるから、現場作業による切断が容易であり、横葺き屋根材の後端側を切断した場合のような切断端部の曲げ加工も不要であるから、施工性が良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明に係る横葺き屋根の施工方法に用いられる一般吊子Aと調整吊子Bを示す斜視図であり、図2と図3は、夫々、本発明に係る横葺き屋根の施工方法を説明する横葺き屋根の要部の縦断側面図である。図2、図3において、1は母屋、2は母屋1に架設された断面ハット型の金属製垂木、3は垂木2間に嵌め込まれて両側の垂木2に支持された野地板、4は野地板3上に敷設された防水シートであり、これらの部材により、屋根下地5の一例を構成している。6は、裏面に断熱材(図示せず)を積層したカラー鋼板製の横葺き屋根材であり、化粧面となる主板部6a、主板部6aの前端から下方へ折れ曲がった見掛厚面となる折曲板部6b、折曲板部6bの下端から後方へ折り返された折り返し板部6c、主板部6aの後端から上方へ折れ曲がった水返し面となる立上り板部6d、立上り板部6dの上端から前方へ折り返された吊子固定面となる折り返し板部6eとから構成されている。
【0012】
一般吊子A及び調整吊子Bは、何れも鋼板の曲げ加工により作製されたものであり、図1に示すように、屋根下地5に対する固定用板部7と、その前端から立ち上がった立上り板部8と、その上端から前方へ折れ曲がった折曲板部9とを備えており、折曲板部9の前端下方には、横葺き屋根材6前端の折り返し板部6cと係合する係止用板部10が設けられている。この実施形態では、前記係止用板部10が、折曲板部9の前端から下方へ折れ曲がった垂下板部10aと、その下端から前方に折り返された折り返し板部10bとで構成されている。
【0013】
一般吊子Aと調整吊子Bとは、係止用板部10の前後長さLa,Lbを、換言すれば、垂下板部10aの下端から前方へ突出する折り返し板部10bの長さを、一般吊子Aでは短くし、調整吊子Bではそれよりも長くしてある点でのみ相違し、それ以外は同一の構成である。
【0014】
本発明に係る横葺き屋根の施工方法を、図2に基づいて説明すると、吊子を介して屋根下地5に固定される横葺き屋根材6を軒先から水上側へと葺き上げていくにあたり、軒先から棟部(水上終端部の一例である)11までの横葺き屋根材6の割り付けにより、図4で示した従来例のように、棟部11に突き当たる最後の1段の横葺き屋根材6が中途半端な寸法になると算定された場合、吊子として、図1に示した一般吊子Aと調整吊子Bの2種類を使用し、且つ、軒先から棟部11までの横葺き屋根材6の割り付けに応じて調整吊子Bの使用個数を設定して、横葺き屋根材6の前後方向での重ね代を変えることにより、横葺き屋根材6の後端側を切断することなく棟部11まで葺き上げるのである。図2において、12は捨て板、13は棟包み、14は棟包み13の木下地である。
【0015】
上記の構成によれば、調整吊子Bは、横葺き屋根材6前端の折り返し板部6cと係合する係止用板部10における折り返し板部10bの前後長さLbが、一般吊子AのそれLaより長いので、調整吊子Bによって固定された前後2段の横葺き屋根材6,6同士の重ね代Hbは、一般吊子Aによって固定された前後2段の横葺き屋根材6,6同士の重ね代Haよりも大きくなり、その分、トータルとしての前後幅(葺き幅)が短くなる。
【0016】
即ち、水下側に配置された横葺き屋根材6の後端を調整吊子Bによって屋根下地5に固定し、当該調整吊子Bの係止用板部10に、水上側に配置する横葺き屋根材6の前端の折り返し板部6cを引っ掛けた状態において、当該横葺き屋根材6は、一般吊子Aを使用した場合よりも、係止用板部10における折り返し板部10bの延長分(Lb−La)、前方に位置をずらした状態に葺かれることになり、調整吊子Bによって固定された前後2段の横葺き屋根材6,6のトータルとしての前後幅(葺き幅)が、一般吊子Aによって固定された前後2段の横葺き屋根材トータルとしての前後幅より短くなる。そして、この前後幅の短縮距離は調整吊子Bの使用個数に比例するから、調整吊子Bの使用個数が増えるほど、一般吊子Aを使用した場合のトータルとしての前後幅との差が大きくなる。
【0017】
従って、軒先から棟部11までの横葺き屋根材6の割り付けにより、棟部11に突き当たる最後の1段の横葺き屋根材6が中途半端な寸法になると算定された場合、当該横葺き屋根材6の葺き幅が不足する寸法に応じて、調整吊子Bの使用個数を増減し、必要回数の調整を行うことによって、図2に示したように、横葺き屋根材6の後端側を切断することなく棟部11まで葺き上げることができるのである。
【0018】
たとえ、調整吊子Bの使用個数の設定による葺き幅の調整だけでは、横葺き屋根材6の割り付けができず、微調整の必要があるケースが生じても、調整吊子Bの係止用板部10における折り返し板部10bを必要長さに切断すれば足り、この場合でも、横葺き屋根材6に比して横幅が狭い調整吊子Bの折り返し板部10bを切断するだけであるから、現場作業による切断が容易であり、横葺き屋根材の後端側を切断した場合のような切断端部の曲げ加工も不要であるから、施工性が良い。
【0019】
尚、図2では、軒先から棟部(水上終端部の一例である)11まで葺き上げる場合を例にとって本発明の実施形態を説明したが、図3に示すように、軒先から外壁立上り部(水上終端部の一例である)15まで葺き上げる場合についても、本発明が同様に実施できることは勿論である。図3において、16は壁下地、17は外壁用防水シート、18は屋根下地5と壁下地16とにわたって設置された捨て板、19は雨押え水切り、20は棟ケミカル面戸である。その他の構成は、図2の実施形態と同じであるため、同一構成部材に同一符号を付し、説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る横葺き屋根の施工方法に用いる一般吊子と調整吊子の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る横葺き屋根の施工方法を説明する横葺き屋根の要部の縦断側面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す横葺き屋根の要部の縦断側面図である。
【図4】従来例を示す横葺き屋根の縦断側面図である。
【図5】従来例を示す横葺き屋根の縦断側面図である。
【符号の説明】
【0021】
A 一般吊子
B 調整吊子
La,Lb 係止用板部の前後長さ
Ha,Hb 重ね代
5 屋根下地
6 横葺き屋根材
6c 折り返し板部
10 係止用板部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊子を介して屋根下地に固定される横葺き屋根材を軒先から水上側へと葺き上げていくにあたり、吊子として、横葺き屋根材前端の折り返し板部と係合する係止用板部の前後長さが短い一般吊子と、一般吊子よりも係止用板部の前後長さが長い調整吊子とを併用し、軒先から水上終端部までの横葺き屋根材の割り付けに基づいて調整吊子の使用個数を設定して、横葺き屋根材の前後方向での重ね代を変えることにより、横葺き屋根材の後端側を切断することなく水上終端部まで葺き上げることを特徴とする横葺き屋根の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−265856(P2006−265856A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81879(P2005−81879)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000006910)株式会社淀川製鋼所 (34)
【Fターム(参考)】