説明

樹脂シートおよび電子部品用包装体

【課題】 成形性に優れ、成形条件幅の広い樹脂シートを提供する。さらには、しわの発生が防止された電子部品用包装体を提供する。
【解決手段】 樹脂シートは、スチレン系重合体を主成分として含有する樹脂材料からなり、JIS K 6734−1995に基づいて160℃、10分にて測定された縦方向および横方向の加熱伸縮率がともに−40〜5%である。本発明の電子部品用包装体は、上述した樹脂シートが成形されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品用包装体を構成する樹脂シートおよび電子部品用包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子部品の収納や搬送においては、電子部品を収納する凹部が形成されたキャリアテープやトレー等の電子部品用包装体が使用されている。その電子部品用包装体は、導電性塗料のコーティングまたは導電性カーボンや金属微粉末等の練り込みにより導電性が付与された樹脂シートを、圧縮成形あるいは真空成形法等により成形されたものである。樹脂シートの材質としては、剛性、透明性に優れ、しかも安価で比重が低く経済的であることから、スチレン系重合体が一般的である(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2004−75107号公報
【特許文献2】特開2002−337927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の樹脂シートは、高温加熱時に許容範囲を超えて加熱伸縮するため、成形性が低くなることがあった。具体的には、従来の樹脂シートを高温成形して電子部品用包装体を得た場合には、その包装体にしわが発生することがあった。このようなことから、電子部品用包装体製造では低温で成形するなどの対策が採られるが、目的とする形状によっては低温での成形では困難であった。したがって、成形条件幅の狭いものとなっていた。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、成形性に優れ、成形条件幅の広い樹脂シートを提供することを目的とする。さらには、しわの発生が防止された電子部品用包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の樹脂シートは、スチレン系重合体を主成分として含有する樹脂材料からなり、JIS K 6734−1995に基づいて160℃、10分にて測定された縦方向および横方向の加熱伸縮率がともに−40〜5%であることを特徴とする。
本発明の樹脂シートは、多層構造であることが好ましい。
本発明の電子部品用包装体は、上述した樹脂シートが成形されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の樹脂シートは、成形性に優れ、成形条件幅が広い。したがって、この樹脂シートを成形することにより、しわの発生が防止された電子部品用包装体を得ることができる。
本発明の樹脂シートが多層であれば、加熱伸縮率を容易に特定の範囲に調節できる。
本発明の電子部品用包装体は、しわの発生が防止されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(樹脂シート)
本発明の樹脂シートは、スチレン系重合体を主成分(50質量%以上)として含有する樹脂材料からなるシートである。ここで、スチレン系重合体とは、スチレン系単量体単位を含有する重合体のことであり、スチレン系硬質樹脂、ゴム変性スチレン系樹脂、スチレン系エラストマーのことである。
【0007】
スチレン系硬質樹脂としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどスチレン系単量体の単独重合体が挙げられる。これらの中でもスチレンの単独重合体(GPPS)が好適である。
【0008】
また、スチレン系硬質樹脂は、スチレン系単量体と他の単量体とが共重合した共重合体であってもよい。他の単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル等のアクリル酸エステル単量体などが挙げられる。
【0009】
ゴム変性スチレン系樹脂とは、スチレン系硬質樹脂からなる連続相中にゴム重合体からなる分散相が島状に分散した樹脂のことである。この樹脂では、ゴム重合体にスチレン系硬質樹脂がグラフトしたグラフト共重合体を含有する。
ゴム変性スチレン系樹脂を構成するゴム重合体としては、共役ジエン単量体を主成分とした重合体、例えば、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のブタジエン系重合体が挙げられる。また、ブタジエン系重合体以外にも、(メタ)アクリル酸プロピルや(メタ)アクリル酸ブチルを主成分とした(メタ)アクリル酸エステル重合体、エチレン−プロピレン−共役ジエン系ゴムなどが挙げられる。
ゴム重合体にグラフトするスチレン系硬質樹脂は上記のものと同様である。
ゴム変性スチレン系樹脂の具体例としては、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂が挙げられる。
【0010】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン系単量体が重合したポリスチレンブロックを2個以上有し、共役ジエン単量体が重合したポリ共役ジエンブロックを1個以上有するスチレン−共役ジエンブロック共重合体およびその水添物が挙げられる。
スチレン系エラストマーを構成するスチレン系単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどが挙げられる。これらは1種のみならず2種以上併用してもよい。上記スチレン系単量体の中でも、スチレンが好ましい。
共役ジエン単量体としては、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられる。上記共役ジエン単量体の中でも、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)が好ましい。
【0011】
スチレン系エラストマー中のスチレン系単量体単位の含有量は65〜85質量%、好ましくは70〜80質量%である。65質量%未満では剛性や耐熱性が劣り、85質量%を越えると耐衝撃性が劣る傾向がある。
【0012】
スチレン系エラストマーの構造としては、線状、星型、テーパー型など挙げられるが、これらのうち線状や星型のものが好ましく使用される。
【0013】
スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の水添物(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の水添物(SEPS)が挙げられる。
【0014】
樹脂シートをなす樹脂材料の組成は、スチレン系重合体を主成分(50質量%以上)とする範囲内で、目的に応じて適宜選択すればよい。
また、樹脂シートをなす樹脂材料には、カーボンブラック等の導電性フィラー、イオン導電性ポリマー、有機導電性ポリマー(以上のフィラーおよびポリマーを導電剤という。)、帯電防止剤、耐候剤、耐光剤、酸化防止剤、離型剤、ブロッキング防止剤、顔料、難燃剤などの添加剤が適宜添加されていてもよい。あるいは、上記の添加剤がシート表面に塗工されていてもよい。樹脂シートを電子部品用包装体に用いる場合には、帯電防止性が求められるため、帯電防止剤、導電剤の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0015】
また、本発明の樹脂シートは、縦方向および横方向の加熱伸縮率がともに−40〜5%である。樹脂シートの縦方向および横方向の加熱伸縮率がともに−40〜5%であることにより、成形性が良好になり、成型条件幅が広くなる。これに対し、樹脂シートの縦方向または横方向の加熱伸縮率が−40%未満または5%超の場合には成形性が低くなる。ここで、縦方向とは、シート押出における流れ方向、すなわち樹脂シートの長さ方向のことであり、横方向とは、流れ方向に対する直交方向、すなわち樹脂シートの幅方向のことである。
本発明での加熱伸縮率は、JIS K 6734−1995に基づいて160℃、10分にて測定された値である。具体的には、まず、120×120の試験片を作成し、標点間距離(100mm)を測定する。次いで、その試験片を160℃に設定された試験機内に、10分間水平に置いて加熱し、その後、常温まで冷却して再び標点間距離を測定し、下記式により加熱伸縮率を求める。
(加熱伸縮率)={(L−L)/L}×100
:加熱前の標点間距離
:加熱後の標点間距離
【0016】
縦方向および横方向の加熱伸縮率をともに−40〜5%にするためには、
(1)160℃、10分における縦方向および横方向の加熱伸縮率がともに−40〜5%の単層の樹脂シートを用いる。単層樹脂シートの縦方向および横方向の加熱伸縮率をともに−40〜5%にするためには、加熱伸縮率の異なるスチレン系重合体を適宜組み合わせればよい。
(2)加熱伸縮率の異なる層を組み合わせ、層厚比を適宜選択した2層以上の多層構造の樹脂シートを用いる。多層の樹脂シートによれば、容易に縦方向および横方向の加熱伸縮率をともに前記範囲にすることができる。
【0017】
上記(2)のように、樹脂シートが多層構造である場合には、電子部品用包装体の用途に適することから、少なくとも一方の表層の表面抵抗を10〜1010Ωにすることが好ましい。
また、表層の厚さの割合が、樹脂シートの全厚さ100%に対して2〜10%であることが好ましい。表層の厚さの割合がこのような範囲であると、中間層の配合で加熱伸縮率を容易に調整できるようになるため、表層に帯電防止剤や導電剤を添加しやすくなり、樹脂シートの帯電防止性を容易に高くすることができる。
特に、表層の表面抵抗を10〜1010Ωにし、かつ、表層の厚さの割合を樹脂シートの全厚さ100%に対して2〜10%とした場合には、電子部品用包装体とした際に電子部品収納用凹部内の表面抵抗を10〜1012Ωにできる。
【0018】
樹脂シートの厚さは特に限定されないが、電子部品用包装体に用いる場合には、0.1〜1.0mmであることが好ましく、0.2〜0.5mmであることがより好ましい。
【0019】
樹脂シートの製造方法としては特に限定されず、例えば、カレンダー成形、単層Tダイ押出成形、フィードブロックやマルチマニホールドダイを用いた製造方法などを用いることができる。
【0020】
以上説明した樹脂シートは、縦方向および横方向の加熱伸縮率がともに特定の範囲にあるため、高温加熱時に許容範囲を超えて加熱伸縮することがなく、成形性に優れる。したがって、高温でもしわを発生させずに成形可能であり、成形条件幅が広い。
【0021】
(電子部品用包装体)
本発明の電子部品用包装体は、上述した樹脂シートが成形され、電子部品収納用の凹部が形成されたものである。この電子部品用包装体は、成形性に優れた上記樹脂シートを成形したものであるから、しわの発生が防止されている。
【0022】
電子部品用包装体の形態としては特に限定されず、例えば、キャリアテープ、トレーなどが挙げられる。
図1にキャリアテープの一例を示す。このキャリアテープ10は、複数の電子部品収納用の凹部11およびスプロケットホール12を有している。キャリアテープ10は、凹部11内に電子部品が収納された後、該凹部11の開口部がカバーテープ13で封止され、リール14に巻き取られて、電子部品の搬送等に用いられる。
図2にトレーの一例を示す。このトレー20は、複数の電子部品収納用の凹部21を有しており、その外周部22には折り曲げ加工が施されている。
このキャリアテープ10およびトレー20は、上記樹脂シートを成形したものであるから、しわの発生が防止されている。
【0023】
電子部品用包装体の製造方法は特に限定されず、例えば真空成形、圧空成形、プレス成形、ロータリー成形などを用いることができる。
その成形の際、樹脂シートの少なくとも一方の表面に、シリコーンオイルや、シリコーンオイルに乳化剤や界面活性剤などを添加して水溶液としたものを、グラビアロールコーター方式や噴霧方式で塗布し、熱風乾燥したものを使用してもよい。このようなシリコーンオイルを含有する表面層を有するたシートは、成形機の金型との離型性が良好である。
【実施例】
【0024】
まず、表1(実施例)または表2(比較例)に示す配合で中間層用樹脂材料、表層用樹脂材料を調製し、単軸押出機を用いて中間層とその両側の表層からなる3層シートを多層Tダイ法により製造した。具体的には、3台の押出機を使用して溶融樹脂を3層Tダイスから共押出して溶融樹脂シートを成形し、その溶融樹脂シートを冷却ロールで冷却し、ロール状に巻き取って、表層/中間層/表層からなる3層構成の樹脂シートを得た。この樹脂シートの層厚比は表層/中間層/表層=1/8/1とした。
表中、HIPSは、旭化成ケミカルズ社製475Dである。
SBSは、旭化成ケミカルズ社製タフプレン126である。
GPPSは、PSジャパン社製SGP10である。
導電剤は、東京インキ社製パピオスタットである。
【0025】
得られた樹脂シートを接触加熱方式圧空成形し、電子部品を収納する凹部を樹脂シートの長さ方向に一定間隔で形成してキャリアテープを得た。そして、得られたキャリアテープの外観を目視で観察し、しわなどの成形不良がなかったものを○、しわなどの成形不良があったものを×とした。
また、得られた樹脂シートの縦方向および横方向の加熱伸縮率を、JIS K 6734−1995に基づき、160℃、10分にて測定した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
縦方向および横方向の加熱伸縮率がともに−40〜5%である実施例1〜9の樹脂シートは、成形性に優れ、成形条件幅が広いため、いずれの成形温度でもキャリアテープにしわなどが発生していなかった。
一方、縦方向の加熱伸縮率が−40%未満である比較例1〜3の樹脂シートは、成形性が低く、成形条件幅が狭いため、低温(230℃)および高温(270℃)でキャリアテープにしわの発生が見られた。さらに、比較例1,2では、250℃でもしわの発生が見られた。
【0029】
また、実施例2〜8の結果より、表層の配合より中間層の配合の方が加熱伸縮率への影響が大きいことが判明した。すなわち、実施例4〜7では、中間層の配合が一定で表層の配合が異なっており、これら樹脂シートの縦方向の加熱伸縮率は−24.9〜−18.0%の範囲にある。一方、実施例2,3,6,8では、表層の配合が一定で中間層の配合が異なっており、これら樹脂シートの縦方向の加熱伸縮率は−34.1〜−15.5%の範囲にある。したがって、中間層の配合を変えた方が、加熱伸縮率の変動幅が大きいことが分かる。これより、中間層の配合を調整することにより加熱伸縮率を調節できることが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の電子部品用包装体の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の電子部品用包装体の他の例を示す上面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 キャリアテープ(電子部品用包装体)
20 トレー(電子部品用包装体)





【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系重合体を主成分として含有する樹脂材料からなり、JIS K 6734−1995に基づいて160℃、10分にて測定された縦方向および横方向の加熱伸縮率がともに−40〜5%であることを特徴とする樹脂シート。
【請求項2】
多層構造であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂シートが成形されたものであることを特徴とする電子部品用包装体。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−152209(P2006−152209A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−348685(P2004−348685)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】