説明

樹脂シート成形用金型とその製造方法

【課題】HIP処理後に金型素材が曲がり変形しても、HIP処理後も金型素材が原形に近い形状を確保できるようにした樹脂シート成形用金型の製造方法を提供する。
【解決手段】合金粉末充填用凹溝3を形成した一対の金型素材1,1に中子型2を内装してカプセル6を製作し、各金型素材1の凹溝3に合金粉末7を充填してHIP処理することにより、金型素材1の内面にHIP層8を形成し、HIP層8に、樹脂成形流路31の必要部分を削成する樹脂シート成形用金型の製造方法であり、HIP処理後の金型素材1が、合わせ面F側から見て両コバ面K1,K2の何れか一方が凸側となるクラウン形状で端面T側から見て合わせ面Fと背面Rの何れか一方が凸側となるクラウン形状に曲がり変形することを見込んで、金型素材1に形成する凹溝3を、合わせ面F側及び端面T側から見た夫々のクラウン形状が曲がり変形時とは逆向きとなるクラウン形状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂をシート(フィルムを含む)状に押出成形する為のシート成形用金型、特に金型本体とは異なる材料を金型の樹脂成形流路にHIP(熱間等方圧加圧)処理により拡散接合して得る樹脂シート成形用金型とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の樹脂シート成形用金型の製造方法として、特許公報等の具体的な公知文献を挙げることは出来ないが、従来知られている樹脂シート成形用金型の製造方法を図4及び図5によって説明する。図4の(a-1) は、互いに重ね合わせられる一対の金型素材21の片方を合わせ面F側から見た正面図、(a-2) は(a-1) のE−E線断面図である。この金型素材21は、材質が例えばSUS304からなるもので、合わせ面F側には、所要深さを有する正面視長方形状の合金粉末充填用凹溝23が形成され、この正面視長方形状凹溝23の周縁部に中子型嵌合段部24が形成され、また凹溝23の上部側には合金粉末供給口25が設けられている。
【0003】
先ず、図4の(b) 及び(c) に示すように、中子型嵌合段部24に離型処理された板状の中子型22を嵌合固定した一対の金型素材21,21を互いに重ね合わせて、両金型素材21,21の外周に現れた分割線部を溶接することによってカプセル26を形成し、このカプセル26にはその供給口25より各金型素材21内の凹溝23に、(d) に示すように耐食性及び耐摩耗性の良好なニッケル基合金粉末27を充填し、脱気密封する。それから、このカプセル26を、図5の(a) に示すようにHIP(熱間等方圧加圧)装置の処理室20内に入れてHIP処理を施し、それによって各金型素材21の内面に合金粉末27が拡散接合されたHIP層28を形成した後、カプセル26の両金型素材21,21を(b) に示すように分離し、更に中子型22を取り外し、各金型素材21の不要部分を切断し、HIP層28に、樹脂をシート状に成形する樹脂成形流路を機械加工により削成することによって樹脂シート成形用金型を製造するようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような製造方法においては、金型素材21と合金粉末27との熱膨張率の差異によって、HIP処理後の金型素材21が曲がり変形を生じ、その後の機械加工が非常にやりにくくなる。即ち、上述の技術により製造される樹脂シート成形用金型は、シートの生産性の点から長尺形状で長さが1mから長いもので4m近いものもあり、そのような形状では、HIP処理後の金型素材21は容易に変形する。具体的に、上述の金型素材21は、図5の(c) 〜(e) に示すように、合わせ面F側から見て上下の両コバ面K1,K2のうち上側のコバ面K1が凸側となるクラウン形状で且つ端面T側から見て合わせ面Fと背面Rのうち合わせ面Fが凸側となるクラウン形状に曲がり変形し、それがために金型の製作に困難を来すことになる。尚、一般に直方体における長手方向の幅の狭い面を小端(こば)と云い、短辺方向の面を小口(こぐち)と云うが、ここでは、直方体を成す金型素材21の幅の狭い両面をコバ面K1,K2と称し、その短辺方向の両面を夫々端面Tと称し、また金型素材21の幅の広い面を合わせ面F及び背面Rと称する。
【0005】
本発明は、上記の実情に鑑み、HIP処理後に金型素材が曲がり変形しても、その歪みを吸収するような形状の合金粉末充填用凹溝を形成しておくことによって、HIP処理後も金型素材が原形に近い形状を確保できるようにした樹脂シート成形用金型とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段を、後述する実施形態の参照符号を付して説明すると、請求項1に係る発明の樹脂シート成形用金型は、 夫々合金粉末充填用凹溝3を形成して互いに重ね合わせられる一対の金型素材1,1に中子型2を内装してカプセル6を製作し、このカプセル6における各金型素材1の凹溝3に耐食性及び対摩耗性の良好な合金粉末7を充填し脱気密封してHIP(熱間等方圧加圧)処理を施すことにより、金型素材1の内面に合金粉末7のHIP層8を形成し、このHIP層8に、樹脂をシート状に成形する樹脂成形流路31の必要部分を削成する樹脂シート成形用金型であって、前記HIP処理の際に金型素材1と合金粉末7との熱膨張率の差異により、正常な形状、即ち原形の金属素材1に発生する歪みを見込んで、その歪みを打ち消す形状、即ち歪みを吸収する形状に予め金属素材1を製作しておき、前記HIP処理によって、前記金属素材1が正常な形状、即ち原形に復帰するようにした金属素材を用いてなることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明の樹脂シート成形用金型は、夫々合金粉末充填用凹溝3を形成して互いに重ね合わせられる一対の金型素材1,1に中子型2を内装してカプセル6を製作し、このカプセル6における各金型素材1の凹溝3に耐食性及び対摩耗性の良好な合金粉末7を充填し脱気密封してHIP(熱間等方圧加圧)処理を施すことにより、金型素材1の内面に合金粉末7のHIP層8を形成し、このHIP層8に、樹脂をシート状に成形する樹脂成形流路31の必要部分を削成する樹脂シート成形用金型の製造方法であって、金型素材1と合金粉末7との熱膨張率の差異により、HIP処理後の金型素材1が、合わせ面F側から見て両コバ面K1,K2の何れか一方が凸側となるクラウン形状で且つ端面T側から見て合わせ面Fと背面Rの何れか一方が凸側となるクラウン形状に曲がり変形することを見込んで、各金型素材1に形成する合金粉末充填用凹溝3を、合わせ面F側及び端面T側から見た夫々のクラウン形状が前記曲がり変形時の夫々の側から見たクラウン形状とはその凸側が逆向きとなるようなクラウン形状に形成することを特徴とする。ここで、金型素材1の幅の狭い両面をコバ面K1,K2と称し、その短辺方向の両面を夫々端面Tと称し、また金型素材1の幅の広い面を合わせ面F及び背面Rと称する。
【0008】
請求項3に係る発明の樹脂シート成形用金型の製造方法は、夫々合金粉末充填用凹溝3を形成して互いに重ね合わせられる一対の金型素材1,1に中子型2を内装してカプセル6を製作し、このカプセル6における各金型素材1の凹溝3に耐食性及び対摩耗性の良好な合金粉末7を充填し脱気密封してHIP(熱間等方圧加圧)処理を施すことにより、金型素材1の内面に合金粉末7のHIP層8を形成し、このHIP層8に、樹脂をシート状に成形する樹脂成形流路31の必要部分を削成する樹脂シート成形用金型の製造方法であって、金型素材1と合金粉末7との熱膨張率の差異により、HIP処理後の金型素材1が、合わせ面F側から見て両コバ面K1,K2の何れか一方が凸側となるクラウン形状で且つ端面T側から見て合わせ面Fと背面Rの何れか一方が凸側となるクラウン形状に曲がり変形することを見込んで、各金型素材1に形成する合金粉末充填用凹溝3を、合わせ面F側及び端面T側から見た夫々のクラウン形状が前記曲がり変形時の夫々の側から見たクラウン形状とはその凸側が逆向きとなるようなクラウン形状に形成することを特徴とする。ここで、金型素材1の幅の狭い両面をコバ面K1,K2と称し、その短辺方向の両面を夫々端面Tと称し、また金型素材1の幅の広い面を合わせ面F及び背面Rと称する。
【0009】
請求項4に係る発明の樹脂シート成形用金型の製造方法は、請求項3に記載の樹脂シート成形用金型の製造方法において、金型素材1の合金粉末充填用凹溝3をクラウン形状に形成するにあたって、HIP処理後の金型素材1の幅方向曲がり量及び厚み方向曲がり量を算出し、この曲がり量から、金型素材1の幅方向曲がり係数及び厚み方向曲がり係数を算出し、この曲がり係数に基づき前記凹溝3の金型素材幅方向クラウン量α及び厚み方向のクラウン量βを算出して、クラウン形状の凹溝3を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記解決手段による発明の効果を、後述する実施形態の参照符号を付して説明すると、請求項1に係る発明によれば、夫々合金粉末充填用凹溝3を形成して互いに重ね合わせられる一対の金型素材1,1に中子型2を内装してカプセル6を製作し、このカプセル6における各金型素材1の凹溝3に耐食性及び対摩耗性の良好な合金粉末7を充填し脱気密封してHIP(熱間等方圧加圧)処理を施すことにより、金型素材1の内面に合金粉末7のHIP層8を形成し、このHIP層8に、樹脂をシート状に成形する樹脂成形流路31の必要部分を削成する樹脂シート成形用金型であって、前記HIP処理の際に金型素材1と合金粉末7との熱膨張率の差異により、正常な形状、即ち原形の金属素材1に発生する歪みを見込んで、その歪みを打ち消す形状、即ち歪みを吸収する形状に予め金属素材1を製作しておき、前記HIP処理によって、前記金属素材1が正常な形状、即ち原形に復帰するようにした金属素材を用いてなるため、各金型素材1は原形に近い形状を確保でき、金型の製作が容易となる。
【0011】
請求項2及び3に係る発明によれば、金型素材1と合金粉末7との熱膨張率の差異により、HIP処理後の金型素材1が、合わせ面F側から見て両コバ面K1,K2の何れか一方が凸側となるクラウン形状で且つ端面T側から見て合わせ面Fと背面Rの何れか一方が凸側となるクラウン形状に曲がり変形することを見込んで、各金型素材1に形成する合金粉末充填用凹溝3を、合わせ面F側及び端面T側から見た夫々のクラウン形状が前記曲がり変形時とその凸側が逆向きとなるようなクラウン形状に形成することによって、HIP処理後の各金型素材1の曲がり変形の歪みが、各金型素材1に予め形成していたところの、実際の曲がり変形時のクラウン形状とはその凸側が逆向きとなるクラウン形状の凹溝3により吸収されて、各金型素材1は原形に近い形状を確保でき、金型の製作が容易となる。
【0012】
又、この種の樹脂シート成形用金型は、幅広の樹脂シートを製作する場合には、その金型が3メートルを越える長尺なものとなり、HIP処理の際に金属素材に発生する歪みのために硬質の合金粉末の焼結金属からなる正確なHIP層の確保が困難であり、このためリップおよびその先端部の金型エッジを形成するHIP層と金型本体である金属素材とを夫々別体に製作し、両者をボルト結合していたが、本発明では、金属素材の歪みを最小限に留めることができるため、硬質の合金粉末の焼結金属からなるリップおよびその先端部の金型エッジと金型本体である金属素材とを一体にした正確なHIP層の確保ができることになり、このため大型の樹脂シート成形用金型の製作が可能となった。
【0013】
金型に形成される樹脂流入口から流路部分全体とリップ部分(エッジ先端部)がHIP処理された硬質合金層、例えばニッケル系合金層で覆われることになり、長期間安定して金型成型することができる。更には、長尺金型を用いて幅広シートの製作する場合においてHIP層を数ミリから数十ミリ単位で確保して、金型成型時のリップ部分(エッジ先端部)の磨耗が長期にわたって発生することができ安定して使用することができる。なお、硬質合金層、例えばニッケル系合金層で覆われるHIP層をリップ部分とその先端エッジ部分のみに形成することもできる。又、HIP層部分(例えば硬度がHRC58UP)の先端エッジ部分は、マイクロスコープ測定によるエッジ幅が鏡面研削加工により、1ミクロン単位に製作することができ、エッジ幅を自由に鏡面研削加工により作成することができる。更には、HIP処理硬度により先端エッジ部分並びにHIP処理部分の表面粗度はRy0.1ミクロン若しくはラップすることにより表面粗度を更に上げることが可能である。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、各金型素材1の合金粉末充填用凹溝3を請求項1に記載のクラウン形状に形成するにあたって、HIP処理後の金型素材1の幅方向曲がり量及び厚み方向曲がり量を算出し、この曲がり量から、金型素材1の幅方向曲がり係数及び厚み方向曲がり係数を算出し、この曲がり係数に基づき前記凹溝3の金型素材幅方向クラウン量α及び厚み方向のクラウン量βを算出して、クラウン形状の凹溝3を形成することにより、各金型素材1はより原形に近い形状を確保でき、製作が困難な大型の金型素材1でもその製作が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明方法を示し、(a-1) は金型素材を合わせ面側から見た正面図、(a-2) は(a-1) のA−A線断面図、(b) は両金型素材に夫々中子型を取り付けて対向配置した状態の断面図、(c) は両金型素材を重ね合わせて製作したカプセルの断面図である。
【図2】(a) はカプセルを解体して、両金型素材を引き離した状態の断面図、(b) は内面にHIP層を形成した金型素材を合わせ面側から見た正面図である。
【図3】(a-1) はHIP層を形成した金型素材の不要部分を切断除去する切断線を示す正面図、(a-2) は(a-1) のB−B線断面図、(b-1) は不要部分を切断除去した状態の正面図、(b-2) は(b-1) のC−C線断面図、(c-1) は金型素材のHIP面に樹脂成形流路を削成した状態の正面図、(c-2) は(c-1) のD−D線断面図、(d) は樹脂シート成形用金型の断面図である。
【図4】従来方法を説明し、(a-1) は金型素材を合わせ面側から見た正面図、(a-2) は(a-1) のE−E線断面図、(b) は両金型素材を対向配置した状態の断面説明図、(c) は両金型素材を重ね合わせると共に中子型を内装して製作したカプセルの断面図、(d) はカプセルの凹溝に合金粉末を充填した状態の断面図である。
【図5】(a) は図4の(d) に示すカプセルをHIP装置の処理室に入れてHIP処理をする状態を示す説明図、(b) はカプセルの両金型素材を分離した状態の説明図、(c) は曲がり変形した金型素材を合わせ面側から見た斜視図、(d) は同曲がり変形した金型素材の正面図、(e) は金型素材の断面図である。
【図6】材料変形の度合いθを推定し、材料が半径rの円弧に沿って変形した場合、2θで表される円弧長さLの材料の変形しろΔT と変形率ΔT /Lの関係を示す図面である。
【図7】θとΔT /Lの関係を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明すると、図1の(a-1) は本発明に使用する一対の金型素材1,1の片方をその合わせ面F側から見た正面図、(a-2) は(a-1) のA−A線断面図である。この金型素材1は、図4及び図5によって説明した従来法によるHIP処理後の金型素材21の曲がり変形の実態(図5の(c) 〜(e) )から、金型素材1,1と合金粉末7との熱膨張率の差異により、HIP処理後の金型素材1が、合わせ面F側から見て上下両コバ面K1,K2のうち上部側コバ面K1が凸側となるクラウン形状で、且つ左右端面T側から見て合わせ面Fと背面Rのうち合わせ面Fが凸側となるクラウン形状に曲がり変形することを見込んで、各金型素材1の凹溝3の形状を、合わせ面F側及び端面T側から見た夫々のクラウン形状が前記曲がり変形時の夫々の側から見たクラウン形状とその凸側が逆向きとなるように形成したもので、図1の(a-1) と図5の(d) を対比すれば分かるように、合わせ面Fから見た凹溝3の形状は、その下辺部が凸状となるクラウン形状となっており、また図1の(a-2) と図5の(e) を対比して分かるように、端面T側から見た凹溝3は、その溝底部が凹状となるクラウン形状となっている。
【0017】
また、図1の(a-1) 及び(a-2) に示すように、合金粉末充填用凹溝3の周囲には板状の中子型2を嵌合する嵌合段部4が形成され、また凹溝3の上辺側中央部には合金粉末供給口5が設けられている。そして各金型素材1は、SUS304(オーステナイト系材料)、SUS630(析出硬化系材料)、SUS329(オーステナイト/フェライトの2相系材料)等により形成されるが、合金粉末7に使用されるニッケル基合金粉末と熱膨張率の近いSUS329(オーステナイト/フェライトの2相系材料)が好ましい。
【0018】
上記の金型素材1を使用して樹脂シート成形用金型を製造する手順は、図4及び図5で説明した方法と同様であって、先ず、図1の(b) に示すように、各金型素材1の中子型嵌合段部4に離型処理された板状の中子型2を嵌合固定する。中子型2は、SUS304の鋼厚板からなるもので、その全面に耐熱性離型材が塗布されている。こうして中子型2を夫々取り付けた一対の金型素材1,1を、図1の(c) に示すように互いに重ね合わせて、両金型素材1,1内の外周に現れた分割線部を溶接することによってカプセル6を形成する。そして、このカプセル6内には供給口5より各金型素材1内の凹溝3に、図1の(c) に示すように耐食性及び耐摩耗性の良好な合金粉末7を充填して、脱気密封する。図1の(c) において、9はカプセル6の合金粉末供給口5を閉塞する蓋を示す。合金粉末7としては、ニッケル基合金粉末、コバルト基合金粉末、タングステンカーバイト含有合金粉末等が使用される。
【0019】
それから、このカプセル26を、図5の(a) に示したようにHIP(熱間等方圧加圧)装置の処理室20内に入れてHIP処理を施すことにより、各金型素材1の内面に合金粉末7が拡散接合されたHIP層8を形成する。こうしてHIP処理により各金型素材1の内面にHIP層8を形成したカプセル6を解体し、図2の(a) に示すように、両金型素材1,1を互いに引き離し、各金型素材1から中子型2を取り外す。
【0020】
上記のようにHIP処理して内面にHIP層8を形成したカプセル6を分解して取り出した各金型素材1は、図2の(a) 及び(c) から分かるように、端面T側から見た形状も、合わせ面Fから見た形状も、HIP処理前の矩形状とほとんど変わらない形状となっている。これは、実際には金型素材1と合金粉末7との熱膨張率の差異によってHIP処理後の金型素材1に曲がり変形が生じていたわけであるが、その曲がり変形の歪みが、各金型素材1に予め形成していたところの、実際の曲がり変形時のクラウン形状とはその凸側が逆向きとなるようなクラウン形状の合金粉末充填用凹溝3により吸収されて、原形に近い形状となったことによるものである。
【0021】
図3の(a) は、上記のようにしてHIP層8を形成した金型素材1の不要部分を切断線29に沿って切断除去しようとする状態を合わせ面F側から見た正面図であり、(a-2) は(a-1) のB−B線断面図、(b-1) は不要部分を切断除去して残った必要金型部分30を、合わせ面F側から見た正面図、(b-2) は(b-1) のC−C線断面図である。また(c-1) は、必要金型部分30のHIP層8を合わせ面Fから見た削り取り輪郭線32aで囲まれた部分を例えばフライス削りで削り取って樹脂成形流路31を削成しようとする状態の正面図、(c-2) は(c-1) のD−D線断面図で、端面T側から見た削り取り輪郭線32bから合わせ面F側を例えばフライス削りで削り取って樹脂成形流路31を削成しようとする状態の側面図である。そして、図3の(d) は、(c-1) 及び(c-2) で示すような形状に形成した一対の必要金型部分30,30からなる樹脂シート成形用金型33の断面図である。図3の(d) において、35は樹脂成形流路31の流入部、36は樹脂溜まり、そして37はリップ、38はリップ37の先端エッジを示す。このHIP層8は、前述したように金型素材1の合金粉末充填用凹溝3内にニッケル基合金粉末7が拡散接合された硬質層であり、その硬度はHRC58程度である。
【0022】
上記のようにして製造される樹脂シート成形用金型33は、図示しない周知の金型支持ブロックで支持されて使用されることになるが、樹脂の流入する流入部35から樹脂溜まり36、そして最も重要なリップ37の先端エッジ38に至る樹脂成形流路31の全体がHIP層8に形成されたもので、これら流入部35、樹脂溜まり36及びリップ37は、夫々厚み数mm単位であるため、必要な部分を研削加工により容易に補修することができ、しかも金型支持ブロックの調整によりHIP層8が無くなるまで何回も繰り返し研削加工ができるので、ランニング費用の低減が可能となる。
(cー1)に図示される樹脂成形流路31はハンガー形状に似ていることからハンガー形樹脂成形流路31と称されているが、これら流入部35、樹脂溜まり36及びリップ37は、数十ミリ単位の3次元の形状となり、特に正確なハンガー形樹脂溜まり36は、本発明の製造方法によって、初めてHIP層の確保より誠作することが可能となった。樹脂シート成形用金型33の長尺品は3メーターを越えるものがあり、ハンガー形樹脂溜まり36(マニーホールド部)はフライス加工等の機械加工において細心の注意を持って形成されることになる。
【0023】
上述した実施形態では、カプセル6を構成する各金型素材1には、流入部35から樹脂溜まり36を経てリップ37に至る樹脂成形流路31の全部が形成されるようなHIP層8としているが、各金型素材に形成するHIP層8は必要な部分だけのHIP層でも可能である。即ち、リップ37だけ、あるいは樹脂溜まり36だけがHIP層となるようにしてもよい。しかしながら、樹脂シート成形用金型33の樹脂成形流路31において最も重要な部分は、リップ37の先端エッジであるから、少なくともリップ37はHIP層8であることが望ましく、リップ37をHIP層8とすることにより、その先端エッジ38が鋭角をなす高精度のリップ37を形成することができる。
【0024】
本発明に係る樹脂シート成形用金型の製造方法は、上述のように、金型素材1と合金粉末7との熱膨張率の差異により、HIP処理後の金型素材1が、合わせ面F側から見て両コバ面K1,K2の何れか一方が凸側となるクラウン形状で且つ端面T側から見て合わせ面Fと背面Rの何れか一方が凸側となるクラウン形状に曲がり変形することを見込んで、各金型素材1に形成する合金粉末充填用凹溝3を、合わせ面F側と端面T側から見た夫々のクラウン形状が図1の(a-1) 及び(a-2) に示すように曲がり変形時の夫々の側から見たクラウン形状とはその凸側が逆向きとなるようなクラウン形状に形成することを特徴とするものであるが、各金型素材1にクラウン形状の合金粉末充填用凹溝3を形成するにあたって、その凹溝3のクラウン量、即ち図1の(a-1) に示すような金型素材幅方向のクラウン量α、及び(a-2) に示すような金型素材厚み方向のクラウン量βを算出する方法について、以下に説明する。
【0025】
上記クラウン量α,βの算出にあたっては、先ず、図4及び図5で説明した非クラウン形状の合金粉末充填用凹溝23を有する金型素材21をHIP処理した時のHIP後の金型素材21の曲がり変形量(歪み量)確認のためのデータを作成する。
【0026】
この場合、金型素材21の材質は、(1) SUS304(オーステナイト系材料)、(2) SUS630(析出硬化系材料)、(3) SUS329(オーステナイト/フェライトの2相系材料)の3種類とし、そして金型素材21及び合金粉末充填用凹溝23の形状寸法については、図4の(a) ,(b) に示すように、金型素材21は、全長Lを1600mm、その幅Wを100mm、その厚みVを40mmとし、凹溝23の溝長Zを1500mm、その溝幅mを60mm、その溝深さnを15mmとする。
【0027】
上記金型素材21のHIP処理後の曲がり量のテストデータは下記の通りである。










【0028】
また、上記金型素材21の曲がり係数(金型素材幅方向の曲がり係数及び金型素材厚み方向の曲がり係数は下記の通りである。






【0029】
1).材料(金型素材)の曲がりについて
上記(1) 〜(3) の3種類の材料の実測値より材料変形の度合い(角度θ°)を推定する。即ち、材料が、図6に示すように半径rの円弧に沿って一様に変形すると仮定した場合、2θで表される円弧長さLの材料の変形しろ(ΔT )と変形率(ΔT /L)は、次式で表される。
L=2πr×(2θ/360°)・・・・・・・(1)
ΔT =r(1−cosθ) ・・・・・・・(2)
ΔT /L=360(1−cosθ)/4πθ ・・・・・・(3)

ここで、θが小さい場合のθと(3)式で計算されるΔT /Lの値を表1に示す。







【0030】
表1の関係を図示したものを図7に示す。ここで、変形率(ΔT /L)をkT で表すと図中の直線kT =0.0043θの関数で表される。この直線にSUS304、SUS630、SUS329J1の実測値を適用したものを同図に○印で示すが、上記3種類の材料はθが夫々約3°、1°、0.7°(中心点からLを挟む角度は夫々2倍となる)で変形していることがわかる。この場合の曲率半径は前記(2) 式によると、夫々約14m、約50m、約70mと換算される。
【0031】
2).材料(金型素材)変形を予測したカプセルの設計について
以上の計算結果によれば、HIP処理に伴う材料変形が小さいSUS329J1はθを約0.7°として計算さるkT 値で材料変形しろ(ΔT=kT ×L )を予測するのが適当と考えられる。実際の変形予測にあたっては、材料の板厚や板幅、3次元構造の各部構成によって影響度合いが変わるたそめ詳細な基礎データの蓄積が不可欠であるが、基本的な考え方は変わらない。例えば、上記3種類の材料の金型素材厚み方向の曲がり変形量は、夫々金型素材幅方向の曲がり変形量の約半分の値になっているが、これはカプセルを形成する金型素材の幅と厚みの断面寸法比や合金粉末充填用凹溝の溝幅と溝深さとの断面寸法比の影響である。一般に、材料が厚い場合は、変形に対する拘束が強くなって、外部に現れる変形しろは小さくなり、薄い場合には同一のHIP条件でも変形しろは大きくなる傾向がある。
【0032】
歪み(変形)量÷材料の全長(mm)=1mm当たりの歪み量となる。これを歪み係数として、溝の歪みが影響を与える材料全長に幅、厚みを乗じると、各々の全体の曲がり量が解るため、これによりカプセル6の各金型素材1に形成する合金粉末充填用凹溝3の曲がり具合、つまり図1の(a-1) に示すような金型素材幅方向のクラウン量α、及び(a-2) に示すような金型素材厚み方向のクラウン量βを算出して、合金粉末充填用凹溝3を形成する。
【0033】
具体的には、カプセル6を形成する各金型素材1の全長Lを1600mmとした時の、図1の(a-1) に示すようなクランプ形状凹溝3の金型素材幅方向のクラウン量αは、母材である金型素材1の材質がSUS304である場合に、金型素材全長Lに対する金型素材幅方向の曲がり係数は前記したように0.011875であるから、0.011875×1600mm=19.00mmとなり、これが凹溝3の金型素材幅方向のクラウン量αとなる。また、金型素材全長Lに対する金型素材厚み方向の曲がり係数は0.005であるから、0.005×1600mm=8.00mmとなり、これが凹溝3の金型素材厚み方向のクラウン量βとなる。この場合、凹溝3の溝長Zは1500mm、溝幅mは60mm、溝深さnは15mmとする。
【0034】
従って、金型素材1の合金粉末充填用凹溝3を、図1の(a-1) ,(a-2) に示すように、合わせ面F側から見て下部コバ面K2側が凸側となるようなクラウン形状で、端面T側から見て背面R側が凸側となるようなクラウン形状で、金型素材幅方向のクラウン量αを19.00mmとし、金型素材厚み方向のクラウン量βを8.00mmとするように形成すれば、この金型素材1は、凹溝3に合金粉末7を充填してHIP処理した後に、合わせ面F側から見て上部コバ面K1側が凸側となるクラウン形状で、端面T側から見て前面F側が凸側となるクラウン形状に曲がり変形を生じるため、金型素材1の幅方向の曲がり変形量及び厚み方向の曲がり変形量の何れも実質的にゼロとなり、金型素材1は、図2の(a) 及び(b) に示すように、HIP処理前の矩形状とほとんど変わらない形状となる。
【符号の説明】
【0035】
1 金型素材
2 中子型
3 合金粉末充填用凹溝
6 カプセル
7 合金粉末
8 HIP層
31 樹脂成形流路
33 樹脂シート成形用金型
35 流入部
36 樹脂溜まり
37 リップ
38 リップの先端エッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
夫々合金粉末充填用凹溝を形成して互いに重ね合わせられる一対の金型素材に中子型を内装してカプセルを製作し、このカプセルにおける各金型素材の凹溝に耐食性及び対摩耗性の良好な合金粉末を充填し脱気密封してHIP(熱間等方圧加圧)処理を施すことにより、金型素材の内面に合金粉末のHIP層を形成し、このHIP層に、樹脂をシート状に成形する樹脂成形流路の必要部分を削成する樹脂シート成形用金型であって、前記HIP処理の際に金型素材と合金粉末との熱膨張率の差異により、正常な形状、即ち原形の金属素材に発生する歪みを見込んで、その歪みを打ち消す形状、即ち歪みを吸収する形状に予め金属素材を製作しておき、前記HIP処理によって、前記金属素材が正常な形状、即ち原形に復帰するようにした金属素材を用いてなることを特徴とする樹脂シート成形用金型。
【請求項2】
夫々合金粉末充填用凹溝を形成して互いに重ね合わせられる一対の金型素材に中子型を内装してカプセルを製作し、このカプセルにおける各金型素材の凹溝に耐食性及び対摩耗性の良好な合金粉末を充填し脱気密封してHIP(熱間等方圧加圧)処理を施すことにより、金型素材の内面に合金粉末のHIP層を形成し、このHIP層に、樹脂をシート状に成形する樹脂成形流路の必要部分を削成する樹脂シート成形用金型であって、金型素材と合金粉末との熱膨張率の差異により、HIP処理後の金型素材が、合わせ面側から見て両コバ面の何れか一方が凸側となるクラウン形状で且つ端面側から見て合わせ面と背面の何れか一方が凸側となるクラウン形状に曲がり変形することを見込んで、各金型素材に形成する合金粉末充填用凹溝を、合わせ面側及び端面側から見た夫々のクラウン形状が前記曲がり変形時の夫々の側から見たクラウン形状とはその凸側が逆向きとなるようなクラウン形状に形成することを特徴とする樹脂シート成形用金型。
【請求項3】
夫々合金粉末充填用凹溝を形成して互いに重ね合わせられる一対の金型素材に中子型を内装してカプセルを製作し、このカプセルにおける各金型素材の凹溝に耐食性及び対摩耗性の良好な合金粉末を充填し脱気密封してHIP(熱間等方圧加圧)処理を施すことにより、金型素材の内面に合金粉末のHIP層を形成し、このHIP層に、樹脂をシート状に成形する樹脂成形流路の必要部分を削成する樹脂シート成形用金型の製造方法であって、金型素材と合金粉末との熱膨張率の差異により、HIP処理後の金型素材が、合わせ面側から見て両コバ面の何れか一方が凸側となるクラウン形状で且つ端面側から見て合わせ面と背面の何れか一方が凸側となるクラウン形状に曲がり変形することを見込んで、各金型素材に形成する合金粉末充填用凹溝を、合わせ面側及び端面側から見た夫々のクラウン形状が前記曲がり変形時の夫々の側から見たクラウン形状とはその凸側が逆向きとなるようなクラウン形状に形成することを特徴とする樹脂シート成形用金型の製造方法。
【請求項4】
金型素材の合金粉末充填用凹溝をクラウン形状に形成するにあたって、HIP処理後の金型素材の幅方向曲がり量及び厚み方向曲がり量を算出し、この曲がり量から、金型素材の幅方向曲がり係数及び厚み方向曲がり係数を算出し、この曲がり係数に基づき前記凹溝の金型素材幅方向クラウン量及び厚み方向のクラウン量を算出して、クラウン形状の凹溝を形成することを特徴とする請求項3に記載の樹脂シート成形用金型の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−235500(P2011−235500A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107664(P2010−107664)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(507050001)平井工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】