説明

樹脂シート状物の連続製造方法

【課題】 走行するベルト上に活性エネルギー線重合性液体を供給し、その上にフィルムを被せて前記液体を硬化されて樹脂シートを連続的に製造する際、異物欠陥の少ない透明樹脂シート状物の製造方法を提供する。
【解決手段】 活性エネルギー線重合性液体を走行するベルト上に供給し、供給された活性エネルギー線重合性液体上に活性エネルギー線透過性フィルムを被せ、前記フィルム上に気体を前記フィルム上に噴き付けることで、前記フィルム上の異物を除去した後、前記フィルムの上から活性エネルギー線重合性液体に活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線重合性液体を硬化させシート状物とする透明樹脂シート状物の連続製造方法方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートを連続的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂等の透明樹脂は、工業用資材、建築用資材等として広く使用されている。特に近年では、その透明性と耐衝撃性の点から、CRTや液晶テレビやプラズマディスプレイ等の各種ディスプレイの前面板として使用されるに至っている。それに伴い、品質向上の要求が厳しくなってきており、特に異物付着に起因する表面欠陥の低減が求められている。
【0003】
樹脂基板を連続的に製造する方法として、移送される支持シート上に光重合性組成物を供給し、その上にフィルムを積層した後、活性線を照射して光重合性組成物を硬化させて樹脂板を得る方法が開示されている(特許文献1)。この場合、積層したフィルム上に異物が付着すると、その付着した異物の下に位置する光重合性組成物は活性線照射が阻害されるため重合反応が他の箇所より遅延し、硬化後その表面には凹部欠陥が生じることになる。しかしながらこの特許文献1には異物の除去手段あるいは方法について何ら記載されていない。
【0004】
走行中のシート状物にエアを連続的に吹付けて付着異物を除去する装置及び方法が開示されている(特許文献2)。これは、シート状物に付着した異物自体が欠陥となるものに対し、この異物を除去する装置について記載されたものである。本発明では、活性エネルギー線を照射する際、シート状物表面に付着した異物があるとその箇所の活性エネルギー線が遮られ、該異物下の活性エネルギー線重合性液体の硬化が遅延し表面欠陥が生じることを防止するため、該異物を除去するものである。しかしながら特許文献2には、本発明のような活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線重合性液体を硬化させることについて何ら記載はなく、このような場合においての異物を除去する方法に関して開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−11742号公報
【特許文献2】特開2008−237985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、走行するベルト上に活性エネルギー線重合性液体を供給し、その上にフィルムを被せて該重合性液体を硬化されて樹脂シートを連続的に製造する際、前記フィルム上の異物を除去した後、活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線重合性液体を硬化させ、異物欠陥の少ない透明樹脂シート状物を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、活性エネルギー線重合性液体を走行するベルト上に供給し、供給された活性エネルギー線重合性液体上に活性エネルギー線透過性フィルムを被せ、気体を前記フィルム上に噴き付けることで、前記フィルム上の異物を除去した後、前記フィルムの上から活性エネルギー線重合性液体に活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線重合性液体を硬化させシート状物とする透明樹脂シート状物の連続製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、樹脂シートを連続的に製造する際、異物欠陥の少ない樹脂シートを簡便な設備にて連続的に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の方法を適用した製造装置の一例の模式的側面図である。
【図2】本発明の方法を適用した製造装置の別例の模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において使用される活性エネルギー線重合性液体は、特に限定されないが、重合性モノマー、ポリマー、活性エネルギー線分解重合開始剤および任意の他の成分とから構成することができる。
【0011】
本発明において使用される重合性モノマーとしては、活性エネルギー線の照射によって硬化することにより透明樹脂を形成するモノマーであり、各種モノマーを使用することができる。例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物、N−フェニルマレイミド,N−シクロヘキシルマレイミド、N−t-ブチルマレイミド等のマレイミド誘導体、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ基含有単量体、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート等の窒素含有単量体、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有単量体、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体、エチレングリコールジアクリレート、アリルアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート等の架橋剤などが挙げられ、これらの中から1種または複数種選定し使用される。ここで「(メタ)アクリ」とは「メタクリ」または「アクリ」のことをいう。
【0012】
透明樹脂としては、透明性、耐候性の観点から、アルキルメタクリレート単位を80重量%以上含有することが好ましい。アルキルメタクリレート単位がメチルメタクリレート単位であることがより好ましい。
【0013】
本発明で得られる透明樹脂シート状物の種類としては特に限定されないが、以下にアクリル系樹脂シートを製造する場合について説明する。
【0014】
本発明において使用されるポリマーとしては、アクリル系樹脂シートを製造する場合、その組成としてメチルメタクリレート単位が50質量%以上含有することが好ましい。先に挙げた重合性モノマーの単独重合物または共重合物を使用することができ、光学性能の観点から、ポリメチルメタクリレートをポリマーとして使用することが好ましい。
【0015】
本発明において使用されるポリマーの重量平均分子量Mwは、30、000〜500、000とすることが好ましい。ポリマーの重量平均分子量が低すぎると、製造される製品が低分子量化し、耐熱性の観点では不利になり、また重量平均分子量が高すぎると得られる樹脂シートの重量平均分子量を高めることはできるが、活性エネルギー線重合性液体製造時、モノマーに該ポリマーを溶解させて製造する場合、溶解時間を多く要し、またモノマーの一部を重合させて製造する場合には高い重量平均分子量になるようにゆっくり重合させる必要がある。
【0016】
本発明において使用される活性エネルギー線分解重合開始剤としては、活性エネルギー線の照射によってラジカルを発生し、硬化した樹脂の透明性を阻害しない限り、特に制限されず、各種の活性エネルギー線分解重合開始剤を使用することができる。代表的には、アセトフェノン系またはベンゾフェノン系の活性エネルギー線活性重合開始剤が挙げられ、特に1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名イルガキュア184)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名ダロキュア1173)、ベンゾインエチルエーテル(例えば精工化学社製、商品名セイクオールBEE)等を用いることが好ましい。
【0017】
前記の活性エネルギー線分解重合開始剤は活性エネルギー線重合性液体100質量部に対し、通常0.01〜2質量部の割合で使用することが好ましい。前記重合開始剤が少なすぎると重合速度が上がらず、重合時間を多く要する結果となり、多すぎると製品板の光学性能、耐候性に影響を及ぼすため、好ましくは0.05〜1質量部の割合で使用される。
【0018】
本発明において使用される活性エネルギー線重合性液体に含有する任意の他の成分としては、熱重合開始剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料、離型剤、重合禁止剤などを使用することができる。
【0019】
本発明において使用される活性エネルギー線重合性液体の粘度に関しては、ベルト上に供給した活性エネルギー線重合性液体を所望の厚みとして保持すること、また片面をフィルムのような剛性の低いものでカバーするため、その表面で良好な外観を得るために20℃における粘度が5000mPa・s以上であることが好ましく、10000mPa・s以上であることがより好ましい。
【0020】
本発明において活性エネルギー線重合性液体をベルト上に供給する方法としては、特に制限されるものではなく、通常の配管、ホースからの供給や、各種コーティング方法が使用できる。活性エネルギー線重合性液体を供給し、連続的にシート形状とするため、供給ダイにより前記液体をシート形状に供給する方法が好ましい。前記液体をシート形状にする方法としては、先のダイからの供給や、ベルト上に供給した前記液体をロールと、ベルトを介したロールによって押し拡げる方法などもあり、これらを組み合わせた方法でも良い。
【0021】
本発明において使用されるベルトの材質は特に規定されるものではなく、活性エネルギー線重合性液体をシート状に保持するものであれば金属製、樹脂製など自由に選定可能である。金属製ベルトとしてはステンレスベルトが挙げられる。ステンレスベルトを用いる場合、樹脂シートの表面は、該ベルトの表面を転写して得られるため、鏡面仕上げされたステンレスベルトであることが好ましい。また樹脂製ベルトとしては各種シートあるいはフィルムを用いることができる。フィルムを用いる場合、後述する活性エネルギー線透過性フィルムを用いることができる。樹脂シートを連続的に製造するためには、前記ベルトがエンドレスベルトであることが好ましい。
【0022】
ベルト上に供給された活性エネルギー線重合性液体上に、活性エネルギー線透過性フィルムが被せられる。
【0023】
本発明において使用される活性エネルギー線透過性フィルムについては、透明可撓性の合成樹脂フィルムにて構成され、重合時の熱によって軟化しないように100℃以上の軟化点を有するフィルムで構成されることが好ましい。前記フィルムとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート等の合成樹脂フィルムが挙げられ、活性エネルギー線の透過性、表面性状の高さからポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく、その厚みは剛性の観点から10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。コストの点からその厚みは300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。
【0024】
また、活性エネルギー線透過性フィルムの活性エネルギー線重合性液体と接する側の表面は、製品として得られる樹脂シートの表面に転写されるため、JIS B0601で規定する表面粗さ(Ra)としては100nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。
【0025】
本発明で使用する活性エネルギー線透過性フィルムの幅を、ベルト上に展開した活性エネルギー線重合性液体の幅以上とすることが好ましい。ここで「幅」とは前記ベルトの走行方向と直交する方向の長さのことをいう。
【0026】
気体を前記フィルム上に噴き付けることで、前記フィルム上の異物を除去した後、前記フィルムの上から活性エネルギー線重合性液体に活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線重合性液体を硬化させる。前記フィルム上部10mm位置における気体の流速は20m/s〜80m/sであることが好ましい。気体の流速が遅すぎると異物の除去が不十分となり、また気体の流速が速すぎると前記フィルムがばたつき、しわが生じ易くなり、活性エネルギー線重合性液体を均一な厚みに保持することが困難となるため、得られる樹脂シート状物に板厚斑が生じることになる。
【0027】
気体を前記フィルム上に噴き付けるノズルとしては、フィルム面へ均一な流速で噴き付ける観点から、前記フィルムの幅方向に配設したスリット型ノズルにより噴き付けることが好ましい。気体としては特に限定されないが、たとえば、空気、窒素を使用することができる。
【0028】
本発明において異物とは、例えば、塵、埃、繊維屑、シート状物片、微粉等であり、その大きさは10μm以上である。ここで大きさとは、異物の最大径のことをいう。樹脂シート状物に付着し、異物欠陥を引き起こす異物について、光学顕微鏡を用いてその大きさを測定すると、いずれも10μm以上であり、目視により確認することが可能である。
【0029】
前記の通り、本発明では、クリーンルームや集塵機などの装置を必要とせず、簡便な装置で前記フィルム上に付着した異物を除去することができる。
【0030】
本発明において照射する活性エネルギー線としては、X線、紫外線、電子線等が挙げられる。特に、紫外線が好ましい。
【0031】
紫外線は、各種紫外線照射装置により照射され、例えば高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、殺菌灯、ブラックライト、紫外LEDなどが使用できる。
【0032】
活性エネルギー線の照射強度としては、活性エネルギー線重合性液体に含有する活性エネルギー線分解重合開始剤濃度と照射時間との関係により決定されるが、前記活性エネルギー線重合性液体においては、モノマーの成長速度の観点から1mW/cm〜30mW/cmの範囲が好ましい。照射強度が弱すぎると重合開始剤の分解量が少ないことにより重合速度が遅くなり、逆に強すぎると、開始剤分解量を増やしても、本法での活性エネルギー線重合性液体ではモノマーの成長速度が追いつかず、停止反応に多くが消費されてしまうことで、樹脂シートの分子量低下と、活性エネルギー線が過剰に照射されることによる製品が黄変してしまう。
【0033】
前記のように、活性エネルギー線を照射する前に活性エネルギー線透過性フィルム上に気体を噴き付け、前記フィルム上の異物を除去するのに加えて、浮遊する異物がフィルム上に付着、堆積することを防止する観点から、活性エネルギー線照射時に前記フィルム上部に気体を流すことが好ましい。この場合、活性線透過性フィルム上部10mmの位置における気体の流速が5m/s〜40m/sであることが好ましい。
【0034】
本発明において、活性エネルギー線重合性液体を硬化させるための活性エネルギー線の照射時間が長いほど効果が顕著であり、活性エネルギー線照射時間が20秒以上であることが好ましい。
【0035】
本発明において樹脂シートの生産速度、すなわちベルトの走行速度としては、0.5〜15m/minであることが好ましく、1〜10m/minであることがより好ましい。速度が遅すぎると、製品として得られる樹脂シートの生産量が少なくなってしまう問題があり、速度が速すぎると必要重合時間を得るための活性エネルギー線照射区間が大きくなる。
【0036】
本発明において活性エネルギー線を照射して硬化させる際の温度条件としては、重合速度や粘性条件などにより選定できるが、活性エネルギー線重合性液体に活性エネルギー線を照射する際には、モノマーの沸点以下であることが好ましく、メチルメタクリレートモノマーでは100℃以下となる。また、メチルメタクリレートモノマーの重合においては、重合時の温度が低いほど重合体中のモノマー単位の結合の配置においてシンジオタクチック成分が増加することが知られている。このシンジオタクチック成分が多いほど重合体のガラス転移温度Tgなどが高くなり、耐熱性が高くなる。耐熱性向上の観点より、活性エネルギー線を照射するときの重合温度は50℃以下であることがより好ましい。
【0037】
活性エネルギー線硬化した樹脂に対しては、残存モノマーを減少させる観点から、使用するモノマーとポリマーの組み合わせから得られるガラス転移温度Tg以上の温度に熱処理することも適宜可能であり、ポリメチルメタクリレートの場合には100℃以上に熱処理することが好ましい。
【0038】
本発明における透明樹脂シートの厚みは、特に規定されるものではないが0.1mm以上5mm以下であることが好ましく、1mm以上5mm以下であることがより好ましい。樹脂シートの厚みが厚すぎると重合発熱の除去が間に合わなくなり、未重合モノマーが沸騰し、樹脂シート内に泡が発生しやすくなる。樹脂シートの厚みが薄すぎると本発明の効果が得難い。
【0039】
本発明の方法を実施するのに用いる装置の一例を図1に示し、これをもとに本発明を説明する。この図により本発明が規定されるものではない。エンドレスベルト3は主プーリ11と主プーリ12によりテンションをかけられた状態でエンドレスに走行される。エンドレスベルト3の上に供給ダイ1により光重合性液体2をシート状に供給し、紫外線透過性フィルム繰り出し装置6より供給される紫外線透過性フィルム5により該光重合性液体2の上面を被覆した後、上面押し付けロール8と下面押し付けロール8′間を経由した後、前段加熱機構9により所望の温度に制御されながら、紫外線照射装置4により前記液体2が硬化する。その後、後段加熱機構10により熱処理された後、樹脂シート2′を紫外線透過性フィルム5とエンドレスベルト3より剥離し、紫外線透過性フィルムは紫外線透過性フィルム巻取り装置7にて巻取る。
【0040】
光重合性液体2をエンドレスベルト3と紫外線透過性フィルム5との間に挟み込ませた後、エンドレスベルト、前記液体2、紫外線透過性フィルムが積層されればよく、エンドレスベルト上に前記液体2を供給し、その後に紫外線透過性フィルムを積層してもよいし、紫外線透過性フィルム状に光重合性液体2を供給した後エンドレスベルトと積層してもよく、さらに同時に積層してもよい。連続セルキャスト方式の1対の金属製エンドレスベルトを使用する場合と異なり、少なくとも一方はフィルムを使用することで、積層するときのエンドレスベルト表面と、それと向き合う紫外線透過性フィルム表面とがなす角度を大きくすることができるため、高粘度の光重合性液体を使用する場合においても泡をかむことなく積層させることが可能である。
【0041】
本発明において、樹脂シートをベルトと紫外線透過性フィルムから剥離する工程を含んでもよい。
【0042】
樹脂シートの後加工工程において、カット、印刷、仕上げに至るまでの各工程での熱履歴による寸法精度の変化や反り量を低く抑えることができる。
【0043】
また、本発明によって得られた透明樹脂シートは、活性エネルギー線透過性であることが好ましい。
【0044】
以上の通り、本発明によって得られた透明樹脂シートは各種用途に好適である。
【実施例】
【0045】
以下、アクリル系樹脂シートの製造に関する実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(ポリマーの重量平均分子量)
活性エネルギー線(以下、「光」ということがある。)重合性液体に含有しているポリマーの重量平均分子量を次の方法にて測定した。ポリマービーズにテトラヒドロフラン(THF)を加えて、一晩静置溶解させて、東ソー(株)製液体クロマトグラフィーHLC−8020型を用いて測定した。分離カラムは東ソー(株)製TSK−GelGMHXL2本直列、溶媒はTHF、流量は1.0ml/min、検出器は示差屈折計、測定温度は40℃、注入量は0.1mlとした。標準ポリマーとしてメタクリル樹脂を使用した。
(ポリマー含有量)
ポリマー含有量は、活性エネルギー線重合性液体に含有するポリマーの割合を質量%にて計算したものである。
(開始剤量)
開始剤量は、活性エネルギー線重合性液体に含有する活性エネルギー線分解重合開始剤量をモノマーとポリマーを合わせたものを100質量部としたときの質量部表示とした。
(気体の流速の測定方法)
ベーン式風速計(ヘンツ社製、HFA)とセンサ(型番ZS25GA−mn120/140/p6)を使用し、活性線透過性フィルムの上部10mmの位置にセンサの中心を配置し、気体噴き出し方向に対してセンサ部を回転させ最大となる値を測定値とした。
(異物欠陥の評価)
異物欠陥の評価としては、プロジェクターから投影される光を、得られたシート状物(400mm四方の大きさに切り出し製品としたもの)にて透過させ、スクリーンに映しだされた像を目視評価することにより行なった。具体的には、東芝液晶プロジェクターTDP−T91をスクリーンとの距離1mにて設置し、得られたシート状物をスクリーンとの距離20cmの位置にて透過させた時の像を目視にて確認し、製品中の平均個数(n=3)を表示した。異物欠陥がある場合は、その部分は局所的に凹みが生じ、光が透過しにくくなるため、像として黒い点のように映し出される。
(製品の板厚斑)
気体を活性エネルギー線透過性フィルム上に噴き付け、前記フィルム上の異物を除去する際、得られた樹脂シート状物(製品)に板厚斑が無かったものを○、前記フィルムがばたつき、板厚斑が生じたものを×とした。
(総合評価)
前記遺脱欠陥及びフィルムのしわの評価結果を基に、製品品質上、全く問題とならないものを◎、特に問題となるレベルではないものを○、製品として不適なものを×とした。
(実施例1)
メチルメタクリレートモノマー60質量部に対し、メチルメタクリレートポリマービーズ(三菱レイヨン社製、BR−83、重量平均分子量4万)40質量部を80℃で30分間かけて加熱溶解させた混合物100質量部に対し、紫外線分解重合開始剤1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社、イルガキュア184)を1質量部、離型剤としてジオクチルスルホ琥珀酸ナトリウム(三井サイアナミッド社製、エアロゾルOT−100)を0.1質量部添加し、活性エネルギー線重合性液体を調整し(ポリマー含有量39.9質量%)、調合時の泡を抜くために50℃にて6時間静置させた後、常温まで自然冷却させた。
【0046】
図1に示されるのと同様の装置を使用し、ベルトとしては幅500mmのステンレス製エンドレスベルト、活性エネルギー線透過性フィルムとしては幅450mmで厚さ188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製コスモシャイン A4100)、活性エネルギー線照射装置4として東芝社製FL30S−BLランプを使用した。
【0047】
エンドレスベルト3の搬送速度を1.5m/minとし、供給ダイ1から活性エネルギー線重合性液体2を幅400mm、厚さ0.5mmのシート状に供給し、活性エネルギー線透過性フィルム5を被せた。
【0048】
その後、幅方向に500mm、スリット間隔0.1mm形状のスリットノズル9にて、鉛直方向から30°傾斜させて気体を噴きつけ、目視にて確認できるサイズの異物を除去した。このときのフィルム上部10mm位置における気体の風速は50m/sであった。気体噴き付けによりフィルム上の異物を除去した後、活性エネルギー線照射装置4により5mW/cm2の照射強度で10分間紫外線を照射し、活性エネルギー線透過性フィルム5とエンドレスベルト3から樹脂シート状物を剥離した。
【0049】
製造された樹脂シート状物を確認すると、クリーンルーム環境下でないが、異物欠陥の少ない良好な板が得られた。一部気体を噴きつけた後、活性エネルギー線照射時に異物が再付着し、製品3枚において、1枚平均1個の異物による活性線照射阻害の影響と思われる欠陥が確認された。結果を表1に示す。
(実施例2)
実施例1と同じ原料を使用し、図2に示されるのと同様の装置を使用しシート状物を製造した。下面フィルムと上面活性エネルギー線透過性フィルムとして幅450mmで厚さ188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製コスモシャイン A4100)を使用し、フィルム上部10mm位置における気体の風速を30m/sにしたこと以外は実施例1と同様にしてシート状物を製造した。
【0050】
結果を表1に示す。異物欠陥の少ない良好な板が得られた。
(実施例3)
幅方向に500mm、スリット間隔2mm形状の気流形成スリットノズル10にて、紫外線照射時の活性エネルギー線透過性フィルム上に30m/sの気流を発生させたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を連続製造した。
【0051】
紫外線照射時に、新たに異物が堆積することがなくなったため、異物が紫外線の照射を阻害したことを原因とする欠陥は確認されなかった。結果を表1に示す。
(比較例1)
活性エネルギー線を照射する前に、気体噴き付けを実施しないこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を連続製造した。活性エネルギー線透過性フィルム被せ時において堆積した異物などが除去されないため、異物による紫外線阻害を起因とするシート状物の欠陥が多数確認された。結果を表1に示す。
(比較例2)
活性エネルギー線照射前における気体噴きつけにおいて、フィルム上部10mm位置における気体の風速を10m/sにした以外は実施例1と同様にしてシート状物を連続製造した。このとき、目視にて確認可能な10μm以上の異物が一部除去されずに通過するのが確認され、製造されたシート状物においても欠陥が確認された。結果を表1に示す。
(比較例3)
活性エネルギー線照射前における気体噴きつけ量を上げ、フィルム上部10mm位置における気体の風速は90m/sにした以外は実施例1と同様にしてシート状物を連続製造した。
【0052】
異物による紫外線照射阻害が起因する欠陥に関しては、実施例1と変わりなかったが、気体の噴きつけが強いため、エッジ部分でフィルムのばたつきが発生し、活性エネルギー線重合性液体の重合前の状態であるため、そのばたつきが前記フィルムのしわとなり、製品の幅方向エッジ部の板厚斑として現れた。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の方法により得られる透明樹脂シート状物は、各種用途に好適である。
【符号の説明】
【0055】
1 供給ダイ
2 活性エネルギー線重合性液体
3 エンドレスベルト
4 活性エネルギー線照射装置
5 活性エネルギー線透過性フィルム
6 フィルム繰り出し装置
7 フィルム巻取り装置
8 押し付けロール
9 気体噴き付けノズル
10 活性エネルギー線照射時の気体噴き付けノズル
11 主プーリ
12 主プーリ
13 下面フィルム繰り出し部
14 下面フィルム巻き取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線重合性液体を走行するベルト上に供給し、供給された活性エネルギー線重合性液体上に活性エネルギー線透過性フィルムを被せ、気体を前記フィルム上に噴き付けることで、前記フィルム上の異物を除去した後、前記フィルムの上から活性エネルギー線重合性液体に活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線重合性液体を硬化させシート状物とする透明樹脂シート状物の連続製造方法。
【請求項2】
活性エネルギー線透過性フィルム上部10mm位置における気体の流速が20m/s〜80m/sである請求項1に記載の透明樹脂シート状物の連続製造方法。
【請求項3】
活性エネルギー線透過性フィルム上に、該フィルムの幅方向に配設したスリット型ノズルにより気体を噴き付ける請求項1または請求項2に記載の透明樹脂シート状物の連続製造方法。
【請求項4】
活性エネルギー線照射時に活性エネルギー線透過性フィルム上部に気体を流す請求項1〜請求項3のいずれかに記載の透明樹脂シート状物の連続製造方法。
【請求項5】
活性エネルギー線透過性フィルム上部10mmの位置における気体の流速が5m/s〜40m/sである請求項4に記載の透明樹脂シート状物の連続製造方法。
【請求項6】
活性エネルギー線重合性液体を硬化させるための活性エネルギー線照射時間が20秒以上である請求項1〜請求項5のいずれかに記載の透明樹脂シート状物の連続製造方法。
【請求項7】
透明樹脂がアルキルメタクリレート単位を80重量%以上含有する請求項1〜請求項6のいずれかに記載の透明樹脂シート状物の連続製造方法。
【請求項8】
ベルトがエンドレスベルトである請求項1〜請求項7のいずれかに記載の透明樹脂シート状物の連続製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−264722(P2010−264722A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120176(P2009−120176)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】