説明

樹脂中空成形体の製造方法

【課題】中空形状が極めて複雑な形状であっても、簡便な方法で、樹脂中空成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】水溶性若しくは加水分解性の樹脂(A)を50〜80重量部及び前記樹脂(A)と反応性を有さない非水溶性樹脂(I)を50〜20重量部混合した複合樹脂を用いて中空部に相当する形状の中子を射出成形して中子を形成する工程と、前記複合樹脂からなる中子を金型内に少なくとも一部分が外部と接触できるように配置し、前記中子の、外部と接触できる当該部分以外の該中子の外側周囲に、所望する中空成形体の外部構造を形成するように非加水分解性でかつ疎水性の樹脂(B)を、射出成形して、該中子と一体化された成形体を形成する工程と、前記一体化成形体を、加圧下かつ該樹脂(B)5の融点より低い温度下でのオートクレーブ養生により、該中子を除去して中空部を形成する工程とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂中空成形体の製造方法に関し、特に複雑な中空形状を有し、継ぎ目のない、樹脂からなる中空成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、中空構造を有する部品等の成形体を製造する場合には、複数の部材を組み合わせた後に所望の中空空間を成形できるように、予め別個に設計・製造されたこれらの複数の部材を、接着・接合して製造することが前提となっている。
これらの複数部材の接着・接合は、通常、接着剤、パッキン、ネジ締結、溶着・溶融などの手段を用いて行われており、接合界面のシール性能を確保して、成形された後の内部中空空間を外部と遮断、安定化するための工夫・製法がとられている。
【0003】
このような中空体の製造方法としては、特開2004−216672号公報(文献1)や特開2006−015738号公報(文献2)等に開示されている方法がある。
【0004】
しかし、このような複数の部材を接合する工程では、複数の部材を製造するための複数の金型を準備する工程、複数の部材を組立てる工程や接合部を接合する工程が必ず必要である。
更に、所望の中空空間形状を組み立てによって形成させるために、個別に製造する個々の部材を設計する設計工程や、接合面において接合が十分であるか等の、界面のシール性の評価工程も必要となる。
従って従来の方法では、このように製造工程が複雑で多くなり煩雑であり、また製造コストが上昇する。
更に、部材を接合等するので、組み立て後の成形体の外部には接合部、即ち継ぎ目が存在することになり、使用しているうちに接合部が劣化して、例えば成形体内部に含有される液体等が漏洩する場合があった。
【0005】
また、他の中空成形体の製造方法としては、圧縮気体を吹き込んで中空構造をつくるブロー成形や、光硬化性樹脂を用いた成形方法などがあり、例えば、ブロー成形方法として、特開2001−096610号公報に記載された中空成形体の製造方法(文献3)等や、光硬化成形方法として、例えば特許第3650216号公報(文献4)に記載された方法等がある。
【0006】
しかしブロー成形は専用の装置が必要となる上に、精密な中空構造の作製が困難である。
また、光硬化を用いた方法は、光硬化装置が高価である上に成形に長時間を要するため、大量生産するには適切な方法ではない。
【0007】
特開平8−174565号公報(文献5)には、低融点の第1の樹脂からなる中子を成形型中にセットし、これに前記第1の樹脂を使用し前記中子の少なくとも一部が内部を貫通するように射出成形したのち、前記成形型より取り出し、この取り出した成形品を前記第1の樹脂の融点よりも高く、かつ前記第2の樹脂の融点よりも低い温度に加熱するとともに、前記成形品のうち第1の樹脂で形成された中子に空気や液体などの流体で圧力を加え、前記溶融した中子を前記成形品のうち第2の樹脂で成形した第2樹脂体から流出することにより分離し、合成樹脂製の中空体を製造することを特徴とする合成樹脂中空体の製造方法が開示されている。
【0008】
しかし、上記製造方法は、中子が外殻樹脂の一部を貫通するように形成されており、これは第1の中子形成樹脂の貫通部位の片方に直接圧力等をかけて、もう片方の貫通部位より第1の中子形成樹脂を溶融流出させることにより中空成形体を製造することとしているからで、かかる方法では、得られる成形体を中子が貫通している場合、即ち一体成形の中空成形体としては成形体外殻に中空部分と連通する2箇所以上の部位が在る形状の中空成形体を製造することしかできず、従って製造できる成形体の形状に制限がある。
【0009】
更に、上記製造方法では、第1の樹脂体に圧力をかけて第1の樹脂体を流出させていることから、複雑な中空形状を有する場合には、中子を形成する樹脂に圧力が均一にかかることは困難であり、圧力が均一にかからない細部には、中子を形成する樹脂が残存してしまい、複雑な中空形状の成形体を大量に一体成形することは困難であるという問題があった。
特に、内面が複雑な凹凸状の部分を有する場合や、中空部に外側に向かって拡出する部分を有する場合には、上記方法では、中空部を形成する中子を完全に取り除くことはできず、所望する正確な内部形状を有する中空成形品を得ることはできない。
【0010】
この点に鑑み、本件出願人は、特願2007−188780にて、複雑な内面形状の成形体を、継ぎ目を有することなく一体成形する樹脂中空成形体の製造方法を提案している。
かかる方法によって、継ぎ目のない複雑な内面形状の成形体を大量に一体化成形することが可能となるが、複雑な形状を有する内面形状の成形体の寸法安定性をより向上させることが望まれている。
【特許文献1】特開2004−216672号公報
【特許文献2】特開2006−015738号公報
【特許文献3】特開2001−096610号公報
【特許文献4】特許第3650216号公報
【特許文献5】特開平8−174565号公報
【特許文献6】特願2007−188780号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記問題を解決し、複雑な内面形状の中空形状の成形体を、工程数を少なくした簡便な方法で、継ぎ目を有することなく一体成形して大量に製造することができ、所望する中空形状の寸法精度に極めて優れている、樹脂中空成形体の製造方法を提供することである。
更に、中空形状が極めて複雑な形状であっても、設計した所望する寸法精度を有する中空形状を備える、樹脂中空成形体の製造方法を提供することである。
特に、外殻樹脂を成形する際の成形圧力に耐えられる中子を形成して、寸法精度に優れた中空成形体を製造することを目的とする。
また、中子を形成する樹脂に、廃プラスチックを利用することにより、廃材の有効活用を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑みて、中空形状を構成する中子に用いる樹脂の弾性率を増加させることにより、得られる中空形状の寸法精度をより向上させ、上記本発明の目的が達成できることを見出し、本発明に至ったものである。
また、ペットボトル等のプラスチック廃材を中子の弾性率を高める樹脂として利用することで、廃材の利用促進を図ったものである。
【0013】
即ち、本発明の樹脂中空成形体の製造方法は、水溶性若しくは加水分解性の樹脂(A)50〜80重量部及び前記樹脂(A)と反応性を有さない非水溶性樹脂(I)50〜20重量部を混合した複合樹脂を用いて中空部に相当する形状の中子を射出成形して中子を形成する工程と、前記複合樹脂からなる中子を金型内に少なくとも一部分が外部と接触できるように配置し、前記中子の、外部と接触できる当該部分以外の該中子の外側周囲に、所望する中空成形体の外部構造を形成するように非加水分解性でかつ疎水性の樹脂(B)を、下記式:
複合樹脂の融点(Tm(A)+(I)℃)>樹脂(B)の射出成形温度(T(B)℃)−150(℃)
を満足する射出温度で射出成形して、該中子と一体化された成形体を形成する工程と、前記一体化成形体を、加圧下かつ該樹脂(B)の融点より低い温度下でのオートクレーブ養生により、中子を形成している該複合樹脂のみを、該中子が外部と接触できる前記部分より除去して中空部を形成する工程とを備えたことを特徴とする、樹脂中空成形体の製造方法である。
【0014】
また本発明の他の樹脂中空成形体の製造方法は、水溶性若しくは加水分解性の樹脂(A)50〜80重量部及び前記樹脂(A)と反応性を有さない非水溶性樹脂(I)50〜20重量部を混合した複合樹脂を用いて中空部に相当する形状の中子を射出成形する工程と、前記中子を金型内に配置し、該中子の外側周囲に、所望する中空成形体の外部構造を形成するように非加水分解性でかつ疎水性の樹脂(B)を、下記式:
複合樹脂の融点(Tm(A)+(I)℃)>樹脂(B)の射出成形温度(T(B)℃)−150(℃)
を満足する射出温度で射出成形して、該中子と一体化された成形体を形成する工程と、該成形体の少なくとも一部分に外部と中子とが連通する口を設け、前記一体化成形体を、加圧下かつ該樹脂(B)の融点より低い温度下でのオートクレーブ養生により、中子を形成している該複合樹脂のみを該口より除去して中空部を形成する工程とを備えたことを特徴とする、樹脂中空成形体の製造方法である。
【0015】
好適には、本発明の樹脂中空成形体の製造方法は、上記本発明の樹脂中空成形体の製造方法において、前記非水溶性樹脂(I)は加水分解性樹脂であることを特徴とする、樹脂中空成形体の製造方法である。
また、本発明の樹脂中空成形体の製造方法は、上記本発明の樹脂中空成形体の製造方法において、前記非水溶性樹脂(I)の曲げ弾性率は、前記水溶性若しくは加水分解性樹脂(A)の曲げ弾性率よりも1GPa以上高いことを特徴とする、樹脂中空成形体の製造方法である。
【0016】
また好適には、本発明の樹脂中空成形体の製造方法は、上記本発明の樹脂中空成形体の製造方法において、前記オートクレーブ養生は、前記中子一体化成形体を高圧水蒸気雰囲気下に設置することにより、または高圧蒸気内の熱水と接触させることにより実施することを特徴とするものである。
更に好適には、本発明の樹脂中空成形体の製造方法は、上記本発明の樹脂中空成形体の製造方法において、オートクレーブ養生でのオートクレーブ内の圧力は1.5〜15気圧であることを特徴とするものである。
更に好適には、本発明の樹脂中空成形体の製造方法は、上記非水溶性樹脂(I)は、廃プラスチックであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の中空成形体の製造方法は、継ぎ目がなく、密閉性または外部遮断性に対する信頼性が優れ、複雑な内面形状の中空構造の樹脂中空成形体を大量にかつ簡便に製造することが可能となる。
また、従来のように複数の部材を別個に作成する必要がないため、組み立てや接合・接着に関する工程は不要となり、従って製造工程が簡便なものとなるので、複雑な内面形状を有する樹脂中空成形体を低コストで製造することができることとなる。
また特に、複雑な中空形状の寸法安定性が良好であり、設計した中空形状どおりの樹脂成形体が得られる。
このように本発明の製造方法によれば、複雑な内面凹凸中空形状を有する中空成形体や中空内部に外側に向かって拡出する部分や逆テーパー部分を有する場合であっても、極めて良好な寸法精度を有し、樹脂製のシームレスな中空成形体を得ることが可能となる。
【0018】
特に中子に外殻樹脂を成形する際の成形圧力に耐え得る弾性係数を有した中子材料を用いることで、中空部の精密成形性、賦形性が大幅に向上し、また外殻樹脂成形時の圧力によるスプリングバックもほとんど起こらず、成形品としての量産効率、品質の安定を図ることができる。
更に、中子を構成する複合樹脂に廃プラスチックを用いることで、廃材の利用を促進することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を以下の最良の形態例について説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の樹脂中空成形体の製造方法は、水溶性若しくは加水分解性の樹脂(A)50〜80重量部及び前記樹脂(A)と反応性を有さない非水溶性樹脂(I)50〜20重量部を混合した複合樹脂を用いて中空部に相当する形状の中子を射出成形して中子を形成する工程と、前記複合樹脂の中子を金型内に少なくとも一部分が外部と接触できるように配置し、前記中子の、外部と接触できる当該部分以外の該中子の外側周囲に、所望する中空成形体の外部構造を形成するように非加水分解性でかつ疎水性の樹脂(B)を射出成形して、該中子と一体化された成形体を形成する工程と、前記一体化成形体を、加圧下かつ該樹脂(B)の融点より低い温度下でのオートクレーブ養生により、中子を形成している該複合樹脂を、該中子が外部と接触できる前記部分より除去して中空部を形成する工程とを備えるものである。
【0020】
また、本発明の他の樹脂中空成形体の製造方法は、水溶性若しくは加水分解性の樹脂(A)50〜80重量部及び前記樹脂(A)と反応性を有さない非水溶性樹脂(I)50〜20重量部を混合した複合樹脂を用いて中空部に相当する形状の中子を射出成形する工程と、前記複合樹脂の中子を金型内に配置し、該中子の外側周囲に、所望する中空成形体の外部構造を形成するように非加水分解性でかつ疎水性の樹脂(B)を射出成形して、該中子と一体化された成形体を形成する工程と、該成形体の少なくとも一部分に外部と中子とが連通する口を設け、前記一体化成形体を、加圧下かつ該樹脂(B)の融点より低い温度下でのオートクレーブ養生により、中子を形成している該複合樹脂を該口より除去して中空部を形成する工程とを備えるものである。
【0021】
本発明の製造方法は、上記構成を採用することで、継ぎ目がなく、密閉性または外部遮断性に対する信頼性が優れ、複雑な内面形状であっても寸法精度に極めて優れる中空構造を有する、樹脂製の中空成形体を、大量にかつ簡便に製造することが可能となるものである。
特に樹脂(A)と樹脂(I)とを一定の割合で配合した複合樹脂を中子の形成に用いることにより、中子を形成する樹脂の弾性率を向上させることができ、かかる弾性率を向上させることで、複雑な形状の中子に相当する中空形状であっても、寸法安定性に優れた精密な形状の、樹脂中空成形体を得ることができる。
【0022】
ここで、本発明においては、複合樹脂の融点と樹脂(B)の射出成形温度とは、以下の関係を満足するものである。
複合樹脂の融点(Tm(A)+(I)℃)>樹脂(B)の射出成形温度(T(B)℃)−150(℃)
また、本発明において「非水溶性」とは、常温常圧の水に対する溶解度が0.1g/100L以下であることを意味するものである。
【0023】
本発明の製造方法では、先ず所望する中空部の形状に相当する中子を樹脂(A)及び樹脂(I)を混合した複合樹脂により形成する。
中子の形成は、例えば中子形状のキャビティを有する中子用金型に樹脂(A)及び樹脂(I)を混合した複合樹脂を射出する射出成形方法等により形成することができる。
中子を形成する樹脂を、樹脂(A)及び樹脂(I)を混合した複合樹脂とすることで、中子の弾性率を向上させることができる。
これにより、中子の外側に外殻樹脂を成形する際に、成形の圧力によって中子が変形することを抑制でき、精密な中空形状を得ることができるようになる。
従来の方法としては、中子の弾性率を向上させるには、例えば、従来の中子材料に無機フィラーや繊維状物質、各種鉱物、塩、金属粉を入れて弾性係数を上げる方法があるが、従来においては、中子を除去する際に、複雑な形状の中子であると、細部の中空部にこれらの物質が残存してしまい、別途、これらの残存物質の洗浄工程が必要となり、これにより、中空成形体の生産効率が低下し、経済的ではなかった。
【0024】
本発明に用いる前記樹脂(A)は、水溶性若しくは加水分解性の樹脂であれば任意の樹脂を使用することができ、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)等の水溶性ポリアクリル酸・ポリメタクリル酸誘導体等を用いることができる。
ここで、樹脂(A)は、水溶性若しくは加水分解性の樹脂でなければならず、これは後の工程でのオートクレーブ養生において、水蒸気または熱水により容易にかつ完全に除去することが可能となるからである。
【0025】
また、上記樹脂(I)は、前記樹脂(A)と反応性を有さない非水溶性樹脂であれば、任意の樹脂を使用することができる。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、ポリウレタン(PU)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などの汎用樹脂及びエンジニアリングプラスチック等を例示することができる。
ここで、樹脂(I)が前記樹脂(A)と反応性を有さないとは、水溶性若しくは加水分解性の樹脂(A)の分子構造中に存在する親水基や加水分解性の分子構造部位に対して反応性(官能性)を示さないことを意味する。
これは、樹脂(I)が樹脂(A)に対して反応性を有すると、水溶性若しくは加水分解性の樹脂(A)の性質が変化してしまい、後の工程でのオートクレーブ養生において、中子を水蒸気または熱水により完全に除去することに、悪影響を及ぼす場合があるからである。
【0026】
また、樹脂(I)は、前記樹脂(A)と反応性を有さない非水溶性樹脂であれば任意のものを使用でき、例えば加水分解性の構造部位を有しているものを好適に用いることができる。
樹脂(I)が加水分解性の構造部位を有していれば、後の工程でのオートクレーブ養生において、より迅速に分解されるからである。
樹脂(I)は、中子の弾性率を向上させる機能を有すればよく、後のオートクレーブ養生において分解されると除去がより短時間で容易にできるからである。
ここで、加水分解性の構造部位とは、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合等が例示できる。
また、樹脂(I)は、非水溶性であれば、非加水分解性であってもよく、これは、後のオートクレーブ養生では、当該樹脂(I)は非常に細かな粉状になり、中子を除去する際にも、特に中空形状中に残存することはなく、除去が可能であるからである。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、ポリウレタン(PU)等を好適に用いることができる。
【0027】
また樹脂(I)は、上記樹脂(A)よりも曲げ弾性率が1GPa以上高いことが望ましく、更に5GPa以上高いことがより望ましい。
これにより、上記水溶性もしくは加水分解性の樹脂(A)と混合して複合樹脂として中子を形成したときに、弾性率を向上させて、外殻樹脂(B)により外殻を形成した際に、中子が成形の圧力で変形することを、より有効に防止することができる。
ここで、本発明において曲げ弾性率は、ISO178およびJIS K 7171に規定される方法で測定した値を示す。
【0028】
樹脂(I)は、上記条件を満足するプラスチック廃材を用いることができ、例えば、プラスチック成形工場から排出される廃スプールランナの粉砕品、廃ペットボトル、その他の廃プラスチック材料である。
従来は、中子を形成した樹脂は、最終的には廃棄処分されており、経済的な損失があったが、樹脂(I)にプラスチック廃材を適用することで、廃材の有効活用を図ることができ、環境的にも有用な再利用が図れることとなる、
【0029】
中子を形成する複合樹脂は、樹脂(A)を50〜80重量部と樹脂(I)を50〜20重量部、好ましくは樹脂(A)を50〜55重量部と樹脂(I)を50〜45重量部混合して得られるものである。
樹脂(I)は、複合樹脂中に均一に分散していれば、粉末状であっても、粒子状であっても、溶融して樹脂(A)と混合されていても、いずれの状態でもよい。
かかる混合割合で樹脂(A)と樹脂(I)とを混合、即ち樹脂(I)の混合割合を上記範囲内とすることで、中子を形成する樹脂の弾性率が高くなり、中子そのものの弾性率も向上し(概ね13GPa以上、好ましくは14GPa以上)、外殻樹脂(B)の成形時の変形をほとんど押さえられ、高精度な中空内面を成形し得るという利点が得られるとともに、複雑な形状であっても中子を形成する樹脂を容易に除去することができ、所望の形状の中空形成体を得ることが可能となる。
【0030】
また、本発明のおいては、必要に応じて、上記複合樹脂に、強化繊維、無機鉱物粉末及び水溶性無機塩粉末の少なくとも1種の添加材を配合してもよいが、その配合割合は、樹脂(A)と樹脂(I)の混合物100重量部に対して、10〜20重量部である。
本発明においては、中子を形成する複合樹脂にこれらの添加材を配合しても、最終的得られる中空成形体中にこれらの添加材が残存することはなく、必要に応じて、配合して用いることができる。
強化繊維としては、ガラス繊維や炭素繊維、無機鉱物粉末としては、炭酸カルシウム、マイカ、タルク、珪石粉、各種の乾燥粘土鉱物粉末、水溶性無機塩粉末としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶性無機塩粉末が例示できる。
無機塩粉末は、本発明による中子の除去が高温高圧の水蒸気中若しくは水中で行われることから、なるべく水に溶ける物が望ましいが、各種金属の炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩で溶解度の低い塩でも良い。
かかる範囲でこれらの強化繊維、無機鉱物粉末、水溶性無機塩粉末を配合することは、樹脂(A)のみの弾性率を樹脂(I)の複合によって向上させることに加え、樹脂に対して高い機械的・物理的強度を有する繊維や無機物の性質を付与することとなり、その結果として中子の耐熱性、耐変形性を向上させることにつながるからである。
【0031】
樹脂(A)と樹脂(I)を混合する複合樹脂は、例えば、樹脂(A)と樹脂(I)をそれぞれ予めペレット状、粉末状、粒状等の形態としてもよく、具体的にはこれらの樹脂を上記配合割合にて混合し、その後ニーダーや一般的な樹脂ペレット製造用押出機等により、混合原材料として製造することができる。
複合樹脂を調製する方法としては、前記方法に限定されず、従来より適用されている、複数の樹脂から複合樹脂を調製する任意の方法が適用できる。
また、樹脂(A)と樹脂(I)を混合する複合樹脂は、例えば、樹脂(A)と樹脂(I)をそれぞれ予めペレット状、粉末状、粒状等の形態とし、これらを上記配合割合にて混合した後、そのまま射出成形機に投入して中子を射出成形することもできる。
複合樹脂の中子形成のための射出成形方法は、従来より利用されている任意の方法を適用することができる。
【0032】
また、複合樹脂の熱伝導率は、2W/(m・K)以下、好ましくは1W/(m・K)以下、より好ましくは0.5W/(m・K)以下であって、0.1W/(m・K)以上であものが好ましく用いられる。
このような熱伝導率範囲を有する複合樹脂を用いることで、中子の周囲に樹脂(B)を射出した際であっても、樹脂(B)の熱が複合樹脂に伝導しにくくなり、中子一体成形体の寸法精度がより向上する。
【0033】
次いで得られた中子を、所望する成形体製品用金型内のキャビティ内の所定の位置に配置して、該中子の外面と該製品用金型のキャビティ面との間に設けられた空隙に溶融状態の樹脂(B)を射出し、該樹脂(B)を冷却固化させることで、複合樹脂の中子の周囲に樹脂(B)が一体となった状態の射出中子一体化成形体が形成される。
【0034】
中子を該製品用金型内のキャビティに設置する際には、該中子を該キャビティ内に、少なくとも該中子の一部分が外部と接触できるように設置して、樹脂(B)を射出することができる。
外部と接触できる該部分は、得られた射出中子一体化成形体をオートクレーブ養生して該中子を除去する際に、中子が除去される口として機能する部分であり、該部分は少なくとも1箇所あれば、本発明における上記効果を奏することができるものである。
または中子を該製品用金型内のキャビティに設置して、該中子の周囲に樹脂(B)を射出することもできる。
かかる場合には、得られた射出中子一体化成形体を次のオートクレーブ養生工程に課する前に、該射出中子一体化成形体の少なくとも一部分に、中子と成形体外部とを連通する口を設ける工程が必要であり、該口は上記したと同様に、オートクレーブ養生工程での中子の除去口として機能するものである。
【0035】
本発明の中空成形体の外殻形状を構成する樹脂(B)としては、非加水分解性でかつ疎水性の樹脂であれば任意の樹脂を使用することができ、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などの汎用樹脂及びエンジニアリングプラスチック等がある。
ここで、樹脂(B)は、非加水分解性でかつ疎水性の樹脂でなければならず、更に好ましくは結晶性の樹脂であり、これは後の工程でのオートクレーブ養生において、中子が水蒸気または熱水により容易にかつ完全に除去される際にも、成形体の外殻を形成する樹脂(B)が該オートクレーブ養生によって影響を及ぼされず、良好な形態保持性を維持することが可能となるからである。
【0036】
また、本発明においては、上記複合樹脂の融点(Tm(A)+(I)℃)と、樹脂(B)の射出成形温度(T(B)℃)とは、以下の関係を有する。
樹脂(A)の融点(Tm(A)+(I)℃)>樹脂(B)の射出成形温度(T(B)℃)−150(℃)
望ましくは、
樹脂(A)の融点(Tm(A)+(I)℃)>樹脂(B)の射出成形温度(T(B)℃)−120(℃)
の関係を有する。
かかる関係を有することにより、複合樹脂により形成された中子が、融解した樹脂(B)の射出による応力と熱によって変形することを抑制し、所望の中空構造の寸法安定性を、より保持することができる。
【0037】
ここで、本発明においては、樹脂(B)の射出成形温度とは、樹脂(B)を射出する金型内のノズル先端の設定温度を意味するものであり、該設定温度は、樹脂(B)の射出成形時の溶融温度とほぼ同一である。
また、樹脂の融点とは、JIS K7121 プラスチックの転移温度測定方法で測定した温度をいうものである。
【0038】
次いで、得られた射出中子一体化成形体から中子を除去して、所望する中空成形体を製造する。
まず、該射出中子一体化成形体をオートクレーブ内に設置してオートクレーブ養生等することで、該中子を構成する複合樹脂を完全に溶出させて除去し、中空部が複雑な形状を有する樹脂中空成形体を、寸法精度良好に製造することができる。
【0039】
該オートクレーブ養生は、好ましくは、該中子一体化射出成形体を高温・高圧水蒸気雰囲気下にさらす方法、または高温・高圧水蒸気内の熱水と接触させる方法(例えば、高温・高圧の水蒸気雰囲気内に設置された水槽内の熱水中に該射出成形体が浸漬される方法等)等により行なわれる。
該オートクレーブ養生により、中子を形成する複合樹脂を完全に、前記口(外部と接触している中子の部分または、中子と外部が連通するようにオートクレーブ工程前に設けられた口)から溶出・除去させることができる。
中子は上記複合樹脂を使用し、中子一体化成形体の外殻を構成する樹脂(B)は非加水分解性樹脂で疎水性の樹脂を使用していることで、オートクレーブ養生手段、例えば一体化射出成形体全体を一定の高温、高圧水蒸気下等にさらすことで、該複合樹脂は、水蒸気及び熱水による加水分解や溶解(主として)、熱による溶融や融解が起こり完全に溶出され、一方樹脂(B)は溶出されず、変形しない。
【0040】
また、該オートクレーブ養生における温度は、樹脂(B)の融点よりも低ければよく、例えば好適には100℃〜樹脂(B)の融点より低い温度、望ましくは105℃〜樹脂(B)の融点より低い温度、より望ましくは130℃〜樹脂(B)の融点より低い温度、更に望ましくは165℃〜樹脂(B)の融点より低い温度で実施される。
また、オートクレーブ内の圧力は、より具体的には、圧力が1.5〜15気圧、望ましくは2〜10気圧、より望ましくは3〜10気圧、更には7〜10気圧であることが好ましい。
これらの条件でオートクレーブ養生を行なうことにより、中子の加水分解反応は、100℃以上の液相状態の水、即ち圧力下により気相ではない水を好適に用いることができることになる。
また、上記条件で上記オートクレーブ養生を実施すると、24時間以内、望ましくは15時間以内、更に望ましくは0.5〜5時間以内で、複合樹脂が完全に溶出し、中空部が複雑な形状を有する樹脂中空成形体を、寸法精度が良好に製造することができる。
【0041】
このようにして得られた中空の成形体を乾燥させることにより、所望の複雑な中空構造を有し、継ぎ目のない樹脂中空成形体を得ることができる。
【実施例】
【0042】
本発明を次の実施例、比較例及び試験例により説明する。
(実施例1〜12、比較例1〜5)
表1の樹脂(A)及び樹脂(I)、更には必要に応じて添加した添加材(強化繊維、珪砂粉、工業塩)とが配合された複合樹脂及び外殻樹脂(B)の組み合わせを用いて、図3(a)〜(c)に示す樹脂中空成形体を作成した。
なお、表1に示す樹脂(A)、樹脂(I)及び樹脂(B)は、以下のものを用いた。
また、曲げ弾性率は、ISO178及びJIS K 7171に規定される方法で測定した値を示す。
樹脂(A):
(ア)ポリビニルアルコール(PVA;耐熱性グレード、製品名:クラレポバール CP−1000、株式会社クラレ製)、Tm(A)(融点)175℃、曲げ弾性率9.6GPa)
【0043】
樹脂(I)
(ア)PBT廃材:東レ株式会社PBT、商品名トレコン5201 X10 を用いた別の部品の製造時に副産排出されたスプール及びランナを粉砕し、300ミクロンの篩を通過させたもの、曲げ弾性率16.5GPa
(イ)PET廃材:市場における廃ペットボトルのフタを除き、残りのボトル部分を細かく破断、破砕し、300ミクロンのフルイを通過したもの、曲げ弾性率16GPa
但し、上記廃材は上記樹脂(A)と反応性がある構造部位を有さず、反応性がないものである。
【0044】
樹脂(B):
(ア)ポリフェニレンスルフィド(PPS、製品名:FZ−3600、大日本インキ化学工業株式会社、融点280℃、射出成形温度320℃)
【0045】
また、複合樹脂に必要に応じて添加する添加材としては、以下のものを用いた。
(ア)ガラス繊維(強化繊維):日本電気硝子製 03T−717/PL
(イ)廃珪砂粉:株式会社瓢屋 製品名:桑名微粉N90
(ウ)塩:工業用塩(塩化ナトリウム)
【0046】
【表1】

【0047】
まず、中子を製造する工程を、以下に説明する。
所望する最終的な樹脂中空成形体の中空構造を型作る図1の中子1を、表1に示す各複合樹脂により製造した。
図1(a)は、中子の斜視図、図1(b)は図1(a)の中子のA−A断面図、図1(c)は、中子の底面図である。
まず、中子を製造するにあたり、表1に示す樹脂(A)と樹脂(I)とを、それぞれ表1に示す配合割合となるように計量し混合した。
更に、該混合した材料を樹脂ブレンダーを用いて、撹拌混合した。
均一に攪拌混合した材料を、二軸押出機にてペレット化した。
この時の押出機のシリンダ温度は185℃である。この温度では、樹脂(I)のPBTまたはPETの廃材粉末は溶融せず、粉状のまま樹脂(A)であるCP−1000の中に均一に分散している状態である。
必要に応じて、添加材を配合する場合には、上記二軸押出機でのペレット製造工程において、所定量の添加材を、表1に示す配合割合にて配合して、ペレット化すればよい。
【0048】
次に、具体的には、該複合樹脂のペレットを溶融して、最終的な中空成形体の中空構造を型作る図1の中子2に相当する形状のキャビティを有する各中子用金型に該溶融した複合樹脂を射出成形して、冷却することにより、中子1を製造した。
中子は、図1に示すように、内部貫通する貫通口12、凸部11、凹部13、凹部の縁部14を備える鈴状の形状を有する。
【0049】
次いで、該各鈴状の中子1を、図2に示すように、最終的な中空成形体製品用の金型内のキャビティの所定の位置に設置した。
金型は、図2中20で示される金型A、30で示される金型B、40で示される金型Cの3つの金型からなり、該金型はそれぞれ、凸部22と23、凸部32と33、凸部41を有する。
特に、中子1の上部凸部11には、金型Aの凸部22及び金型Bの凸部32とが接触し、また、中子1の貫通穴12内には、金型Aの凸部23と金型Bの凸部33とが接触すると共に、中子1の内壁から離間して配置されている。さらに、中子1の凹部13は、金型Cの凸部41が挿入され、金型キャビティ内の所定の位置に中子1が配置される。
金型に設置した該各中子1の周囲に各外郭樹脂(B)5を、図2に示す注入口21より上記射出成形温度(320℃)で注入して、射出成形し、冷却して、中子一体化成形体を得た。
【0050】
上記射出成形は、日精樹脂工業株式会社製の60t堅型成形機HT−60を用いて行った。
また、上記樹脂(B)の射出成形温度とは、樹脂(B)を射出する際の温度であり、具体的には製品用金型内の樹脂(B)を射出するノズル先端温度の設定温度を示す。
【0051】
各中子一体化成形体の成形性について、表2にその評価を示す。
評価は、樹脂Bを射出成形後に得られた中子一体化成形体の外殻樹脂で形成される外殻部分の割れ、ひび等の有無で評価した。
即ち、中子の弾性率が低いと樹脂Bを射出成形した際に中子が変形し、その後冷却した際に外殻樹脂にひびや割れが生じることから、中子形状の寸法安定性を評価するには、中子一体化成形体の外殻樹脂部分の割れ、ひびの有無を評価すればよいからである。
○・・・外殻樹脂の割れ、ひびが目視で観られない(中子の変形がなく、中子一体化成形体が得られた)。
△・・・外殻樹脂の割れ、ひびが目視で観察される(樹脂(B)の射出成形時に、中子が少し変形した)。
×・・・外殻樹脂の割れ、ひびが目視でかなり観察される(樹脂(B)の射出成形時に、中子がかなり変形した)。
表2より、比較例1、2及び4のものは、樹脂(B)の射出時に中子が変形していたことが明らかとなった。
【0052】
また、図4は、樹脂(A)と樹脂(I)との配合割合を種々変動させて調製した複合樹脂(比較例1〜3、実施例1〜4を含む)からなる中子(各20個)の曲げ弾性率と図1及び図2における位置Tにおける外殻樹脂(B)の厚み(mm)を示す図である。
図2に示すように、内部にパイプ状の貫通口を有する鈴状の中子の外殻樹脂成形の際に最も中子に対する外殻樹脂の圧力がかかる位置がTであり、図4は、得られる成形体のかかる位置Tにおける外殻樹脂の厚みと、中子の弾性率との関係を示す図である。
流れ込んだ樹脂(B)は、位置Tに衝突して、それから鈴状の外殻体を形成すべく、周囲に向かって流れ広がる。この一連の流れは、充填が完了するまで続行されるので、位置Tの中子には高圧がかかっていることになる。
従って、中子の弾性率が小さいと、中子は外殻樹脂の流れる圧力に負けて変形し、その結果、外殻樹脂(B)の厚みが大きくなり、所望する厚みよりも厚くなってしまう。
規格値を2mmとすると、図4より、中子の弾性率が概ね13GPa以上、好ましくは14GPa以上、より好ましくは15GPa以上となると、中子が変形しなくなることがわかる。従って、中子の弾性率が13GPa以上となると、中子が変形しづらくなり、結果として外殻樹脂の厚みの変動が無くなるため、得られる中空成形体の寸法精度が優れたものとすることが可能となる。
【0053】
次いで、得られた前記各中子一体化成形体を、表2に示す条件下のオートクレーブ内に設置して、オートクレーブ養生を行い、中子を構成する複合樹脂を、溶融して除去し、図3に示す樹脂中空成形体を得た。
但し、オートクレーブ養生は、予め準備した水を張った水槽内に、各一体化成形体を浸漬し、該水槽を高温・高圧の水蒸気雰囲気であるオートクレーブ内に設置して行った。
図3(a)は得られた樹脂中空成形体5の斜視図、図3(b)は図3(a)の樹脂中空成形体のB−B断面図、図3(c)は得られた樹脂中空成形体の底面図である。
図中、51は注入口に対応して形成される注入凸部、52はそれぞれ金型A及び金型Bの凸部22及び32に対応して形成される穴、53は、中子1と金型Aの凸部23及び金型Bの凸部33に対応して形成されるパイプ状の貫通部、55及び56は、溶融除去された中子に相当する中空部、54は、中子1の縁部14と金型Cとで形成される穴を表す。
【0054】
このようにして得られた、該オートクレーブ養生後の各樹脂中空成形体を切断して、中子が除去され所望する複雑な中空形状の成形体が得られているかどうかを評価し、その結果を表2に示す。
○・・・中子が完全に除去され、所望する中空形状の寸法精度も良好な成形体
×・・・中子が一部残存している成形体
【0055】
【表2】

【0056】
更に図5は、中子の弾性率と良品率との関係を示す図である。
良品率とは、図4に示す弾性率を有する中子を外殻樹脂(B)で射出成形した際に、外殻樹脂(B)が割れなかった確率を示す。
外殻樹脂の射出成形圧力は瞬時に例えば600kg/cmにも達する場合があり、中子に瞬間的に強烈な圧力がかかる。
その際、中子の弾性率が小さいと、中子は瞬間的にグッと縮むような状態となり、外殻樹脂の成形圧力がかからなくなった時に元に復元しようとする、スプリングバックが生じる。この現象は、中子の中にある微細な空気泡が縮むことにより発生するものと考えられる。かかるスプリングバックは外殻樹脂に対して膨らむ力を付与するので、薄い外殻の場合には、かかる引っ張り力に耐えられなくなり、ひび、割れが生じる。
従って、図5では、中子の変形の度合いを外殻樹脂のひび、割れで評価したものであり、外殻樹脂のひび、割れを良品率で表す。
これにより、中子の弾性率が13GPa以上、好ましくは14GPa以上、より好ましくは15GPa以上のものは、外殻樹脂の成形時にも変形することがなく、寸法安定性に優れることがわかる。
【0057】
上記表2及び図4及び図5より、本発明の実施例のものは複雑な中空形状の成形体を寸法精度も良好に製造することが可能であり、中子が中空形状内部に残存することがなく、精密な、継ぎ目のない樹脂中空成形体を得られることが明らかである。
また、中子の弾性率が比較例のものと向上しているため、外殻樹脂(B)の成形時にも中子の変形がないことがわかる。
【0058】
なお、上記実施例について、中子の外側周囲に、所望する中空成形体の外部構造を形成するように疎水性の樹脂(B)を射出成形して、該中子と一体化された成形体を形成し、次いで該成形体の少なくとも一部分に外部と中子とが連通する口を設けてオートクレーブ養生することにより得られた樹脂中空成形体についても、上記と表2及び図5と同様の結果が得られた。すなわち、当該方法よっても、本発明の実施例のものは複雑な中空形状の成形体を寸法精度も良好に製造することが可能であり、中子が中空形状内部に残存することがなく、精密な、継ぎ目のない樹脂中空成形体を得られ、また、中子の弾性率が比較例のものと向上しているため、外殻樹脂(B)の成形時にも中子の変形がない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の中空成形体の製造方法は、継ぎ目を有さないため、複雑な中空形状を有する中空成形体、特に、成形体内部に液体や気体等を封入ないし流動させて用いるような用途、例えば冷媒液体の循環、排気マニホルド等の用途に使用する複雑な中空形状の中空成形体の製造に有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1(a)は中子の斜視図、図1(b)は図1(a)の中子のA−Aの断面図、図1(c)は中子の底面図である。
【図2】図2は、中子を金型に設置し、樹脂Bを射出成形する際の断面図である。
【図3】図3(a)は、樹脂中空成形体の斜視図、図3(b)は図3(a)の樹脂中空成形体のB−Bの断面図、(c)は樹脂中空成形体の底面図である。
【図4】中子の曲げ弾性率と図2のTの位置における外殻樹脂(B)の厚みとの関係を示す図である。
【図5】中子の曲げ弾性率と良品率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1・・・中子
5・・・外殻樹脂(B)
11・・・中子の凸部
12・・・パイプ状の貫通口
13・・・中子の凹部
14・・・中子の凹部の縁部
20・・・金型A
21・・・注入口
22、23・・・金型Aの凸部
30・・・金型B
32、33・・・金型Bの凸部
40・・・金型C
41・・・金型Cの凸部
51・・・注入口21に対応して形成される、樹脂中空成形体の注入凸部
52・・・金型Aの凸部22に対応して形成される穴
53・・・金型Bの凸部32に対応して形成される穴
54・・・中子1の縁部14と金型Cとで形成される穴
55、56・・・溶融除去された中子に相当する中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性若しくは加水分解性の樹脂(A)を50〜80重量部及び前記樹脂(A)と反応性を有さない非水溶性樹脂(I)を50〜20重量部混合した複合樹脂を用いて中空部に相当する形状の中子を射出成形して中子を形成する工程と、
前記複合樹脂からなる中子を金型内に少なくとも一部分が外部と接触できるように配置し、前記中子の、外部と接触できる当該部分以外の該中子の外側周囲に、所望する中空成形体の外部構造を形成するように非加水分解性でかつ疎水性の樹脂(B)を、下記式:
複合樹脂の融点(Tm(A)+(I)℃)>樹脂(B)の射出成形温度(T(B)℃)−150(℃)
を満足する射出温度で射出成形して、該中子と一体化された成形体を形成する工程と、
前記一体化成形体を、加圧下かつ該樹脂(B)の融点より低い温度下でのオートクレーブ養生により、中子を形成している該複合樹脂を、該中子が外部と接触できる前記部分より除去して中空部を形成する工程とを備えたことを特徴とする、樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項2】
水溶性若しくは加水分解性の樹脂(A)を50〜80重量部及び前記樹脂(A)と反応性を有さない非水溶性樹脂(I)を50〜20重量部混合した複合樹脂を用いて中空部に相当する形状の中子を射出成形する工程と、
前記中子を金型内に配置し、該中子の外側周囲に、所望する中空成形体の外部構造を形成するように非加水分解性でかつ疎水性の樹脂(B)を、下記式:
複合樹脂の融点(Tm(A)+(I)℃)>樹脂(B)の射出成形温度(T(B)℃)−150(℃)
を満足する射出温度で射出成形して、該中子と一体化された成形体を形成する工程と、
該成形体の少なくとも一部分に外部と中子とが連通する口を設け、前記一体化成形体を、加圧下かつ該樹脂(B)の融点より低い温度下でのオートクレーブ養生により、中子を形成している該複合樹脂を該口より除去して中空部を形成する工程とを備えたことを特徴とする、樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の樹脂中空成形体の製造方法において、前記非水溶性樹脂(I)は加水分解性樹脂であることを特徴とする、樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの項記載の樹脂中空成形体の製造方法において、前記非水溶性樹脂(I)の曲げ弾性率は、前記水溶性若しくは加水分解性樹脂(A)の曲げ弾性率よりも1GPa以上高いことを特徴とする、樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか項記載の樹脂中空成形体の製造方法において、前記オートクレーブ養生は、前記中子一体化成形体を高圧水蒸気雰囲気下に設置することにより、または高圧蒸気内の熱水と接触させることにより実施されることを特徴とする、樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の樹脂中空成形体の製造方法において、前記オートクレーブ養生でのオートクレーブ内の圧力は1.5〜15気圧であることを特徴とする、樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかの項記載の樹脂中空形成体の製造方法において、非水溶性樹脂(I)は、廃プラスチックであることを特徴とする、樹脂中空形成体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−110909(P2010−110909A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283076(P2008−283076)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(394021546)アイ・アンド・ピー株式会社 (9)
【Fターム(参考)】