説明

樹脂含浸装置

【課題】装置の大型化、複雑化および高コスト化を招くことなく、繊維の送り速度を増速し得る樹脂含浸装置を提供する。
【解決手段】繊維Fに樹脂を含浸させるための樹脂含浸装置1において、繊維Fが通過すると共にその通過方向に向かって先細りとなる先細通路21を備えたブロック体2と、先細通路21の入口近傍において、繊維Fに対して樹脂を供給する樹脂供給装置3と、を備え、繊維Fが供給された樹脂を伴って先細通路21を通過していくにつれて、その樹脂が、先細通路21によるくさび効果により加圧されて繊維Fに含浸せしめられるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメントワインディング成形において繊維に樹脂を含浸させる、樹脂含浸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィラメントワインディング成形(以下、FW成形と称する)における樹脂含浸装置は、図7に示す如く構成されている。すなわち、従来の樹脂含浸装置1’は主に、樹脂Pを溜める樹脂槽PBと、樹脂Pに下部が浸った回転ローラRと、回転ローラRの表面に付着する樹脂Pの量を調整するためのナイフエッジNとからなり、回転ローラRを繊維Fの送り速度に応じた速度で回転させることにより、回転ローラRの表面に付着した樹脂Pを、回転ローラRの上部に触れつつ送られる繊維Fに含浸させるようになっている。
【0003】
ところで、FW成形において、生産性を向上させるための1つのアプローチとしては、繊維の送り速度を増速させることが考えられる。しかし、従来の樹脂含浸装置では、繊維の送り速度を増速させると、回転ローラの表面に十分な量の樹脂が付着せず、繊維に対して樹脂を十分に含浸させることができなくなるため、繊維の送り速度を増速させるにも限界があった。
【0004】
そこで、図8に示す如く、回転ローラRに替えて、繊維Fの送り方向に長く延びる回転ベルトRBを設け、繊維Fが回転ベルトRBと接触する区間を長くすることで、樹脂含浸量を適正に維持しつつ、繊維の送り速度を増速させることが考えられる。
【0005】
また、繊維を閉鎖性の高い空間内に通し、当該空間内を通過中の繊維に対し、ポンプ等の樹脂供給装置によって樹脂を高圧で供給することによって、強制的に樹脂を含浸させる方法も提案されている(例えば、特表2002−533241号公報)。
【特許文献1】特表2002−533241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、回転ベルトを用いて樹脂含浸量を適正に保つ方法において、例えば送り速度を2倍にする場合、繊維と回転ベルトとの接触長さを2倍程度にする必要があり、樹脂含浸装置の大型化を招いてしまう問題があった。
【0007】
さらに、高圧で樹脂を含浸させる方法では、高圧にするために閉鎖性の高い空間を設ける必要があるうえに、高圧を生じさせる樹脂供給装置が必要であり、装置が複雑かつ高コストになってしまう問題があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、装置の大型化、複雑化および高コスト化を招くことなく、繊維の送り速度を速くすることができ、その結果、FW成形の生産性を向上させることができる樹脂含浸装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、(1)フィラメントワインディング成形において、繊維に樹脂を含浸させるための樹脂含浸装置であって、前記繊維が通過すると共にその通過方向に向かって先細りとなる先細通路を備えたブロック体と、前記先細通路の入口近傍において、前記繊維に対して前記樹脂を供給する樹脂供給装置と、を備え、前記繊維が前記樹脂供給装置によって供給された樹脂を伴って前記先細通路を通過していくにつれて、その樹脂が、前記先細通路によるくさび効果により、加圧されて当該繊維に含浸せしめられるようになっていることを特徴とする樹脂含浸装置を提供するものである。
【0010】
また本発明は、上記構成において、(2)前記ブロック体は、周囲の少なくとも一部に、前記先細通路に連通する開口部であって前記先細通路の入口から出口にわたる開口部を有していることを特徴とする樹脂含浸装置を提供するものである。
【0011】
また本発明は、上記構成(2)において、(3)前記開口部は、上方に向かって開口していることを特徴とする樹脂含浸装置を提供するものである。
【0012】
また本発明は、上記構成(2)(3)において、(4)前記ブロック体は、前記開口部を開閉自在に閉止する閉止部材をさらに備えていることを特徴とする樹脂含浸装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成された本発明の樹脂含浸装置によれば、繊維が樹脂供給装置によって供給された樹脂を伴って先細通路を通過していくにつれて、その樹脂が先細通路によるくさび効果によって加圧される。これにより、繊維の移動速度が速くても、繊維に対して樹脂を十分に含浸させることができる。よって、本発明によれば、繊維の移動速度を増速することで、FW成形の生産性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明によれば、繊維が通過する通路の形状を、上記くさび効果を生じ得る先細形状とするだけで十分な樹脂含浸が可能であるため、高圧ポンプや閉鎖性の高い通路等を要せず、単純かつ小型の樹脂含浸装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好ましい一実施形態につき説明する。
図1は本発明に係る樹脂含浸装置の一例を示す斜視図、図2は図1の樹脂含浸装置の要部を示す断面図、図3は図1の樹脂含浸装置を適用したFW成形機の構成を示す概略図である。
【0016】
本実施形態に係る樹脂含浸装置1は主に、図1に示す如く、繊維Fが通過する通路21を備えたブロック体2と、通路21の入口近傍に樹脂を供給するための樹脂供給装置3と、から構成されている。
【0017】
ブロック体2は、図1に示す如く、上壁22、下壁23および側壁24により、通路21を形成してなっている。上壁22および下壁23は、図1および図2に示す如く、通路21の出口に向かうにつれて、通路21内に迫り出すように形成されている。つまり、通路21は、繊維Fの進行方向に向かって先細りする先細形状となっている。また、上壁22には、通路21の入口近傍に樹脂を供給するための樹脂供給孔25が設けられている。
【0018】
なお、ブロック体2は、側壁24の反対側に、通路21に連通すると共に通路21の入口から出口にわたる開口部27を有している。この開口部27により、セットアップ時等において繊維Fを通路21内に配置する際、繊維Fを容易に挿入することができる。
【0019】
ブロック体2には、図1に示す如く、温調ユニット4が接続されており、ブロック体2の温度を調節することで、樹脂供給装置3から供給された樹脂の温度を調節し、その粘度を調節し得るようになっている。なお、ブロック体2の温度は、使用する樹脂に応じて、約30℃〜130℃の範囲で調節される。
【0020】
樹脂供給装置3は、図1に示す如く、主剤を貯蔵する第1の槽31と、硬化剤を貯蔵する第2の槽32と、主剤をブロック体2に供給するための第1のポンプ33および第1の供給管35と、硬化剤をブロック体2に供給するための第2のポンプ34および第2の供給管36と、第1の供給管35および第2の供給管36から送られてきた主剤および硬化剤を混合してFW成形用の樹脂とするためのスタティックミキサ37と、樹脂をブロック体2へ供給するための第3の供給管38と、からなっている。樹脂供給装置3は、第3の供給管38が接続されたブロック体2の樹脂供給孔25から、通路21内を通過する繊維Fに対して、樹脂を供給する。
【0021】
ここで、第1および第2のポンプ33,34は、繊維Fが樹脂を連れて通路21内を通過していくのに足りる量だけ樹脂を送出すればよく、繊維Fに対して高圧で供給する必要はない。つまり、第1および第2のポンプ33,34は、比較的低圧なポンプとすることができる。
【0022】
また、樹脂は、FW成形に通常用いられる樹脂であればよく、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ビニルエステル樹脂等が好適に用いられ得る。
また、繊維FについてもFW成形に通常用いられる繊維であればよく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミックス等を適宜使用することができる。
【0023】
樹脂含浸装置1は、図3に示す如く、ボビンBから解舒された繊維Fがブロック体2の通路21を通過するように配置され、樹脂供給装置3からの樹脂Pが含浸せしめられた繊維Fがトラバース装置TによってトラバースされながらマンドレルMに巻き付けられるようになっている。
【0024】
上記のように構成された本発明に係る樹脂含浸装置1によれば、図2に示す如く、ブロック体2の通路21が先細形状となっているため、繊維Fが樹脂供給装置3によって供給された樹脂Pを伴って通路21を通過していくにつれて、樹脂Pが通路21によるくさび効果によって加圧される。これにより、樹脂含浸装置1を通過する繊維Fは、移動速度が速くても、樹脂Pが十分に含浸せしめられる。
【0025】
また、本発明に係る樹脂含浸装置によれば、通路の形状を上記くさび効果が生じるような先細形状とするだけで十分な樹脂含浸が可能であるため、高圧のポンプ等が不要であり、単純かつ小型に構成することができる。また、小型であるため、樹脂含浸装置の配置の自由度を増すこともできる。
つまり、本発明によれば、装置の大型化、複雑化および高コスト化を招くことなく、FW成形の生産性を向上させることができる。
【0026】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
ブロック体2における樹脂供給孔25の位置を、図4Aに示す如く、下側に配置してもよい。この場合、繊維Fに対して樹脂Pが確実に供給されるように、ガイドローラGによって繊維Fを押し下げ、繊維Fが樹脂供給孔25の直近を通過するように構成するのが好ましい。
【0027】
また、ブロック体2における通路21の形状は、繊維Fに連れ動く樹脂Pに対してくさび効果が発揮されるような形状であれば、どの様な形状でもよい。例えば、図4Bおよび図4Cに示す如く、一方側の壁23のみが傾斜し、他方側の壁22が平坦であってもよい。さらに、図4Dに示す如く、平坦にすると共に一部に突起部26を設けた下壁23とし、突起部26に樹脂供給孔25を配置してもよい。この場合、突起部26が無い場合と比べて、繊維Fの上下方向のふらつきに起因して樹脂供給が不安定になるのを回避することができる。
【0028】
ブロック体2の開口部27に対して、図5Aおよび図5B(図5Aのブロック体2を通路入口方向から見た図)に示すような衝立29を設けてもよい。この場合、開口部27は上方に開口するかたちになり、樹脂が開口部27から横漏れするのを防止することができる。また、図5C(通路21の入口方向から見た図)に示す如く、開口部27に対して、開口部27を開閉自在に閉止する閉止部材28、例えば板バネ等、を設けてもよい。この場合、繊維Fの挿入時において閉止部材28を開き、樹脂含浸時には閉じることで、さらに確実に樹脂の横漏れを防止することができる。
【0029】
また、ブロック体2の外形形状は直方体でなくてもよく、図6に示す如く、円筒形にしてもよい。さらに、通路21を、図6に示すような略円錐形状等、3次元的な先細形状としてもよい。
【0030】
また、上記実施形態においては、主剤と硬化剤を別々に供給し、ブロック体2に供給する直前で混合させる樹脂供給装置3としたが、予め混合して得た樹脂をポンプでブロック体2に供給する、さらに単純な構成としてもよい。
【0031】
また、上記実施形態においては、樹脂含浸装置1をボビンBの近傍に配置したが、この位置に限定されるものではない。例えば、樹脂を繊維に含浸し易くするために、温調ユニット4によってブロック体2を比較的高温にし、樹脂の粘度が低くなるようにした場合、樹脂が短時間で硬化することを考慮して、マンドレルMの近傍に配置することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る樹脂含浸装置の一例を示す斜視図である。
【図2】図1の樹脂含浸装置の要部を示す断面図である。
【図3】図1の樹脂含浸装置を適用したFW成形機の構成を示す概略図である。
【図4】変形例に係る樹脂含浸装置の要部を示す断面図である。
【図5】別の変形例に係る樹脂含浸装置の要部を示す斜視図および正面図である。
【図6】さらに別の変形例に係る樹脂含浸装置の要部を示す斜視図である。
【図7】従来例に係る樹脂含浸装置を示す側面図である。
【図8】比較例に係る樹脂含浸装置を示す側面図である。
【符号の説明】
【0033】
F 繊維
1 樹脂含浸装置
2 ブロック体
3 樹脂供給装置
4 温調ユニット
21 通路(先細通路)
22 上壁
23 下壁
24 側壁
25 樹脂供給孔
27 開口部
31 第1の槽
32 第2の槽
33 第1のポンプ
34 第2のポンプ
35 第1の供給管
36 第2の供給管
37 スタティックミキサ
38 第3の供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントワインディング成形において、繊維に樹脂を含浸させるための樹脂含浸装置であって、
前記繊維が通過すると共にその通過方向に向かって先細りとなる先細通路を備えたブロック体と、前記先細通路の入口近傍において、前記繊維に対して前記樹脂を供給する樹脂供給装置と、を備え、
前記繊維が前記樹脂供給装置によって供給された樹脂を伴って前記先細通路を通過していくにつれて、その樹脂が、前記先細通路によるくさび効果により、加圧されて当該繊維に含浸せしめられるようになっていることを特徴とする樹脂含浸装置。
【請求項2】
前記ブロック体は、周囲の少なくとも一部に、前記先細通路に連通する開口部であって前記先細通路の入口から出口にわたる開口部を有していることを特徴とする請求項1に記載の樹脂含浸装置。
【請求項3】
前記開口部は、上方に向かって開口していることを特徴とする請求項2に記載の樹脂含浸装置。
【請求項4】
前記ブロック体は、前記開口部を開閉自在に閉止する閉止部材をさらに備えていることを特徴とする請求項2または3に記載の樹脂含浸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−194988(P2008−194988A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34221(P2007−34221)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】