説明

樹脂成型方法と樹脂成型用型枠

【課題】 従来の樹脂成型用型枠に用いられるヒータ線は消費電力が大きいため、常時発熱させるとランニングコストが高くなる。また、型枠の温度を均一に保つことが難しかった。
【解決手段】 樹脂成型方法は、樹脂成型用型枠内に溶融樹脂材料を流し込んで固める樹脂成型方法において、樹脂成型用型枠に前記樹脂成型用型枠を使用する方法である。樹脂成型用型枠は、樹脂成型用型枠の表面又は内部に、錫(Sn)と鉛(Pb)の酸化化合物を主成分とする発熱体を直接又は基材を介して設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成型、ブロー成型、真空成型、圧縮成型といった各種樹脂成型方法と、それに使用できる樹脂成型用型枠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂成型用型枠には種々のものがあり、例えば射出成型用の型枠として、図3に示すように可動側型枠Aと固定側型枠Bで構成され、固定側型枠BのスプルーDから両型枠A、B間のキャビティC内に溶融樹脂材料を注入して製品や部品を成型できるようにしたものがある。可動側型枠Aと固定側型枠Bの温度が低過ぎるとキャビティC内に注入された溶融樹脂材料が硬くなってキャビティC内全般に十分に行き渡らなくなる。そのため従来は可動側型枠Aと固定側型枠Bの内側にヒータ線Eを設け、ヒータ線Eの発熱によって可動側型枠Aと固定側型枠Bを加温できるようにしていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来の樹脂成型用型枠は次のような課題がある。
(1)ヒータ線は消費電力が大きいため、常時発熱させるとランニングコストが高くなる。このため、通常は成型用型枠の使用時に電源を投入して発熱させている。この場合ウォームアップに時間がかかり、始動までも待機時間が長くなって作業性が悪い。
(2)ヒータ線は表面積が狭いため配線間に温度ムラが出やすく、型枠全般の温度を均一に保つことが難しいため、その型枠を使用して樹脂成型した場合、溶融樹脂材料がキャビティ内全般に十分に行き渡らず、成型不良が発生することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の樹脂成型方法は、樹脂成型用型枠内に溶融樹脂材料を流し込んで成型する樹脂成型方法において、樹脂成型用型枠を錫(Sn)と鉛(Pb)の酸化化合物を主成分とする発熱体で加熱するようにした成型方法である。
【0005】
本発明の樹脂成型用型枠は、樹脂成型用型枠に、錫(Sn)と鉛(Pb)の酸化化合物を主成分とする発熱体を設けたものである。発熱体は面状にして樹脂成型用型枠の外側又は/及び内部に設けることができる。いずれの場合も、面状の発熱体を、注入される溶融樹脂材料の熱で損傷あるいは破損しない耐熱材で被覆することもできる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の樹脂成型方法は次のような効果がある。
(1)錫(Sn)と鉛(Pb)の酸化化合物を主成分とする発熱体で樹脂成型用型枠を加熱し、その型枠内に溶融樹脂材料を流し込んで成型するため、溶融樹脂材料がスムーズに流れ、キャビティ内全般に十分に注入され、樹脂成型品の不良発生率が低減し、歩留まりが向上し、樹脂材料の無駄が減少し、コストダウンになる。
(2)錫(Sn)と鉛(Pb)の酸化化合物を主成分とする発熱体であるため、所定温度までの昇温時間が早くなり、樹脂成型用型枠のウォームアップ時間が短縮され、作業性が良い。
(3)発熱体の消費電力が少ないため、樹脂成型用型枠加温のための消費電力も少なくなり、生産コストも低減する。
【0007】
本発明の樹脂成型用型枠は次のような効果がある。
(1)錫(Sn)と鉛(Pb)の酸化化合物を主成分とする発熱体は、熱転換率が他の伝熱材料に比較して高効率であるため、消費電力が小さく済み、ランニングコストの低減に資する。
(2)発熱体の熱転換率が良好であるため、電源投入から所定温度に昇温するまでの立ち上がり時間が短くなり、成型用金型のウォームアップ時間が短縮される。
(3)発熱体を面状にして成型用金型全般に取り付けて成型用型枠全般をムラなく均一に加温することができ、溶融樹脂材料がキャビティ内全般に十分に行き渡る。
(4)発熱体を樹脂成型用型枠に熱伝導性の良好な材質の基材を介して設けた場合は、樹脂成型用型枠が効率良く加熱される。
(5)発熱体を面状にして樹脂成型用型枠に内蔵した(埋め込んだ)場合、樹脂成型用型枠がシンプルな構造となり、使用中に面状の発熱体が樹脂成型用型枠から脱落することもない。
(6)面状の発熱体が、注入される溶融樹脂材料の熱で損傷あるいは破損しない耐熱材で被覆されているので、高温の溶融樹脂材料を注入しても耐久性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(樹脂成型用型枠の実施形態1)
本発明の樹脂成型用型枠(以下「型枠」という。)の実施形態の一例を図1、図2に基づいて説明する。本発明の型枠は射出成型用型枠に限らず、ブロー成型用、真空成型用、圧縮成用等の各種成型用型枠であってもよいが、この実施形態の型枠は射出成型用であり、図1(a)〜(c)に示すように可動側型枠1と固定側型枠2とを組み合わせる(セットする)ことによって両型枠1、2間にキャビティ3が形成されるものである。固定側型枠2は所定位置に固定されており、可動側型枠1は固定側型枠2に対して前後移動できるようにしてある。固定側型枠2にはキャビティ3内に溶融樹脂材料を流し込むためのスプルー(樹脂注入口)7が形成されている。可動側型枠1と固定側型枠2には発熱体4が取り付けられている。発熱体4はフィルム、シート、帯状、テープ状等の面状の基材5に固定して、面状発熱体6として可動側型枠1の外面側と固定側型枠2の内面側に取り付けてある。
【0009】
前記発熱体4は錫(Sn)と鉛(Pb)の酸化化合物を主成分とするものであり、通電することによって発熱するものである。発熱体4は塩素(Cl)成分が含有されているものであってもよい。発熱体4には副成分として酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化鉛、酸化ガリウム、酸化インジウム、ITO(酸化インジウムスズ)等の他の金属化合物が少量含有されてもよい。上記金属化合物としては種々の原子価の酸化物を使用することができる。また、亜鉛、錫、アンチモン、ビスマス、鉛、ガリウム、インジウム等の金属単体を少量含有してもよい。一般的に高原子価酸化物は高抵抗値を与え、低原子価酸化物及び金属単体は低抵抗値を与える。この発熱体4は通電しても発火せず、熱交換率が高く、低コストに多量生産できるという利点がある。発熱体4の主成分たる錫(Sn)と鉛(Pb)の酸化化合物の具体的な構造、組成、物性については、未だ具体的に解明されてはいないが、Sn、Pb、及びOの三元素、又は、これにClを加えた四元素が所定の比率で結合、結晶化することにより、発火することなく発熱可能であり、熱交換率に優れ、低コストで多量生産も可能な発熱体4が実現されると考えられる。
【0010】
前記発熱体4は図2(a)に示すように面状の基材5に前記酸化化合物を溶射法や真空蒸着法で付着させたりして面状発熱体6としてある。溶射法、真空蒸着法等には既存のそれら技術を使用することができる。前記溶射法や真空蒸着法を用いることにより基材5が複雑な形状であっても発熱体4を均一に付着させることができる。発熱体4は図2(b)に示すようにバインダー9と混合して基材5に塗布し固定することもできる。いずれの場合も、基材5には任意の材質のものを用いることができ、例えば絶縁性の樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂板などを用いることができる。面状発熱体6には通電するための電極(図示しない)が設けられている。この面状発熱体6は自己温度制御機能付であり、オーバーヒートの心配がない。この面状発熱体6を使用することによりを自己温度制御機能のないヒータで必要とされる温度調節器が不要となるためコスト低減が可能である。
【0011】
面状発熱体6は可動側型枠1、固定側型枠2の全面又は一部に取り付けることができる。全面に取り付ける場合はシート状の面状発熱体6を可動側型枠1の外側面、固定側型枠2の内側面の前面に貼り付けることにより実現できる。一部に取り付ける場合は帯状或いはテープ状の面状発熱体6を可動側型枠1の外側面、固定側型枠2の内側面に間隔をあけて貼り付けることにより実現できる。可動側型枠1、固定側型枠2への面状発熱体6の取り付けパターンは、キャビティ3内を満遍なく加温可能であれば任意とすることができる。
【0012】
面状発熱体6は図1(a)〜(c)に示すように基材5を内側にして可動側型枠1の外側面に固定し、固定側型枠2の内側面に固定してある。面状発熱体6は耐熱性のあるフィルム、シート等の耐熱材8で被覆して、キャビティ3に注入される高温の溶融樹脂材料が接触しても損傷、破損しないようにしてある。面状発熱体6は金属製の可動側型枠1の外側面寄りの位置、金属製の固定側型枠2の内側面寄りの位置の夫々に内蔵することもできる。面状発熱体6はキャビティ3内を必要温度に加温可能であれば可動側型枠1と固定側型枠2のいずれか一方にのみ設けることもできる。
【0013】
(樹脂成型用型枠の実施形態2)
本発明の樹脂成型用型枠では、発熱体4を面状発熱体6にして可動側型枠1、固定側型枠2に取り付けるのではなく、可動側型枠1の外側面、固定側型枠2の内側の全部又は一部に直接取り付けることもできる。この場合は、発熱体4が可動側型枠1、固定側型枠2から剥離せず、高温の溶融樹脂で損傷しないように耐熱材8で被覆する。また、通電用の電極(図示しない)を設ける。また、発熱体4の取り付け手段は蒸着に限らず、溶射、塗布等々とすることもできる。
【0014】
(樹脂成型方法の実施形態1)
本発明の樹脂成型方法は図1(a)〜(c)に示す樹脂成型用型枠を使用して射出成型によって製品や部品を射出成型によって成型することができる。そのためには例えば次のようにする。
(1)成型前に予め可動側型枠1と固定側型枠2の発熱体4に電気を供給し、可動側型枠1と固定側型枠2とを加温しておく。
(2)可動側型枠1の外側面と固定側型枠2の内側面を対向させてキャビティ3を形成する(図1(a))。
(3)射出装置10の射出口11を固定側型枠2のスプルー7内にセットして、射出装置10から溶融樹脂材料を射出してキャビティ3内に注入する(図1(b))。このとき、キャビティ3内は発熱体4によって均一に加温されているため、射出された溶融樹脂材料が急激に冷えることなくキャビティ3内に万遍なく注入される。
(4)キャビティ3内で溶融樹脂材料が成型されたら、可動側型枠1を固定側型枠2から引き離して成型された樹脂成型品12を取り出す。
続けて樹脂成型品12を成型する場合、上記(2)〜(4)の工程を繰り返し行う。
【0015】
本発明の樹脂成型方法は、前記各実施形態の樹脂成型用型枠を使用して樹脂成型品を成型する方法であれば、射出成型には限られず、ブロー成型、真空成型、圧縮成型等、任意の成型方法とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の樹脂成型方法、樹脂成型用型枠は、金属成型品の成型方法や金属成型用型枠に応用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の樹脂成型用型枠及びそれを用いた樹脂成型方法の実施形態の一例を示す説明図。
【図2】(a)は発熱体を基材に付着させた様子の一例を示す断面説明図。(b)は発熱体を基材に付着させた様子の他の例を示す断面説明図。
【図3】従来の樹脂成型用型枠の例を示す説明図。
【符号の説明】
【0018】
1 可動側型枠
2 固定側型枠
3 キャビティ
4 発熱体
5 基材
6 面状発熱体
7 スプルー(樹脂注入口)
8 耐熱材
9 バインダー
10 射出装置
11 射出口
12 樹脂成型品
A 可動側型枠
B 固定側型枠
C キャビティ
D スプルー
E ヒータ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成型用型枠内に溶融樹脂材料を流し込んで成型する樹脂成型方法において、樹脂成型用型枠を錫(Sn)と鉛(Pb)の酸化化合物を主成分とする発熱体で加熱することを特徴とする樹脂成型方法。
【請求項2】
樹脂成型用型枠に、錫(Sn)と鉛(Pb)の酸化化合物を主成分とする発熱体が設けられたことを特徴とする樹脂成型用型枠。
【請求項3】
請求項2記載の樹脂成型用型枠において、発熱体を面状にした面状発熱体を成型樹脂成型用型枠の外側又は/及び内部に設けたことを特徴とする樹脂成型用型枠。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載の樹脂成型用型枠において、面状の発熱体が、注入される溶融樹脂材料の熱で損傷あるいは破損しない耐熱材で被覆されたことを特徴とする樹脂成型用型枠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−172897(P2009−172897A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14740(P2008−14740)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(391052622)株式会社都ローラー工業 (19)
【Fターム(参考)】