説明

樹脂成形体の締結構造

【課題】樹脂量を増やして、ねじ部材周辺の強度を高めることができる樹脂成形体の締結構造を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂製の樹脂成形体20の壁面21に被締結部材12を雄ねじ部材11で締結する樹脂成形体の締結構造10は、筒体30を有する。筒体30は、インサート成形により樹脂成形体20の壁部23に一体化されるインサート部品であり、樹脂成形体20の成形時に壁部23を外側から内側に向けて部分的に陥没させる。筒体30は、陥没部25に包み込まれる外周面31と、壁面21に開口して雄ねじ部材11がねじ込まれる内周面32と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体の締結構造に関し、より詳細には、合成樹脂製の中空成形体に被締結部材をねじ部材で締結する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂製の中空成形体に、他の部材をねじ部材で締結することが要望されている。中空成形体は、特に薄い壁で形成される。このため、雄ねじ部材を中空成形体の壁部に単にねじ込んでも、ねじの嵌合長が十分に確保できず、必要な締結力が得られない。したがって、中空成形体には、ねじの嵌合長を十分に確保できる締結構造が求められる。中空成形体の締結構造として、各種の技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
図7に示すように、特許文献1に記載の締結構造100では、合成樹脂製の中空パネル101のブロー成形において、壁部102の一部に凹状のナット埋設孔103を設け、成形後、このナット埋設孔103にナット104を嵌める。この技術によれば、ナット104を壁部102に嵌めることで、薄い壁部102であってもねじの嵌合長を大きくすることができる。
【0004】
また、特許文献2には、樹脂成形品の製造方法において、硬質の樹脂の中にナットを鋳込んで硬質樹脂成形体を成形し、さらに、この硬質樹脂成形体を樹脂成形品に鋳込むようにした技術が開示されている。この技術によれば、硬質樹脂成形体により、ナット周辺の強度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2791826号公報
【特許文献2】特開2009−121635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1の締結構造において、ナット104を保持する保持部105は、中空成形体101の壁部102と略同じ厚みであり、肉厚が小さい。このような薄肉の保持部105であっても、保持部105に加わる力が小さければ、強度上の問題はない。しかしながら、近年、より剛性を高めた締結構造が求められており、ねじ部材周辺の強度をより高める技術が望まれる。
【0007】
この点、特許文献2に開示される技術では、ナットが硬質樹脂成形体で包まれる。この技術によれば、ねじ部材周辺の樹脂量が増すことができ、ねじ部材周辺の強度を高めることができる。
【0008】
しかしながら、中空成形体の壁部は、一般に筒状のパリソンやシートを金型の成形面に押し付けることで成形される。このように成形される壁部に硬質樹脂成形体を鋳込むことは困難である。すなわち、特許文献2の技術は、溶融樹脂を金型内で流動させて得られる射出成形品等には適するが、中空成形体には適さない。このため、中空成形体において、ねじ部材周辺の樹脂量を増やすことができる技術が求められる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、樹脂量を増やし、ねじ部材周辺の強度向上が実現できる樹脂成形体、特に中空成形体の締結構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、合成樹脂製の中空成形体の壁面に被締結部材を雄ねじ部材で締結する中空成形体の締結構造において、インサート成形により前記中空成形体の壁部に一体化されるインサート部品であって、前記壁部を外側から内側に向けて部分的に陥没させる合成樹脂製の筒体を有し、前記筒体は、前記壁部の陥没部に包み込まれる外周面と、前記壁面に開口して前記雄ねじ部材がねじ込まれる内周面と、を有することを特徴とする。
【0011】
上記発明は、前記外周面には、前記筒体の開口端に向けて縮径し、前記陥没部からの前記筒体の引き抜けを防止するテーパ面が設けられることを特徴とする。
上記発明は、前記外周面には、前記筒体の軸線に沿って帯状に延び、前記陥没部に対する前記筒体の軸線回りの回転を防止する凸部または凹部が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、合成樹脂製の筒体によって、雄ねじ部材周辺の樹脂量を大幅に増やすことができる。したがって、雄ねじ部材周辺の締め付け強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる中空成形体の締結構造の断面図である。
【図2】(a)は筒体の斜視図、(b)は筒体の横断面図、(c)は(b)の変更例を示す図である。
【図3】中空成形体の成形方法を示す図であり、(a)は筒体を差し込む工程を示す図、(b)はパリソンを押し出す工程を示す図、(b)はブロー工程を示す図である。
【図4】中空成形体の締結構造の分解図である。
【図5】筒体のテーパ面の作用を説明する図である。
【図6】図5のA−A線断面図であり、凸部の作用を説明する図である。
【図7】従来の締結構造の基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
【0015】
図1に示すように、中空成形体の締結構造10は、中空成形体20の壁面21に雄ねじ部材11で被締結部材12を締結するものであり、インサート成形により中空成形体20に一体化される筒体30を有する。
【0016】
締結構造10の各部の構成を詳細に説明する。
中空成形体20は、たとえば、コンピュータや複写機等の電気装置の外装体を構成するパネル、あるいは、キャビネットやロッカー等の収納体を構成するパネルなどである。中空成形体20の材質は、種々の合成樹脂材料から選択可能であるが、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が好適である。なお、中空部分22に発泡材料を充填することで、高い剛性と高い断熱性を有する中空成形体20を得ることも可能である。
【0017】
中空成形体20は、中空部分22を隔てて対向する2つの壁部23,24を有する。一方の壁部23には、壁面21側(外側)から内側に凹む陥没部25が成形される。陥没部25は、中空成形体20の成形時に筒体30によって成形される部分であり、筒体30の外周面31を包み込む。
【0018】
被締結部材12は、たとえば、ヒンジ等の金属製の板材である。雄ねじ部材11は、たとえば、金属製のビスやボルトである。なお、被締結部材は、金属製の板材に限られるものではなく、壁面21に取り付け可能な部材であれば、種類や形状、材質は任意である。また、雄ねじ部材は、雄ねじを有するものであれば、形状、材質は任意であり、特に、雄ねじ部材は雄ねじが円筒面状の内周面32をねじ切りながら固定がされるため、ねじ山の高さ及びピッチなど任意のものを利用することができ、ナットをインサートした場合のようにナットのねじ山に合ったものを選択する必要がない。
【0019】
図2(a)に示すように、筒体30は、中空成形体20(図1参照)の成形に先立ち、予め金型に差込まれる合成樹脂製のインサート部品である。筒体30は、略樽型の有底筒状を呈しており、壁面21(図1参照)に開口する円筒面状の内周面32を有する。内周面32には、雄ねじ部材11(図1参照)がねじ込まれる。内周面32の内径は、雄ねじ部材11がねじ込まれる程度に、雄ねじ部材11のねじ外径よりも小さく設定される。筒体30の周壁の厚みは、壁部23(図1参照)の厚みより大きく設定されることが好ましい。
【0020】
筒体30の材質は、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂を含む種々の材料から選択可能であるが、中空成形体20との溶着を考慮すると、中空成形体20と同一の材料で成形されることが好ましい。たとえば、中空成形体20の成形時に金型のキャビティからはみ出した余分な材料(いわゆるバリ)を利用して筒体30を成形してもよい。この場合、中空成形体20との良好な溶着が得られるうえ、材料損失を低減することができる。
【0021】
外周面31における開口端33側には、開口端33に向けて縮径するテーパ面35が設けられる。さらに、外周面31には、筒体30の軸線30aに沿うように開口端33から底部34に向けて帯状に延びる凸部36が設けられる。
【0022】
図2(b)に示すように、凸部36は、断面半円柱状に形成されており、たとえば、外周面31の周方向に複数個(ここでは、等間隔に4個)設けられる。また、図2(c)に示すように、凸部36の代わりに断面半円状の凹部37を外周面31に設けてもよい。なお、凸部36や凹部37の個数や形状は、実施形態に格別に限定されるものではなく、任意である。
【0023】
次に、中空成形体20の成形方法を図3に基づいて説明する。
図3に示すように、この成形方法では、中空成形体の一方の壁部23(図1参照)を成形する第1の金型41と、他方の壁部24(図1参照)を成形する第2の金型42を用いる。第1の金型41の成形面41aには、第2の金型42に向けて突出する突起部43が設けられる。
【0024】
図3(a)に示すように、先ず、突起部43に筒体30を差し込む。次に、図3(b)に示すように、溶融状態の筒状のパリソン44を金型41,42の間に押し出した後、金型41,42を型閉めして、パリソン44を金型41,42で挟む。そして、図3(c)に示すように、パリソン44に気体を吹き込んで、パリソン44を成形面41a,42aおよび筒体30の外周面31に密接するように膨ます。このとき、テーパ面35と成形面41aの間に形成される狭い空間45に、パリソン44を十分に行き渡らせる(矢印(1))。
【0025】
結果、外周面31の全体を包み込むように陥没部25が成形される。同時に、陥没部25には、テーパ面35を押えて保持するテーパ状の保持部26が成形される。冷却後、金型41,42を型開きして中空成形体20を取り出し、キャビティ46からはみ出したバリを切除する。
【0026】
すると、図4に示すように、筒体30が一体化した中空成形体20が得られる。そして、雄ねじ部材11を被締結部材12の貫通穴12aに通し、筒体30の内周面32にねじ込む。これにより、被締結部材12は、雄ねじ部材11の頭部11aと壁面21との間に締結される。
【0027】
以上、説明した本発明にかかる実施形態によれば、合成樹脂製の筒体30によって、雄ねじ部材11周辺の樹脂量を大幅に増やすことができ、雄ねじ部材11周辺の強度を高めることができる。
【0028】
また、図5に示すように、雄ねじ部材11の締め込みや被締結部材12の動き等に起因して、筒体30が引き抜かれる方向(図中の矢印で示す向き)に力Fを受けても、保持部26がテーパ面35をしっかりと押える。結果、筒体30の引き抜けが防止される。なお、テーパ面35の代わりに、段差部や溝部、鍔部を周方向に沿って形成することで、引き抜け防止を図ることも可能である。
【0029】
さらに、図6に示すように、雄ねじ部材11がねじ込まれるとき、筒体30は、図中の矢印で示す向きのトルクTを受けるが、凸部36が壁部23の凹部に係合しているため、軸線30a回りの回転が防止される。これにより、雄ねじ部材11をより高いトルクで締め付けることができ、締結力を高めることができる。なお、凸部36の代わりに凹部37(図2(c)参照)を用いても、凸部36と同様の作用が得られる。また、凸部36や凹部37の代わりに、筒体30の横断面を異形(非円形)断面とすることで、回転防止を図ることも可能である。
【0030】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0031】
たとえば、実施形態では、筒状のパリソンを用いたブロー成形法により、中空成形体を成形したが、成形方法は、ブロー成形法に格別に限定されるものではなく、任意である。たとえば、筒状のパリソンの代わりに2枚の溶融状態のシートを複数の分割金型の間に配置し、シートと分割金型との間の密閉空間を吸引することで、中空の成形体を成形してもよい。このような成形法では、2枚のシートの間に発泡材料等を芯材として入れることが容易であるため、より剛性の高い樹脂成形体の製造に好適である。その他、熱可塑性樹脂シートを用いた真空・圧空成形、溶融樹脂を用いた射出成形など、金型を用いて樹脂成形体を形成する際にインサート部品を金型内にセットして樹脂成形体の壁面に一体化するものであれば良い。
【符号の説明】
【0032】
10 締結構造
11 雄ねじ部材
12 被締結部材
20 中空成形体
21 壁面
23 壁部
25 陥没部
30 筒体
30a 軸線
31 外周面
32 内周面
33 開口端
35 テーパ面
36 凸部
37 凹部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂製の樹脂成形体の壁面に被締結部材を雄ねじ部材で締結する樹脂成形体の締結構造において、
インサート成形により前記樹脂成形体の壁部に一体化される熱可塑性樹脂製のインサート部品であって、前記壁部を外側から内側に向けて部分的に陥没させる合成樹脂製の筒体を有し、
前記筒体は、前記壁部の陥没部に包み込まれる外周面と、前記壁面に開口して前記雄ねじ部材がねじ込まれる内周面と、を有することを特徴とする樹脂成形体の締結構造。
【請求項2】
前記外周面には、前記筒体の開口端に向けて縮径し、前記陥没部からの前記筒体の引き抜けを防止するテーパ面が設けられることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形体の締結構造。
【請求項3】
前記外周面には、前記筒体の軸線に沿って帯状に延び、前記陥没部に対する前記筒体の軸線回りの回転を防止する凸部または凹部が設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂成形体の締結構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−76430(P2013−76430A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215226(P2011−215226)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【Fターム(参考)】