説明

樹脂成形体及びその製造方法、並びにリレー

【課題】粉塵の発生を十分に抑制することが可能な樹脂成形体及びその製造方法、並びに樹脂成形体を容器として用いたリレーを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂に無機フィラーを混合させて造粒した樹脂組成物から成形を行う場合、樹脂成形体の剛性が向上する。樹脂組成物の流動開始温度を温度T1(℃)、樹脂組成物を金型へ注入する際の金型の温度をT2(℃)、とした場合、関係式:T2(℃)≧T1(℃)−120℃を満たすことが好ましい。この関係式が満たされる場合には、樹脂成形体からの粉塵の発生を著しく抑制することができる。樹脂成形体を容器として用いたリレーは、低粉塵であるため、リレーの接点間に粉塵が詰まることがなく、良好な接点の接触を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塵の発生が抑制された樹脂成形体及びその製造方法、並びに樹脂成形体を容器として用いたリレーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リレーなどの電子部品は、液晶ポリマー等の樹脂製容器内に収容されており、このような技術は例えば、下記特許文献1に記載されている。一般に、樹脂表面が磨耗し、或いは樹脂表面の自然劣化が行われると、樹脂表面から粉塵が発生する。樹脂表面から僅かな粉塵が発生すると、この粉塵がリレースイッチの接触を阻害し、接触特性が劣化するなどの問題がある。また、液晶ポリマーに関する技術は、例えば特許文献2、特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−319553号公報
【特許文献2】特開2008−100528号公報
【特許文献3】特開2008−138221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の樹脂成形体の製造方法では、粉塵の発生を十分に抑制することが可能な樹脂成形体を作製できないため、更なる低粉塵化が可能な製造方法が期待されている。特に、低粉塵化された樹脂成形体を、リレーの容器として用いた場合には、リレースイッチの接触特性を改善することができる。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、粉塵の発生を十分に抑制することが可能な樹脂成形体及びその製造方法、並びに樹脂成形体を容器として用いたリレーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明に係る樹脂成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂と無機フィラーを混合して造粒することにより得られる樹脂組成物を、加熱された金型間に注入する工程と、金型を冷却して樹脂組成物を固化することにより樹脂成形体を得る工程と、を備えた樹脂成形体の製造方法であって、樹脂組成物の流動開始温度を温度T1(℃)、樹脂組成物を金型へ注入する際の金型の温度をT2(℃)、とした場合、以下の関係式:T2(℃)≧T1(℃)−120℃を満たすことを特徴とする。
【0007】
すなわち、本願発明者らが樹脂成形体の製造方法を鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂に無機フィラーを混合して造粒した樹脂組成物から成形を行う場合、樹脂成形体の剛性が向上するが、この場合において、上述の関係式が満たされる場合には、樹脂成形体からの粉塵の発生を著しく抑制することができることを発見した。
【0008】
また、金型を加熱するヒータは、高周波誘導加熱ヒータ(IHヒータ)であることが好ましい。
【0009】
IHヒータで加熱を行う場合には、高速に金型を加熱することができるため、生産効率が上昇する。
【0010】
また、このIHヒータは、前記金型を構成する樹脂成形用の凹凸パターンを有する金属製天板と、金属製天板に設けられた金属製の柱材と、柱材の軸の周囲を囲むコイルとを備えていることを特徴とする。
【0011】
コイルに通電を行うと、金属製の柱材が誘導加熱され、この熱は金属製天板に伝達される。金属製天板には金型が設けられているので、金型が加熱されることになる。このような構造の場合、樹脂成形用の凹凸パターンを有する金属製天板の加熱に寄与する部材、すなわち体積の比較的小さな柱材が選択的に誘導加熱され、この熱が金属製天板に伝達されるので、生産時のエネルギー消費量が抑制され、生産コストの低減が可能となる。
【0012】
また、上述の熱可塑性樹脂は、液晶ポリマーであることが好ましい。
【0013】
液晶ポリマーは、金型内における流動性に優れているため、樹脂成形体の精度を高くすることができる。また、無機フィラーと液晶ポリマーを混合した場合には、非常に高い剛性の樹脂成形体が得られる。
【0014】
また、上述の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、無機フィラー5〜250重量部を含むことが好ましい。
【0015】
無機フィラーの重量部が上述の範囲内の場合には、流動性を維持しながら、機械的強度の向上、樹脂成形体の寸法性向上という効果が得られ、無機フィラーの重量部が上限値よりも高い場合には成形性が低下し、また、機械的強度も低下して脆くなる傾向となり、上記下限値よりも低い場合には、樹脂成形体の寸法安定性が低下して所望の寸法の樹脂成形体が得られにくく、また、液晶ポリマーの異方性が強く発現して樹脂成形体に反り等が発生する可能性がある。
【0016】
また、上述の無機フィラーは、板状フィラーを含むこともできる。
【0017】
この場合には、液晶ポリマーの異方性を低減し、樹脂成形体の反りを抑制するという効果がある。
【0018】
また、上述の無機フィラーは、繊維径0.05〜15μm、及び、繊維長5〜200μmを有する繊維状フィラーを含むことが好ましい。
【0019】
無機フィラーの繊維径及び繊維長が上述の範囲内の場合には、得られる樹脂成形体の強度、特に、樹脂流動末端同士の接合面の強度を表すウエルド強度がより向上するといった効果や、得られる樹脂成形体の表面粗度が増加しにくく、粉塵が発生しにくいという効果が得られ、これらの値が上記範囲外の場合にはウエルド強度が低下したり、粉塵が発生し易くなる傾向となる。
【0020】
また、この繊維状フィラーは、有機物によって表面コーティング処理されていない繊維状フィラーを含むことが好ましい。
【0021】
この場合には、有機物からガスが発生することがないため、樹脂内にガスによる気泡が発生することがないという効果が得られる。
【0022】
また、上述の製造方法によって製造された樹脂成形体は、低粉塵化が可能である。
【0023】
また、上述の樹脂成形体からなる容器と、容器内に配置されたリレー本体とを備えることを特徴とする。
【0024】
樹脂成形体を容器として用いたリレーは、低粉塵であるため、リレーの接点間に粉塵が詰まることがなく、良好な接点の接触を維持することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の樹脂成形体及びその製造方法によれば、粉塵の発生を十分に抑制することが可能であり、この樹脂成形体を容器として用いたリレーは、低粉塵であるため、良好な接点の接触を維持することができ、したがって、故障を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】樹脂成形体を容器として用いたリレーの分解斜視図である。
【図2】図1に示したリレーの縦断面図である。
【図3】高周波誘導加熱ヒータを含む樹脂成形装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施の形態に係る樹脂成形体の製造方法について説明する。なお、同一要素については同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0028】
実施形態に係る樹脂成形体の製造方法は、以下の工程(1)〜(4)を順次実行する。
(1)液晶性ポリエステル(液晶ポリマー)の製造工程
(2)液晶性ポリエステルと無機フィラーを含む樹脂組成物の造粒工程
(3)金型内への樹脂注入工程
(4)金型冷却工程
【0029】
以下、各工程について詳説する。
(1)液晶性ポリエステルの製造工程
【0030】
まず、好適には以下の原材料(X1)〜(X4)を用意する。
【表1】

【0031】
好適な芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、以下の表の中の1種が例示されるが、以下の表に示される2種類以上の芳香族ヒドロキシカルボン酸を組み合わせて用いることもできる。
【表2】

【0032】
好適な芳香族ジオールとしては、以下の表の中の1種が例示されるが、以下の表に示される2種類以上の芳香族ジオールを組み合わせて用いることもできる。
【表3】



【0033】
好適な芳香族ジカルボン酸としては、以下の表の中の1種が例示されるが、以下の表に示される2種類以上の芳香族ジカルボン酸を組み合わせて用いることもできる。
【表4】

【0034】
なお、耐熱性の観点からはテレフタル酸、或いは、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸の2種類を用いることが好ましく、低熱膨張性の観点からは、2,6−ナフタレンジカルボン酸を用いることが好ましい。
【0035】
好適な脂肪酸無水物としては、以下の表の中の1種が例示されるが、以下の表に示される2種類以上の脂肪酸無水物を組み合わせて用いることもできる。
【表5】

【0036】
次に、上記の原料(X1)〜(X4)を反応容器内に導入し、次に、溶融重合を促進する触媒(X5)を反応容器内に導入し、所定の溶融重合温度T(M)で、反応容器を加熱する。なお、加熱期間においては、内容物の撹拌を行う。
【0037】
原料に加える触媒(X5)としては種々のものが知れているが、好適にはイミダゾール化合物を用いることができる。
【表6】

【0038】
溶融重合温度T(M)は、重合初期は180〜320℃で、これを0.3〜5.0℃/min.の割合で昇温して最終的に280〜400℃にすることが好ましい。重合により脂肪酸が副生するが、脂肪酸を系外に除去しながら重合させることが好ましい。溶融重合の雰囲気は、常圧下では、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下とすることが好ましい。また、溶融重合は減圧下で実施することもできる。溶融重合の反応時間は、特に限定されないが、通常、0.3〜10時間程度である。
【0039】
得られた固形分は、室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から固相重合反応が進行する温度T(C)まで昇温することで、液晶性ポリエステル((P)とする)を得ることができる。固相重合温度T(C)は、通常、200〜350℃程度であり、処理時間は、通常、1〜20時間程度である。このようにして得られる液晶性ポリエステルの重量平均分子量は、特に限定されないが、10000〜50000であることが好ましい。得られたポリエステルが液晶性であることは、偏向顕微鏡の観察などにより確認できる。
【0040】
なお、液晶性ポリエステルは広く販売されているので、これを入手することも可能であり、その原料構成は上述のものでなくても利用することができる。
【0041】
(2)液晶性ポリエステルと無機フィラーを含む樹脂組成物の造粒工程
【0042】
上述の(P)液晶性ポリエステルと、(X6)無機フィラーとを混合して、造粒機(例:同方向2軸押し出し機)を用いて造粒することで、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物((Q)樹脂組成物とする)を得ることができる。
【0043】
(X6)無機フィラーとしては、以下のもの1種を用いることができるが、2種以上のものを用いてもよい。また、必要に応じて適当な無機フィラーを更に混合することも可能である。以下は、現在知られている好適な無機フィラーである。
【表7】

【0044】
なお、繊維状フィラーの繊維径及び繊維長が、繊維径:0.05〜15μm、繊維長:5〜200μmを満たす場合には、得られる樹脂成形体の強度、特に、樹脂流動末端同士の接合面の強度を表すウエルド強度がより向上するといった効果や、得られる樹脂成形体の表面粗度が増加しにくく、粉塵が発生しにくいという効果が得られ、これらの値が上記範囲外の場合にはウエルド強度が低下したり、粉塵が発生し易くなる傾向となる。特に、本発明で用いられるウィスカは、長手方向に垂直な断面積が0よりも大きく5×10μm以下であって、アスペクト比が10以上の単結晶からなる人造結晶質繊維であり、これを用いた場合には、得られる樹脂成形体の表面粗度が増加しにくく、粉塵がより発生しにくいという効果がある。
【0045】
上記範囲の繊維状フィラーを用いることにより、繊維状フィラー表面を樹脂が覆い、樹脂成形体の最表面に繊維状フィラーが存在しにくくなるため、粉塵発生を抑制することが可能となる。
【0046】
(Q)樹脂組成物を製造するための(P)液晶性ポリエステルと、(X6)無機フィラーとの混合比は、以下のように設定する。
【表8】

【0047】
(P)液晶性ポリエステルの重量部G(P)=100とした場合に、(X6)無機フィラーの重量部G(X6)=G(X6A)+G(X6B)は5〜250に設定する。(X6)無機フィラーの重量部が、上述の範囲内の場合には、流動性を維持しながら、機械的強度の向上、樹脂成形体の寸法性向上という効果が得られ、無機フィラーの重量部が上限値よりも高い場合には流動性を維持しにくくなり、上記下限値よりも低い場合には、樹脂成形体の寸法安定性が低下して所望の寸法の樹脂成形体が得られにくく、また、液晶ポリマーの異方性が強く発現して樹脂成形体に反り等が発生する可能性がある。
【0048】
また、上述の無機フィラーが板状フィラーを含む場合、液晶ポリマーの異方性を低減し、樹脂成形体の反りを抑制するという効果がある。
【0049】
また、この繊維状フィラーは、表面コーティング処理されていない繊維状フィラーを含むことが好ましい。この場合には、有機物からガスが発生することがないため、樹脂内に気泡が発生することがないという効果が得られる。
【0050】
また、無機フィラーは、繊維状フィラーのみを含むこととしてもよい。この場合においても、(P)液晶性ポリエステルの重量部G(P)=100とした場合に、(X6)無機フィラーの重量部G(X6)=G(X6A)は5〜250に設定する。(X6)無機フィラーの重量部が、上述の範囲内の場合には、流動性を維持しながら、機械的強度の向上、樹脂成形体の寸法性向上という効果が得られ、無機フィラーの重量部が上限値よりも高い場合には流動性を維持しにくくなり、上記下限値よりも低い場合には、樹脂成形体の寸法安定性が低下して所望の寸法の樹脂成形体が得られにくく、また、液晶ポリマーの異方性が強く発現して樹脂成形体に反り等が発生する可能性がある。
【0051】
(3)金型内への樹脂注入工程
【0052】
加熱された上下の金型の間の空間内に、造粒した(Q)樹脂組成物を溶融して注入し、射出成形を行う。加熱には、高周波誘導加熱ヒータ(IHヒータ)を用いることが好ましい。
【0053】
(4)金型冷却工程
【0054】
(Q)樹脂組成物を金型内に注入した後、金型を冷却することで、樹脂組成物を固化し、しかる後、金型を開くことで、樹脂成形体を得ることができる。
【0055】
以上のように、本実施形態では、(P)熱可塑性樹脂と、(X6)無機フィラーを混合して造粒することで得られる(Q)樹脂組成物を、加熱された金型間に注入する工程と、金型を冷却して(Q)樹脂組成物を固化することで樹脂成形体を得る工程と、を備えた樹脂成形体の製造方法である。
【0056】
ここで、(Q)樹脂組成物の流動開始温度を温度T1(℃)、(Q)樹脂組成物を金型へ注入する際の金型の温度をT2(℃)、とした場合、関係式(T2(℃)≧T1(℃)−120℃)を満たしている。
【0057】
すなわち、本願発明者らが樹脂成形体の製造方法を鋭意検討した結果、(P)熱可塑性樹脂に(X6)無機フィラーを混合して造粒した(Q)樹脂組成物から成形を行う場合、樹脂成形体の剛性が向上するが、この場合において、上述の関係式が満たされる場合には、樹脂成形体からの粉塵の発生を著しく抑制することができることを発見した。
【0058】
なお、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂などの(P)液晶性ポリエステル以外の熱可塑性樹脂を用いた場合においても、上述の効果を得ることができる。なぜなら、熱可塑性樹脂は金型温度を高温にすることにより、固化しにくくなるため、成形体の最表面に繊維状フィラーが存在しにくくなり、粉塵発生を抑制することが可能となるからである。もちろん、上述の熱可塑性樹脂は、液晶性ポリエステル(液晶ポリマー)であることが好ましい。液晶ポリマーは、金型内における流動性に優れているため、樹脂成形体の精度を高くすることができる。また、無機フィラーと液晶ポリマーを混合した場合には、非常に高い剛性の樹脂成形体が得られる。
【0059】
また、金型を加熱するヒータは、高周波誘導加熱ヒータ(IHヒータ)であることが好ましい。IHヒータで加熱を行う場合には、高速に金型を加熱することができるため、生産効率が上昇する。
【0060】
図3は、IHヒータを備えた樹脂成形装置の縦断面図である。同図では、上下に2つのIHヒータが示されている。
【0061】
下部のIHヒータは、金型を構成する樹脂成形用の凹凸パターンMAを有する金属製天板21Aと、金属製天板21Aに設けられた金属製の柱材21A’,23Aと、柱材21A’,23Aの軸の周囲を囲むコイル22Aとを備えている。上部のIHヒータは、金型を構成する樹脂成形用の凹凸パターンMBを有する金属製天板21Bと、金属製天板21Bに設けられた金属製の柱材21B’,23Bと、柱材21B’,23Bの軸の周囲を囲むコイル22Bとを備えている。同図の矢印の方向に上部の樹脂成形用の凹凸パターンMBが移動するため、金型が開いたり、閉じたりする。加熱された樹脂成形用の凹凸パターンMA,MBを閉じた状態で、これらの樹脂成形用の凹凸パターンMA,MB間の空間内に、(Q)樹脂組成物RGNを溶融しながら注入し、射出成形を行う。
【0062】
コイルに通電22A,22Bを行うと、金属製の柱材(の外側部材21A’,21B’)が誘導加熱され、この熱は、内側部材23A,23Bを介して、金属製天板21A,21Bに伝達される。金属製天板21A,21Bには樹脂成形用の凹凸パターンMA,MBが設けられているので、樹脂成形用の凹凸パターンMA,MBが加熱されることになる。このような構造の場合、樹脂成形用の凹凸パターンMA,MBの加熱に寄与する部材、すなわち体積の比較的小さな柱材が選択的に誘導加熱され、この熱が樹脂成形用の凹凸パターンMA,MBに伝達されるので、生産時のエネルギー消費量が抑制され、生産コストの低減が可能となる。
【0063】
なお、柱材の外側部材21A’,21B’の材料(例:ステンレス鋼:Fe)よりも、内側部材23A,23Bの方が、熱伝導率が高い材料(例:Cu)で製造されており、高効率に熱伝導を行うことが可能である。
【0064】
また、上述の製造方法によって製造された樹脂成形体は、低粉塵化が可能である。低粉塵の特性は、特にリレーに応用することができる。
【0065】
図1は、樹脂成形体を容器として用いたリレーの分解斜視図であり、図2は、図1に示したリレーの縦断面図である。
【0066】
このリレーは、上述の樹脂成形体からなる容器1,2と、容器1,2内に配置されたリレー本体とを備えている。樹脂成形体を容器1,2として用いたリレーは、低粉塵であるため、リレーの接点10A,10B間に粉塵が詰まることがなく、良好な接点の接触を維持することができる。
【0067】
詳細には、このリレーは、容器下部を構成する底板部1と、容器上部を構成する包囲体2と、容器内部に配置されたリレー本体とを備えている。リレー本体は、コイル8の中央をZ軸に沿って貫通する磁心11と、コイル8の軸方向の一端に位置する下板3と、下板3と共にコイルを挟む上板6とを備えており、X軸方向の一端には衝立板4が、底板部1から立設して配置されている。衝立板4は、XZ平面内でL字型に屈曲した部材の一部であり、この部材の底部は、底板部1と下板3との間に挟まれている。なお、XYZ直交座標系は図示の如く設定されている。
【0068】
衝立板4の外側には、導電性のバネ材料からなる電極5Aが併設されており、電極5AはXZ平面内で屈曲し、樹脂製の骨格部6に対向するように電極5AがX軸方向に延びており、この電極5Aの端部が接点10Aを構成している。
【0069】
衝立板4とは逆側には、電極5Aと共にコイル8を挟む位置に、電極5Bが位置している。電極5Bは、底板部1から延びて、XZ平面内で屈曲し、電極5Aに対向する位置まで延びており、電極5Bの先端部が接点10Bを構成している。骨格部6の上板は、磁心11の上端を固定し、断面L字型の衝立板4の下部水平板は、磁心11の下端を固定している。電気的なコイル8の両端は、底板部1から外方に延びる一対のリード端子9に接続されており、リード端子9に通電を行うと、電極5Aの上部位置の下面に固定された磁性体7が、コイル8に引き寄せられ、電極5Aがバネ力に抗して矢印Z1で示す方向に沿って、−Z方向に移動し、これに伴って、接点10Aが矢印Z2で示す方向に沿って−Z方向に移動する。これにより、接点10Aと10Bとが接触する。
【0070】
コイル8への通電を停止すると、電極5Aがバネ力に従って元の位置に復元し、接点10Aと10Bとが離間する。ここで、容器1,2のほかに、下板3、骨格部6も上述の樹脂成形体からなるものである。上記樹脂成形体では、粉塵の発生が少ないため、リレーの接点10A,10B間に粉塵が詰まることがなく、良好な接点の接触を維持することができる。
【実施例1】
【0071】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、実施例により限定されるものではない。
【0072】
(実験条件)
【0073】
まず、以下の手順に従って、液晶性ポリエステル(P1、P2)を製造し、これらを用いて熱可塑性樹脂組成物(Q1、Q2)を製造した。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ株式会社製、商品名トレコン(登録商標):グレード1401x06)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(DIC株式会社製、T−4G)を用いて、熱可塑性樹脂組成物(Q3、Q4、Q5)を製造した。しかる後、熱可塑性樹脂組成物(Q1、Q2、Q3、Q4、Q5)を加熱された金型内に注入し、これを冷却して樹脂成形体を製造した。
【0074】
(I)液晶性ポリエステル(P1)の製造
【0075】
反応装置は、反応容器内で回転する羽根を備えた攪拌装置、攪拌装置の羽根の回転トルクを計測するトルクメータ、反応容器内に窒素ガスを導入する窒素ガス導入管、反応容器内の温度を計測する温度計、及び、反応容器から留出する気体を冷却する還流冷却器とを備えている。
【0076】
この反応装置の反応容器内に、以下の原料(X1)〜(X4)を導入した。
【表9】

【0077】
まず、反応容器内に窒素ガス導入管を介して窒素ガスを導入し、容器内部の気体を十分に窒素ガスで置換する。窒素ガスを反応容器内に流しながら、反応容器を30分間かけて150℃まで昇温し、この温度を保持して、3時間還流させた。このとき、還流冷却器は酢酸を還流している。
【0078】
その後、触媒(X5)「1-メチルイミダゾール」を2.4g添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクメータによって計測されるトルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、反応容器内の内容物を取り出した。
【0079】
得られた固形分は、室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、295℃で3時間保持し、固相で重合反応を進め、液晶性ポリエステル(P1)を得た。
【0080】
(II)液晶性ポリエステル(P2)の製造工程
【0081】
上述の反応装置の容器内に以下の原料を導入した。
【表10】

【0082】
反応器内を、十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。その後、触媒(X5)「1-メチルイミダゾール」を2.4g添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は、室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温し、220℃から240℃まで0.5時間かけて昇温し、240℃で10時間保持し、固相で重合反応を進め、液晶ポリエステル(P2)を得た。
(III)熱可塑性樹脂組成物(Q1、Q2、Q3、Q4、Q5)の製造工程
【0083】
まず、無機フィラー(X6)として、以下の材料を含むものを用意した。
【表11】


なお、上述の(*1)に記載の(X6C1)アルミナ繊維粒状物は、(X6A3)アルミナ繊維を、ヘンシェルミキサー(株式会社カワタ製、スーパーミキサG100)内に投入し、撹拌造粒したものである。また、ヘンシェルミキサーとは、プロペラミキサー式の高速混合機の一種であって、主として粉粒体、プラスチック原材料、着色剤及び添加剤などの均一混合に用いられている機械である。
【0084】
次に、製造工程(I)及び製造工程(II)で得られた液晶ポリエステル(P1,P2)、ポリブチレンテレフタレート樹脂又はポリフェニレンスルフィド樹脂と、(X6)無機フィラーとを混合し、同方向2軸押し出し機(池貝鉄鋼株式会社製PCM−30)を用いて造粒し、熱可塑性樹脂組成物を得た。これらの混合比は以下の通りである。
【表12】


【表13】

【0085】
得られた熱可塑性樹脂組成物(Q1,Q2,Q3,Q4,Q5)の流動開始温度を測定した。
【0086】
なお、流動開始温度は、樹脂が流動を開始する温度であるが、より精密に測定するため、本例では、流動開始温度は、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、100kg/cmの荷重下において、4℃/分の昇温温度で加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が48000ポイズを示す温度とした。
【0087】
(実施例1)
【0088】
熱可塑性樹脂組成物Q1を用いて、図3のIHヒータに、高周波電流を供給し、高周波誘導加熱により、天板温度を昇温した後、天板温度が200℃に到達した時点で、射出成形を行った。得られた成形品は、厚み1mm、縦寸法70mm、横寸法7mmの直方体であった。
【0089】
(実施例2)
【0090】
天板温度を227℃とした以外は、実施例1と同様に測定を行った。
【0091】
(実施例3)
【0092】
天板温度を251℃とした以外は、実施例1と同様に測定を行った。
【0093】
(比較例1)
【0094】
天板温度を130℃とした以外は、実施例1と同様に測定を行った。
【0095】
(比較例2)
【0096】
天板温度を180℃とした以外は、実施例1と同様に測定を行った。
【0097】
(評価及び結果)
【0098】
上記の直方体の樹脂成形体からのパーティクル(粉塵)発生量を測定した。得られた成形体のゲートを切断し、そのゲート部位を熱カシメにより封止した後、500ccの純水中で38kHzの超音波を10秒間照射し、成形体の洗浄を行った。洗浄した成形体を500ccの純水に浸漬し、38kHzの超音波を10秒間照射した。照射をとめて10分間放置した後、リオン株式会社製の液中パーティクルカウンタシステムを用い、洗浄水中に分散されたパーティクル数を計数した。この液中パーティクルカウンタシステムは、シリンジサンプラーKZ−30W1(パーティクル分散液を採取)、パーティクルセンサーKS−65、コントローラKL−11Aから構成され、試料10ml中の2μm〜100μmサイズのパーティクルを個/ml単位で計数した。測定はサンプル毎に5個行い、その平均値を分散されたパーティクル数として計数した。
【0099】
以上の結果を以下の表に示す。
【表14】

【0100】
(実施例4)
【0101】
熱可塑性組成物は、(Q2)熱可塑性樹脂組成物とし、天板温度を200℃とした以外は、実施例1と同様に測定を行った。
【0102】
(実施例5)
【0103】
天板温度を227℃とした以外は、実施例4と同様に測定を行った。
【0104】
(実施例6)
【0105】
天板温度を251℃とした以外は、実施例4と同様に測定を行った。
【0106】
(比較例3)
【0107】
天板温度を130℃とした以外は、実施例4と同様に測定を行った。
【0108】
(比較例4)
【0109】
天板温度を180℃とした以外は、実施例4と同様に測定を行った。
【0110】
以上の結果を以下の表に示す。
【表15】


(実施例7)
【0111】
熱可塑性組成物は、(Q3)熱可塑性樹脂組成物とし、天板温度を150℃とした以外は、実施例1と同様に測定を行った。
(比較例5)
【0112】
天板温度を60℃とした以外は、実施例7と同様に測定を行った。
(実施例8)
【0113】
熱可塑性組成物は、(Q4)熱可塑性樹脂組成物とし、天板温度を150℃とした以外は、実施例1と同様に測定を行った。
(比較例6)
【0114】
天板温度を60℃とした以外は、実施例8と同様に測定を行った。
(実施例9)
【0115】
熱可塑性組成物は、(Q5)熱可塑性樹脂組成物とし、天板温度を200℃とした以外は、実施例1と同様に測定を行った。
(比較例7)
【0116】
天板温度を130℃とした以外は、実施例9と同様に測定を行った。
【0117】
以上の結果を以下の表に示す。
【表16】

【0118】
以上の実験結果から、T2(℃)≧T1(℃)−120(℃)の場合には、パーティクル発生量を著しく減少させることができることが判明した。また、単数または複数の液晶性ポリエステルを混合することで流動開始温度を変えた熱可塑性樹脂組成物Q1,Q2のいずれを用いても、上記関係を満たした場合には、パーティクル発生量を著しく減少させることができることが判明した。
【0119】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂又はポリフェニレンスルフィド樹脂から生成される熱可塑性樹脂組成物Q3,Q4、Q5のいずれを用いても、上記関係を満たした場合には、パーティクル発生量を著しく減少させることができることが判明した。
【0120】
このように、金型温度T2を、熱可塑性樹脂組成物の流動開始温度T1に対応させて、所定値以上の高温にすることにより、金型内での熱可塑性樹脂組成物の固化が遅くなり、熱可塑性樹脂組成物が粘弾性の低い状態で維持されるので、その間に相分離が進み、成形体の最表面に無機フィラーが存在しにくくなることで、パーティクル発生量の減少が可能となる。
【符号の説明】
【0121】
1,2・・・容器、8・・・コイル、5A,5B・・・電極、10A,10B・・・接点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と無機フィラーを混合して造粒することにより得られる樹脂組成物を、加熱された金型間に注入する工程と、前記金型を冷却して前記樹脂組成物を固化することにより樹脂成形体を得る工程と、を備えた樹脂成形体の製造方法であって、
前記樹脂組成物の流動開始温度を温度T1℃、
前記樹脂組成物を前記金型へ注入する際の前記金型の温度をT2℃、
とした場合、以下の関係式:
T2℃≧T1℃−120℃
を満たすことを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記金型を加熱するヒータは、高周波誘導加熱ヒータである、
ことを特徴とする、
請求項1に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記高周波誘導加熱ヒータは、
前記金型を構成する樹脂成形用の凹凸パターンを有する金属製天板と、
前記金属製天板に設けられた金属製の柱材と、
前記柱材の軸の周囲を囲むコイルと、
を備えていることを特徴とする、
請求項2に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、液晶ポリマーであることを特徴とする、
請求項1に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、
前記熱可塑性樹脂100重量部に対して、
前記無機フィラー5〜250重量部を含むことを特徴とする、
請求項1に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記無機フィラーは、板状フィラーを含むことを特徴とする、
請求項1に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
前記無機フィラーは、
繊維径0.05〜15μm、及び、
繊維長5〜200μm、
を有する繊維状フィラーを含むことを特徴とする、
請求項1に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
前記繊維状フィラーは、有機物によって表面コーティング処理されていない繊維状フィラーを含むことを特徴とする、
請求項7に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された樹脂成形体。
【請求項10】
請求項9に記載の樹脂成形体からなる容器と、
前記容器内に配置されたリレー本体と、
を備えることを特徴とするリレー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−20445(P2011−20445A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135486(P2010−135486)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】