説明

樹脂成形体

【課題】高耐熱性を得るとともに耐衝撃性の向上をはかった樹脂成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】樹脂成形体1は、植物性樹脂2と、シリカ一次粒子から形成される多孔質シリカ3を含み、多孔質シリカ3は植物性樹脂2との混合時に一部もしくは全部をシリカ一次粒子まで破砕し、シリカ一次粒子を植物性樹脂2に分散させたものである。これによって、多孔質シリカは非常にもろく植物性樹脂2との混合時にシリカ一次粒子まで破砕されやすく、また、破砕後は粒子間に植物性樹脂2が入り込むことで凝集が抑えられ分散性がよく、ナノコンポジットによる機械物性(耐衝撃性)の向上がはかれる。また、分散したシリカが植物性樹脂2の結晶化を促進するため、結晶化速度が上がり、耐熱性が向上するとともに、成形サイクルの短縮にもつながる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質シリカを含有することで機械的物性、耐熱性が向上した樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や石油資源の枯渇など環境問題、資源問題を背景として、植物由来の素材が注目されている。植物由来の樹脂は、有限の資源である石油を使わず、また、使用後廃棄する際に発生する二酸化炭素は、原料の植物がもともと空気中にあったものを吸収したものなので、環境にやさしい材料である。その中でも、特に、ポリ乳酸はポリスチレンと同様に透明性に優れ、また、剛性にも優れており用途展開が広い材料と言える。
【0003】
しかし、耐熱性、機械物性の向上などが更なる幅広い用途展開を図る上で課題となっている。そのため、層状珪酸塩の層間にラクチドもしくは低分子量のポリ乳酸を挿入し層間距離を拡大させた層状珪酸塩を用いることで、機械物性、耐熱性および層状珪酸塩の分散性を向上させたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−323758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の樹脂成形体は、ポリ乳酸と層状珪酸塩がポリ乳酸樹脂中にナノサイズで分散しており、機械物性、特に弾性率が向上し、耐熱性、外観が改良されるが、層状珪酸塩は樹脂中への分散後、層状珪酸塩の形状が板状であるため、耐衝撃性に優れず、耐衝撃性が要求される用途には使用が制限される。このため、耐衝撃性の向上が必要であった。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、高耐熱性を得るとともに耐衝撃性の向上をはかった樹脂成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、本発明の樹脂成形体は、植物性樹脂と、シリカ一次粒子から形成される多孔質シリカを含み、前記多孔質シリカは前記植物性樹脂との混合時に一部もしくは全部をシリカ一次粒子まで破砕し、前記シリカ一次粒子を前記植物性樹脂に分散させたものである。
【0007】
これによって、多孔質シリカは非常にもろく植物性樹脂との混合時にシリカ一次粒子まで破砕されやすく、また、破砕後は粒子間に植物性樹脂が入り込むことで凝集が抑えられ分散性がよく、ナノコンポジットによる機械物性(耐衝撃性)の向上がはかれるものである。また、分散したシリカが植物性樹脂の結晶化を促進するため、結晶化速度が上がり、耐熱性が向上するとともに、成形サイクルの短縮にもつながる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂成形体は、高耐熱性を得るとともに耐衝撃性の向上をはかることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
第1の発明は、植物性樹脂と、シリカ一次粒子から形成される多孔質シリカを含み、前記多孔質シリカは前記植物性樹脂との混合時に一部もしくは全部をシリカ一次粒子まで破砕し、前記シリカ一次粒子を前記植物性樹脂に分散させた樹脂成形体とするものである。これによって、多孔質シリカは非常にもろく植物性樹脂との混合時にシリカ一次粒子まで破砕されやすく、また、破砕後は粒子間に植物性樹脂が入り込むことで凝集が抑えられ分散性がよく、ナノコンポジットによる機械物性(耐衝撃性)の向上がはかれるものである。また、分散したシリカが植物性樹脂の結晶化を促進するため、結晶化速度が上がり、耐熱性が向上するとともに、成形サイクルの短縮にもつながる。
【0010】
第2の発明は、特に、第1の発明において、多孔質シリカの植物性樹脂との混合時に破砕して得たシリカが三次元方向それぞれに広がった形状をもつことにより、植物性樹脂中への分散後、三次元方向それぞれに広がった形状であるので、耐衝撃性の向上につながるとともに、成形後の樹脂成形体の物性が安定する。
【0011】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明において、植物性樹脂がポリ乳酸であることにより、透明性、機械物性が求められる用途への展開の幅をさらに広げることを可能とした。
【0012】
第4の発明は、特に、第3の発明において、多孔質シリカは、ゾルゲル法によりシリカ湿潤ゲルを得るゲル化工程と、前記シリカ湿潤ゲル内の水を溶媒で置換除去する置換除去工程と、前記置換除去工程により湿潤ゲル内に存在する溶媒を除く乾燥工程とを経て得たことにより、乾燥時に収縮を抑えることでより破砕されやすい多孔質シリカを作製でき、ナノコンポジットに適した多孔質シリカとなる。
【0013】
第5の発明は、特に、第4の発明において、ゾルゲル法に用いるシリカ源としてアルコキシシラン、コロイダルシリカの少なくとも1種類を用いた多孔質シリカを含むことにより、アルコキシシランの使用は、反応性が制御しやすいことを生かし、ゲル化速度を制御し一次粒子径を調整することで非常にもろい多孔質シリカを作製でき、樹脂中でのシリカの分散性を高めることが可能で、また、コロイダルシリカの使用で一次粒子径の制御が容易となる。
【0014】
第6の発明は、特に、第5の発明において、アルコキシシランとしてテトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシランを1種類もしくは2種類以上混ぜ合わせることにより、アルコキシシランとしてテトラアルコキシシランを用いることで、分散性やサイズの制御ができる。またアルコキシシランとしてトリアルコキシシラン、もしくはジアルコキシシランを用いることで、縮合重合する水酸基が少ないため、ゲルの成長方向が制御され一次粒子が大きくなるとともに、一次粒子同士が結びつく際の結合の数が減少して結びつきが弱まり、ナノコンポジットに適した多孔質シリカを作製することができる。
【0015】
第7の発明は、特に、第6の発明において、アルコキシシランのオリゴマーを用いることにより、一次粒子の大きさを大きくするとともに、一次粒子同士が結びつく際の結合の数が減少して結びつきが弱まり、ナノコンポジットに適した多孔質シリカを作製することができる。
【0016】
第8の発明は、特に、第4の発明において、ゲル化工程において、酸触媒を用い一次元、あるいは二次元方向への縮合重合反応を進行させた後、塩基性触媒を用い三次元方向への縮合重合反応を進行させることにより、一次粒子の大きさを大きくするとともに、一次粒子同士の接触面積に対する結合の数を減らすことができ、一次粒子同士の結びつきを弱めることでナノコンポジットに適した多孔質シリカを作製することができる。
【0017】
第9の発明は、特に、第4の発明において、乾燥工程で超臨界乾燥を用いて得られる多孔質シリカを含むことにより、表面張力を減少させることができ、乾燥時の収縮を抑えることでより破砕されやすい多孔質シリカとなり、ナノコンポジットに適した多孔質シリカとなる。
【0018】
第10の発明は、特に、第4の発明において、乾燥工程で凍結乾燥を用いて得られる多孔質シリカを含むことにより、溶媒が固体となり、減圧下の乾燥で昇華となるため、液体からの乾燥のような表面張力は働かず乾燥時の収縮を抑えることができ、より破砕されやすい多孔質シリカとなり、ナノコンポジットに適した多孔質シリカとなる。
【0019】
第11の発明は、特に、第4の発明において、ゲル化工程の後工程に、湿潤ゲル表面に疎水基を導入する工程を有し、乾燥工程に非超臨界乾燥を用いた多孔質シリカを含むことにより、湿潤ゲル表面を疎水化することで、乾燥時に溶媒から働く毛管力を減少させることができ、乾燥時に収縮を抑えることでより破砕されやすい多孔質シリカを作製でき、ナノコンポジットに適した多孔質シリカとなる。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における樹脂成形体を示している。
【0022】
図に示すように、本実施の形態における樹脂成形体1は、植物性樹脂2と、シリカ一次粒子から形成される多孔質シリカを含み、前記多孔質シリカは植物性樹脂2との混合時に一部もしくは全部をシリカ一次粒子まで破砕し、破砕された多孔質シリカ(シリカ一次粒子)3を植物性樹脂2に分散させている。
【0023】
破砕された多孔質シリカ3は、植物性樹脂2との混合時の応力によって破砕されるものであり、多孔質シリカが非常にもろい構造をしているため一部もしくは全部がシリカ一次粒子にまで破砕されたものである。シリカ一次粒子にまで破砕されこれが植物性樹脂2に分散することでナノコンポジットとなり、結晶化速度の上昇、高耐熱性、高機械物性を有し、また、外観にも優れる。
【0024】
植物性樹脂2は、破砕された多孔質シリカ3が一部もしくは全部がシリカ一次粒子にまで破砕され分散しているので、破砕された多孔質シリカ3を核として結晶化が促進され結晶化速度が上昇し成形サイクルの短縮にもつながるとともに、耐熱性に優れた樹脂成形体を作製できる。
【0025】
破砕された多孔質シリカ3は、生物性樹脂2との混合の際に応力により一部もしくは全部がシリカ一次粒子まで破砕されるが、0.2nm以下までは破砕されない。しかし、1nm未満では凝集しやすく、凝集が多いとナノコンポジットの効果が薄れてしまうため破砕された多孔質シリカの代表径が1nm以上であることが望ましい。また、上限について述べると、10μm以上の多孔質シリカは破砕されやすいため存在しない。ナノコンポジットの効果を発現させるためには、破砕した多孔質シリカの代表径が1μm以下になることが望ましく、より効果的であるのは破砕した多孔質シリカの代表径が0.5μm以下である。さらに外観を求める用途には、破砕した多孔質シリカの代表径が0.2μm以下であることが望ましい。
【0026】
植物性樹脂2と多孔質シリカの混合割合の下限には特に制限はないが、上限は破砕された多孔質シリカ3の凝集を抑える必要があるので、50wt %以下であることが望ましい。
【0027】
植物性樹脂2は、セルロース系、澱粉系、乳酸系、琥珀酸系、酪酸系、グリコール酸系など少なくとも1種類もしくは2種類以上の混合物が含まれておればよく、石油から合成された樹脂との混合物やアロイでもかまわない。また、添加剤として、分散性を向上させる分散剤、劣化を抑える酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、結晶化を促進させる結晶化核剤、そして、各種機械物性を向上させる繊維系フィラー、ゴム成分などや、さらに、導電性、磁性、熱伝導性、制振性、断熱、軽量、電磁波吸収、反射、熱線輻射、難燃性など各種特性を付与するフィラーが含まれていてもかまわない。植物性樹脂2として、特に、ポリ乳酸はポリスチレンと同様に透明性、高い機械物性を有する点で用途が広い。
【0028】
図2は、植物性樹脂2と混合する前の多孔質シリカ11の一部を拡大して示している。植物性樹脂2と混合する前の多孔質シリカ11は、シリカ一次粒子の粒子径が1nm〜10μmであればよく、より好ましくは10nm〜1μmである。これは、大きすぎるとナノコンポジットの効果が現れないし、小さすぎると凝集を防ぐことが困難となるためである。また、多孔質シリカ11は空隙12を有し、その空隙率は50%〜99%であればよく、より好ましくは70%以上の空隙率である。これは空隙率が低いと多孔質シリカが破砕されにくいためで、また、空隙率が高ければ破砕されやすいが、空隙率が99%以上の多孔質シリカを作製するには、特別な設備、手法が必要になってくるため作製が困難である。
【0029】
図3は、植物性樹脂2と混合し破砕された多孔質シリカ21の一部を拡大して示している。破砕された多孔質シリカ21は、一部あるいは全部がシリカ一次粒子22にまで破砕される。一次粒子同士が結びついた状態のシリカ23は、破砕の力、時間が不足すると残り、一次粒子が小さすぎた場合や、多孔質シリカ作成時に収縮が著しかった場合に、一部多孔質シリカがシリカ一次粒子にまで破砕されずに残ることがある。しかし、植物性樹脂2に含まれる破砕された多孔質シリカ21は、シリカ一次粒子22および一次粒子同士が結びついた状態のシリカ23であり、両者とも三次元方向に広がった形状をしているため、層状珪酸塩がはく離して分散した板状のシリカのナノコンポジットと比較すると、耐衝撃性に優れた物性を示す。ただし、より好ましい状態は、多孔質シリカ全部が破砕して一次粒子として分散し植物性樹脂2に含まれる状態である。
【0030】
次に、多孔質シリカを植物性樹脂と混合する方法について説明する。
【0031】
多孔質シリカの均一分散方法として、植物性樹脂との混合による力で破砕および分散させる方法を採る。ただし、予め植物性樹脂のペレットや粉末と大きさなどを合わせておくことが均一な分散に望ましい。また、植物性樹脂との混合前に予め多孔質シリカをミキサーなどで細かくしておくことが、分散にかかる時間も短縮でき樹脂の劣化なども抑えられる点で望ましい。なお、予め粉砕する場合には、多孔質シリカの空隙を破砕してしまう強い粉砕方法は、多孔質シリカを凝集および安定化させてしまうため、植物性樹脂中での破砕したシリカの分散を阻害する要因となるので注意が必要である。植物性樹脂との混合には、通常樹脂とフィラーとの混ぜ合わせに使用する装置、例えば、タンブラー、溶融混合機、ロールミル、ニーダー、加圧式ニーダー、二軸押出し機、単軸押出し機、バンバリーミキサーなどでよい。
【0032】
混ぜ合わせた植物性樹脂と多孔質シリカの混合物の成形方法は、圧縮成形、押し出し成形、射出成形、熱成形、ブロー成形、カレンダ成形など挙げられるが、成形方法に特に制限は無く、樹脂の性質、成形品の形状を考慮した成形法であればよい。
【0033】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2における多孔質シリカの作製方法について説明する。多孔質シリカを調製する工程は主に以下の3つの工程からなる。
【0034】
(1)ゲル化工程
(2)置換除去工程
(3)乾燥工程
各工程についての詳細を述べる。
【0035】
(1)ゲル化工程
ゾルゲル法によりアルコキシシラン、コロイダルシリカの少なくとも1種類を湿潤ゲル原料とし、水および必要に応じてアルコールを溶媒とし、必要に応じて触媒を添加することで、金属アルコキシドの加水分解、それに引き続き起こる縮重合反応によって一次粒子が生成し、前記一次粒子が数珠状に連なることで多孔質骨格が形成されることにより湿潤ゲルを得る工程である。
【0036】
シリカ源として、アルコキシシランは反応を制御しやすく、安価で、広く用いられているものであり、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシランを湿潤ゲル原料として、1種類もしくは2種類以上の混合物を湿潤ゲル原料として用いることができる。
【0037】
テトラアルコキシシランは、4つのアルコキシ基をもち、加水分解することでそれぞれの方向に縮合重合反応が進行していく。アルコキシ基の炭素数に応じた反応性の違いや、触媒量、触媒の種類によりゲル化の進行を制御でき、植物性樹脂と混合後の分散性の制御、分散後の破砕した多孔質シリカのサイズの制御など可能な多孔質シリカを作製することが容易となる。例えば、アルコキシ基の炭素数の多いアルコキシシランでは反応性が遅く、アルコキシ基の種類を選ぶことでゲル化速度を制御することができ、また、触媒量は湿潤ゲルのゲル化速度を制御でき、触媒量を少なくすることでゲル化速度を遅らせ、一次粒子サイズの大きな多孔質シリカを作成することができる。触媒の種類も同様に、酸性度や塩基性度など強さによりゲル化速度を制御できる。
【0038】
酸触媒の使用について説明する。酸触媒では、まずアルコキシシランのアルコキシ基の酸素に水素イオンが付加し、次に水が求核的に攻撃し、アルコキシ基がアルコールとして脱離し加水分解が進行する。この加水分解反応と、加水分解で生成したシラノール基の縮合重合反応が同時に進行することでゲル化が起こる。しかし、水が少ない場合には、加水分解が遅く、一方で縮合重合反応が進行するため、一次元、あるいは二次元方向に縮合重合反応が進行する。これを利用し、水が少ない条件で酸触媒処理した後、塩基性触媒、水を添加し三次元方向に縮合重合反応が進行させることで、一次粒子の大きな多孔質シリカを作成することができる。また、水の量、酸触媒処理の時間を制御することで一次粒子の大きさを制御することができる。
【0039】
トリアルコキシシラン、ジアルコキシシランは、それぞれ3つ、2つのアルコキシ基をもち、残りはそれぞれ1つ、2つのアルキル基をもつ。加水分解することで、縮合重合反応が進行するが、アルキル基は加水分解、縮合重合反応が進行しないので、縮合重合反応の方向が制御された、また結合の数が制限された湿潤ゲルが形成される。このように作製された多孔質シリカは一次粒子径が大きく、また一次粒子同士のつながりが弱いものとなる。ただし、ジアルコキシシランのみではゲル化しない。そのため、混合物として用いることが考えられるが、混合物の割合、主にアルコキシ基の数によって一次粒子サイズが決定される。例えば、ジアルコキシシランとテトラアルコキシシランから作製する湿潤ゲルは、ジアルコキシシランの割合を増やすとともに一次粒子径が増大していく。
【0040】
また、モノマーだけでなくオリゴマーを用いることも可能で、オリゴマーを用いる方が一次粒子サイズの大きいものが得られる。4量体、7量体程度のオリゴマーを用いることで作製の制御がしやすく一次粒子サイズの大きな多孔質シリカを得ることができる。
【0041】
シリカ源として、コロイダルシリカを用いると、予め粒子径が制御されたシリカとして利用できるため、作製する多孔質シリカの一次粒子サイズの制御が容易となる。また、表面の水酸基をトリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、アルコキシシランオリゴマー、アルコキシ基を末端にもつシリコーンなどで処理してやると、一次粒子同士の結合の強さを制御することができる。アルコキシ基が少ないもので処理すると一次粒子同士の結合を弱めることができる。ただし、処理量が多いとコロイダルシリカを核としてゲル化してしまうので効果が現れない。
【0042】
なお、湿潤ゲル原料は水ガラスを用いることも可能で、安価で製造できるため量産には適している。
【0043】
ゲル化工程の後に、湿潤ゲル表面に疎水基を導入し、表面を疎水化することで、乾燥時に溶媒から働く毛管力を減少させることができ、乾燥時に起こる収縮を抑えることで、より破砕されやすい多孔質シリカを作製でき、ナノコンポジットに適した多孔質シリカとなる。湿潤ゲル表面への疎水基の導入には、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基の導入、フッ化物や、フッ素の導入などが挙げられる。
【0044】
乾燥工程の詳細については後で述べるが、表面処理との関係を少しここで述べる。超臨界乾燥を用いる場合は、特に表面処理を施す必要は無いが、非超臨界乾燥を用いる場合は、毛管力を無視できないので、表面疎水化処理を施すことが望ましい。また、超臨界乾燥を用いた方法であっても多孔質シリカ表面を疎水化処理することは、親油性の樹脂との親和性を増し分散性がよくなること、保存の際に、空気中の水分の吸着を防ぐことで多孔質シリカの収縮を抑制することなど優位性があるので、必要に応じて行なうのがよい。
【0045】
表面疎水化処理を施さない場合にも、多孔質シリカの空隙が大きければ、毛管力を下げることができるので、多孔質シリカの一次粒子系を大きくすることで多孔質シリカの乾燥時の収縮を抑制することができる。このように、超臨界乾燥を用いた方法と同様に乾燥時の収縮を抑えた多孔質シリカの作製できる。また、多孔質シリカ表面を疎水化していないので親水性を有する樹脂との親和性をもち分散性がよく、また、空気中での保存性を向上させるものである。
【0046】
(2)置換除去工程
湿潤ゲル内の水を溶媒で置換除去する工程である。この工程は次の乾燥工程の準備という面が強く、それぞれの乾燥方法に適した溶媒に置換されることが望ましい。
【0047】
熱風乾燥について説明すると、乾燥時に溶媒からの毛管力が多孔質体骨格に力を及ぼす。毛管力は、表面張力に比例するため、毛管力を抑えるためには、表面張力の低い溶媒が好ましい。例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、より好ましくは、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン類、アセトンなどのケトン類、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族などが挙げられる。
【0048】
超臨界乾燥について説明すると、臨界温度、臨界圧力が低いものが適している。例えば、二酸化炭素である。二酸化炭素は、臨界温度が31.3℃で、臨界圧力が72.9atmである。超臨界流体として二酸化炭素を用いるために、ここでは、置換除去工程でアルコールに置換しておく方法を採る。超臨界二酸化炭素との相溶性がよい溶媒で置換することが望ましい。
【0049】
凍結乾燥について説明すると、常温常圧で液体であり、三重点の温度が−30℃程度までの溶媒であればよく、水、t−ブチルアルコールなどが例として挙げられる。また、完全に置換されていなくてもよく、大部分が置換されていればよい。
【0050】
(3)乾燥工程
乾燥工程は、湿潤ゲル内部に存在する溶媒を取り除く工程である。乾燥手法として、超臨界乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、自然乾燥などが挙げられる。
【0051】
熱風乾燥について説明すると、湿潤ゲルを乾燥容器に入れ、温度をかけ、溶媒の蒸発により乾燥を行なう。なお、乾燥容器は耐圧容器であり、加圧をしながら乾燥する方法が、毛管力をさらに下げることができるのでより好ましい。溶媒の蒸発の際には、溶媒からの毛管力が多孔質体細孔に力を及ぼすが、表面張力が低い溶媒に置換を行なっているため軽減することができる。乾燥時の収縮を抑えることは、多孔質シリカの凝集、安定化を抑えることであり、植物性樹脂との混合での分散性をよくすることにつながる。
【0052】
超臨界乾燥は、気液界面が出現しないので表面張力を減少させることができ、多孔質シリカの収縮が非常に小さく、熱風乾燥で乾燥した多孔質シリカより破砕されやすい多孔質シリカとなり、ナノコンポジットに適している。方法は一般的な超臨界乾燥でよく、炭酸超臨界乾燥やアルコール超臨界乾燥などがある。
【0053】
超臨界流体の二酸化炭素を用いた超臨界乾燥について説明する。アルコールなどで置換された湿潤ゲルを高圧容器内へ移し、超臨界二酸化炭素を流通させる。二酸化炭素は炭層状態では臨界温度が31.3℃で、臨界圧力が72.9atmであるが、溶媒の存在、例えば、アルコールとの共存で臨界温度、臨界圧力が上昇する。そのため、臨界状態に十分な温度80℃、圧力160atmにして連続的に超臨界二酸化炭素を流通させ、アルコールの完全除去をした。
【0054】
凍結乾燥は、溶媒が固体となり、減圧下の乾燥で昇華となるため液体からの乾燥からのような表面張力は働かず、収縮が非常に少ない多孔質シリカを作製することができ、熱風乾燥で乾燥した多孔質シリカより破砕されやすい多孔質シリカとなり、ナノコンポジットに適している。また、超臨界乾燥に比べコストが低く行なうことができる。ただし、昇華により気圧があがること、昇華により潜熱としてエネルギーが奪われるために乾燥に時間がかかることへの配慮が必要である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明にかかる植物性樹脂は、高耐熱性を得るとともに耐衝撃性の向上をはかることができるので、電化製品や、家具、事務用品、包装などあらゆる樹脂が使われている製品に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1における植物性樹脂の断面摸式図
【図2】同植物性樹脂と混合する前の多孔質シリカを拡大した模式図
【図3】同植物性樹脂と混合した後の破砕された多孔質シリカを拡大した模式図
【符号の説明】
【0057】
1 樹脂成形体
2 植物性樹脂
3、21 破砕された多孔質シリカ
11 多孔質シリカ
12 空隙
13 一次粒子
22 シリカ一次粒子
23 一次粒子同士が結びついた状態のシリカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性樹脂と、シリカ一次粒子から形成される多孔質シリカを含み、前記多孔質シリカは前記植物性樹脂との混合時に一部もしくは全部をシリカ一次粒子まで破砕し、前記シリカ一次粒子を前記植物性樹脂に分散させた樹脂成形体。
【請求項2】
多孔質シリカの植物性樹脂との混合時に破砕して得たシリカが三次元方向それぞれに広がった形状をもつ請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項3】
植物性樹脂がポリ乳酸である請求項1または2に記載の樹脂成形体。
【請求項4】
多孔質シリカは、ゾルゲル法によりシリカ湿潤ゲルを得るゲル化工程と、前記シリカ湿潤ゲル内の水を溶媒で置換除去する置換除去工程と、前記置換除去工程により湿潤ゲル内に存在する溶媒を除く乾燥工程とを経て得た請求項3に記載の樹脂成形体。
【請求項5】
ゾルゲル法に用いるシリカ源としてアルコキシシラン、コロイダルシリカの少なくとも1種類を用いた多孔質シリカを含む請求項4に記載の樹脂成形体。
【請求項6】
アルコキシシランとしてテトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシランを1種類もしくは2種類以上混ぜ合わせる請求項5に記載の樹脂成形体。
【請求項7】
アルコキシシランのオリゴマーを用いる請求項5または6に記載の樹脂成形体。
【請求項8】
ゲル化工程において、酸触媒を用い一次元、あるいは二次元方向への縮合重合反応を進行させた後、塩基性触媒を用い三次元方向への縮合重合反応を進行させる請求項4に記載の樹脂成形体。
【請求項9】
乾燥工程で超臨界乾燥を用いて得られる多孔質シリカを含む請求項4に記載の樹脂成形体。
【請求項10】
乾燥工程で凍結乾燥を用いて得られる多孔質シリカを含む請求項4に記載の樹脂成形体。
【請求項11】
ゲル化工程の後工程に、湿潤ゲル表面に疎水基を導入する工程を有し、乾燥工程に非超臨界乾燥を用いた多孔質シリカを含む請求項4に記載の樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−214568(P2008−214568A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56987(P2007−56987)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】