説明

樹脂成形体

【課題】 「南部鉄」のような落ち着いた質感を有する樹脂成形体を提供すること
【解決手段】
本発明の樹脂成形体は、樹脂からなるマトリックスと、前記マトリックス中に分散された着色材と、前記マトリックス中に分散された粒子状の光輝材とを含む樹脂成形体であって、前記着色材の平均粒径が20μm以上であり、前記樹脂100重量部に対して前記着色材が5重量部以上含まれるものであり、樹脂成形体の表面からの深さが1.5mmの位置での波長λ=400nm〜800nmの各波長における全光透過率が0.01%未満となるように前記着色材および前記粒子状の光輝材が分散してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
この技術分野において、金属のような質感を付与した樹脂成形体、すなわち、樹脂体としての特性を有していながらも、見た目は金属のような質感を有している樹脂成形体が知られている。
このような樹脂成形体として、例えば、ポリプロピレン樹脂中に光輝材を添加した樹脂成形体が開示されている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−239527
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、樹脂成形体で樹脂とは異なる質感を表現するにあたっては、人が質感を感じるメカニズムを理解することが重要である。発明者らは、人が質感を感じるメカニズムについて研究を進めていった結果、「つや感」、「光輝感」、「凹凸感」、「深み感」の4つの指標が、人が質感を感じる時の知覚情報として大きく影響しているという知見を見出した。
【0005】
今般、本発明者らは、金属のような質感を付与した樹脂成形体として、「南部鉄」のような落ち着いた質感を有する、従来にない新たな質感の樹脂成形体を提供しようと考えた。この「南部鉄」のような落ち着いた質感は、前述した4つの指標において凹凸感および光輝感を高めることにより得られるものである。
【0006】
上記特許文献1に記載の樹脂成形体では、自動車の外装に代表されるメタリック調の外観を樹脂成形体で表現することを目的としたものであり、前述した4つの指標において「つや感」を高めたものであるため、「南部鉄」のような落ち着いた質感を表現できるものではなかった。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、「南部鉄」のような落ち着いた質感を有する樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明にかかる樹脂成形体は、樹脂からなるマトリックスと、前記マトリックス中に分散された着色材と、前記マトリックス中に分散された粒子状の光輝材とを含む樹脂成形体であって、前記着色材の平均粒径が20μm以上であり、前記樹脂100重量部に対して前記着色材が5重量部以上含まれるものであり、樹脂成形体の表面からの深さが1.5mmの位置での波長λ=400nm〜800nmの各波長における全光透過率が0.01%未満となるように前記着色材および前記粒子状の光輝材が分散してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、「南部鉄」のような落ち着いた質感を有する樹脂成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態を説明するのに先立ち、本発明の作用効果について説明する。
【0011】
本発明の一形態は、樹脂からなるマトリックスと、前記マトリックス中に分散された着色材と、前記マトリックス中に分散された粒子状の光輝材とを含む樹脂成形体であって、前記着色材の平均粒径が20μm以上であり、前記樹脂100重量部に対して前記着色材が5重量部以上含まれるものであり、樹脂成形体の表面からの深さが1.5mmの位置での波長λ=400nm〜800nmの各波長における全光透過率が0.01%未満となるように前記着色材および前記粒子状の光輝材が分散してなることを特徴とする樹脂成形体である。
【0012】
本発明における着色材としては、可視光の透過性が低い粒子を一種または二種以上用いることができる。たとえば、砂岩等の鉱物系粉砕物、酸化アルミニウム等のセラミックス粒子、グラファイト、着色樹脂チップ、等が挙げられる。
また配合粒子としては、上記以外にも、着色顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、水酸化アルミニウム等の充填材、等を併用することができ、多くの特色ある色相を表現することが可能である。
【0013】
本発明において、平均粒径20μm以上の着色材を配合することにより、光輝材を隠蔽することなくマトリックスを着色することができる。
【0014】
本発明において、樹脂100重量部に対して着色材を5重量部以上配合することにより、マトリックスを色濃く着色することができ、落ち着いた深い色味を感じさせることができる。
【0015】
本発明において、粒子状の光輝材を配合することにより、樹脂成形体表面を観察した時に光輝感が感じられる。
粒子状の光輝材としては、金属粉顔料やパール顔料等から選ばれる一種または二種以上を用いることができる。金属粉顔料としては、アルミニウム、亜鉛、ブロンズ、ステンレス、カッパー、ニッケル等を成分とし、不定形やフレーク状、箔状等の形状のものが挙げられる。また、パール顔料としては、透明パールマイカや干渉マイカ等が挙げられる。
【0016】
粒子状の光輝材としては、好ましくは平均粒径1μm〜500μm、より好ましくは1μm〜300μmのものを好適に用いることができる。また、粒子状の光輝材の含有量としては、好ましくは樹脂100重量部に対して光輝材が0.01重量部〜15重量部、より好ましくは樹脂100重量部に対して光輝材が0.1重量部〜10重量部とすることができる。
【0017】
本発明における樹脂成形体において、樹脂成形体の表面からの深さが1.5mmの位置での波長λ=400nm〜800nmの各波長における全光透過率が0.01%未満となるように前記着色材および前記粒子状の光輝材が分散してなることを特徴とする。これにより、樹脂成形体表面を観察した時に、落ち着いた深い色味を感じることができる。
【0018】
本発明における樹脂成形体の作製方法は、特に限定されるものではないが、注型、射出成形、押し出し成形、プレス成形等が挙げられる。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0020】
(実施例1)
樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂を用いた。着色材として、平均粒径39μmの硬質砂岩を用いた。 粒子状の光輝材としてアルミフレークを用いた。
上記樹脂、上記光輝材、上記着色材、充填材、促進剤(6%ナフテン酸コバルト)、硬化剤(メチルエチルケトンパーオキサイド、以下MEKPO)を混合し配合物を得た。配合内容を以下に示す。
不飽和ポリエステル樹脂 100部
着色材(硬質砂岩) 75部
光輝材(アルミフレーク) 2.5部
充填材(水酸化アルミニウム) 75部
促進剤(6%ナフテン酸コバルト) 0.5部
硬化剤(MEKPO) 1部
上記配合物を成形型へ注型し、常温にて90分硬化反応を行った。硬化後、成形体を型から脱型し、50から70℃にて90分加熱養生を行った。
【0021】
(実施例2)
着色材として、平均粒径15μmの硬質砂岩を用いた。
実施例1と同様にして成形体を得た。配合内容を以下に示す。
不飽和ポリエステル樹脂 100部
着色材(硬質砂岩) 75部
光輝材(アルミフレーク) 2.5部
充填材(水酸化アルミニウム) 75部
促進剤(6%ナフテン酸コバルト) 0.5部
硬化剤(MEKPO) 1部
【0022】
(実施例3)
実施例1と同様にして成形体を得た。配合内容を以下に示す。
不飽和ポリエステル樹脂 100部
着色材(硬質砂岩) 75部
光輝材(アルミフレーク) 0.5部
充填材(水酸化アルミニウム) 75部
促進剤(6%ナフテン酸コバルト) 0.5部
硬化剤(MEKPO) 1部
【0023】
(実施例4)
実施例1と同様にして成形体を得た。配合内容を以下に示す。
不飽和ポリエステル樹脂 100部
着色材(硬質砂岩) 75部
光輝材(アルミフレーク) 10部
充填材(水酸化アルミニウム) 75部
促進剤(6%ナフテン酸コバルト) 0.5部
硬化剤(MEKPO) 1部
【0024】
(実施例5)
実施例1と同様にして成形体を得た。配合内容を以下に示す。
不飽和ポリエステル樹脂 100部
着色材(硬質砂岩) 75部
光輝材(アルミフレーク) 5部
充填材(水酸化アルミニウム) 75部
促進剤(6%ナフテン酸コバルト) 0.5部
硬化剤(MEKPO) 1部
【0025】
(実施例6)
光輝材として、平均粒径200μmの干渉マイカフレークを用いた。
実施例1と同様にして成形体を得た。配合内容を以下に示す。
不飽和ポリエステル樹脂 100部
着色材(硬質砂岩) 75部
光輝材(干渉マイカフレーク) 2.5部
充填材(水酸化アルミニウム) 75部
促進剤(6%ナフテン酸コバルト) 0.5部
硬化剤(MEKPO) 1部
【0026】
(実施例7)
着色材として、平均粒径20μmのアルミナを用いた。
実施例1と同様にして成形体を得た。配合内容を以下に示す。
不飽和ポリエステル樹脂 100部
着色材(アルミナ) 75部
光輝材(アルミフレーク) 2.5部
充填材(水酸化アルミニウム) 75部
促進剤(6%ナフテン酸コバルト) 0.5部
硬化剤(MEKPO) 1部
【0027】
(実施例8)
着色材として、平均粒径40μmの紅華石を用いた。
実施例1と同様にして成形体を得た。配合内容を以下に示す。
不飽和ポリエステル樹脂 100部
着色材(紅華石) 75部
光輝材(アルミフレーク) 2.5部
充填材(水酸化アルミニウム) 75部
促進剤(6%ナフテン酸コバルト) 0.5部
硬化剤(MEKPO) 1部
【0028】
(実施例9)
着色材として、平均粒径39μmの硬質砂岩および黒色トナーを用いた。
実施例1と同様にして成形体を得た。配合内容を以下に示す。
不飽和ポリエステル樹脂 100部
着色材(硬質砂岩) 41.7部
着色材(黒色トナー) 1.7部
光輝材(アルミフレーク) 2.5部
充填材(水酸化アルミニウム) 75部
促進剤(6%ナフテン酸コバルト) 0.5部
硬化剤(MEKPO) 1部
【0029】
(比較例1)
着色材として、メッシュサイズ20μmの篩を通過した平均粒径20μm未満の硬質砂岩を用いた。樹脂、充填材、促進剤、硬化剤は実施例1と同様のものを用いた。上記材料を混合し配合物を得た。配合内容を以下に示す。
不飽和ポリエステル樹脂 100部
着色材(硬質砂岩) 75部
光輝材(アルミフレーク) 2.5部
充填材(水酸化アルミニウム) 75部
促進剤(6%ナフテン酸コバルト) 0.5部
硬化剤(MEKPO) 1部
上記配合物の硬化・養生は実施例1と同様に行った。
【0030】
(比較例2)
着色材として、平均粒径39μmの硬質砂岩を用いた。
比較例1と同様にして成形体を得た。配合内容を以下に示す。
不飽和ポリエステル樹脂 100部
着色材(硬質砂岩) 2部
光輝材(アルミフレーク) 2.5部
充填材(水酸化アルミニウム) 75部
促進剤(6%ナフテン酸コバルト) 0.5部
硬化剤(MEKPO) 1部
【0031】
(比較例3)
着色材として、平均粒径0.03μmのカーボンブラックを用いた。
比較例1と同様にして成形体を得た。配合内容を以下に示す。

エポキシ樹脂 100部
着色材(カーボンブラック) 0.02部
光輝材(アルミフレーク) 2.5部
促進剤(アミン系触媒) 2部
硬化剤(無水フタル酸) 96部
【0032】
(評価方法)
(1)全光透過率
得られた樹脂成形体を表面から1.5mmの厚さに切断し、ヘイズガードプラス(東洋精機(株))にて全光透過率を測定した。
【0033】
(2)質感の評価
樹脂成形体の質感の評価として、落ち着き感および光輝感を、目視により評価した。
○:落ち着き・光輝感あり、△:落ち着き・光輝感わずかにあり、×:落ち着き・光輝感なし
【0034】
(評価結果)
評価結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
評価結果を説明する。
本発明の実施例1〜9では、表面から厚み1.5mmの試験片で測定された、波長λ=400nm〜800nmの各波長における全光透過率が0%である樹脂成形体が得られた。このとき、目視評価において落ち着き、光輝感ともに高い評価が得られた。これは、樹脂成形体が光を透過せず、また着色材の粒径が大きいため、光輝材を隠蔽せずに落ち着いた色味を発現したためである。
比較例1では、着色材の平均粒径が小さいために、光輝材が隠蔽されてしまったため、目視評価において落ち着きはあるものの光輝感はないと評価された。比較例2では、着色材の添加量が少ないために、表面側を光線が透過してしまい、目視評価において光輝感はあるものの落ち着きはないと評価された。比較例3では、着色材の粒径が非常に小さかったために、着色材の添加量が少量であるにもかかわらず、光輝感がないと評価された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなるマトリックスと、前記マトリックス中に分散された着色材と、前記マトリックス中に分散された粒子状の光輝材とを含む樹脂成形体であって、
全光透過率
前記着色材の平均粒径が20μm以上であり、
前記樹脂100重量部に対して前記着色材が5重量部以上含まれるものであり、
樹脂成形体の表面からの深さが1.5mmの位置での波長λ=400nm〜800nmの各波長における全光透過率が0.12%未満となるように前記着色材および前記粒子状の光輝材が分散してなることを特徴とする樹脂成形体。

【公開番号】特開2011−213838(P2011−213838A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82590(P2010−82590)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】