説明

樹脂成形品の製造方法

【課題】
レーザ光を用いて、密着性高く、外観に優れ、接合強度が高い溶着部を含む樹脂成形品を製造する方法が望まれる。
【解決手段】
a)透光性樹脂部材裏面に形成された突出部の両側面が、前記突出部の先端面の法線に対して非対称な傾斜角を有する前記透光性樹脂部材を準備する工程と、b)前記透光性樹脂部材の溶着領域である前記突出部先端面と、対応する吸光性樹脂部材の溶着領域を対向圧接配置し、レーザ光源から発せられたレーザビームを前記透光性樹脂部材表面側から屈折を伴い入射する工程と、c)前記レーザビームにより前記溶着領域を繰り返し照射し、前記溶着領域全体を加熱溶融し、対向圧接配置された前記透光性樹脂部材と前記吸光性樹脂部材を溶着する工程と、を含み、前記突出部のレーザ光源側側面の傾斜角を、屈折した前記レーザビームの進行角度以上にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両用灯具は、アクリロニトリロスチレンアクリレート(ASA)等の吸光性樹脂からなるハウジングと、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリカーボネート等の透光性樹脂からなるレンズを溶着した樹脂成形品を有することが多い。
【0003】
特開2000−294013号は、レンズとランプボディ(ハウジング)を押圧状態とし、ロボットを用いてレーザ光をレンズ側から入射してランプボディ表面を加熱溶融し、ランプボディの溶融熱によってレンズ側のシール脚先端も溶融し、レーザ光をレンズの全周に亘って走査するレーザ溶着方法を提案する。
【0004】
特開2001−243811号は、前面レンズとランプボディとがレーザ溶着により直接接合されている車両用灯具において、前面レンズの外周縁部に、接合方向に延びるシール脚が形成されるとともに、ランプボディに、シール脚の先端面と当接する受け面が形成されており、シール脚の外側面に、接合方向に対して斜め方向から入射するレーザ光を先端面へ導くレーザ光受け面が突出形成され、シール脚の先端部が接合方向に対して外周側へ折れ曲がって延びるように、レーザ光受け面がシール脚の先端部において接合方向に対して傾斜した平面として形成されている、ことを特徴とする車両用灯具を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−294013号公報(特許第3973792号)
【特許文献2】特開2001−243811号公報(特許第3961737号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザ光を用いて樹脂成形品を溶着する方法は、未だ十分開発されたとは言えない。
【0007】
レーザ光を用いて、密着性高く、外観に優れ、接合強度が高い溶着部を含む樹脂成形品を製造する方法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1観点によれば、
a)透光性樹脂部材裏面に形成された突出部の両側面が、前記突出部の先端面の法線に対して非対称な傾斜角を有する前記透光性樹脂部材を準備する工程と、
b)前記透光性樹脂部材の溶着領域である前記突出部先端面と、対応する吸光性樹脂部材の溶着領域を対向圧接配置し、レーザ光源から発せられたレーザビームを前記透光性樹脂部材表面側から屈折を伴い入射する工程と、
c)前記レーザビームにより前記溶着領域を繰り返し照射し、前記溶着領域全体を加熱溶融し、対向圧接配置された前記透光性樹脂部材と前記吸光性樹脂部材を溶着する工程と、を含み、
前記突出部のレーザ光源側側面の傾斜角が、屈折した前記レーザビームの進行角度以上である樹脂成形品の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
溶着領域に一様にレーザビームが照射されることにより、効率的にギャップが消滅する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1−1】および、
【図1−2】図1A〜1Dは、繰り返しレーザ照射による溶着を示すダイアグラム、斜視図、レーザ照射時間に対する温度変化グラフ、および透光性樹脂部材に溶着用リブが形成される断面図である。
【図2】図2A〜2Cは、繰り返しレーザ照射による溶着において、溶着用リブの側面が溶着面に対して傾けられている場合を示す断面図である。
【図3】図3A〜3Cは、2次元溶着領域に対する繰り返しレーザ照射による溶着を示す平面図および断面図である。
【図4】図4Aおよび4Bは、3次元溶着領域に対する繰り返しレーザ照射による溶着を示すダイアグラムおよび断面図であり、図4Cは3次元溶着領域に対する繰り返しレーザ照射による溶着の変形例を示すダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
透光性(透明)樹脂部材と吸光性(光吸収性、不透明)樹脂部材を加圧状態で対向、接触させ、透光性樹脂部材側からレーザビームを照射すると、レーザビームは透光性樹脂部材を透過して、吸光性樹脂部材に到達する。レーザビームが吸光性樹脂部材に吸収されると、吸光性樹脂部材を加熱し、軟化させ、さらには溶融する。透光性樹脂部材は、吸光性樹脂部材に加圧下で接しているので、特に接触領域において吸光性樹脂部材の熱が透光性樹脂部材にも伝達される。従って、透光性樹脂部材も軟化し、接触領域が増加し、やがて透光性樹脂部材も溶融する。両部材が溶融状態になり溶着が行なわれる。
【0012】
一般的に、車両用灯具のような樹脂成形品の場合、レーザビームを走査しながら、樹脂同士が加圧接触する周縁部に沿って連続的に溶着を行う。本発明者らは、加工対象物の周縁部に設定される溶着領域に沿って、レーザビームを高速に走査しながら繰り返し照射し、溶着領域全体をほぼ同時に加熱溶融し、溶着する方法を検討した。レーザビームを高速走査できる構成としてガルバノスキャナがある。
【0013】
図1Aは、ガルバノスキャナを用いたレーザビーム溶着装置の構成を概略的に示すダイアグラムである。xyz直交座標系を想定する。xy面が、例えば、水平面を形成し、加工対象物を支持する参照平面を構成するものとする。レーザ発振器に接続された光ファイバ11の先端から出射するレーザビーム12に対して、焦点調整用光学系13が配置される。焦点調整用光学系は、可動レンズを含み、光路上の焦点位置を調整することができる。焦点調整用光学系13から出射するレーザビームに対し、第1のガルバノミラ14が配置され、例えば加工面内のx方向走査を行う。第1のガルバノミラ14で反射されたレーザビームに対して第2のガルバノミラ15が配置され、例えば加工面内のy方向走査を行う。
【0014】
制御装置16は、ガルバノミラ14,15、焦点調整用光学系13の制御を行なう。出射レーザビーム12sは、ガルバノミラ14,15によって、xy面内で2次元走査が行えると共に、焦点調整用光学系13の調整により、焦点距離を制御してz方向に焦点位置を移動することもできる。即ち、レーザビームの焦合位置は3次元走査できる。2次元走査のみであれば、焦点調整光学系の代わりに、fθレンズを備えたスキャンヘッドを用いることもできる。ガルバノミラは軽量であり、高速走査が可能である。
【0015】
図1Bは、xy平面内に配置された2次元溶着領域を有する加工対象物において、繰り返しレーザ溶着の様子を示す概略図である。吸光性樹脂で形成された容器形状のハウジング21の上に、ハウジング21の開口部を塞ぐように、透光性樹脂で形成されたレンズ22が対向配置されている。z方向に沿う圧力Pで、レンズ22の下面とハウジング21の上面を加圧接触させる。レーザビーム12sは、z方向上方よりレンズ22を透過し、ハウジング21上面を照射する。レーザビーム12sはビーム径を有し、例えば溶着領域27の幅に対応する。ガルバノミラの駆動により溶着領域27に沿って照射位置を繰り返し走査する。図1Aの構成において、例えば第1のガルバノミラ14がx方向の走査を行ない、第2のガルバノミラ15がy方向の走査を行なう。
【0016】
図1Cは、レーザ照射位置における温度の時間変化を概略的に示すグラフである。1回のレーザビーム照射に対して、温度は上昇し、照射終了から下降を始める。照射前の温度まで降温する前に、次のレーザビームが照射し、温度が上昇する。繰り返しレーザビーム照射により、平均温度は次第に上昇する。溶着領域内の位置を変えると、タイミングが僅かにずれた形で、同様の温度変化が生じる。溶着領域全体がほぼ均一に、さらにはほぼ同時に加熱できることは明らかである。
【0017】
通常、ハウジング21およびレンズ22の表面には、成形時などに発生する微細な凹凸が存在するため、両樹脂間には局所的なギャップが存在しうる。溶着領域全体が溶融状態になると、両樹脂は互いに溶け合い、加圧によって効率的にギャップが消滅するため、強固な溶着を得ることが可能となる。
【0018】
ガルバノスキャナを用いた溶着加工ではレーザ光源が固定されているため、レーザビームはレンズ表面の法線に対し角度(入射角)をもって入射する。
【0019】
図1Dは、レンズ裏面に溶着用の突出部(リブ)を有する加工対象物の断面図を示す。レンズ22裏面には、内周側面23aと外周側面23bを有する高さhのリブ23が形成される。ビーム径を有するレーザビーム12sが加工対象物に照射される。レーザビーム12sの一部であるレーザビーム12s1は、入射角θ1でレンズ22表面に入射し、屈折角θ2で屈折し、屈折光がレンズ22およびリブ23を進行し、溶着領域27に到達する。一方、レーザビーム12sの一部であるレーザビーム12s2は、レンズ22表面に入射後、レンズ22裏面から大気中に出射し、リブ側面23aから再入射するが、光路が変化してしまうため、溶着領域27内における所定の照射位置に到達しない。このため、溶着領域27の内周側には、レーザビーム12sが照射されない影部28が生じる。
【0020】
溶着領域に生じる影部では、吸光性樹脂部材の光吸収による発熱が生じないため、図中に示す概略的なグラフのように、溶着領域内に著しい到達温度のバラつきが生じる。加熱不足によって影部の樹脂部材が溶融状態に達しない場合、加圧による効率的なギャップ消滅が生じないため、溶着不良の原因となる可能性が示唆される。この影部の領域は、レーザビーム12sの入射角θ1が大きいほど、またリブ23の高さhが高いほど、広くなるため、加工対象物の設計及び製造の制約条件になりうる。
【0021】
効率的なギャップ消滅により接合強度を担保するためには、溶着領域全体を一様にレーザ照射し、到達温度のバラつきを抑制することが望まれる。本発明者らは、ガルバノスキャナを用いた溶着加工において、溶着領域の到達温度を均一にする加工対象物の構造について検討を行った。溶着領域における影部の発生は、リブ側面を光源側に傾けることで回避することが可能であろう。
【0022】
図2Aは、ガルバノスキャナを用いたレーザ溶着において、仮想xyz座標軸を設定したダイアグラムである。ここでは、ガルバノミラにおける反射を直進に置き換えた光学系を示している。第1のガルバノミラ14へのレーザビーム入射位置を仮想光源の位置と考えることが可能であり、ガルバノミラ14,15の回転によりレーザビーム12sが溶着領域に沿って照射位置を走査すると考えることができる。仮想光源の位置をz軸上に、溶着領域をxy平面内に設定し、レンズ22表面をxy平面と平行な面とする。ビーム径を有するレーザビーム12sは、レンズ22表面からDの高さにある仮想光源から発射され、z軸からLの距離に位置するレンズ照射面70に入射角θ1で入射し、屈折角θ2で屈折した後、屈折光がレンズ22及びリブ23を進行し、リブ23とハウジング21の接面である溶着面27aを屈折角θ2に等しい角度(進行角度)で照射する。リブ23の内周側面23aは、溶着面27aの法線に対し角度φで傾けられる。このとき、傾斜角φが屈折光の進行角度以上であれば、レンズ22に入射されるレーザビーム12sは再度大気中に出射することなく、溶着面27aに一様に到達することが可能となる。
【0023】
屈折角、ないし屈折光の進行角度θ2はDとL、および大気とレンズの屈折率によって関連付けられる。
【0024】
θ1はDとLによって、
tanθ1=L/D、
または三平方の定理から、
sinθ1=L/√(L+D)《式1》
となる。また、大気の屈折率n1、レンズ22の屈折率n2とすると、入射角θ1と屈折角θ2はスネルの法則により、
n1*sinθ1=n2*sinθ2《式2》
と関係付けられる。式1と式2から、
n1*(L/√(L+D))=n2*sinθ2
となり、θ2について整理すると、
θ2=sin−1((n1/n2)*(L/√(L+D)))《式3》
となる。式3より、θ2は、レーザ照射されるレンズ表面から光源までの高さDと、レンズ表面に射影した光源からレーザ照射位置までの距離L、及び大気とレンズの屈折率n1、n2によって関係付けられることが示される。
【0025】
実際の溶着加工において、加工対象物に対する仮想光源位置を予め定めておけば、DおよびLが決定できる。また、一般的に灯具として用いられる透光性樹脂部材、例えばPMMAなどの屈折率は既知である。したがって、式3に基づき屈折光の進行角度を見積もることが可能である。レンズ全周のリブ側面において式3から導出される進行角度以上の傾斜が形成されれば、溶着領域にほぼ一様にレーザビームを照射することが可能となる。溶着領域に熱的に一様となるビーム径のレーザビームを照射すれば、著しい到達温度のバラつきを伴うことなく、効率的にギャップを消滅させながら溶着を行うことができるであろう。
【0026】
なお、図2Bに示すように、レンズ照射面70が溶着面27aと平行ではない場合、屈折光の進行角度は、レンズ照射面70での屈折角θ2に、溶着面27aに対するレンズ照射面70の傾斜角θ3を加算することで導出できる。つまり、リブ側面23aの傾斜角φを屈折光の進行角度θ2+θ3以上にすることで、溶着面27aに一様なレーザビーム12sを照射することが可能となる。屈折角θ2は、レンズ照射面70が例えばx’y’平面に対応する第二の直交座標系における光源までの高さD’、およびレンズ照射面までの距離L’によって式3から導出される。
【0027】
また、溶着領域に対して傾けられたリブ側面は平面に限らない。図2Cに示すように、リブ側面は曲面であってもよい。
【0028】
以下では、溶着領域に対して傾けられたリブ側面を有する加工対象物において、ガルバノスキャナを用いた溶着加工の実施形態について説明する。
【0029】
図3Aは、2次元溶着領域を有する加工対象物をz軸上方から見た場合を示す。円形帯状の溶着領域の内部上方に、例えば中心位置z方向上方に、スキャンヘッド31が配置される。スキャンヘッド31は、図1Aに示した焦点調整用光学系、xガルバノミラ、yガルバノミラ、制御装置を含む構成である。スキャンヘッド31から発せられたビーム径を有するレーザビーム12sが、ループを繰り返し走査される。加工対象物を設置してから、溶着対象の樹脂部材が設置時の温度から溶融状態に達するまでに、同一位置が複数回のレーザビーム照射を受ける。例えば、同一箇所が軟化温度(ガラス転移温度)に達するまでに複数回のレーザビーム照射を受け、さらに溶融状態になるまでに複数回のレーザビーム照射を受ける。レーザビームとしては、例えばYAG2倍波ないし3倍波、半導体レーザ、ファイバレーザ等を用いることができる。レーザビームのスポット径は1〜5mmとする。溶着領域の幅に対しレーザビームの径が不足する場合には、径方向位置を変えた複数の溶着ラインを設定し、各溶着ラインに対して複数回のレーザビーム照射を行うことができる。
【0030】
図3Bは、図3AにおいてIIIB−IIIB線に沿う断面を示す。吸光性樹脂で成形されたハウジング21の上に、ハウジング21の開口部を塞ぐように透光性樹脂で成形されたレンズ22が対向配置される。レンズ22裏面にはリブ23が形成され、リブ23の内周側面23aは溶着領域27の法線に対して屈折光の進行角度以上の角度φaで傾けられる。z方向に沿う圧力Pで、リブ23下面とハウジング21上面が加圧接触する。レーザビーム12sはレンズ22およびリブ23を透過し、リブ23下面とハウジング21上面が接する溶着領域27を照射する。リブ内周側面23aの傾斜角φaにより、溶着領域27には影部が生じずにレーザビーム12sが照射される。このリブ内周側面の傾斜をレンズ全周にわたり連続的に形成することにより、溶着領域全体を一様にレーザビーム照射することが可能となる。その結果、到達温度のバラつきが緩和され、効率的にギャップが消滅し、強固な溶着を得ることができる。
【0031】
溶着領域の形状が円形帯状で光源が溶着領域中心に配置される場合、リブ側面の傾斜方向はレーザビームの照射方向と等しい。溶着領域の形状が円形帯状ではない場合、ないし仮想光源の位置が溶着領域の中心位置上方からずれる場合には、リブ側面はレーザ照射方向ではなく、溶着領域幅方向に傾けることが好ましい。
【0032】
図3Cは、xy平面と平行に配置された溶着領域が楕円形帯状である平面図を示す。楕円形帯状の溶着領域の内部上方、例えば重心位置z方向上方に、スキャンヘッド31が配置される。このような場合、例えばレーザ照射位置70aにおけるリブ内周側面は、溶着領域の法線に対して矢印73の方向、つまり溶着領域幅方向に傾けて形成される。このリブ内周側面の傾斜をレンズ全周の溶着領域幅方向に対し形成することにより、溶着領域全体を一様にレーザビーム照射することが可能となり、効率的なギャップ消滅の結果、強固な溶着を得ることが可能である。
【0033】
なお、溶着領域の形状が仮想光源からの距離を大きく変化させる形状となると、入射角が変化し、照射面積も変化する。レーザビーム走査を等速で行うと、位置により時間当たり、面積あたりの入射エネルギが変化し、到達温度も変化することになろう。このような場合は、入射角ないし仮想光源からの距離に応じて走査速度を制御し、入射エネルギ密度が低くなる位置では走査速度を下げ、溶着領域内の温度を均一化することが好ましい。このような制御は、図1Aに示す制御装置16を介して行うことができる。
【0034】
また、光源の位置は溶着領域の内部上方に限らない。光源が溶着領域の外部上方に配置される場合でも、光源が配置された側のリブ側面を傾ければ、実施例と同様の効果を得ることが可能である。
【0035】
リブ側面の傾斜角は、各媒体の屈折率が既知であれば、レーザ照射されるレンズ表面から光源までの高さと、レンズ表面に射影された光源までの距離によって導出できる。そのため、溶着領域が3次元構造を有する場合においても、本発明の効果を得ることができる。
【0036】
図4Aは、3次元走査によるレーザビーム溶着を概略的に示すダイアグラムである。レーザ発振器10から発射するレーザビームが光ファイバ12を介してスキャンヘッド31に導入される。例えば、水平面上に支持されている治具36に吸光性樹脂からなるハウジング21が配置される。ハウジングの溶着領域は2次元平面には収まらない3次元構成を有する。ハウジング21の溶着領域と適合する溶着領域を有し、透光性樹脂からなるレンズ22がハウジング21上に両溶着領域を合わせて対向配置される。レンズ22、ハウジング21は互いに接する方向に圧力Pで加圧される。ループ状の溶着領域の内部上方、例えば重心位置z方向上方に配置されたスキャンヘッド31は、溶着領域に沿ってレーザビーム12sを走査し、繰り返し照射する。ガルバノミラ14,15によって2次元面内の位置を制御すると共に、焦点調整光学系によって、z方向焦点距離を制御し、一定の焦合状態を保つ。
【0037】
図4Bは、3次元構造の溶着領域を概略的に示す断面図である。ハウジング21の上に開口部を塞ぐように、レンズ22が対向配置される。一方のレンズ22裏面にはリブ24が形成され、リブ24の内周側面24aは、溶着面27bの法線に対して屈折光の進行角度以上の傾斜角φbで傾いている。もう一方のレンズ22裏面にも同様にリブ25が形成され、リブ25の内周側面25aは、溶着面27cの法線に対して進行角度以上の傾斜角φcで傾いている。レーザビーム12sは、レンズ22における照射面70b、70cおよびリブ24、25を透過し、リブ24、25とハウジング21の接面である溶着面27b,27cを照射する。照射面70bは照射面70cよりも光源に対する高さがΔD大きいため、光源までの距離が対称であるとすれば、傾斜角φbは傾斜角φcよりも小さい。傾斜角φbおよびφcにより、溶着面には影部が生じず、一様にレーザビームが照射される。溶着領域における他の溶着面に関しても、屈折光の進行角度以上でレンズ内周側面を形成すれば、溶着領域全周で一様なレーザビームが照射される。これと併せて、ガルバノミラおよび焦点調整用光学系の走査速度制御を行えば、到達温度のバラつきが緩和された状態でほぼ同時に加熱溶融され、より強固な溶着を得ることが可能となるであろう。
【0038】
透光性樹脂部材表面では光学的界面を形成するため、レーザビームが照射される際、透光性樹脂部材への入射と同時に反射も生じる。レーザビームの反射成分は、透光性樹脂部材表面への入射角が大きくなるとともに顕著となり、透光性樹脂部材表面に対する入射角が70°を超えると入射効率は大幅に低下し実用に耐えないことも多い。車両用灯具の透光性樹脂部材として一般的に用いられるPMMAの空気に対する屈折率は約1.49であることから、式2により、入射角70°に対応する屈折角は約40°となる。このことは、基準面に対するリブ側面の傾斜角も約40°程度あれば用件を果たすことを示唆する。
【0039】
透光性樹脂部材表面への入射角が70°以上になる場合は、レーザ光源を複数用いることが好ましい。
【0040】
図4Cは、複数のスキャンヘッド31a、31bから複数のレーザビームを同時に照射するモードを示す。スキャンヘッド31a、31bは、別のレーザ光源からレーザビームを受けても、1つのレーザ光源からのレーザビームを分割した レーザビームを受けてもよい。照射領域を分割することにより、1つのスキャンヘッドが走査するレーザ照射領域が制限され、入射角の低下、レーザ照射領域の拡大が可能となる。
【0041】
以上、具体例を示しながら説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、透光性樹脂部材と吸光性樹脂部材の組み合わせはレンズとハウジングに限らない。宝石などの小型貴重品用ショーケースなどを作製してもよい。
【0042】
また、溶着領域の形状は実施例に示した形状に限らない。任意の形状においても各溶着面における幾何学的パラメータから屈折光の進行角度が見積もられれば、溶着領域を一様にレーザ照射できるリブ側面の傾斜角を決定することが可能であろう。
【0043】
その他種々の用途、変更、置換、改良、組み合わせなどが可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0044】
11 レーザヘッド、
12 レーザ光、
13 焦点調節用光学系、
14 第1ガルバノミロラ、
15 第2ガルバノミラ、
16 制御装置、
21 吸光性樹脂部材、
22 透光性樹脂部材、
23 突出部、
27 溶着領域、
28 影部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)透光性樹脂部材裏面に形成された突出部の両側面が、前記突出部の先端面の法線に対して非対称な傾斜角を有する前記透光性樹脂部材を準備する工程と、
b)前記透光性樹脂部材の溶着領域である前記突出部先端面と、対応する吸光性樹脂部材の溶着領域を対向圧接配置し、レーザ光源から発せられたレーザビームを前記透光性樹脂部材表面側から屈折を伴い入射する工程と、
c)前記レーザビームにより前記溶着領域を繰り返し照射し、前記溶着領域全体を加熱溶融し、対向圧接配置された前記透光性樹脂部材と前記吸光性樹脂部材を溶着する工程と、を含み、
前記突出部のレーザ光源側側面の傾斜角が、屈折した前記レーザビームの進行角度以上である樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記突出部のレーザ光源側側面の傾斜角が、0°を超え、40°以下である請求項1記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記突出部のレーザ光源側側面が曲面である請求項1記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記工程c)において、前記レーザビームの走査にガルバノスキャナを用いる請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記工程c)において、前記レーザビームが前記溶着領域に入射する入射角が位置により変化する場合、前記レーザビームの走査速度を変化させ加熱温度を平均化する請求項1〜4のいずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記工程c)において、単一レーザビームを用いると前記レーザビームが前記溶着領域に入射する入射角が位置により変化する場合、前記レーザビームを複数用い加熱温度を平均化する請求項1〜5のいずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法。

【図1−1】
image rotate

【図1−2】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−161633(P2011−161633A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23103(P2010−23103)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】