説明

樹脂成形用金型、樹脂成形装置、及び樹脂フィルムの製造方法

【課題】金型内において、流路の中心部と端部との樹脂の流れ量の差を低減することにより、均質な樹脂を成形することができる樹脂成形用金型を提供する。
【解決手段】樹脂Wが流動する流路32の断面における流路幅bを押出し方向Lに沿って増加させ、前記流路断面における流路高さhを押出し方向Lに沿って減少させた樹脂成形部3を少なくとも備え、該樹脂成形部3の導入口31に前記樹脂Wを導入し、前記流路32を介して前記樹脂成形部3の導出口32から前記樹脂Wを押出して、樹脂フィルムを成形するための樹脂成形用金型10であって、前記樹脂成形部の流路断面積Sは、押出し方向Lに沿って一定の割合で減少してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)などパウダー状の樹脂を溶融することなくフィルム状に押出し成形するに好適な樹脂成形用金型、樹脂成形装置、及び樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PTFEなどの樹脂フィルムは、シールテープや多孔質膜として広範に使用されている。該樹脂をフィルム状に成形する場合、まず、樹脂の固体粒子であるファインパウダーに潤滑油を混合することによりペースト状の樹脂を生成する。そして、該ペースト状の樹脂を、押出し成形機の金型を通すことにより、もしくは金型を通して樹脂を円柱状に押出した後に2本のカレンダーロールで圧延することにより、樹脂フィルムを製作する。
【0003】
前記押出し成形機の金型として、例えば図5に示すような樹脂成形用金型70が開示されている(特許文献1参照)。ここで、図5(a)は樹脂成形用金型の断面図であり、(b)は(a)のb−b矢視断面図、(c)は(a)のc−c矢視断面図、(d)は(a)のd−d矢視断面図である。図5(a)〜(d)に示すように、前記樹脂成形用金型70は、ペースト状の樹脂Wが投入される樹脂投入部2と、樹脂Wをフィルム状に成形するための矩形状の流路断面を有した扇形の流路72が形成された樹脂成形部7と、樹脂成形部7に接続され、成形された樹脂の形状を調整する形状調整部4を少なくとも備えている。
【0004】
そして、樹脂成形部7の流路72は、樹脂Wが流動する流路72の流路断面における流路幅bを押出し方向Lに沿って一定の割合で増加し、流路断面における流路高さhを押出し方向Lに沿って一定の割合で減少している。さらに、形状調整部4は、樹脂成形部7の樹脂が導出する導出口73に接続されている。
【0005】
このように構成された樹脂成形用金型70によれば、ペースト状の樹脂Wを樹脂投入部2に投入し、該投入された樹脂Wを押出し方向Lに加圧することにより樹脂成形部7の導入口71に前記樹脂Wを導入し、前記流路72を介して樹脂成形部7の導出口73から導出され、形状調整部4からさらに樹脂Wを押出すことにより、樹脂フィルムを成形することができる。
【0006】
【特許文献1】特開平11−216760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記樹脂成形用金型は、樹脂Wが流動する流路の流路幅を押出し方向に沿って一定の割合で増加させ、流路の流路高さを押出し方向に沿って一定の割合で減少させたため、図6(a),(b)に示すように、導入口の幅をB,導入口の高さをH,押出し方向に沿った流路幅の増加量をxとしたときに、押出し方向に沿った流路高さの減少量は、流路幅と流路高さが一定の割合で変動するのでn倍のxと表せ、図6(c)に示す断面図から、流路断面積Sは、式1のように表すことができる。
【0008】
S=(B+x)×(H−nx)=−nx+(H−nB)x+HB・・・式1
【0009】
このようにして得られた流路断面積Sは、式1に示すように極大値を有するxの負の二次関数となる。そして、式1に基づいて、押出し方向に沿った導入口からの距離dと、該距離dにおける流路断面積Sとの関係を求めると、図6(d)に示すように、流路断面積Sは、導入口71と導出口73との間に極大値Mを有することになる。この極大値Mを設けることにより、流路72に樹脂が溜まる溜め部が形成されることになる。
【0010】
前記溜め部は、溶融した流動性の高い樹脂を成形する場合、溜め部に溜められた樹脂が溜め部より下流において流路断面の中心部から端部に向かって流れるので、均質な樹脂を成形するに好適に作用する。しかし、PTFEなどのファインパウダーに潤滑油を混ぜてペースト状にした樹脂を用いた場合には、溶融樹脂に比べ流動性が低いので、溜め部より下流では、流路断面の幅方向の端部に比して中心部の方が、樹脂の押出しが促進されてしまう。この結果、フィルムの部位によって、成形時の伸張量が相違することになり、強度的に異方性のあるフィルムが成形され易くなる。
【0011】
このような場合、前記金型に対して、流路厚さが一定の割合で減少する流路の壁面に、局所的に絞りを設けることにより、中心部と端部との樹脂の流れ量の差を低減し、樹脂の均質化を図ることも考えられる。しかし、流路を流れる樹脂の流動を正確に把握した上で適切な箇所に適切な大きさの絞りを設けることは難しい。すなわち、流路内に前記溜め部を無くすように、単に厚さ方向の流路の壁面に絞りを設けたとしても、図6(d)のfに示すような流路断面の変化となり、流路断面積は押出し方向に沿って増減してしまい、流路断面の中心部の樹脂の流れ量とその端部の流れ量とを等しくすることは容易にはできない。
【0012】
特に、PTFEファインパウダーは、折りたたみ鎖結晶(ラメラ)を有しており、ファインパウダー間にせん断をかけることでラメラの解除を促し(繊維化)、パウダー同士が接続されることで機械強度に優れた多孔質性のフィルムが成形されることになるが、押出し方向に沿って流路断面積が急激に減少する導出口近傍(図6(d)曲線fの曲線f1近傍)では、前記繊維化が局所的に促進されてしまう可能性もあるため、均質な強度の樹脂を得ることは難しい。
【0013】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、金型内において、流路の中心部と端部との樹脂の流れ量の差を低減することにより、均質な樹脂を成形することができる樹脂成形用金型、樹脂成形装置、及び樹脂フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決すべく、本発明に係る樹脂成形用金型は、樹脂が流動する流路の断面における流路幅を押出し方向に沿って増加させ、前記流路の断面における流路高さを押出し方向に沿って減少させた樹脂成形部を少なくとも備え、該樹脂成形部の導入口に前記樹脂を導入し、前記流路を介して前記樹脂成形部の導出口から前記樹脂を押出して、樹脂フィルムを成形するための樹脂成形用金型であって、前記樹脂成形部の流路断面積は、押出し方向に沿って一定の割合で減少していることを特徴とする。
【0015】
本発明にいう「流路の断面(流路断面)」とは、樹脂を押出す方向(押出し方向)に対する垂直な平面上にある流路の断面をいい、「流路幅」とは、樹脂の幅の成形に起因する流路断面の端部間の距離をいい、「流路高さ」とは、樹脂の厚みの成形に起因する流路断面の端部間の距離をいう。
【0016】
本発明に係る樹脂成形用金型によれば、樹脂成形部の流路断面積は、押出し方向に沿って一定の割合で減少するため、流路断面の中心部と端部の樹脂の流れ量の差異は軽減されて流路内の樹脂の流動は均質になるので、強度的に異方性の少ない均質な樹脂フィルムを成形することができる。特に、PTFEの場合には他の樹脂に比べて流動し難いので、押出し方向に沿った流路断面積の減少量を一定の割合にすることにより、局所的に繊維化が促進されるのを回避することができ、より効果的に均質な機械的物性を有するフィルムを得ることができる。
【0017】
本発明に係る樹脂成形用金型の前記樹脂成形部は、押出し成形時に前記導入口から前記導出口までを流動する樹脂の流跡線がすべて等しくなるように形成されていることがより好ましい。本発明にいう「流跡線」とは、個々の流体粒子が時間と共に移動して描く軌跡(パスライン)であり、「前記導入口から前記導出口までを流動する樹脂の流跡線」とは、導入口から導入された樹脂の粒子(パウダー)が、樹脂の押出しにより導出口まで移動する場合における、導入口から導出口までの粒子の移動する移動距離のことである。
【0018】
このように、押出し成形時に前記導入口から前記導出口までを流動する樹脂の流跡線がすべて等しくなるように樹脂成形部を形成することにより、樹脂のパウダーを均質に流動させることができ、成形された樹脂フィルムの面内配向ムラを低減させることができる。
【0019】
前記したように、樹脂成形部の流路において流跡線をすべて等しくするには、例えば、1つの側面視方向から見た流路の形状を扇形に形成すればよく、該扇形は、導入口から導出口に向かって拡開するように延びた一対の対向したテーパ辺と、前記一対のテーパ辺を延長して交差する点を中心として、前記テーパ辺を繋ぐ円弧とからなる。
【0020】
別の態様としては、本発明に係る樹脂成形用金型は、前記導出口が、前記押出し方向に対して垂直な直線辺により区画されており、前記流路は、幅方向の流路の中心線に近づくに従って、高さ方向に大きく湾曲していることがより好ましい。前記構成にすることにより、金型の幅方向全域において導出口から均質な樹脂を一定の割合で導出することができるので、フィルム面内においてより物性ムラの無い等方性の高い成形品を得ることができる。
【0021】
前記樹脂成形用金型は、前記導出口の断面形状と同じ断面形状の流路を有した形状調整部をさらに備えることが好ましい。このように、形状調整部を設けることにより、導出口から導出した樹脂フィルムを、導出口の断面形状と同じ断面形状の流路を介して押出して成形することができるので、樹脂フィルムの厚みを幅方向に亘って均一に調整することができる。
【0022】
また、本発明による樹脂成形装置は、前記した樹脂成形用金型と、該金型内に投入された樹脂を押出す押出し機と、を少なくとも備えている。前記樹脂成形装置は、押出し機が、樹脂成形用金型の樹脂成形部の導入口にペースト状の樹脂を導入し、導入口から樹脂フィルムが押出し成形可能なように、装着されている。なお、前記成形装置は、最終的に押出された樹脂フィルムを焼成する加熱装置や、焼成後の樹脂を冷却する冷却装置や、熱処理後の樹脂フィルムを一定の形状や寸法に成形するためのサイザーなども含むことができる。
【0023】
前記樹脂成形装置を用いて、前記樹脂としてPTFEファインパウダーをペースト状にして、樹脂フィルムを押出し成形することが好ましく、前記樹脂フィルムとして多孔質膜、シールテープ、前記多孔質膜を複合させた電解質膜を製造することができ、さらには、該電解質膜を水素極と酸素極との間に介在させてなる燃料電池を製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、金型内において、流路の中心部と端部との樹脂の流れ量の差を低減することにより、均質な樹脂を成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、図面を参照して、本発明に係る樹脂成形用金型のいくつかの実施形態に基づいて説明する。
【0026】
図1は、第一実施形態に係る樹脂成形用金型10の全体構成図を示しており、図1(a)は樹脂成形用金型10の断面図であり、図1(b)は図1(a)のB−B矢視断面図、図1(c)は図1(a)のC−C矢視断面図、図1(d)は図1(a)のD−D矢視断面図である。第一実施形態に係る樹脂成形用金型10は、樹脂成形装置(図示せず)に配備され、図1の白抜き矢印方向から、押出し機(図示せず)を介して樹脂を成形するための金型である。
【0027】
図1(a),(b)に示すように、樹脂成形用金型10は、ペースト状の樹脂Wが投入された樹脂投入部2と、樹脂Wをフィルム状に成形するための矩形状の流路断面を有した扇形の流路32が形成された樹脂成形部3と、樹脂成形部3に接続され、成形された樹脂の形状を調整する形状調整部4を少なくとも備えている。
【0028】
樹脂投入部2は、ペースト状の樹脂Wを投入するための四角錐状の内部空間21が形成されており、該内部空間21は、押出し機の荷重により樹脂Wを樹脂成形部3に導入可能なように、樹脂成形部3に接続されている。
【0029】
樹脂成形部3は、樹脂投入部2から加圧により押出される樹脂Wが導入される矩形状の導入口31と、該導入口31から導入された樹脂を成形するための流路32と、該流路32から樹脂Wが導出する矩形状の導出口33と、が形成されている。流路32は、樹脂Wが流動する流路32の流路断面における流路幅bを押出し方向Lに沿って一定の割合で増加し、流路断面における流路高さhを押出し方向Lに沿って後述する流路断面の関係を満たすように減少している。
【0030】
具体的には、図1(c),(d)に示す前記流路32の流路断面積は、図2に示すように、押出し方向Lに沿った導入口31からの距離dと、該距離dにおける流路断面積Sとすると、距離dの増加に伴い(押出し方向Lに沿って)、一定の割合で次第に減少するように構成されている。
【0031】
さらに、樹脂成形部3は、押出し成形時に導入口31から導出口33までを流動する樹脂の流跡線がすべて等しくなるように形成されている。具体的には、図1(a)に示すように樹脂成形部3の側面視方向から見た流路32の形状が扇形に形成されており、該扇形は、導入口31から導出口33に向かって拡開するように延びた一対の対向したテーパ辺Tと、前記一対のテーパ辺Tを延長して交差する点を中心Qとして前記テーパ辺Tを繋ぐ円弧(導出口33)と、からなる。
【0032】
形状調整部4は、樹脂成形部3の樹脂が導出する導出口33に接続されている。形状調整部は、導出口33の断面形状と同じ断面形状を維持(具体的には図1の(d)の流路断面である、前記円弧の弦を流路幅、導出口33の流路厚さを流路厚さとした流路断面を維持)するように押出し方向に延在した流路41が形成されている。
【0033】
このように構成された樹脂成形用金型10によれば、ペースト状の樹脂Wを樹脂投入部2に投入し、該投入された樹脂Wを加圧することにより、樹脂成形部3の導入口31に樹脂Wを導入する。そして、導入した樹脂Wを流路32に樹脂Wを通過させてフィルム状の樹脂を成形し、さらに形状調整部4を介して樹脂Wを押出すことにより、形状の安定した樹脂フィルムを成形することができる。この際に、樹脂成形部3の流路断面積Sは、押出し方向Lに沿って一定の割合で減少しているため、流路断面の中心部CPと端部EPの樹脂の流れ量の差異は軽減されるので、強度的に異方性の少ない均質な樹脂フィルムを成形することができる。
【0034】
さらに、押出し成形時に導入口31から導出口33までを流動する樹脂Wの流跡線がすべて等しくなるように成形することにより、樹脂Wの粒子を均質に流動させることができ、成形された樹脂フィルムの面内配向ムラを低減させることができる。
【0035】
また、形状調整部4を設けることにより、導出口33から導出した樹脂フィルムを、導出口33の断面形状と同じ断面形状である断面矩形状の流路を介して押出して成形することができるので、樹脂フィルムの厚みを幅方向に亘って均一に調整することができる。
【0036】
図3は、本発明に係る第二実施形態を示しており、図3(a)は、樹脂成形用金型の断面図であり、図3(b)は図3(a)のE−E矢視断面図、図3(c)は図3(a)のF−F矢視断面図、図3(d)は、図3(a)のG−G矢視断面図であり、図4は、図3に示す樹脂成形用金型の流路及び流跡線を説明するための斜視図である。なお、第二実施形態に係る樹脂成形用金型20は、第一実施形態のものと比べて、樹脂成形部の構成が相違し、その他の同じ機能を有する構成は、同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0037】
第二実施形態に係る樹脂成形部5も、第一実施形態と同様に、樹脂Wが導入される導入口51と、該導入口51から導入された樹脂を成形するための流路52と、該流路52から樹脂が導出する導出口53と、が形成されている。
【0038】
流路52は、樹脂Wが流動する流路52の流路断面における流路幅bを押出し方向Lに沿って増加し、流路断面における流路高さhを押出し方向Lに沿って減少しており、図3(c),(d)に示す前記流路52の流路断面積は、第一実施形態と同様に、押出し方向Lに沿った導入口からの距離dと、該距離dにおける流路断面積Sとすると、距離dの増加に伴い(押出し方向Lに沿って)、一定の割合で次第に減少している。
【0039】
さらに、導出口53は、図3(d)に示すように押出し方向Lに対して垂直な直線辺26により区画されている。また、流路52は、幅方向B1の流路の中心線Cに近づくに従って、高さ方向H1に大きく湾曲しており、押出し成形時に導入口51から導出口53までを流動する樹脂Wの流跡線がすべて等しくなるように形成されている。すなわち、図1の図4に示す導入口51から導出口53までの流跡線c1〜c10の長さが全て等しいことになり、側部の流跡線(c1,c5,c6,c10)、側部と中心線Cとの間の流跡線(c2,c4,c7,c9)、中心線C上の流跡線(c3,c8)の順に大きく湾曲する(例えば同一流路断面上の図4の山高さmが順に大きくなる)ことになる。
【0040】
このようにして、上記した第一実施形態の樹脂成形用金型にかかる効果に加えさらに、金型の幅方向全域において導出口から同質の樹脂を一定の割合で導出することができるので、フィルム面内においてより物性ムラの無い等方性の高い成形品を得ることができる。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
[樹脂フィルムの成形]
第一実施形態に係る樹脂成形用金型を用いて樹脂フィルムを押出し成形した。具体的には、一般的に知られている粒子融着法を用いて樹脂フィルムを成形した。まず、PTFEのファインパウダー(未焼成)に液状潤滑材のナフサを均一に分散させ、その混合物を圧縮予圧成形し、該混合物を樹脂投入部に投入して、圧力10MPaで樹脂を加圧して、シート状に押出し成形することにより幅160mm×厚さ2.5mmの長尺未焼成PTFEのフィルムを得た。
【0042】
なお、実施例1の樹脂成形用金型は、導入口の幅13mm×厚さ13mm、導出口の幅12mm×厚さ1mmであり、導入口から導出口までの流路断面積が押出し方向に沿って、一定の割合で減少するように形成した金型である。
【0043】
[評価方法]
得られたPTFEフィルムの評価方法として、機械強度、嵩密度分布、及び金型の出口の形状の測定を行った。具体的には、フィルム面内における物性の均一性を評価するために、フィルムの押出し方向をMD方向、該方向に直交する方向(幅方向)をTD方向としたときに、幅10mm×長さ50mmで切り出した試験片A〜Fを製作した。試験片A〜Fに対して、常法により、引張り応力を測定した。この結果を、表1に示す。さらに、これら試験片の嵩密度分布及び出口形状も測定したこの結果を表2に示す。なお、表1,2には、測定した値の標準偏差も合わせて示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
[実施例2]
前記第二実施形態に係る樹脂成形金型を用いて樹脂フィルムの押出し成形を行った。具体的には、実施例2の金型は、導出口を押出し方向に対して直線辺により形成され、樹脂成形部の導入口から導出口までの流跡線は、図4のようにした点で相違し、他の条件は実施例1と同じようにして、樹脂フィルムの押出し成形を行った。そして、実施例1と同じようにして、試験片を製作し、引張り応力、嵩密度、及び出口形状を測定した。この結果を、表1及び2に示す。
【0047】
[比較例1]
前記した図5に示す樹脂成形用金型を用いて、実施例1と同じようにして樹脂フィルムの成形を行った。具体的には、比較例1の金型が、実施例1の金型と相違する点は、樹脂成形部の流路を、樹脂Wが流動する流路の流路断面における流路幅を押出し方向Lに沿って一定の割合で増加させ、流路断面における流路高さを押出し方向Lに沿って一定の割合で減少させた点である。そして、実施例1と同じようにして、試験片を製作し、引張り応力、嵩密度、出口形状を測定した。この結果を、表1及び2に示す。
【0048】
[結果]
表1,及び2に示すように、比較例1に比べて、実施例1,2のほうが引張り強度及び嵩密度の標準偏差の値が小さく、物性値のばらつきが小さかった。また、実施例1に比べ実施例2の方が嵩密度及びMD方向の引張り強さの物性値のばらつきが小さかった。また、実施例1の成形された樹脂の押出し方向先端の幅方向の形状は、曲線状になるのに対して、実施例1の成形された樹脂の押出し方向先端の幅方向の形状は、直線状であった。
【0049】
[考察]
比較例1に比べて、実施例1,2のほうが物性値のばらつきが小さかった理由としては、流路断面積を押出し方向に沿って一定の割合で減少させる構造にしたため、流路断面の中心部と端部とに流れる樹脂の流量が略等しくなったことによると考えられる。
【0050】
また、実施例1に比べ実施例2の方が嵩密度及びMD方向の引張り強さの物性値のばらつきが小さかった理由としては、樹脂の押出し方向先端の幅方向の形状からもわかるように、実施例2の金型は、導出口を前記押出し方向に対して垂直な直線辺により区画し、流路を幅方向の流路の中心線に近づくに従って、高さ方向に大きく湾曲させたことにより、幅方向全域に亘って、フィルム樹脂の物性ムラが解消されたからであると考えられる。よって、実施例2(第二実施形態)に係る金型は、延伸成形をする場合に特に効果が得られ、ネックイン、ボーイングなどの減少が見込め、製品の品質、歩留まり等の改善に有効であると考えられる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【0052】
例えば、第一実施形態及び第二実施形態では、樹脂成形部の流路幅を押出し方向に沿って一定の割合で増加させ、流路断面積が押出し方向に沿って一定の割合で減少するように、押出し方向に沿った流路高さの減少量を設定したが、前記流路断面積の減少する割合が一定の関係を満たすように流路幅の増加量と流路高さの減少量を設定すればよく、流路幅を一定の割合で減少するものに限定されるわけではない。
【0053】
また、第一実施形態及び第二実施形態では、樹脂投入部の樹脂が投入される空間は、略四角錐状となっていたが、該形状は、円錐、円柱状などでもよく、樹脂が投入でき、樹脂成形部に樹脂が押出し可能な構造であれば特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】第一実施形態に係る樹脂成形用金型の全体構成図を示しており、(a)は樹脂成形用金型の断面図、(b)は(a)のB−B矢視断面図、(c)は(a)のC−C矢視断面図、(d)は(a)のD−D矢視断面図。
【図2】図1に係る樹脂成形用金型の押出し方向に沿った導入口からの距離と、該距離における流路断面積の関係を示した図。
【図3】第二実施形態に係る樹脂成形用金型の全体構成図を示しており、(a)は樹脂成形用金型の断面図、(b)は(a)のE−E矢視断面図、(c)は(a)のF−F矢視断面図、(d)は(a)のG−G矢視断面図。
【図4】図3に示す樹脂成形用金型の流路及び流跡線を説明するための斜視図。
【図5】従来の樹脂成形用金型の全体構成図を示しており、(a)は樹脂成形用金型の断面図、(b)は(a)のb−b矢視断面図、(c)は(a)のc−c矢視断面図、(d)は(a)のd−d矢視断面図。
【図6】従来の樹脂成形用金型の押出し方向に沿った導入口からの距離と、該距離における流路断面積の関係を示した図。
【符号の説明】
【0055】
2:樹脂投入部、3,5:樹脂成形部、4:形状調整部、10,20:樹脂成形用金型、C:幅方向の流路の中心線、L:押出し方向、S:流路断面積、B1:幅方向、H1:高さ方向、c1〜c10:流跡線、b:流路幅、h:流路高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂が流動する流路の断面における流路幅を押出し方向に沿って増加させ、前記流路断面における流路高さを押出し方向に沿って減少させた樹脂成形部を少なくとも備え、該樹脂成形部の導入口に前記樹脂を導入し、前記流路を介して前記樹脂成形部の導出口から前記樹脂を押出して、樹脂フィルムを成形するための樹脂成形用金型であって、
前記樹脂成形部の流路断面積は、押出し方向に沿って一定の割合で減少していることを特徴とする樹脂成形用金型。
【請求項2】
前記樹脂成形部は、押出し成形時に前記導入口から前記導出口までを流動する樹脂の流跡線がすべて等しくなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形用金型。
【請求項3】
前記導出口は、前記押出し方向に対して垂直な直線辺により区画されており、前記流路は、幅方向の流路の中心線に近づくに従って、高さ方向に大きく湾曲していることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂成形用金型。
【請求項4】
前記樹脂成形用金型は、前記導出口の断面形状と同じ断面形状の流路を有した形状調整部をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂成形用金型。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂成形用金型と、該金型内に投入された樹脂を押出す押出し機と、を少なくとも備えることを特徴とする樹脂成形装置。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂成形装置を用いて、前記樹脂としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を押出し成形することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−137308(P2008−137308A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326793(P2006−326793)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】