説明

樹脂成形用金型

【課題】成形品の製品面以外の面への塗料の回り込みを防止することができるとともに、成形品の製品面の意匠性の向上を図ることができる樹脂成形用金型を提供する。
【解決手段】可動型102には、キャビティCの縦壁端部に連通する空間110が設けられている。空間110には、その空間の内面に沿って摺動自在に移動する入れ子120が設けられている。入れ子120の下面と空間110の底面との間には、キャビティCに供給される樹脂11に向けて入れ子120を押圧する押圧手段としてのバネ140が設けられている。入れ子120は、図2(C)に示すように、バネ140による上方向への押圧により樹脂収縮に追従して、図の上方向(樹脂側)に移動する。また、バネ140による押圧力を適宜設定することにより、入れ子120は、図2(D)に示すように、塗料13の注入により印加される圧力に応じて移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形に用いられる金型に係り、特に樹脂成形工程中に成形品の表面に塗料膜を形成するインモールドコート法に好適に適用される樹脂成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
金型を用いた樹脂成形方法には、金型のキャビティ面と成形品の表面(製品面)との間の隙間に塗料を注入して塗料膜を形成するインモールドコート法がある。図5は、インモールドコート法に使用される金型10である。金型10は固定型101と可動型102とを備えている。可動型102には、たとえばキャビティCの中央部に連通する樹脂供給路103が設けられ、固定型101には、キャビティCの端部近傍に連通する塗料注入路104が設けられている。なお、符号101A,102Aは分割面である。
【0003】
インモールドコート法では、図5(A)に示すように、固定型101と可動型102を型締めしてキャビティCを形成し、射出によって樹脂供給路103を通じて樹脂1をキャビティCに充填する。次いで、樹脂1を冷却すると、図5(B)に示すように、樹脂1が凝固して成形品2が作製される。このとき、キャビティCの固定型側キャビティ面と成形品2の表面(製品面)との間には樹脂収縮により隙間が形成される。
【0004】
次に、図5(C)に示すように、キャビティCの固定型側キャビティ面と成形品2の製品面との間の隙間に、塗料注入路104を通じて塗料3を注入すると、塗料3が硬化して成形品2の製品面に塗料膜4が形成される。次に、図5(D)に示すように、製品面に塗料膜4が形成された成形品2を金型から脱型する。
【0005】
このようなインモールドコート法では、成形品の塗料膜を良好に形成し、製品面の意匠性を向上させるために種々の金型が提案されている。たとえば、特許文献1の金型では、成形品作製後、分割面のシール溝に樹脂シールを形成することにより分割面の間からの塗料の漏出防止を図っている。また、特許文献1の金型では、可動型における樹脂シールが形成される端部を中央部から分割し、その端部を固定型の分割面に向けて弾性部材により付勢することにより、分割面での樹脂シールによるシール性の更なる向上を図っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、以上のような従来の金型では、図5(B)に示す冷却時に樹脂収縮が起こるため、図6に示すように、キャビティCの固定型側キャビティ面と成形品2の製品面との間だけではなく、成形品2の端面と可動型側キャビティ面との間でも隙間が形成される虞がある。このため、図5(C)に示すようにキャビティCの固定型側キャビティ面と成形品2の製品面との間の隙間に塗料3を注入すると、塗料3は、成形品2の端面と可動型側キャビティ面との間の隙間へ漏出し、ひいては、成形品2の裏面と可動型側キャビティ面との間の隙間へ漏出してしまう。また、樹脂収縮時に、成形品2の製品面には凹凸が形成されるため、成形品2の製品面の塗料膜4にも凹凸が形成され、製品面の意匠性が損なわれる。
【0007】
【特許文献1】特開平11−333850号公報
【0008】
したがって、本発明は、成形品の製品面以外の面への塗料の回り込みを防止することができるとともに、成形品の製品面の意匠性の向上を図ることができる樹脂成形用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の樹脂成形用金型は、キャビティの端部に設けられた空間に、その空間の内面に沿って摺動自在に設けられた入れ子と、キャビティ内に供給される樹脂に向けて入れ子を押圧する押圧手段とを備え、入れ子は、押圧手段による押圧によって、樹脂の収縮に追従可能とされていることを特徴としている。
【0010】
本発明の樹脂成形用金型では、キャビティの端部の空間に配置された入れ子は、押圧手段による押圧によって、樹脂の収縮に追従可能にされているので、樹脂の凝固による成形品の作製後、成形品の端面とキャビティの可動型側キャビティ面との接触が維持されている。このように成形品の端面と可動型側キャビティ面との間での隙間形成を防止することができるので、キャビティの固定型側キャビティ面と成形品の製品面との間に塗料を注入しても、成形品の製品面以外の面への塗料の回り込みを防止することができる。また、押圧手段による押圧力を適宜設定することにより、入れ子は、塗料の注入により印加される圧力に応じて移動することができるので、塗料の硬化時に成形品の製品面を塗料に押し付けることができる。したがって、成形品と塗料の密着性の向上を図ることができるので、塗料の表面は固定型側キャビティ面に対応する形状となる。その結果、塗料膜が形成された成形品の製品面の意匠性を向上させることができる。
【0011】
本発明の樹脂成形用金型は種々の構成を用いることができる。たとえば、入れ子の移動を所定範囲に規制する規制部を設けることができる。この態様では、入れ子が樹脂の射出圧や保圧により下方に押圧されたときに、入れ子は所定のストローク長で止まるように設定することができる。したがって、入れ子を通じた押圧手段への必要以上の力の印加を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂成形用金型によれば、キャビティの端部の空間に配置された入れ子を、押圧手段による押圧によって、樹脂の収縮に追従可能としているので、成形品の製品面以外の面への塗料の回り込みを防止することができるとともに、成形品の製品面の意匠性の向上を図ることができる等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1)実施形態の構成
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る一実施形態の金型100の構成を表し、(A)は金型100の側断面図、(B)は金型100の可動型102における入れ子120が配置される部分の断面図である。図1(B)では、入れ子120の下方に位置するバネ140を図示している。なお、図1に示す金型100では、図5においてキャビティCの端部に空間110を設け、そこに入れ子120およびバネ140等を用いた以外は金型10と同様であるから、金型10と同様な構成要素には同符号を付し、その説明は省略している。
【0014】
可動型102には、図1(A)に示すように、キャビティCの縦壁端部に連通する空間110が設けられている。空間110の上端部は、キャビティCの縦壁端部形状と同様な形状を有している。空間110には、その空間の内面に沿って摺動自在に移動する入れ子120が設けられている。入れ子120の上端部は、図1(B)に示すように、キャビティCの縦壁端部形状および空間110の上端部形状に対応する形状を有し、その摺動において空間110の内面とのシール性が確保されている。これにより、キャビティCに充填される樹脂の空間110への漏出が防止されている。
【0015】
入れ子130の縦方向中間部には、たとえば断面逆台形状をなす凹部121が形成されている。凹部121には、空間120に形成された凸部130が係合する。凸部130はたとえ断面三角形状をなしている。凹部121および凸部130は、入れ子120の可動範囲を規制する規制部として機能している。
【0016】
具体的には、凸部130の下側テーパ面が凹部121の下側テーパ面に当接するときに、入れ子120のキャビティC側への突出量が最大となる(入れ子120の上限位置となる)。凸部130の上側テーパ面が凹部121の上側テーパ面に当接するときに、入れ子120のキャビティCの反対側への引っ込み量が最大となる(入れ子120の下限位置となる)。そのような上限と下限との間の間隔が入れ子120のストローク長Sとなる。ストローク長Sは、樹脂の凝固時の収縮量の範囲に基づいて設定される。具体的には、入れ子120は、樹脂の収縮に追従して、図の上方向(樹脂側)に移動し、入れ子120の上面と樹脂の下面との接触が維持されている。
【0017】
入れ子120の下面と空間110の底面との間には、キャビティCの内部に向けて入れ子120を押圧する押圧手段としてバネ140が設けられている。バネ140は、図1(B)に示すように、入れ子120の横方向(キャビティCの縦壁の延在方向とは直交する方向)に沿って複数設けられている。バネ140の設置個数やバネ定数は、樹脂の射出圧や保圧に応じた入れ子120の移動範囲の設定、樹脂の収縮への追従範囲の設定、塗料の注入により印加される圧力に応じた移動範囲の設定等に基づいて決定される。押圧手段としては、バネ140の代わりに油圧系等を用いてもよい。
【0018】
(2)実施形態の動作
上記構成を有する樹脂成形用金型100(以下、金型100)の動作について、おもに図2を参照して説明する。図2は、金型100をインモールドコート法に適用した場合の各状態を表し、(A)は樹脂の射出時、(B)は樹脂の充填時、(C)は冷却時、(D)は塗料の注入時を表す金型100の側断面図である。
【0019】
まず、固定型101と可動型102との型締めによりキャビティCを形成する。分割面101A,102Aの間はシールされている。この場合、凸部130の下側テーパ面が、図2(A)に示すように、入れ子120の凹部121の下側テーパ面に当接し、入れ子120が上限に位置している。次いで、図2(A)に示す状態において、射出によってキャビティC内に樹脂11を供給し、図2(B)に示すように、樹脂11を充填する。このとき、樹脂11が入れ子120の上面に接触し、入れ子120の上面は樹脂11の射出圧や保圧を受ける。そして、たとえば凸部130の上側テーパ面が入れ子120の凹部121の上側テーパ面に当接するまで入れ子120は下方に移動し、入れ子120が下限に位置する。
【0020】
次いで、樹脂1を冷却すると、図2(B)に示すように、樹脂11が凝固して成形品12が作製される。このような冷却時に樹脂収縮が起こるが、このときに保圧の調整によって樹脂の体積収縮を制御することにより、キャビティCの固定型側キャビティ面と成形品12の表面(製品面)との間に隙間を形成することが好適である。この場合、下記の塗料膜の設定膜厚に必要な所定長の隙間が得られるように保圧を制御する。また、入れ子120は、バネ140による上方向への押圧により樹脂収縮に追従して、図の上方向(樹脂側)に移動する。これにより、入れ子120の上面と成形品12の下面との接触が維持されているので、成形品12の端面と可動型側キャビティ面との間での隙間形成を防止することができる。
【0021】
続いて、図2(D)に示すように、キャビティCの固定型側キャビティ面と成形品12の表面(製品面)との間にの隙間に塗料13を注入する。このとき、入れ子120は、塗料13の注入により印加される圧力に応じて移動することにより、成形品12の表面を塗料13に押し付けることができるので、塗料13の硬化時に成形品12と塗料13の密着性の向上を図ることができる。次いで、このようにして製品面に塗料膜が形成された成形品12を金型から脱型する。
【0022】
以上のように本実施形態では、成形品12の作製後、成形品12の端面と可動型側キャビティ面との間での隙間形成を防止することができるので、キャビティCの固定型側キャビティ面と成形品12の製品面との間に塗料を注入しても、成形品12の製品面以外の面への塗料13の回り込みを防止することができる。また、成形品12と塗料13の密着性の向上を図ることができるので、塗料13の表面が固定型側キャビティ面に対応する形状となることにより、塗料膜が形成された成形品12の製品面の意匠性を向上させることができる。
【0023】
特に、入れ子120の移動を所定範囲に規制する規制部として凹部121および凸部130を設けているので、入れ子120が樹脂11の射出圧や保圧により下方に押圧されたときに、入れ子120は所定のストローク長で止まるように設定することができる。したがって、入れ子120を通じたバネ140への必要以上の力の印加を抑制することができる。
【0024】
(3)実施形態の変更例
以上のように上記実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。なお、以下の変形例では、上記実施形態と同様な構成要素には同符号を付し、その説明は省略している。たとえば、キャビティCの端部の空間に配置される入れ子や規制部の形状は、上記実施形態の入れ子120の形状や凹部121および凸部130の形状に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0025】
たとえば図3(A)に示す金型200では、入れ子220に断面台形状の凸部221を設けるとともに、その凸部221が係合する凹部230を可動型102に設ける。入れ子220の凸部221および可動型102の凹部230が規制部として機能し、入れ子220のストローク長Sが設定される。また、たとえば図3(B)に示す金型300では、入れ子320に断面矩形状の凹部321を設けるとともに、その凹部321に係合する凸部330を可動型102に設ける。入れ子320の凹部321および可動型102の凸部330が規制部として機能し、入れ子320のストローク長Sが設定される。
【0026】
入れ子120の上端部の形状は、キャビティCの縦壁端部の形状に応じて設定される。図4の断面図は、図1(B)の断面図と同じ方向から切断したものである。たとえば、図4に示す入れ子120では、図1(B)のバー形状に直交する方向に延在するリブ部を設けるとともに、リブ部を上方向に押圧するバネ140を設ける。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る一実施形態の樹脂成形用金型の構成を表し、(A)は側断面図、(B)は1B−1B線の断面図である。
【図2】図1の樹脂成形用金型をインモールドコート法に適用した場合の各状態を表し、(A)は樹脂の射出時、(B)は樹脂の充填時、(C)は冷却時、(D)は塗料の注入時の樹脂成形用金型の側断面図である。
【図3】(A),(B)は本発明に係る一実施形態の樹脂成形用金型の規制部の変形例を表す側断面図である。
【図4】本発明に係る一実施形態の樹脂成形用金型の入れ子の変形例を表す断面図である。
【図5】従来の樹脂成形用金型を用いたインモールドコート法の各状態を表し、(A)は樹脂の射出時、(B)は冷却時、(C)は塗料の注入・硬化時、(D)は脱型時の樹脂成形用金型の側断面図である。
【図6】従来の樹脂成形用金型を用いたインモールドコート法で樹脂収縮により発生する問題点を説明するための樹脂成形用金型の側断面図である。
【符号の説明】
【0028】
100…樹脂成形用金型、110,210,310…空間、120,220,320…入れ子、121,321…凹部(規制部)、130,330…凸部(規制部)、140…バネ(押圧手段)、221…凸部(規制部)、230…凸部(規制部)、C…キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティの端部に設けられた空間に、その空間の内面に沿って摺動自在に設けられた入れ子と、
前記キャビティ内に供給される樹脂に向けて前記入れ子を押圧する押圧手段とを備え、
前記入れ子は、前記押圧手段による押圧によって、前記樹脂の収縮に追従可能とされていることを特徴とする樹脂成形用金型。
【請求項2】
前記入れ子の移動を所定範囲に規制する規制部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形用金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−42549(P2010−42549A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206944(P2008−206944)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】