説明

樹脂板溶着装置及びその方法

【課題】誘電加熱による最も高温となる部位を樹脂板の裏面側に変位させることによって、おもて面側の溶融域を狭小とし、おもて面に凹みが発生するのを防止する。
【解決手段】樹脂板溶着装置は、おもて面が揃えられた所定厚を有する少なくとも2枚の溶着対象となる樹脂板1を、その端面1a同士の突き合わせ部位に誘電加熱を施すことによって溶着するもので、それぞれ所要厚を有する長尺体で、端面同士が、樹脂板1を挟んで対向配置される誘電加熱用の対向電極411,4221と、対向電極411,4221に挟持された状態の樹脂板1の裏面に敷設される熱担持層材413とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向電極間に高周波電力を供給し、誘電加熱によって樹脂板をその端面同士で溶着する装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば有価証券の図柄等の画線が彫刻された凹版原版から、樹脂版へのプレス転写技術、所定サイズに精度良く裁断する技術、及び複数枚の樹脂版間の端面接合技術を利用して、多面樹脂版を作製する多面版作製方法が知られている(特許文献1)。そして、この多面樹脂版から刷版が作成され、印刷処理に供されて、多数の印刷物(前記有価証券)が得られる。特許文献2には、前記多面樹脂板の溶着方法として、おもて面に画線が凸版印刷された樹脂板を複数枚準備し、互いの端面を、すなわち辺と辺とを突合せた状態とし、この突合せ部位を上下の電極で押圧挟持して誘電加熱を施し、溶着することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−253880号公報
【特許文献2】特許第4649627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2には、突合せ部分において、おもて面が裏面より遅く冷えて固化するため、おもて面に凹みが生じるという従来の問題点を解決するための上部電極と下部電極の構造が提案されている。より詳細には、樹脂板の裏面側に接する下部電極は、立直された板状の電極の上端面と、その左右両側の保熱用の樹脂部とを備えた構造であり、一方、樹脂板のおもて面(上面)側に接する上部電極は、板状を有する電極の下部を水平に屈曲させてより広い面で接触する上表面を備えた構造である。かかる構造により、樹脂板は、誘電加熱処理が施されると、突合せ部分において略V字型断面領域で溶融され、次いで、誘電加熱処理後に、保熱用の樹脂で囲まれた下面側よりも、広い接触面の上部電極からの放熱を利用して、おもて面側が速く冷やされ、固化されるようにしている。そして、この結果、凹みが樹脂板の裏面側に形成され、おもて面側への凹みの形成が防止される。
【0005】
しかしながら、特許文献2では、樹脂板のおもて面側と裏面側との冷却に時間差を持たせるために電極周りの構造を工夫したものである一方、誘電加熱による樹脂板の溶融領域が、おもて面側まで充分に乃至むしろ広くなるような略V字型断面領域であることから、溶融時に上部電極からの所定の押圧力による挟持によって、上部電極の下表面と当接している部位に電極の形状に一致した跡が、段違い的な凹みとして形成される虞があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、固化の時間差を利用するものではなく、誘電加熱による最も高温となる部位を樹脂板の裏面側に変位させることによって、おもて面側の溶融域を狭小とし、おもて面に凹みが発生するのを防止する樹脂板溶着装置及びその方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、おもて面が揃えられた所定厚を有する少なくとも2枚の溶着対象となる樹脂板を、その端面同士の突き合わせ部位に誘電加熱を施すことによって溶着する樹脂板溶着装置において、それぞれ所要厚を有する長尺体で、端面同士が、前記樹脂板を挟んで対向配置される誘電加熱用の対向電極と、前記対向電極に挟持された状態の前記樹脂板の裏面に敷設される熱担持層材とを備えたことを特徴とするものである。
【0008】
また、請求項8記載の発明は、おもて面が揃えられた所定厚を有する少なくとも2枚の溶着対象となる樹脂板を、その端面同士の突き合わせ部位に誘電加熱を施すことによって溶着する樹脂板溶着方法において、それぞれ所要厚を有する長尺体であって端面同士が対向配置される誘電加熱用の対向電極の間に、前記樹脂板を、前記突き合わせ部位が前記対向電極の各端面の厚さ寸法内に位置合わされた状態で挟み、かつ当該樹脂板の裏面に熱担持層材を敷設した状態で、前記対向電極間に高周波電力を供給することを特徴とするものである。
【0009】
まず、誘電加熱による加熱対象物の一般的な内部温度分布について説明する。通常、電極間に介在された所要厚の加熱対象物は電極間に高周波電力が供給されると、誘電損に応じた熱量分の内部加熱が行われ、内部温度が上昇する。一方、電極自体は発熱しないことから、加熱対象物の内部温度は、電極に接する両方の表面側で低く、内部が向かって高くなり、主に中心部位が高くなる。
【0010】
一方、本発明によれば、対向電極間に、溶着対象となる所定厚の樹脂板の他に、その裏面側に熱担持層材が敷設状態で介設される。そして、誘電加熱が施されると、樹脂板及び熱担持層材は加熱され、それぞれ所要の温度に上昇する。このとき、樹脂板の内部温度分布は、おもて面側は対向電極に接しているため熱移動を受けて(熱が逃げて)、相対的に低温となる一方、裏面側は熱担持層材に接しているため熱担持層材の発熱温度又は保熱温度となる、すなわち裏面側は温度が嵩上げされる。従って、樹脂板の内部において温度が高くなる部位は、熱担持層材による温度嵩上げ分だけ、厚さ方向の中心位置よりも裏面に近い部位へ変位することとなる。高温部位を裏面に近い部位へ変位させるようにすることで、樹脂板の端面の突き合わせ部位では、裏面側で溶融を充分(な領域)に行わせる一方、おもて面側では相対的に狭い領域で、すなわち端面同士の溶着が可能な程度の溶融を行わせることが可能となる。そのため、固化に際しては、おもて面側と裏面側との固化の時間差と無関係に、裏面には収縮に起因する凹みが発生する場合があるとしても、おもて面側には凹みも段差もほとんど生じないこととなる。なお、熱担持層材は、予め敷設された態様でもよいし、予め用意されており、誘電加熱処理時に敷設する態様でもよい。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の樹脂板溶着装置において、前記対向電極に挟持された状態の前記樹脂板のおもて面に敷設される変形吸収層材を備えたことを特徴とする。請求項9記載の発明は、請求項8に記載の樹脂板溶着方法において、前記対向電極に挟持された状態の前記樹脂板のおもて面に変形吸収層材を敷設することを特徴とする。かかる構成によれば、樹脂板のおもて面側は平滑さが維持される。すなわち、樹脂板の突き合わせ部位のおもて面には、対向電極の内、おもて面側に対向する電極の端面が当接することになる。電極の端面は必ずしも高い平面性を有しているとは限らず、また経年使用も考慮すると、多少凸凹になっている場合も考えられ、このような場合に電極の端面に直に樹脂板が当接する態様では、部分的とはいえ誘電加熱により溶融した表面に電極端面の凸凹が転写される虞がある。これは、おもて面の溶融が好適な狭小領域に制御される態様、電極端面の平面性が高い場合、押圧力が適正であれば、ほとんど問題とはならないともいえる。一方、変形吸収層材を敷設することで、上記の態様が万全でない場合であっても、電極端面の凸凹は変形吸収層材で吸収され、樹脂板のおもて面には転写されない。また、電極端面のエッジが段差として樹脂板のおもて面に転写されることもなくなる。さらに、おもて面側の電極の側壁に電極端面と面一となる絶縁材が補助材として配設されている場合、絶縁材の端縁(エッジ)が段差として樹脂板の表面に転写されることもなくなる。変形吸収材としては、剛直性、硬質性、耐熱性を備える材料であることが好ましい。例えば、ポリイミド(Polyimide)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の薄層材乃至フィルム状のものが好ましい。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載の樹脂板溶着装置において、前記熱担持層材は、誘電体であることを特徴とする。かかる構成によれば、誘電加熱時に併せて自己発熱することによって所要温度まで上昇するので、温度嵩上げが能動的に実現される。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2に記載の樹脂板溶着装置において、前記熱担持層材は、高熱伝導率を有する材料であることを特徴とする。かかる構成によれば、誘電加熱か外部加熱かを問わず、発熱が容易となるので温度嵩上げが効果的となる。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂板溶着装置において、前記熱担持層材は、所定の厚さを有することを特徴とする。かかる構成によれば、熱量を所要量とすることで(放熱分を考慮しての)嵩上げ温度が設定可能となり、樹脂板の高温となる部位を裏面側に近い所望の部位に調整することが可能となる。その結果、樹脂板のおもて面を相対的に低い温度、すなわちおもて面における溶融領域を可及的に狭い域に調整することが従来に比して可能乃至容易となる。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂板溶着装置において、前記樹脂板は、熱可塑性樹脂材であり、前記熱担持層材は、フッ素樹脂であることを特徴とする。かかる構成によれば、熱可塑性樹脂材として、例えばポリ塩化ビニル(Poly vinyl chloride)が採用された場合、その融点は180℃であり、一方、フッ素樹脂として例えばテフロン(登録商標)が採用された場合、その融点は300℃以上であり、また誘電率(すなわち誘電損)も低いことから、樹脂板の突き合わせ部位の溶融に際して、熱担持層材が溶融することはなく、樹脂板に熱担持層材が接着するという不都合はない。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂板溶着装置において、前記対向電極は、各々の端面の厚さが略同一であることを特徴とする。かかる構成によれば、樹脂板の端面同士の突き合わせ部位に対して効果的乃至は集中的な溶融を施すことができ、不必要な溶融領域を形成しない分、可及的に凹みの発生が防止され、かつ省電にもつながる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、誘電加熱による最も高温となる部位を樹脂板の裏面側に変位させることによって、おもて面側の溶融域を狭小とし、おもて面に凹みが発生するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る樹脂板溶着装置の一実施形態を示す概略構成を示す平面図である。
【図2】本発明に係る樹脂板溶着装置の一実施形態を示す概略構成を示す正面図である。
【図3】本発明に係る樹脂板溶着装置の一実施形態を示す概略構成を示す左側面図である。
【図4】複数枚の樹脂板の配列載置状態を示す平面図である。
【図5】電極構成部の詳細構造を示す一部断面図である。
【図6】誘電加熱時における温度勾配を示す図で、(a)は、熱担持層材が敷設された場合の温度勾配を示し、(b)は熱担持層材が敷設されていない場合の温度勾配を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜図3は、本発明に係る樹脂板溶着装置の一実施形態を示す概略構成図で、図1は平面図、図2は正面図、図3は左側面図である。図4は、複数枚の樹脂板の配列載置状態を示す平面図である。
【0020】
これらの図に示すように、樹脂板溶着装置は、溶着処理を実行するための各処理部を支持するための金属等からなる堅牢な本体10を備えている。溶着処理を実行するための各処理部として、複数の樹脂板1を配列して載置する載置部20、載置部20を移送する移送部30、及び配列されている樹脂板1の端面同士の突き合わせ部位を溶着する溶着部40が設けられている。本体10は、各処理部を支持するためのもので、種々の形状、構造が採用可能であるが、本実施形態では、複数の枠体を組み付けた構造体を採用している。本体10は、載置部20を支持する枠体部11と、溶着部40を支持する枠体部12とを備えている。枠体部11と枠体部12とは、図2から判るように、水平方向に隣接して、例えば一体構成とされている。移送部30は枠体部11、枠体部12間に亘って配置されている。枠体部11,12はいずれも、略正方形をなす枠体が立直支柱を介して平行で、かつ上下方向に所定距離離して複数段組み付けられている。本実施形態では、枠体部11は2段構成であり、枠体部12は3段構成である。枠体部12の最上段には複数の桁121(図1参照)が掛けられており、この桁121に、後述する上電極部42等が支持されている。
【0021】
載置部20は、所定枚数の樹脂板1をマトリクス状に位置決めして載置するものである。載置部20は、図4にも示すように、アルミニウム等の金属材からなる略正方形をした平面状の載置板21と、載置板21の周縁の嵩上げされた段部22と、載置板21の直交する2辺に設けられた位置決め固定板231,232と、位置決め固定板231,232と対向し、接離方向にスライド可能な位置決めスライド板241,242とを備えている。
【0022】
図4(図1も同様)においては、載置板21自体の平面図として説明することもできる(断面図は図5参照)が、以下では載置板21上に複数の樹脂板1等が配列載置された状態として説明している。載置板21の上面中央域には所定サイズ及び所定形状(主に四角形)の樹脂板1が例えばマトリクス状に配列され、その前後左右の周囲にはダミー用の樹脂板1fが配設されている。樹脂板1及びダミー樹脂板1fは、ここでは、例えば塩化ビニル材で製造されている。樹脂板1は、所定サイズ、例えばセンチメートル(cm)オーダ〜数十センチメートル(cm)オーダのサイズを有するものが想定され、本実施形態では縦横が数cm及び十数cmである。また、厚さは0.数mm〜数mm程度が想定され、本実施形態では一般的な0.7mmである。樹脂板1は、本実施形態では、6枚×4枚の長方形の樹脂板1がマトリクス状に配置され、その周囲にダミー樹脂板1fが配置されている。ダミー樹脂板1fは、溶着後の多面樹脂板の周縁部位を内側の端面1aと同様な溶着状態に仕上げるためのもので、用途等を考慮し、必要に応じて採用されるものである。
【0023】
この配置状態で、位置決めスライド板241,242を対向する位置決め固定板231,232に接離操作することで、全ての樹脂板1が端面1a同士を当接(突き合わせ)した状態で所定位置に位置決めされる。載置板21上には、位置決めスライド板241,242を前記接離方向へスライドさせるための方向規制ガイド241a,242aが設けられている。さらに載置板21には、位置決めスライド板241,242が位置決めされた状態で、当該位置決めスライド板241,242の位置ずれを規制する位置ずれ規制部材241b、242bが設けられている。位置ずれ規制部材241b、242bは公知の機構的なロック部材が採用可能であり、あるいはエアシリンダ等を用いて付勢力を付与することで位置ずれ規制をする態様としてもよい。
【0024】
載置板21は、樹脂板1の載置予定位置の範囲内には所要数の吸引孔25が穿設されている。各吸引孔25は、この実施例では後述する熱担持層材413上面から載置板21の裏面側まで形成され、さらに図略の連通管を介して図略のコンプレッサに連設されている。これは、載置板21上に載置された樹脂板1を裏面から吸引することで、めくれ等を防止して位置精度を確保するものである。なお、吸引孔25はダミー樹脂板1f側にも設けられている。
【0025】
また、載置板21は溶着部40の下電極部41の一部を構成している。下電極部41の構造については後述する。
【0026】
移送部30は、載置部20を搭載する支持部31と、支持部31の下方に配設され、載置部20を支持部31の上方で昇降させる昇降部32と、支持部31を枠体部11と枠体部12との間で移動させる移動機構部33と、移動機構部33を介して支持部31に移動力を付与するための移動駆動部34とを備えている。
【0027】
支持部31は、載置板21の四角形より多少小さい面積を有する環状体311を有する。環状体311の周囲上面であって、載置板21の下面適所と対面する位置(あるいは段部22と対面する位置)には、少なくとも2個の位置合わせ構造(図略)が採用されている。位置合わせ構造は公知のものが採用可能であり、図示していないが、例えば、載置板21(あるいは段部22)の下面に1個のピンが下方に立設され、一方、環状体311の上面に中心角で90度離れた周方向位置に2個の位置合わせ穴が穿設されている構造が好ましい。これによれば、載置部20側の1個のピンを各位置合わせ穴に嵌挿することで載置部20を、すなわち載置部20に載置された樹脂板1を90度方向に向きを変換し、その向きを維持することが可能となる。
【0028】
昇降部32は、環状体311の下方であって、枠体部11に固定された円板状の水平基板320と、水平基板320の周囲の適所に、少なくとも1個、ここでは2個のシリンダ321が上下方向に向けて取り付けられている。シリンダ321の上部からはプランジャ322が出没可能にされている。プランジャ322の上端には水平に向けられた昇降板326が取り付けられ、プランジャ322の昇降と一体で昇降可能にされている。なお、昇降機構はシリンダ321に限定されず、他の公知の駆動機構でもよい。また、水平基板320には環状体311の中心から(環状体311の環の内側となる)所定半径の円周上に等間隔で3個以上、ここでは4個のキャスタ基部323が上下方向を向けて取り付けられている。キャスタ基部323は筒体であり、上部から出没可能にされたスライド軸324が内嵌されている。スライド軸324の上端にはキャスタ325が水平軸周りに従動可能に取り付けられている。なお、キャスタ325の回転軸は環状体311の中心に向けられている。かかる構造を採用することで、プランジャ322が上昇して(前述のピンと位置決め穴との係合が外れて)、キャスタ325が環状体311の内側隙間から上方へ抜けて載置部20を持ち上げることができ、この状態で、載置部20に周方向への回転力を付与すると、キャスタ325が転動して、支持部31に対する載置部20の向き、すなわち樹脂板1の向きを90度変更することが可能となる。そして、プランジャ322を降ろすと、ピンと新たな位置決め穴とが嵌挿することとなり、90度移相された向きでの位置がロックされる。
【0029】
移動機構部33は、枠体部11,12間に亘って配置された互いに平行な2本のリニアガイド331と、支持部31の裏面、すなわち環状体311の内側一部に配設された底板の適所に取り付けられ、リニアガイド331に嵌合されて摺動する移動体332とを備えていると共に、枠体部11,12間に亘って配置され、リニアガイド331と平行な長尺のボールネジ部333と、環状体311の底板の適所に取り付けられ、ボールネジ部333に螺設される雌ねじ部334とを備えている。なお、リニアガイド331は本実施形態では、2本であり、水平面上で所定距離離間して互いに平行配置されている。
【0030】
かかる構造によれば、ボールネジ部333が回動すると、その回動力は雌ねじ部334を介して、支持部31に伝達され、支持部31及びその上に載置された載置部20がリニアガイド331に沿って移動することとなる。
【0031】
移動駆動部34は、枠体部12に取り付けられ、ボールネジ部333に回転力を付与するものである。移動駆動部34は、外部から操作可能な、例えばハンドルである第1操作部341及び第2操作部342と、第1操作部341及び第2操作部342とボールネジ部333との間に介在され、第1操作部341及び第2操作部342からの回転力を複数のギア段を経由してボールネジ部333に伝達する回転力伝達機構部343とを備えている。なお、第1操作部341及び第2操作部342は、2経路の伝達系内においてそれぞれのギア比によって、第1操作部341は高速移動用として、また第2操作部342は低速移動用、すなわち精度出し用(位置決め用)として使用される(図2では第2操作部342は省略されている)。なお、例えば第2操作部342側に一方向クラッチ等を介在させておけば、第1操作部341の操作時における供回りは防止できる。かかる構造によれば、第1操作部341を操作すると、回転力が回転力伝達機構部343を経てボールネジ部333に伝達され、この結果、載置部20が、図2の左右方向に素速く移動する。第2操作部342は、載置部20が溶着部40側に移送されてきた後の、細かい位置合わせに使用されることで、正確に溶着位置に位置決め可能となる。
【0032】
溶着部40は、下電極部41と、上電極部42と、高周波電流(電力)を生成する発振器及び操作部からなる、例えばコンソール型の電源部43とを備えている。上電極部42は、枠体部12の上部の桁121に取り付けられた昇降部421と、昇降部421に支持された電極構成部422とを備えている。昇降部421は、種々の駆動機構が採用可能であるが、本実施形態ではシリンダが採用されてなり、シリンダ本体4211の下端からプランジャ4212が下方に向けて出没可能に配設されている。また、昇降部421は、シリンダの両側に昇降ガイド部4213,4214が下方に向けて一対設けられている。なお、図2では、手前側の昇降ガイド部4214は便宜上省略している。プランジャ4212及び昇降ガイド部4213,4214の下端には水平な支持板4215が取り付けられている。昇降ガイド部4213,4214は枠体部12との取付部分が筒体で形成され、この筒体に摺動可能にスライド棒が遊嵌されている。従って、プランジャ4212の昇降に連動して昇降ガイド部4213,4214のスライド棒も昇降し、その結果、これらに取り付けられた支持板4215は水平姿勢を維持しながら昇降される。この支持板4215の下部には絶縁材からなる複数本の支柱4216が上下方向に立直され、その下端に電極構成部422を支持する金属製の支持部4217が取り付けられている。支持部4217は電極構成部422の長さに対応する長さ寸法、例えば多少長めの寸法を有する長尺体で、長さ方向の中央位置には、高周波電力の導線接続用としての導電部4218が設けられている。
【0033】
電極構成部422は、図3に示すように、載置板21上に配列された複数枚の樹脂板1に対して、(ダミー樹脂板1fも含めた)最大寸法の1ライン分を一度に誘電加熱処理可能な長尺寸法を有している。
【0034】
図5は、電極構成部の詳細構造を示す一部断面図である。図5は、説明の便宜上、厚さ方向を誇張して示している。図5において、上電極部42の電極構成部422は、支持部4217から下方に突出された電極板4221と、電極板4221の両側面側に配置される、エポキシ樹脂等の樹脂製の補助板4222と、電極板4221に補助板4222を連結する、例えばボルトナット等の連結具4223とを有している。電極板4221は、前記1ライン分に相当する長さを有する金属製の長尺体で、下端面の幅、すなわち厚さは数mm程度が好ましく、本実施形態では約3mmが採用されている。また、各補助板4222は電極板4221と同一長さを有し、厚さは誘電加熱時に軟化する領域幅を含む寸法、本実施形態では各々5mmに設定されている。
【0035】
下電極部41は、本実施形態では、載置板21の上面に形成されている。下電極部41は、載置板21上であって、図4に示すように、複数配列された樹脂板1及びダミー樹脂板1fの載置面を少なくとも覆う領域に設けられている。下電極部41は、電極板4221に対応して配置される金属製の電極板411と、電極板411の両側面側に配置される、エポキシ樹脂等の樹脂製の補助板412と、電極板411及び補助板412の上面に敷設されるテフロン(登録商標)等の熱担持層材413と、電極板411を載置板21に固設する、例えばボルトナット等の締結具414とを有している。なお、アルミニウムからなる載置板21側は高周波電流のアース側とされている。
【0036】
電極板411は、載置板21上に載置される樹脂板1及びダミー樹脂板1fの配列位置が予め決まっている関係を利用しており、その決まっている配列に合わせた長さ形状に形成されている。すなわち、電極板411の平面視形状は、図4に示すように、樹脂板1同士及び樹脂板1とダミー樹脂板1fとの端面1aの突き合わせ位置(及び図5参照)に沿ったものとなっている。電極板411は、電極板4221と同程度か多少小幅に、本実施形態では上端面の厚さが2mm程度に、すなわち電極板4221とさほど変わらない程度乃至僅かに狭幅に設定されている。図5に破線で示すように、電極板4221及び電極板411が対向する場合、その厚さ寸法の中間位置に、溶着対象の樹脂板1同士(また樹脂板1とダミー樹脂板1fと)の端面1aが位置するようになされている。
【0037】
電極板411は、屈曲された下部4111で締結具414を介して載置板21に締結されている。電極板411の載置板21への取付構造は、本実施形態に限定されず、補助板412と係合させる形態等、種々の方法が採用可能である。補助板412は、電極板411の両側面側に敷設され、載置板21に例えば接着等されている。なお、補助板412の一方側、例えば図5の右側には、締結具414のための切欠が穿設されている。
【0038】
また、下電極部41は載置板21上に設けられる構造に限定されない。例えば載置板21は、図5に示す破線の下部側の部材とし、一方、破線の上部側を下電極の基板41aとするようにしてもよく、これによれば、下電極部41を強固な基板41a上に予め製造することができる。
【0039】
熱担持層材413は、電極板411の上面及び補助板412の上面を覆うように敷設されるもので、誘電加熱時に溶着対象の樹脂板1(及びダミー樹脂板1f)の端面1a同士の突き合わせ部位及び誘電加熱で溶融乃至は軟化する領域に積層させるものである。熱担持層材413は、端面1a同士の突き合わせ部位を挟んで、両側に所定幅、例えば幅50mm程度を有する。図4において、破線で示す部分は、熱担持層材413の敷設領域の一部を例示している。熱担持層材413は、後述するように熱を担持する機能を発揮するものであり、誘電加熱で自己発熱する材料でもよいし、樹脂板1の発熱量を受けて(あるいは他の外部加熱を受けて)、熱を逃がさないような熱伝導性の良い材料でもよい。本実施形態では所要厚のフッ素樹脂等のテフロン(登録商標)を採用している。厚さは担持熱量(温度)と関連するもので、ここでは0.5mm程度としている。なお、熱担持層材413は電極板411の上面及び補助板412の一部上面に限定されず、全面に敷設する態様であってもよい。この場合、敷設作業は容易となる。
【0040】
誘電加熱処理時には、昇降シリンダ421によって電極構成部422が下降されて、下電極部41と樹脂板1を挟持して所要圧で押圧される。変形吸収層材44は、誘電加熱時に、電極板4221と溶着対象の樹脂板1との間に介設され、樹脂板1の溶融乃至は軟化によって電極板4221及び補助板4222の押圧の痕跡、具体的には段差が生じないようにするためのものである。変形吸収層材44は、所要厚を有し、強度、硬質性に優れ、所要の弾性を備えた、耐熱性のある材料が好ましく、本実施形態では、ポリイミド製のフィルムを採用している。厚さは、電極板4221の押圧力、材料の強度、弾性、硬質性の程度に依存するものの、数μm〜数百μmが好ましく、さらには数十μmが好ましく、本実施形態では25μm程度としている。
【0041】
そして、溶着対象の複数枚の樹脂板1等が配列載置された載置部20が、移動機構部33、移動駆動部34によって、溶着部40の位置まで移送され、上電極部42が昇降シリンダ421によって樹脂板1上に敷設された変形吸収層材44上に降下された後、電源部43が駆動される。電源部43は、電源部と、前記電源部から、例えば10MHz〜40MHzのうちの所定周波数の高周波電流を生成する高周波部と、操作部とを備えている。操作部は、供給電力レベルや1回当たりの電力供給時間の設定を可能とする他、各駆動部に対する動作指示や誘電加熱処理の起動指示を行うボタン等の操作部を備えている。なお、供給電力は、樹脂板1とダミー樹脂板1fとの端面1aへの処理と、樹脂板1同士の端面1aへの処理とで、また縦横方向でライン長が異なる場合の処理長さ(寸法)に応じた電力が予め設定される。電力の大小は、供給レベルあるいは供給時間で調整されて、溶融域の均一化を図っている。
【0042】
図6は、誘電加熱時における温度勾配を示す図で、図6(a)は、熱担持層材が敷設された場合の温度勾配を示し、図6(b)は熱担持層材が敷設されていない場合の温度勾配を示している。なお、電極板4221は幅3mmとし、電極板411は幅2mmとし、樹脂板1の厚さは0.7mmとし、熱担持層材413の厚さは0.5mm(図6(a)のみ)とし、図5の構造を基本としている。
【0043】
まず、誘電加熱とは、樹脂を代表とする誘電体に高周波電流を供給すると、電界の向きが交互に反転することで誘電体の分子の極が交互反転を繰り返し、誘電損失に応じた内部加熱による発熱を生じるものである。誘電損失の大きなポリ塩化ビニル(PVC)などの熱可塑性樹脂が好適な材料とされている。
【0044】
図6(b)において、電極板4221と電極板411間に高周波電圧が印加され、すなわち高周波電力が供給されると、樹脂板1は内部加熱を生じる。そして、樹脂板1の両側面の境界条件に応じて厚み方向に温度勾配が発生する。この温度勾配は、上下の電極板411,4221の両対向面は格別温度上昇することはなく、電極板411,4221と接する位置では、樹脂板1の内部加熱の熱を放熱することで、温度が相対的に低くなる。従って、樹脂板1の厚さ方向では、図6(b)に、温度勾配Tdで示すように、その中間位置当たりが最高温度位置Pとなり、そこから上下の両表面に向かって温度が低くなる。樹脂板1の端面1a同士の突き合わせ部位では、最も高温となる位置が厚さ方向の中間位置であるため、上下面までが近く、上下面も充分に溶融されることになる。そうすると、おもて面側も充分に溶融することとなることから、誘電加熱後の冷却固化時の熱収縮に起因して凹みが生じ易い。なお、図6(b)で変形吸収層材44が敷設された場合を想定すると、おもて面側の冷却固化が裏面側より遅くなる可能性があるため、特許文献2と同様、熱収縮によっておもて面に凹みが生じる虞がある。
【0045】
一方、図6(a)において、熱担持層材413を敷設した場合には、誘電加熱によって、自己発熱あるいは熱伝導で発熱する結果(テフロン(登録商標)は誘電率は低く、伝熱で発熱)、熱担持層材413は所定の温度を有することとなる。そうすると、樹脂板1の厚さ方向の温度勾配Tdを観察すると、おもて面側は電極板4221に接するため、相対的に低い温度となり、他方、裏面側は熱担持層材413に接するため、所定温度に嵩上げされている。従って、樹脂板1の厚さ方向の熱担持層材413に近い側が最も高い温度になり(最高温度位置P)、この位置Pからおもて面までの距離が大きくなる分、おもて面での温度は、図6(b)に比して、より低いものとなる。あるいは、より低温とするよう供給電力の調整で実現容易となる。従って、樹脂板1は、裏面側が最も溶融し、おもて面側は端面1a同士の突き合わせ部位が少なくとも溶着する程度の溶融を行うようにすることが可能となる。このように、樹脂板1内の最も高温となる部位を厚さ方向の裏面側に変位することで、おもて面の溶融領域を端面1a同士の突き合わせ部位に制限乃至調整することが可能となる。従って、溶融領域及び溶融量が可及的に抑制できることから、熱収縮を殆どなくすことができる。
【0046】
なお、図6は熱担持層材413の有無における温度勾配乃至厚さ方向の溶融状態を比較したものであって、変形吸収層材44の有無は無関係であることから、図6中では、有無のいずれでもよい旨を示すべく、該当符号“44”に括弧を付している。
【0047】
次に、多面樹脂板の製造のための一連の動作について説明する。
【0048】
複数の樹脂板1(及びダミー樹脂板1f)が図1の向きで載置板21上に載置され、位置決めされ、さらに移動駆動部34への操作を受けて動作される移送部30によって溶着部40の所定位置に移送される。この状態で、上電極部42が降下され、樹脂板1の端面1a同士(及び樹脂板1とダミー樹脂板1fと)の突き合わせ部位上に所要圧で当接する。次いで、溶着部40が駆動されて、電源部43が駆動し、誘電加熱が所定時間行われる。図4の例では、移送部30によって、上電極部42が右端のダミー樹脂板1fとの端面1aである、長いラインI1(図4参照)に対して位置決めされ、ラインI1に対して、より大きな電力の高周波が供給される。電力供給が終了すると、上電極部42を上昇させ、次いで移動駆動部34を操作してラインI2が上電極部42の真下に位置決めされて上電極部42が降下され、この状態でラインI1と同レベルの高周波電力が供給される。電力供給が終了すると、上電極部42を上昇させ、続いて移動駆動部34を操作してラインI3が上電極部42の真下に位置決めされて上電極部42が降下され、この状態で、より低い電力の高周波が供給される。同様にして、高周波電力の供給が、ラインL4、…と繰り返し行われる。
【0049】
最終ラインへの高周波電力の供給処理が終了すると、上電極部42を上昇させ、移動駆動部34を操作して載置板21を枠体部11まで戻す。枠体部11の位置で、載置板21を昇降部32で持ち上げて、90°旋回(例えば図4を反時計方向に回転)させて、元の位置に降下する。続いて、移動駆動部34を操作して、枠体部12側まで移動させ、ラインK1からラインK2、…の順で、前述同様に高周波電力の供給を行う。ラインK側に対する供給電力量は、ラインI側の長さに対応して予め調整設定されている。全てのラインKに対する高周波電力の供給が終了して、多面樹脂板が作製される。
【0050】
なお、本発明は、以下の態様が採用可能である。
【0051】
(1)本実施形態では、証券等の有価印刷物の印版の作製に関するものであるが、その他、株券、商品券等の有価印刷物でもよく、さらに有価物に限定されない印刷物に対しても適用可能である。
【0052】
(2)本実施形態では、載置部20、移送部30は必ずしも必須とするものではない。例えば、載置板21と上下電極部41,42を備えた構造であればよい。また、樹脂板1の配列もマトリクス状に限定されず、求められる多面樹脂板の形態に応じた配列が採用可能である。
【0053】
(3)変形吸収層材44は必ずしも必須ではないが、変形吸収層材44を設けることで樹脂板1のおもて面の均一性を向上させることができる。
【0054】
(4)熱担持層材413によって最高温度位置P(図6参照)を樹脂板1の裏面側に近い位置と変位するようにしたが、裏面により近いほど、おもて面との距離が大きくなることから、おもて面の溶融域調整が容易となる。なお、裏面側は、撓みなどの他の影響が出ない範囲では、溶融域がある程度広くてもよいため、おもて面側の溶融域のみ検討すればよく、その分、電力調整は容易となる。
【符号の説明】
【0055】
1 樹脂板
1a 端面
20 載置部
30 移送部
40 溶着部
41 下電極部
411 電極板(対向電極)
412 補助板
413 熱担持層材
42 上電極部
4221 電極板(対向電極)
4222 補助板
44 変形吸収層材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
おもて面が揃えられた所定厚を有する少なくとも2枚の溶着対象となる樹脂板を、その端面同士の突き合わせ部位に誘電加熱を施すことによって溶着する樹脂板溶着装置において、
それぞれ所要厚を有する長尺体で、端面同士が、前記樹脂板を挟んで対向配置される誘電加熱用の対向電極と、
前記対向電極に挟持された状態の前記樹脂板の裏面に敷設される熱担持層材とを備えたことを特徴とする樹脂板溶着装置。
【請求項2】
前記対向電極に挟持された状態の前記樹脂板のおもて面に敷設される変形吸収層材を備えたことを特徴とする請求項1に記載の樹脂板溶着装置。
【請求項3】
前記熱担持層材は、誘電体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂板溶着装置。
【請求項4】
前記熱担持層材は、高熱伝導性を有する材料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂板溶着装置。
【請求項5】
前記熱担持層材は、所定の厚さを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂板溶着装置。
【請求項6】
前記樹脂板は、熱可塑性樹脂材であり、前記熱担持層材は、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂板溶着装置。
【請求項7】
前記対向電極は、各々の端面の厚さが略同一であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂板溶着装置。
【請求項8】
おもて面が揃えられた所定厚を有する少なくとも2枚の溶着対象となる樹脂板を、その端面同士の突き合わせ部位に誘電加熱を施すことによって溶着する樹脂板溶着方法において、
それぞれ所要厚を有する長尺体であって端面同士が対向配置される誘電加熱用の対向電極の間に、前記樹脂板を、前記突き合わせ部位が前記対向電極の各端面の厚さ寸法内に位置合わされた状態で挟み、かつ当該樹脂板の裏面に熱担持層材を敷設した状態で、前記対向電極間に高周波電力を供給することを特徴とする樹脂板溶着方法。
【請求項9】
前記対向電極に挟持された状態の前記樹脂板のおもて面に変形吸収層材を敷設することを特徴とする請求項8に記載の樹脂板溶着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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