説明

樹脂水性分散体及びその製造方法

【課題】従来、水性分散化することができなかった難水分解性酸変性ポリオレフィン/エーテルブロック共重合体の樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】酸変性ポリオレフィンのブロック(a)と、表面固有抵抗値が10
1011Ωであるポリエーテルのブロック(b)とが質量比(a)/(b)=40/60〜90/10の割合で結合してなり、かつ酸価が1〜50mgKOH/g樹脂であるブロック共重合体(A)と、水性媒体と、塩基性化合物とを含有することを特徴とする樹脂水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸変性ポリオレフィン/エーテルブロック共重合体を含有する樹脂水性分散体、それからなる帯電防止コート剤、積層体及び樹脂水性分散体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の樹脂材料は通常高い電気絶縁性を有するため帯電しやすい性質を持っている。このことにより、樹脂材料をフィルムや成形体とした場合、空気中のホコリや汚れを吸着して美観を損ねたり、フィルムどうしが張り付いたりする問題があった。さらには、電気機器やOA機器で使用した際はICの誤作動やメモリー破壊などの静電気障害を引き起こす場合があるなど種々の問題が発生する原因となっていた。
【0003】
それら問題を解決するため、熱可塑性樹脂に帯電防止性能を有したポリオレフィン/エテールブロック共重合体を練りこむ方法が広く知られるところである(特許文献1、2)。
【0004】
これらの方法で得られる樹脂組成物及びその成形体は水による帯電防止成分の溶出がなく、永久的に帯電防止を保持できる特徴を有している。しかしながら、帯電防止性能を十分発現させるためにポリオレフィン/エーテルブロック共重合体を樹脂材料に大量に配合する必要があり(例えば、樹脂材料に対して30質量%程度)、そのことにより用途に見合った樹脂材料の優れた物性を損なう場合があった。さらにはポリオレフィン/エーテルブロック共重合体などの高分子型帯電防止剤が高価なためコスト的な負担も大きかった。
【0005】
これらの方法に対し、樹脂材料の優れた物性を保持しつつ帯電防止性能を付与する方法として、ポリオレフィン/エーテルブロック共重合体を含有したコート剤を樹脂材料からなるフィルムや成型体に塗布し帯電防止コート層を積層する方法が考えられる。この方法においては、高分子型帯電防止剤をフィルムや成型体の表面に薄く積層することができるため、必要とされる高分子型帯電防止剤の使用量も少量でよくコスト的にもメリットが大きい。なおその様なコート剤としては、環境保全の観点から水系のものが望まれる。
【0006】
特許文献3より、ポリオレフィン/エーテルグラフト共重合構造を有する樹脂の水性分散体の製造方法が提案されている。しかしながら、得られたポリオレフィン/エーテルグラフト共重合体の帯電防止性能について記述がされておらず、水性分散体塗膜の帯電防止性能があまり良くなかった。さらに、ポリオレフィン/エーテルブロック共重合体が各種の有機溶媒への溶解性が悪いため、水性媒体に分散させることは行われていなかった。
【0007】
一方で特許文献4においては、酸変性ポリオレフィン樹脂を水性媒体に分散させる特殊の水性化方法が提案されている。しかしながら、この方法で酸変性ポリオレフィン/エーテルブロック共重合体の水性化ができるかどうかについての研究は今までされていなかった。
【特許文献1】特開2005−028771号公報
【特許文献2】特開2002−321314号公報
【特許文献3】特開2007−246871号公報
【特許文献4】特開2003−119328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような課題に対して、帯電防止性及び各種基材との密着性を有する被膜を得ることができる酸変性ポリオレフィン/エーテルブロック共重合体の樹脂水性分散体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸変性ポリオレフィン/エーテルブロック共重合体を水性媒体に分散させることで、帯電防止性能及び基材との密着性を有する塗膜を得ることができる樹脂水性分散体を見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明の第一は、ブロック共重合体(A)、水性媒体及び塩基性化合物を含有する樹脂水性分散体であって、前記したブロック共重合体(A)が、酸変性ポリオレフィン(a)のブロックと、表面固有抵抗値が10〜1011Ωであるポリエーテル(b)のブロックとが(a)/(b)=40/60〜90/10(質量比)の割合で結合してなり、かつ酸価が1〜50mgKOH/g樹脂であることを特徴とする樹脂水性分散体を要旨とするものであり、好ましくは、ポリエーテル(b)が、ポリエーテルジオール(b1)、ポリエーテルジアミン(b2)及びこれらの変性物(b3)、から成る群より選ばれる一種以上の化合物である前記の樹脂水性分散体である。
【0011】
また、本発明の第二は、ブロック共重合体(A)、塩基性化合物及び水性媒体を原料とし、これらを80℃〜250℃の温度で加熱、攪拌することを特徴とする前記の樹脂水性分散体の製造方法を要旨とするものである。
【0012】
また、本発明の第三は、前記した樹脂水性分散体からなることを特徴とする帯電防止コート剤を要旨とするものである。
【0013】
さらに、本発明の第四は、基材に前記した樹脂水性分散体をコートした後、水性媒体を除去して得られることを特徴とする積層体を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来、帯電防止コート剤として利用できなかったポリオレフィン/エーテル共重合体の水性分散体を取得することができる。さらにこの樹脂水性分散体は基材にコーティングした際、帯電防止性や密着性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の第一の樹脂水性分散体は、ブロック共重合体(A)、水性媒体及び塩基性化合物を含有する樹脂水性分散体であって、前記したブロック共重合体(A)が、酸変性ポリオレフィン(a)のブロックと、表面固有抵抗値が10〜1011Ωであるポリエーテル(b)のブロックとが(a)/(b)=40/60〜90/10(質量比)の割合で結合してなり、かつ酸価が1〜50mgKOH/g樹脂であるものである。
【0017】
先ず、本発明において用いられるブロック共重合体(A)について説明する。ブロック共重合体(A)は、酸変性ポリオレフィン(a)のブロックと、体積固有抵抗値が10〜1011Ω・cmであるポリエーテル(b)のブロックとがエステル結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合及びイミド結合からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合を介して繰り返し交互に結合した構造を有する。
【0018】
ブロック共重合体(A)を構成する酸変性ポリオレフィン樹脂(a)は、適宜のポリオレフィン(a0)において、不飽和カルボン酸(無水物)に変性され、少なくとも片末端にカルボニル基、カルボキシル基等を含有したポリオレフィンである。
【0019】
上述のポリオレフィン(a0)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリブテン、ポリイソブチレン、シクロオレフィンなどを構成するものからなり、一種以上の共重合体になっていても構わない。ポリオレフィンはオレフィンモノマーの炭素数が2〜30であるものが好ましく、炭素数が2〜15であるものがより好ましく、ポリプロピレン及び/又はポリエチレンが特に好ましい。
【0020】
変性に用いられる不飽和カルボン酸(無水物)としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸及びこれらの無水物、例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸(無水物)、フマル酸、イタコン酸(無水物)及びシトラコン酸(無水物)等が挙げられる。これらのうち好ましいものはマレイン酸(無水物)及びフマル酸、特に好ましくはマレイン酸(無水物)である。変性に使用する不飽和カルボン酸(無水物)の量は、ポリオレフィン(a0)の質量に基づき、通常0.5〜40%、好ましくは1〜30%、である(上記及び以下において、%は質量%を表す)。
【0021】
本発明における酸変性ポリオレフィン樹脂(a)の数平均分子量(以下、Mnと略する)としては、800〜25000が好ましく、1000〜20000がさらに好ましく、2500〜10000が特に好ましい。Mnが800〜25000の範囲であると、後述するポリエーテル(b)との反応性の点で好ましい。
【0022】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂(a)の酸価として、好ましくは4〜280(mgKOH/g、以下、数値のみを記載する)、さらに好ましくは4〜100、特に好ましくは5〜80である。酸価がこの範囲であると後述するポリエーテル(b)との反応性及び水性分散化の観点で好ましい。
【0023】
ブロック共重合体(A)を構成するもう一方の成分であるポリエーテル(b)としては、好ましくは、ポリエーテルジオール(b1)、ポリエーテルジアミン(b2)、及びこれらの変性物(b3)が使用できる。該ポリエーテル(b)の表面固有抵抗値(後述の方法で、20℃、60%RHの雰囲気下で測定される値)は10〜1011Ω、好ましくは10〜1010Ω、特に好ましくは10〜10Ωである。表面固有抵抗値が1×1011Ω・cmを超えると、塗膜の帯電防止性能が低下する場合がある。
【0024】
ポリエーテルジオール(b1)としては、ジオールにアルキレンオキサイドを付加反応させることにより得られる構造のものであり、一般式:H−(OA1)m−O−E1−O−(A1O)m’−Hで示されるものが挙げられる。式中、E1はジオールから水酸基を除いた残基、A1は炭素数2〜4のアルキレン基、m及びm’はジオールの水酸基1個当たりのアルキレンオキサイド付加数を表す。m個の(OA1)とm’個の(A1O)とは、同一でも異なっていてもよく、また、これらが2種以上のオキシアルキレン基で構成される場合の結合形式はブロック若しくはランダム又はこれらの組合せのいずれでもよい。m及びm’は、通常1〜300、好ましくは2〜250、特に好ましくは10〜100の整数である。また、mとm’とは、同一でも異なっていてもよい。
【0025】
ジオールとしては、二価アルコール(例えば炭素数2〜12の脂肪族、脂環式若しくは芳香族二価アルコール)、炭素数6〜18の二価フェノール及び三級アミノ基含有ジオールが挙げられる。脂肪族二価アルコールとしては、例えば、アルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール)、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,12−ドデカンジオールが挙げられる。脂環式二価アルコールとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノールが挙げられ、芳香族二価アルコールとしては、例えば、キシリレンジオール等が挙げられる。二価フェノールとしては、例えば、単環二価フェノール(ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、ウルシオール等)、ビスフェノール(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタン、ジヒドロキシビフェニル等)及び縮合多環二価フェノール(ジヒドロキシナフタレン、ビナフトール等)が挙げられる。
【0026】
三級アミノ基含有ジオールとしては、例えば、炭素数1〜12の脂肪族又は脂環式一級モノアミン(メチルアミン、エチルアミン、シクロプロピルアミン、1−プロピルアミン、2−プロピルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、ヘキシルアミン、1,3−ジメチルブチルアミン、3,3−ジメチルブチルアミン、2−アミノヘプタン、3−アミノヘプタン、シクロペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン等)のビスヒドロキシアルキル化物及び炭素数6〜12の芳香族一級モノアミン(アニリン、ベンジルアミン等)のビスヒドロキシアルキル化物が挙げられる。これらのうち好ましいのは、脂肪族二価アルコール及びビスフェノール、特に好ましくはエチレングリコール及びビスフェノールAである。
【0027】
ポリエーテルジオール(b1)を製造するためジオールに付加反応させるアルキレンオキサイドとしては、炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−、1,4−、2,3−又は1,3−ブチレンオキサイド及びこれらの2種以上の併用系が用いられるが、必要により他のアルキレンオキサイド又は置換アルキレンオキサイド(以下、これらも含めてアルキレンオキサイドと総称する。)、例えば炭素数5〜12のα−オレフィン、スチレンオキサイド、エピハロヒドリン(エピクロルヒドリン等)を少しの割合(例えば、全アルキレンオキサイドの重量に基づいて30%以下)で併用することもできる。2種以上のアルキレンオキサイドを併用するときの結合形式はランダム及び/又はブロックのいずれでもよい。アルキレンオキサイドとして好ましいものは、エチレンオキサイド単独及びエチレンオキサイドと他のアルキレンオキサイドとの併用(ブロック及び/又はランダム付加)である。アルキレンオキサイドの付加数は、ジオールの水酸基1個当り、通常1〜300、好ましくは2〜250、特に好ましくは10〜100の整数である。
【0028】
アルキレンオキサイドの付加は、公知方法、例えばアルカリ触媒の存在下、100〜200℃の温度で行なうことができる。ポリエーテルジオール(b1)中の炭素数2〜4のオキシアルキレン単位の含量は、通常5〜99.8%、好ましくは8〜99.6%、特に好ましくは10〜98%である。ポリオキシアルキレン鎖中のオキシエチレン単位の含量は、通常5〜100%、好ましくは10〜100%、さらに好ましくは50〜100%、特に好ましくは60〜100%である。
【0029】
ポリエーテルジアミン(b2)は、一般式:H2N−A2−(OA1)m−O−E1−O−(A1O)m’−A2−NH2(式中の記号E1,A1、m及びm’は前記と同様であり、A2は炭素数2〜4のアルキレン基である。A1とA2とは同じでも異なっても良い。)で示されるものが使用できる。ポリエーテルジアミン(b2)は、ポリエーテルジオール(b1)の水酸基を公知の方法によりアミノ基に変えることにより得ることができ、例えば、ポリエーテルジオール(b1)の水酸基をシアノアルキル化しして得られる末端を還元してアミノ基としたものが使用できる。また、ポリエーテルジオール(b1)とアクリロニトリルとを反応させ、得られるシアノエチル化物を水素添加することにより製造することができる。
【0030】
変性物(b3)としては、例えば、ポリエーテルジオール(b1)又はポリエーテルジアミン(b2)のアミノカルボン酸変性物(末端アミノ基)、同イソシアネート変性物(末端イソシアネート基)及び同エポキシ変性物(末端エポキシ基)が挙げられる。アミノカルボン酸変性物は、ポリエーテルジオール(b1)又はポリエーテルジアミン(b2)と、アミノカルボン酸又はラクタムとを反応させることにより得ることができる。イソシアネート変性物は、ポリエーテルジオール(b1)又はポリエーテルジアミン(b2)と、後述のような有機ジイソシアネートとを反応させるか、ポリエーテルジアミン(b2)とホスゲンとを反応させることにより得ることができる。エポキシ変性物は、ポリエーテルジオール(b1)又はポリエーテルジアミン(b2)と、ジエポキシド(ジグリシジルエーテル、ジグリシジルエステル、脂環式ジエポキシドなどのエポキシ樹脂:エポキシ当量85〜600)とを反応させるか、ポリエーテルジオール(b1)とエピハロヒドリン(エピクロルヒドリン等)とを反応させることにより得ることができる。
【0031】
ポリエーテル(b)のMnは、通常150〜20,000であり、耐熱性及び酸変性ポリオレフィン(a)との反応性の観点から、好ましくは300〜20,000、さらに好ましくは1,000〜15,000、特に好ましくは1,200〜8,000である。
【0032】
ポリエーテル(b)には、部分的にカチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーが含まれていても良い。そのようなカチオン性ポリマーとしては、4級アンモニウム又はホスホニウム塩を有するポリマーのほか、ハロゲンイオン(F、Cl、Br、I等)、OH、PO、CHOSO、COSO、ClO等を有するポリマーを挙げることができる。またアニオン性ポリマーとしては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び3−スルホイソフタル酸のスルホン酸アルカリ金属塩、特に好ましいものはアジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸及び3−スルホイソフタル酸のスルホン酸ナトリウム塩である。
【0033】
本発明に用いるブロック共重合体(A)は、前記のポリオレフィン(a0)と不飽和カルボン酸を溶融状態で反応させ、酸変性ポリオレフィン(a)を製造し、これにポリエーテル(b)を加え、高温真空下において(a)と(b)の重合反応をさせる方法で製造することができる。
【0034】
本発明において、ブロック共重合体(A)を構成する酸変性ポリオレフィン(a)と、ポリエーテル(b)との組成上の質量比は、(a)/(b)=40/60〜90/10の範囲であり、50/50〜80/20がより好ましく、55/45〜80/20がさらに好ましく、55/45〜70/30が特に好ましい。酸変性ポリオレフィン(a)が40質量%未満の場合、塗膜の密着性が悪くなり、90質量%を超えた場合、帯電防止性能が劣るなど好ましくない。
【0035】
また本発明において、ブロック共重合体(A)の酸価は、1〜50の範囲である必要があり、好ましくは2〜40、特に好ましくは3〜40である。酸価が1未満の場合、ブロック共重合体(A)の水性分散は困難になり、50を超えると、塗膜の密着性が悪化することがある。
【0036】
さらに本発明において、ブロック共重合体(A)のゲルパーミエションクロマトグラフィーによるMn(数平均分子量)としては、2000〜60000が好ましく、2500〜50000がさらに好ましく、3000〜40000が特に好ましく、3000〜30000が最も好ましい。分子量が60000を超えると、樹脂の水性化が困難となり、2000未満だと、塗膜の密着性などが低下する場合がある。
【0037】
本発明において、ブロック共重合体(A)の固有表面抵抗値は、10〜1010Ωが好ましく、10〜10がさらに好ましく、10〜10が特に好ましい。
【0038】
上述した本発明で用いられるブロック共重合体(A)は、市販されているものも好適に使用でき、そのような市販品としては、例えば、三洋化成工業株式会社製:ペレスタット300、230、東邦化学工業株式会社製:アンステックスFT−P348等が挙げられる。
【0039】
次に本発明で用いられる水性媒体について説明する。本発明における水性媒体とは、水、又は水と水溶性有機溶媒との混合液である。水溶性有機溶媒は、ブロック共重合体(A)の水性分散化を促進し、分散粒子径を小さくさせる作用を有する。本発明における水溶性有機溶媒とは、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上のものである。使用する水溶性有機溶媒の量は、樹脂水性分散体に含まれる水性媒体の40質量%以下であることが好ましく、1〜40質量%であることがより好ましく、2〜35質量%が更に好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。水溶性有機溶媒の量が40質量%を超える場合には、得られた水性分散体の粘度が高くなりすぎる場合がある。
【0040】
本発明において使用される水溶性有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられ、中でも沸点が30〜250℃のものが好ましく、50〜200℃のものが特に好ましい。これらの水溶性有機溶媒は2種以上を混合して使用してもよい。水溶性有機溶媒の沸点が30℃未満の場合は、ブロック共重合体(A)の水性分散化時に揮発する割合が多くなり、水性分散化の効率が十分に高まらない場合がある。沸点が250℃を超えると得られた樹脂水性分散体を基材に塗布した場合、塗布膜から水溶性有機溶媒を乾燥によって飛散させることが困難になる。
【0041】
上記の水溶性有機溶媒の中でも、ブロック共重合体(A)の水性分散化促進に効果が高いという点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、低温乾燥性の点からエタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが特に好ましい。
【0042】
次に本発明で用いられる塩基性化合物について説明する。
【0043】
塩基性化合物は、ブロック共重合体(A)中の酸成分を中和して、酸アニオンを生成させる。アニオン間の電気反発力によって微粒子間の凝集が防がれ、樹脂水性分散体に安定性が付与される。塩基性化合物としては、塗膜形成時に揮発するアンモニア又は有機アミン化合物が塗膜の密着性の面から好ましく、中でも沸点が30〜250℃、さらには50〜200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、ブロック共重合体(A)の水性分散化時に揮発する割合が多くなり、水性分散化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると得られた樹脂水性分散体を基材に塗布した場合、塗膜から有機アミン化合物を乾燥によって飛散させることが困難になり、塗膜の密着性が悪化する場合がある。
【0044】
本発明における塩基性化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。
【0045】
塩基性化合物の添加量は、ブロック共重合体(A)の酸価に対して0.5〜20.0倍当量が好ましく、より好ましくは1.0〜15.0倍当量であり、さらに好ましくは2.0〜15.0倍当量である。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、20.0倍当量を超えると、ブロック共重合体(A)の塗膜の密着性が低下する場合がある。
【0046】
本発明の第一の樹脂水性分散体は、ブロック共重合体(A)が水性媒体中に分散また溶解され、均一な液状に調製されて得られる。ここで、均一な液であるとは、外観上、水性分散体中に沈殿といった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見出されない状態にあることをいう。分散状態の場合、ブロック共重合体(A)の数平均粒子径(以下、mn)は、1.0μm以下とすることができる。0.5μm以下とすることが好ましく、0.2μm以下とすることがさらに好ましく、0.1μm以下とすることが特に好ましい。さらに、体積平均粒子径(以下、mv)に関しては、2μm以下とすることができ、1.0μm以下が好ましく、0.5μm以下がさらに好ましく、0.2μm以下が特に好ましい。
【0047】
本発明の樹脂水性分散体におけるブロック共重合体(A)の含有率は、成膜条件、目的とする樹脂塗膜の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではないが、コーティング組成物の粘性を適度に保ち、かつ良好な被膜形成能を発現させる点で、樹脂水性分散体100質量%に対して1〜60質量%が好ましく、3〜55質量%がより好ましく、5〜50質量%がさらに好ましく、5〜45質量%が特に好ましい。所望の粘度や樹脂含有率になるように適宜、水性媒体を留去したり、水および/または水溶性有機溶媒により希釈することができる。
【0048】
本発明の樹脂水性分散体は、上述した各成分を主要成分とするものであり、不揮発性水性化助剤を実質的に用いずとも、ブロック共重合体(A)を水性媒体中に安定に分散することができる。不揮発性水性化助剤は、被膜形成後にもブロック共重合体(A)中に残存し、被膜を可塑化することにより、ブロック共重合体(A)の特性を悪化させる。ここで「水性化助剤」とは、水性分散体の製造において、水性化促進や樹脂水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。「不揮発性水性化助剤を実質的に含有しない」とは、不揮発性水性化助剤を積極的には系に添加しないことにより、結果的にこれらを含有しないことを意味する。こうした不揮発性水性化助剤は、含有量がゼロであることが特に好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で、ブロック共重合体(A)成分に対して0.1質量%未満程度含まれていても差し支えない。
【0049】
上記した不揮発性水性化助剤としては、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、高酸価ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
【0050】
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0051】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が15質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0052】
本発明の樹脂水性分散体は、塗膜の各種性能を向上するために、ブロック共重合体(A)以外の樹脂水性分散体を混合することができる。ブロック共重合体(A)以外の樹脂水性分散体としては、例えば、エチレンーアクリル酸エステルー無水マレイン酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の水性分散体を挙げることができる。これらは、2種以上を混合して使用しても良い。塗膜の密着性を向上する点から、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂の水性分散体を添加することが好ましい。ポリオレフィン樹脂水性分散体としては、特開2003−119328号公報等に、ポリエステル樹脂水性分散体としては特開2000−313793号公報等に記載された水性分散体を用いることができる。帯電防止性と密着性の面から、ブロック共重合体(A)の固形分100質量部に対して固形分換算で10質量部〜900質量部を添加することが好ましい。
【0053】
また、本発明の樹脂水性分散体は、さらに無機粒子を混合していてもよい。そのような無機粒子としては、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化スズ等の金属酸化物、炭酸カルシウム、シリカなどの無機粒子や、バーミキュライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、合成雲母等の水膨潤性の層状無機化合物を添加することができる。これらの無機粒子の平均粒子径は水性分散体の安定性の面から0.005〜10μmが好ましく、より好ましくは0.005〜5μmである。なお、無機粒子は、2種以上を混合して使用しても良い。密着性と帯電防止性を向上する点から、酸化スズを添加することが好ましい。例えば、特開2003−81632に記述した酸化スズゾルが挙げられる。帯電防止性と密着性の面から、ポリエーテルエステルアミド樹脂水性分散体の固形分100質量部に対して酸化スズの固形分換算で10質量部〜1000質量部を添加することが好ましい。
【0054】
さらに、本発明の樹脂水性分散体には、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤や、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料あるいは染料を添加してもよい。
【0055】
次に本発明の第二である樹脂水性分散体の製造方法について説明する。上記のなうな樹脂水性分散体は、ブロック共重合体(A)を水性媒体中に分散、すなわち水性分散化することにより製造することができる。水性分散化方法としては、ブロック共重合体(A)を、塩基性化合物及び水性媒体の混合物とともに80℃〜250℃の温度で加熱、攪拌する方法を用いることができる。なお、水性分散化においては、前述したように不揮発性水性化助剤を積極的に添加する必要はない。
【0056】
本発明における水性分散化工程に用いるブロック共重合体(A)の形状は特に限定されないが、水性化速度を速めるという点から、粒子径1cm以下、好ましくは0.8cm以下の粒状、あるいは粉末状のものを用いることが好ましい。
【0057】
ブロック共重合体(A)の添加量は、水性媒体と塩基性化合物と樹脂の総合100質量%に対して1〜60質量%が好ましく、3〜55質量%がより好ましく、5〜50質量%が更に好ましく、5〜45質量%が特に好ましい。添加量が1質量%未満の場合は得られる樹脂水性分散体の樹脂固形分濃度が低すぎて塗膜の性能が発生しにくく、60質量%を超えた場合は水性分散が困難となる傾向がある。
【0058】
水性分散化のための容器は特に限定されず、公知の固/液撹拌装置、乳化機、オートクレーブ等を使用することができる。0.1MPa以上の加圧が可能であれば好ましい。これらのような、水性分散化のための容器に、ブロック共重合体(A)と塩基性化合物と水性媒体とを投入し、撹拌しつつ、容器内の温度を80〜250℃とすることが必要である。より好ましくは90〜200℃、さらに好ましくは100〜190℃である。容器内の温度が80℃未満の場合は、ブロック共重合体(A)の水性分散化が不十分となることがある。容器内の温度が250℃を超える場合は、ブロック共重合体(A)の分子量が低下する恐れがある。なお本発明における撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されない。樹脂が水性媒体中で浮遊状態となる程度の低速の撹拌でも十分水性化が達成され、高速撹拌(例えば1000rpm以上)は必須ではない。
【0059】
本発明の樹脂水性分散体の製造方法における水性化収率は、得られた水性分散体中残存する粗大粒子の量によって知ることができる。具体的には、水性分散体を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過し、フィルター上に残存する樹脂量を測定する。水性化収率は70%以上が好ましく、80%以上さらに好ましく、90%以上が特に好ましく、100%が最も好ましい。
【0060】
次に本発明の第三である帯電防止コート剤および第四の発明である積層体について説明する。帯電防止コート剤は、上述した本発明の樹脂水性分散体からなるものであり、積層体は、基材に樹脂水性分散体をコートした後、水性媒体を除去して得られるものである。本発明の樹脂水性分散体から水性媒体を除去してなる塗膜は帯電防止性が良く、樹脂フィルムや樹脂成形体などの樹脂基材、紙等の基材に対しての密着性にも優れる。
【0061】
樹脂フィルムとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂またはそれらの混合物よりなるフィルムまたはそれらのフィルムの積層体が挙げられる。樹脂フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよく、製法も限定されるものではない。樹脂フィルムの厚さも特に限定されるものではないが、通常1〜500μmであればよい。
【0062】
本発明の帯電防止コート剤は、公知のコーティング方法によって基材に塗布することができる。コーティング方法としては、公知の成膜方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥又は乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な塗膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。
【0063】
また、本発明における樹脂塗膜の厚さとしては、その用途によって適宜選択されるものであるが、0.01〜30μmが好ましく、0.02〜10μmがより好ましく、0.03〜9μmがさらに好ましく、0.05〜8μmが特に好ましい。樹脂塗膜の厚さが0.01μm未満では帯電防止性が悪化する。30μmを超えると塗膜の基材への密着性が悪化する。
【0064】
この様にして得られた、塗膜がコーティングされた基材のコーティング面の表面抵抗率は1×1014Ω以下が好ましく、1×1013Ω以下がより好ましく、1×1012Ω以下がさらに好ましく、1×1011Ω以下が特に好ましい。ここで、表面固有抵抗値はPETフィルムに樹脂水性分散体を乾燥後膜厚が3μmになるように塗布し、90℃で2分間乾燥させた。得られた積層フィルムを温度20℃、湿度60%の雰囲気下で測定することで求めることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各種の特性については以下の方法によって測定又は評価した。
【0066】
1.ブロック共重合体(A)の特性
(1)ブロック共重合体(A)のポリオレフィンとポリエーテルとの重量比はH−NMR分析(日本電子(JEOL)社製、500MHz)より求めた。樹脂は、トリクロロエチレンを溶媒とし、120℃で測定した。
【0067】
(2)酸価:0.5gの試料をo―ジクロロベンゼン20mlに150℃で溶解し、60℃まで冷却し、エタノール1mlと指示薬クレゾールレッド2滴を添加する。そして、0.1mol/Lの水酸化カリウムで滴定し、0.1mol/Lの水酸化カリウムの消費量から算出した値である。
【0068】
(3)樹脂の表面抵抗値:JIS−K6911に基づいて、株式会社アドバンテスト製デジタル超高抵抗/微少電流計、R8340を用いて、厚さ2mmのシート状に成形した樹脂を、温度20℃、湿度60%で12時間調湿して測定した。
【0069】
2.樹脂水性分散体の特性
(1)水性分散化収率
水性分散化後の樹脂水性分散体を300メッシュのステンレス製フィルター(平織、線径35μm、濾過面積133cm2)で加圧濾過後に、フィルター上に残存する樹脂を、80℃真空乾燥で1時間乾燥し樹脂重量を測定、仕込み樹脂重量より収率を算出した。尚、1回で全量濾過できなかった場合はフィルターの交換を行い、その場合においてはトータルの残存樹脂量で評価した。
【0070】
(2)樹脂水性分散体の固形分濃度
300メッシュ濾過後の樹脂水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0071】
(3)樹脂水性分散体の平均粒子径
日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、300メッシュ濾過後の樹脂水性分散体の数平均粒子径および重量平均粒子径を求めた。ここで、粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
【0072】
3.塗膜の特性
以下の評価においては、基材として、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm、以下PET)とL−LDPE(東セロ社製TUX FC−D、厚み50μm、以下LLDPE)を用いた。樹脂水性分散体として、300メッシュ濾過したものを用いた。
【0073】
(1)密着性(テープ剥離試験)
上記のLLDPE、PETフィルムに樹脂水性分散体を乾燥後の膜厚が1μmになるようにメイヤバーを用いて塗布した後、90℃で90秒間、乾燥させた。得られた積層シートを室温で一日放置後、評価した。接着剤面にセロハンテープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を次の基準で目視評価した。
【0074】
○:全く剥がれなし
△:一部が剥がれた
×:殆どが剥がれた
【0075】
(2)コートフィルムの帯電防止性
PETフィルムに樹脂水性分散体を乾燥後の膜厚が1μmになるようにメイヤーバーを用いて塗布した後、90℃で90秒間、乾燥させた。得られた積層フィルムをJIS−K6911に基づいて、株式会社アドバンテスト製デジタル超高抵抗/微少電流計、R8340を用いて、コートフィルムの塗膜の表面抵抗値(Ω)を温度20℃、湿度60%雰囲気下で評価した。
【0076】
製造例1
Mnが2500、密度が0.89である熱減成法で得られた低分子量ポリプロピレン85部と無水マレイン酸15部とを、窒素ガス雰囲気下、200℃で溶融し、20時間反応を行った。その後、過剰の無水マレイン酸を減圧下留去して、酸変性ポリプロピレン(a1)を得た。(a1)の酸価は39.8であった。
【0077】
製造例2
Mnが2500、密度が0.89である熱減成法で得られた低分子量ポリプロピレン95部と無水マレイン酸5部とを、窒素ガス雰囲気下、200℃で溶融し、20時間反応を行った。その後、過剰の無水マレイン酸を減圧下留去して、酸変性ポリプロピレン(a2)を得た。(a2)の酸価は8.7であった。
【0078】
製造例3
Mnが500、密度が0.89である熱減成法で得られた低分子量ポリプロピレン47部と無水マレイン酸30部及びグリシン23部を加え、窒素ガス雰囲気下、160℃で1時間反応を行った。その後、200℃で20時間反応を行い、酸変性ポリプロピレン(a3)を得た。(a3)の酸価は180.6であった。
【0079】
製造例4
ステンレス製オートクレーブに、製造例1で得られた酸変性ポリプロピレン(a1)41部、Mnが2000であるポリエチレングリコール(表面固有抵抗値:5×10Ω)59部、酸化防止剤(「イルガノックス1010」、チバガイキー社製、以下同じ。)0.3部及び酢酸ジルコニル0.5部を加え、230℃、1mmHg以下の減圧下の条件で3時間重合し、粘稠なポリマーを得た。このポリマーをベルト上にストランド状で取り出し、ペレタイズすることによって、ブロック共重合体(A1)を得た。ブロック共重合体(A1)の特性を表1に示した。
【0080】
製造例5
ステンレス製オートクレーブに、製造例1で得られた酸変性ポリプロピレン(a1)64部、Mnが2000であるポリエチレングリコール(表面固有抵抗値:5×10Ω)36部、酸化防止剤0.3部及び酢酸ジルコニル0.5部を加え、230℃、1mmHg以下の減圧下の条件で3時間重合し、粘稠なポリマーを得た。このポリマーをベルト上にストランド状で取り出し、ペレタイズすることによって、ブロック共重合体(A2)を得た。ブロック共重合体(A2)の特性を表1に示した。
【0081】
製造例6
ステンレス製オートクレーブに、製造例1で得られた酸変性ポリプロピレン(a1)89部、Mnが1000であるポリエチレングリコール(表面固有抵抗値:2×10Ω)11部、酸化防止剤0.3部及び酢酸ジルコニル0.5部を加え、230℃、1mmHg以下の減圧下の条件で3時間重合し、粘稠なポリマーを得た。このポリマーをベルト上にストランド状で取り出し、ペレタイズすることによって、ブロック共重合体(A3)を得た。ブロック共重合体(A3)の特性を表1に示した。
【0082】
参考製造例7
ステンレス製オートクレーブに、製造例1で得られた酸変性ポリプロピレン(a1)95部、Mnが1000であるポリエチレングリコール(表面固有抵抗値:2×10Ω)5部、酸化防止剤0.3部及び酢酸ジルコニル0.5部を加え、230℃、1mmHg以下の減圧下の条件で3時間重合し、粘稠なポリマーを得た。このポリマーをベルト上にストランド状で取り出し、ペレタイズすることによって、ブロック共重合体(A4)を得た。ブロック共重合体(A4)の特性を表1に示した。
【0083】
参考製造例8
ステンレス製オートクレーブに、製造例1で得られた酸変性ポリプロピレン(a1)35部、Mnが2000であるポリエチレングリコール(表面固有抵抗値:5×10Ω)65部、酸化防止剤0.3部及び酢酸ジルコニル0.5部を加え、230℃、1mmHg以下の減圧下の条件で3時間重合し、粘稠なポリマーを得た。このポリマーをベルト上にストランド状で取り出し、ペレタイズすることによって、ブロック共重合体(A5)を得た。ブロック共重合体(A5)の特性を表1に示した。
【0084】
参考製造例9
ステンレス製オートクレーブに、製造例2で得られた酸変性ポリプロピレン(a2)
55部、Mnが2000であるポリエチレングリコール(表面固有抵抗値:5×10Ω)45部、酸化防止剤0.3部及び酢酸ジルコニル0.5部を加え、230℃、1mmHg以下の減圧下の条件で3時間重合し、粘稠なポリマーを得た。このポリマーをベルト上にストランド状で取り出し、ペレタイズすることによって、ブロック共重合体(A6)を得た。ブロック共重合体(A6)の特性を表1に示した。
【0085】
参考製造例10
ステンレス製オートクレーブに、製造例3で得られた酸変性ポリプロピレン(a3)80部、Mnが900であるポリエチレングリコール(表面固有抵抗値:2×10Ω)20部、酸化防止剤0.3部及び酢酸ジルコニル0.5部を加え、230℃、1mmHg以下の減圧下の条件で3時間重合し、粘稠なポリマーを得た。このポリマーをベルト上にストランド状で取り出し、ペレタイズすることによって、ブロック共重合体(A7)を得た。ブロック共重合体(A7)の特性を表1に示した。
【0086】
【表1】

【0087】
実施例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1Lガラス容器を備えた攪拌機にて、製造例4で得られたブロック共重合体(A1)20.0g、50.0gのイソプロパノール(以下、IPA)、2.0g(酸価に対して13.3倍当量)のトリエチルアミン(以下、TEA)及び128.5gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmとして攪拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈殿は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、電源を入れ加熱した。そして系内温度を140℃に保ってさらに2時間攪拌した。回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温まで冷却し、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過し、乳白色の均一なブロック共重合体(A)の樹脂水性分散体E−1を得た。樹脂水性分散体の性状と塗膜の特性をそれぞれ表2と表3に示した。
【0088】
実施例2
市販品であるポリオレフィン/エーテルブロック共重合体ペレスタット300(三洋化成社製、表面抵抗値:1.0×10Ω)を用いて、TEAの量を2.0g(酸価に対して8.6倍当量)に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂水性分散体E−2を得た。樹脂水性分散体の性状と塗膜の特性をそれぞれ表2と表3に示した。
【0089】
実施例3
製造例5で得られたブロック共重合体(A2)を用いて、TEAの量を2.0g(酸価に対して4.9倍当量)に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂水性分散体E−3を得た。樹脂水性分散体の性状と塗膜の特性をそれぞれ表2と表3に示した。
【0090】
実施例4
製造例6で得られたブロック共重合体(A3)を用いて、TEAの量を2.0g(酸価に対して3.6倍当量)に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂水性分散体E−4を得た。樹脂水性分散体の性状と塗膜の特性をそれぞれ表2と表3に示した。
【0091】
比較例1
参考製造例7で得られたブロック共重合体(A4)を用いて、TEAの量を2.0g(酸価に対して3.2倍当量)に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂水性分散体E−5を得た。樹脂水性分散体の性状と塗膜の特性をそれぞれ表2と表3に示した。
【0092】
比較例2
参考製造例8で得られたブロック共重合体(A5)を用いて、TEAの量を2.4g(酸価に対して19.5倍当量)に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂水性分散体E−6を得た。樹脂水性分散体の性状と塗膜の特性をそれぞれ表2と表3に示した。
【0093】
比較例3
参考製造例9で得られたブロック共重合体(A6)を用いて、TEAの量を0.65g(酸価に対して20.0倍当量)に変更した以外は実施例1と同様の方法で水性分散化を行なった。結果を表2に示した。
【0094】
比較例4
参考製造例10で得られたブロック共重合体(A7)を用いて、TEAの量を1.5g(酸価に対して0.8倍当量)に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂水性分散体E−7を得た。樹脂水性分散体の性状と塗膜の特性をそれぞれ表2と表3に示した。
【0095】
比較例5
TEAを添加しなかった以外は実施例3と同様の方法で水性分散化を行なった。結果を表2に示した。
【0096】
比較例6
無水マレイン酸変性ポリプロピレンにポリエーテルアミンがグラフト結合したグラフト共重合体の樹脂水性分散体E−8を得た(詳細は、特開2007−246871号公報記載の実施例1を参照)。樹脂水性分散体の性状と塗膜の特性を表3に示した。
【0097】
実施例5
実施例3で得られた樹脂水性分散体E−3の固形分100質量部に対して酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(アローベースSB1200、ユニチカ社製)を固形分換算で30質量部添加し、混合液より得られた塗膜のPETとの密着性及び表面抵抗率を表3に示した。
【0098】
実施例6
実施例3で得られた樹脂水性分散体E−3の固形分100質量部に対してポリエステル樹脂水性分散体(エリーテル KT9204、ユニチカ社製)を固形分換算で30質量部添加し、混合液より得られた塗膜のPETとの密着性及び表面抵抗率とを表3に示した。
【0099】
実施例7
実施例3で得られた樹脂水性分散体E−3の固形分100質量部に対して酸化スズゾル(AS11T、ユニチカ社製)を固形分換算で50部質量部添加し、混合液より得られた塗膜のPETとの密着性及び表面抵抗率を表3に示した。
【0100】
比較例7
比較例4で得られた樹脂水性分散体E−7の固形分100質量部に対して酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(アローベースSB1200、ユニチカ社製)を固形分換算で30質量部添加し、混合液より得られた塗膜のPETとの密着性及び表面抵抗率を表3に示した。
【0101】
比較例8
比較例4で得られた樹脂水性分散体E−7の固形分100質量部に対してポリエステル樹脂水性分散体(エリーテル KT9204、ユニチカ社製)を固形分換算で30質量部添加し、混合液より得られた塗膜のPETとの密着性及び表面抵抗率とを表3に示した。
【0102】
比較例9
比較例4で得られた樹脂水性分散体E−7の固形分100質量部に対して酸化スズゾル(AS11T、ユニチカ社製)を固形分換算で50部質量部添加し、混合液より得られた塗膜のPETとの密着性及び表面抵抗率を表3に示した。
【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
実施例1〜4の結果は、難水分解性ポリオレフィン/エーテルブロック共重合体が、本発明の水性分散化の方法により水性化可能であることを示している。また、この樹脂水性分散体より得られる塗膜が帯電防止性能を有して、さらに各種の基材に対する密着性に優れていた。
【0106】
実施例2の結果より、本発明の規定を満足している市販品でも水性化が可能であり、水性分散体より得られる塗膜も帯電防止性能を有して、さらも各種基材に対する密着性に優れていた。
【0107】
実施例1〜4の結果より、ブロック共重合体(A)を構成するポリオレフィン(a)とポリエーテル(b)との質量比が大きいほど、得られた塗膜の表面固有抵抗値が大きくなった。これはポリエーテル(b)が帯電防止成分として働いていると考えられる。
【0108】
比較例1では、ブロック共重合体(A)を構成するポリオレフィン(a)とポリエーテル(b)との質量比が本発明で規定する範囲に対し(a)の割合が上限を外れており、水性分散体の塗膜の基材との密着性が良くなったものの、表面固有抵抗値が高くなり、帯電防止性能が悪化した。比較例2では、(a)と(b)との質量比が本発明で規定する範囲に対し(a)の割合が下限を外れており、樹脂水性分散体の塗膜の帯電防止性能が良くなったが、基材との密着性が悪くなった。
【0109】
比較例3の結果より、ブロック共重合体(A)の酸価が本発明で規定する範囲を下方に外れており、樹脂の水性分散化ができなかった。比較例4では、ブロック共重合体(A)の酸価が本発明の規定の上方を外れており、樹脂の水性分散化ができたが、得られた塗膜は、基材との密着性が悪化した。
【0110】
実施例1〜4と比較例5の対比より、塩基性化合物の使用なしに樹脂の水性分散化ができないことが分かる。
【0111】
比較例6の結果より、酸変性ポリオレフィン/エーテルのグラフト共重合体の水性分散体は塗膜の基材との密着性が良くなったものの、表面固有抵抗値が高く、帯電防止性能が有していなかった。
【0112】
実施例5、6の結果より、ブロック共重合体(A)の樹脂水性分散体にポリオレフィン、ポリエステルなどの樹脂水性分散体を添加すると、帯電防止性能を維持しつつ、基材との密着性が向上できた。
【0113】
実施例7の結果より、ブロック共重合体(A)の水性分散体に無機粒子としての酸化スズゾルを添加すると、帯電防止性能を維持しつつ、PETとの密着性が向上できた。
【0114】
比較例7〜9の結果より、ブロック共重合体(A)の酸価が本発明で規定する範囲を上方に外れる樹脂水性分散体E−7に実施例5〜7と同様に酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体、ポリエステル樹脂水性分散体及び酸化スズゾルを添加しても、密着性の改善ができなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック共重合体(A)、水性媒体及び塩基性化合物を含有する樹脂水性分散体であって、前記したブロック共重合体(A)が、酸変性ポリオレフィン(a)のブロックと、表面固有抵抗値が10〜1011Ωであるポリエーテル(b)のブロックとが(a)/(b)=40/60〜90/10(質量比)の割合で結合してなり、かつ酸価が1〜50mgKOH/g樹脂であることを特徴とする樹脂水性分散体。
【請求項2】
ポリエーテル(b)が、ポリエーテルジオール(b1)、ポリエーテルジアミン(b2)及びこれらの変性物(b3)、から成る群より選ばれる一種以上の化合物である請求項1記載の樹脂水性分散体。
【請求項3】
ブロック共重合体(A)、塩基性化合物及び水性媒体を原料とし、これらを80℃〜250℃の温度で加熱、攪拌することを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の樹脂水性分散体からなることを特徴とする帯電防止コート剤。
【請求項5】
基材に請求項1又は2記載の樹脂水性分散体をコートした後、水性媒体を除去して得られることを特徴とする積層体。

【公開番号】特開2010−90189(P2010−90189A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258476(P2008−258476)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】