説明

樹脂用無機充填剤及び複合樹脂組成物の製造方法

【課題】合成樹脂のマトリックス相に貝殻由来の炭酸カルシウムの分散相を均一に形成し、フィルム加工した場合であっても優れた機械的強度を有する樹脂用無機充填剤及び複合樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】貝殻を粉砕させた粉体100重量部に対し1重量部から1000重量部の範囲に含まれる液媒が混合している樹脂用無機充填剤と合成樹脂とを加熱混練するステップと、前記液媒を気化させて除去するステップと、前記粉体及び前記合成樹脂の複合体を冷却して固化させるステップと、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂のマトリックス相に炭酸カルシウムの分散相を形成させる樹脂用無機充填剤及びそのような分散相が形成された複合樹脂組成物の製造方法に関連する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
養殖漁業の拡大に伴い、ホタテ・カキ等の貝殻の排出が増大しており、これら廃棄物の工業的利用の研究が進められている。そして、これら貝殻の粉砕物を配合させた樹脂組成物は、貝殻粉体と溶融樹脂とのぬれ性が良好であることに起因して、機械強度が優れることが知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
一方で、次の化学反応式(1)に示されるように、炭酸カルシウム(以下、タンカルという)は、加熱雰囲気において塩素ガスを吸収する性質を有している。このため、焼却場においてダイオキシン発生を促す塩素ガスを吸着することを目的として鉱物由来のタンカルを充填した複合樹脂組成物(例えば、ポリエチレン製ゴミ袋)が広く利用されている。
CaCO3+2HCl→CaCl2+H2O+CO2 (1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−75964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
貝殻は、タンカルを主成分として含むものであるので、その粉砕物である貝殻粉体は、前記した鉱物由来のタンカルを代替することが可能である。そのような貝殻粉体を充填した複合樹脂組成物の利用が拡大すれば、産廃である貝殻の有効利用が図れるのみならず石油由来の合成樹脂の使用を低減して環境保全にも貢献する。
しかし、細かく破砕された貝殻粉体は、破面間の親和力が強く働き、凝集し易い性質を有するため、樹脂マトリックス中に貝殻粉体を均一に分散させるのは一般に困難である。
このために、従来技術では、貝殻粉体を充填した複合樹脂ペレットから複合樹脂フィルムを作成するのは困難で、ましてや特許文献1で示されるバルク材の場合のような機械的特性の向上を複合樹脂フィルムに望むことはできない。
【0006】
本発明は、前記した問題を解決することを課題とし、貝殻が原料として用いられ、フィルム加工した場合であっても優れた機械的特性を発現させる樹脂用無機充填剤及び複合樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明は、樹脂用無機充填剤において、貝殻を粉砕させた粉体100重量部に対し、1重量部から1000重量部の範囲に含まれる液媒が混合していることを特徴とする。
また複合樹脂組成物の製造方法において、前記樹脂用無機充填剤及び合成樹脂を加熱混練するステップと、前記液媒を気化させて除去するステップと、前記粉体及び前記合成樹脂の複合体を冷却して固化させるステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、合成樹脂のマトリックス相に貝殻由来の炭酸カルシウムの分散相を均一に形成することができ、フィルム加工した場合であっても優れた機械的特性を発現させる樹脂用無機充填剤及び複合樹脂組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(A)は本発明に係る複合樹脂組成物(ペレット)の製造方法を実施する装置の実施形態を示す側面図、(B)はペレットをフィルム状の複合樹脂組成物に成形する装置の実施形態を示す側面図。
【図2】本発明の実施例1に係る樹脂用無機充填剤の粒度分布計測結果。
【図3】本発明の実施例2に係る樹脂用無機充填剤の粒度分布計測結果。
【図4】本発明の実施例3に係る樹脂用無機充填剤の粒度分布計測結果。
【図5】比較例1に係る樹脂用無機充填剤の粒度分布計測結果。
【図6】樹脂用無機充填剤が配合された複合樹脂組成物(30umフィルム)の検査結果。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の実施形態を説明する。
本実施形態に適用される貝殻としては、ホタテ、カキ、ハマグリ、アワビ、サザエ、その他の養殖物及び天然物の水産業において大量に廃棄される貝殻を採用することができる。
貝殻は、タンカルの無機結晶及びコンキオリンと呼ばれるタンパク質の複合体である殻本体と、キチン質の殻皮とから構成されている。
これら貝殻は、粉砕性向上の観点から、前処理として1カ月以上屋外に放置しておくことが好ましい、なお経済性の観点から特に焼成処理を施す必要はない。
【0011】
貝殻の粉砕装置としては、衝撃、圧縮及び摩擦等の粉砕力を用いた一般的なハンマーミル、ローラミル、ボールミル、ジェットミル等を用いることができる。また、これら粉砕装置で処理する前段階で、貝殻をジョークラッシャー等の粗粉砕装置で処理してもよい。
また、粉砕された粉体は、乾式または湿式での篩い分けまたは気流分級等の分級操作を経て、粒子分布が調整される。
【0012】
貝殻粉体は、最大粒径30um以下かつ平均粒径1um以上10um以下で分級されることが望ましい。さらには、最大粒径10um以下かつ平均粒径1um以上5um以下で調整されることがより好ましい。
粉体の最大粒径が30umよりも大きいと、粉体の分散相と樹脂のマトリックス相との界面が少なくなる分、界面応力が増大して界面剥離が生じ易く、複合樹脂の機械特性が低下する。また、この粉体が充填剤として含まれる複合樹脂フィルムにあっては、所望される風合い、強度、その他のフィルム特性を実現するうえで、粉体の最大粒径がそのフィルム厚よりも小さいことが望ましい。
【0013】
現状で利用されている厚手のゴミ袋用フィルムが厚み40um程度、薄手のレジ袋フィルムが15um程度であることを鑑みて、望ましい最大粒径を30um以下とし、より好ましい最大粒径を10um以下とした。
また平均粒径が1umよりも小さいと、ナノオーダの粒径の微粒子が占める割合が高くなり、これら微粒子が凝集して二次粒子が形成され易くなり粉体分散相の均一性が損なわれる。
【0014】
粉砕装置で処理された貝殻粉体は、液媒に浸漬されて樹脂用無機充填剤となる。液媒は、貝殻粉体100重量部に対し、1重量部から1000重量部の割合で混合される。さらには、5重量部から100重量部の割合で混合されることがより好ましい。
この液媒は、水、その他有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の水に可溶な性質を示すアルコール類が好適である。
また、貝殻粉体と液媒とを混合させるタイミングは、粉砕装置で処理された直後であっても、後記する混練装置に投入する直前であってもよい。また、直前に投入する場合は、貝殻粉体と液媒とをそれぞれ別個に混練装置に投入させてもよく、またいずれか一方を先に合成樹脂に混合した後に他方を混合させる場合であってもよい。
【0015】
これら液媒は、後記する混練装置において貝殻粉体と合成樹脂とを密閉状態で加熱混練する際に、合成樹脂の流動体マトリックス相に、貝殻の粉末の分散相を微細に分散させる作用を有する。つまり液媒は、加熱混練時に合成樹脂の流動体中で貝殻粉体が凝集するのを妨いで複合体を均一にする働きを有する。
また液媒は、この液媒と貝殻粉体とが混合された状態の樹脂用無機充填剤を長期保存する場合、貝殻粉体が塊状になるのを防止して保存安定性に貢献する。
【0016】
液媒は1重量部未満であると、貝殻粉体の表面を全て液媒で濡らすことができず、樹脂マトリックス相における貝殻粉体の分散性が低下して凝集塊が発生する原因になる。また後記する混練装置に貝殻粉体を投入する際に、微粉末が舞い上がり作業環境を悪化させる場合がある。
また液媒は1000重量部を超えると、気化除去する際の気化熱を大量に消費して混練温度を低下させてしまう。
【0017】
マトリックス相を形成する合成樹脂としては、加熱により溶融する熱可塑性樹脂や、加熱により硬化する熱硬化性樹脂のいずれも採用することができるが、常温から所定温度に昇温することにより流動化するものが適用される。
【0018】
熱可塑性樹脂としては、ペレット状に成形された、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)等のポリオレフィン系の樹脂が好適である。
【0019】
またこれらに限定されることなく、その他、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、アクリル・ブチレン・スチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)等、加熱により熱流動する性質を有し一般に押出成形が可能なものであれば、特に制限無く用いることができる。さらに、これら熱可塑性樹脂は、二種以上混合して使用してもよい。
【0020】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド、ジアリルフタレート、アルキド等の各種公知の熱硬化性樹脂が挙げられる。
これら熱硬化性樹脂は、公知の硬化剤を主剤に添加して、所定の形状を保持して、硬化温度に設定して重合反応させることにより成形品にすることができるものである。なお、これら熱硬化性樹脂の主剤は、重合反応前の単量体が低分子量化合物であるために、液体、固体、半固体の性状を取り得るが、少なくとも加熱の過程において流動性を示すものである。
よって、硬化温度よりも低い設定温度において、熱硬化性樹脂と貝殻粉体とを混練して熱硬化性樹脂のマトリックス相に貝殻粉体の分散相を形成することができる。
【0021】
樹脂用無機充填剤は、合成樹脂と貝殻粉体の合計100重量部に対し、貝殻粉体が5重量部から80重量部となるように混練装置に投入される。
貝殻粉体が5重量部よりも少ないと、貝殻粉体の分散相の均一性が低下して、溶融混練体を延伸してフィルム状にする際に、厚みムラが生じてしまう。また、化石燃料の使用を低減して環境保全に貢献するという目的の達成が不十分なものとなってしまう。
貝殻粉体が80重量部よりも多いと、貝殻粉体の連続相が形成されて複合樹脂組成物を延伸したフィルムにすることが困難になる。
【0022】
混練装置としては、ニーダやバンバリミキサー等のバッチ式のものや、一軸や多軸の押出装置等の連続式のものが挙げられる。これらの混練装置においては、それぞれの密閉空間を合成樹脂の流動温度に調整して撹拌(混練)を実行することになる。
【0023】
図1(A)は、連続式の混練装置30であって、投入手段31と、駆動手段32と、混練手段33と、脱液手段34と、造粒手段35と、から構成されている。ここで混練手段33は、外側を構成するシリンダと、駆動手段32の駆動力でシリンダ内部を回転するスクリュー(図示略)とから構成されている。
【0024】
投入手段31には、樹脂用無機充填剤の供給槽11から貝殻粉体が投入されるとともに、ペレット供給槽16からペレット状の合成樹脂が投入される。
そして、投入された貝殻粉体と合成樹脂の混合体は、シリンダの内部で軸回転するスクリューにより加熱混練され合成樹脂が溶融し、貝殻粉体は、密閉系における高温高圧状態の液媒の作用により再凝集が抑制され、溶融体のマトリックス中に均一分散していくことになる。
【0025】
そして、この合成樹脂の溶融体、貝殻粉体及び液媒の分散体が、脱液手段34を通過すると、密閉系が開放系に切り替わり前記分散体から前記液媒が気化して除去される。
この脱液手段34は、複数の孔が開口したメッシュ板で混練手段33の内部と大気とを仕切り、加圧されながら連続的に上流から下流に押し出される混練体が混練手段33の外側に飛び出さないように構成されている。一方、高温加圧された液媒は、このメッシュ板の開口孔に至り密閉状態から大気開放されるのに伴って、選択的に気化・除去されることになる。
【0026】
なお、説明が省略されているバッチ式の混練装置における脱液手段は、混練が行われる密閉空間を大気開放する開閉弁で構成することができる。
さらに脱液手段34は、前記したように大気圧に開放するだけでなく、さらに減圧させる減圧器が設けられ液媒の気化を促進させる場合もある。
【0027】
脱液媒処理された混練体は、合成樹脂の溶融マトリックス相に、微細化した貝殻粉体の分散相が均一に形成された状態で、混練手段33の最下流から吐出する。
そして吐出した混練体は、造粒手段35において束状に分岐されて冷却凝固させた後にペレット状の複合樹脂組成物にカットされる。
【0028】
このペレットは、図示略の射出成形機で再加熱して溶融させてから、金型に注入してバルク状の成形品としたり、延伸加工(例えばインフレーション法、カレンダー加工法、T−ダイ法、吹き込み法等)してフィルム状の成形品としたり、発泡させて発泡成形品としたりして、一般的な高分子加工成形品を製造するための原料となる。
【0029】
図1(B)は、フィルム状の複合樹脂組成物を成形する工程を示すものであって、インフレーション成形装置60を用いて、円筒形状の薄膜フィルム成形品を得る工程を示している。
インフレーション成形とは、環状の口金(ダイ)61をもつ金型を取り付けた押出装置20で原料を混練し、熱流動体を筒状に押し出し、その中に空気Sを吹き込んで延伸させた後、冷却リング66で冷却し、薄膜の円筒状のフィルムを成形し、安定板65で誘導してピンチロール64をくぐらせ内部の空気をぬいて、ガイドロール63を経由して巻取装置62で巻き取る方法である。
【0030】
このインフレーション成形によれば、二軸延伸により樹脂の薄膜が形成されるので、引張強さ、耐衝撃性などの機械的諸性質に優れる。さらに、インフレーション成形は、連なった筒状のフィルム成形品として形成されるのでポリエチレンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂のラップや袋の製造に広く用いられている。
【0031】
本発明に係る樹脂用無機充填剤を配合した複合樹脂組成物をフィルム成形すれば、熱流動する複合樹脂の内部に空気Sを入れて急速に膨らましても、微細な貝殻粉体は、均一分散しており、この貝殻粉体が凝集する欠陥部分が存在しないため、フィルムは均等で一様な膜厚で延伸される。このため、冷却後、得られたフィルム成形品は、あたかも100%合成樹脂で成形されたかのように、膜厚が均等で、見た目が美しく、延伸度を高めても亀裂やピンホール等の欠陥もなく機械的特性(引裂強度等)も優れたものとなる。
【実施例】
【0032】
次に本発明の効果を確認するための実施例について説明する。
貝殻粉体の原料として養殖カキのカキ殻を用い、身を取り外した後、1ヶ月間にわたり天日干しした近年物と、3年間にわたり天日干しした経年物の二種類を準備した。なお焼成処理は行っていない。
合成樹脂としてポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製、カーネルKF260T,ASTM D1238 230℃によるメルトフローレート(MFR)=2.0g/10分、比重=0.901)を用いた。
【0033】
貝殻の粉砕装置としては、IHI製の竪型ローラミル150(テーブル:軌道径150mm、ローラ:直径150mm)を用いた。内蔵される分級機としては、かご型ロータのISタイプ、このISタイプよりも微粉分級が可能なターボクラシファイア型のSHタイプの二種類のものを準備した。
粉砕された貝殻粉体の粒度分布の計測は、日機装(株)製のマイクロトラック FRA(61−04)を用い、レーザ回折・散乱法により、測定レンジ0.1um〜700umとして、実施した。
【0034】
図2は、経年物のカキ殻を、SHタイプで分級したものの粒度分布測定結果である。この図2によれば、平均粒径D50=3.7um、最大粒径Dmax=18.5umという結果が得られた(図6参照)。
図3は、経年物のカキ殻を、ISタイプで分級したものの粒度分布測定結果である。この図3によれば、平均粒径D50=3.5um、最大粒径Dmax=26.2umという結果が得られた(図6参照)。
【0035】
図4は、近年物のカキ殻を、SHタイプで分級したものの粒度分布測定結果である。この図4によれば、平均粒径D50=4.8um、最大粒径Dmax=26.2umという結果が得られた(図6参照)。
図5は、近年物のカキ殻を、ISタイプで分級したものの粒度分布測定結果である。この図5によれば、平均粒径D50=6.8um、最大粒径Dmax=62.2umという結果が得られた(図6参照)。
【0036】
図2〜図5に係る貝殻粉体100重量部に対し、液媒として水を10重量部混合させ、図6に示すように、それぞれ実施例1、実施例2、実施例3、及び比較例1に係る樹脂用無機充填剤とする。そして、図2に係る貝殻粉体(液媒無し)のものを比較例2に係る樹脂用無機充填剤とする。
【0037】
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1及び比較例2に係る樹脂用無機充填剤のそれぞれと合成樹脂ペレットとを時間当たり供給重量で制御したフィーダーにより、2軸押出機のホッパーに投入し、バレル設定温度160℃、スクリュー回転数:80rpm、樹脂温度が押出機出口で170〜180℃の条件で加熱混練してペレット状の複合樹脂組成物を得た。滞留時間(加熱混練時間)は3分であった。
実施例1、実施例2、実施例3及び比較例1に係る複合樹脂ペレットは、貝殻粉末と合成樹脂との重量比率で50:50であった。
【0038】
得られた実施例1、実施例2、実施例3、比較例1及び比較例2に係る複合樹脂ペレットを再加熱して一軸延伸して厚さ30umの複合樹脂フィルムの作成を試みた。また、合成樹脂のみ(貝殻粉体の分散相無し)のフィルムを作成し、これを比較例3とする(図6参照)。
その結果、実施例1、実施例2、実施例3、比較例1及び比較例3については複合樹脂フィルム作成に成功したが、比較例2については貝殻粉体の分散相が不均一であることが原因で失敗した。
【0039】
人間の官能検査を行ったところ、実施例1、実施例2、実施例3に係る複合樹脂フィルムは、表面は平滑であったが、比較例1についてはざらつきが感じられた。これは、貝殻粉体の最大粒径Dmaxがフィルム厚さ(30um)よりも大きいためと考えられる。
また風合いについて検討すると、実施例2及び実施例3に係る複合樹脂フィルムは同等といえ、これらと比較して実施例1に係る複合樹脂フィルムは優れている。これより、最大粒径Dmaxが小さい方が、複合樹脂フィルムの風合い向上に貢献するといえる。
【0040】
得られた実施例1に係る複合樹脂フィルム及び比較例3に係る樹脂フィルムに対し、JISK7128−3に基づく引裂強度試験を行った。その結果、実施例1に係る複合樹脂フィルムの延伸方向(MD)で71.6N/mm、横方向(TD)で67.3N/mm、比較例3に係る樹脂フィルムの延伸方向(MD)で70.0N/mm、横方向(TD)で55.0N/mmの引裂強度値が得られた。つまり、貝殻粉体の樹脂用無機充填剤が配合されることによって、フィルムの機械的強度が向上するという結果が得られた。
【0041】
図6に示される複合樹脂組成物(30umフィルム)の検査結果から、樹脂マトリックスにおける貝殻粉体の分散相の均一性に関しては、樹脂用無機充填剤に含まれる液媒が大きく関与するといった知見が得られた。
そして、樹脂用無機充填剤の粒径分布は、複合樹脂組成物のフィルム特性に影響を与えるといった知見が得られた。
【0042】
以上の説明において、本実施形態に係る樹脂用無機充填剤についてフィルム状の複合樹脂組成物に配合されている場合の物性検討を示したが、これは顕著な効果を示した一例であって、バルク状の複合樹脂組成物に配合される場合であっても同様に優れた効果を発揮する。
【符号の説明】
【0043】
11…供給槽、16…ペレット供給槽、20…押出装置、30…混練装置、31…投入手段、32…駆動手段、33…混練手段、34…脱液手段、35…造粒手段、60…インフレーション成形装置、62…巻取装置、63…ガイドロール、64…ピンチロール、65…安定板、66…冷却リング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻を粉砕させた粉体100重量部に対し、1重量部から1000重量部の範囲に含まれる液媒が混合していることを特徴とする樹脂用無機充填剤。
【請求項2】
前記粉体は、最大粒径30um以下かつ平均粒径1um以上10um以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂用無機充填剤。
【請求項3】
前記貝殻は、1ヶ月以上屋外放置された後に前記粉砕が実行されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂用無機充填剤。
【請求項4】
前記液媒は、水又はメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールの群の中から選択される一又は二以上の化合物を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂用無機充填剤。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の樹脂用無機充填剤及び合成樹脂を加熱混練するステップと、
前記液媒を気化させて除去するステップと、
前記粉体及び前記合成樹脂の複合体を冷却して固化させるステップと、を含むことを特徴とする複合樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−105893(P2011−105893A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264695(P2009−264695)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(504004647)アグリフューチャー・じょうえつ株式会社 (24)
【出願人】(509322502)鷹觜建設株式会社 (1)
【Fターム(参考)】