説明

樹脂用硬化剤及び硬化性樹脂組成物

【課題】樹脂、好ましくは水溶性アクリル樹脂及び/又はエポキシ樹脂に使用した場合、耐溶剤性に優れる被膜を形成することができ、かつ操作性が良好な硬化剤及びそれを含む硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(1)少なくとも1種のアルミニウムアルコキシド、(2)下記一般式(L1)によって表わされる少なくとも1種のアルコキシ基又はヒドロキシル基含有β−ケトエステル:


〔但し、式中、R1はC1〜C3アルキル基、又はアリール基を表し、R2はH原子、C1〜C8アルキル基又はアルケニル基、或はベンジル基を表し、AはC2〜C8アルキレン基を表し、nは整数1〜4を表す〕を反応させて得られるアルミニウムキレートを含有する硬化剤を硬化性樹脂に配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、インキ、接着剤、粘着剤、電気絶縁材料などに使用されるアクリル樹脂及びエポキシ樹脂の硬化剤として使用するのに適したアルミニウムキレートに関する。さらに、該アルミニウムキレートと、水溶性アクリル樹脂及び水溶性エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有する硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特公昭48−17859号公報(特許文献1)には、分子内にカルボキシル基を有する線状共重合体とアルミニウム錯化合物とケトエノール型互変異性化合物及び溶剤を含有する一液性常温硬化型被覆組成物が開示されている。特開平4−13787号公報(特許文献2)には、エポキシ当量180〜4000の範囲にあるビスフェノール型エポキシ樹脂、アルミニウムアルコラート及びノボラック型フェノール樹脂を含有する被覆用樹脂組成物が開示されている。しかし、これらは、樹脂の種類によっては、特に水溶性樹脂の場合には、アルミニウムキレートを含有する硬化性樹脂組成物を塗布して得られる被膜の耐溶剤性が悪く、強度も不十分な場合があった。
【0003】
また、特開2004−339366号公報(特許文献3)には、アルミニウムアルコキシド及びβ−ケトアミドを反応させて得られるアルミニウムキレートを含有する樹脂硬化剤が開示されている。耐溶剤性など硬化性能の改善は見られるが、硬化剤が固体であるため被硬化樹脂に添加し難いなど操作性に問題があった。
【特許文献1】特公昭48−17859号公報
【特許文献2】特開平4−13787号公報
【特許文献3】特開2004−339366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は樹脂、好ましくは水溶性アクリル樹脂及び/又はエポキシ樹脂に、硬化剤として添加した場合、耐溶剤性に優れた、被膜を形成することができ、かつ操作性が良好な硬化剤及びそれを含む硬化性樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、配位子に特定の構造を有するアルミニウムキレートを、樹脂、好ましくは水溶性アクリル樹脂及び/又はエポキシ樹脂の硬化剤として使用すると、耐溶剤性に優れた被膜が形成されることを見出し、この知見に基いて本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明の樹脂用硬化剤(C1)は、
(1)少なくとも1種のアルミニウムアルコキシドと、
(2)下記一般式(L1)によって表わされ、かつアルコキシ基、又はヒドロキシル基を有する少なくとも1種のβ−ケトエステル:
【化1】

〔但し、一般式(L1)中、Rは、1〜3個の炭素原子を有するアルキル基、又はアリール基を表し、Rは、水素原子、1〜8個の炭素原子を有するアルキル基又はアルケニル基、或はベンジル基を表し、Aは2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基を表し、nは1〜4の整数を表す〕
を反応させて得られるアルミニウムキレートを含有することを特徴とするものである。
また、本発明の樹脂用硬化剤(C2)は、
(1)少なくとも1種のアルミニウムアルコキシド
(2)下記一般式(L1)によって表わされ、かつアルコキシ基又はヒドロキシル基を有する少なくとも1種のβ−ケトエステル:
【化2】

〔但し、一般式(L1)中、Rは、1〜3個の炭素原子を有するアルキル基、又はアリール基を表し、Rは、水素原子、1〜8個の炭素原子を有するアルキル基又はアルケニル基、或はベンジル基を表し、Aは2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基を表し、nは1〜4の整数を表す〕
及び
(3)前記一般式(L1)により表されるβ−ケトエステルとは異種の、少なくとも1種のケトエノール型互変異性化合物との反応により得られるアルミニウムキレートを含有することを特徴とするものである。
本発明の樹脂用硬化剤(C2)において、前記ケトエノール型互変異性化合物(3)が、下記一般式(L2)で表わされるβ−ケトエステル、下記一般式(L3)で表わされるβ−ケトアミド、及び下記一般式(L4)で表わされるβ−ジケトン:
【化3】

〔但し、一般式(L2)中、Rは、1〜3個の炭素原子を有するアルキル基、或はアリール基を表し、Rは、1〜18個の炭素原子を有するアルキル基又はアルケニル基、或はベンジル基を表し、一般式(L3)中、Rは、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ互いに独立に、1〜8個の炭素原子を有する未置換の、又は置換されたアルキル基、或は未置換の、又は置換されているアリール基を表し、一般式(L4)中、R及びRは、それぞれ互いに独立に、1〜8個の炭素原子を有するアルキル基、或はアリール基を表す〕
から選ばれることが好ましい。
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記本発明の上記樹脂用硬化剤(C1)又は(C2)を含む硬化剤成分と、水溶性アクリル樹脂及びエポキシ樹脂から選ばれた少なくとも一種を含有する樹脂成分とを含むことを特徴とするものである。
本発明の硬化性樹脂組成物は、さらにポリエポキシ化合物を含むエポキシ成分を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂用硬化剤(C1)又は(C2)は、それに含まれるアルミニウムキレートに配位子として、一般式(L1)のβ−ケトエステルが含まれるので、室温において高い流動性を有し、硬化剤(C1)及び(C2)は操作性がよく、硬化性樹脂、好ましくは水溶性アクリル樹脂及び/又はエポキシ樹脂の硬化剤として使用することにより、耐溶剤性の高い硬化被膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の樹脂用硬化剤(C1)は、アルミニウムアルコキシド(1)と、一般式(L1)により表されるβ−ケトエステル(2)との反応生成物として得られるアルミニウムキレートを含むものであり、本発明の樹脂用硬化剤(C2)はアルミニウムアルコキシド(1)と前記一般式(L1)のβ−ケトエステル(2)と、この式(L1)のβ−ケトエステル(2)とは異種のケトエノール型互変異性化合物(3)とを反応させて得られるアルミニウムキレートを含むものである。
【0009】
硬化剤(C1)において、アルミニウム1原子に対し、β−ケトエステル(2)3分子が、配位結合していることが好ましく、硬化剤(C2)においては、アルミニウム1原子に対し、一般式(L1)のβ−ケトエステル(2)及びそれとは異種のケトエノール型互変異性化合物の合計3分子が配位結合していることが好ましい。比較的低分子量で、且つ室温で流動性を有するアルミニウムキレートを得るには、上記硬化剤(C1)よりも硬化剤(C2)の方がより好ましい。
硬化剤(C1)又は(C2)の調製に用いられるアルミニウムアルコキシド(1)には、格別の制限はないが、2〜5個の炭素原子を含むアルコキシ基を有するアルコキシドを用いることが好ましく、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムイソプロポキシドなどを例示できる。
【0010】
一般式(L1)で表されるβ−ケトエステル(2)は、例えばアセト酢酸2−メトキシエチル、アセト酢酸2−エトキシエチル、アセト酢酸2−イソプロポキシエチル、アセト酢酸2−ブトキシエチル、アセト酢酸3−エトキシ−1−プロピル、アセト酢酸3−メトキシ−1−ブチル、アセト酢酸2−ヒドロキシエチル、3−オキソペンタン酸(2−エトキシエチル)、アセト酢酸2−(2−メトキシエトキシ)エチル、及びアセト酢酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルなどを包含する。一般式(L1)のβ−ケトエステル化合物のなかでも、一般式(L1)においてn=1の化合物、例えばアセト酢酸2−メトキシエチル、アセト酢酸2−ブトキシエチル、アセト酢酸3−エトキシ−1−プロピルなどを用いることが好ましい。更に好ましくは、アセト酢酸2−メトキシエチル、アセト酢酸2−エトキシエチル及びアセト酢酸2−イソプロポキシエチルから選ばれる。
【0011】
一般式(L1)により表されるβ−ケトエステル(2)とは異種のケトエノール互変異性化合物(3)は、一般式(L2)のβ−ケトエステル、一般式(L3)のβ−ケトアミド及び一般式(L4)のβ−ジケトンから選ばれる。
一般式(L2)で表されるβ−ケトエステル化合物は、例えばアセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸オレイル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ステアリル、アセト酢酸ベンジル、3−オキソペンタン酸メチル、3−オキソペンタン酸オクチルなどを包含し、好ましくは、アセト酢酸メチル及びアセト酢酸エチルから選ばれる。
【0012】
一般式(L3)で表されるβ−ケトアミド化合物は、例えばアセト酢酸アミド、N−メチルアセト酢酸アミド、N,N−ジメチルアセト酢酸アミド、N,N−ジエチルアセト酢酸アミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アセト酢酸アミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アセト酢酸アミド、N−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル)アセト酢酸アミド、アセト酢酸アニリド、N−(2−メチルフェニル)アセト酢酸アミド、N−(4−メトキシフェニル)アセト酢酸アミド、N−(4−クロロフェニル)アセト酢酸アミド、及び3−オキソペンタン酸アミドなどを包含し、好ましくは、N,N−ジメチルアセト酢酸アミド、N,N−ジエチルアセト酢酸アミド及びN−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル)アセト酢酸アミドから選ばれる。
【0013】
一般式(L4)で表されるβ−ジケトン化合物は、例えばアセチルアセトン、1−ベンゾイルアセトン及びジベンゾイルメタンなどを包含し、好ましくは、アセチルアセトンである。
【0014】
本発明のアルミニウムキレートは、例えば、下記の方法により製造することができる。
すなわちアルミニウムアルコキシドを、適当な溶媒(例えば2−プロパノール又はエタノール等)に溶解し、この溶液中に、所定モル量の一般式(L1)のβ−ケトエステル化合物、或は、一般式(L1)のβ−ケトエステル化合物と、β−ケトエステル(一般式(L2))、β−ケトアミド(一般式(L3))、β−ジケトン(一般式(L4))から選ばれた1種以上を、そのまま滴下し、或いはこれらを適当な溶媒(例えば2−プロパノール、エタノール等)に溶解した溶液として、これを滴下し、この混合液を加熱して、アルミニウムキレートを製造する。反応終了後、反応液から溶媒を留去することにより、目的のアルミニウムキレート化合物を製造することができる。
【0015】
上記のようにして得られる本発明の硬化剤(C1)又は(C2)用アルミニウムキレートとしては、例えばトリス((2−エトキシエチル)アセトアセタト)アルミニウム(III )、(エチルアセトアセタト)ビス((2−メトキシエチル)アセトアセタト)アルミニウム(III )、(N,N−ジエチルアセトアセタミダト)ビス((2−メトキシエチル)アセトアセタト)アルミニウム(III )、ビス(N,N−ジメチルアセトアセタミダト)((2−エトキシエチル)アセトアセタト)アルミニウム(III )、ビス((2−エトキシエチル)アセトアセタト)(アセチルアセトナト)アルミニウム(III )、ビス((2−メトキシエチル)アセトアセタト)(アセチルアセトナト)アルミニウム(III )、トリス((2−ヒドロキシエチル)アセトアセタト)アルミニウム(III )、((2−エトキシエチル)アセトアセタト)ビス(N−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル)アセトアセタミダト)アルミニウム(III )などが包含される。
【0016】
本発明の硬化剤を配合して用いられる樹脂には、それが本発明の硬化剤によって硬化し得る限り、格別の制限はないが、一般にアクリル樹脂及びエポキシ樹脂から選ばれたものであることが好ましい。
本発明に用いられるアクリル樹脂用モノマーとしては、(イ)一分子中に1個以上の活性水素を有する(メタ)アクリル酸モノマー、すなわち、アクリル酸及びメタクリル酸;(ロ)他のエチレン性不飽和カルボン酸、例えばクロトン酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸など;(ハ)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、例えばアクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシブチル、及び(メタ)アクリル酸モノグリセリルエステル等;(ニ)アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、例えばアクリル酸ジメチルアミノエチル、及びメタクリル酸ジエチルアミノエチル等;(ホ)酸素原子−含有飽和三〜五員環基を有する(メタ)アクリル酸エステル、例えばアクリル酸グリシジル、及びメタクリル酸テトラヒドロフルフリル等、が用いられ、これらのモノマー群から選ばれた少なくとも1種の重合体及び共重合体、並びに前記モノマーと、これと共重合可能な異種のモノマーとの共重合体が本発明用アクリル樹脂として用いられる。前記異種モノマーとしては例えば、(a)アクリル酸エステル、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、及びアクリル酸−2−エチルヘキシル等;(b)メタクリル酸エステル、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ラウリル、及びメタクリル酸グリシジル等;(c)不飽和カルボン酸アミド、例えばアクリル酸アミド及びN−メチロールアクリル酸アミド等;(d)その他の重合性モノマー、例えばアクリロニトリル、酢酸ビニル、及びスチレン等が用いられる。
【0017】
本発明用エポキシ樹脂としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型等)、環状脂肪族エポキシ樹脂(脂環式ジエポキシアセタール、脂環式ジエポキシアジペート等)、グリシジルエステル型エポキシ樹脂(フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルp−アミノフェノール等)、複素環式エポキシ樹脂(ジグリシジルヒダントイン等のヒダントイン型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート)及びこれらエポキシ樹脂をアミンあるいはポリアミドで変性した樹脂等を挙げることができる。
また、本発明の硬化性樹脂組成物に、必要により、更に含まれるエポキシ成分には、1種以上のポリエポキシ化合物、例えばグリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテルポリオール、低重合度のビスフェノール型エポキシ樹脂等が含まれる。
【0018】
本発明の硬化性樹脂組成物には、前述のように、好ましくはアクリル樹脂及びエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも一種の樹脂と本発明のアルミニウムキレート含有硬化剤が含有される。
アクリル樹脂、特に水溶性アクリル樹脂が用いられる場合には、前記のポリエポキシ化合物、特に水に可溶なポリグリシジルエーテルポリオールを含むエポキシ成分が併用されることが好ましい。ポリグリシジルエーテルポリオールなどのエポキシ成分が含有されない場合には、ポットライフが短く、硬化処理が困難になることがある。
【0019】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、本発明のアルミニウムキレートとは異種の硬化剤、必要により、例えば低級アミン、メラミン樹脂などのアミノ樹脂、フェノール樹脂、イソシアネート、及び酸無水物等の1種以上と、顔料、顔料分散剤、酸化防止剤、レベリング剤、粘弾性調整剤等の添加剤及び希釈溶剤も含有されていてもよい。
【0020】
アクリル樹脂を含有する硬化性樹脂組成物の場合は、溶剤:10〜90重量%、アクリル樹脂含有樹脂成分:10〜90重量%、ポリエポキシ化合物含有エポキシ成分:0〜50重量%、前記記載のアルミニウムキレート含有硬化剤成分:0.01〜20重量%の範囲で配合することが好ましい。
【0021】
エポキシ樹脂を含有する硬化性樹脂組成物の場合は、溶剤:10〜90重量%、エポキシ樹脂含有樹脂剤成分:10〜90重量%、前記記載アルミニウムキレート含有硬化剤成分:0.01〜20重量%の範囲で配合することが好ましい。
【0022】
樹脂の官能基や安定剤の有無にもよるが、硬化剤成分の含有量が0.01重量%より少ない場合は、硬化性が不十分となり耐溶剤性などの性能が低い被膜しか得られないので好ましくなく、また、それが20重量%を超えるとポットライフが短くなり、硬化処理が困難になるため好ましくない。
【0023】
本発明の硬化性樹脂組成物は、各成分を、サンドミル、ビーズミル、ペイントシェーカー等で混合する一般的な方法により得ることができる。
本発明の硬化性樹脂組成物は、塗料、インキ、接着剤、粘着剤、電気絶縁材料等に利用することができる。
【実施例】
【0024】
本発明を下記実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
製造例1
【0025】
300ml 4ッ口フラスコ中に、アルミニウムトリイソプロポキシド7.0g(0.034mol)及び2−プロパノール63gを仕込み、この混合物を攪拌しながら、それに55〜65℃において、アセト酢酸2−エトキシエチル17.9g(0.103mol)を滴下した。滴下終了後、得られた反応混合液を83℃において、還流下45分反応させた後、溶媒(2−プロパノール)を除去して、淡褐色粘稠液体のトリス((2−エトキシエチル)アセトアセタト)アルミニウム(III)(以下、Al(EOEAA)と記す)19.0gを得た。
アルミニウム含量;4.89%(理論値 4.94%)
IRスペクトル(cm-1);2974,2928,2871(C−H伸縮振動)、1612,1519(C=O伸縮振動)、1418,1388(C−H変角振動)、1306,1173(C−O伸縮振動)、1126,1064(C−O−C伸縮振動)、975,622,485(Al−O伸縮振動)
【0026】
製造例2
500ml 4ッ口フラスコ中に、アルミニウムトリイソプロポキシド60.4g(0.296mol)及び2−プロパノール140gを仕込み、この混合物を攪拌しながらそれに55〜65℃で、アセト酢酸エチル38.5g(0.296mol)を滴下した。滴下終了後、得られた反応混合液を83℃において、還流下、30分反応させた。得られた反応混合液を一旦50℃に冷却後、これにアセト酢酸2−メトキシエチル94.7g(0.591mol)を滴下した。得られた反応混合液を、83℃において、還流下、1時間反応させた後、溶媒(2−プロパノール)を除去して、褐色粘稠液体の(エチルアセトアセタト)ビス((2−メトキシエチル)アセトアセタト)アルミニウム(III)(以下、Al(EAA)(MOEAA)と記す)140.4gを得た。
アルミニウム含量;5.71%(理論値 5.69%)
IRスペクトル(cm-1);2982,2931,2892(C−H伸縮振動)、1609,1523(C=O伸縮振動)、1420,1374(C−H変角振動)、1294,1176(C−O伸縮振動)、1130,1065(C−O−C伸縮振動)、978,629,497(Al−O伸縮振動)
【0027】
製造例3
300ml 4ッ口フラスコ中に、アルミニウムトリイソプロポキシド7.0g(0.034mol)及び2−プロパノール63gを仕込み、この混合物を攪拌しながらこれに55〜65℃で、N,N−ジエチルアセト酢酸アミド5.4g(0.034mol)を滴下した。滴下終了後、得られた反応混合液を83℃において、還流下、30分反応させた。得られた反応混合液を一旦60℃に冷却後、これにアセト酢酸2−メトキシエチル11.0g(0.069mol)を滴下した。得られた反応混合液を、83℃において、還流下、1時間反応させた後、溶媒(2−プロパノール)を除去して、褐色粘稠液体の(N,N−ジエチルアセトアセタミダト)ビス((2−メトキシエチル)アセトアセタト)アルミニウム(III)(以下、Al(DEAM)(MOEAA)と記す)17.4gを得た。
アルミニウム含量;5.32%(理論値 5.38%)
IRスペクトル(cm-1);2976,2931,2891(C−H伸縮振動)、1612,1580,1523(C=O伸縮振動)、1421,1376(C−H変角振動)、1294,1173(C−O伸縮振動)、1130,1067(C−O−C伸縮振動)、975,628,488(Al−O伸縮振動)
【0028】
製造例4
300ml 4ッ口フラスコ中に、アルミニウムトリイソプロポキシド15.0g(0.073mol)及び2−プロパノール135gを仕込み、この混合物を攪拌しながら、55〜65℃で、これにN,N−ジエチルアセト酢酸アミド23.1g(0.147mol)を滴下した。滴下終了後、得られた反応混合液を、83℃において、還流下、30分反応させた。得られた反応混合液を一旦60℃に冷却後、これにアセト酢酸2−メトキシエチル11.8g(0.073mol)を滴下した。得られた反応混合液を、83℃において、還流下、1時間反応させた後、溶媒(2−プロパノール)を除去して、褐色粘稠液体のビス(N,N−ジエチルアセトアセタミダト)((2−メトキシエチル)アセトアセタト)アルミニウム(III)(以下、Al(DEAM)(MOEAA)と記す)37.6gを得た。
アルミニウム含量;5.36%(理論値 5.41%)
IRスペクトル(cm-1);2975,2932,2875(C−H伸縮振動)、1577,1524(C=O伸縮振動)、1421,1377(C−H変角振動)、1287,1169(C−O伸縮振動)、1130,1067(C−O−C伸縮振動)、974,684(Al−O伸縮振動)
【0029】
製造例5
300ml 4ッ口フラスコ中に、アルミニウムトリイソプロポキシド15.0g(0.073mol)及び2−プロパノール60gを仕込み、この混合物を攪拌しながら、55〜65℃で、これにアセト酢酸2−エトキシエチル25.6g(0.147mol)を滴下した。滴下終了後、得られた反応混合液を、83℃において、還流下、30分反応させた。得られた反応混合液を一旦60℃に冷却後、これにアセチルアセトン7.4g(0.073mol)を滴下した。得られた反応混合液を、83℃において還流下1時間反応させた後、溶媒(2−プロパノール)を除去して、黄色粘稠液体のビス((2−エトキシエチル)アセトアセタト)(アセチルアセトナト)アルミニウム(III)(以下、Al(EOEAA)(acac)と記す)35.0gを得た。
アルミニウム含量;5.66%(理論値 5.71%)
IRスペクトル(cm-1);2975,2930,2870(C−H伸縮振動)、1607,1525(C=O伸縮振動)、1420,1391(C−H変角振動)、1292,1174(C−O伸縮振動)、1125,1067(C−O−C伸縮振動)、978,687,495(Al−O伸縮振動)
【0030】
製造例6
300ml 4ッ口フラスコ中に、アルミニウムトリイソプロポキシド7.5g(0.037mol)及び2−プロパノール68gを仕込み、この混合物を攪拌しながら55〜65℃で、これにアセト酢酸2−(2−エトキシエトキシ)エチル16.0g(0.073mol)を滴下した。滴下終了後、得られた反応混合液を、83℃において、還流下、30分反応させた。得られた反応混合液を一旦60℃に冷却後、これにアセチルアセトン3.7g(0.037mol)を滴下した。得られた反応混合液を、83℃において、還流下、1時間反応させた後、溶媒(2−プロパノール)を除去して、黄色粘稠液体のビス((2−(2−エトキシエトキシ)エチル)アセトアセタト)(アセチルアセトナト)アルミニウム(III)(以下、Al(EEOEAA)(acac)と記す)20.7gを得た。
アルミニウム含量;4.79%(理論値 4.81%)
IRスペクトル(cm-1);2974,2925,2870(C−H伸縮振動)、1606,1526(C=O伸縮振動)、1420,1395(C−H変角振動)、1295,1175(C−O伸縮振動)、1116,1068(C−O−C伸縮振動)、980,688,495(Al−O伸縮振動)
【0031】
製造例1〜6において製造されたアルミニウムキレートの種類及び分析結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
下記実施例及び比較例の各々において、表1に示されたアルミニウムキレートを含有する硬化性樹脂組成物を調製し、この組成物を所定の硬化条件下における被膜形成試験に供して被膜を作成し、その硬化性能を測定した。硬化条件等は後記において説明する。
【0034】
実施例1〜6及び比較例1〜4
実施例1〜6及び比較例1〜4の各々において、表2及び3に記載の組成に従って、水溶性アクリル樹脂(商標:ウォーターゾールS−744;樹脂固形分40%;アンモニア中和型;大日本インキ化学工業社製;以下、S−744と記す)にアルミニウムキレートを添加し、攪拌混合して硬化性樹脂組成物を調製した。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
実施例7〜11及び比較例5〜8
実施例7〜11及び比較例5〜8の各々において、表4及び5に記載の組成に従って、水溶性アクリル樹脂(商標:ジョンクリル61J;樹脂固形分30.5%;酸価195;分子量12,000;ジョンソンポリマー(株)製;以下、JC61Jと記す)に、アルミニウムキレートを添加し、攪拌混合して硬化性樹脂組成物を調製した。
【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
実施例12〜16、比較例9〜12
実施例12〜16及び比較例9〜12の各々において、表6及び7に記載の組成に従って、水溶性アクリル樹脂(商標:PDX−6102B;樹脂固形分24.5%;酸価65;分子量60,000;ジョンソンポリマー(株)製;以下、PDXと記す)にアルミニウムキレートを添加、攪拌混合して硬化性樹脂組成物を調製した。
【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
実施例17、比較例13〜14
実施例17及び比較例13〜14の各々において、表8に記載の組成に従って、水溶性アクリル樹脂S−744、エポキシ化合物(商標:デナコールEX−421;固形分100%;ナガセケムテックス(株)製;以下、EX−421と記す)、メタノール、及びアルミニウムキレートを攪拌混合して硬化性樹脂組成物を調製した。
【0044】
【表8】

【0045】
前記実施例1〜17及び比較例1〜14の各々において調製された硬化性樹脂組成物を硬化被覆試験に供しその結果を表2〜8に示す。尚、硬化被膜の性能評価方法は以下の通りに行った。
【0046】
硬化被膜の試験
(1)ラビング試験
実施例1〜6,17及び比較例1〜4,13〜14の各々において調製された硬化性樹脂組成物を、鋼板上にアプリケーターを用いて膜厚6μmになるように塗布し、表2,3及び8に記載の条件で硬化して被膜を作製した。実施例1〜6及び比較例1〜4の各々において調製された硬化性樹脂組成物から得られた被膜に対しては、メタノール/水(3/1;w/w)混合液を滲み込ませた脱脂綿で被膜を擦り、被膜が剥れない最大摩擦回数を測定した。この数字が大きいほど耐溶剤性が高いことを示している。
実施例17及び比較例13〜14の硬化性樹脂組成物から得られた被膜に対しては、メタノールを滲み込ませた脱脂綿で擦り、被膜が剥れない最大の回数を測定した。
【0047】
(2)ゲル分率
実施例7〜16及び比較例5〜12の各々の硬化性樹脂組成物を、鋼板上に、アプリケーターを用いて膜厚25μmになるように塗布し、表4〜7に記載の条件で硬化して被膜を作製した。
この被膜を鋼板とともにメタノール中に浸漬し、25℃に保ちながら放置し、18時間後に被膜つき鋼板を取り出して乾燥した。溶剤浸漬後の各被膜重量の、溶剤浸漬前の各被膜の重量に対する比率(%)を計算し、その値をもって各樹脂組成物被膜のゲル分率を表した。この数字が大きいほど、当該被膜の耐溶剤性が高いことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)少なくとも1種のアルミニウムアルコキシドと、
(2)下記一般式(L1)によって表わされ、かつアルコキシ基又はヒドロキシル基を有する少なくとも1種のβ−ケトエステル:
【化1】

〔但し、一般式(L1)中、Rは1〜3個の炭素原子を含むアルキル基、又はアリール基を表し、Rは水素原子、1〜8個の炭素原子を有するアルキル基又はアルケニル基、或はベンジル基を表し、Aは2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基を表し、nは1〜4の整数を表す〕と
の反応により得られるアルミニウムキレートを含有することを特徴とする樹脂用硬化剤。
【請求項2】
(1)少なくとも1種のアルミニウムアルコキシドと、
(2)下記一般式(L1)によって表わされ、かつアルコキシ基、又はヒドロキシル基を有する少なくとも1種のβ−ケトエステル、
【化2】

〔但し、一般式(L1)中、Rは1〜3個の炭素原子を有するアルキル基、又はアリール基を表し、Rは水素原子、1〜8個の炭素原子を有するアルキル基又はアルケニル基、或はベンジル基を表し、Aは2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基を表し、nは1〜4の整数を表す〕
と、及び
(3)前記一般式(L1)により表されるβ−ケトエステルとは異種の、少なくとも1種のケトエノール型互変異性化合物と
の反応により得られるアルミニウムキレートを含有することを特徴とする樹脂用硬化剤。
【請求項3】
前記ケトエノール型互変異性化合物(3)が、下記一般式(L2)で表わされるβ−ケトエステル、下記一般式(L3)で表わされるβ−ケトアミド、及び下記一般式(L4)で表わされるβ−ジケトン:
【化3】

〔但し、一般式(L2)中、Rは1〜3個の炭素原子を有するアルキル基或はアリール基を表し、Rは1〜18個の炭素原子を有するアルキル基又はアルケニル基、或はベンジル基を表し、一般式(L3)中、Rは1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ互に独立に、1〜8個の炭素原子を有する未置換の、又は置換されているアルキル基、或は未置換の、又は置換されているアリール基を表し、一般式(L4)中、R及びRは、それぞれ互いに独立に、1〜8個の炭素原子を有するアルキル基、或はアリール基を表す〕
から選ばれる、請求項2に記載の樹脂用硬化剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂用硬化剤を含む硬化剤成分と、水溶性アクリル樹脂及びエポキシ樹脂から選ばれた少なくとも1種を含有する樹脂成分とを含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
ポリエポキシ化合物を含むエポキシ成分がさらに含まれている、請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−302785(P2007−302785A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132629(P2006−132629)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(390003001)川研ファインケミカル株式会社 (48)
【Fターム(参考)】