説明

樹脂積層物の製造方法

【課題】加工性や成形性を損なうことなく、少量の複合ゴム系グラフト共重合体を使用するだけで優れた耐衝撃性能を示す樹脂積層物を提供する。
【解決手段】複合ゴム系グラフト共重合体および無機充填剤を含有する重合性樹脂原料3を、熱可塑性樹脂成形品2を含む型内に流し込み硬化させ、該熱可塑性樹脂成形品3と一体化させてなる樹脂積層物であり、複合ゴム系グラフト共重合体としては、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とからなり、かつ平均粒子径0.08〜0.6μmの複合ゴムに1種または2種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなる共重合体が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性に優れた樹脂積層物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂成形物の物性を改良する方法の一つとして、成形物の樹脂原料に無機充填剤を配合する方法がある。具体的には、目的とする物性やコスト等に応じて、様々な組成の無機充填剤配合樹脂組成物が用いられている。
【0003】
また、アクリル系樹脂は加工性や成形性に優れているが、耐衝撃性が必ずしも十分ではなく、重量物の落下、衝突などによる成形物の破壊が懸念される。そこで、例えば、アクリルゴムを含有するメタクリル樹脂をメタクリル酸メチルに配合してなるシラップを用いることで、加工性や成形性を損なうことなく耐衝撃性を向上させた成形物(アクリル系人工大理石)が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−362954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の成形物は、多量のアクリルゴム成分を構成成分とすると、耐熱性の低下による性能低下、線膨張率の変化による寸法精度の悪化などの問題が生じる。
【0005】
本発明の目的は、加工性や成形性を損なうことなく、少量の複合ゴム系グラフト共重合体を使用するだけで優れた耐衝撃性能を示す樹脂積層物を製造する為の方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複合ゴム系グラフト共重合体および無機充填剤を含有する重合性樹脂原料を、熱可塑性樹脂成形品を含む型内に流し込み硬化させ、該熱可塑性樹脂成形品と一体化させてなる樹脂積層物の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法により得られる樹脂積層物においては、複合ゴム系グラフト共重合体および無機充填剤を含有する重合性樹脂原料の補強硬化層または補強硬化物と熱可塑性樹脂成形品とが一体化しているので、加工性や成形性を損なうことなく、所望の部位において少量の複合ゴム系グラフト共重合体を使用するだけで耐衝撃性能の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の製造方法により得られる樹脂積層物は、熱可塑性樹脂成形品と重合性樹脂原料の硬化層または硬化物とを一体化させた積層物である。まず、その熱可塑性樹脂成形品について、以下に説明する。
【0009】
熱可塑性樹脂成形品を構成する樹脂の種類は特に限定されない。その具体例としては、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂などが挙げられる。
【0010】
熱可塑性樹脂成形品の形状は特に限定されないが、代表的には板状である。熱可塑性樹脂成形品が板状等の場合、その厚さは、最も薄い部分で0.3mm以上が好ましく、0.8mm以上がより好ましい。これが適度に厚ければ、重合性樹脂原料に含まれる溶剤によるクラックの発生、重合性樹脂原料の硬化時の発熱による変形、その樹脂原料の注入時の変形などの問題が生じ難くなる。また必要に応じて、熱可塑性樹脂成形品に印刷を施すことや、フィルムをラミネートすることもできる。さらに、ゲルコート樹脂による柄付けも可能である。
【0011】
熱可塑性樹脂成形品としては、特に、特公平6−70098号公報に開示されているメタクリル樹脂板が、熱成形加工性および耐溶剤性に優れているので好ましい。即ち、メタクリル酸メチル単独またはメタクリル酸メチル60質量%以上とアクリル酸エステル40質量%以下との単量体混合物を重合開始剤の存在下で重合させてメタクリル樹脂板を製造するにあたり、あらかじめ単量体100質量部に対して0.01〜20質量部の連鎖移動剤を添加して所望の重合率のシラップを製造し、次いでそのシラップ100質量部に対して0.02〜1.0質量部の架橋剤を添加して鋳型中で注型重合させることによって得られるメタクリル樹脂板を使用することが好ましい。このようなメタクリル樹脂板は、特に浴槽などの用途において非常に有用である。
【0012】
本発明においては、このような熱可塑性樹脂成形品を補強する等の目的で、さらに複合ゴム系グラフト共重合体および無機充填剤を含有する重合性樹脂原料を重合一体化させて、樹脂積層物を得る。以下に、重合性樹脂原料について説明する。
【0013】
本発明で用いる重合性樹脂原料は、重合性樹脂に複合ゴム系グラフト共重合体および無機充填剤を配合した樹脂組成物である。重合性樹脂の種類は特に限定されてないが、アクリル系樹脂組成物を用いることが好ましく、特にメチルメタクリレート(以下、適宜「MMA」という。)を主成分とするアクリル系樹脂組成物を用いることがより好ましい。また、重合性樹脂は、シラップ状の樹脂組成物であることが好ましい。そのようなシラップは、通常は単量体と重合体からなる組成物であり、単量体または単量体混合物に重合体を溶解して得たものでもよいし、単量体または単量体混合物の一部を重合することによって得たものでもよい。また、そのようにして得たシラップに、さらに単量体または重合体を追加添加したものであってもよい。なお「主成分」とは、重合性原料中50質量%以上含まれる成分のことである。特に、アクリル系樹脂組成物からなるシラップ(アクリルシラップ)を用いることが好ましい。このアクリルシラップは、例えば、MMA単独またはMMAとMMA以外の単量体(単官能単量体および/または多官能アクリレート等の多官能単量体)からなる単量体混合物、および、そのアクリル系(共)重合体とからなる組成物である。
【0014】
重合性樹脂は、MMA以外の単量体を含有していてもよい。その単量体の具体例としては、炭素数1〜20のアルキル基を有するMMA以外の(メタ)アクリル酸エステル、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸金属塩、フマル酸、フマル酸エステル、マレイン酸、マレイン酸エステル、芳香族ビニル、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸アミド、アクリロニトリル、塩化ビニル、無水マレイン酸などの単官能性単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、1,1−ジメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、2,2−ジメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸と多価アルコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等)との多価エステル、ジビニルベンゼン、トリアリールイソシアヌレート、アリールメタクリレート等の多官能性単量体;が挙げられる。これらは一種を単独で、または二種以上を併用することができる。なお、「(メタ)アクリル酸」とは「メタクリル酸」または「アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」とは「メタクリレート」または「アクリレート」を意味する。
【0015】
重合性原料は、ポリメチルメタクリレート(以下、適宜「PMMA」という)、または、MMAを主成分とする共重合体を含有していてもよい。共重合体におけるMMA以外の単量体成分の具体例は、先に列挙した単量体と同様である。この場合も、MMA以外の単量体は一種を単独で、あるいは二種以上を併用することができる。PMMAや共重合体は、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、分散重合等の公知の方法で得ることができる。
【0016】
本発明で用いる重合性樹脂原料は、無機充填剤を含有する。無機充填剤としては、水酸化アルミニウムが好ましい。無機充填剤の配合量は、重合性樹脂100質量部に対して100〜250質量部の範囲内が好ましい。この配合量が100質量部以上であれば、得られる樹脂積層物の質感や耐熱性等が良好になる傾向にある。また、250質量部以下であれば、樹脂積層物の強度が高くなる傾向にある。水酸化アルミニウム等の無機充填剤の粒子径は、1〜150μmの範囲内が好ましく、30〜70μmの範囲内がより好ましい。具体的な粒子径サイズは、その原料の硬化樹脂部分の光透過性があまり低下しない程度に大きく、かつ、硬化後の樹脂の物性があまり低下しない程度に小さくすることが好ましい。
【0017】
本発明で用いる重合性樹脂原料は、複合ゴム系グラフト共重合体を含有する。この複合ゴム系グラフト共重合体は、耐衝撃性能を向上させる機能を奏する。複合ゴム系グラフト共重合体とは、通常は、複合ゴムに1種または2種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなる共重合体である。
【0018】
複合ゴム系グラフト共重合体の配合量は特に制限されないが、重合性樹脂100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。この配合量が1質量部以上の場合、耐衝撃性性能が特に向上する。また20質量部以下の場合、外観が低下し難くなる。
【0019】
複合ゴム系グラフト共重合体に用いる複合ゴムとしては、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とからなるゴムを用いることが好ましい。この場合は、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分の両ゴム成分が相互に絡み合って複合ゴムを構成することになる。複合ゴムの平均粒子径は、0.08〜0.6μmであることが好ましい。なお、この場合、ポリオルガノシロキサンゴム成分が芯体でポリ(メタ)アクリレートゴム成分が殻体である複合ゴムを除く。
【0020】
複合ゴムのポリオルガノシロキサンゴム成分は、例えば、オルガノシロキサンおよび架橋剤(I)を用いて乳化重合により調製できる。その重合の際、さらにグラフト交叉剤(I)を併用することもできる。
【0021】
オルガノシロキサンとしては、例えば、3員環以上の各種の環状体が挙げられる。特に、3〜6員環のオルガノシロキサンが好ましい。オルガノシロキサンの具体例としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。これらは一種を単独で、または二種以上を併用することができる。これらオルガノシロキサンの使用量は、ポリオルガノシロキサンゴム成分中50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0022】
架橋剤(I)としては、3官能性または4官能性のシラン系架橋剤が好ましい。シラン系架橋剤の具体例としては、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。特に4官能性のシラン系架橋剤が好ましく、テトラエトキシシランが最も好ましい。架橋剤(I)の使用量は、ポリオルガノシロキサンゴム成分中0.1〜30質量%が好ましい。
【0023】
グラフト交叉剤(I)としては、例えば、次式(I−1)〜(I−3)
【0024】
【化1】

【0025】
(各式中R1はメチル基、エチル基、プロピル基またはフェニル基、R2は水素原子またはメチル基、nは0、1または2、pは1〜6の数を示す。)
で表わされる構造単位を形成し得る化合物が挙げられる。
【0026】
式(I−1)で表わされる構造単位を形成し得る(メタ)アクリロイルオキシシロキサンは、グラフト効率が高いので有効なグラフト鎖を形成することが可能であり、耐衝撃性発現の点で有利である。中でも、メタクリロイルオキシシロキサンが好ましい。メタクリロイルオキシシロキサンの具体例としては、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリクロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、δ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等が挙げられる。グラフト交叉剤(I)の使用量は、ポリオルガノシロキサンゴム成分中0〜10質量%が好ましい。
【0027】
ポリオルガノシロキサンゴム成分のラテックスの製造方法としては、例えば、米国特許第2891920号明細書、同第3294725号明細書等に記載された方法を用いることができる。具体的には、例えば、オルガノシロキサンと架橋剤(I)および所望によりグラフト交叉剤(I)の混合液とを、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸等のスルホン酸系乳化剤の存在下で、例えばホモジナイザー等を用いて水と剪断混合する方法により製造することが好ましい。アルキルベンゼンスルホン酸は、オルガノシロキサンの乳化剤として作用すると同時に重合開始剤としても作用するので好適である。この際、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、アルキルスルホン酸金属塩等を併用すると、グラフト重合を行う際にポリマーを安定に維持するのに効果がある。
【0028】
複合ゴムのポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分は、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、架橋剤(II)およびグラフト交叉剤(II)を用いて合成することができる。
【0029】
アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート;ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;が挙げられる。特に、n−ブチルアクリレートが好ましい。
【0030】
架橋剤(II)の具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレートが挙げられる。グラフト交叉剤(II)の具体例としては、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。アリルメタクリレートは、架橋剤として用いることもできる。これら架橋剤(II)およびグラフト交叉剤(II)は、一種を単独で、または二種以上を併用することができる。架橋剤(II)およびグラフト交叉剤(II)の合計の使用量は、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分中0.1〜20質量%が好ましい。
【0031】
ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分の重合方法としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液の添加により中和されたポリオルガノシロキサンゴム成分のラテックス中へ、アルキル(メタ)アクリレート、架橋剤(II)およびグラフト交叉剤(II)を添加し、ポリオルガノシロキサンゴム粒子へ含浸させたのち、通常のラジカル重合開始剤を作用させて行うことができる。
【0032】
この乳化重合の進行と共にポリオルガノシロキサンゴムの架橋網目に相互に絡んだポリアルキル(メタ)アクリレートゴムの架橋網目が形成され、実質上分離できないポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分からなる複合ゴムを含むラテックスが得られる。特に、本発明においては、ポリオルガノシロキサンゴム成分の主骨格がジメチルシロキサンの繰り返し単位を有し、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分の主骨格がn−ブチルアクリレートの繰り返し単位を有する複合ゴムを用いることが好ましい。
【0033】
このような乳化重合により調製された複合ゴムは、ビニル系単量体とグラフト共重合可能である。この複合ゴムをトルエンにより90℃で12時間抽出して測定したゲル含量は80質量%以上である。
【0034】
複合ゴムにグラフト重合させるビニル系単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;メチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;などの各種の単量体が挙げられる。これらは一種を単独で、または二種以上を併用することができる。
【0035】
複合ゴム系グラフト共重合体は、複合ゴムに1種または2種以上のビニル系単量体をグラフト重合させることにより得られる。複合ゴム系グラフト共重合体における複合ゴムとビニル系単量体の割合は、このグラフト共重合体の質量を基準にして、複合ゴムは好ましくは30〜95質量%、より好ましくは40〜90質量%、ビニル系単量体5〜70質量%、好ましくは10〜60質量%である。ビニル系単量体が5質量%以上であれば、複合ゴム系グラフト共重合体が十分な分散性を示す。また、70質量%以下であれば、耐衝撃強度が良好に発現性する。
【0036】
複合ゴム系グラフト共重合体の製造方法としては、例えば、ビニル系単量体を複合ゴムのラテックスに加えてラジカル重合技術によって一段で、あるいは多段で重合させることにより複合ゴム系グラフト共重合体ラテックスを調製し、このラテックスを塩化カルシウムまたは硫酸マグネシウム等の金属塩を溶解した熱水中に投入し、塩析、凝固することにより複合ゴム系グラフト共重合体を分離、回収する方法がある。
【0037】
本発明に用いる重合性原料は、以上説明した重合性樹脂、ゴム系グラフト共重合体、および無機充填剤を含有するものであるが、必要に応じて有機過酸化物やアゾ化合物等の硬化剤を更に添加してもよい。硬化剤の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。また重合性原料には、必要に応じて、ガラス繊維、炭素繊維等の補強材、顔料、着色剤、低収縮材等の添加剤も添加できる。
【0038】
本発明の樹脂積層物は、例えば、予め型内に熱可塑性樹脂成形品を置いておき、次いでその型内に重合性原料を流し込み、これを重合硬化させ、重合性原料の硬化層または硬化物と熱可塑性樹脂成形品とを一体化することによって得られる。硬化の具体的な方法としては、加熱等があるが、特に限定されるものではない。
【0039】
本発明の樹脂積層物は、熱可塑性樹脂成形品と一体化した重合性原料の硬化層または硬化物が複合ゴム系グラフト共重合体を含有しているので、耐衝撃性に優れている。
【0040】
図1は、本発明の樹脂積層物を製造する為の方法を例示する概略図である。この図に示すように、例えば2枚の強化ガラス板1とガスケット4をクランプ5で閉め、密閉した型を組み立て、この型の内側に熱可塑性樹脂成形品2を置く。そして、複合ゴム系グラフト共重合体および無機充填剤を含有する重合性樹脂原料3を、注入口6から型内に流し込み、加熱等により重合硬化させる。このような方法により、重合性樹脂原料3の硬化層または硬化物と熱可塑性樹脂成形品2とが一体化され、本発明の樹脂積層物が得られる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により具体的に説明する。なお、以下の記載において「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を示す。
【0042】
[複合ゴム系グラフト共重合体の製造例]
テトラエトキシシラン2部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン0.5部およびオクタメチルシクロテトラシロキサン97.5部を混合し、シロキサン混合物を得た。このシロキサン混合物100部を、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸をそれぞれ1部溶解した蒸留水200部に加え、ホモミキサーにて1万rpmで予備撹拌した。次いで、ホモジナイザーにより29.4MPaの圧力で乳化、分散させ、オルガノシロキサンラテックスを得た。このオルガノシロキサンラテックスを、コンデンサーおよび撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに移し、撹拌混合しながら80℃で5時間加熱し、その後20℃で放置した。48時間放置した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えてラテックスのpHを6.9に中和し、重合を完結し、ポリオルガノシロキサンゴムラテックスを得た。このポリオルガノシロキサンゴムの重合率は89.7%であり、ゴム粒子の平均粒子径は0.16μmであった。
【0043】
このポリオルガノシロキサンゴムラテックスを100部採取し、撹拌器を備えたセパラブルフラスコに入れ、蒸留水120部を加えて、窒素置換した。次いで、50℃に昇温し、n−ブチルアクリレート37.5部、アリルメタクリレート2.5部およびtert−ブチルヒドロペルオキシド0.3部からなる混合液を仕込み、30分間撹拌して、その混合液をポリオルガノシロキサンゴム粒子に浸透させた。次いで、硫酸第1鉄0.0003部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.001部、ロンガリット0.17部および蒸留水3部からなる混合液を仕込み、ラジカル重合を開始させた。その後、内温70℃で2時間保持し、重合を完了して、複合ゴムラテックスを得た。
【0044】
このラテックスを一部採取して、複合ゴム粒子の平均粒子径を測定したところ0.19μmであった。また、一部採取したラテックスを乾燥して固形物を得、90℃のトルエンで12時間抽出し、ゲル含量を測定したところ90.3%であった。
【0045】
この複合ゴムラテックスに、tert−ブチルヒドロペルオキシド0.3部、アクリロニトリル9部およびスチレン21部からなる混合液を、70℃にて45分間にわたり滴下し、その後70℃で4時間保持し、複合ゴムへのグラフト重合を完了した。得られたグラフト共重合体ラテックスの重合率は98.6%であった。このラテックスを塩化カルシウムを5%含む熱水中に滴下することにより、その共重合体を凝固、分離した。これを洗浄し、75℃で16時間乾燥し、複合ゴム系グラフト共重合体を得た。
【0046】
[実施例1]
重合性樹脂としてPMMAとMMA(質量比2:8)からなるシラップ(粘度0.07Pa・s)を400.0g、上記製造例で得た複合ゴム系グラフト共重合体を12.0g添加して、60分間攪拌した。その後、無機充填材として水酸化アルミニウム粉末(日本軽金属(株)製、商品名BS−33)600.0gをミキサーにて混合した。この混合液に、硬化剤としてジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(日本油脂(株)製、商品名パーロイルOPP)1.0gを添加混合し、真空容器内で脱泡して、重合性樹脂原料を得た。
【0047】
次に、図1に示すように2枚の強化ガラス板1とガスケット4をクランプ5で閉め、密閉した型を作った。この型の片面内側に、熱可塑性樹脂成形品2として厚さ1mmのアクリル樹脂板(三菱レイヨン(株)製、アクリライトL(登録商標))を置き、ガスケット4の上部注入口6より、脱泡後の重合性樹脂原料3を型内に注入した。その後、60℃の炉の中で90分間加熱し、板厚6mm(アクリル樹脂板を含まず)、大きさ25cm角のアクリル系樹脂積層物を得た。
【0048】
[実施例2]
シラップの量を333.3g、無機充填剤の量を666.7g、複合ゴム系グラフト共重合体の量を16.7gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてアクリル系樹脂積層物を製造した。
【0049】
[比較例1]
複合ゴム系グラフト共重合体を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてアクリル系樹脂積層物を製造した。
【0050】
[比較例2]
シラップの量を333.3gとし、無機充填剤の量を666.7gに増量し、複合ゴム系グラフト共重合体を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてアクリル系樹脂積層物を製造した。
【0051】
[比較例3]
MMA100部に、アクリルゴム(ゴム部とグラフト部の2層構造;ゴム部組成質量比、n−ブチルアクリレート/スチレン=19/81(アクリルゴム全体の62.5%)、グラフト部組成質量比、MMA/メチルアクリレート=95/5(アクリルゴム全体の37.5%))を50%含有するPMMA20部を配合してシラップを作り、このシラップ333.3g(PMMAおよびMMA分305.6g、アクリルゴム分27.7g)に対して、水酸化アルミニウムを666.7g添加し、複合ゴム系グラフト共重合体を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてアクリル系樹脂積層物を製造した。
【0052】
[評価]
以上の実施例および比較例で得たアクリル系樹脂積層物について、耐衝撃性能を評価する為に落錘衝撃試験を実施した。この落錘衝撃試験は、鋼球の質量を200gとした他はJIS K7211に準拠して行った。具体的には、サンプル寸法は10cm×10cm×0.6cmとし、鋼球をアクリル樹脂板側より当てて、サンプルの50%破壊高さおよび50%破壊エネルギーを求めた。その結果を原料組成と共に表1に示す。
【0053】
表1に示すように、実施例1および2では耐衝撃性能は良好であり、比較例1〜3では良好でなかった。
【0054】
【表1】

【0055】
表中の記号
MMA:メチルメタアクリレート
ATH:水酸化アルミニウム
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の製造方法で得られた樹脂積層物は、加工性や成形性を損なうことなく耐衝撃性を向上した樹脂成形物である。このような優れた特性を有する樹脂積層物は、例えば、浴槽や洗面ボウル、その他、アイランドテーブル、カウンター、家具、内装材、トイレブースパネル板、花台などの各種の成形物やシート類に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の樹脂積層物を製造する為の方法を例示する概略図である。
【符号の説明】
【0058】
1 強化ガラス板
2 熱可塑性樹脂成形品
3 重合性樹脂原料
4 ガスケット
5 クランプ
6 注入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合ゴム系グラフト共重合体および無機充填剤を含有する重合性樹脂原料を、熱可塑性樹脂成形品を含む型内に流し込み硬化させ、該熱可塑性樹脂成形品と一体化させてなる樹脂積層物の製造方法。
【請求項2】
複合ゴム系グラフト共重合体が、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とからなりかつ平均粒子径0.08〜0.6μmの複合ゴムに1種または2種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなるグラフト共重合体である請求項1に記載の樹脂積層物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−315222(P2006−315222A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138209(P2005−138209)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】