説明

樹脂組成物、及び、被覆電線

【課題】耐候性に優れたノンハロゲン系(ポリプロピレン系)の樹脂組成物と、そのような樹脂組成物によって被覆層が形成された被覆電線を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂が30重量部以上70重量部以下と、オレフィン系熱可塑性エラストマーの残部とからなるオレフィン系ベース樹脂100重量部に対して、無機系難燃剤を67重量部以上120重量部以下、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を1重量部以上10重量部以下、及び、酸化亜鉛を5重量部以上10重量部以下、それぞれ配合してなることを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば屋外での使用や、自動車用途、特に、自動車のエンジンルーム等の高湿高温な環境での使用であっても耐久性に優れた被覆電線、及び、そのような電線の被覆層を形成するのに特に適した樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼時にダイオキシンなどの有害ガスを発生せず、かつ、自動車等で用いられるのに最適な被覆電線用に適した樹脂組成物は特開平6−200089号公報(特許文献1)、及び、特開平9−31267号公報(特許文献2)等で提案されてきた。
【0003】
これら従来技術ではエンジンルームでの高温を想定し、そのような高温環境であっても高い耐久性を有する優れた樹脂組成物もあった。
【0004】
しかしながら実際のエンジンルームの環境について考えると、高温のみならず、天候のすべての要素、すなわち、熱、酸素、紫外線、水(湿度)などのトータルな影響を考慮して耐久性を評価する必要があるが、上記従来技術では高温以外の特性について注目されておらず、また、実際に上記従来技術に係る樹脂組成物について検討を進めると、耐候性に関しては、不満足な結果しか得られないことが判った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−200089号公報
【特許文献2】特開平9−31267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、耐候性に優れたノンハロゲン系(ポリプロピレン系)の樹脂組成物と、そのような樹脂組成物によって被覆層が形成された被覆電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の樹脂組成物は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、ポリプロピレン系樹脂が30重量部以上70重量部以下と、オレフィン系熱可塑性エラストマーの残部とからなるオレフィン系ベース樹脂100重量部に対して、無機系難燃剤を67重量部以上120重量部以下、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を1重量部以上10重量部以下、及び、酸化亜鉛を5重量部以上10重量部以下、それぞれ配合してなることを特徴とする樹脂組成物である。
【0008】
本発明の被覆電線は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の樹脂組成物からなる被覆層を有する被覆電線である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物によれば、難燃性に優れ、かつ、燃焼によってもダイオキシンなどの有害ガスは発生せず、さらに、耐候性、耐摩耗性に優れているので、高温で高湿な環境は勿論、紫外線に暴露されるような環境であっても充分な耐久性を有するので、自動車のエンジンルームでの使用は勿論、振動による摩耗発生の発生しやすい分野である自動車用電線の被覆層を形成するための樹脂組成物としても好適に用いることができる。
【0010】
本発明の被覆電線は上記のような本発明に係る樹脂組成物によって被覆層が構成されているために、屋外で用いられる被覆電線や、自動車のエンジンルームに用いられる自動車用電線としても好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物はポリプロピレン系樹脂が30重量部以上70重量部以下と、オレフィン系熱可塑性エラストマー及び/またはスチレン系熱可塑性エラストマーの残部とからなるオレフィン系ベース樹脂100重量部に対して、無機系難燃剤を67重量部以上120重量部以下、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を1重量部以上10重量部以下、及び、酸化亜鉛を5重量部以上10重量部以下、それぞれ配合してなる。
【0012】
本発明のオレフィン系ベース樹脂において用いられる、ポリプロピレン系樹脂としては、E−100GV(プライムポリマー社製)、E−150GK(プライムポリマー社製)、J−784HV(プライムポリマー社製)、ポリボンド3200(ケムチュラ・ジャパン社製)、ユーメックス1001(三洋化成工業社製)などが挙げられる。
【0013】
また、オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、R110E(プライムポリマー社製)などが挙げられる。
【0014】
上記のような材料からオレフィン系ベース樹脂を作製するが、このとき、ポリプロピレン系樹脂が30重量部以上70重量部以下と、総重量部が100重量部になるように、オレフィン系熱可塑性エラストマーの残部と、を、バンバリーミキサー、ロールミル、ニーダー、二軸押出機などを用いて、充分に混練する。
【0015】
ここでオレフィン系ベース樹脂100重量部に対するポリプロピレン系樹脂の配合量が30重量部未満であると、自動車用電線の被覆層に応用した場合に発生する振動による摩耗に対して、充分な耐摩耗性が得られず、70重量部超であると自動車用電線の被覆層に応用する場合に求められる良好な配索性を満足する、充分な柔軟性が得られない。
【0016】
このようなオレフィン系ベース樹脂に対して、無機系難燃剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、及び、酸化亜鉛を配合して、本発明に係る樹脂組成物を得る。
【0017】
無機系難燃剤としては、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
【0018】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、Irganox1010(チバ・スペシャルティケミカルズ社)などが挙げられる。
【0019】
酸化亜鉛(亜鉛華)としては酸化亜鉛2種として一般的に販売されているものをそのまま用いることができる。
【0020】
上記のような材料をオレフィン系ベース樹脂100重量部に対して、無機系難燃剤を67重量部以上120重量部以下、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を1重量部以上5重量部以下、及び、酸化亜鉛を5重量部以上10重量部以下となるように、それぞれ配合し、均一になるよう例えば、ニーダー、二軸押出機を用いて、充分に混練し、本発明の樹脂組成物を得る。
【0021】
無機系難燃剤のオレフィン系ベース樹脂100重量部に対する配合量が67重量部未満であると充分な難燃性が得られず、また120重量部を超えた場合には自動車用電線の被覆層に応用した場合に発生する振動による摩耗に対して、充分な耐摩耗性が得られない。
【0022】
また、酸化亜鉛のオレフィン系ベース樹脂100重量部に対する配合量が5重量部未満であると充分な耐候性を得ることができず、10重量部を超えて添加すると発泡しやすくなり、その結果、生産性が悪くなる。
【0023】
ここで、本発明の樹脂組成物には、上記の必須成分以外にも炭酸カルシウム、ポリアミド等を、本発明の効果を損なわない限りにおいて、適量添加することができる。
【0024】
このような本発明の樹脂組成物は、高耐候性が求められる分野に応じて、例えば押出成形して電線被覆層として成形されるなど、適当な成形方法で成形されて成形物として用いられる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の樹脂組成物を実施例についてさらに具体的に説明する。
表1に実施例及び比較例で用いた材料を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
<実施例1>
上記ポリプロピレン系樹脂(A剤)70重量部とオレフィン系熱可塑性エラストマー(B剤)30重量部とを、ニーダーを用いて均一になるように混練して、オレフィン系ベース樹脂Iを得た。
【0028】
オレフィン系ベース樹脂Iの100重量部に対して、水酸化マグネシウム(C剤)を67重量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D剤)を2.5重量、及び、酸化亜鉛(G剤)を5重量部となるように配合してニーダーを用いて均一に混練して本発明に係る樹脂組成物(実施例1)を得た。
【0029】
<実施例2〜11、及び、比較例1〜9>
上記実施例1に係る樹脂組成物と同様に、但し、原料及びその配合量を表2及び3に示すように変更して、実施例に係る樹脂組成物2〜11、及び、比較例にかかる樹脂組成物1〜9をそれぞれ得た。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
上記樹脂組成物について、その耐候性、難燃性、耐摩耗性、及び、生産性を評価した。
【0033】
上記樹脂組成物によりそれぞれJIS K7262の3号ダンベル(0.2mm厚)に準拠する材料試験片を作製し、JIS D0205に準拠して、促進耐候性試験(サンシャインウェザーメーター内で、ブラックパネル温度を63±3℃に設定、降雨時間を1時間当たり12分に設定)を行い、20時間ごとに各試験片の引張試験(試験速度:200mm/分、荷重:100N)を行い、そのとき伸びの経時変化を調べた。
【0034】
このとき、試験時間60時間の段階で伸びが100%未満となっていた場合を耐候性が不充分であるとして「×」、試験時間が60時間以上140時間未満で伸びが100%未満となったときを充分であるとして「△」、試験時間が140時間以上160時間未満で伸びが100%未満となったときを充分であるとして「○」、試験時間が160時間の段階で伸びが100%以上である場合を充分であるとして「◎」として、それぞれ評価した。結果を表2及び表3に併せて記す。
【0035】
なお、促進耐候性試験の試験時間60時間は、実際の自動車の被覆電線の被覆層としての使用において、高温で高湿な環境は勿論、紫外線に暴露されるような環境であっても充分な耐久性を有する条件に相当すると判断され、この段階で充分に耐候性を満たす条件であるためには伸びが100%以上必要と考えられるために、試験時間140時間での伸びが100%未満である場合には、耐候性が不充分であると判断した。
【0036】
難燃性はISO6722に準拠し、15秒間接炎において70秒以内に消炎した場合を充分な難燃性を有するとして「○」、70秒以内に消炎しない場合を難燃性が不充分として「×」と評価し、表2及び表3に併せて記載した。
【0037】
また、耐摩耗性は振動による摩耗が想定される自動車用電線に応用する場合に特に必要な製法であるが、これはISO6722に準拠して試験を行い、スクレープ摩耗300回以上の耐摩耗性があった場合に充分であるとして「○」、250以上300回未満の耐摩耗性があった場合に充分であるとして「△」、250回未満の場合を不充分であるとして「×」と評価し、表2及び表3に併せて記載した。
【0038】
生産性については上記樹脂組成物の調製に当たって、ニーダーによる混練ができなかった場合を「×」(このときには耐候性、難燃性、及び、耐摩耗性の評価は行わなかった)、混練できた場合を「○」として評価し、表2及び表3に併せて記載した。
【0039】
表2及び表3により、ポリプロピレン系樹脂が30重量部以上70重量部以下と、オレフィン系熱可塑性エラストマーの残部とからなるオレフィン系ベース樹脂100重量部に対して、無機系難燃剤を67重量部以上120重量部以下、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を1重量部以上10重量部以下、及び、酸化亜鉛を5重量部以上10重量部以下、それぞれ配合してなる本発明に係る樹脂組成物によれば、燃焼によってもダイオキシンなどの有害ガスは発生せず、さらに、耐候性、耐摩耗性、生産性に優れているので、高温で高湿な環境は勿論、紫外線に暴露されるような環境であっても充分な耐久性を有するので、自動車のエンジンルームなどにも用いられる自動車用電線の被覆層を形成するための樹脂組成物としても好適に用いることができることが判る。
【0040】
さらに、上記実施例1〜12、および、比較例9に係る樹脂組成物を用いて実際に自動車用被覆電線(JIS K6722に準拠する)を作製して、実際の自動車のエンジンルームに配索し、配線として用いたところ、実施例1〜12に係る樹脂組成物を被覆層として有する電線は配索も容易で、さらに耐久性の点で優れたものであることが確認されたが、比較例9に係る樹脂組成物を被覆層として有する電線では、充分な柔軟性が得られず、配索できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂が30重量部以上70重量部以下と、オレフィン系熱可塑性エラストマーの残部とからなるオレフィン系ベース樹脂100重量部に対して、
無機系難燃剤を67重量部以上120重量部以下、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を1重量部以上10重量部以下、及び、酸化亜鉛を5重量部以上10重量部以下、それぞれ配合してなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物からなる被覆層を有する被覆電線。

【公開番号】特開2010−138375(P2010−138375A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202607(P2009−202607)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】