説明

樹脂組成物の製造方法及び混練押出機

【課題】強化繊維を高い含有率で含んだ樹脂組成物を強化繊維の熱劣化や折損を防止しつつ高い生産性で製造する製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂のシート状部材10で強化繊維15をくるんで保持する複合体7を混練押出機1に供給することで、強化繊維15が配合された樹脂組成物を製造するものであって、混練押出機1の上流側から供給された熱可塑性樹脂の基材6が溶融した領域に、複合体7を基材の投入速度に依存しない投入速度で供給することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維で強化された樹脂組成物の製造方法及び混練押出機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を母材とする樹脂組成物には、その強度、寸法安定性、剛性を高めるために、樹脂以外の強化繊維を配合することがある。このような強化繊維には、焼却による廃棄が容易なことから、竹繊維、麻系繊維(ジュート、ケナフ)などの天然繊維が近年用いられるようになってきた。
ところで、樹脂組成物の強度や剛性を十分に高めるためには、母材に対する天然繊維の含有率を高める必要があり、混練押出機のホッパには基材のペレットと一緒に多量の天然繊維が供給される。ところが、天然繊維とペレットとは比重差が大きく、乾燥状態で両者を混合すると分離が起きやすい。それゆえ、両者の分離が進んで比重が小さな天然繊維だけがホッパの入口付近に残り、天然繊維が高含有率で配合された樹脂組成物を製造することは非常に困難となっていた。
【0003】
そこで、特許文献1では、樹脂シートにより天然繊維をくるんで保持した「ひも状」の複合体を用いて、混練押出機の上流側からこの複合体を混練スクリュに巻き付けるように供給して、樹脂と天然繊維とが十分に混合された樹脂組成物を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−161850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の樹脂組成物は、天然繊維を「ひも状」の複合体として供給するというユニークな考え方に基づいて創作されており、樹脂との混合が本来困難な天然繊維であっても高含有率で樹脂組成物に配合することができる点で非常に優れた技術である。ただ、複合体における天然繊維の含有率を高めて強度や剛性をさらに向上させたいというニーズがあることも事実であり、そのためには複合体に含まれる天然繊維の比率を今以上に増やさねばならない。ところが、複合体における天然繊維の比率を高くすると、複合体の強度が低下して混練スクリュに巻き付けた際にひも状の複合体の破断が発生するリスクも高くなる。それゆえ、複合体における天然繊維の比率を際限なく上げることはできない。
【0006】
また、複合体を構成するシート状部材や天然繊維は基材のペレットに比べて嵩比重が小さく、このように見掛け体積が大きな複合体を供給して実際に得られる樹脂組成物の量はそれ程多くない。つまり、特許文献1の製造方法には、実際に得られる樹脂組成物の量を多くして、生産性をさらに向上したいという課題も残っている。
なお、混練スクリュの回転数を上げたり、複合体を太くしたりして生産性を高めることも考えられるが、混練スクリュの回転数を上げ過ぎると複合体が破断するリスクを高くしてしまう虞があり、混練スクリュの間に投入する必要性から複合体の太さにも上限があって、このような方法では生産性の大きな向上を期待することはできない。
【0007】
さらに、複合体をホッパから混練スクリュが回転している箇所に直接供給すると、複合体が可塑状態になる前に混練スクリュによるせん断を受けるため、混練スクリュのフライトで折損してしまう天然繊維も現れる。加えて、複合体を供給するホッパをあまり上流側にすると、混練押出機の内部で長時間に亘って熱が加えられるため、天然繊維が熱劣化して満足できる強度や剛性を備えた樹脂組成物が得られなくなる可能性もある。
【0008】
上述した問題は、天然繊維を強化繊維にした場合だけでなく、ガラス繊維などを強化繊維にした場合にも起こりうるものである。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、天然繊維をはじめとする強化繊維を高い含有率で含んだ樹脂組成物を、強化繊維の熱劣化や折損を防止しつつ高い生産性で製造することができる樹脂組成物の製造方法及び混練押出機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は次の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂のシート状部材で強化繊維をくるんで保持する複合体を混練押出機に供給することで、前記強化繊維が配合された樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法であって、
前記混練押出機の上流側から供給された熱可塑性樹脂の基材が溶融した領域に、前記複合体を前記基材の投入速度に依存しない投入速度で供給することを特徴とするものである。
【0010】
また、前記熱可塑性樹脂が溶融した領域は、前記混練押出機における混練スクリュを備えた混練部より下流側であるのが好ましい。
そして、前記複合体の投入は、複数のスクリュを備えたサイドフィーダを用いて前記混練押出機の混練スクリュの側方から供給された前記複合体を前記混練押出機の内側まで運んで行われており、前記スクリュはその回転数が前記混練押出機の混練スクリュとは独立に制御可能とされているのが良い。
【0011】
なお、前記強化繊維は平均長が5〜50mmの天然繊維であるのが好ましく、前記シート状部材は前記熱可塑性樹脂の不織布又はフィルムであるのが好ましい。
また、本発明の混練押出機は、熱可塑性樹脂の基材を混練する混練部を有する混練スクリュを備え、強化繊維が配合された樹脂組成物が製造可能とされた混練押出機であって、
前記混練部の下流側に、前記混練スクリュと独立に回転可能とされると共に熱可塑性樹脂のシート状部材で強化繊維をくるんで保持する複合体を前記基材に供給するスクリュを備えたサイドフィーダが、設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂組成物の製造方法及び混練押出機によれば、天然繊維をはじめとする強化繊維を高い含有率で含んだ樹脂組成物を、強化繊維の熱劣化や折損を防止しつつ高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製造方法に用いられる混練押出機の正面図である。
【図2】同混練押出機の上流側を拡大した拡大平面図である。
【図3】第2実施形態(実施例4)の混練押出機の正面図である。
【図4】第3実施形態(実施例5)の混練押出機の正面図である。
【図5】比較例1の混練押出機の正面図である。
【図6】比較例2の混練押出機の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る樹脂組成物の製造方法及び混練押出機の実施形態を、図面に基づき説明する。
図1及び図2は、本発明の製造方法に用いられる混練押出機1を示している。
混練押出機1は、内部が空洞とされたバレル2と、このバレル2の内部を挿通するように設けられた一対の混練スクリュ3、3とを備えている。一対の混練スクリュ3、3は、駆動伝達装置(図示略)を有しており、この駆動伝達装置によりバレル2内で回転駆動可能となっている。
【0015】
なお、以降の説明においては、図1における紙面の左側に向かう方向を混練押出機1を説明する際の下流側と定義し、また紙面の右側を上流側と定義する。また、図1の紙面の左右方向を混練押出機1を説明する際の軸方向と呼ぶこともある。
バレル2は、複数のセグメントを上流側から下流側に向けて組み合わせて構成されている。バレル2のそれぞれのセグメントは、横断面が一対の円を両者の中間で互いに円周の一部が重なり合うように重ねた形状(めがね孔状)にくり抜かれており、このくり抜かれた部分に一対の混練スクリュ3、3を挿入できるようになっている。バレル2は、電気ヒーターや加熱した油を用いた加熱装置(図示略)を有しており、この加熱装置によりバレル2の内部に供給された材料(後述する熱可塑性樹脂)を加熱できるようになっている。
【0016】
混練スクリュ3は、材料を上流側から下流側に向けて連続的に送りながら混練しており、複数のセグメントを上流側から下流側に向けて組み合わせて構成されている。混練スクリュ3を構成するセグメントには、材料を下流側に搬送するスクリュセグメント3aを備えた送り部4と、材料を混練する混練セグメント3bを備えた混練部5とがある。第1実施形態の混練スクリュ3は、上流側から3つの送り部4(第1送り部4a〜第3送り部4c)を備えており、第1送り部4aと第2送り部4bとの間に第1混練部5aが、また第2送り部4bと第3送り部4cとの間に第2混練部5bが設けられている。
【0017】
図2に示されるように、本発明の樹脂組成物の製造方法は、混練押出機1の上流側から供給されたペレット6(基材)が溶融した領域に、複合体7をペレット6の投入速度に依存しない投入速度で供給することを特徴とするものである。すなわち、本発明の混練押出機1は、混練部5より上流側のホッパ8と混練部5より下流側のサイドフィーダ9との2つの箇所にそれぞれ異なる材料が供給されるようになっており、ホッパ8からはペレット6がサイドフィーダ9からは複合体7がそれぞれ供給されるようになっている。
【0018】
ホッパ8は、第1送り部4aに対応した軸方向の位置のバレル2に設けられている。ホッパ8には樹脂組成物の母材を構成する熱可塑性樹脂(以下、単に樹脂と呼ぶ)のペレット6が供給され、一対の混練スクリュ3、3の間に供給可能となっている。
ペレット6は、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂やナイロンなどのポリアミド樹脂、あるいはこれらを混合した樹脂で形成されている。ペレット6は、後述する複合体7のシート状部材10と混合した際に製品(樹脂組成物)が狙いの組成となるように配合元の樹脂の種類や配合量が調整されている。また、ペレット6は、200℃程度の温度で溶解しやすいように粒度が調整されており、ホッパ8から投入することでバレル2の内部で加熱装置により200℃程度に加熱されて可塑状態にすることができるようになっている。
【0019】
ところで、上述のようにホッパ8から投入されたペレット6は第1送り部4aを通過するにつれて可塑状態にされると共に第1混練部5aで混練されて十分な溶融状態になる。そして、本実施形態の混練押出機1は、上述のように混練部5の下流側で溶融状態のペレット6に対してサイドフィーダ9を用いて複合体7を投入する機構になっている。
サイドフィーダ9は、第2送り部4bにおける軸方向の中途側に設けられており、上述したように混練部5(第1混練部5a)より下流側に取り付けられている。
【0020】
サイドフィーダ9は、バレル2の側壁に設けられており、内部が空洞とされたケース12と、このケース12内に収容される複数のフィードスクリュ13とを備えている。フィードスクリュ13は、混練スクリュ3と略直交方向に向かって互いに平行に設けられている。それぞれのフィードスクリュ13は、径外側に向かって突出すると共にフィードスクリュ13の軸方向に沿ってねじれたフライト13aを備えており、図示しない回転駆動手段によって回転することで複合体7を混練押出機1の内部に向かって押し出せるようになっている。ケース12の上部には複合体7をケース12内に投入する供給口14がケース12の内外を貫通するように形成されている。
【0021】
サイドフィーダ9の回転駆動手段は、混練スクリュ3の駆動伝達装置と別に設けられており、互いに独立に制御可能となっている。それゆえ、フィードスクリュ13の回転数だけを混練スクリュ3の回転数に関係なく高くしたり低くしたりすることができ、ホッパ8から投入されるペレット6の投入速度に依存しない投入速度で複合体7を挿通孔12からバレル2に供給することが可能となる。
【0022】
複合体7は、熱可塑性樹脂のシート状部材10と、このシート状部材10で保持された強化繊維15とを有しており、サイドフィーダ9の供給口14から投入しやすいようにひも状や帯状に形成されている。シート状部材10への強化繊維15の保持は、強化繊維15を載せたシート状部材10をロール状に巻き込んだり、2枚のシート状部材10の間に挟み込んだり、筒状に形成したシート状部材10の内部に封入したりすることができる。このような複合体7を用いることで、シート状部材10を構成する樹脂より比重の小さい強化繊維15を混練押出機1の内部に確実に供給することができる。
【0023】
複合体7は、複合体7の総重量に対してシート状部材10の占める重量比率が1〜50%とされている。複合体7に含まれるシート状部材10の重量比率を1〜50%とすることで、複合体7中の強化繊維15の重量比率が上がり、サイドフィーダ9から供給可能な複合体7の供給量だけで製品(樹脂組成物)に必要な強化繊維15を十分に供給することが可能となる。
【0024】
強化繊維15は、樹脂組成物の母材を構成する樹脂より剛性に富む繊維であり、樹脂組成物の機械的特性を高めるために母材に配合される。強化繊維15として用いられる繊維の種類は、ガラス繊維、セラミック繊維、炭素繊維、有機繊維、又は天然繊維から選ばれる少なくとも1種類以上の繊維であり、これらの繊維であればいずれを用いても良い。しかし、特に好ましくは、母材を構成する樹脂と一緒に焼却廃棄が可能となるように、ジュートやケナフなどの麻系繊維や竹繊維のような天然繊維を用いるのが良い。
【0025】
強化繊維15は、樹脂組成物の剛性を高めるために繊維束の状態となっているのが好ましく、また製品の機械的特性を高められるように平均繊維長が5〜50mmの長尺状に形成されているのが好ましい。
シート状部材10は、ペレット6と同様に、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂やナイロンなどのポリアミド樹脂、あるいはこれらを混合した樹脂で形成されている。シート状部材10は、上述するペレット6と同じ樹脂で形成することもできるが、ペレット6と混合した際に樹脂組成物の母材が目標の組成となるように樹脂の種類や配合量をペレット6と異ならせることもできる。例えば、ポリエチレンとポリプロピレンとの混合樹脂の母材を製造する場合は、ポリエチレンのペレット6に、シート状部材10がポリプロピレンの複合体7を混合して、樹脂組成物の母材をポリエチレンとポリプロピレンとの混合樹脂とすることもできる。
【0026】
シート状部材10には、強化繊維15をくるむ際に折り曲げ可能なように、上述の樹脂から成るフィルムまたは不織布が用いられる。これらのフィルムまたは不織布は、樹脂組成物の曲げやすさや組成に応じて厚みを適宜変更することができるが、例えばその厚みが1mmtに形成されたフィルムや不織布などを用いることができる。このような厚みのフィルムまたは不織布を用いることで、折り曲げて強化繊維15をくるんで保持することが可能となる。
【0027】
次に、本発明の製造方法を説明する。
本発明の樹脂組成物の製造方法は、混練押出機1の上流側から供給された基材(ペレット6)が溶融した領域に、具体的には混練押出機1における混練スクリュ3を備えた混練部5より下流側に、複合体7を基材の投入速度に依存しない投入速度で供給して、機械的特性に優れた樹脂組成物を得るものである。
【0028】
以下に、竹繊維を強化繊維15として50重量%、ポリプロピレンの基材を50重量%含む樹脂組成物を製造する場合を例に挙げて製造方法を説明する。この樹脂組成物は、以下の第1工程〜第3工程の順番に従って製造される。
第1工程では、混練押出機1のホッパ8にペレット6が乾燥状態で投入される。ペレット6の投入量は、製品(樹脂組成物)でのポリプロピレンの配合率が50重量%となるように、ポリプロピレンの総配合量から複合体7のシート状部材10分の配合量を引いた残りの配合量とされる。例えば、シート状部材10を総配合量に対する10重量%のポリプロピレンで形成しているときは、ペレット6の投入量は総配合量に対する40重量%とされる。投入されたペレット6はホッパ8からバレル2の内部に供給され、そしてバレル2の加熱装置により加熱されながら回転する混練スクリュ3により下流側に送られ、第1混練部5aで混練されて十分に溶融した状態になる。
【0029】
第2工程では、第1混練部5aで溶解したペレット6(基材)に対して、サイドフィーダ9から複合体7を供給する。具体的には、ひも状又は帯状に形成された複合体7をサイドフィーダ9の供給口14に挿入してフィードスクリュ13の間に導くようにする。このようにすると、複合体7が回転するフィードスクリュ13のフライト13aに巻き付いてバレル2側に送られる。サイドフィーダ9にはバレル2のような加熱装置は設けられていないので、フライト13aに巻き付く複合体7には直接熱が加わることはなく、熱によって複合体7が破断することがない。そして、サイドフィーダ9のケース12とバレル2との間に形成された挿通孔11から複合体7がバレル2内部に供給される。
【0030】
第3工程では、第2送り部4bより下流側(第2混練部5b及び第3送り部4c)で複合体7と溶融状態のペレット6とが混合される。このとき、ペレット6は既に溶融状態となっているので、混練スクリュ3で強化繊維15がせん断されて折損されることがない。
上述のように混合された強化繊維15とペレット6とは、第2送り部4bから下流側の第2混練部5bに送られて混練され、樹脂組成物が形成される。そして、混練された樹脂組成物は、第3送り部4cを介して図示しない押出機やペレタイザに送られる。
【0031】
本発明の製造方法は、上述のように混練押出機1の上流側から供給された基材が溶融した領域に、複合体7と一緒に強化繊維15を基材の投入速度に依存しない投入速度で供給するものである。それゆえ、混練スクリュ3の回転速度が大きくなっても複合体7が破断することがなく、基材に対する複合体7の供給速度を大きくして強化繊維15の配合率を高くすることができ、強化繊維15の配合率が従来より高く(50重量%以上)且つ機械的強度に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0032】
また、複合体7をホッパ8から投入する場合では複合体7にバレル2の加熱装置の熱が加わりやすく、混練スクリュ3の回転数を上げ過ぎると複合体7の破断が生じて生産性がかえって低下する。しかし、複合体7をサイドフィーダ9で供給する場合には、複合体7に直接熱が加わることがない。それゆえ、複合体7が破断する心配がないので混練スクリュ3の回転速度やサイドフィーダ9のフィードスクリュ13の回転速度を個別に設定(大きく)して生産性を高めることができる。
【0033】
なお、本発明の製造方法では、サイドフィーダ9からバレル2の内部に投入される。それゆえ、ホッパ8から強化繊維15を入れた場合より強化繊維15がバレル2内を通過する長さが短くなり、強化繊維15が加熱を受ける時間が短くなって強化繊維15の熱劣化を抑制することができる。
また、複合体7をホッパ8から混練スクリュ3が回転している箇所に直接供給すると、複合体7が可塑状態になる前に混練スクリュ3によるせん断を受けるため、強化繊維15が混練スクリュ3のフライトで折損しやすい。しかし、本発明の製造方法のようにサイドフィーダ9を用いて強化繊維15を供給する場合には複合体7が溶融状態のペレット6(基材)に混合されるため、強化繊維15が折損することがない。
【0034】
それゆえ、強化繊維15の熱劣化や折損を抑制して樹脂組成物の機械的強度の低下を防ぐことができ、特に天然繊維のように熱劣化や折損の影響を受けやすい強化繊維15を配合する際に有利となる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の製造方法で製造を行った実施例と本発明以外の製造方法で製造を行った比較例とを用いて、本発明の樹脂組成物の製造方法についてさらに詳しく説明する。
実施例と比較例とで用いられる混練押出機1は、いずれも互いに平行に配置された一対の混練スクリュ3、3(スクリュ径30mm、スクリュ長さ/スクリュ直径=42)を備えた2軸混練押出機1((株)神戸製鋼所製HYPER KTX30)である。これらの混練押出機1は、いずれも第1送り部4aの下流側に第1混練部5aを備えており、この第1混練部5aの下流側には第2送り部4bが設けられている。第1送り部4aにはホッパ8が設けられており、この第1送り部4aの下流側にはサイドフィーダ9または第2ホッパ20が設けられている。
【0036】
実施例と比較例とは、第1混練部5aを基準とするサイドフィーダ9の設置位置がそれぞれ異なっており、また第1混練部5aより下流側の構成(混練部5、送り部4の組み合わせ)が相違している。なお、詳しい構成の違いは各実施例において説明する。
実施例及び比較例に用いられる強化繊維15は、破砕・解繊加工や篩い分けを行った平均径1.2〜1.5mm、平均長10〜45mmの竹繊維である。また、樹脂組成物の基材を構成する樹脂のペレット6は、ポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製 ノバテックBC05G)に無水マレイン酸の添加剤(三洋化成工業株式会社製 ユーメックス1001)を5%添加した混合樹脂で形成されている。さらに、シート状部材10は、ポリプロピレン製の不織布(シンワ株式会社 6640−1A、目付40g/m2、幅100mm裁断品)である。
【0037】
これらの材料は、表1に示す配合比率でペレット6及び複合体7としてバレル2の内部に投入され、同表1に規定される生産条件に従って混練され、ペレタイザによって樹脂組成物のペレット6に加工される。
実施例及び比較例の樹脂組成物の評価は、以下のようにして行った。
(1)生産性
生産性の評価は、強化繊維15の破断や閉塞が起きない状態で連続的に生産ができて、且つ生産率が従来のものに比して向上した場合を○の評価、連続的に生産ができて、且つ生産率が従来のものに比して非常に向上した場合を◎の評価、強化繊維15の破断や閉塞が生じたり連続的に生産できなかった場合を×の評価とした。
(2)樹脂組成物中の強化繊維の長さ
加工された樹脂組成物のペレット6をトルエンで溶解し、樹脂組成物に含まれる強化繊維15を無作為に200本抽出して、マイクロスコープ(KEYENCE製 VHZ−450)で繊維長を計測した。測定された200本の繊維長の平均値を樹脂組成物中の強化繊維15の長さとした。
(3)引張試験及び曲げ試験
加工された樹脂組成物のペレット6を縦型射出成形機に供給して、JIS K7162に規定される1A型多目的試験片を射出成形した。得られた試験片に対して、引張試験機(島津製作所製 AUTOGRAPH)を用いた引張試験及び曲げ試験を行った。引張試験及び曲げ試験の試験条件は、JIS K7113及びJIS K7171に従った。なお、引張試験の標点間距離は80mm、試験速度は2mm/minとし、曲げ試験の標点間距離は65mm、試験速度は2mm/minとした。
(4)衝撃試験
(3)で射出成形された1A型多目的試験片に対して、衝撃試験機(米倉製作所製 6Jアイゾット式衝撃試験機)を用いて衝撃試験を行った。衝撃試験の試験条件は、ハンマーの持ち上げ角度が147.5°、打撃方法がエッジワイズであり、計測された吸収エネルギから式(1)に従ってアイゾット衝撃値を求めた。
【0038】
【数1】

【0039】
E:吸収エネルギ[J] WR:ハンマの回転軸回りのモーメント[N・m]
α:ハンマの持ち上げ角度[°] β:試験片破断後のハンマの振り上げ角度[°]
α’:ハンマの持ち上げ角度αから空振りさせたときの振り上げ角度[°]
a:アイゾット衝撃値[kJ/m2] b:試験片の中央の幅[mm]
h:試験片の中央の高さ[mm]
(5)熱変形温度
(3)で射出成形された試験片に対して、HDT試験装置(東洋精機製作所製 HDT試験装置3M−2)を用いて熱変形温度(荷重たわみ温度の測定)を計測した。測定は、ISO75に従って行い、フラットワイズに置かれた試験片に対して支点間距離64mmで1.80MPaの荷重を加えて行った。測定は、1つの試験片に対して3点行い、その平均値で示している。
【0040】
上述の(1)〜(5)の評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
「実施例1」
実施例1は図1及び図2に示した混練押出機1を用いて樹脂組成物を製造した例である。実施例1では、ホッパ8からペレット6を5kg/hで投入し、ペレット6が第1混練部5で溶解状態になってから、第1混練部5の下流側においてサイドフィーダ9から複合体7を投入する。複合体7は、竹繊維を目付40g/m2のシート状部材10(ポリプロピレン製不織布)でくるんだものであり、竹繊維が10kg/h、シート状部材10が5kg/hとなるように供給される。
【0043】
表1の評価における生産性の結果を見ると、×の評価である比較例2より、及びこの比較例2より優れた○の評価である比較例1よりさらに優れた◎の評価となっている。それゆえ、実施例1では樹脂組成物を安定して効率的に生産できたことが分かる。
また、表1の評価における樹脂組成物中の強化繊維15の長さの結果を見ると、実施例1の強化繊維15の長さは後述する比較例1や比較例2よりさらに長くなっており、このことから実施例1では強化繊維15の折損がさらに抑制されてより長い状態で残っていると判断される。
【0044】
さらに、樹脂組成物の引張試験及び曲げ試験、衝撃強度、熱変形温度の結果を見ると、例えば比較例1の引っ張り強度の評価は比較例2より高強度であることを示す評価であるが、実施例1ではこれらの評価がいずれも比較例1よりさらに優れた強度を示している。このことから、実施例1では機械的強度に優れた樹脂組成物が得られたことが分かる。
「実施例2及び実施例3」
実施例2及び実施例3も、実施例1と同様な混練押出機1を用いた例である。実施例2及び実施例3が実施例1と異なっているのは、ペレット6及び複合体7の組成である。
【0045】
すなわち、実施例2は、サイドフィーダ9から竹繊維をシート状部材10でくるんだ複合体7を投入したものであるが、竹繊維を20kg/hで、シート状部材10を5kg/hで投入したものであり、実施例1よりシート状部材10でくるむ竹繊維の量が多くなっている。一方、実施例3は、竹繊維を20kg/hで、シート状部材10を12kg/hで投入しており、実施例1より竹繊維の投入量が少なくなっている。
【0046】
なお、実施例2及び実施例3における上記以外の条件は実施例1と同様である。
表1の評価における生産性の結果を見ると、実施例2も実施例3も評価が◎となっている。それゆえ、実施例2及び実施例3でも比較例1の○の評価よりさらに優れた◎の評価が得られ、樹脂組成物を安定して効率的に生産できたことが分かる。
また、表1の評価における樹脂組成物中の強化繊維15の長さの結果を見ると、実施例2及び実施例3の強化繊維15の長さも比較例1や比較例2よりさらに長くなっており、実施例2や実施例3でも強化繊維15の折損が抑制されてより長い状態で残っていると判断される。
【0047】
さらに、樹脂組成物の引張試験及び曲げ試験、衝撃強度、熱変形温度の結果を見ると、実施例1同様に実施例2や実施例3でもこれらの評価がいずれも比較例1よりさらに優れた強度を示している。
以上のことから判断すると、複合体7における強化繊維15の配合比を実施例2や実施例3のように変化させても、実施例1と同様に機械的強度に優れた樹脂組成物を生産性良く得られることが分かる。
「実施例4」
実施例4は図3に示した混練押出機1を用いて樹脂組成物を製造した例である。実施例4の混練押出機1が実施例1と異なっているのは、第2混練部5bがロータディスクに代えてニーディングディスクで形成されており、サイドフィーダ9が実施例1より下流側の第2送り部4bに設けられている点である。それゆえ、実施例4の製造方法では、実施例1より複合体7がより下流側に投入されている。
【0048】
なお、実施例4における上記以外の条件は実施例1と同様である。
表1の評価における生産性の結果を見ると、実施例4でも評価が◎となっており、実施例4でも樹脂組成物を安定して効率的に生産できたことが分かる。
また、表1の評価における樹脂組成物中の強化繊維15の長さの結果を見ると、実施例4の強化繊維15の長さも比較例1や比較例2よりさらに長くなっており、実施例4でも強化繊維15の折損が抑制されてより長い状態で残っていると判断される。
【0049】
さらに、樹脂組成物の引張試験及び曲げ試験、衝撃強度、熱変形温度の結果を見ると、実施例4でもこれらの評価がいずれも比較例1や比較例2より高強度である結果となっている。
以上のことから判断すると、複合体7が基材に供給される位置が下流側に変化しても、その供給位置が混練部5より下流側であれば、混練押出機1の上流側のホッパ8から供給された基材が溶融した領域に複合体7と一緒に強化繊維15を供給することができ、実施例1と同様に機械的強度に優れた樹脂組成物を生産性良く得ることができることがわかる。
【0050】
また、混練部5を構成する混練スクリュ3をロータディスクからニーディングディスクに変化させても、サイドフィーダ9を設ける位置は混練部5のなかでも最も上流側に位置する第1混練部5aを基準としてこれより下流側であれば、樹脂組成物の機械的強度や生産性は良好になることが分かる。
「実施例5」
実施例5は図4に示した混練押出機1を用いて樹脂組成物を製造した例である。実施例5の混練押出機1が実施例1と異なっているのは、第2混練部5や第3送り部4が設けられておらず、サイドフィーダ9が実施例1より上流側の第2送り部4bに設けられている点である。それゆえ、実施例5の製造方法では、実施例1より複合体7がより上流側に投入されている。
【0051】
なお、実施例5における上記以外の構成は実施例1と同様である。
表1の評価における生産性の結果を見ると、実施例5も評価が◎となっている。それゆえ、実施例5でも樹脂組成物を安定して効率的に生産できたことが分かる。
また、表1の評価における樹脂組成物中の強化繊維15の長さの結果を見ると、実施例5の強化繊維15の長さも比較例1や比較例2よりさらに長くなっており、実施例5でも強化繊維15の折損がさらに抑制されてより長い状態で残っていると判断される。
【0052】
さらに、樹脂組成物の引張試験及び曲げ試験、衝撃強度、熱変形温度の結果を見ると、実施例5でもこれらの評価がいずれも比較例1や比較例2よりさらに高強度である結果となっている。
以上のことから判断すると、複合体7が基材に供給される位置が上流側に変化しても、その供給位置が第1混練部5aより下流側であれば、混練押出機1の上流側のホッパ8から供給された基材が溶融した領域に複合体7と一緒に強化繊維15を供給することができ、実施例1と同様に機械的強度に優れた樹脂組成物を生産性良く得ることができることがわかる。
【0053】
また、混練部5の数を変化させても、サイドフィーダ9を設ける位置が混練部5より下流側であれば、樹脂組成物の機械的強度や生産性は良好になることが分かる。
「比較例1」
比較例1は図5に示した混練押出機1を用いて樹脂組成物を製造した例である。比較例1の混練押出機1が実施例1〜実施例5と異なっているのは、サイドフィーダ9が混練部5(第1混練部5)より上流側に設けられている点である。
【0054】
表1の評価における生産性の結果を見ると、比較例1では評価が○となっている。つまり、比較例1の場合は連続的に生産ができて、生産率も良好である。ただし、比較例1の結果は上述した実施例1〜実施例5のものに比して若干良好ではない。これは、サイドフィーダ9の出側で強化繊維15が閉塞する虞がある比較例1に比べて、サイドフィーダ9の回転数をより高くすることができる実施例1〜実施例5では、生産率がより高くなったためである。
【0055】
また、表1の評価における樹脂組成物中の強化繊維15の長さの結果においても、比較例1の強化繊維15の長さは、実施例1〜実施例5のもの程長くはなく、強化繊維15の折損を抑制する効果は実施例ほど大きくないことが分かる。
さらに、樹脂組成物の引張試験及び曲げ試験、衝撃強度、熱変形温度の結果を見ると、例えば比較例1の引張強度の評価結果では比較例2より高強度であることを示す結果であるが、実施例1〜実施例5のもの程高強度ではないことを示す結果となっている。
【0056】
以上のことから、複合体7を供給する位置を下流側に変化させればさせる程、十分に溶融されたペレット6に強化繊維15が投入されるので、強化繊維15の折損や熱劣化が発生しにくく機械的強度に優れる樹脂組成物が得られると判断される。また、十分に溶解されたペレット6に強化繊維15を投入する方が、生産を継続して行うために有利であることが分かる。
「比較例2」
比較例2は図6に示した混練押出機1を用いて樹脂組成物を製造した例である。比較例2の混練押出機1が実施例1〜実施例5と異なっているのは、サイドフィーダ9に代えて第2ホッパ20で複合体7をバレル2内に直接投入するようになっている点である。
【0057】
表1の評価における生産性の結果を見ると、比較例2では評価が×となっている。これは、比較例2では複合体7が破断して生産を継続して行うことができなかった点、及び混練スクリュ3に直接複合体7を絡みつけるため生産量を大きくできなかった点に起因すると考えられる。
また、表1の評価における樹脂組成物中の強化繊維15の長さの結果においても、比較例2の強化繊維15の長さは実施例1〜実施例5より短くなっており、複合体7が強化繊維15が折損して短くなったことがわかる。
【0058】
さらに、樹脂組成物の引張試験及び曲げ試験、衝撃強度、熱変形温度の結果を見ると、比較例2ではこれらの評価がいずれも実施例1〜実施例5より強度が低下したことを示す結果となっており、サイドフィーダ9が実施例1〜実施例5より上流側に位置している点から強化繊維15が熱劣化の影響を受け、そのため機械的強度が低下したものと考えられる。
【0059】
以上のことから判断すると、複合体7をペレット6と同様にホッパ8で投入すると、強化繊維15の投入速度が制約され、強化繊維15の折損や熱劣化が発生して機械的強度に優れる樹脂組成物が得られないことが分かる。また、複合体7をバレル2内に直接投入すると、複合体7の破断が生じて生産を継続して行えないことが分かる。
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
【0060】
上記実施形態では、強化繊維15に竹繊維や天然繊維を用いていた。しかし、強化繊維15には天然繊維以外のガラス繊維や炭素繊維を用いることもできる。
また、上記実施形態では、熱可塑性樹脂が溶融した領域を混練押出機1における混練部5より下流側としていた。しかし、例えば第1送り部4aがホッパ8から供給されたペレット6が十分に溶解できる程軸方向に長い場合は、混練部5より上流側を熱可塑性樹脂が溶融した領域とすることもできる。
【符号の説明】
【0061】
1 混練押出機
2 バレル
3 混練スクリュ
3a スクリュセグメント
3b 混練セグメント
4 送り部
4a 第1送り部
4b 第2送り部
4c 第3送り部
5 混練部
5a 第1混練部
5b 第2混練部
6 ペレット
7 複合体
8 ホッパ
9 サイドフィーダ
10 シート状部材
11 挿通孔
12 ケース
13 フィードスクリュ
13a フライト
14 供給口
15 強化繊維
20 第2ホッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂のシート状部材で強化繊維をくるんで保持する複合体を混練押出機に供給することで、前記強化繊維が配合された樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法であって、
前記混練押出機の上流側から供給された熱可塑性樹脂の基材が溶融した領域に、前記複合体を前記基材の投入速度に依存しない投入速度で供給することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が溶融した領域は、前記混練押出機における混練スクリュを備えた混練部より下流側であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記複合体の投入は、複数のスクリュを備えたサイドフィーダを用いて前記混練押出機の混練スクリュの側方から供給された前記複合体を前記混練押出機の内側まで運んで行われており、
前記スクリュは、その回転数が前記混練押出機の混練スクリュとは独立に制御可能とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記強化繊維は、平均長が5〜50mmの天然繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記シート状部材は、前記熱可塑性樹脂の不織布又はフィルムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂の基材を混練する混練部を有する混練スクリュを備え、強化繊維が配合された樹脂組成物が製造可能とされた混練押出機であって、
前記混練部の下流側に、前記混練スクリュと独立に回転可能とされると共に熱可塑性樹脂のシート状部材で強化繊維をくるんで保持する複合体を前記基材に供給するスクリュを備えたサイドフィーダが、設けられていることを特徴とする混練押出機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−143673(P2011−143673A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8092(P2010−8092)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】