説明

樹脂組成物及び積層体

【課題】 カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂が有する優れた接着性能を損なうことなくそれに非帯電性を付与し、しかも基材フィルム樹脂との共押出が可能な樹脂組成物、及び該樹脂組成物を接着層とする非帯電性、層間接着性に優れた積層体を提供する。
【解決手段】 不飽和カルボン酸又はその無水物で変性されたポリオレフィン樹脂(A)95〜60質量%とエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー(B)5〜40質量%からなる樹脂組成物、及び該樹脂組成物を接着層とし、その両側に熱可塑性樹脂層を設けた積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非帯電性及び層間接着性が良好な積層体を形成するための接着層として好適な樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコールなどの熱可塑性樹脂はフィルム材料として広く使用されている。多様な機能が求められる用途においては、これら熱可塑性樹脂のそれぞれの特性を生かすべく、2種以上の層構成を有する積層フィルムとして広く使用されている。このような積層フィルムにおいても一般の単層フィルムと同様に、帯電に伴う塵埃その他の静電付着トラブルを回避するために非帯電性が良好であること求められているが、同時に異種材料間で構成される積層体の層間接着性が良好であることも求められている。このため接着層が設けられることが多いが、通常は非帯電層とは別個に設けられていた。
【0003】
このような接着層に使用することが可能な樹脂として不飽和カルボン酸又はその無水物で変性したポリオレフィン樹脂が広く知られており、基材フィルムを構成する熱可塑性樹脂と共押出ができるという利点を有している。この接着層に帯電防止剤を配合することによって積層体表面における帯電防止を図ることができるならば好都合である。しかるに上記不飽和カルボン酸等で変性したポリオレフィン樹脂に通常の帯電防止剤を配合した場合には、基材フィルム用樹脂との共押出が難しくなり、例えば多層インフレーションフィルム成形において、成形不能に陥ることがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の目的は、不飽和カルボン酸又はその無水物で変性したポリオレフィン樹脂が有する優れた接着性能を損なうことなく、それに非帯電性を付与し、しかも基材フィルム樹脂との共押出が可能な樹脂組成物を提供することにある。本発明の他の目的は、このような樹脂組成物を接着層とする非帯電性、層間接着性に優れた積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明によれば、不飽和カルボン酸又はその無水物で変性されたポリオレフィン樹脂(A)95〜60質量%とエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー(B)5〜40質量%からなる樹脂組成物が提供される。
【0006】
本発明によればまた、上記樹脂組成物からなる接着剤及び上記樹脂組成物からなる層の両側に熱可塑性樹脂層を設けてなる積層体が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、積層体、とくに積層フィルムの接着層として有用な非帯電性、接着性に優れた樹脂組成物を提供することができる。このような樹脂組成物の層の両側に熱可塑性樹脂を配した積層体は、共押出によって製造することが可能であり、しかも層間接着性、非帯電性に優れている。かかる積層体は、層間剥離に対する耐性に優れると共に少なくとも一方の表層に優れた帯電減衰性を付与することが可能であり、帯電による塵埃や粉体の付着を防止することができる。したがってフィルムのみならず、テープ、シート、チューブ、管、袋体、多層容器(例えばブロー成形による容器)、ロッド、各種射出成形品、各種ブロー成形品などの形で使用することができる。この場合、上記減衰特性を有する表面層が外表面にある成形品は防汚性に優れており、表面汚れを回避することができる。また粉体材料の包装材料として使用し、上記減衰特性を有する表面層が内面層となるような使用方法においては、粉体の包装材料への静電付着がなく、商品価値を損ねることはない。
【0008】
このような積層体は包装材料の他にも、ダイシングテープ基材やバックグラインドフィルムなどの半導体用粘着テープ又はフィルム、マーキングフィルム、ICキャリアテープ、電子部品テーピングテープのような電気・電子材料、食品包装材料、衛生材料、プロテクトフィルム(例えばガラス、プラスチック又は金属性のボード、レンズ用ガードフィルム又はテープ)、鋼線被覆材料、クリーンルームカーテン、壁紙、マット、床材、フレコン内袋、コンテナー、靴、バッテリーセパレーター、透湿フィルム、防汚フィルム、防塵フィルム、PVC代替フィルム、各種化粧品、洗剤、シャンプー、リンス等のチューブやボトルなどの用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の樹脂組成物において使用される不飽和カルボン酸又はその無水物で変性されたポリオレフィン樹脂(以下、変性ポリオレフィン樹脂と呼ぶことがある)(A)は、一般にはポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸又はその無水物をグラフト変性あるいは共重合変性することによって得られる樹脂である。このような変性ポリオレフィン樹脂は、接着性樹脂として酸変性ポリオレフィン、カルボン酸変性ポリオレフィンなどその他種々の一般名称で市販されており、例えばアドマー(三井化学(株)製)、モディック(三菱化学(株)製)、メルセン(東ソー(株)製)、ポリボンド(ユニロイヤル・ケミカル(株)製)などの商品名で、市場において入手することができる。
【0010】
変性ポリオレフィン樹脂(A)のベースポリマーとして使用可能なポリオレフィン樹脂としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィンの単独重合体、これら2種以上のランダム共重合体、これら2種以上のブロック共重合体、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体、エチレンと(メタ)アクリル酸エチルとの共重合体等のエチレン・極性モノマー共重合体などから選ばれる重合体である。
【0011】
上記ポリオレフィン樹脂としてより具体的には、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン(エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンとの共重合体)、ポリプロピレン(単独重合体、ランダム重合体、ブロック共重合体など)、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテンなどを挙げることができる。これらは如何なる触媒系で製造されたものであっても良く、例えば上記直鎖低密度ポリエチレンにおいては、メタロセン系触媒あるいはマルチサイト触媒で製造されたものが使用できる。上記の内、ポリエチレンとしては、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、0.1〜1000g/10分、とくに0.2〜500g/10分程度のものが好ましく、またポリプロピレンとしては、230℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、0.1〜1000g/10分、とくに0.2〜500g/10分程度のものが好ましい。
【0012】
変性ポリオレフィン樹脂(A)は、ベースポリマーである上記のようなポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸をグラフトすることあるいはオレフィンと少量の不飽和カルボン酸を共重合することによって得ることができる。グラフトあるいは共重合変性に使用される不飽和カルボン酸又はその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物などを挙げることができるが、とくに酸無水物が好ましく、とりわけ無水マレイン酸が好ましい。不飽和カルボン酸又はその無水物の好適なグラフト量は、0.01〜10質量%、好ましくは0.01〜7質量%、とくに好ましくは0.05〜3質量%の範囲である。本発明では、変性ポリオレフィン樹脂(A)としてはとくにグラフト変性ポリオレフィン樹脂が好ましく、このグラフト変性ポリオレフィン樹脂は、ベースポリマーの溶融条件下、あるいはベースポリマーを適当な溶媒に溶解あるいは懸濁させて、有機過酸化物のようなラジカル開始剤の存在下に、上記不飽和カルボン酸又はその無水物をグラフトすることによって得ることができる。
【0013】
グラフト反応に使用可能な有機過酸化物としては、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ビスパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、クメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,3−ビス(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどを使用することができる。これら有機過酸化物は、ベースポリマーに対して、例えば0.1〜2質量%程度の割合で使用される。
【0014】
このようにして得られる酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートは、ベースポリマーのそれとほぼ同じか、それより若干低い値を示す。
【0015】
本発明の樹脂組成物においては、変性ポリオレフィン樹脂(A)とともに、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー(B)が使用される。カリウムアイオノマーのベースポリマーとなるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸、さらに任意に他の極性モノマーを共重合して得られるものである。
【0016】
ここに不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルなどを例示することができるが、とくにアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また共重合成分となりうる他の極性モノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルのような不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素などであり、とくに不飽和カルボン酸エステルは好適な共重合成分である。
【0017】
このようなエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸、任意に他の極性モノマーを、高温、高圧下でラジカル共重合することによって得ることができる。
【0018】
カリウムアイオノマー(B)として、ベースポリマーとなるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の酸含量が少なすぎたり、あるいは中和度が小さすぎるものを使用すると、非帯電性に優れた樹脂組成物を得ることはできない。そのため、不飽和カルボン酸含量が10〜30質量%、好ましくは10〜25質量%のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムイオンによる中和度が60%以上、好ましくは70%以上のカリウムアイオノマーを1種又は2種以上使用するのが好ましい。またベースポリマーとしてエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を2種以上使用する場合には、平均の不飽和カルボン酸含量が上記範囲となるようにする限り、その一部に不飽和カルボン酸含量が10質量%未満の共重合体を使用してもよい。本発明においては、とくに非帯電性に優れた樹脂組成物を得るために、平均酸含量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーが望ましい。例えば、平均酸含量が10〜30質量%、好ましくは10〜20質量%である2種以上の共重合体であって、最高酸含量と最低酸含量のものの酸含量差が1質量%以上、好ましくは2〜20質量%異なるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムイオンによる中和度が60%以上、好ましくは70%以上の混合アイオノマーである。より具体的には、不飽和カルボン酸含量が1〜10質量%、好ましくは2〜10質量%、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが1〜600g/10分、好ましくは10〜500g/10分のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(b−1)と、不飽和カルボン酸含量が11〜25質量%、好ましくは13〜23質量%、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが1〜600g/10分、好ましくは10〜500g/10分のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(b−2)とからなり、平均不飽和カルボン酸含量が10〜20質量%、好ましくは11〜15質量%、190℃、2160g荷重における平均メルトフローレートが1〜300g/10分、好ましくは10〜200g/10分、一層好ましくは20〜150g/10分の混合共重合体成分の上記中和度を有する混合アイオノマーがとくに好適である。上記混合共重合体成分としてはまた、共重合体(b−1)と共重合体(b−2)の混合割合が、前者2〜60質量部、好ましくは5〜50質量部に対し、後者98〜40質量部、好ましくは95〜50質量部とするのが好ましい。カリウムアイオノマーのベースポリマーとなる上記のようなエチレン・不飽和カルボン酸共重合体には、すでに述べたような他の極性モノマーが40質量%以下、好ましくは30質量%以下の割合で共重合されていてもよい。
【0019】
カリウムアイオノマー(B)としてはまた、加工性や変性ポリオレフィン樹脂(A)との混和性等を考慮すると、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、0.1〜100g/10分、とくに0.2〜50g/10分のものを使用するのが好ましい。
【0020】
本発明の樹脂組成物においては、非帯電性及び接着性のバランスを考慮すると、変性ポリオレフィン樹脂(A)95〜60質量%、好ましくは90〜70質量%に対し、カリウムアイオノマー(B)を5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%(両者で100質量%)の割合で配合される。
【0021】
このような樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、任意に他の重合体や添加剤を配合することができる。このような重合体や添加剤は、予め(A)、(B)の一方又は双方に配合しておくこともできるし、(A)、(B)両成分の溶融混合過程で添加することができる。あるいは(A)、(B)からなる樹脂組成物を調製した後に配合することができる。例えばカリウムアイオノマー(B)の加工性、(A)成分への混和性、その他物性の改良のために、カリウムアイオノマー(B)に予めそれと等質量以下程度のエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体を配合しておくことができる。
【0022】
また非帯電性改良のために、カリウムアイオノマー(B)にアルコール性水酸基を2個以上有するポリヒドロキシ化合物を予め配合することもできる。具体的には各種分子量のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、グリセリン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトールのような多価アルコール及びこれらのエチレンオキシド付加物、多価アミンとアルキレンオキシドの付加物などを例示することができる。ポリヒドロキシ化合物の有効な配合割合は、カリウムアイオノマーに対し15質量%以下、好ましくは10質量%以下、一層好ましくは5質量%未満、最も好ましくは0.1質量%未満の範囲である。
【0023】
さらに任意に配合することができる添加剤の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、滑剤、ブロッキング防止剤、難燃剤、難燃助剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、繊維強化材などを挙げることができる。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、溶融押出可能な接着剤として、各種基材の接着に使用することができる。例えば各種熱可塑性樹脂、紙、木材、金属、織布、不織布などの1層又は多層からなる基材の接着に使用することができる。
【0025】
このような基材として利用できる熱可塑性樹脂としては、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体、たとえば高圧法ポリエチレン、中・高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、とくに密度が940kg/m以下の直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレンと極性モノマーとの共重合体、例えばエチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレンと不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸などとの共重合体又はそのNa、Li、Zn、MgもしくはCaなどのアイオノマー、エチレンと1種又は2種以上の不飽和カルボン酸エステル、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸ジメチルなどとの共重合体、エチレンと上記のような不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸エステルの共重合体又はそのNa、Li、Zn、MgもしくはCaなどのアイオノマー、エチレンと一酸化炭素と任意に不飽和カルボン酸エステルや酢酸ビニルとの共重合体、ポリオレフィン系エラストマーの如きオレフィン系重合体、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレンやABS樹脂のようなゴム強化スチレン系樹脂のようなスチレン系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマーのようなポリエステル、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアミド樹脂あるいはこれら2種以上の混合物などを例示することができる。
【0026】
とりわけポリオレフィン樹脂と共押出によって層間接着性に優れた積層体を品質安定性よく得ることができるため、本発明の樹脂組成物の両側にポリオレフィン樹脂を配した3層共押出成形物、あるいは上記の任意の基材上に、本発明の樹脂組成物を当接するようにしてポリオレフィン樹脂とともに共押出ラミネートした共押出ラミネート成形物の製造に好適に使用することができる。
【0027】
好適なポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテンなどを挙げることができる。これらの中ではポリエチレン、中でも高圧法低密度ポリエチレンや直鎖低密度ポリエチレンを用いるか、あるいはポリプロピレンを使用することが好ましい。
【0028】
上記直鎖低密度ポリエチレンは、エチレンと炭素数3以上、好ましくは3〜12のα−オレフィンの共重合体であって、密度が900〜940kg/m、好ましくは900〜930kg/mのものである。これらはシクロペンタジエニル骨格を有する配位子を有するジルコニウムの化合物からなるメタロセン触媒成分と有機アルミニウムオキシ化合物触媒成分の組み合わせ触媒のようなメタロセン系触媒、あるいは高活性チタン触媒成分と有機アルミニウム化合物触媒成分の組み合わせ触媒のようなマルチサイト触媒の存在下に、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィン、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテンなどを共重合することによって製造することができる。直鎖低密度ポリエチレンとしては、機械的強度や加工性を考慮すると、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.1〜100g/10分、とくに0.2〜50g/10分のものを使用することが好ましい。
【0029】
ポリオレフィン樹脂として好適なポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体あるいはプロピレン・α−オレフィン共重合体である。プロピレン・α−オレフィン共重合体は、プロピレンを主体とするプロピレンとその他のα−オレフィンとの共重合体であって、密度は870〜930kg/m、とくに880〜920kg/mのものが好ましい。プロピレンと共重合されるα−オレフィンとしては、炭素数2〜12、とくに炭素数2〜10のものが好ましく、具体的には、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチルー1−ペンテンなどの1種又は2種以上を例示することができる。上記プロピレン共重合体は、ランダム共重合体でもブロック共重合体であってもよいが、とくにプロピレン含量が85〜99.9質量%、好ましくは90〜99.5質量%であるプロピレンとエチレンのランダム共重合体又はプロピレンとエチレンと他のα−オレフィンとからなるランダム共重合体が好適である。
【0030】
ポリプロピレンとしてはまた、成形性、機械的強度などを考慮すると、230℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.1〜100g/10分、とくに0.2〜80g/10分のものが好ましい。
【0031】
本発明の樹脂組成物からなる層の両側に熱可塑性樹脂層を設けた積層体の全体の層厚みは任意であるが、例えば10〜3000μm、とくに20〜1000μm程度の厚みとなるようにするのがよい。このような積層体においては、少なくとも一方の表面層を23℃、50%相対湿度の雰囲気下で測定した印加電圧+5000Vにおける10%減衰時間(+500Vに減衰するまでの時間)が20秒以下、好ましくは10秒以下、一層好ましくは1秒以下となるようにするのが好ましい。そのためには本発明の樹脂組成物層の厚みを5μm以上、好ましくは10μm以上とし、また上記減衰特性を有する表面層側の厚みを、500μm以下、とくに300μm以下とするのが好ましい。また実用的な性能を考慮すると、本発明の樹脂組成物層の厚みに対する該表面層の厚みの比率を、0.1〜100、とくに0.5〜30の範囲とするのが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、使用した原料及び得られた積層体の非帯電性能の評価方法を以下に示す。
【0033】
1.使用原料
(1)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂
(イ)接着性ポリオレフィンアドマーQF500:三井化学(株)製、PPベース、メルトフローレート(MFR)(230℃、2160g荷重)3.0g/10分
(ロ)接着性ポリオレフィンアドマーNF518:三井化学(株)製、LLDPEベース、MFR(190℃、2160g荷重)2.4g/10分
(ハ)接着性ポリオレフィンアドマーSF731:三井化学(株)製、特殊ポリオレフィンベース、MFR(190℃、2160g荷重)2.6g/10分
【0034】
(2)非帯電性樹脂
(イ)カリウムアイオノマー混合物(KIO−1):エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含量20質量%、MFR(190℃、2160g荷重)60g/10分)45質量%、エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含量15質量%、MFR(190℃、2160g荷重)60g/10分)27質量%、エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含量10質量%、MFR(190℃、2160g荷重)35g/10分)18質量%及びエチレン・アクリル酸メチル共重合体(アクリル酸メチル含量9質量%、MFR(190℃、2160g荷重)8g/10分)10質量%からなる混合物中のエチレン・メタクリル酸共重合体のカルボキシル基をカリウムイオンにより85%中和したもの、MFR(190℃、2160g荷重)0.3g/10分
(ロ)カリウムアイオノマー混合物(KIO−2):エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含量15質量%、MFR(190℃、2160g荷重)60g/10分)50質量%及びエチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含量10質量%、MFR(190℃、2160g荷重)100g/10分)50質量%からなる混合物のカルボキシル基をカリウムイオンにより82%中和したものにグリセリンを9質量%配合したもの、MFR(190℃、2160g荷重)5.5g/10分
(ハ)イルガスタットP16:チバスペシャルティ・ケミカルズ(株)製、ポリエーテルエステルアミド
【0035】
(3)ポリオレフィン樹脂
(イ)メタロセン触媒を用いて製造されたポリエチレン(mPE):三井化学(株)製エボリューSP2520、密度925kg/m、MFR(190℃、2160g荷重)1.9g/10分
(ロ)ポリプロピレン(PP):三井化学(株)製PP F232DC、プロピレン・エチレンランダム共重合体、MFR(230℃、2160g荷重)2.0g/10分
【0036】
2.物性試験方法
(1)非帯電性評価
(イ)10%減衰時間
後記例で得た3層フィルムを、23℃、50%相対湿度雰囲気に7日間放置し、米国ETS社製Static Decay Meter Model 4060を用い、印加電圧+5000Vから+500Vへ減衰する時間を10%減衰時間として測定した。
【0037】
(2)カツオブシ付着性試験方法
後記例で得た3層フィルムを、23℃、50%相対湿度雰囲気に24時間放置し、サラシで20往復させて擦った直後、被着体(カツオブシ)に近づけ、付着状況を観察した。
○:被着体とフィルムを直接接触させても付着しない
△:被着体とフィルムを直接接触させた場合、僅かに付着する
×:被着体とフィルムを近づけた場合、5cm以上の距離で付着する
【0038】
(2)層間接着性評価
後記例で得た3層フィルムを内層同士で完全融着後、180°剥離させた際の剥離状況で評価した。
◎:層間接着力が強く剥離不能
○:シール部で機材破壊
△:層間で剥離
×:層間接着力が弱く、層間で界面剥離発生
【0039】
[実施例1]
3層インフレダイスを装備した多層インフレーションフィルム成形装置を使用し、ダイスの外層には外層用押出機(40mmφ、スクリュー回転数25rpm)を通じて上記PPを、中間層には中間層用押出機(40mmφ、スクリュー回転数13rpm)を通じて、上記変性ポリオレフィン樹脂アドマーNF518を80質量部と上記カリウムアイオノマー混合物(KIO−1)20質量部のドライブレンド物を、内層には内層用押出機(40mmφ、スクリュー回転数25rpm)を通じて上記mPEを、それぞれ200℃の条件で供給してダイスの内部で貼合せ、外層が20μm、中間層が10μm、内層が20μmの3層インフレーションフィルムを得た。その評価結果を表1に示す。
【0040】
[実施例2]
実施例1において、中間層に用いたカリウムアイオノマー混合物(KIO−1)の代わりに、カリウムアイオノマー混合物(KIO−2)を用いた以外は実施例1と同様にして3層インフレーションフィルムを得た。その評価結果を表1に示す。
【0041】
[実施例3]
実施例1において、中間層に用いた変性ポリオレフィン樹脂としてアドマーNF518の代わりにアドマーQF500を用いた以外は実施例1と同様にして3層インフレーションフィルムを得た。その評価結果を表1に示す。
【0042】
[実施例4]
実施例2において、中間層に用いた変性ポリオレフィン樹脂としてアドマーNF518の代わりにアドマーQF500を用いた以外は実施例2と同様にして3層インフレーションフィルムを得た。その評価結果を表1に示す。
【0043】
[実施例5]
実施例2において、中間層に用いた変性ポリオレフィン樹脂としてアドマーNF518の代わりにアドマーSF731を用いた以外は実施例2と同様にして3層インフレーションフィルムを得た。その評価結果を表1に示す。
【0044】
[比較例1]
実施例3において、中間層に用いたカリウムアイオノマー混合物(KIO−1)の代わりに、イルガスタットP16を用いた以外は実施例1と同様にして3層インフレーションフィルムを得た。その評価結果を表1に示す。
【0045】
[比較例2]
実施例3において、中間層に用いたカリウムアイオノマー混合物(KIO−1)の代わりに、アドマーQF500を用いた以外は実施例1と同様にして3層インフレーションフィルムを得た。その評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸又はその無水物で変性されたポリオレフィン樹脂(A)95〜60質量%とエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー(B)5〜40質量%からなる樹脂組成物。
【請求項2】
不飽和カルボン酸又はその無水物で変性されたポリオレフィン樹脂(A)90〜70質量%とエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー(B)10〜30質量%からなる樹脂組成物。
【請求項3】
不飽和カルボン酸又はその無水物で変性されたポリオレフィン樹脂(A)が、不飽和カルボン酸又はその無水物でグラフト変性されたポリオレフィン樹脂である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
カリウムアイオノマー(B)が、不飽和カルボン酸含量が10〜30質量%のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の中和度が60%以上のものである請求項1〜3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
カリウムアイオノマー(B)が、酸含量が異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーであって、該エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の平均酸含量が10〜20質量%であり、最高酸含量のものと最低酸含量のものとの酸含量差が2〜20質量%であり、カリウムイオンによる中和度が60%以上であることを特徴とする請求項1〜3に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
カリウムアイオノマー(B)に15質量%以下のポリヒドロキシ化合物が配合されていることを特徴とする請求項1〜5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の樹脂組成物からなる接着剤。
【請求項8】
請求項1〜6に記載の樹脂組成物からなる層の両側に熱可塑性樹脂層を設けてなる積層体。
【請求項9】
両側の熱可塑性樹脂層が、いずれもポリオレフィン樹脂層である請求項8記載の積層体。
【請求項10】
一方のポリオレフィン樹脂層がポリプロピレン層であり、他方のポリオレフィン樹脂層がメタロセン触媒で重合して得たエチレン重合体層である請求項9記載の積層体。

【公開番号】特開2006−8748(P2006−8748A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183994(P2004−183994)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】