説明

樹脂製羽根車

【課題】 回転軸への装着性の悪化を招くことなく、羽根ボスへの応力の集中を緩和し、長寿命化できる樹脂製羽根車を得る。
【解決手段】 羽根ボス5の一端側に、回転軸1に半径方向に延出させた固定ピン2に嵌まる係合溝6を有し、この回転軸1に羽根ボス5の軸貫通孔4を挿通させて固定ピン2に係合溝6を係合させ、羽根ボス5の他端側に突き出す回転軸1の軸端のネジ切り部分3にスピンナーをネジ嵌めして回転軸1に装着される樹脂製羽根車について、その係合溝6に高強度の補強部材8を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扇風機や換気扇等の送風装置に使用される樹脂製羽根車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送風装置の羽根車の回転軸への固定は、回転軸の軸端にDカットしたネジ切り部分を設け、羽根車のボス部にはDカット部に嵌まる軸貫通孔を設け、ナットで締め固定する仕方の他に回転軸への装着の簡易性を図ったものがある。これは、主として樹脂製羽根車に採用されている。即ち、羽根ボスの一端側に、回転軸に半径方向に延出させた固定ピンに嵌まる係合溝が形成されている。この回転軸に羽根ボスの軸貫通孔(丸孔)を挿通させて固定ピンに係合溝を係合させ、羽根ボスの他端側に突き出す回転軸の軸端のネジ切り部分にスピンナーをネジ嵌めして締め付けている(特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−285997号公報
【特許文献2】実開昭55−149597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転軸の固定ピンとスピンナーによって回転軸に締め固定する樹脂製羽根車は、羽根ボスの軸貫通孔が丸孔で、回転軸に挿通し易く、回転軸への装着が簡単である。しかしながら、スピンナーを締め付けることによる軸力によって発生する羽根ボスの固定ピンとの接触部分に応力が集中する。この応力集中によって、長期間使用すると当該部にクラックが発生し、破損してしまうことがある。樹脂製羽根車に金属製ボスを組合わせ、強度を高くしたものもあるが、製造コストが高くなるばかりでなく、電動機の振動に樹脂製羽根車が共振し易く、異音が発生するなどの問題がある。
【0005】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、回転軸への装着性の悪化を招くことなく、羽根ボスへの応力の集中を緩和し、長寿命化できる樹脂製羽根車を得ることであり、電動機の振動伝達を吸収できる樹脂製羽根車を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、羽根ボスの一端側に、回転軸に半径方向に延出させた固定ピンに嵌まる係合溝を有し、回転軸に羽根ボスの軸貫通孔を挿通させて固定ピンに係合溝を係合させ、羽根ボスの他端側に突き出す回転軸の軸端のネジ切り部分にスピンナーをネジ嵌めして回転軸に装着される樹脂製羽根車について、その係合溝に高強度の補強部材を設ける手段を採用する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、固定ピンと羽根ボスは高強度の補強部材で接触するため、羽根ボス自体への応力の集中を緩和でき、樹脂製羽根車を長寿命化できる。そして、回転軸への装着性の悪化を招くことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の樹脂製羽根車は、扇風機や換気扇等の送風装置に使用されるものである。この樹脂製羽根車が装着される電動機の回転軸の軸端側には、半径方向に延出した固定ピンが設けられ、雄ネジの切られたネジ切り部分が軸端に形成されている。樹脂製羽根車は、中心に回転軸を挿通する丸孔の軸貫通孔を持つ羽根ボスを有する。羽根ボスの電動機側端面には、回転軸の固定ピンが嵌まる係合溝が軸貫通孔上に形成されている。係合溝の両側の羽根ボス端面には、小突起が中心線方向に一体に形成されている。この羽根ボスの電動機側端面は補強部材が被せられている。補強部材は、絞り加工した金属製のキャップ状に構成され、係合溝に嵌合する絞りが中心の孔を跨いで形成されている。絞りの両側には、小突起が挿通される小孔が開けられている。補強部材は、羽根ボス端面に絞りを係合溝に適合させ小突起に小孔を挿通させて、小突起の先を溶着することにより抜止めされて固定されている。
【0009】
この樹脂製羽根車は、回転軸に羽根ボスの軸貫通孔を挿通させて固定ピンに補強部材の絞りを係合させ、羽根ボスの反電動機側に突き出す回転軸の軸端のネジ切り部分にスピンナーをネジ嵌めして回転軸に装着される。スピンナーのネジ締めによる固定ピンと羽根ボスとの接触部の応力集中は、補強部材の絞りで受けられ樹脂部分へは緩和される。
【0010】
実施の形態1.
図1〜図3によって示す本実施の形態は、扇風機や換気扇等の送風装置に使用される樹脂製羽根車に関するものである。図1は、樹脂製羽根車の固定状態の断面図、図2は、樹脂製羽根車の要部の拡大断面図、図3は、樹脂製羽根車の分解斜視図である。
【0011】
この樹脂製羽根車は、扇風機や換気扇等の送風装置に使用されるものである。この樹脂製羽根車が装着される電動機の回転軸1の軸端側には、図3に示すように半径方向に延出した固定ピン2が設けられ、雄ネジの切られたネジ切り部分3が軸端に形成されている。樹脂製羽根車は、中心に回転軸1を挿通する丸孔の軸貫通孔4を持つ羽根ボス5を有する。羽根ボス5の電動機側端面には、回転軸1の固定ピン2が嵌まる半円形断面の係合溝6が軸貫通孔4上に形成されている(図3参照)。係合溝6の両側の羽根ボス5端面には、小突起7が中心線方向に一体に形成されている。
【0012】
この羽根ボス5の電動機側端面は図1,2に示すように補強部材8が被せられている。補強部材8は、浅絞り加工した金属製のキャップ状に構成され、係合溝6に嵌合する絞り9が中心の孔10を跨いで形成されている。絞り9の両側には、小突起7が挿通される小孔11が開けられている。補強部材8は、羽根ボス5との当り面に緩衝ゴム等の緩衝部材12を介在させ、羽根ボス5端面に絞り9を係合溝6に適合させ小突起7に小孔11を挿通させて、小突起7の先を溶着13することにより抜止めされて固定されている。
【0013】
このとき、溶着13部と補強部材8との間にはクリアランス14が設けられ、補強部材8はルーズな固定状態に置かれている。これにより、溶着13部に過大な応力が発生しない。補強部材8を羽根ボス5に固定するのは、樹脂製羽根車の清掃等、脱着の際に補強部材8が散逸することを防ぐためであり、機能的には問題ないので、補強部材8は着脱できるようにしてもよい。緩衝部材12の介在により、電動機の振動に樹脂製羽根車が共振し難く、異音の発生が防止される。補強部材8は、キャップ形に形成することにより強度が増し、安定した補強機能を果たすことができるが、係合溝6に嵌めて接着固定する構成も採用できる。また、補強部材8を特殊強化プラスチックの成型物とすることもできる。
【0014】
この樹脂製羽根車は、回転軸1に羽根ボス5の軸貫通孔4を挿通させて固定ピン2に補強部材8の絞り9を係合させ、羽根ボス5の反電動機側に突き出す回転軸1の軸端のネジ切り部分3にスピンナー15をネジ嵌めして回転軸1に装着される。スピンナー15のネジ締めによる固定ピン2と羽根ボス5との接触部の応力集中は、補強部材8の絞り9で受けられ羽根ボス5の本体部分の樹脂部分へは緩和される。即ち、回転軸1への装着性の悪化を招くことなく、羽根ボス5への応力の集中を緩和し、長寿命化できる樹脂製羽根車が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】樹脂製羽根車の固定状態の断面図である。(実施の形態1)
【図2】樹脂製羽根車の要部の拡大断面図である。(実施の形態1)
【図3】樹脂製羽根車の分解斜視図である。(実施の形態1)
【符号の説明】
【0016】
1 回転軸、 2 固定ピン、 3 ネジ切り部分、 4 軸貫通孔、 5 羽根ボス、 6 係合溝、 7 小突起、 8 補強部材、 12 緩衝部材、 13 溶着、 14 クリアランス、 15 スピンナー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽根ボスの一端側に、回転軸に半径方向に延出させた固定ピンに嵌まる係合溝を有し、この回転軸に羽根ボスの軸貫通孔を挿通させて前記固定ピンに前記係合溝を係合させ、前記羽根ボスの他端側に突き出す前記回転軸の軸端のネジ切り部分にスピンナーをネジ嵌めして前記回転軸に装着される樹脂製羽根車であって、前記係合溝に高強度の補強部材を設けた樹脂製羽根車。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂製羽根車であって、補強部材を絞り加工した金属製のキャップ状に構成し、羽根ボス端に補強部材を嵌装着した樹脂製羽根車。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載の樹脂製羽根車であって、補強部材と羽根ボスとの当り面に緩衝部材を介在させた樹脂製羽根車。
【請求項4】
請求項2又は請求項3のいずれかに記載の樹脂製羽根車であって、補強部材をクリアランスを持って、羽根ボスに形成した突起の先の溶着により抜止めして固定した樹脂製羽根車。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−255337(P2007−255337A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82156(P2006−82156)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】