説明

樹脂複合材料とその製造方法、および樹脂複合材料成形品

【課題】サーマルリサイクルが可能で、かつ機械的強度に優れた樹脂複合材料を提供する。
【解決手段】母材樹脂31中に、強化材として表面処理されたミクロフィブリル化セルロース(MFC)1を含有する樹脂複合材料であって、表面処理されたMFC1が、親水性樹脂4でその表面が被覆されたものであることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂複合材料とその製造方法、および樹脂複合材料成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化プラスチックに含有される強化材としては、優れた強度を有するガラス繊維が用いられてきた。しかし、このガラス繊維を用いた繊維強化プラスチックを燃焼させて熱エネルギーを回収するサーマルリサイクルを行う場合には、ガラス繊維が不燃物であるために、燃焼炉を損傷したり、燃焼効率が低くなる等の問題点があった。また、焼却後の残渣が多くなるという問題点もあった。このため、実際には繊維強化プラスチックのサーマルリサイクルはほとんど行われず、主として埋め立てて廃棄されているのが現状である。
【0003】
このような問題に対処するために、強化材として植物繊維を用いた複合材料が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
しかしながら、上記のような植物繊維を強化繊維として用いても、十分な補強効果が発揮されていない。この点についてはいくつかの要因が考えられる。
【0005】
例えば、第1に、植物繊維そのものが強化材として必ずしも適した構造を有さないことである。引張性能を比較した場合、一般的な植物繊維の引張強さ、引張弾性率はガラス繊維等の高強度・高弾性率繊維のそれらの値よりはるかに小さい。これは植物繊維内に多くの構造状の欠陥が存在するためである。例えば、繊維の壁面には壁孔と呼ばれる空隙部が存在する。この空隙部は植物が生育していく過程で水分の水平方向の移動を担うものである。また、植物繊維はストロー状の構造となっており、繊維方向に沿って繊維内に大きな空隙が存在する。この空隙は植物が生育する過程で水分を垂直方向に運ぶためのものである。
【0006】
第2に、植物繊維の骨格構造を形成するエレメントである次式
【0007】
【化1】

【0008】
で表されるセルロースミクロフィブリル(以下、ミクロフィブリル)の配列方向のことが挙げられる。ミクロフィブリルは直鎖状の高分子であるセルロースが一方向に配向した結晶構造のエレメントであり、ミクロフィブリル単体の強度は既存の高強度・高弾性率繊維に匹敵する性能を示す。このミクロフィブリルが全て繊維方向に沿う形で配列していれば、植物繊維の引張性能は最大になるが、実際には約2割のミクロフィブリルが繊維方向と直交する方向に配列している。
【0009】
そこで、上記の植物繊維の構造状の欠陥を要因とする問題を解決するために、植物繊維の骨格部分、ミクロフィブリルそのものを分離・回収し、樹脂の強化材として利用した複合材料(例えば、特許文献3)が提案されている。
【0010】
分離・回収したミクロフィブリルはミクロフィブリル化セルロース(MFC)と称される。植物繊維中のセルロース以外の成分(特にリグニン)を薬品で取り除いた後に、水分の共存下で植物繊維内のフィブリル間に、機械的処理によりせん断力を作用させ、MFCを取り出す手法が一般的である。MFCは水分と共存する状態で生成される。
【0011】
MFCはその原料となる植物繊維と比較して、2桁ほど大きいアスペクト比を有する。一般的に、アスペクト比の大きな繊維を強化材とした方が、複合材の強度性能は向上する。アスペクト比の観点からもMFCは通常の植物繊維よりも優れた補強効果を示すことが期待される。
【特許文献1】特開平5−92527号公報
【特許文献2】特開2002−69208号公報
【特許文献3】特開2003−201695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
MFCは複合材料の強化材として高いポテンシャルを有しているが、その利用は一筋縄にはいかない。樹脂中にMFCを均一に分散した状態で、MFCと樹脂とを複合化することが難しいためである。
【0013】
これはMFCがセルロースと呼ばれる多糖より構成されることに起因する。セルロースは多数のヒドロキシル基を有する。ヒドロキシル基は極性の高い官能基であり、この官能基を多数有するセルロースより構成されるMFCは非常に極性の高い、親水性に富む成分となる。
【0014】
MFCは製造プロセス上、多量の水分と共存する形で生成される。MFCと共存する水分を取り除くと、MFC同士が凝集し、互いに強固な水素結合を形成する。いったん、水素結合により結びついたMFC凝集塊を再度、個々の繊維に分離することは極めて難しい。
【0015】
MFCを樹脂と複合化する際には、複合化の過程でMFCと共存する水分を除去することが必要となる。MFCと水分が共存したままでは水分がMFCの非晶領域に浸透し、非晶領域を構成するセルロース分子鎖の結合力が緩まるため、MFC自身の強度が低減し、樹脂に対する補強効果が弱まることになる。また、複合材料中の水分がその複合材料の使用過程で抜けると、複合材料が収縮したり、あるいは乾燥に伴う内部応力が発生したりする等の問題が生じる。
【0016】
したがって、MFCを樹脂と複合化する際には、MFCを凝集させずに樹脂中に分散した状態を保ちながら、両者を複合化することがポイントとなる。
【0017】
しかし、MFCの凝集発生を防止することは困難である。樹脂の大部分はMFCほどの大きな極性を有しないため、MFCと樹脂を単純に混合して水分を除去した場合には、MFC同士が凝集してしまう。例えば、図4(a)はMFC1と樹脂3とを混合した直後の状態を模式的に示しており、MFC1には符号2で表される水分が共存している。この状態から水分2を除去すると、図4(b)に示すように、樹脂3中でMFC1同士が凝縮する。MFC1が樹脂3中に凝集した状態で存在すると、MFC1が有する高いアスペクト比を生かすことができず、高い補強効果を期待することができない。
【0018】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、サーマルリサイクルが可能で、かつ機械的強度に優れた樹脂複合材料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0020】
第1に、本発明の樹脂複合材料は、母材樹脂中に、強化材として表面処理されたミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含有する樹脂複合材料であって、表面処理されたMFCが、親水性樹脂でその表面が被覆されたものである。
【0021】
第2に、上記第1の発明における親水性樹脂が、ポリビニルアルコールである。
【0022】
第3に、本発明の樹脂複合材料の製造方法は、MFCと親水性樹脂とを混合して脱水処理した後、母材樹脂を添加して混合する。
【0023】
第4に、上記第3の発明の樹脂複合材料の製造方法において、MFCと親水性樹脂をそれぞれ、前記親水性樹脂を溶解する第1溶剤に添加して脱水、乾燥処理した後、この乾燥物と母材樹脂をそれぞれ、前記母材樹脂を溶解する第2溶剤に添加して攪拌し乾燥する。
【0024】
第5に、本発明の樹脂複合材料の製造方法は、MFCと親水性樹脂と母材樹脂をそれぞれ、前記親水性樹脂および前記母材樹脂の両者を溶解する溶剤に添加して攪拌し、これを脱水、乾燥する。
【0025】
第6に、本発明の樹脂複合材料成形品は、上記第1または第2の発明の樹脂複合材料を成形してなる。
【発明の効果】
【0026】
上記第1の発明によれば、強化材として表面処理されたMFCが用いられているので、樹脂複合材料の廃棄時の燃焼処理によって熱エネルギーを回収するサーマルリサイクルが可能となる。また、母材樹脂中にMFCが効果的に分散され、MFCが有する高いアスペクト比を生かした補強効果の高い樹脂複合材料を得ることができる。このような樹脂複合材料は、機械的強度、特に耐衝撃性に優れたものとすることができる。
【0027】
上記第2の発明によれば、ポリビニルアルコールでその表面が被覆されたMFCを製造する場合に、溶剤として有機溶剤ではなく水を用いることができる。このため、環境にやさしく、しかも安価に生産性よく製造することができる。
【0028】
上記第3の発明によれば、サーマルリサイクルが可能で、かつ機械的強度に優れた樹脂複合材料を簡便に、しかも効率よく得ることができる。
【0029】
上記第4の発明によれば、MFCが母材樹脂中により効果的に分散するので、さらに機械的強度に優れた樹脂複合材料を効果的に得ることができる。
【0030】
上記第5の発明によれば、MFCが母材樹脂中に分散した樹脂複合材料を高い生産性で得ることができる。
【0031】
上記第6の発明によれば、上記の優れた効果を樹脂複合材料成形品として実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の樹脂複合材料は、母材樹脂中に、強化材として表面処理されたミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含有させたものであり、表面処理されたMFCとして、親水性樹脂でMFCの表面が被覆されたものを含有させるものである。
【0033】
本発明における樹脂複合材料の母材樹脂の種類としては、MFCを表面処理するためのエマルジョン樹脂を作製可能なものであればよく、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラニン樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等の熱可塑性樹脂あるいはデンプン類、アルギン酸等の多糖類等を用いることができる。なかでも、環境面を考慮すると、ポリ乳酸、デンプン類等の植物由来樹脂の使用が好ましい。
【0034】
本発明は、表面処理されたMFCが用いられる。MFCは、上述したように従来より知られているものを用いることができ、その原料の種類としては、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ等の植物由来のものやホヤ等の動物由来のものが挙げられる。環境面、コスト、入手のし易さ等の観点から植物由来のものを用いることが好ましい。このMFCは一般的にはその直径が10〜800nm程度であり、アスペクト比は、原料の解繊プロセスでの繊維切断度合いに大きく依存するが、例えば50〜500000の範囲、特には50〜5000の範囲のものを考慮することができる。なお、MFCは上述したように製造プロセス上、多量の水分と共存する形で生成されている。
【0035】
MFCは、例えば樹脂複合材料中に重量比で1〜99%の割合で含有され、必要とする樹脂複合材料の強度に応じて、その含有率が適宜に設定される。混練機による樹脂複合材料の混練時において、スクリュー、ローター等への負荷を考慮すると一般的には1〜70%の割合で含有されることが考慮されるが、好ましくは10〜20%の割合である。
【0036】
表面処理されたMFCは、親水性樹脂でMFCの表面の一部または全部が被覆されているものである。MFCは極性の高い親水性の繊維である。このため、MFCの表面と親水性樹脂との間は強固な結合が形成される。本発明における親水性樹脂として、例えば、ポリビニルアルコールあるいは澱粉、キトサン、アルギン酸等の天然物由来の親水性樹脂を例示することができる。なかでもポリビニルアルコールが好ましい。表面処理されたMFCを製造する際に溶剤として有機溶剤ではなく水を用いることができるからである。しかも、安価に入手でき、取扱い性も良好である。このため、環境にやさしく、しかも安価に生産性よく製造することができる。また、ポリビニルアルコールは生分解性を有するため、母材樹脂として生分解性樹脂を使用すれば、樹脂複合材料自体に生分解性を付与できる。
【0037】
MFCの表面処理は、後述するが、例えば、親水性樹脂とMFCとを混合、攪拌することでMFCの表面を被覆することができる。このときの被覆された親水性樹脂はMFC(全乾)に対して重量比で20〜70%の割合にあることが考慮される。20%未満ではMFC間の凝集を十分に抑制することができない場合があるので好ましくない。70%を超えると親水性樹脂と母材樹脂との結合強度(界面強度)の影響により、得られる樹脂複合材料の強度が低下する場合があるので好ましくない。
【0038】
このような表面処理されたMFCは、それを用いて樹脂複合材料を製造する際、MFCに共存する水分を除去しても、その表面が親水性樹脂で被覆されているためにMFC同士で凝集せずに母材樹脂中に効果的に分散する。一方で、親水性樹脂の一部が母材樹脂中に分散する。そして、このような樹脂複合材料においては、MFCの表面を被覆している親水性樹脂と母材樹脂との結合強度の影響よりも、母材樹脂中に分散しているMFCによる補強効果の方が大きいため、樹脂複合材料を成形して得られる成形品は、補強効果が高く、機械的強度に優れたものとすることができる。
【0039】
次に、本発明の樹脂複合材料の製造方法について説明する。
【0040】
本発明は、まず、MFCと親水性樹脂とを混合して脱水処理する。この混合により、MFCの表面に親水性樹脂を被覆させる。脱水処理は、例えば、加熱、乾燥させることにより、MFC同士を凝集させることなくMFCに共存する水分を除去することができる。脱水処理後は、樹脂複合材料を構成する母材樹脂をさらに添加し、これらを混合して樹脂複合材料を得る。混合は、樹脂複合材料の混練機として一般的に用いられているものを用いることができ、例えば、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、二軸混練押出機等の各種の混練機を用いることができる。なかでも、MFC表面の親水性樹脂の被覆、脱水処理およびその後の母材樹脂との混練を効率よく行うことができることから、二軸混練押出機を用いることが好ましい。二軸混練押出機におけるスクリューの回転方向は異方向、同方向回転のいずれでもよく、また、スクリューの噛み合いも、完全噛み合い型、不完全噛み合い型、非噛み合い型等の種類があるがいずれの型でもよく特に制限されるものではない。スクリューの回転速度は、例えば50〜400rpmの範囲とすることができ、混練温度は一般的には120〜200℃の範囲が考慮される。
【0041】
図1(a)はセグメントNo.1〜No.8からなる二軸混練押出機を模式的に表した側面図であり、図1(b)は得られる樹脂複合材料の樹脂材料中のMFCの混合状態を模式的に示した図である。二軸混練押出機を用いたときの樹脂複合材料の製造方法を図1に基づいて説明する。
【0042】
二軸混練押出機のセグメントNo.1の位置でMFCと親水性樹脂を投入し、スクリューの回転により両者を混練する。この混練によりMFCの表面が親水性樹脂で被覆され、セグメントNo.6までの混練過程でMFCに共存する水分が蒸発する。そして、セグメントNo.6の位置で母材樹脂を投入して混練することにより、親水性樹脂4でその表面が被覆されたMFC1と母材樹脂31とが複合化した樹脂複合材料を得る(図1(b))。得られた樹脂複合材料を射出成形、押出成形、圧縮成形等で成形することにより、所定形状の樹脂複合材料成形品を製造することができる。
【0043】
図2は、別の実施形態の製造工程を模式的に表した図である。この実施形態では、まず、親水性樹脂4を溶解する第1溶剤を入れたビーカーにMFC1と親水性樹脂4をそれぞれ添加して攪拌する。次いでこれを脱水、乾燥することにより、MFCと共存する水分および第1溶剤が除去され、親水性樹脂4でその表面が被覆されたMFC1を得る。さらに、この親水性樹脂4でその表面が被覆されたMFC1および母材樹脂31を、前記母材樹脂31を溶解する第2溶剤を入れたビーカーにそれぞれ添加して攪拌した後、これを乾燥することにより第2溶剤が除去され、母材樹脂31中に親水性樹脂4でその表面が被覆されたMFC1を含有する樹脂複合材料を得る。この実施形態では、MFCと共存する水分の除去、および親水性樹脂によるMFCの表面の被覆が確実に行われる。このため、MFC同士が凝集することなく、母材樹脂中にさらに効果的に分散し、より一層機械的強度を向上させる。この方法において、第1溶剤中のMFC濃度を低く設定することにより、MFCの分散を促進して、MFCと親水性樹脂との均一な混合が可能となる。結果として、MFCの表面が親水性樹脂で均一に被覆され、母材樹脂中に効果的に分散することになる。
【0044】
親水性樹脂を溶解する第1溶剤および母材樹脂を溶解する第2溶剤の種類は、それぞれ親水性樹脂および母材樹脂の種類に応じて適宜に選択される。例えば、後述する実施例のように親水性樹脂としてポリビニルアルコールを用いる場合には第1溶剤として水を用いることができるほかクロロホルムを用いることができる。親水性樹脂としてキトサンを用いる場合には第1溶剤として酢酸溶液を、アルギン酸を用いる場合にはナトリウム、カリウム等の1価陽イオンと塩を形成させた水溶液を用いることができる。母材樹脂としてポリ乳酸を用いた場合にはクロロホルムを用いることができる。あるいはクロロホルムの代わりにジクロロメタン、アセトン、ベンゼン、酢酸エチル等の有機溶剤であってもよい。
【0045】
図3は、さらに別の実施形態の製造工程を模式的に表した図である。この実施形態では、親水性樹脂4および母材樹脂31を溶解する溶剤を入れたビーカーにMFC1と親水性樹脂4と母材樹脂31をそれぞれ添加して攪拌する。次いでこれを脱水、乾燥することにより、MFC1と共存する水分および溶剤が除去され、母材樹脂31中に親水性樹脂4でその表面が被覆されたMFC1を含有する樹脂複合材料を得る。この方法においても、溶剤中のMFC濃度を低く設定することにより、MFCの分散を促進して、MFCと親水性樹脂との均一な混合が可能となる。結果として、MFCの表面が親水性樹脂で均一に被覆され、母材樹脂中に効果的に分散することになる。この実施形態では、一度の攪拌プロセスで樹脂複合材料を得ることができるので生産性が高い。
【0046】
親水性樹脂および母材樹脂を溶解する溶剤の種類としては、親水性樹脂および母材樹脂の種類に応じて適宜に選択される。例えば、後述する実施例のように親水性樹脂としてポリビニルアルコール、母材樹脂としてポリ乳酸を用いた場合には溶剤としてクロロホルム、ジクロロメタン等を用いることができる。
【0047】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例】
【0048】
<実施例1>
MFC(ダイセル化学工業(株)製、セリッシュ KY−100G、固形分:10wt%)400gと親水性樹脂としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、ゴーセノール GL−03)200gを図1に示すセグメントNo.1の位置で投入した。MFCと共存する水分をセグメントNo.3,4で取り除き(水蒸気として)、セグメントNo.6の位置で母材樹脂として植物由来樹脂であるポリ乳酸ペレット(三井化学(株)製、LACEA H−100)を1400g投入して混練した。
【0049】
混練条件は混練温度180℃、送り速度3.2kg/hr、スクリュー回転速度80rpmとした。
【0050】
混練処理を終えたコンパウンドをペレタイザーにて裁断し、長さ5mmのペレットを調製した。得られたペレットを105℃のオーブン(エスペック(株)製、PV−220)内にて恒量に達するまで乾燥した。
【0051】
上記で得られたペレットをステンレス枠内に配置し、圧縮成形を行った。圧縮成形機(ASFV−25、(株)神藤金属工業所)を使用し、真空下で成形した。型枠内を充てんするために必要なサンプル量の1.1倍のコンパウンドを圧縮成形した。曲げ性能、耐衝撃性評価用に寸法の異なる2種類の成形物を作成し、それぞれの成形物から所定寸法の試験体を所定本数切り出した。
成形条件、成形物の寸法、試験体の寸法と本数および評価の準拠規格を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
<実施例2>
3L容ビーカーに水2000gとともにMFC(ダイセル化学工業(株)製、セリッシュ KY−100G、固形分:10wt%)20g(全乾量)と親水性樹脂としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、ゴーセノール GL−03)10gを投入し、攪拌機(T.K. ホモディスパー、特殊機化工業(株)製、f−Model)により3時間攪拌処理した。回転数は1000rpmとした。水温は始めの10分間は常温とし、この間にポリビニルアルコールを徐々に投入し水中に分散させた。その後、80℃に昇温した状態で攪拌処理を実施した。
【0054】
混合溶液をバット内に流し込み、105℃のオーブン(エスペック(株)製、PV−220)で恒量に達するまで乾燥した。結果としてフィルム状のMFC/ポリビニルアルコール混合物を得た。得られた混合物を10mm角程度の寸法に裁断し、次の工程に供した。
【0055】
続いて、2L容ビーカーにクロロホルム1000gを入れ、上記で得られた混合物、および、母材樹脂となる植物由来樹脂であるポリ乳酸ペレット(三井化学(株)製、LACEA H−100)を70g投入した。攪拌機(T.K. ホモディスパー、特殊機化工業(株)製、f−Model)により3時間攪拌処理した。回転数は1000rpmとし、液温は終始常温とした。
【0056】
混合溶液をバット内に流し込み、65℃にて減圧乾燥し、溶剤として使用したクロロホルムを除去した。
【0057】
得られた混合物を粉砕機(マグナムブレンダー、MB−911)により粉砕し、5mm角以上のコンパウンドがない状態にした。
【0058】
得られたペレットで実施例1と同様に曲げ性能、耐衝撃性評価用の試験体を作成した。
<実施例3>
2L容ビーカーにクロロホルム1000gとともにMFC(ダイセル化学工業(株)製、セリッシュ KY−100G、固形分:10wt%)20g(全乾量)と親水性樹脂としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、ゴーセノール GL−03)10g、および、母材樹脂となる植物由来樹脂であるポリ乳酸ペレット(三井化学(株)製、LACEA H−100)70gを投入し、攪拌機(T.K. ホモディスパー、特殊機化工業(株)製、f−Model)により3時間攪拌処理した。回転数は1000rpmとした。液温は攪拌処理中、終始常温とした。
【0059】
混合溶液をバット内に流し込み、65℃にて減圧乾燥し、溶剤として使用したクロロホルムおよび水分の一部を除去した後、105℃のオーブン(エスペック(株)製、PV−220)で送風乾燥し、残存する水分を完全に除去した。
【0060】
得られた混合物を粉砕機(マグナムブレンダー、MB−911)により粉砕し、5mm角以上のコンパウンドがない状態にした。
【0061】
得られたペレットで実施例1と同様に曲げ性能、耐衝撃性評価用の試験体を作成した。
<比較例1>
ポリ乳酸ペレット(三井化学(株)製、LACEA H−100)のみで実施例1と同様に曲げ性能、耐衝撃性評価用の試験体を作成した。
<比較例2>
ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、ゴーセノール GL−03)のみで実施例1と同様に曲げ性能、耐衝撃性評価用の試験体を作成した。
<比較例3>
MFC(ダイセル化学工業(株)製、セリッシュ KY−100G、固形分:10wt%)400gと母材樹脂として植物由来樹脂であるポリ乳酸ペレット(三井化学(株)製、LACEA H−100)1600gを図1に示すセグメントNo.1の位置で投入して混練した。MFCと共存する水分を水蒸気としてセグメントNo.3,4で除去した。
【0062】
混練条件は混練温度180℃、送り速度3.2kg/hr、スクリュー回転速度80rpmとした。
【0063】
混練処理を終えたコンパウンドをペレタイザーにて裁断し、長さ5mmのペレットを調製した。得られたペレットを105℃のオーブン(エスペック(株)製、PV−220)内にて恒量に達するまで乾燥した。
【0064】
得られたペレットで実施例1と同様に曲げ性能、耐衝撃性評価用の試験体を作成した。
【0065】
実施例1〜3および比較例1〜3で作成した試験体について、曲げ性能、耐衝撃性を評価した。試験体におけるMFC、ポリ乳酸エマルジョンおよびポリ乳酸ペレットの含有率とともに、曲げ性能、耐衝撃性の評価結果を表2に示す。なお、熱変形温度は負荷応力0.45MPaにて評価した。
【0066】
【表2】

【0067】
表2の結果より、MFCと親水性樹脂を混合して得た試験体(実施例1〜3)の曲げ弾性率、曲げ強さ、アイゾット衝撃値がポリ乳酸のみの試験体(比較例1)、ポリビニルアルコールのみの試験体(比較例2)、親水性樹脂を混合していない試験体(比較例3)に比べて高いことが確認できた。特に溶剤中で親水性樹脂とMFCとを混合するプロセスを経ることで(実施例2)、曲げ弾性率、曲げ強さ、アイゾット衝撃値がより向上することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】(a)は二軸混練押出機を模式的に表した側面図であり、樹脂複合材料の製造方法を説明するための図である。(b)は樹脂材料中のMFCの混合状態を模式的に示した図である。
【図2】樹脂複合材料の製造方法について、別の実施形態の製造工程を模式的に表した図である。
【図3】樹脂複合材料の製造方法について、さらに別の実施形態の製造工程を模式的に表した図である。
【図4】(a)はMFCと樹脂とを混合した直後の状態を模式的に示しており、(b)は水分を除去した後の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 ミクロフィブリル化セルロース(MFC)
3 樹脂
31 母材樹脂
4 親水性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材樹脂中に、強化材として表面処理されたミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含有する樹脂複合材料であって、表面処理されたMFCが、親水性樹脂でその表面が被覆されたものであることを特徴とする樹脂複合材料。
【請求項2】
親水性樹脂が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂複合材料。
【請求項3】
MFCと親水性樹脂とを混合して脱水処理した後、母材樹脂を添加して混合することを特徴とする樹脂複合材料の製造方法。
【請求項4】
MFCと親水性樹脂をそれぞれ、前記親水性樹脂を溶解する第1溶剤に添加して脱水、乾燥処理した後、この乾燥物と母材樹脂をそれぞれ、前記母材樹脂を溶解する第2溶剤に添加して攪拌し乾燥することを特徴とする請求項3に記載の樹脂複合材料の製造方法。
【請求項5】
MFCと親水性樹脂と母材樹脂をそれぞれ、前記親水性樹脂および前記母材樹脂の両者を溶解する溶剤に添加して攪拌し、これを脱水、乾燥することを特徴とする樹脂複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の樹脂複合材料を成形してなることを特徴とする樹脂複合材料成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−184492(P2008−184492A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17152(P2007−17152)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】