説明

樹脂複合材料の製造方法及び樹脂複合材料

【課題】グラフェン構造を有する炭素材料を合成樹脂中に均一に分散させることができる樹脂複合材料の安価な製造方法と、炭素材料により充分な補強効果を得ることができる樹脂複合材料とを提供する。
【解決手段】合成樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料とを、亜臨界流体または超臨界流体中において混練することにより、炭素材料を合成樹脂中に分散させる樹脂複合材料の製造方法、並びに上記製造方法により得られた樹脂複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料が合成樹脂中に分散されてなる樹脂複合材料の製造方法及び樹脂複合材料に関し、特に、炭素材料がグラフェン構造を有する炭素材料である、樹脂複合材料の製造方法及び樹脂複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
高い弾性率や高い導電性を有することから、グラフェン構造を有する炭素材料が注目されてきている。このようなグラフェン構造を有する炭素材料を、合成樹脂に複合することにより、合成樹脂からなる製品を補強したり、導電性を付与したりすることができる。特に、グラフェンシート、カーボンナノチューブまたは薄膜化グラファイトなどは、ナノサイズの寸法を有し、かつ比表面積が大きい。そのため、樹脂に複合させた場合の補強効果が高いと考えられている。
【0003】
一般に、複合材料としての効果を高めるには、上記炭素材料をマトリクス樹脂に均一に分散させることが好ましい。そこで、下記の特許文献1には、熱可塑性樹脂と、グラフェンシートで形成された粒子と、それぞれの良分散媒もしくは良溶媒を用いて溶解または分散させる工程と、得られた熱可塑性樹脂溶液及び粒子分散液を混合する工程と、前記良溶媒と相溶性を有し、かつ熱可塑性樹脂及び粒子に対して貧分散媒もしくは貧溶媒となる溶剤を添加して複合樹脂組成物を析出させる工程とを備える複合樹脂組成物の製造方法が開示されている。
【0004】
また、グラフェン構造を有する炭素材料を合成樹脂中に分散させる目的で、上記炭素材料の表面処理も行われている。下記の特許文献2には、炭素材料に酸化処理を施す製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−264059号公報
【特許文献2】特開2009−242209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、均一な炭素材料の分散状態を得るためのプロセスが複雑であった。また、良溶媒と、貧溶媒との適切な組み合わせが限られるという問題もあった。さらに、それら溶媒のコストが高くつくこと及び溶媒の除去が困難であることなどの問題もあった。
【0007】
特許文献2に記載の炭素材料では、酸化処理によりそのグラフェン構造が崩れるため、導電性が低下することがあった。
【0008】
本発明の目的は、グラフェン構造を有する炭素材料を合成樹脂中に均一に分散させることができ、補強効果を十分に発揮させ得る、樹脂複合材料の安価な製造方法と、それによって得られる該樹脂複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る樹脂複合材料の製造方法は、グラフェン構造を有する炭素材料と、合成樹脂とを、亜臨界流体または超臨界流体中において混練することにより、炭素材料を合成樹脂中に分散させる、樹脂複合材料の製造方法である。
【0010】
本発明に係る樹脂複合材料のある特定の局面では、グラフェン構造を有する炭素材料が、グラフェン、カーボンナノチューブ、薄片化黒鉛及びこれらの集合体からなる群から選択された少なくとも1種の炭素材料である。この場合には、グラフェン構造を有する炭素材料はナノサイズを有し、かつ比表面積が大きいため、高い補強効果を備える樹脂複合材料を容易に製造することができる。
【0011】
本発明に係る樹脂複合材料の製造方法の他の特定の局面では、亜臨界流体または超臨界流体が、常温常圧で気体状態である。この場合には、亜臨界流体または超臨界流体は、樹脂複合材料の製造後に圧力を開放することにより、速やかに気化拡散する。そのため、樹脂複合材料の回収が容易となる。
【0012】
本発明に係る樹脂複合材料の製造方法の別の特定の局面では、亜臨界流体または超臨界流体が、常温常圧で液体状態である。
【0013】
本発明に係る樹脂複合材料の製造方法のさらに他の特定の局面では、亜臨界流体または超臨界流体が、2種類以上の溶媒の混合物である。この場合には、溶媒の臨界温度や臨界圧力が変化する。そのため、好適な溶媒効果を得るための処理条件を調整することができる。
【0014】
本発明に係る樹脂複合材料の製造方法のさらに別の特定の局面では、合成樹脂としては、熱可塑性樹脂が用いられる。この場合には、樹脂複合材料の成形が容易であるため、様々な形状の樹脂複合材料製品を容易に提供することができる。より好ましくは、熱可塑性樹脂としてポリオレフィンが用いられる。この場合には、汎用されているポリオレフィンを用いているので、樹脂複合材料の製造コストを低減することができる。
【0015】
本発明に係る樹脂複合材料は、本発明の樹脂複合材料の製造方法により製造されたものである。樹脂複合材料には、グラフェン構造を有する炭素材料が均一に分散されている。従って、樹脂複合材料は、高い力学強度を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る樹脂複合材料の製造方法によれば、合成樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料とを、亜臨界流体または超臨界流体中で混練する。そのため、グラフェン構造を有する炭素材料を合成樹脂中に分散させる過程で、亜臨界流体または超臨界流体により、合成樹脂を可塑化し混練効率を高めることができる。また、上記流体が良溶媒として作用するため、合成樹脂及び炭素材料の内の一方もしくは両方が上記流体中で溶解する。これにより、炭素材料を合成樹脂中において非常に均一に分散させることができる。従って、充分な力学強度を発現可能な樹脂複合材料を提供することができる。
【0017】
また、本発明に係る樹脂複合材料の製造方法によれば、上記のように炭素材料が合成樹脂に非常に均一に分散された本発明の樹脂複合材料を得ることができる。さらに、合成樹脂と炭素材料を混練した後、混練により得られた混合物の温度や圧力を低下させることにより、上記流体を貧溶媒化することが可能である。そのため、樹脂複合材料の回収が容易となる。
【0018】
加えて、本発明に係る樹脂複合材料の製造方法では、用いる亜臨界流体または超臨界流体の温度、圧力、密度等を調整し、その溶媒効果を制御することができる。これにより、グラフェン構造を有する炭素材料に対する表面処理の有無あるいはその程度などにかかわらず、任意の炭素材料や任意の合成樹脂に対して好適な溶媒として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のポリマーアロイを製造する製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明のポリマーアロイを製造する製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0021】
(亜臨界流体または超臨界流体)
本発明の樹脂複合材料の製造方法では、まずグラフェン構造をもつ炭素材料と合成樹脂とを、亜臨界流体または超臨界流体溶媒中において混練する。本発明において、亜臨界流体とは、超臨界状態には達していないが、温度及び圧力の少なくとも一方が、流体の臨界温度または臨界圧力以上、あるいは流体の臨界温度または臨界圧力に充分に近く、超臨界状態に近い状態にある流体を意味する。超臨界流体とは、超臨界状態にある流体を意味し、具体的には、温度が流体の臨界温度以上かつ圧力が流体の臨界圧力以上の状態にあり、液体の性質と気体の性質を併せ持つ流体を意味する。
【0022】
上記亜臨界流体または超臨界流体溶媒としては、常温常圧で液体状態または気体状態である溶媒が好適に用いられる。上記常温常圧で液体状態の溶媒としては、例えば、水、有機溶媒等が挙げられる。
【0023】
上記有機溶媒としては、炭化水素系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、エステル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0024】
上記炭化水素系有機溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。上記エーテル系有機溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。上記エステル系有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。上記ケトン系有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N−メチルピロリドン等が挙げられる。上記アルコール系有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0025】
上記常温常圧で気体状態の溶媒としては、例えば、N、CO、NO、クロロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、低分子量アルカン、エチレン等の低分子量アルケン、アミン系化合物、アンモニア等が挙げられる。上記クロロフルオロカーボンとしては、例えば、クロロジフルオロメタン、ジクロロトリフルオロエタン等が挙げられる。
【0026】
上記低分子量アルカンとしては、例えば、n−ブタン、プロパン、エタン等が挙げられる。上記アミン系化合物としては、ジメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、アニリン、ピリジン等が挙げられる。
【0027】
なかでも人体への影響が小さく、かつ、比較的温和な臨界温度、臨界圧力を有している溶媒が製造上の理由から好適である。このような溶媒としては、例えば、N、CO、水、アルコール系有機溶剤、低分子量アルカン等が挙げられる。
【0028】
、CO等の常温常圧で気体状の溶媒は、樹脂複合材料の製造後に圧力を開放することにより、速やかに気化拡散する。そのため、樹脂複合材料の回収が容易となり、製造工程上優れている。一方、水、アルコール系有機溶剤のような高極性の溶媒は、亜臨界流体または超臨界流体とした時に低極性化する。そのため、その温度、圧力及び/または密度を適切に調整することにより、溶媒効果を制御することができる。従って、グラフェン構造を有する炭素材料に対する表面処理の有無あるいはその程度などにかかわらず、上記溶媒は任意の炭素材料や任意の合成樹脂に対して好適な溶媒として用いることができる。
亜臨界状態または超臨界状態における溶媒の粘度は低く、樹脂粘度もより低くすることができる。よって、通常の混練では粘度が高く、混練しにくい樹脂であっても亜臨界状態または超臨界状態において低粘度となった溶媒による可塑化効果により混練効果が飛躍的に高まる。
【0029】
また、上記流体を用いたグラフェン構造を有する炭素材料を合成樹脂に均一に分散させる際においては、分散効率を高めるために、上記流体が樹脂を攪拌できる程度の体積を占めていることが好ましい。即ち、亜臨界流体または超臨界流体の体積は、上記炭素材料と合成樹脂混合物の体積の合計の1倍以上であることが好ましい。
【0030】
なお、上記の亜臨界流体または超臨界流体として用いる溶媒は単独で用いてもよく、2種類以上の溶媒を混合してもよい。2種類以上の溶媒を混合した場合、その混合溶媒の臨界温度や臨界圧力が変化するため、製造条件を穏やかにする効果が得られる。例えば、溶媒として水とCOを用いた場合は、水単独の臨界温度と比べて、製造温度を100℃以上低下させることが可能である。また、混合溶媒においては、適切な溶媒を選択することにより、一方の溶媒添加量がごく僅かな場合でも大きく溶解性を向上させることが可能である。そのため、本発明の樹脂複合材料の製造方法では、混合溶媒を用いることは非常に有効な手段である。
【0031】
(合成樹脂)
本発明の樹脂複合材料の製造方法では、上記合成樹脂としては、特に限定されるわけではないが、熱可性樹脂が好適に用いられる。熱可塑性樹脂を用いた樹脂複合材料では、加熱下により様々な成形方法を用いて様々な成形品を容易に得ることができる。このような熱可塑性樹脂としては、適用可能な樹脂としては例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリルスチレン共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフロオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、エチレンビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデン樹脂、塩素化ポリエチレン、ポリジシクロペンタジエン、メチルペンテン樹脂、ポリブチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ノルボルネン系樹脂、ポリビニルアルコール、ウレタン樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリエトキシエチルメタクリレート、ポリホルムアルデヒド、セルロースジアセテート、ポリビニルブチラール等が挙げられる。特に、好ましくは、安価であり、加熱下の成形が容易であるポリオレフィンが望ましい。
【0032】
なお、これら合成樹脂は単独で用いてもよく、あるいは複数種を組み合わせて用いてもよい。この場合、得られる樹脂複合材料は複数種の樹脂からなるポリマーアロイとなるが、上記の亜臨界流体または超臨界流体を用いた混合を行うことによってそのポリマーアロイ構造の制御も可能である。例えばポリプロピレン樹脂とポリビニルブチラール樹脂は相溶性が悪く、通常の加熱混練では混合できない。しかしながら溶媒にメタノールを用いて亜臨界状態または超臨界状態で処理を行うことにより、非常に微細な相分離構造をもつポリマーアロイを得ることが可能である。
【0033】
(グラフェン構造を有する炭素材料)
本発明においては、樹脂複合材料に補強効果を与えるため、あるいは場合によっては導電性を与えるために、グラフェン構造を有する炭素材料が用いられている。グラフェン構造を有する炭素材料としては、グラフェンシート、カーボンナノチューブ、グラファイト及びこれらの集合体からなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0034】
上記グラフェン構造を有する炭素材料としては、より好ましくは、複数のグラフェンシートの積層体、すなわち薄片化黒鉛が望ましい。薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛におけるグラフェンシート積層数は、元の黒鉛より少なければよいが、通常200〜数層程度である。このような薄片化黒鉛では、薄いグラフェンシートが積層されており、アスペクト比が比較的大きい形状を有する。従って、本発明の樹脂複合材料に均一に分散された場合、該薄片化黒鉛の積層面に交差する方向に加わる外力に対する補強効果を効果的に高めることができる。
【0035】
なお、アスペクト比とは、薄片化黒鉛の積層面方向における最大寸法の薄片化黒鉛の厚みに対する比をいうものとする。アスペクト比が低すぎると、上記積層面に交差する方向に加わった外力に対する補強効果が充分でないことがある。一方で、アスペクト比が高すぎても、効果が飽和してそれ以上の補強効果を望めないことがある。従って、アスペクト比の好ましい下限は50であり、好ましい上限は5000である。
【0036】
上記グラフェン構造を有する炭素材料の配合割合は特に限定されないが、上記合成樹脂100重量部に対し、1〜50重量部の範囲とすることが好ましい。1重量部未満では、配合による補強効果が不十分となることがある。50重量部を超えると、高い剛性が得られる半面、脆くて割れやすくなることがある。
【0037】
(他の成分)
本発明に係る樹脂複合材料においては、上記合成樹脂及び上記炭素材料の他に、本発明の目的を阻害しない範囲で、様々な添加剤を用いてもよい。このような添加剤としては、フェノール系、リン系、アミン系もしくはイオウ系等の酸化防止剤;金属害防止剤;ヘキサブロモビフェニルエーテルもしくはデカブロモジフェニルエーテル等のハロゲン化難燃剤;ポリリン酸アンモニウムもしくはトリメチルフォスフェート等の難燃剤;各種充填剤;帯電防止剤;安定剤;顔料等を挙げることができる。
【0038】
なお、本発明に係る樹脂複合材料においては、必要に応じて相溶化剤を添加してもかまわない。上記相溶化剤としては、上記炭素材料と合成樹脂の各成分にそれぞれ相溶することができるセグメントが存在するオリゴマーまたはポリマーやイオン液体等が挙げられる。相溶化剤がポリマーであるときは、ランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマーのいずれでもよく、具体的にはスチレンブロックを有するスチレンブロック共重合体やフェニル基を有するポリフェニレンサルファイド、カルドポリマー等が挙げられる。
【0039】
また、ポリマーの構造の一部に対して変性を加えることにより、相溶化剤としての機能を持たせることもできる。上記相溶化剤としては、例えば、マレイン酸変性ポリプロピレン、カルボン酸変性ポリプロピレン、アミノ基末端ニトリルブタジエンラバー、カルボン酸変性ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、スルホン化ポリスチレン、水酸基末端ポリオレフィン、水酸基末端ポリブタジエン、マレイン酸変性エチレンブチレンラバー、エチレン/アクリル酸共重合体等が挙げられる。また、グラフト型ポリマー相溶化剤として有効なポリマーとしては、側鎖にビニルポリマーがグラフトされているポリオレフィン、側鎖にビニルポリマーがグラフトされているポリカーボネート等がある。市販の相溶化剤としては、例えば、「モディパー」(日本油脂社製)、「アドマー」(三井化学社製)等が挙げられる。
【0040】
(製造方法)
本発明の樹脂複合材料の製造方法では、グラフェン構造をもつ上記炭素材料と、上記合成樹脂と、上記亜臨界流体または超臨界流体とを混練する。好ましくは、常温常圧で液体状態または気体状態である溶媒を、グラフェン構造をもつ上記炭素材料及び上記合成樹脂と常温常圧において混合した後に、加熱及び加圧して亜臨界流体または超臨界流体とし、この状態で混練する。
【0041】
上記亜臨界流体または超臨界流体の温度の好ましい下限は30℃、好ましい上限は700℃である。上記亜臨界流体または超臨界流体の温度が30℃未満であると、グラフェン構造を有する炭素材料及び合成樹脂に対する溶解、可塑化効果が不十分となることがある。700℃を超えると、樹脂の劣化や、昇温に必要なエネルギーが非常に大きく、かつエネルギーロスも大きくなるため、コストが高くなり経済的でないことがある。上記亜臨界流体または超臨界流体の温度のより好ましい上限は400℃である。
【0042】
上記亜臨界流体または超臨界流体の圧力の好ましい下限は0.5MPa、好ましい上限は80MPaである。上記亜臨界流体または超臨界流体の圧力が0.5MPa未満であると、グラフェン構造を有する炭素材料及び合成樹脂に対する溶解、可塑化効果が不十分となることがある。80MPaを超えると、圧力を大きくさせるために必要なエネルギーが非常に大きくなるため、コストが高くなり経済的でない。上記亜臨界流体または超臨界流体の圧力のより好ましい上限は50MPaである。
【0043】
グラフェン構造を有する炭素材料と、合成樹脂とを、亜臨界流体または超臨界流体で混練する処理時間は、短時間であることが好ましい。混合時間が短時間であれば、合成樹脂の分解を抑制することができる。好ましい混合時間は処理温度により異なるが、400℃以上では30分以内、より好ましくは20分以内、更に好ましくは10分以内であり、400℃以下では1時間以内、より好ましくは30分以内である。
【0044】
また、上記流体が亜臨界状態または超臨界状態に達するまでの時間も、短時間であることが好ましい。短時間であれば、樹脂の分解を抑制することができる。短時間で亜臨界状態または超臨界状態に達するための方法としては、例えば、上記炭素材料や合成樹脂をあらかじめ常圧環境下において予熱しておく方法等が挙げられる。
【0045】
本発明の樹脂複合材料の製造方法では、混合時の製造容器内の温度と圧力、溶媒密度を任意に設定することにより、グラフェン構造を有する炭素材料に対する表面処理の有無あるいはその程度などにかかわらず、任意の炭素材料や任意の合成樹脂に対して好適な溶媒として用いることができる。
【0046】
次に、好ましくは、上記のように混練により得られた混合物を常温常圧に戻す。このとき、亜臨界流体または超臨界流体を解圧して断熱膨張による吸熱により冷却してもよいし、解圧せずに急速にガラス転移温度以下にまで冷却してもよい。
【0047】
上記のように解圧せずに急速にガラス転移温度以下にまで冷却すると、優れた均一分散性の樹脂複合材料を得られる場合がある。これは比較的ガラス転移温度の高い合成樹脂を用いた場合、その分子運動が凍結されるために上記炭素材料の凝集が起こりにくくなるためである。ただし、この方法は連続生産性に劣るため、工業的に大量の樹脂複合材料を製造するには不向きである。
【0048】
上記解圧せずに急速にガラス転移温度以下にまで冷却する方法を採る場合には、製造温度からガラス転移温度までの降温速度を25℃/分以上とすることが好ましい。25℃/分未満であると、超時間高温に晒されることから、上記炭素材料の凝集が起こりやすくなる。上記降温速度は、より好ましくは50℃/分以上である。また、樹脂のガラス転移温度が室温以下である場合には、少なくとも室温まで急冷すれば、上記炭素材料の凝集をある程度抑制することができる。
【0049】
(製造装置)
本発明の樹脂複合材料の製造方法に用いる製造装置の一例を図1に示す。図1の製造装置では、金属塩溶融浴槽5内に金属塩3が貯留されている。金属塩3中には製造容器1が沈められている。また、金属塩3を加熱溶融するためのヒーター2が金属塩3に挿入されている。金属塩3の温度を検出するように、金属塩溶融浴槽5内に熱電対4が設けられている。金属塩3はヒーター2で加熱溶融され、その温度が熱電対4により検出される。従って、検出された温度に基づいてヒーター2による加熱程度を調整することにより、金属塩3の温度を制御することができる。
【0050】
なお、図1の製造装置では加熱手段として金属塩溶融浴を用いたが、その他にも、例えば、電気ヒーター、バーナー、燃焼ガス、蒸気、熱媒、サンドバス等の加熱手段を用いることができる。
【0051】
上記製造容器1としては、超臨界域または超臨界域近傍になる過酷な条件下で製造を行うため、この条件に耐えられる材質及び肉厚のものが使用される。上記製造容器1の材質としては、例えば、炭素鋼、Ni、Cr、V、Mo等の特殊鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、ハステロイ、チタンまたはこれらにガラス、セラミック、カーバイト等をライニング処理したもの、他の金属をクラッドしたもの等が挙げられる。また、製造容器1の形状としては特に限定されず、例えば、槽型、管型または特殊な形状のものでも使用できる。なかでも、耐熱、耐圧の問題を考えると槽型または管型が好ましい。バッチ式の場合は、オートクレーブや管型反応管が好ましい。
【0052】
上記製造容器1内には、金属やセラミック等からなる硬質ボールや所定形状の障害物を配置し、乱流を生じさせることが好ましい。製造容器1内に硬質ボールが備えられていると、振とうにより乱流が発生する。そのため、攪拌効率が高められ、分散性を高めることができる。更に、製造容器1が硬質ボール等により充填されていると、容器を振とうするだけで攪拌効率が高くなり、好ましい。
【0053】
また、上記硬質ボールの充填率は、10〜80体積%であることが好ましい。この範囲外であると、攪拌効率が悪くなることがある。
【0054】
なお、上記硬質ボールには、直径の異なる2種以上の硬質ボールを用いることが好ましい。この場合には、製造容器1の充填率を向上させることができ、攪拌効率を上げることができる。
【0055】
また、上記製造容器1内には、オリフィスを有する板が備えられていることが好ましい。製造容器1内にオリフィスを有する板が備えられていると、振とうにより乱流が発生する。そのため、攪拌効率がさらに高められ、分散効率をより一層高めることができる。
図1に示した製造装置を用いて本発明の樹脂複合材料を製造する方法としては、例えば、以下に示すような方法が挙げられる。グラフェン構造を有する炭素材料と、合成樹脂と、溶媒とを、製造容器1に投入する。製造容器1を充分にシールした後、上記金属塩溶融浴5に投入することにより、上記溶媒を加熱及び加圧して亜臨界流体または超臨界流体とする。この状態で所定の時間保持して、上記炭素材料と合成樹脂を混合する。その後、製造容器1を冷却浴に素早く投入し、急速に冷却する。充分に冷却した後、製造容器1内に生成した樹脂複合材料を取り出す。
【0056】
本発明の樹脂複合材料の製造方法に用いる製造装置の別の一例を図2に示した。図2の製造装置では、原料合成樹脂と炭素材料を、それぞれ原料ホッパー6とサイドフィーダー7から供給する。供給した樹脂を、スクリュー部9で加熱及び溶融混練する。一方では、亜臨界流体または超臨界流体となりうる流体を、定量ポンプにより供給口8から供給する。流体を同じくスクリュー部9で加熱して、亜臨界流体または超臨界流体とする。溶融状態の樹脂複合物と高温の流体とを混合し、必要に応じてベント10から脱圧した後、ロータリーゲートバルブ11を通して押出機外に吐出する。
【0057】
本発明の樹脂複合材料の製造方法によれば、グラフェン構造を有する炭素材料が均一に分散した樹脂複合材料を得ることが可能である。そのため、本発明の製造方法により得られる樹脂複合材料は、上記炭素材料のもつ補強効果や導電性等の特性を十分に発揮することができる。
【0058】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1〜3)
図1に例示した回分式の製造容器1(管型容器、SUS316製、Tube Bomb Reacter、内容積100cc)に、表1に示した配合組成に従って溶媒、ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J−721GR」、23℃における引張弾性率:1.2GPa)、または熱可塑性ノルボルネン系樹脂(ZEON社製「ゼオノア1600」、23℃における引張弾性率:2.4GPa)、薄片化黒鉛A(XG SCIENCE社製 商標名「XGnP−5」、使用前にSEMを用いて観察した層面の面方向における最大寸法:約5.0μm、層厚み:約60nm、炭素元素量>99.5atm%)を所定量投入し、製造容器内を窒素置換した。次いで、製造容器1をマイクロヒーター2(助川電気工業社製)を備えた金属塩溶融浴槽5(新日豊化学社製)中の金属塩3中に沈め、表1に示した温度、圧力及び処理時間により処理した。その後、製造容器1を氷水中に浸けて冷却し、得られた樹脂複合材料を取り出して40℃で真空乾燥した。乾燥後の樹脂複合物を190℃の熱プレスにより成型して、約0.5mm厚の樹脂複合シートを得た。
【0060】
【表1】

【0061】
(実施例4)
表1に従い、水にCOを混合しなかったこと以外は実施例3と同様にして、樹脂複合シートを得た。
【0062】
(実施例5)
黒鉛単結晶粉末0.25gを65重量%の 濃硫酸11.5mlに供給して、得られた混合物を10℃の水浴により冷却しながら撹拌した。次に、黒鉛単結晶粉末と濃硫酸との撹拌によって得られた混合物に、過マンガン酸カリウム1.5gを徐々に加えながら混合物を撹拌し、混合物を35℃で30分に亘って反応させた。
【0063】
次に、反応混合物に水23gを徐々に加えて、混合物を98℃で15分に亘って反応させた。しかる後、反応混合物に水70gと30重量%の過酸化水素水4.5gを加えて反応を停止させた。混合物を14000rpmの回転速度にて30分に亘って遠心分離した後、得られた酸化黒鉛を5重量%の希塩酸及び水により十分に洗浄して、しかる後に乾燥させた。得られた酸化黒鉛を0.2mg/mlの量にて水に分散させた後、超音波洗浄機を45kHz、100Wの条件下にて用いて、酸化黒鉛に超音波を60分に亘って照射することにより、酸化黒鉛をその層界面間において剥離断片化して、層面が酸化されてなる薄片化黒鉛を得た。得られた層面が酸化されてなる薄片化黒鉛にヒドラジンを添加して、3分間にわたって還元処理を行って、薄片化黒鉛Bを得た。得られた薄片化黒鉛BのBET比表面積は450m/gで、層面の面方向に沿った大きさの平均値が5μm、酸素元素量が36atm%、炭素元素量が64atm%であった。
【0064】
表1に示した配合組成に従い、炭素材料に上記の薄片化黒鉛Bを用いたこと以外は実施例1〜3と同様の処理を行い、約0.5mm厚の樹脂複合シートを得た。
【0065】
(実施例6)
表1に従い、溶媒の温度、圧力条件以外は実施例5と同様にして、樹脂複合シートを得た。
【0066】
(実施例7)
図2に例示した製造装置、同方向二軸押出機(スクリュー径=15mm、スクリュー有効長さ/スクリュー径=120)を用いて、ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J−721GR」、23℃における引張弾性率:1.2GPa)、薄片化黒鉛A(XG SCIENCE社製 商標名「XGnP−5」、使用前にSEMを用いて観察した層面の面方向における最大寸法:約5.0μm、層厚み:約60nm、炭素元素量>99.5atm%)を180〜240℃に加熱溶融して混練(スクリュー回転数=300rpm)し、ポンプを用いてCOを12MPaで注入した。投入量から導かれるCO/樹脂複合混合物の体積比は約6であった。この混練物を押出機先端に取り付けたT−ダイから、押出し冷却ロールにて厚み約4mm厚の発泡シート状に成形した。この発泡シートを190℃熱プレスで脱気・成型して、約0.5mm厚の樹脂複合シートを得た。
【0067】
(比較例1、2)
表1に示した配合組成に従って、ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J−721GR」、23℃における引張弾性率:1.2GPa)、または熱可塑性ノルボルネン系樹脂(ZEON社製「ゼオノア1600」、23℃における引張弾性率:2.4GPa)、薄片化黒鉛A(XG SCIENCE社製 商標名「XGnP−5」、使用前にSEMを用いて観察した層面の面方向における最大寸法:約5.0μm、層厚み:約60nm、炭素元素量>99.5atm%)をプラストミルに供給し、表1の温度で混練、プレス成形することによって、厚みが0.5mmの樹脂複合シートを得た。
【0068】
(比較例3)
実施例5においてCOを注入しなかったこと、及び押出機先端に取り付けたTダイからは約0.8mm厚のシートが得られたこと以外は、実施例6と同様にして、樹脂複合シートを得た。
【0069】
(引張弾性率)
得られた樹脂複合材料シートの23℃における引張弾性率をJIS K6767により測定し、その結果を表2に示した。
【0070】
【表2】

【0071】
表2に示すように、本発明に従う実施例1,2により製造された樹脂複合シートは、比較例1,2により製造された樹脂複合シートと比較して、引張弾性率が大きく改善されていることがわかる。これは、実施例1,2においては溶媒を用い、高圧下において処理を行ったことによる。これによって、実施例1,2の溶媒は亜臨界流体または超臨界流体となり、炭素材料及び合成樹脂に対する良溶媒として作用することによって、製造された樹脂複合シート中の炭素材料が非常に均一に分散されたと考えられる。
【0072】
同様に、本発明に従う実施例7により製造された樹脂複合シートは、COを用いずに比較例3により製造された樹脂複合シートと比較して、引張弾性率が大きく改善されていることがわかる。
【0073】
また、実施例3により水とCOの混合溶媒を用いて製造された樹脂複合シートは、実施例4により水のみを溶媒として用いて製造された樹脂複合シートと比較して、優れた引張弾性率を示していることがわかる。これは、実施例3における混合溶媒の臨界温度及び臨界圧力が、実施例4における水のみからなる溶媒と比べて低いことによる。それによって、実施例3の処理温度及び処理圧力が、混合溶媒が良溶媒として作用するための好適な処理条件となり、製造された樹脂複合シート中の炭素材料がより均一に分散されたと考えられる。
【0074】
また、実施例5,6により製造された樹脂複合シートの引張弾性率を比較することにより、処理温度及び処理圧力を適切に調整することにより、溶媒効果を制御することができると考えられる。
【符号の説明】
【0075】
1 製造容器
2 ヒーター
3 金属塩
4 熱電対
5 金属塩溶融浴槽
6 原料ホッパー
7 サイドフィーダー
8 供給口
9 スクリュー部
10 ベント
11 ロータリーゲートバルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン構造を有する炭素材料と、合成樹脂とを、亜臨界流体または超臨界流体溶媒中において混練することにより、前記炭素材料を前記合成樹脂中に分散させる、樹脂複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記グラフェン構造を有する炭素材料が、グラフェン、カーボンナノチューブ、薄片化黒鉛及びこれらの集合体からなる群から選択された少なくとも1種の炭素材料である、請求項1に記載の樹脂複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記亜臨界流体または超臨界流体が、常温常圧で気体状態である、請求項1または2のいずれか1項に記載の樹脂複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記亜臨界流体または超臨界流体が、常温常圧で液体状態である、請求項1または2のいずれか1項に記載の樹脂複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記亜臨界流体または超臨界流体が、2種類以上の溶媒の混合物である、請求項1または2のいずれか1項に記載の樹脂複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記合成樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィンである、請求項6に記載の樹脂複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂複合材料の製造方法により得られた樹脂複合材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−131962(P2012−131962A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287544(P2010−287544)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】