説明

機械式プレス機

【課題】 深絞り加工をおこなうことが可能であり、且つ大量生産することが可能な、しかも正確なスプリングバック量を金型の設計時に配慮しなくとも正確なプレス加工をおこなうことができるプレス機を提供する。
【解決手段】 サーボモータMによって駆動されるスライド3が昇降動作することによって、該スライド3側に取着された金型(上金型4U)と、ベッド側に取着された金型(下金型4L)との間で、被加工物Wを成形加工をする機械式プレス機Aが、制御装置14と操作手段(操作パネル14p)を具備し、かかる操作手段14pから入力されたデータに基づいて、前記サーボモータMを、制御装置14によって、制御をおこなうことによって、被加工物Wの性状や形態等に合わせて前記昇降速度及び回転方向を任意に制御して、前記成形加工をおこなう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機に関して、特に、サーボモータと該サーボモータを制御する制御装置とを備えた機械式プレス機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、絞り加工をおこなうプレス機として、油圧プレス機や機械式プレス機が使用される。
【0003】
前記油圧プレス機は、金型を昇降させる動力機構として、油圧ピストンと該油圧ピストンに所定の圧油を供給する油圧ポンプを備えている。
そして、かかる油圧プレス機の場合、一般に、ストロークの開始から終了まで同じ速度で動作させることが可能となっている。
【0004】
これに対して、機械式プレス機(例えば、クランク式プレス機、エキセントリック式プレス機、カム式プレス機などを含む。この明細書及び特許請求の範囲において「機械式プレス機」という)の場合、電動モータの回転運動を偏心機構(クランク機構やエキセントリック機構などをいう)を介して、直線運動(昇降運動)に変換して、可動側の金型(一般に上金型)が取着されるスライドを、昇降させるよう構成されている。このため、電動モータが一定速度で回転すると、スライドの昇降速度は、サインカーブ状に変化することになる。
【0005】
前記油圧プレス機に関する特許文献として特許文献1があり、また、前記機械式プレス機の特許文献として、特許文献2がある。
【特許文献1】特許公開平8−90291号公報。
【特許文献2】特許公開2009−172648公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記油圧プレス機の場合には、スライドの昇降速度が遅く、少量生産の場合にはさほど問題がないが、大量生産する場合には不適である。
一方、前記機械式プレス機の場合には、加工速度は大きいものの、前述のようにスライドの速度がサインカーブ状に変化することから、プレスする対象物によっては、あるいは所謂深絞り加工をおこなうような場合には、良好なプレス加工(成形加工)ができない。
【0007】
また、前記油圧プレス機および機械式プレス機のいずれの場合にも、プレス機特有の問題として、プレス加工後の製品にスプリングバックが生じて、所望の寸法に仕上げることができない点がある。このため、前記スプリングバック分を配慮して金型の設計等をする必要がある。しかし、かかるスプリングバック量は、製鋼メーカー等の相違による材料の微妙な違いによって変化する。また、環境温度によって、具体的には、ロシアの低温地帯で製造する場合と、タイやインドネシア等の熱帯地域で製造する場合のような、大気温度が変化することによっても、変化する。
このため、前記スプリングバック分の配慮を、一義的におこなうことができない。
さらには、金型の設計時において、必ずしも正確なスプリングバック量を考慮しておくことも容易なことではない。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みておこなわれたもので、深絞り加工をおこなうことが可能であり、且つ大量生産することが可能な、しかも正確なスプリングバック量を金型の設計時に配慮しなくとも正確なプレス加工をおこなうことができるプレス機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる機械式プレス機は、サーボモータによって駆動されるスライドが昇降動作することによって、該スライド側に取着された金型と、ベッド側に取着された金型との間で、被加工物を成形加工をする機械式プレス機において、
該機械式プレス機が、制御装置と操作手段を具備し、かかる操作手段から入力されたデータに基づいて、前記サーボモータを、前記制御装置で、制御することによって、被加工物の性状や形態等に合わせて前記昇降速度及び回転方向を任意に制御して、前記成形加工をおこなうことを特徴とする。
【0010】
しかして、このように構成された機械式プレス機によると、成形加工の形態、例えば、深絞りをおこなう場合、前記制御装置は、被加工物を押圧する前の箇所までは、サーボモータを高速で動作させてスライドを短時間で降下せしめ、被加工物が両方の金型に当接する深絞り加工工程では、その被加工物や成形加工の形態に適した一定の速度で前記スライドを降下させることができる。そして、前記制御装置は、成形加工工程が完了すると、サーボモータを再び高速で動作させてスライドを短時間で上死点まで復帰させることができる。
したがって、本機械式プレス機によると、従来難しかった深絞り加工が、最適な一定の速度で降下するスライドの動作によって、最適に且つ無駄な時間を費やすことなくおこなうことができる。
また、前記被加工物がスプリングバックの大きな材料である場合にも、前記スライドの下死点近傍において、所定時間そのまま位置させて、あるいは下死点前後の領域で繰り返しスライドを昇降させて、該スプリングバックを除去することもできる。
さらに、従来では不可能な深絞り加工をおこなう場合には、サーボモータを正転させてスライドを下死点に至る途中まで降下させて予備成形加工をおこない、次に該サーボモータを逆転させてスライドを再び上昇させて後、再びサーボモータを正転させてスライドを降下させて第2の予備成形加工あるいは本成形加工のように、複数回の成形加工を繰り返すことによって、該深絞り加工をおこなうことが可能である。
【0011】
前記機械式プレス機において、前記昇降をおこなう部位に、昇降動作をおこなう部分の重量を相殺する、あるいは低減させる、バランサーを配置することによって、能力の小さいサーボモータによって、成形加工を可能にし、また、昇降動作を迅速におこなわしめるとともにスライドやそれに取着された金型等の慣性力を軽減せしめることが可能となる。
【0012】
前記機械式プレス機において、前記任意の制御が、両方の金型間に配置された被加工物に成型加工が施される工程中、一定の速度で前記スライドが昇降するような制御であると、割れや皺のない成型加工をおこなうことができる。
【0013】
また、前記機械式プレス機において、前記金型部分に金型加熱装置を付設しておけば、被加工物に生じようとするスプリングバックを少なく又は無くすことができる。
【0014】
前記機械式プレス機において、前記制御装置の制御を操作可能な操作パネルを付設すれば、前記サーボモータの種々の動作を容易に設定することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
前述のように構成されたプレス機によると、従来不可能であった深絞り加工や性状を有する被加工物であっても、機械式プレス機を用いて、油圧式プレス機では到底得ることができない迅速な速度で加工することができ、また所謂スプリングバックを配慮した複雑な金型の設計も不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例にかかる機械式プレス機の概略の構成を示す全体側面図である。
【図2】図1に示す機械式プレス機の概略の構成を示す全体正面図である。
【図3】図1,図2に示す機械式プレス機の駆動部分の構成を示すクランク軸部分を上方から見た図である。
【図4】図3に示す減速歯車機構の構成を示す図3のII−II矢視図である。
【図5】図1〜図4に示す機械式プレス機の操作パネル(タッチパネル)のメニュー画面の各操作ボタンの配置を示す図である。
【図6】図5でモーション設定を選択したときに表れる操作ボタンの配置を示す図である。
【図7】図1〜図6に示す機械式プレス機のサーボモータの回転数とスライドの動作状態を示す図で、横軸にクランク角、縦軸にスライドの昇降量と1分間当たりの昇降回数(SPM)をとって表した図である。
【図8】図7とは異なる動作時における、図1〜図6に示す機械式プレス機のサーボモータの回転数とスライドの動作状態を示す図で、横軸にクランク角、縦軸にスライドの昇降量と1分間当たりの昇降回数(SPM)をとって表した図である。
【図9】図7,図8とは異なる動作時における、図1〜図6に示す機械式プレス機のサーボモータの回転数とスライドの動作状態を示す図で、横軸にクランク角、縦軸にスライドの昇降量と1分間当たりの昇降回数(SPM)をとって表した図である。
【図10】従来のものと同じ昇降状態を示す機械式プレス機のサーボモータの回転数とスライドの動作状態を示す図で、横軸にクランク角、縦軸にスライドの昇降量と1分間当たりの昇降回数(SPM)をとって表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例にかかるプレス機を図面に基づいてより具体的に説明する。
(実施例)
図1,図2において、Aは機械式プレス機で、かかる機械式プレス機Aは、フレームFと、フレームFに対して昇降自在に配置され下端に上金型を4U取着するためのスライド3と、前記フレームFのベッド部分8に配置された下金型4Lと、該スライド3を昇降動作せしめるサーボモータMと、該サーボモータMとスライド3との間に配置され回転運動を直線往復運動に変換するクランク機構5と、該クランク機構5の可動部を前記サーボモータMから減速して駆動するための減速機構(この実施例では遊星歯車機構)18と、前記スライド3及び該スライド3に取着される上金型4U等の昇降動作する部材の重力をゼロ又は低減するためのバランサー7と、前記サーボモータMを制御する制御装置14と、該制御装置14に付設されて制御内容を入力する操作パネル(操作手段の一種)14pとを有する。
【0018】
具体的に説明すると、図1,図2に図示するように、前記クランク機構5の一部をなし、回転自在に横設されているプレス機Aの主軸1の偏芯軸部(クランク軸部)1Aには、ラム(昇降動部材)6の上端に設けられ該クランク機構5の一部をなす連接部6Aが、回転方向に摺動自在に配設されている。このため、前記主軸1の回転によって、ラム6が、昇降動作できるよう構成されている。
【0019】
前記ラム6は、本体(ラム本体)6Bとこの本体6Bに対してネジ機構によって上下調整自在になった可動部6Cとを具備し、この可動部6Cの下端に、前記スライド3を介して上金型4Uが取着される。また、前記可動部6Cは、前記本体6Bに螺着させるための上端におねじが形成された螺合部6aと、この螺合部6aに対して球面継手6bによって接続されているスライド取着部6cを有する。
また、このプレス機AのフレームFは、図1,図2に図示するように、加工空間20を中心にその四隅に、縦部材2が配設され、加工空間20周辺の剛性を高めた構成となっている。
【0020】
そして、前記主軸1は、該主軸1の回転中心と同じ回転中心となる回転軸13A(図1参照)を備えた前記サーボモータMによって、駆動させられる。
このサーボモータMから、前記主軸1には、これらの間に設けられた遊星歯車機構18を介して、減速して動力が伝達されるように構成されている。
また、このサーボモータMは、制御ボックス16内に設けられた制御装置(この実施例ではマイクロコンピュータ)14によって、動作制御可能に構成されている。
【0021】
前記制御装置14は、制御ボックス16の前方位置に配置された、タッチパネル機能を備えた液晶表示部14eを有する操作パネル14pによって、後述する動作モードの選択や、該動作モードにおいて前記ラム6のストローク量(昇降距離:上端と下端の停止位置)や、単位時間当たりの昇降動作回数や、該昇降動作における速度変更点のポイントの設定と、各ポイント間における動作速度(昇降速度)等を設定できるよう構成されている。
より具体的に述べると、この実施例にかかるプレス機Aの場合、動作モードとして、
a.スライド3が上死点から下死点を経て上死点に戻るサイクルを順次繰り返す「1サイクルモード」と、
b.スライド3が上死点から下死点を経て上死点に戻るサイクル中に、下死点で所定時間停止するようなサイクルを順次繰り返す「下死点停止モード」と、
c.スライド3が上死点から下死点を経て上死点に戻るサイクル中に、下死点を中心に所定高さだけ行ったり戻ったりを所定回数だけ繰り返す「振子モード」と、
d.スライド3が上死点から下死点を経て上死点に戻るサイクル中に、速度や停止点や任意の位置で停止して逆転し次に正転する等の任意の動作をおこなわせる「マルチステップモード」と、
e.前記「1サイクルモード」と「下死点停止モード」のいずれかを選択したときに前記スライド3を一定速度で昇降させることができる「スライド一定速度モード」と、を有する。
【0022】
また、前記「振子モード」の場合には、振子動作する際の前記スライド3の昇降量(昇降距離)や振る回数等を設定することができる。
【0023】
さらに、前記「マルチステップモード」の場合には、前記速度変更点のポイントの設定と、各ポイント間における動作速度等を設定できる。
【0024】
また、前記「下死点停止モード」では、停止時間を設定することができるよう構成されている。
【0025】
また、このプレス機Aの場合、前述のように、原動機としてサーボモータMを使用し、主軸1が前記「振子モード」や「マルチステップモード」の各動作モードにおいて、正転及び反転(逆転)させることができるように構成されている。
このため、このようなプレス機Aの場合には、動作部分の慣性力が小さい程、前記反転動作が容易となり、また、高い位置決め精度と高い動作速度制御を得易い構成となる。
このような理由から、本プレス機Aの場合、前記スライド3とフレームFとの間には、前記バランサー7が配置されている。この実施例では、前記バランサー7として、前記スライド3とフレームFとの間を近接させる方向に引張り作用をする空圧シリンダが使用されている。かかる空圧シリンダは、前記ラム6やスライド3や上金型4U等を上方へ引き上げようとする方向に、該ラム6やスライド3や上金型等の重量に相当する力を付与する。
【0026】
また、この実施例では、前記遊星歯車機構18を備えた動力伝達機構は以下のように構成されている。つまり、
図3に図示するように、本プレス機Aの主軸(クランク軸)1は、偏芯軸部(クランク部)1Aの両側で回転自在な二つのベアリング2A,2Bによって回転自在に保持されている。そして、前記主軸1の、ベアリング2Bから横方向(図3において右方向)に突出した一端部にフランジ部1Fが一体に形成されている。
前記フランジ部1Fは、円板状の形状をしており、この円板状の中心、つまり前記主軸1の回転中心O1から均等の距離、即ち回転中心O1から所定の半径上に、120度の等しい間隔をもって、3本の支持軸1Cが横方向(主軸1の軸長手方向と平行な方向)へ突設されている。そして、これらの各支持軸1Cには、図4に図示するように、遊星歯車11を構成する、この実施例では弾性部材である樹脂製部材(例えば、ナイロン樹脂製、MCナイロン(日本ポリペンコ(株)の登録商標)製)からなる外歯車が、それぞれ回転自在に配設されている。勿論、材質的には、前記弾性部材に代えて、金属製とすることもできる。
また、前記支持軸1Cは、前記フランジ部1Fの反対側でも、該フランジ部1Fと同じ形状の円板状の支持部材9によって、支持されている。つまり、この支持軸1Cは、一方をフランジ部1Fで他方を支持部材9によって支持された所謂「両持ち支持構造」によって支持されている。
そして、図4に図示するように、前記各遊星歯車11の中心(遊星歯車11が公転する際の中心)には、該中心と回転軸13Aが一致するように太陽歯車13が配設されている。一方、前記3個の遊星歯車11を外周方から囲むように、且つ、各遊星歯車11の外歯と内歯が噛合するように、内歯歯車12が配設されている。この実施例では、この内歯歯車12の外周は、全体がリング状の形状をしており、該リング状の内周面に前記内歯が形成されている。そして、この内歯歯車12のリング状の中心は、前記回転軸13Aの回転軸と一致している。つまり、内歯歯車12の中心と回転軸13Aの回転軸とは、同芯状になっている。
また、前記内歯歯車12は、プレス機AのフレームF側に固定されている。
【0027】
ところで、前記太陽歯車13の回転軸13Aの回転中心は、前記主軸1の回転中心O1と同芯状に配設されている。
そして、この回転軸13Aは、この実施例では、前記サーボモータMの回転軸によって構成されている。つまり、前記太陽歯車13は、サーボモータMの回転軸に一体に回転するよう固着されている。具体的には、この太陽歯車13は、キー溝あるいはスプライン結合によって、サーボモータMの回転軸13Aに固着されている。
そして、この実施例では、前記内歯歯車12と太陽歯車13は、金属製の歯車によって構成されている。しかし、前記歯車12,13は、金属製以外の歯車、例えば、樹脂製あるいはセラミック製の歯車であってもよい。
【0028】
そして、前記太陽歯車13がサーボモータMによって回転させられると、前記遊星歯車11がその支持軸1Cを中心に自転(回転)するとともに、内歯歯車12の内周方を、前記回転軸13Aを中心に公転する。
この結果、この遊星歯車11の公転作用によって、前記支持軸1Cを固定しているフランジ部1F、即ち前記主軸1が回転することになる。
このため、このプレス機Aの主軸1は、前記遊星歯車機構を介して、サーボモータMによって回転させられることになる。
【0029】
そして、このプレス機Aでは、前記遊星歯車11と太陽歯車13の間の噛合は、実質上、バックラッシュのない状態となるよう、これらの歯車の各歯形およびその寸法が形成されている。また、同様に、前記遊星歯車11と内歯歯車11の間の噛合も、実質上、バックラッシュのない状態となるよう、これらの歯車の各歯形およびその寸法が形成されている。つまり、通常互いに噛合する歯車対の各歯形は、噛合に際し、円滑に噛合させるため多少の「遊び」が生じるように寸法的に定められるが、本プレス機Aの場合、実質上「遊び」がゼロの状態で接触するよう寸法的に定められている。
このように実質上、バックラッシュのない状態での噛合がおこなわれるよう各歯車の歯形およびその寸法が定められているが、前記遊星歯車11が上述のように弾性部材(例えば、MCナイロン等の樹脂製部材)の歯車であることから、噛合に際し、ミクロ的に見ると、極く僅か動作するのに必要な程度内で弾性変形して、きっちり密接した状態で、しかも円滑に噛合することが可能となっている。
このように本プレス機Aが、実質上バックラッシュのない遊星歯車機構によって減速されるよう構成されているため、且つ、前述のように3個の均等に配設された遊星歯車11によって複数の伝達経路によって動力が伝達されるため、サーボモータMは制御装置14によって、高い分解能で、具体的には、回転角度的に1/10度〜1/20度(あるいは1/30度)程度の分解能で回転および位置決め制御されても、それに対応した、精度の高い状態で、主軸1を駆動することが可能となる。また、回転開始時あるいは回転停止時にも、前記遊星歯車11が弾性部材(例えば、樹脂製部材)であると、この部分でそのとき生じる衝撃が有効に吸収される。従って、前述のようにバランサー7が配置されていることもあいまって、衝撃を伴うことなく、且つ正確な位置決めをともなって、円滑に且つ静粛に、運転の開始および停止、あるいは反転をおこなうことが可能となる。しかも、前記弾性部材(例えば、樹脂製部材)の歯車のミクロ的な必要な弾性変形は、前記サーボモータMの分解能に影響を及ぼす程のレベルの高いものではない。しかも、前記遊星歯車11は、弾性部材(例えば、樹脂製部材)であることに起因して、その僅かな弾性変形によって各遊星歯車11毎に極く小さな遊びが生じたとしても、太陽歯車13の周囲に複数個(この実施例では3個)設けられ、太陽歯車13の周囲の均等な位置で並列的に伝達されるため、全体的に見れば、「遊び」のない状態で、サーボモータMから主軸1に動力が伝達される。前記遊星歯車11は、3個に限定されるものでなく、4個あるいはそれ以上であってもよい。
そして、前記構成からなる遊星歯車機構によれば、質量的に最も大きい内歯歯車12がフレームF側に固定されているため、また、次に容積的に大きく且つ位置的に大きな慣性力を生じさせる要因となる遊星歯車11が、質量の小さい弾性部材(例えば、樹脂製部材)であるため、回転部分の慣性力を極めて小さくすることができる。
このため、且つ、前述のバランサー7の配置によって、プレス機Aの停止位置精度、および動作速度精度が、極めて高くなる。
【0030】
従って、このプレス機Aを成形プレスとして使用した場合、ラム6の下端に配設された上金型4Uを、材料Wに当接するまでは極めて速い速度でもって主軸1を回転させ、且つ材料に当接したら、塑性変形させようとする金属の性質に合わせて、ゆっくりした速度で変形させることができ、また、最下端まで金型が加工したら衝撃を伴うことなく滑らかな負の加速度でもって停止させ、次に、速い速度でもって速やかに上昇させることが可能となる。
【0031】
このような上金型の下降動作や停止および上昇動作に際し、このプレス機Aの場合には、遊星歯車機構の可動部分の慣性力が極めて小さいことから、ブレーキ装置を別段設けるこ
となく、サーボモータMの駆動力(あるいはブレーキ力)によって、正確に且つ速やかに動作させることが可能となる。また、ブレーキ装置を設ける場合にも、能力の低いもので十分となる。この結果、構造的に極めてシンプルな構成となり、信頼性の高いプレス機を実現できる。
【0032】
ところで、前記遊星歯車機構を内蔵した減速機のサーボモータM側の側面は、図1に図示するように、金属製の平板からなる円板状の側板21で蓋されている。そして、この側板21のサーボモータMの回転軸13Aが通過する部分にはシール部材(図示せず)が介装されている。また、反サーボモータM側の側面は、前記内歯歯車12と一体になった側板部分12cによって蓋されている。そして、この側板部分12cの前記主軸1の通過する部分にはシール部材(図示せず)が介装されている。
【0033】
また、前記減速機部分を、上述のように側板21および側板部分12cで蓋することによって、且つ回転する軸部分をシール構造にすることによって、内部を密閉空間とし、この空間内に配置される前記遊星歯車機構18をオイルバス式にすることが望ましい。かかるオイルバス式にすると、より静粛に運転可能となるとともに、各歯車の磨耗を防止できる。
【0034】
また、前記遊星歯車11としては、この実施例で使用しているMCナイロン樹脂に代えて、他のエンジニアリングプラスチック、例えば、他のナイロン樹脂、フェノール樹脂、ABS、あるいは前記樹脂あるいはその他の樹脂に強化繊維(ガラス繊維あるいは炭素繊維等)を混入したものを使用してもよい。あるいは樹脂製部材以外に他の弾性部材を使用してもよい。
【0035】
そして、前述のように構成された本プレス機Aは、前記制御装置14を操作パネル14pによって設定することによって、以下のように、プレス加工をさせることができる。
【0036】
即ち、図5に図示するメニュー画面において、オペレータが、モーション設定ボタンを押圧する。
かかる押圧によって、制御装置14は、操作パネル14pに、図6に図示するような各種動作モードを選択する画面を表示する。
この状態において、オペレータは、これからおこなうプレス加工に適した動作モードを選択する。
【0037】
例えば、「1サイクルモード」を選択するとともに、また、この際、昇降速度の設定、この実施例では「1分間当たりのスライド3のストローク数」を入力する。「次へ」と表示されているボタンを押圧すると、次に、操作パネル14pに図示しない開始ボタンが表示される。ここで、開始ボタンを押圧すると、制御装置14は、前記サーボモータMを一定回転数で回転するように制御する。このため、従来の機械式プレス機のように、プレス機Aのスライド3の昇降速度は、図10に実線で図示する如く、サインカーブ状に変化することになる。
【0038】
また、前記「1サイクルモード」を選択し、且つ、「スライド一定速度モード」を選択し、その下段の設定ポイント数の値である「1〜10」の数値のうち、2を選択して、「次へ」と表示されているボタンを押圧する。次に、操作パネル14pに図示しない設定ポイント1,設定ポイント2が表示されるので、設定ポイント1の欄にスライド一定速度モード開始の値を、設定ポイント2の欄にスライド一定速度モード終了の値を、クランク角度表示で入力する。さらに、この際、昇降速度の設定、即ち、1分間当たりのスライド3のストローク数を、入力する。
例えば、設定ポイント1の欄に90(度)、設定ポイント2の欄に270(度)と数値を入力し、「1分間当たりのスライド3のストローク数」を例えば「30(SPM)」と入力する。次に、開始ボタンを押圧すると、制御装置14は、前記サーボモータMを、図7に図示するように、スライド3の動作位置がクランク角度で0度〜90度までは、所定の一定回転数(例えば、サーボモータの許容最高回転数、具体的には1200rpm)で回転させ、同クランク角度で90度〜270度の間は、図7に図示するように、スライド3が一定速度(例えば、30(SPM))で昇降するべく、該サーボモータMが図7の二点鎖線で示す如く逆サインカーブ状を描くような回転数になるように制御する。このため、スライド3の動作位置が前記90度〜270度の間で深絞りをおこなうような場合には、深絞り加工中はスライド3(上金型4U)は一定の速度で昇降することになる。このため、従来、機械式プレス機では加工できなかったような深絞り加工をおこなうことが可能となり、且つ、深絞り加工の前後では迅速(例えば、サーボモータの許容最高回転数)にスライド3が昇降するため、短時間での成形加工が可能となり、大量生産にも対応することができる。
そして、前記スライド3の昇降速度が一定になる「クランク角度」の設定については、前記設定作業において自由に設定することができ、例えば、図8に図示するように、開始角度を120(度)、終了角度を240(度)に設定することもできる。
また、前記設定作業において、例えば、図9に図示するように、開始角度を90(度)、終了角度を下死点である180(度)に設定することもできる。
【0039】
そして、操作パネル14pの、図6に図示する画面において、前記「下死点停止モード」を選択すると、下死点において、スライド3は設定時間だけ停止させることができ、かかる場合には、被加工物が若干のスプリングバックを伴う性状のものであっても、当該スプリングバックを除去することが可能となる。
【0040】
また、図6に図示する画面において、前記「振子モード」を選択し、その下段の設定ポイント数の値である「1〜10」の数値のうち、例えば「2」を選択して、「次へ」と表示されているボタンを押圧すると、次に、操作パネル14pに図示しない設定ポイント1,設定ポイント2が表示されるので、設定ポイント1の欄に振子運動の一方の転向点の値を、設定ポイント2の欄に振子の一第運動のもう一方の転向点の値を、クランク角度表示で入力する。例えば、設定ポイント1の欄に80(度)、設定ポイント2の欄に100(度)と数値を入力するとともに、振子の回数を例えば「3」と入力し、ここで、開始ボタンを押圧すると、制御装置14は、前記サーボモータMを、スライド3の動作位置がクランク角度で0度〜100度になるまで正転させ、かかる100度に達すると、80度の位置まで逆転させ、続いて、再び100度の位置まで正転させ、かかる80度〜100度の範囲を前記設定した値、この場合には3回だけ往復(振子動作)させることが可能となる。
かかる「振子モード」の選択は、被加工物がスプリングバックを伴う性状のものであっても、当該スプリングバックを除去することが可能となる。なお、この振子モードにおいても、前記スライド3の昇降速度の設定を、各動作毎におこなうことができる。
【0041】
また、図6に図示する画面において、前記「マルチステップモード」を選択し、その下段の設定ポイント数の値である「1〜10」の数値のうち、例えば「4」を選択して、「次へ」と表示されているボタンを押圧すると、次に、操作パネル14pに図示しない設定ポイント1〜設定ポイント4が表示されるので、設定ポイント1の欄に最初に転向(逆転)する転向点の値を、設定ポイント2の欄に次に転向(再逆転:正転)する転向点の値を、設定ポイント3の欄に次に転向(再々逆転:逆転)する転向点の値を、設定ポイント4の欄に次に転向(再々再逆転:正転)する転向点の値を、クランク角度表示で入力する。例えば、設定ポイント1の欄に80(度)、設定ポイント2の欄に60(度)、設定ポイント3の欄に90(度)、設定ポイント4の欄に80(度)と数値を入力し、ここで、開始ボタンを押圧すると、制御装置14は、前記サーボモータMを、スライド3の動作位置がクランク角度で80度になるまで正転させ、かかる80度に達すると、60度の位置まで逆転させ、続いて、90度の位置まで正転させ、続いて、80度の位置まで逆転させて、しかる後、正転させて下死点を通過して上死点まで戻るような動作をさせることが可能となる。
また、前記設定の値を、設定ポイント1の欄に90(度)、設定ポイント2の欄に60(度)、設定ポイント3の欄に90(度)、設定ポイント4の欄に80(度)と数値を入力し、ここで、開始ボタンを押圧すると、制御装置14は、前記サーボモータMを、スライド3の動作位置がクランク角度で90度になるまで正転させ、かかる90度に達すると、60度の位置まで逆転させ、続いて、90度の位置まで正転させ、続いて、80度の位置まで逆転させて、しかる後、正転させて下死点を通過して上死点まで戻るような動作をさせることが可能もなる。
かかる「マルチステップモード」では、自在にスライド3を動作させることができ、この実施例では、設定ポイントが10箇所の範囲で設定可能となっている。しかし、かかる10箇所は例示であって、より少なくとも又はより多くともよいことは言うまでもない。
【0042】
したがって、かかる「マルチステップモード」を選択すると、深絞りが困難な性状の被加工物であっても、また、スプリングバックの性状が強い被加工物であっても、所謂割れや皺等を発生させることなく、所望の形状に成形加工することが可能となる。なお、このマルチステップモードにおいても、前記スライド3の昇降速度の設定を、各動作毎におこなうことができる。
【0043】
ところで、前記実施例において、金型部分に金型加熱装置を配置し、前記制御装置14の制御によって、ON−OFF操作可能にするような構成が望ましく、かかる構成を具備させた場合には、被加工物が割れを生じさせやすいものであるとき、あるいは塑性変形し難いものであるとき、前記金型加熱装置をONにして、金型を熱くした状態で成型加工すると、前記割れを防止し、前記塑性変形を生じさせることができる。
【0044】
また、本発明は、前記実施例に限定されるものでなく、本発明の技術的思想に基づく範囲において種々の形態で実施することが可能となることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明にかかるプレス機は、種々のプレス成形加工に利用できる。
【符号の説明】
【0046】
A…機械式プレス機
M…サーボモータ
W…被加工物
3…スライド
4L…下金型
4U…上金型
14…制御装置
14a…操作パネル(操作手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータによって駆動されるスライドが昇降動作することによって、該スライド側に取着された金型と、ベッド側に取着された金型との間で、被加工物を成形加工をする機械式プレス機において、
該機械式プレス機が、制御装置と操作手段を具備し、かかる操作手段から入力されたデータに基づいて、前記サーボモータを、前記制御装置で、制御することによって、被加工物の性状や形態等に合わせて前記昇降速度及び回転方向を任意に制御して、前記成形加工をおこなうことを特徴とする機械式プレス機。
【請求項2】
前記昇降をおこなう部位に、昇降動作をおこなう部分の重量を相殺する、あるいは低減させる、バランサーを配置したことを特徴とする請求項1記載の機械式プレス機。
【請求項3】
前記任意の制御が、両方の金型間に配置された被加工物に成型加工が施される工程中、一定の速度で前記スライドが昇降するような制御であることを特徴とする請求項1又は2記載の機械式プレス機。
【請求項4】
前記金型部分に金型加熱装置を付設したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1の項に記載の機械式プレス機。
【請求項5】
前記制御装置の制御を操作可能な操作パネルを付設したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1の項に記載の機械式プレス機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−152547(P2011−152547A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14221(P2010−14221)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(592039288)富士スチール工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】