説明

機械特性か改良されたメタロセンポリプロピレンの繊維および不織布

核化メタロセンポリプロピレンから成るアズスパン繊維およびフィラメント。本発明の繊維およびフィラメントは機械特性が改良される。本発明はさらに、上記繊維およびフィラメントで作られた不織布と、上記繊維およびフィラメントの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核化 (nucleated) メタロセンポリプロピレンを含むアズスパン(as-spun) 繊維およびフィラメントに関するものである。本発明繊維およびフィラメントの特徴は機械特性が改良されていることにある。
本発明はさらに、上記繊維およびフィラメントで作られた不織布と、その製造方法とにも関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、繊維および不織布の多くの用途、例えば建設分野、農業分野、衛生用品、医学品、カーペット、織物等で材料として選択される、優れた機械特性、物理特性、さらには良好な加工性を有している。
なっている。
【0003】
繊維および不織布で使用されるポリプロピレンの溶融流動性は、その製造方法や最終用途等によって異なり、非常に強い靭性が要求される繊維の場合の5dg/分であり、メルトブロー不織布の場合の溶融流動性は数千dg/分までである。繊維押出に使用されるポリプロピレンの溶融流動性は一般に5dg/分〜約40dg/分まであり、スパンポンド不織布で使用されるポリプロピレンは一般に25dg/分〜40dg/分のメルトフローインデックスを有し、さらに、分子量分布の幅が狭いという特徴も有している(非特許文献1参照)。
【0004】
メルトブロー式不織布で一般に用いられるポリプロピレンは300dg/分〜2000dg/分のメルトフローインデックスを有する。
【0005】
通常使用されるポリプロピレンで許容特性を有する繊維や不織布が作れるが、小型化(downgauging)と生産性増大のニーズとともに、改良された特性を有する繊維および不織布を作るための新規なポリプロピレンが開発されている。
【0006】
下記特許文献1、2には、シングルサイト触媒を用いて製造されたポリプロピレンから作られた繊維およびスパンボンドまたはメルトブローファブリックが開示されている。これらの繊維およびファブリックはチーグラー−ナッタ触媒を用いて製造したポリプロピレンから成る繊維およびファブリックと比べて機械的特性が改良されている。
【0007】
これらの開発によって繊維および不織布の特性は改良されたが、小型化への継続的な努力は繊維および不織布の特性のさらなる改良を必要としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,723,217号明細書
【特許文献2】米国特許第5,736,465号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Polypropylene Handbook, ed. NeIIo Pasquini, 2nd edition, Hanser, 2005, p. 397
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記ポリプロピレン繊維および不織布にさらに改良された特性を与えることにある。
本発明者は、さらに改良された特性を有することを特徴とするポリプロピレン繊維および不織布を発見した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の対象は、核化メタロセンポリプロピレンをアズスパン繊維および含むフィラメントであって、上記核化メタロセンポリプロピレンがビス(3,4−ジメチルジベンジリデンソルビトール)、置換ベンゼントリカルボキシアミドおよびこれらの混合物からなる群の中から選択される核生成剤を含む点に特徴がある。
【0012】
本発明の別の対象はこのような繊維を含む不織布およびラミネートにある。
【0013】
本発明の別の対象は、下記(a)〜(e):
(a)メタロセンポリプロピレンと核生成剤とを含む混合物を提供し、
(b)(a)段階の混合物を押出機に供給し、
(c)続いて、混合物を溶融押出して溶融ポリマー流にし、
(d)(c)段階の溶融ポリマー流を紡糸口金の所定数の細かな一般に円形の毛細管から押し出すことによって、溶融ポリマーのフィラメントにし、
(e)続いて、(d)段階で得られたフィラメントの直径を最終直径まで迅速に減少させる、
の段階を含むアズスパン繊維およびフィラメントの製造方法であって、上記核生成剤がビス(3,4−ジメチルジベンジリデンソルビトール)、置換ベンゼントリカルボキシアミドおよびこれらの混合物からなる群の中から選択されことを特徴とする。
【0014】
本発明はさらに、下記の段階:
(a1)メタロセンポリプロピレンと核生成剤とを含む第1混合物を第1押出機に供給し、
(a2)熱可塑性ポリマーを含む少なくとも一つのさらなる混合物を供給し、
(b1)(a1)および(a2)の段階の混合物をそれぞれ、別の押出機に供給し、
(c1)混合物を連続的に溶融押出して各混合物の溶融ポリマー流とし、
(d1)(c1)段階の溶融ポリマー流を紡糸口金の所定数の細かな毛細管から共押出して溶融ポリマーの多成分フィラメントにし、
(e)(d1)段階で得られたフィラメントの直径を最終直径まで迅速に減少させる、
を含む多成分アズスパン繊維およびフィラメントの製造方法であって、
上記核生成剤がビス(3,4−ジメチルジベンジリデンソルビトール)、置換ベンゼントリカルボキシアミドおよびこれらの混合物からなる群の中から選択されることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリプロピレン繊維およびフィラメントは当業者に周知の方法でアズスパンで製造できる。すなわち、ポリプロピレンを一般に溶融ポンプに通して一定の供給率を確保しながら押出機で溶融し、次いで、所定数の細い毛細管の紡糸口金から押出し、溶融状態にある繊維およびフィラメントを空気冷却すると同時に最終直径まで引き延ばして回収する。回収は例えば巻取機、その他の適切な回収手段で行なう。こうして得られた繊維およびフィラメントには追加の延伸加工段階を行なわない。
【0016】
本発明の不織布は任意の適切な方法で製造できる。好ましい方法はスパンボンディング(spunbonding)法およびメルトブロー法である。この2つのうち、スパンボンディング法がより好ましい。スパンボンディング法およびメルトブロー法では押出繊維およびフィラメントは溶融状態で引き伸ばす。従って、本発明の目的では、スパンボンド不織布またはメルトブロー不織布に含まれる繊維およびフィラメントはアズスパン繊維およびフィラメントとみなされる。
【0017】
スパンボンディング法では、ポリプロピレンを一般に最初に溶融ポンプに通して一定の供給率を確保しながら押出機で溶融し、次いで、多数の細い毛細管(一般に円形)の紡糸口金から押出してフィラメントにする。このフィラメント形成段階は多数の孔(一般に数千の孔)を有する一つの単一紡糸口金を使用するか、各紡糸口金当たりの孔の数を少なくした複数の紡糸口金を使用して行なうことができる。紡糸口金から出たまだ溶融状態のフィラメントを空気冷却する。次いで、高圧空気流によってフィラメントの直径を迅速に細くする。この引抜き段階の空気速度は最大で数千メートル/分にすることができる。
【0018】
引抜き後、フィラメントは支持体上、例えばフォーミングワイヤーまたはメッシュフォーミングベルト上に回収されて、第1の未接着ウェブが作られる。次いで、この未接着ウェブは圧縮ロール上を通り、最後にボンディング段階へ送られる。上記ファブリックのボンディングは熱接着、ハイドロエンタングルメント(hydroentanglement)、ニードルパンチング(needlepunching)または化学的ボンディングで行なうことができる。
【0019】
メルトブロー法では、ポリプロピレンを一般に、最初に溶融ポンプに通して一定の供給率を確保しながら押出機で溶融し、次いで、特殊なメルトブローダイの毛細管に通す。通常、メルトブローダイは溶融ポリマーが通る一般に円形の毛細管からなる単一ラインを有する。ダイから出た後に、まだ溶融状態にあるフィラメントを高速の高温空気と接触させ、迅速に繊維を引き延ばし、冷気と組み合わせてフィラメントを凝固する。このフィラメントを直接フォーミングワイヤーまたはメッシュフォーミングベルトに堆積させて不織布を形成する。
【0020】
本発明の繊維およびフィラメントは多成分繊維にすることができる。これらは二成分繊維またはフィラメントであるのが好ましい。二成分または多成分繊維またはフィラメントは種々の形状、例えば、サイドバイサイド(side-by-side)、コア−シェル型、アイランド−イン−ザ−シー(islands-in-the-sea)、パイ(pie)または縞の形状で周知である。二成分または多成分繊維またはフィラメントは、少なくとも2種類の成分を共押出して一つの繊維またはフィラメントにすることによって形成できる。これは各成分を対応する数の押出機に供給し、各溶解物を混合して単一の繊維またはフィラメントにする。得られた繊維またはフィラメントは少なくとも2種類の基本的に連続的なポリマー相を有する。このような繊維またはフィラメント、その製造およびその不織布の形成は当業者に周知であり、例えば下記文献に記載されている。
【0021】
【非特許文献2】F. Fourn饅och, Synthetische Fasern, Carl Hanser Verlag, 1995, chapter 5.2
【非特許文献3】B.C. Goswami et al., Textile Yarns, John Wiley & Sons, 1977, p. 371 _ 376
【0022】
複合材料は2種以上の不織布から形成でき、そのうちの少なくとも一種は本発明に従って作られたものである。特に、複合材料は本発明のスパンポンド不織布層(S)または本発明のメルトブロー成形した不織布層(M)を含む。例えば、本発明の複合材料はSS、SSS、SMS、SMMSS、またはスパンボンド層とメルトブロー不織布層とのその他の任意の組合せにすることができる。
【0023】
本発明のものから成る第1不織布または複合材料と、フィルムとを組み合わせてラミネートを形成することができる。フィルムは好ましくはポリオレフィンフィルムである。第1不織布または複合材料とフィルムとを接合して、例えばこれらを一対のラミネート加工ロール通して、互いにラミネート加工することによってラミネートを形成する。このラミネートは、第1不織布または複合材料のフィルムと反対側のフィルムの面に、本発明であってもなくてもよい第2不織布または複合材料をさらに含むことができる。好ましい実施例では、このラミネートのフィルムは呼吸可能(breathable)なポリオレフィンフィルムであり、この場合には得られたラミネートは呼吸可能な特性を有するラミネートになる。
【0024】
本発明で用いるのに好ましいポリプロピレンはプロピレンのホモポリマーか、それと一種以上のコモノマー(エチレンまたはC4〜C10α−オレフィン、例えばブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチル−ペンテン−1である)とのランダムコポリマーである。好ましいコモノマーはエチレンおよびブテン−1である。最も好ましいコモノマーはエチレンである。本発明のランダムコポリマーは少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.2重量%、さらに好ましくは少なくとも0.5重量%のコモノマーを含む。コモノマーの比率は最大でも6重量%、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。
【0025】
本発明で用いるポリプロピレンはメタロセンポリプロピレン、すなわち、メタロセンベースの触媒系を用いて製造される。プロピレンと一種以上の任意成分としてのコモノマーの重合を、一種以上のメタロセン、担体および活性剤を含む一種以上のメタロセンベースの触媒系を用いて行なう。このような触媒系は市場で入手でき、当業者に周知である。
【0026】
メタロセンポリプロピレンの製造に用いるメタロセン成分は当技術分野で公知の任意の架橋メタロセンにすることができる。下記の一般式で表されるメタロセンであるのが好ましい。
μ-R1(C5R2R3R4R5)(C5R6R7R8R9)MX1X2 (I)
【0027】
(ここで、
ブリッジR1は-(CR10R11)p-または-(SiR10R11)p-(ここで、p = 1または2、好ましくは -(SiR10R11)-である)であり;
MはTi、ZrおよびHfの中から選択される金属で、好ましくはZrであり、
X1およびX2は独立してハロゲン、水素、C1-C10アルキル、C6-C15アリール、C1-C10アルキルおよびC6-C15アリールを有するアルキルアリールからなる群の中から選択され、
R2, R3, R4, R5, R6, R7, R8, R9, R10およびR11は互いに独立して水素、C1-C10アルキル、C5-C7シクロアルキル、C6-C15アリール、C1-C10アルキルおよびC6-C15アリールを有するアルキルアリールからなる群の中から選択され、任意の2つの互いに隣接するRは飽和環または不飽和C4-C10環を形成することができ、
各R2, R3, R4, R5, R6, R7, R8, R9, R10およびR11も同様に置換することができる)
【0028】
好ましいメタロセン成分は一般式(I)でブリッジR1がSiR10R11で、MがZrで、X1およびX2が独立してハロゲン、水素およびC1-C10アルキルからなる群の中から選択され、(C5R2R3R4R5)および(C5R6R7R8R9)は一般式C9R12R13R14R15R16R17R18R19のインデニルであるものである(ここで、R12, R13, R14, R15, R16, R17, R18およびR19は互いに独立して水素、C1-C10アルキル、C5-C7シクロアルキル、C6-C15アリール、C1-C10アルキルおよびC6-C15アリールを有するアルキルアリールからなる群の中から選択され、任意の2つの互いに隣接するRは飽和環または不飽和C4-C10環を形成することができ、R10およびR11は互いに独立してC1-C10 アルキル、C5-C7シクロアルキルおよびC6-C15アリールからなる群の中から選択され、R10およびR11は飽和環または不飽和C4-C10環を形成することができ、各R10, R11, R12, R13, R14, R15, R16, R17, R18およびR19も同様に置換することができる)。
【0029】
特に適したメタロセンはC2−対称性を有するものである。特に適したメタロセンの例を下記に示す:
ジメチルシランジイル-ビス(クロペンタジエニル)二塩化ジルコニウム、
ジメチルシランジイル-ビス(2-メチル-シクロペンタジエニル)二塩化ジルコニウム,
ジメチルシランジイル-ビス(3-メチル-シクロペンタジエニル)二塩化ジルコニウム,
ジメチルシランジイル-ビス(3-tert-ブチル-シクロペンタジエニル)二塩化ジルコニウム,
ジメチルシランジイル-ビス(3-tert-ブチル-5-メチル-シクロペンタジエニル)二塩化ジルコニウム,
ジメチルシランジイル-ビス(2,4-ジメチル-シクロペンタジエニル)二塩化ジルコニウム,
ジメチルシランジイル-ビス(インデニル)二塩化ジルコニウム,
ジメチルシランジイル-ビス(2-メチル-インデニル)二塩化ジルコニウム,
ジメチルシランジイル-ビス(3-メチル-インデニル)二塩化ジルコニウム,
ジメチルシランジイル-ビス(3-tert-ブチル-インデニル)二塩化ジルコニウム,
ジメチルシランジイル-ビス(4,7-ジメチル-インデニル)二塩化ジルコニウム,
ジメチルシランジイル-ビス(テトラヒドロインデニル)二塩化ジルコニウム,
ジメチルシランジイル-ビス(ベンズインデニル)二塩化ジルコニウム,
ジメチルシランジイル-ビス(3,3'-2-メチル-ベンズインデニル)二塩化ジルコニウム,
ジメチルシランジイル-ビス(4-フェニル-インデニル)二塩化ジルコニウム,
エチレン-ビス(インデニル)二塩化ジルコニウム,
エチレン-ビス(テトラヒドロインデニル)二塩化ジルコニウム,
イソプロピリデン-(3-tert-ブチル-5-メチル-シクロペンタジエニル)(フルオレニル) 二塩化ジルコニウム。
【0030】
メタロセンベースの触媒系の存在下でのプロピレンと一種以上の任意成分としてのコモノマーの重合は、一つまたは複数の重合反応器内で周知な方法によって行なうことができる。本発明のメタロセンポリプロピレンは、20〜100℃の温度で液体プロピレン中で重合によって製造するのが好ましい。温度は、60〜80℃の範囲内であるのが好ましい。圧力は大気圧またはそれ以上にすることができ、25〜50バールであるのが好ましい。ポリマー鎖の分子量、従って、メタロセンポリプロピレンの溶融流動性は、水素を重合媒体に添加することによって調整される。
【0031】
本発明のメタロセンポリプロピレンはメルトフローインデックス(ISO 1133規格の条件Lに従って、荷重2.16kg、230℃の温度で測定)が1〜2000dg/分であることを特徴とする。
紡糸に使用する場合のメタロセンポリプロピレンの溶融流動性は5dg/分〜約40dg/分である。スパンボンディング法で使用する場合のメタロセンポリプロピレンの溶融流動性は少なくとも10dg/分、好ましくは少なくとも12、14、16、18または20dg/分である。スパンボンディング法で使用する場合のメタロセンポリプロピレンの溶融流動性は最大でも300dg/分、好ましくは200dg/分以下、より好ましくは150dg/分以下、より好ましくは100dg/分以下、より好ましくは60dg/分以下である。メルトブロー法で使用する場合のメタロセンポリプロピレンの溶融流動性は少なくとも100dg/分、好ましくは少なくとも150dg/分、より好ましくは少なくとも200dg/分、より好ましくは少なくとも250dg/分、より好ましくは少なくとも300dg/分である。メルトブロー法で使用する場合のメタロセンポリプロピレンの溶融流動性は最大でも2000dg/分、好ましくは1800g/分以下、より好ましくは1600dg/分以下、より好ましくは1400dg/分以下である。
【0032】
本発明で用いるのに好ましいメタロセンポリプロピレンは、キシレン可溶分含有量が3重量%以下、好ましくは2.5重量%以下、より好ましくは2重量%以下であることを特徴とする。キシレン可溶分含有量は、ポリプロピレンを還流キシレン中に溶かし、この溶液を25℃に冷却し、この溶液を濾過し、続いて、この溶液を蒸発させることによって求める。残留物はポリプロピレンのキシレン可溶性部分であり、これを次いで乾燥および秤量する。
【0033】
本発明で用いるのに好ましいメタロセンポリプロピレンはmmmmペンタッドの含有量を測定した時にアイソタクティシティー(isotacticity)が高いということで特徴付けられる。このmmmmペンタッド含有量は少なくとも90%、好ましくは少なくとも92%、94%、95%、96%または97%である。アイソタクティシティー(isotacticity)は下記文献に記載の方法に従ってNMR解析で求める。
【非特許文献4】isotacticityは、G.J. Ray et al. in Macromolecules, vol. 10, n。4, 1977, p. 773-778
【0034】
本発明では、メタロセンポリプロピレンが核生成剤を含むこと、すなわちメタロセンポリプロピレンが核化メタロセンポリプロピレンであることが重要である。本発明では、「核生成剤」はメタロセンポリプロピレンの結晶化温度を上げる化合物と定義される。核化ポリプロピレンと、繊維および不織布用途でのその使用は当技術分野で周知である。
【0035】
例えば、下記文献には、熱可塑性フィラメントの熱接着されたスパンボンドウェブおよび2層のスパンボンド熱可塑性フィラメントの間にメルトブロー熱可塑性繊維の中間層が挟まれた不織布ファブリックラミネートが開示されている。スパンボンドウェブと、ファブリックラミネートのスパンボンド層は、熱可塑性ポリマーと核生成剤の混合物から形成される熱可塑性フィラメントからなる。好ましい実施例では、スパンボンドウェブは0.1〜0.3重量%の核生成剤を含むポリプロピレンで作られる。スパンボンドウェブと、これを含むラミネートは向上した耐久性を特徴とする。
【特許文献3】欧州特許出願第EP−A−0569860号公報
【0036】
下記文献には、0.01〜20重量%の無機粒子を含むポリオレフィン繊維またはフィラメントが開示されている。これらの繊維は不織布を作るのに用いることもできる。ポリオレフィンは例えばポリプロピレンにすることができる。無機粒子はタルク、カオリン、炭酸カルシウム、雲母、珪灰石、硫酸カルシウムおよび硫酸バリウムにすることができる。無機粒子を混和することによって熱接着不織布の製造における生産性を増大できる。この繊維および不織布には静電気を減少できるという特徴もある。
【特許文献4】国際特許出願第WO 97/30199号公報
【0037】
下記文献には、核生成剤を含むポリプロピレンから作られた繊維および不織布が開示されている。この繊維およびファブリックの特徴は低収縮挙動にある。
【特許文献5】国際特許出願第WO 02/094926号公報
【0038】
しかし、上記の全ての文献には、核化メタロセンポリプロピレンを含む繊維または不織布に関する記載も、核化メタロセンポリプロピレンからの繊維、フィラメントまたは不織布の製造方法の記載もない。
【0039】
本発明で用いる核生成剤はビス(3,4−ジメチルジベンジリデンソルビトール)、置換ベンゼントリカルボキシアミドおよびこれらの混合物からなる群の中から選択される。
ビス(3,4−ジメチル−ジベンジリデンソルビトール)(DMDBS)はミリカン社(Milliken Chemical)から「Millad 3988」として得ることができる。
【0040】
置換トリカルボキシアミドの例は一般式のものである:
【化1】

【0041】
(ここで、R1、R2およびR3は互いに独立して、C1-C20アルキル、C5-C12シクロアルキル、またはフェニルの中から選択され、それぞれC1-C20アルキル、C5-C12シクロアルキル、フェニル、ヒドロキシ、C1-C20アルキルアミノまたはC1-C20アルキルオキシ等で置換することができる)
C1-C20アルキルの例は、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル, tert-ブチル, n-ペンチル、イソ−ペンチル、 1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、3-メチルブチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルまたは1,1,3,3-テトラメチルブチルである。C5-C12シクロアルキルの例はシクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル、シクロドデシル、アダマンチル、2-メチルシクロヘキシル、3-メチルシクロヘキシルまたは2,3-ジメチルシクロヘキシルである。このような核生成剤は下記文献に開示されている。
【特許文献6】国際特許第WO 03/102069号公報
【非特許文献5】Blomenhofer et al. in Macromolecules 2005, 38, 3688-3695
【0042】
本発明者は、驚くべきことに、これら特定の核生成剤を使用することによって、選択された核生成剤と異なる核生成剤を含むメタロセン触媒プロピレンポリマーに比べて、機械特性が改良された不織布が得られるということを見出した。
【0043】
下記文献には、プロピレンポリマーをベースとして0.001〜2重量%のα−核生成剤(ジベンジリデンソルビトールおよびソルビトール誘導体を含む群の中から選択される)を含む、結晶化温度が>116℃である主としてアイソタクチックプロピレンポリマーで構成される非後延伸ポリオレフィン繊維が開示されている。このプロピレンポリマーはメタロセン触媒を用いて製造できる。
【特許文献7】国際特許第WO 02/46502号公報
【0044】
下記文献には、核生成剤として3−メチル−ブテンを含むメタロセン触媒プロピレン/α−オレフィンランダムコポリマーから作られた繊維が開示されている。
【特許文献8】日本国特許出願第JP−A−2003138460号公報
【0045】
しかし、上記国際特許第WO 02/46502号公報や日本国特許出願第JP−A−2003138460号公報には本発明で用いる特定の核生成剤は開示がなく、他の核生成剤より優れたその利点についての開示はない。
【0046】
添加する核生成剤の量がその結晶化効率に依存することは当業者には明らかであるが、本発明では核生成剤または核生成剤混合物は少なくとも50ppmの量、好ましくは少なくとも100ppmでメタロセンポリプロピレン中に存在し、この核生成剤または核生成剤混合物の最大量は5000ppmであり、好ましくは4000ppm以下、さらに好ましくは3000ppm以下、さらに好ましくは2000ppm以下の量で存在する。
【0047】
本発明で用いる核化メタロセンポリプロピレン、すなわち核生成剤を含むメタロセンポリプロピレンの結晶化温度は、それぞれの非核化メタロセンポリプロピレンの結晶化温度より少なくとも3℃高い。核化メタロセンポリプロピレンの結晶化温度は、それぞれの非核化メタロセンポリプロピレンの結晶化温度より少なくとも4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃または10℃高いのが好ましい。
【0048】
本発明のアズスパン繊維およびフィラメントは、1種、2種またはそれ以上の成分からなり、一成分、二成分、多成分の繊維およびフィラメントが形成され、それを不織布に含ませることができる。各成分は一種または複数の構成成分を含むことができる。すなわち、上記成分は混合物にすることができる。この構成成分は熱可塑性ポリマー、例えばポリエチレン、チーグラー−ナッタポリプロピレンまたはメタロセンポリプロピレンの中から選択される。ただし、これらの構成成分のうち少なくとも一種は核化メタロセンポリプロピレン、すなわち、核生成剤を含むメタロセンポリプロピレンを含んでいなければならない。核化メタロセンポリプロピレンは、多成分の繊維およびフィラメントの表面の少なくとも一部を形成する成分中に含まれるのが好ましい。成分中の核化メタロセンポリプロピレンの比率に関しては、核化メタロセンポリプロピレンが、本発明のアズスパン繊維およびフィラメントの成分のうち少なくとも一種の成分の少なくとも50重量%、好ましくはそれぞれの成分の重量に対して少なくとも60、70、80、90、95または99重量%で含まれるのが好ましい。
【0049】
核生成剤は、メタロセンポリプロピレンと核生成剤とを混合することによって純粋な形またはマスターバッチの形で、例えばドライブレンディングまたはメルトブレンディングによって、メタロセンポリプロピレン中に導入できる。メタロセンポリプロピレンと、核化熱可塑性ポリマーであってこの熱可塑性ポリマーがメタロセンポリプロピレンとは異なる核化熱可塑性ポリマーとの混合によって核生成剤をメタロセンポリプロピレンに導入しても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0050】
本発明の核化メタロセンポリプロピレンを用いて製造した繊維、フィラメントおよび不織布は改良された特性を特徴とする。特に、本発明に従って作られたスパンボンド不織布の機械特性は、従来技術の不織布、例えば非核化メタロセンポリプロピレンを用いて作られた不織布に比べて改良されている。
【0051】
本発明に従って製造した繊維、フィラメントおよび不織布に関して得られた結果は、メタロセンポリプロピレンを用いて作られた繊維および不織布の特性が、チーグラー−ナッタ触媒を用いて製造したポリプロピレンで作られたものに比べて、改良されることの説明に用いられてきた仮説を考慮すると、特に驚くべきことである。特定の理論に拘束されるものではないが、繊維および不織布の製造、特にスパンボンド不織布の製造でのメタロセンポリプロピレンの利点は、結晶化の開始の遅れに起因すると思われる。従って、核生成剤をメタロセンポリプロピレンに混和することは、それによって結晶化が早まるので、メタロセンポリプロピレンの性能が、スパンボンド不織布中のチーグラー−ナッタポリプロピレンに比べてより良いことの説明に用いられてきたことと矛盾する。
【0052】
驚くべきことに、本発明に従って作られたスパンボンド不織布は、引張強度の増大だけでなく、非核化メタロセンポリプロピレンを用いて作られたスパンボンド不織布の伸びに少なくとも等しい伸びを有するという特徴があることを本発明者は見出した。このことは、引張強度の増大が通常伸び特性の低下につながり、逆の場合も同じであるという一般知識を考慮すると、特に驚くべきことである。
【0053】
本発明で用いる核化メタロセンポリプロピレンは、その他の添加剤、例えば抗酸化剤、光安定剤、酸スカベンジャ、滑剤、帯電防止剤、着色剤等をさらに含むことができる。
【0054】
本発明のポリプロピレン繊維およびフィラメントはカーペット、織物および不織布で使用できる。
【0055】
本発明のポリプロピレンスパンポンド不織布およびそれを含む複合材料またはラミネートは衛生用品、衛生製品、例えばおしめ、女性用衛生製品、失禁用製品、建設用途および農業用途の製品、医学用布、ガウン、保護用衣料、研究室用コート、その他で使用することができる。
【0056】
本発明のポリプロピレンメルトブロー不織布は衛生、濾過および吸収の用途、例えばおしめ、女性用衛生製品、失禁用製品、包装紙、ガウン、マスク、フィルター、吸収パッド、その他で使用できる。ポリプロピレンメルトブロー不織布は他の不織布、例えばスパンボンド不織布と組み合わせて用いられ、複合材料を形成し、この複合材料を上記の用途で使用できることが多い。
【実施例】
【0057】
テスト法
「メルトフローインデックス」はISO 1133規格の条件Lに従って、荷重2.16kg、230℃の温度を使用して測定した。
繊維の「強靭性(tenacity)」および「伸び」はISO 5079:1995規格に従ってLenzing Vibrodynで10mm/分のテスト速度で測定した。
不織布の「引張強度」および「伸び」はISO 9073−3:1989規格に従って測定した。
【0058】
「溶融温度」、「結晶化温度」、「各エンタルピー」はTA機器によってDSC2690機器で測定した。熱履歴を消すために、サンプルを最初に200℃に加熱し、200℃で3分間維持した。報告された溶融温度および結晶化温度を次いで20℃/分の加熱率および冷却率を用いて求めた。
【0059】
ポリプロピレン
本発明の不織布は核化メタロセンポリプロピレンであるPP2から製造した。
比較用の不織布は、異なる核生成剤を含む核化メタロセンポリプロピレンであるPP1、核生成剤を含まないメタロセンポリプロピレンであるPP3、核化チーグラー−ナッタポリプロピレンであるPP4から製造した。これらのポリプロピレンの特性を[表1]に示す。
【表1】

【0060】
全てのポリプロピレンには加工中のその分解を低減するのに十分な量の抗酸化剤と酸スカベンジャを添加した。
【0061】
スパンポンド不織布
ポリプロピレンPP1〜PP4を用いて1.1m幅のReicofil4ラインでスパンポンド不織布を作った。このReicofil4ラインは長さ1メートル当たり約6800の孔(各孔の直径は0.6mm)を有する単一ビームを備えている。各孔当たりの流量は0.41g/孔/分にセットした。ライン速度は300メートル/分に保った。不織布は12g/m2のファブリック重量を有していた。この不織布をエンボスローラーを用いて熱的にボンドした。他の加工条件は[表2]に示した。[表2]に示したカレンダー温度は最大引張強度に関する最も高い値が得られた時のボンディング温度である。カレンダー温度は熱電対接点を用いてエンボスローラーで測定した。これらの条件下で得られた不織布の特性は[表3]に示してある。ここで、MDは「縦方向」を、CDは「横方向」を意味する。
【0062】
【表2】

【0063】
上記結果は本発明の核化メタロセンポリプロピレンを用いて作られたスパンボンド不織布の縦方向および横方向における引張強度が増大したことを明確に示している。驚くべきことに、引張強度の増大は伸び率の低下を伴わなかった。
【0064】
【表3】

【0065】
上記結果は、ビス(3,4−ジメチルジベンジリデンソルビトール)を含む核化メタロセンポリプロピレンを用いて作られたスパンボンド不織布によって、不織布の機械特性がさらに向上することを示している。強度特性と伸び特性に同時に改良が見られることは極めて予期し得ないことである。他の核生成剤、例えばタルクでは強度に予期された増大が得られるのみで、伸び特性は全く改良されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核化メタロセンポリプロピレンから成るアズスパン繊維およびフィラメントにおいて、
上記核化メタロセンポリプロピレンがビス(3,4−ジメチルジベンジリデンソルビトール)、置換ベンゼントリカルボキシアミドおよびこれらの混合物からなる群の中から選択される核生成剤を含むことを特徴とするアズスパン繊維およびフィラメント。
【請求項2】
核化メタロセンポリプロピレンが少なくとも50ppm、好ましくは少なくとも100ppmの核生成剤を含み、この核生成剤の最大比率が5000ppm、好ましくは最大で4000ppm、3000ppmまたは2000ppppmである請求項1に記載のアズスパン繊維およびフィラメント。
【請求項3】
核化メタロセンポリプロピレンの結晶化温度が、核生成剤を全く含まない場合のメタロセンポリプロピレンの結晶化温度より少なくとも3℃高い請求項1または2に記載のアズスパン繊維およびフィラメント。
【請求項4】
核化メタロセンポリプロピレンのmmmmペンタッドの含有量(NMR解析で測定)が少なくとも90%である請求項1〜3のいずれか一項に記載のアズスパン繊維およびフィラメント。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアズスパン繊維およびフィラメントから成る不織布。
【請求項6】
不織布がスパンボンド不織布またはメルトブロー不織布である請求項5に記載の不織布。
【請求項7】
請求項5または6に記載の不織布を含むラミネート。
【請求項8】
請求項5または6に記載の不織布がポリオレフィンフィルムにラミネート加工される請求項7に記載のラミネート。
【請求項9】
請求項5または6に記載の不織布を含む衛生用品および衛生製品。
【請求項10】
下記(a)〜(e):
(a)メタロセンポリプロピレンと核生成剤とを含む混合物を提供し、
(b)(a)段階の混合物を押出機に供給し、
(c)得られた混合物を溶融押出して溶融ポリマー流とし、
(d)(c)段階の溶融ポリマー流を紡糸口金の所定数の細かな一般に円形の毛細管から押出して溶融ポリマーのフィラメントにし、
(e)(d)段階で得られたフィラメントの直径を最終直径まで迅速に減少させる、
の段階から成るアズスパン繊維およびフィラメントの製造方法において、
上記核生成剤がビス(3,4−ジメチルジベンジリデンソルビトール)、置換ベンゼントリカルボキシアミドおよびこれらの混合物からなる群の中から選択することを特徴とする方法。
【請求項11】
下記段階(a1)〜(e):
(a1)メタロセンポリプロピレンと核生成剤とを含む第1混合物を第1押出機に供給し、
(a2)熱可塑性ポリマーを含む少なくとも一つのさらなる混合物を作り、
(b1)(a1)および(a2)の段階の混合物をそれぞれ別の押出機に供給し、
(c1)混合物を連続的に溶融押出して各混合物の溶融ポリマー流にし、
(d1)(c1)段階の溶融ポリマー流を紡糸口金の所定数の細かな毛細管から共押出して溶融ポリマーの多成分フィラメントとし、
(e)(d1)段階で得られたフィラメントの直径を最終直径まで迅速に減少させる、
を含む多成分アズスパン繊維およびフィラメントの製造方法において、
上記核生成剤をビス(3,4−ジメチルジベンジリデンソルビトール)、置換ベンゼントリカルボキシアミドおよびこれらの混合物からなる群の中から選択することを特徴とする方法。
【請求項12】
核化メタロセンポリプロピレンが少なくとも50ppm、好ましくは少なくとも100ppmの核生成剤を含み、核生成剤の最大含有比率が5000ppm、好ましくは最大で4000ppm、3000ppmまたは2000ppmである請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
核化メタロセンポリプロピレンの結晶化温度が、核生成剤を全く含まない場合のメタロセンポリプロピレンの結晶化温度より少なくとも3℃高い請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
(f)および(g)の段階をさらに含む請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法:
(f)(e)段階で得られたフィラメントを支持体上に回収し、
(g)回収したフィラメントを接着して接着不織布を形成する。
【請求項15】
(h)段階をさらに含む請求項10〜14のいずれか一項に記載の方法:
(h)(g)段階で得られた接着不織布にフィルムをラミネート加工する。

【公表番号】特表2010−538175(P2010−538175A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523496(P2010−523496)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/061604
【国際公開番号】WO2009/030702
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】