説明

機械特性試験装置およびそれに用いられる水素雰囲気用歪ゲージ

【課題】水素ガスを含む高圧ガス雰囲気下に試験片を配置して、この試験片に荷重を負荷し、前記試験片に負荷される荷重および/または変位を、ロードセルに付設されてなる歪ゲージを用いて検出する機械特性試験装置において、前記歪ゲージが水素ガスの影響を受けることなく安定した測定値を検出できる機械特性試験装置を提供する。
【解決手段】水素ガスを含む高圧ガスが導入される高圧容器が設けられ、この高圧容器内に、機械特性を評価するための試験片11に荷重を負荷するとともに、前記試験片11に負荷された荷重および/または変位を検出する歪ゲージ10が付設された試験荷重負荷検出装置18が配設されてなる機械特性試験装置1において、前記歪ゲージ10が、厚さ10〜25μmのCu−Ni金属箔ゲージまたは厚さ10〜25μmのFe−Cr−Al金属箔ゲージからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガス雰囲気下で試験片の機械特性試験を行う機械特性試験装置およびそれに用いられる歪ゲージの改善に関し、より詳しくは、水素ガスを含む高圧容器内に配設された試験荷重負荷検出装置のロードセルに付設されてなる歪ゲージの検出精度を改善した機械特性試験装置およびそれに用いられる水素雰囲気用歪ゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
高圧ガス雰囲気下で用いる金属、樹脂、セラミックス等の材料の引張強度、圧縮強度、曲げ強度、引張疲労強度等の機械的特性を把握することは、高圧ガス雰囲気下でこれらの材料を使用する設備設計上、重要なことである。このような特殊環境の下では、材料の特異な現象が発現される。
【0003】
一般的に、高圧ガス雰囲気下では、金属、樹脂、セラミックス等の材料の強度特性が変化する。例えば、数100MPaの高圧下では、金属の延性が増大することが知られており、また、特定のガス雰囲気下、例えば高圧水素ガス雰囲気下では、鋼系材料は水素を吸収して脆化することが知られている。
【0004】
近年、水素を燃料とする燃料電池の研究開発が活発化し、自動車や家庭用途を中心に、その適用につき試作段階から実用段階への急速な進歩が認められる。特に、自動車用途では、地球温暖化問題と化石燃料の高騰が後押しする形で、実用車への適用が急速に展開されつつある。このような自動車用途では、燃料として35MPaあるいは70MPaの高圧まで圧縮した水素を、ボンベに充填して用いる圧縮水素タイプが先行しており、高圧水素ガス雰囲気で用いられる減圧弁や配管材料の特性評価が急務となっている。
【0005】
一方、数10〜数100MPaといった高圧水素ガス雰囲気下においては、引張強度等の機械的特性を測定する試験装置自体もこのような雰囲気下に暴露されるため、構成材料は勿論、構造的な面でも十分な測定装置がないのが実情である。
【0006】
材料の引張強度や圧縮強度等の機械的特性を測定するためには、特定の寸法・形状の試験片に荷重を負荷すると同時に、その試験片に負荷された荷重および変形量の両方を測定する必要がある。このような測定を高圧ガス雰囲気下で行う場合には、高圧ガス雰囲気を形成する高圧容器内部に設けた試験荷重負荷検出装置に試験片を収納して、高圧容器の外部から試験片に負荷する荷重を別途加えることとなる。そして、この試験片に負荷された荷重を、前記試験荷重負荷検出装置内に配置され、歪ゲージが付設されてなるロードセルによって検出している。
【0007】
このような機械的特性を測定する装置に関し、本発明者らは、上述したように外部より部材(プルロッド)を介して高圧容器内の試験片に荷重を負荷する際、摩擦力を小さく抑え、かつガス漏れを防止しながら、前記プルロッドに作用する高圧ガスの作用力およびシールリングの摩擦力による荷重値の誤差の影響を低減することを目的とした機械特性試験装置を既に提案している(特許文献1参照)。
【0008】
上記従来例に係る機械特性試験装置を、添付図面を参照しながら説明する。図6はその縦断面図である。
この従来例に係る機械特性試験装置によれば、高圧容器42内に試験片48を装着した後高圧ガスを導入し、ある特定条件の高圧ガス雰囲気の基に、前記試験片48に荷重を負荷して該試験片の変形量を測定する機械特性試験装置41において、前記高圧容器42を、少なくとも一端に開口部を有する筒状の本体部44と、該開口部を開閉自在に閉塞する蓋部46とにより構成されている。
【0009】
同時に、この機械特性試験装置は、前記高圧容器42内にガス導入口Aから高圧ガスを導入した際に、前記蓋部46にかかる軸力を、前記高圧容器42に外方から係脱自在とされたプレスフレーム47によって担持し、前記蓋部46に固定された試験片48に対して、該蓋部46を貫通するロッド49を通じて荷重を付加するアクチュエータ部40によって、前記試験片48の変形量を測定可能な構成をなしている。
【0010】
また同時に、この機械特性試験装置は、前記プレスフレーム47を離脱させて前記蓋部46を開放することによって、試験片48を装着・取出し自在な構造としたのである。そして更に、前記高圧ガスによって前記ロッド49にかかる作用力を軽減乃至ゼロにする流体バランス機構43が、前記ロッド49に設けられている。
【0011】
ところで、上記試験片48の試験荷重は、高圧容器42内のプルロッド49外周表面に付設された(図示していない)歪ゲージを用いて測定している。この歪ゲージには、一般的に、金属抵抗線を用いた線ゲージと金属抵抗箔を用いた箔ゲージの2種類がある。カバーフィルムを除去した線ゲージ型の歪ゲージの平面図を図7に、カバーフィルムを除去した箔ゲージ型の歪ゲージの平面図を図8に示す。また、図7および図8の歪ゲージのカバーフィルムを含めた縦断面図を図9に示す。
【0012】
即ち、符号50,54で各々示される線ゲージ型および箔ゲージ型の歪ゲージは、Cu-Ni合金またはNi-Cr合金からなる金属抵抗線51や金属抵抗箔55を、絶縁層であるゲージベース53とカバーフィルム56とにより、サンドイッチ構造状に上下に挟み込み、接着剤により接着した構成となっている。一般的には、前記金属抵抗線51は25〜60μm程度の径を有するものが使用され、前記金属抵抗箔55の場合は3〜6μmの厚さを有するものが使用されている。
【0013】
また、前記絶縁層であるゲージベース53は、ポリイミドやエポキシ等の樹脂で形成されている。このような歪ゲージ50,54は、これを付設した測定対象物の微小な寸法変化を、ゲージリード52から電気信号として検出するセンサーであり、材料の一般的な特性評価試験に多用されている。
【0014】
ところが、前述したような水素ガスを含む高圧ガス雰囲気下では、この水素ガスが歪ゲージ素材であるCu−Ni合金やNi−Cr合金内に浸入して、抵抗値の変化を生じさせ、結果として検出した歪値に誤差を発生させる作用をすることが分かった。従って、前記従来例のように、プルロッド49の外周表面に歪ゲージを付設して使用する場合、水素ガスの影響を受けて、外部からの荷重を負荷されなくとも出力が変化してしまうのである。
【0015】
次に、このような水素ガスの影響を回避できる従来例に係る材料試験装置について、以
下、図10および図11を参照しながら説明する。図10は従来例に係る材料試験装置の
全体を表した図、図11は図10に示した材料試験装置の内、CT試験片と亀裂開口変位
測定器具の部分を拡大して示した図である。この従来例に係る亀裂開口変位測定器具およ
びその材料試験装置によれは、図11に示すように、高圧容器部62内の試験片60の寸
法変化量を、変位検出棒82を介して、電気信号として亀裂開口変位測定器具64によっ
て、高圧容器部62外に取り出す構成をなしている。
【0016】
即ち、この従来例に係る亀裂開口変位測定器具64およびその材料試験装置61によれば、第一エッジ77と第二エッジ78との距離で開口部幅が画定される切欠きを有する試験片60に、引張力を負荷した際の該開口部幅を測定する亀裂開口変位測定器具64であって、前記開口幅の変位を後述する電気信号として伝達するために、一端71aで前記第一エッジ77に当接する第一検出レバー71と、一端72aで前記第二エッジ78に当接する第二検出レバー72とを備えている。
【0017】
同時に、前記第一検出レバー71と前記第二検出レバー72との間に挟まれて配置される第一支点部材73であって、この第一支点部材73と前記第一検出レバー71との当接部および前記第一支点部材73と前記第二検出レバー72との当接部をそれぞれ支点として第一検出レバー71と第二検出レバー72とをそれぞれ傾斜させ得る第一支点部材73とを備えている。
【0018】
また同時に、前記第一検出レバー71の一端71aと前記第二検出レバー72の一端72aとが離れるように、これら第一検出レバー71と第二検出レバー72とを付勢する付勢手段76と、前記第一検出レバー71の他端71bと前記第二検出レバー72の他端72bとの間の、距離の変化に対応した電気信号を発生する信号発生手段65とを備えている(特許文献2参照)。
以上のように歪ゲージを使わずに、変位量を電気信号として取り出す構成とすることによって、水素ガスの影響を排除することができる。
【特許文献1】特開2004−340920号公報
【特許文献2】特開2003−329557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、上記従来例に係る亀裂開口変位測定器具64およびその材料試験装置61は、構造が複雑な上、試験片60の寸法変化は極めて微小であるので、測定精度の確保には高精度な部品の製作が要求される。また、試験片60を交換する度に膨大な解体・組立調整作業が必要となってくるため、コストと時間が掛かり過ぎるという欠点を有していた。更に、そのような状況から、測定精度についても満足できるものではなかった。
【0020】
従って、本発明の目的は、水素ガスを含む高圧ガス雰囲気下に試験片を配置して、この試験片に荷重を負荷し、前記試験片に負荷される荷重および/または変位を、ロードセルに付設されてなる歪ゲージを用いて検出する機械特性試験装置において、前記歪ゲージが水素ガスの影響を受けることなく安定した測定値を検出することを可能ならしめる機械特性試験装置およびそれに用いられる水素雰囲気用歪ゲージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
発明者らは、上記のような事情に鑑み、水素ガスが歪ゲージに及ぼす影響について種々調査検討した結果、金属抵抗箔の種類と厚みによりその影響の度合いが大いに異なることを知見して、本発明をなすに至ったものである。
【0022】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る機械特性試験装置が採用した手段は、水素ガスを含む高圧ガスが導入される高圧容器が設けられ、この高圧容器内に、機械特性を評価するための試験片に荷重を負荷するとともに、前記試験片に負荷された荷重および/または変位を検出する歪ゲージが付設された試験荷重負荷検出装置が配設されてなる機械特性試験装置において、前記歪ゲージが、厚さ10〜25μmのCu−Ni金属箔ゲージまたは厚さ10〜25μmのFe−Cr−Al金属箔ゲージからなることを特徴とするものである。
【0023】
本発明の請求項2に係る機械特性試験装置が採用した手段は、請求項1項記載の機械特性試験装置において、前記歪ゲージが、アルミ、金および亜鉛から選択される少なくとも一種からなる材料によって、薄膜コーティングされてなることを特徴とするものである。
【0024】
本発明の請求項3に係る水素雰囲気用歪ゲージが採用した手段は、水素ガスを含む高圧ガス雰囲気内で、試験片に負荷された荷重および/または変位を検出する歪ゲージにおいて、前記歪ゲージが、厚さ10〜25μmのCu−Ni金属箔ゲージまたは厚さ10〜25μmのFe−Cr−Al金属箔ゲージからなることを特徴とするものである。
【0025】
本発明の請求項4に係る水素雰囲気用歪ゲージが採用した手段は、請求項3に記載の水素雰囲気用歪ゲージにおいて、前記歪ゲージが、アルミ、金および亜鉛から選択される少なくとも一種からなる材料によって、薄膜コーティングされてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の請求項1に係る機械特性試験装置は、水素ガスを含む高圧ガスが導入される高圧容器が設けられ、この高圧容器内に、機械特性を評価するための試験片に荷重を負荷するとともに、前記試験片に負荷された荷重および/または変位を検出する歪ゲージが付設された試験荷重負荷検出装置が配設されてなる機械特性試験装置に関する。
【0027】
そして、この機械特性試験装置は、前記歪ゲージが、厚さ10〜25μmのCu−Ni金属箔ゲージまたは厚さ10〜25μmのFe−Cr−Al金属箔ゲージからなるので、水素ガスを含む雰囲気においても、前者は歪ゲージの抵抗値の変化を起こすことなく、後者は水素ガスが金属箔内に侵入し難く、その結果、前記歪ゲージの出力に外乱を与えず高精度で安定的な荷重や変位の測定が可能となる。
【0028】
また、本発明の請求項2に係る機械特性試験装置は、前記歪ゲージが、アルミ、金および亜鉛から選択される少なくとも一種からなる材料によって薄膜コーティングされてなるので、これらの材料は水素を透過し難く、前記水素ガスによる歪ゲージ自体への外乱を排除し、更に安定した荷重や変位の測定が可能になる。
【0029】
一方、本発明の請求項3に係る水素雰囲気用歪ゲージは、水素ガスを含む高圧ガス雰囲気内で、試験片に負荷された荷重および/または変位を検出する歪ゲージにおいて、前記歪ゲージが、厚さ10〜25μmのCu−Ni金属箔ゲージまたは厚さ10〜25μmのFe−Cr−Al金属箔ゲージからなるので、水素ガスを含む雰囲気においても、前者は歪ゲージの抵抗値の変化を起こすことなく、後者は水素ガスが金属箔内に侵入し難く、その結果、前記歪ゲージの出力に外乱を与えず高精度で安定的な荷重や変位の検出が可能となる。
【0030】
また、本発明の請求項4に係る水素雰囲気用歪ゲージは、前記歪ゲージが、アルミ、金、亜鉛から選択される少なくとも一種の材料によって薄膜コーティングされてなるため、これらの材料は水素を透過し難く、前記水素ガスによる歪ゲージ自体への外乱を排除し、更に安定した荷重や変位の検出が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
先ず、本発明の実施の形態1に係る機械特性試験装置を、その縦断面図である図1を用いて以下に説明する。
図1において、本発明の実施の形態1に係る機械特性試験装置1は、圧力容器2、下蓋3および試験荷重負荷検出装置18にて構成されている。そして、圧力容器2および下蓋3は、シールリング16を介して軸方向に摺動自在に嵌合されており、両者により高圧容器を構成して高圧ガス雰囲気が保持される。
【0032】
前記試験荷重負荷検出装置18は、試験荷重を試験片11に負荷するためのプルロッド4、プルロッド4から受けた荷重を試験片11に伝達するための取付治具14、試験荷重を検出するため歪ゲージ10が貼着されたロードセル7、前記ロードセル7を上下に挟み込んで後述する支柱5へ固定するステー9および上板8、前記ステー9および上板8を支持して下蓋3に固定された支柱5から構成される。
【0033】
ここで、符号12は試験片11とロードセル7とを、符号13は試験片11と取付治具14とを、夫々固定するためのナットである。前記ロードセル7への歪ゲージの付設方法については、貼着に限らず他の固定方法でも良い。
【0034】
そして、この試験荷重負荷検出装置18は、圧力容器2と下蓋3とで構成される高圧容器内に収納されるとともに、試験片11に試験荷重を負荷するためのプルロッド4が、シールリング17を介して下蓋3を貫通して、高圧ガス雰囲気での試験荷重を試験片11に伝達している。
【0035】
試験荷重は、図示していないアクチュエータにより、プルロッド4を介して試験片11に負荷され、同時に、前記試験片11の変位量を測定可能な構成としている。また、前記アクチュエータは、ピストンとシリンダーにより構成されて、油圧源から供給される油圧により駆動される。また、試験時のガス圧は、圧縮機等のガス圧源から、ガス導入孔(図示せず)を介して供給される。
【0036】
前記ロードセル7は、その外表面に後述するように歪ゲージ10が付設されており、これによって試験片11に負荷される試験荷重を検出するためのパーツであるが、試験片11を固定する固定治具も兼ねている。ロードセル7の形状としては、試験片11に対して、軸方向に均一な試験荷重を付与する必要性から円柱状が好ましいが、必ずしも円柱状に制約するものでなく、荷重に対するロードセル7の応答性を良好にするため、断面積を減じるように円柱状に形成することも含まれる。
【0037】
ロードセル7に付設された本発明に係る水素雰囲気用歪ゲージ10の抵抗素子は、厚さ12.7μmのCu−Ni金属箔が用いられている。このCu−Ni金属箔は、水素分子が浸入しても歪ゲージとしての出力の変化は比較的少ない。これは、Cu−Ni合金が結晶学的に水素固溶量が大きな材料であるためであり、水素分子の浸入による歪ゲージ出力変化に鈍感な材料組成である。本発明に係る水素雰囲気用歪ゲージ10の抵抗素子は、またFe−Cr−Al金属箔で形成されても良い。前記Fe−Cr−Al金属箔は、表面にアルミの酸化被膜が形成されるため、水素分子が比較的浸透し難い材料である。
【0038】
更に、このようなCu−Ni金属箔またはFe−Cr−Al金属箔からなる本発明に係る水素雰囲気用歪ゲージ10は、厚さ10〜25μmの金属箔からなるのが好ましい。前記金属箔の厚さが10μm未満では、浸入した水素の影響によりゲージの出力変化が比較的大きく、前記金属箔の厚さが25μmを越えると、金属箔厚さが厚過ぎて歪変化に追随できなくなるからである。
【0039】
また、本発明に係るこのような水素雰囲気用歪ゲージ10を箔ゲージ型の歪ゲージに限定する理由は、前記箔ゲージ型の歪ゲージのベース長さL1(図8参照)が2〜5mm程度であるのに対し、線ゲージ型の歪ゲージのベース長さL2(図7参照)は短いものでも74mmもあり、本発明に係る機械特性試験装置の如く狭い高圧容器内に適用するには不適であるからである。
【0040】
次に、本発明に係る前記水素雰囲気用歪ゲージ10を用いて、前記試験片11に負荷される試験荷重を測定する構成について、以下図2を参照しながら説明する。図2は、試験片11に負荷される試験荷重を、本発明の実施の形態1に係る水素雰囲気用歪ゲージによって測定するための歪ゲージの回路構成を示す回路図である。
【0041】
図中の符号21〜24が水素雰囲気用歪ゲージであり、これらの水素雰囲気用歪ゲージ21〜24によってホイートストンブリッジ回路20を形成している。これらの歪ゲージの内、アクティブゲージ21,22の2枚は、図1の10(21,22)に示す通り、ロードセル7外周の180度反対の位置に、荷重付加方向に貼り付け、他の2枚のダミーゲージ10(23,24)は、前記アクティブゲージと直角方向となるロードセル7外周の周方向に付設されている。
【0042】
そして、図2において、電圧印加電源26によりホイートストンブリッジ回路20に電圧を印加し、電圧計26により測定される電圧を読み取って、試験片11に作用している試験荷重を検出するように構成されている。このような回路構成にすることにより、4枚の歪ゲージ21〜24に一様に付与される外乱による影響、例えば温度変化や静水圧による外乱の影響を排除するとともに、付設時の曲歪成分を解消することができる。
【0043】
以上のように、本発明に係る前記水素雰囲気用歪ゲージ21〜24の抵抗箔素材は、既述した通りCu-Ni合金またはFe-Cr-Al合金からなるが、これらの金属の高圧水素ガス雰囲気下での水素侵入量は、僅か数ppmレベルであり安定している。しかしながら、試験温度が高温の場合は、水素の侵入量が多くなるので、長期にわたる安定性が必要な場合は、前記歪ゲージを水素が透過し難い金属、例えば金、アルミニウム、亜鉛から選択される少なくとも一種からなる材料によって薄膜コーティングするのが好ましい。
【0044】
前記薄膜コーティングとは、アルミニウム、金および亜鉛から選択される少なくとも一種からなる材料のメッキ処理またはスパッタリング処理を言い、前記金属抵抗箔単体にコーティングしても良いし、あるいは本歪ゲージをロードセル等測定対象物に取り付け後コーティングしても良い。前記金属抵抗箔は、高圧下で水素の影響を受ける可能性は全く皆無であるという訳ではなく、水素透過し難い上記金属にて歪ゲージをコーティングすることによって、更に安定した測定が可能となる。
【0045】
次に、本発明の実施の形態2に係る機械特性試験装置を、その縦断面図である図3を用いて以下に説明する。
但し、本発明の実施の形態2が上記実施の形態1と相違するところは、試験片の構成と測定項目に相違があり、これ以外は上記実施の形態1と全く同構成であるから、上記実施の形態1と同一のものに同一符号を付して、以下その相違する点について説明する。
【0046】
即ち、上記実施の形態1の試験片が引張強度や圧縮強度を測定するための試験片であるのに対し、本実施の形態2の試験片はCT(コンパクトテンション)試験片と呼ばれ、材料の破壊靭性値を評価するために用いられる。
【0047】
この破壊靭性値とは、材料が、繰返応力を負荷されている間に、その内部欠陥から亀裂を生じ、それを起点として荷重の増加を伴わずに、破壊が急速に進行するいわゆる不安定破壊を生じる際に、材料が示す抵抗値のことをいう。前記破壊靭性値の評価には、本発明の機械特性試験装置の試験条件を、その材料が実際に使用される環境と同等の下に、CT試験片を装着して、当該試験片の亀裂の伸長伝播挙動を把握するため、その亀裂開口変位を測定する必要がある。
【0048】
このような試験装置では、ロードセル7にて試験荷重を測定するとともに、CT試験片15の開口部寸法の変位をクリップゲージ30で測定する構成に上記実施の形態1と相違があり、その他は全く同構成であるから、このCT試験片15およびクリップゲージ30についての説明に止めるものとする。
【0049】
前記CT試験片15およびクリップゲージ30を、正面から見て拡大した拡大図である図4に示す。クリップゲージ30のリード35上下面には、ロードセル7と同様に歪ゲージ4枚31〜34が貼り付けてある。これら4枚の歪ゲージ31〜34は、本発明の形態1と同様、図2に示したホイートストンブリッジ回路20を形成している。
【0050】
このホイートストンブリッジ回路20によって、クリップゲージ30の外面側の歪ゲージ31,34と内面側の歪ゲージ32,33が、互いに補償し合うのである。そして、ロードセル7およびクリップゲージ30に形成された歪ゲージ10および31〜34は、厚さ15μmのFe−Cr−Al金属箔からなる水素雰囲気用歪ゲージから構成されている。
【0051】
従って、本発明の形態2に係る機械特性試験装置1において、ロードセル7およびクリップゲージ30に形成された歪ゲージ10および31〜34は、上述の通り本発明に係る形態1と同様に、水素雰囲気用歪ゲージにて構成することによって、高圧雰囲気ガスに含まれる水素ガスの影響を排除できる点において、本発明の形態1に係る機械特性試験装置と同効である。
【実施例】
【0052】
次に、本発明に係る機械特性試験装置と従来例に係る機械特性試験装置とを比較テストした実施例について、図1を併用しながら以下に説明する。
先ず、歪ゲージが本発明に係る水素雰囲気用歪ゲージで形成されてなるロードセルを備えた本発明に係る機械特性試験装置の実施例を説明する。
【0053】
このロードセル7は、表1の実施例−1および実施例−2に示した本発明に係る水素雰囲気用歪ゲージ各々4枚を、前述したようにロードセル外表面に付設し、ホイートストンブリッジ回路を形成して構成した。そして、試験片11とともに、このロードセル7を図1に示した試験荷重負荷検出装置18に装着し、本発明に係る機械特性試験装置1を構成した。
【0054】
【表1】

【0055】
その後、圧力容器2と下蓋3によって構成される高圧容器内に高圧水素ガスを加熱しつつ導入して、温度90℃、圧力22MPaの高圧水素ガス雰囲気を形成した。そして、プルロッド4による荷重を負荷することなく、水素暴露時間に対する前記歪ゲージにより検出されるドリフト量(初期歪)の変化を測定した。結果は図5に示す通りである。
【0056】
本図5によれば、歪ゲージ10を本発明に係る水素雰囲気用歪ゲージで構成した本実施例では、水素暴露時間の経過に拘わらず、検出された初期歪の変化、即ちゼロ点のドリフトは±200×10−6が程度以内に収まっていることが分かる。即ち、厚さ10〜25μmのCu−Ni金属箔ゲージまたは厚さ10〜25μmのFe−Cr−Al金属箔ゲージにより、前記水素雰囲気用歪ゲージ10を形成することにより、水素ガスを含む高圧ガス雰囲気下においても、水素ガスが前記金属箔内に侵入して抵抗値の変化を殆ど生ずることなく、正確な歪検出が可能であることが分かる。
【0057】
次に、前記歪ゲージ10が、従来例に係る歪ゲージで構成されてなるロードセルを備えた従来例に係る機械特性試験装置を用いた比較例を説明する。
【0058】
上記実施例と同一外形寸法のロードセル外表面に、表1の比較例−1および比較例−2に示した従来例に係る歪ゲージ4枚各々を、その外表面に接着剤で付設してホイートストンブリッジ回路を構成した。そして、試験片11とともにこのロードセルを、上記実施例で用いた試験荷重負荷検出装置18に装着して、従来の機械特性試験装置を構成した。
【0059】
その後、上記実施例と同様に、圧力容器2と下蓋3によって構成される高圧容器内に水素ガスを導入して、容器内を温度90℃、圧力45MPaの高圧水素ガス雰囲気を形成した。この高圧ガス雰囲気下にて、プルロッド4による試験荷重を負荷することなく、水素暴露時間に対する前記歪ゲージにより検出される荷重の変化を測定した。結果は図5に示す通りである。
【0060】
本図5によれば、水素暴露時間経過とともにゼロ点のドリフトが大きく生じていることが分かる。前記歪ゲージを形成している金属箔に水素ガスが侵入して、抵抗値の変化を起こしており、このような従来例に係る歪ゲージを用いた場合は、正確な荷重や変位の測定は不可能であることを示している。
【0061】
以上のように、本発明に係る機械特性試験装置によれば、前記歪ゲージが、厚さ10〜25μmのCu−Ni金属箔ゲージまたは厚さ10〜25μmのFe−Cr−Al金属箔ゲージからなるので、水素ガスを含む高圧雰囲気においても、前記歪ゲージの抵抗値の変化を起こすことなく、その結果、前記歪ゲージの出力に外乱を与えず高精度で安定的な荷重や変位の測定が可能となった。
【0062】
一方、本発明に係る水素雰囲気用歪ゲージによれば、水素ガスを含む高圧ガス雰囲気内で、試験片に負荷された荷重および/または変位を検出する歪ゲージにおいて、前記歪ゲージが、厚さ10〜25μmのCu−Ni金属箔ゲージまたは厚さ10〜25μmのFe−Cr−Al金属箔ゲージからなるので、水素ガスを含む雰囲気においても、前者は歪ゲージの抵抗値の変化を起こすことなく、また後者は水素ガスが金属箔内に侵入し難く、その結果、前記歪ゲージの出力に外乱を与えず高精度で安定的な荷重や変位の検出が可能となったのである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態1に係る機械特性試験装置を示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る歪ゲージの測定回路を示すホイートストンブリッジ回路図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る機械特性試験装置を示す縦断面図である。
【図4】図3に示した機械特性試験装置の内、CT試験片とクリップゲージの部分を拡大して示した図である。
【図5】本発明に係る機械特性試験装置と従来例に係る機械特性試験装置とを比較して示す歪ゲージのドリフト量測定結果である。
【図6】従来例に係る機械特性試験装置を示す縦断面図である。
【図7】従来例に係る線ゲージ型の歪ゲージを、カバーフィルムを除去して示した平面図である。
【図8】従来例に係る箔ゲージ型の歪ゲージを、カバーフィルムを除去して示した平面図である。
【図9】図7,8の歪ゲージを、カバーフィルムを含めて示した縦断面図である。
【図10】従来例に係る材料試験装置の全体を表した全体図である。
【図11】図10に示した材料試験装置の内、CT試験片と亀裂開口変位測定器具の部分を拡大して示した図である。
【符号の説明】
【0064】
1…機械特性試験装置, 2…圧力容器, 3…下蓋, 4…プルロッド,
5…支柱, 6,12,13…ナット, 7…ロードセル, 8…上板,
9…ステー, 10…歪ゲージ(水素雰囲気用歪ゲージ), 11…試験片,
14…取付治具, 15…CT試験片, 16,17…シールリング,
18…試験荷重負荷検出装置, 20…ホイートストンブリッジ回路,
21〜24,31〜34…歪ゲージ(水素雰囲気用歪ゲージ),
25…印加電源, 26…電圧計, 30…クリップゲージ, 35…リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを含む高圧ガスが導入される高圧容器が設けられ、この高圧容器内に、機械特性を評価するための試験片に荷重を負荷するとともに、前記試験片に負荷された荷重および/または変位を検出する歪ゲージが付設された試験荷重負荷検出装置が配設されてなる機械特性試験装置において、前記歪ゲージが、厚さ10〜25μmのCu−Ni金属箔ゲージまたは厚さ10〜25μmのFe−Cr−Al金属箔ゲージからなることを特徴とする機械特性試験装置。
【請求項2】
前記歪ゲージが、アルミ、金および亜鉛から選択される少なくとも一種からなる材料によって、薄膜コーティングされてなることを特徴とする請求項1に記載の機械特性試験装置。
【請求項3】
水素ガスを含む高圧ガス雰囲気内で、試験片に負荷された荷重および/または変位を検出する歪ゲージにおいて、前記歪ゲージが、厚さ10〜25μmのCu−Ni金属箔ゲージまたは厚さ10〜25μmのFe−Cr−Al金属箔ゲージからなることを特徴とする水素雰囲気用歪ゲージ。
【請求項4】
前記歪ゲージが、アルミ、金および亜鉛から選択される少なくとも一種からなる材料によって、薄膜コーティングされてなることを特徴とする請求項3に記載の水素雰囲気用歪ゲージ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−64569(P2008−64569A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241929(P2006−241929)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000142067)株式会社共和電業 (52)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】