説明

機能性が増大した非天然の組換えゼラチン

本発明は、組換えゼラチンモノマー、およびそれらのモノマーのマルチマーを含むかもしくはそれからなる組換えゼラチンに関する。安定性が増大した組換えゼラチンを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え製造した非天然ゼラチンの分野のものおよびこれらを製造する方法である。特に、これらの組換えゼラチンは、付加された機能性をもち、きわめて安定であり、すなわちタンパク質分解による分解および/または化学分解に対して高い抵抗性をもつ。この高い安定性は、組換え宿主細胞において産生させる際に高い収量をもたらし、たとえば医薬組成物または医療用具におけるその後のゼラチンの使用に際しても有利である。
【背景技術】
【0002】
組換え法によりゼラチンを製造することに対する関心は絶えず高まっている。医薬用途および臨床用途におけるゼラチンの広範な使用および使用の可能性は、経済的に実行可能なゼラチン製造方法を提供するという要望を始めとして、あらゆる観点においてより高い要求をゼラチンに課している。そしてこの要望により、発現特性に、したがって得られる目的ゼラチンの収量に影響を及ぼす可能性のある変法およびタンパク質配列変異の慎重な考慮が促された。
【0003】
EP 926543およびWerten et al. 1999 (Yeast 15, 1087-1096)には、組換えゼラチンの製造方法が記載されており、その際らせんドメイン(Gly−Xaa−Yaaトリプレット反復配列からなる)の非ヒドロキシル化フラグメントがメチロトローフ酵母(methylotrophic yeast)ピキア・パストリス(Pichia pastoris)において高収量で製造された:マウスI型(計算MW 21kDaおよび28kDaのCOL1A1ペプチドならびに53kDaのCOL1A2をエンコードする)およびラットIII型(COL3A1)。特定の場合には発酵pHなどの要因が発現生成物の安定性に影響を及ぼすことが見いだされたが、発現ゼラチン中のタンパク質分解性配列も関連することが見いだされ、宿主微生物の内因性タンパク質とのコドン利用の類似性が目的の外因性タンパク質を高収量で得ることに関連をもつ可能性があるという仮説が立てられた。
【0004】
US 2006/0241032には、最小(増加)レベルのXRGDモチーフをもち、かつそのXRGDモチーフの一定の分布をもつ、XRGD富化したゼラチン様タンパク質が開示されており、これは医療およびバイオテクノロジー用途における細胞接着および細胞結合にきわめて適切なことが見いだされた。そこに記載された細胞結合ペプチドは良好な細胞付着特性をもつ。
【0005】
組換え製造したゼラチンをヒトに適用できるために、可能な限りヒトのゼラチンに類似する組換えゼラチンを製造することに多くの努力が向けられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】EP 926543
【特許文献2】US 2006/0241032
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Werten et al. 1999 (Yeast 15, 1087-1096)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、分解しやすさが大量の組換えゼラチンの製造能力における制限因子であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、組換え製造した非天然ゼラチンに関する。
本発明に関して’非天然(non−natural)ゼラチン’は、Gly−Xaa−Yaa(GXY)トリプレットを含むかまたはそれからなる人工的なポリペプチドを意味し、すなわちそのアミノ酸配列は自然界に存在しない。GlyまたはGはグリシンを表わし、XaaおよびYaa、またはXおよびYはいずれかのアミノ酸を表わす。また、用語”ゼラチン”、”タンパク質”、”ペプチド”および”ポリペプチド”は、本明細書中で互換性をもって用いられる。好ましくは、これらの非天然ゼラチンは本質的に全体がGXYトリプレットからなる。天然ゼラチンとの類似性は、3つ目毎のアミノ酸としてのグリシンの存在、ならびにXおよびYの位置、主にYの位置における比較的大きな割合のプロリン残基の存在にある。本発明者らは、意外にも本発明によるゼラチンが微生物によって10グラム/リットル(g/l)からそれを超えるきわめて高い収量で分泌されることを見いだした。本発明の人工的な組換えゼラチン配列を特定の用途に適切なものとするために、RGD配列を含むポリペプチドを設計した。意外にも、そのように設計した人工配列は特定の微生物から高収量で分泌され、単離および精製に際して安定性を維持すること、ならびに本発明のゼラチンは多くの用途に使用できることが見いだされた。
【0010】
したがって本発明の1態様においては、少なくとも1つのRGD配列を含む非天然の、すなわち人工的な組換え製造したゼラチンポリペプチドが提供される。
本発明の他の態様においては、少なくとも5kDaの分子量をもつ非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチドが提供される。
【0011】
本発明の1態様では、非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチドにおいて、1以上のRGD配列の前にプロリン(P)またはヒドロキシプロリン(O)が無い。本発明のさらに他の態様において、非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチドは1以上のXRGDモチーフを含み、ここでXはD、Y、W、F、C、M、K、L、I、R、H、S、T、V、A、G、N、QおよびEよりなる群から選択される。ポリペプチドの安定性に関して、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)モチーフ中のアルギニン(R)の前にアスパラギン酸(D)が存在するのを避けることが有利であり、したがって本発明の1態様では、非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチドにおいて、1以上のRGD配列の前にアスパラギン酸(D)が無い。1態様において、XはK、R、H、S、A、G、N、QおよびEよりなる群から選択される。1態様において、XはK、S、A、G、N、QおよびEよりなる群から選択される。得られる収量に関して非天然ゼラチン中にERGDモチーフを含むことが有利であり、したがって1態様において非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチドは1以上のERGDモチーフを含む。
【0012】
さらに、RGD配列を富化したゼラチンにおいて、それは種々の用途に有利であること、およびその有用性を有意に改善しうることが見いだされた。RGD富化の定義は後記に示されるが、たとえばアミノ酸約300個の長さをもつゼラチンは少なくとも2つのRGDモチーフ、好ましくは少なくとも3つのRGDまたは少なくとも4つ以上のRGDモチーフを含むことが好ましい。
【0013】
特定の1態様において、非天然の組換えゼラチンは10%未満もしくは1%未満のヒドロキシプロリンを含み、またはヒドロキシプロリンは全く存在しない。
本発明のさらに他の態様においては、前記の組換えゼラチンポリペプチド(モノマー)の少なくとも2つの反復配列を含むか、またはそれからなる、非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチド、たとえばマルチマーが提供される。反復配列は好ましくは同一であることが好ましく、モノマー間すなわちモノマー反復単位間に介在アミノ酸が存在しないことも好ましい。
【0014】
ゼラチン様配列(およびそのバリアント、ならびにこれらのいずれかのフラグメント)の安定性および発現レベルは前記の非天然配列を微生物において発現させることによって高レベルとなり、かつこれらのポリペプチドは選択した微生物によって高収量で分泌される。特に適切な微生物はメチロトローフ酵母であり、これを工学的に作製した核酸配列(DNAまたはRNA)により改変する。これらの改変した酵母の使用により、大規模発酵を用いてRGDを含む人工的な組換えゼラチンを高収量で製造できる。
【0015】
本発明のRGDを含む人工的な組換えゼラチンを含むか、またはそれからなる、組成物および用具も提供される。
一般的な定義
用語’コラーゲン’、’コラーゲン関連’、’コラーゲン由来’なども当技術分野でしばしば用いられるが、本明細書の他の箇所全体において用語’ゼラチン’または’ゼラチン様’タンパク質を用いる。天然ゼラチンは5,000から400,000ダルトンより大きい範囲にまで及ぶMWをもつ個々のポリマーの混合物である。
【0016】
用語”細胞接着(cell adhesion)”と”細胞付着(cell attachment)”は互換性をもって用いられる。
用語”RGD配列”および”RGDモチーフ”および”Arg−Gly−Asp”も互換性をもって用いられる。用語”RGD富化した”は、本明細書中で少なくとも1つのRGDモチーフを含むアミノ酸配列を表わす。本発明に関して用語”RGD富化した”は、分子当たりのアミノ酸の総数に対するパーセントとして計算して一定レベルのXRGDモチーフが存在すること、およびアミノ酸配列中に一定の多少とも均一なRGD配列分布があることを意味する。RGD配列のレベルは、パーセントとして表わすことができる。このパーセントは、RGDモチーフの数をアミノ酸の総数で割り、その結果を100倍することにより計算される。また、RGDモチーフの数は1から出発する、2、3などの整数である。
【0017】
特に、”RGD富化した”は、本明細書中でアミノ酸の総数に対するRGDモチーフのパーセントが少なくとも0.4であるアミノ酸配列を表わし、アミノ酸配列がアミノ酸250個以上を含む場合、アミノ酸250個の範囲それぞれが少なくとも1つのXRGDモチーフを含む。好ましくは、XRGDモチーフのパーセントは少なくとも0.6、より好ましくは少なくとも0.8、より好ましくは少なくとも1.0、より好ましくは少なくとも1.2、より好ましくは少なくとも1.5、最も好ましくは少なくとも1.8である。
【0018】
好ましくは、”RGD富化した”は、5kDaの分子量当たり少なくとも1つのRGD配列をもつポリペプチドを表わす。本発明に関して、分子量は特に一次アミノ酸配列の計算分子量を表わし、したがって本発明のポリペプチドを組換え産生させた特定の宿主微生物の翻訳後修飾をおそらく考慮していない。本明細書に示した好ましい微生物、特に酵母については翻訳後修飾は起きないと推測されることを指摘する。本発明のゼラチンはRGD配列の無い5kDa部分を含まないことが好ましい。
【0019】
少なくとも0.4以上のRGDモチーフのパーセントは、アミノ酸250個当たり少なくとも1以上のRGD配列に相当する。XRGDモチーフの数は整数であり、したがって0.4%の特徴を満たすためには、アミノ酸251個からなるアミノ酸配列は少なくとも2つのRGD配列を含むべきである。好ましくは、本発明のRGD富化したゼラチンは、アミノ酸250個当たり少なくとも2つのRGD配列、より好ましくはアミノ酸250個当たり少なくとも3つのRGD配列、最も好ましくはアミノ酸250個当たり少なくとも4つのRGD配列を含む。さらに他の態様において、本発明のRGD富化した組換えゼラチンは、30kDaの計算分子量当たり少なくとも4つのRGDモチーフ、好ましくは30kDa当たり少なくとも6つのRGDモチーフを含む。
【0020】
”XおよびYの位置における比較的大きな割合のプロリン残基”は、GXYトリプレットの少なくとも三分の一がプロリン残基を含むことを意味する。
”フラグメント”はより長い核酸またはポリペプチド分子の一部であり、より長い分子のうちたとえば少なくとも10、15、20、25、30、50、100、200、500またはそれ以上の連続したヌクレオチドまたはアミノ酸残基を含むか、またはそれからなる。
【0021】
”自然”または”天然”コラーゲンまたはコラーゲン性ドメインは、自然界で、たとえばヒトまたは他の哺乳動物にみられる核酸配列またはアミノ酸配列を表わす。
”非天然ゼラチン”、または工学的に作製した組換えゼラチン、または人工的な組換えゼラチンは、自然界に存在するコラーゲンではない、またはその一部ではないGXY配列である。
【0022】
用語”タンパク質”または”ポリペプチド”または”ペプチド”は互換性をもって用いられ、アミノ酸の鎖からなる分子を表わし、特定の作用様式、サイズ、三次元構造または由来を表わすものではない。単離されたタンパク質は、それの自然環境内ではみられないタンパク質、たとえば培地から精製したタンパク質である。
【0023】
用語”支持体”または”細胞付着支持体”は、本明細書中で、細胞の付着および/または増殖を容易にするために使用できるいずれかの支持体、たとえば培養皿、マイクロキャリヤー(たとえばマイクロキャリヤービーズ)、ステント、インプラント、プラスターなどを表わす。
【0024】
用語”実質的に同一”、”実質的同一性”、または”本質的に類似”または”本質的類似性”は、2つのポリペプチドをデフォルトパラメーターのスミス−ウォーターマン(Smith−Waterman)アルゴリズムを用いてペアワイズアラインメントした際に少なくとも60%、70%、80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、96%または97%、より好ましくは少なくとも98%、99%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を構成することを意味する。配列アラインメント、および配列同一性パーセントに関するスコアは、コンピュータープログラム、たとえばGCG Wisconsin Package,Version 10.3(Accelrys Inc.から入手できる;9685 Scranton Road, San Diego, CA 92121-3752 USA)を用いて、またはEmboss WIN(たとえばversion 2.10.0)を用いて決定できる。2つの配列間の配列同一性を比較するためには、局所アラインメントアルゴリズム、たとえばEmbossWINプログラム”water”に使用されるスミス−ウォーターマン
アルゴリズム(Smith TF, Waterman MS (1981) J. MoI. Biol 147(l);195-7)を用いるのが好ましい。デフォルトパラメーターは、タンパク質に関するBlosum62置換マトリックスを用いて、ギャップオープニングペナルティー10.0およびギャップエクステンションペナルティー0.5である(Henikoff & Henikoff, 1992, PNAS 89, 915-919)。
【0025】
用語”含む”は、記載した部分、工程または構成要素の存在を特定するけれども追加の1以上の部分、工程または構成要素の存在を除外するものではないと解釈すべきである。
さらに、不定冠詞”a”または”an”による要素の表記は、その状況から1つ、かつ1つだけの要素があることが明らかに要求されない限り、1より多い要素が存在する可能性を除外するものではない。したがって、不定冠詞”a”または”an”は通常は”少なくとも1つ”を意味する。
【0026】
”モノマー”は、ポリペプチド単位(またはそれをコードする核酸配列)であって、その単位を線状に反復させてより長いポリペプチドを生成させることによって”マルチマー”(または”ポリマー”、これは互換性をもって用いられる)を生成させるのに使用できるものを表わす。モノマー単位は好ましくは介在アミノ酸なしに反復されるが、場合により1、2、3、4、5個またはそれ以上の連結アミノ酸がモノマー単位間に存在してもよい。
【0027】
用語”改良された安定性”は、酵母発現宿主の通常の培養条件下およびゼラチンが単離される通常の条件下でXRGD富化ゼラチンが加水分解されないこと、または天然にある構造体に由来する対応する配列と比較して加水分解される程度が好ましくは少なくとも10%またはそれ以上少ないことを意味する。
【0028】
”三重らせんを含まない”構造体は、円二色スペクトルにおいてコラーゲン三重らせんに特徴的な陽性ピークが本質的に存在しないことを表わす。円二色分光法は、Werten et al. (2001, Protein Engineering 14: 447-454)の記載に従って実施できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
意外にも、高収量の改良されたきわめて安定なペプチドまたはポリペプチドを得るのが可能なことが見いだされた。これは、組換えゼラチンの生産方法を経済的に実行可能なものにするためにきわめて有益である。したがって本発明は、組換え製造した非天然ゼラチンに関する。本発明のゼラチンの安定性はすべての用途、特にゼラチンの完全性に依存する用途にとって有益である。これらのポリペプチドは、抗原性が低いのでいかなる健康関連リスクを示すこともない;これは、これらのポリペプチドはウイルス、プリオンなどの病的因子を伝達するリスクなしに使用できることを意味する。本発明は、臨床、医薬および/またはバイオテクノロジー用途に使用するのにきわめて適切なペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質、特にゼラチンまたはゼラチン様タンパク質に関する。たとえば、無傷の分子を循環状態に維持する血漿エキスパンダーとしての使用は重要であり、本発明のゼラチンはその用途に有利な適性をもつ。同様に、特に止血、皮膚充填剤または細胞接着も重要な領域である。1態様において、本発明はRGDを含む既知の組換えゼラチン様ポリペプチド、たとえばUS2006/0241032に記載されるもの、特にそこにSEQ ID NO:2と表示される配列と比較して改良された特性をもつ、細胞結合ペプチドまたはポリペプチドに関する。
【0030】
説明したように、ゼラチン中にはグリシン残基および比較的大きな割合のプロリン残基が必ず存在するため、本発明による非天然のゼラチン様ポリペプチドまたはタンパク質は天然コラーゲンの一部である同じ長さのポリペプチド配列とある程度の相同性をもつ可能性がある。しかし、本発明のゼラチンそのものは自然界には存在せず、たとえば天然配列と異なる形態である。本発明のアミノ酸配列は、天然コラーゲンのアミノ酸配列と50%以上、または60%以上の相同性を示す可能性もある。相異は、天然配列の変異、たとえば天然配列に対する挿入、欠失および置換にあってもよい。そのほか、天然DNA配列と適度の相同性をもつ合成DNA配列を利用できる。変異によって、4以上の異なるアミノ酸を含み、それらのうち2つはGlyおよびProであるアミノ酸配列が常に生成すべきである。好ましくは8以上、さらに9以上の異なるアミノ酸が存在すべきである。大部分のアミノ酸三つ組、好ましくは少なくとも80%が配列GXY(ここでGはグリシンであり、XおよびYはいずれかのアミノ酸である)をもつべきであるが、副次的な異なる三つ組、たとえばAXY(A=アラニン)により要求特性が変化することはない。相当数のGXYトリプレットが配列GXPまたはGPY(P=プロリン)をもつべきであり、好ましくはGXYトリプレットの半数以上がプロリン残基を含む。好ましくは、システインを避ける。
【0031】
好ましくはプロリンはヒドロキシル化されておらず、その結果、非ゲル化ポリペプチドが得られる。
本発明の1観点において、非天然ゼラチンポリペプチドは天然ゼラチンより親水性である。たとえば、これらのポリペプチドは−1.4未満、たとえば−1.5、−1.6、−1.7 −1.8、−1.9以下などのGRAVY価(親水性の総平均; Kyte and Doolittle 1982, J. Mol. Biol. 157, 105-132)をもつ。親水性は、配列中の疎水性アミノ酸(たとえばTrp、Tyr、Phe、Leu、Ile、ValおよびMet)のパーセントを低下させることによって高めることができる。たとえば、本発明のモノマーおよび/またはマルチマーポリペプチドはプロリンおよびグリシン以外の前記の疎水性アミノ酸を3、2または1個、最も好ましくは0個含むことができる。これらのモノマーおよび/またはマルチマーポリペプチドは、多量の親水性アミノ酸、たとえばアスパラギン(Asn)および/またはグルタミン(Gln)を含むこともできる。1態様において、本発明のポリペプチドは少なくとも10%のAsn(N)残基、または少なくとも10%のGln(Q)残基、または少なくとも20%のN+Q残基、好ましくは少なくとも10%のNおよび少なくとも10%のQ残基を含む。これらのパーセントは、Nおよび/またはQ残基の数をそのポリペプチドのアミノ酸残基の総数で割って100倍したものである。
【0032】
本発明によれば卓越した細胞付着特性をもつゼラチンが提供され、これは改良された安定性、改良された細胞付着特性および組織支持特性(おそらく改良された安定性に帰因するものであろう)などの利点を含む。
【0033】
1態様において、非天然の組換え製造したゼラチン様ポリペプチドはSEQ ID NO:1に対して少なくとも60%の配列同一性をもつ。この配列を本明細書中でPCMモノマーとも呼ぶ。
【0034】
1態様において、本発明のゼラチンポリペプチドは、SEQ ID NO:1またはそのフラグメント、たとえば少なくとも15個の連続アミノ酸のフラグメントに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、90%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも92%、95%、96%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性をもつアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるタンパク質と定義することもできる。”フラグメント”は、1000個未満のアミノ酸、たとえば800、600、500、300、250、200、100、50、30個またはそれ未満の連続アミノ酸、ただし好ましくは少なくとも10、15または20個のアミノ酸の部分である。
【0035】
本発明によるゼラチン様ポリペプチドモノマー
1態様において本発明は、少なくとも5kDaの分子量をもち、かつ5kDaの分子量当たり少なくとも1つのRGD配列を含む、非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチドを提供する。好ましくは、ゼラチンポリペプチドは少なくとも15kDa、好ましくは少なくとも20kDa、より好ましくは少なくとも25kDaの分子量(計算分子量)をもち、好ましくは5kDaのゼラチンの各部分が少なくとも1つのRGD配列を含む。好ましくは分子量は200kDa未満、より好ましくは150kDa未満である。そのようなゼラチンはさらに改良された安定性をもつことが見いだされた。
【0036】
特に、メチロトローフ酵母(特にピキア属および/またはハンゼヌラ属の)における全長の分解していないRGD富化タンパク質の安定性および収量は、RGD富化したゼラチン様ポリペプチドをコードする核酸配列を発現させることによって改良することができた。
【0037】
本発明の1態様においては、少なくとも5kDaの分子量をもち、少なくとも1つのXRGDモチーフを含み、ここでXはD(Asp)およびP(Pro)またはO(ヒドロキシプロリン)以外のいずれかのアミノ酸であり、好ましくは5kDaのゼラチンの各部分が少なくとも1つのXRGD配列を含む、非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチドモノマーが提供される。
【0038】
したがって好ましい1態様において本発明は、少なくとも5kDaの分子量をもつ非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチドであって、少なくとも80%のアミノ酸がGly−Xaa−Yaaトリプレットとして存在し、ここでGはグリシンであり、XaaおよびYaaはいずれかのアミノ酸であり、そのポリペプチドが5kDaの分子量当たり少なくとも1つのXRGDモチーフを含み、ここでXはD(Asp)およびP(Pro)またはO(ヒドロキシプロリン)以外のいずれかのアミノ酸である、ゼラチンポリペプチドに関する。
【0039】
本発明の非天然ポリペプチドを得るために、たとえば天然ゼラチン配列をコードする核酸配列から出発し、これから部位特異的変異誘発により修飾して、本明細書に定めるXRGDモチーフをもつ配列を得ることができる。もちろん、連続GXYモチーフ、たとえば少なくとも5、10、15、20、30、50、100、200、300またはそれ以上の連続GXYモチーフを含み、これにより少なくとも1つ、ただし好ましくはそれより多いXRGDモチーフが配列中に含まれるアミノ酸配列を、簡単に設計することも可能である。そのように設計されたポリペプチドは、これらをコードする核酸配列を作製し(日常的な分子生物学的手法を用いて)、これらを組換え宿主細胞において発現させることにより製造できる。好ましくは、XRGDモチーフ(XはDまたはPまたはOではない)の間隔は少なくとも約0、10、15、20、25、30個またはそれ以上の介在アミノ酸が存在するものである。その配列中に数個のXRGDモチーフが存在する場合、これらは考慮する用途に応じて規則的または不規則な間隔をもつことができる。
【0040】
好ましくは、XRGDモチーフはGXYモチーフの一部であり、すなわちGXYトリプレットの配列はXRGDモチーフ(1以上)により中断されていない。たとえば配列−GXY−GXY−GXR−GDY−GXY−GXY−において、XRGDモチーフは連続GXYトリプレットを中断していない。
【0041】
したがって、2より多い、たとえば3、4、5、6またはそれ以上のXRGDモチーフがモノマーポリペプチド中に存在してもよい;この場合も、Xはいずれかのアミノ酸であるが、好ましくはD、PまたはOではない。そのようなさらに他のXRGDモチーフを、たとえば部位特異的変異誘発により、または他の方法を用いて、天然配列中に導入することもできる。
【0042】
さらに他の態様において、本発明はグリコシル化されていない組換えゼラチンに関する。グリコシル化は、免疫応答を望まない用途については好ましくは阻止すべきである。好ましい態様において、本発明による非天然の組換えゼラチンポリペプチドはトレオニン(Thr、T)を含まない。アミノ酸配列中にトレオニンを存在させないことは、たとえば酵母細胞培養を用いるバイオテクノロジーによる製造系においてグリコシル化を阻止するための有効な方法となる可能性があると考えられる。
【0043】
これらのモノマーは追加のアミノ酸を一方または両方の末端に、たとえばN−および/またはC−末端に含むことができる。たとえば1、2、3、6、9、12、15またはそれ以上のアミノ酸が存在してもよい。これらはGXY三つ組の形であってもよい。末端、特にC−末端における追加のアミノ酸は、たとえばアミノ酸が1つずつ開裂することによるC−末端分解の阻止により、組換えゼラチンの安定性を高める。また末端の追加のアミノ酸はマルチマー構築を促進し、マルチマー組換えゼラチンポリペプチドは反復アミノ酸配列の一部ではないN−末端およびC−末端アミノ酸を含む可能性がある。1態様において、本発明による組換えゼラチンは前にグリシン−プロリン−プロリン(GPP)トリプレットを含み、かつカルボキシ末端において2つのグリシン残基(GG)で延長されている。
【0044】
本発明による前記ポリペプチドは、酵素および/または化学的タンパク質分解による分解に対して良好な安定性をもつ。
好ましくは、たとえばSDS−PAGEゲル上での、または他の方法、たとえばLC−MSによる安定性アッセイの途中/後に、分解または開裂生成物、すなわちコードされた(全長)ポリペプチドのものより小さなサイズのポリペプチドは見られず、または少ない。安定性は、たとえばポリペプチドが酵母宿主の培地中に分泌された後に試験することができ、これによれば実質的にすべて(少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%、99%、または最も好ましくは100%)の組換えポリペプチドが完全サイズである場合、そのポリペプチドは安定である。酵素による加水分解または化学的加水分解に対する安定性は、ポリペプチドを1種類以上のタンパク質分解酵素または加水分解性化学薬品と共にインキュベートし、特定の処理期間後に得られた分子量を分析することにより試験することもできる。
【0045】
たとえば、同じ酵母宿主において産生された組換えによる天然ゼラチンと本発明によるゼラチンの分子量を発酵後に比較した場合、本発明による組換えゼラチンは同じ条件下において同じ方法で産生された天然ゼラチンより分解が少ない。分解は、たとえば同量の試料を装入したSDS−PAGEゲル上のバンド強度を分析することによっても定量できる。たとえばWerten et al. 1999(前掲)を参照。
【0046】
好ましい態様において、非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチドは組換えDNA技術により、特にメチロトローフ酵母、好ましくはピキア属および/またはハンゼヌラ属、最も好ましくはピキア・パストリスにおいて核酸配列を発現させることにより製造される。宿主は好ましくはプロリンをヒドロキシル化できず、すなわちそれは機能性プロリル−4−ヒドロキシラーゼを欠如し、したがって、得られるポリペプチドにおいてポリマー中のGXYトリプレットのプロリン残基および/または全プロリン残基のうちヒドロキシル化されるのは10%未満、より好ましくは5%未満、4%未満、3または2%未満、最も好ましくは1%未満である。好ましくは、プロリンはヒドロキシル化されない。本発明の他の好ましい態様において、プロリンはヒドロキシル化され、したがって10%より多い、または20、30、40、50%より多い、またはそれ以上がヒドロキシル化される。本発明の組換えゼラチンは、天然コラーゲン性配列に由来することができ、本明細書中の他のいずれかの箇所に記載するアミノ酸配列基準を満たすためにさらに修飾することができる。
【0047】
本発明によるゼラチン様ポリペプチドマルチマー
さらに他の態様においては、前記モノマーのマルチマーが提供される。したがって、そのようなマルチマーはモノマー配列の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10の反復配列を含むか、またはそれからなる。したがって、さらに他の態様においては、前記のモノマー配列のマルチマーを含むか、またはそれからなる、組換えゼラチンポリペプチドが提供される。好ましくは、モノマー反復配列は同じモノマー単位(同一アミノ酸配列をもつもの)の反復配列であるが、場合により異なるモノマー単位(それぞれ前記の基準に含まれる異なるアミノ酸配列をもつもの)の組合わせも使用できる。
【0048】
好ましくはモノマー単位はスペーシングアミノ酸により分離されていないが、短い連結アミノ酸、たとえば1、2、3、4または5個のアミノ酸が1以上のモノマー間に挿入されていてもよい。
【0049】
1態様においてマルチマーは、前記のモノマーの少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10の反復配列を含むか、またはそれからなる。1態様においてマルチマーは、SEQ ID NO:1またはそのフラグメントと少なくとも60%、好ましくは70%、80%、90%もしくはそれ以上のアミノ酸配列同一性をもつ配列または実質的に同一である配列の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10の反復配列を含むか、またはそれからなる。1態様において、本発明によるマルチマー組換えゼラチンは、前にグリシン−プロリン−プロリン(GPP)トリプレットを含み、かつカルボキシ末端において2つのグリシン残基(GG)で延長されている。したがって、本発明による組換えゼラチンはGPP((SEQ ID NO:1))xGGを含み、ここでxは2以上から選択される整数であり、好ましくはxは2または3または4または5または6または7または8、10またはそれ以上である。x=1については、PCM(SEQ ID NO:2)と呼ぶ本発明によるゼラチンが得られる。PCMモノマーが2回反復するとPCM−ダイマー(SEQ ID NO:3)が得られ;前記の式においてx=2については配列PCM2(SEQ ID NO:4)が得られ、PCMモノマーが4回反復するとPCM−テトラマー(SEQ ID NO:5);が得られ;前記の式においてx=4については配列PCM4(SEQ ID NO:6)が得られる。
そのようなマルチマーは既知の標準的な分子生物学的方法を用いて作製できる。
【0050】
XRGDを含むモノマーおよび/またはマルチマーを含む材料および組成物
本発明は、細胞接着にきわめて適切であって医療またはバイオテクノロジー用途に使用できるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質、特に組換えゼラチンまたはゼラチン様タンパク質に関する。
【0051】
本発明による組換えゼラチンは細胞培養支持体をコートするのにきわめて適切であり、これをバイオテクノロジー法または医療用途に使用できることが見いだされた。
ゼラチン中のRGD配列は、細胞壁上のインテグリンと呼ばれる特異的受容体に接着することができる。これらのインテグリンは細胞結合アミノ酸配列を認識する際のそれらの特異性が異なる。天然ゼラチンおよびたとえばフィブロネクチンは共にRGD配列を含む可能性があるが、ゼラチンはフィブロネクチンに結合しない細胞を結合することができ、逆も同様である。したがって、RGD配列を含むフィブロネクチンが細胞接着の目的について必ずしもゼラチンの代替となりうるわけではない。
【0052】
組換えにより製造したゼラチンには、動物から得られたゼラチンの欠点、すなわちそれからゼラチンが得られた動物を起源とする病原体による潜在汚染がない。
細胞培養支持体として、またはそれと組み合わせて使用する場合、本発明によるゼラチン様ポリペプチドは細胞結合ポリペプチドとして機能する。それは、その上で増殖する細胞がそれを代謝することもできるという、他のポリペプチドを上回る利点をもつ。
【0053】
組換え製造したゼラチンのさらに他の利点は、分子量(MW)を均一に維持できることである。天然ゼラチン、特に天然源から単離したゼラチンは、その調製方法の結果として、5kDaより小さいペプチドから400kDaより大きい分子量をもつ大型ポリマーまでを含む幅広い分子量分布をもつことを避けられない。特に、細胞培養支持体としてのマイクロキャリヤーコアビーズと組み合わせる際に、小型ペプチドの欠点は、細胞が到達できないマイクロキャリヤー内部の微細孔にペプチドが粘着するため添加したゼラチンの一部が使用されないことである。組換え製造法によれば、目的分子量をもつゼラチンを設計でき、この望ましくない材料損失が阻止される。
【0054】
本発明による組換えゼラチンを含む細胞支持体が提供される。そのような細胞支持体は、下記よりなる群から選択できる:
1)細胞培養支持体、たとえばコアビーズ(たとえばマイクロキャリヤービーズ)もしくはペトリ皿またはこれらに類するものを、1種類以上の本発明によるゼラチン様ポリペプチドでコートしたもの;
2)インプラントまたは移植装具(たとえば股関節−、歯−、または他のインプラント、ステントなど)を、1種類以上の本発明による組換えゼラチンでコートしたもの;
3)組織工学のための骨格またはマトリックス、たとえば人工皮膚マトリックス材料を、1種類以上の組換えゼラチン様ポリペプチドでコートしたもの;
4)創傷修復製品を、1種類以上の組換えゼラチン様ポリペプチドでコートしたもの;
5)1種類以上の組換えゼラチン様ポリペプチドを含むか、またはそれからなる、組織接着剤;
1態様において、本明細書中で提供される細胞支持体は、好ましくは本発明による組換えゼラチン1種類のみ、すなわち提供されるポリペプチドの1つから選択されるものを含む。したがって、生成物のアミノ酸配列、分子量などは均一である。場合により、ペプチドはたとえば化学架橋により架橋していてもよい。
【0055】
別態様においては、本発明によるポリペプチドの混合物、たとえば本発明による2、3、4、5種類またはそれ以上の異なるアミノ酸配列を使用できる。混合物の比率は多様であってよく、たとえば1:1、または10:1、50:1、100:1、1:100、1:50、1:10、およびこれらの間の比率である。場合により、これらの混合物またはその一部もたとえば化学架橋により架橋していてもよい。
【0056】
組換えゼラチンモノマー(1種類以上)および/またはマルチマーを多孔質マイクロキャリヤービーズのコーティングに用いる場合、好ましくは少なくとも約30kDa、たとえば少なくとも約30kDa、40kDa、50kDa、60kDaもしくは70kDaまたはそれ以上の分子量をもつポリペプチドを使用する。その理由は、より小さいポリペプチドは細孔に侵入し、このためコートされたビーズの細胞付着特性に寄与せず、特に低濃度のポリペプチドをコーティング処理に用いる場合にその処理が非効率的となる可能性があるからである。
【0057】
好ましくは、使用するゼラチンまたはゼラチン様タンパク質の分子量は均一であり、75%より多い、好ましくは85%より多い、より好ましくは95%より多い、またはさらに少なくとも98%のゼラチンまたはゼラチン様タンパク質が、選択した分子量から20%以内の均一なMWをもつ。
【0058】
前記に特定した範囲内の分子量をコーティング処理に際して選択することにより、ゼラチンまたはゼラチン様タンパク質コーティング溶液の粘度を厳密に制御できる。可能な限り高い濃度のゼラチンを選択できる一方で、そのようなゼラチン溶液の完全なゲル化またはより重大な部分ゲル化を阻止することができる。均一なゼラチンは、均等にコートされたマイクロキャリヤーの処理を確実にする。均一なコーティング処理により、最小量のゼラチンの使用、および最小体積のゼラチンコーティング溶液の使用が可能になる。これらすべての結果として、当技術分野で既知のものよりはるかに効率的なコーティング処理が得られる。
【0059】
本発明の1態様においては、非孔質コアビーズを本発明のゼラチンでコートする。適切には非孔質コアビーズはポリスチレンまたはガラスで作製される。他の適切な非孔質材料は当業者に既知である。
【0060】
特に有利な態様は、多孔質コアビーズ、たとえば修飾デキストランまたは架橋セルロースまたは(多孔質)ポリスチレン、特にDEAE−デキストラン製のビーズを、本発明のゼラチンでコートする、本発明の方法である。他の適切な多孔質材料は当業者に既知であり、たとえば化学修飾した、または修飾していない、他の多糖類が含まれる。
【0061】
ビーズのサイズは50μmから500μmにまで及ぶことができる。マイクロキャリヤービーズの一般的な平均サイズは、生理食塩水中で約100、約150または約200μmである。少なくとも90%のビーズがその範囲内にあるサイズ範囲は、80〜120μm、100〜150μm、125〜175μmまたは150〜200μmに及ぶことができる。
【0062】
広範な細胞をマイクロキャリヤー上で培養できる。たとえば、無脊椎動物、魚類、鳥類からの細胞、および哺乳動物由来の細胞をマイクロキャリヤー上で培養できる。トランスフォームした細胞系および正常細胞系、線維芽細胞および上皮細胞、ならびに遺伝子工学的に処理した細胞ですら、多様な生物学的用途のために、たとえば免疫物質、たとえばインターフェロン、インターロイキン、増殖因子などの製造のために、マイクロキャリヤー上で培養できる。マイクロキャリヤー上で培養した細胞は、手足口病または狂犬病などのワクチンとして使用される多様なウイルスのための宿主としても役立つ。
【0063】
マイクロキャリヤー培養は、大量培養のほかにも多数の用途をもつ。マイクロキャリヤー上で増殖している細胞は、細胞生物学の種々の観点、たとえば細胞−対−細胞または細胞−対−培養基板の相互作用を研究するための卓越した道具として役立つ。細胞の分化および成熟、代謝の研究も、マイクロキャリヤーを用いて実施できる。そのような細胞は、電子顕微鏡による研究のために、または細胞小器官、たとえば細胞膜の単離のためにも使用できる。この系は本質的に三次元系であり、良好な三次元モデルとしても役立つ。同様に、この系を用いて細胞の共培養を行なうことができる。したがって用途には、細胞、ウイルスおよび細胞産物(たとえばインターフェロン、酵素、核酸、ホルモン)の大量生産、細胞の接着、分化および細胞機能に関する研究、潅流カラム培養系、顕微鏡による研究、有糸分裂細胞の採取、細胞の単離、膜の研究、細胞の貯蔵および輸送、細胞伝達を伴うアッセイ、ならびに標識化合物の取込みに関する研究が含まれる。
【0064】
マイクロキャリヤーは、脾細胞集団からマクロファージを枯渇させるためにも使用できる。本発明の組換え非天然ゼラチンでコートしたDEAE−デキストランマイクロキャリヤーは、コンカナバリンA(con A)によるリンパ球刺激を増強することができる。同種腫瘍細胞で周密状態にしたマイクロキャリヤービーズをマウスに注射して、体液性免疫および細胞仲介性免疫を高めることができる。植物プロトプラストを、本発明の組換えゼラチンでコートしたDEAE−デキストランマイクロキャリヤー上に固定化することができる。
【0065】
マイクロキャリヤーにより提供される大きな表面積−対−体積比の結果として、それらは実験室的規模およびたとえば4000リットル以上もの工業的規模での多様な生物学的生産に効果的に使用できる。
【0066】
ゼラチンでコートしたマイクロキャリヤーを用いて、発現生成物の大規模生産を達成できる。生産規模のバイオリアクター内へのマイクロキャリヤーの充填は、一般に20g/lであるが、40g/lまで高めることができる。マイクロキャリヤーをバッチおよび潅流システムに、撹拌培養、およびウェーブバイオリアクター(wave biorector)に、ならびに伝統的な固定単層培養およびローラー培養の表面積を拡大するために使用できる。
【0067】
さらに他の好ましい態様において、非天然ゼラチンポリペプチドは本質的にヒドロキシプロリン残基を含まない。ヒドロキシル化はコラーゲンにおける三重らせん形成の必要条件であり、ゼラチンのゲル化に際して役割を果たす。特に、組換えゼラチンのアミノ酸残基の5%未満、より好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満がヒドロキシプロリンであり、組換えゼラチンのゲル化能が好ましくない用途においては組換えゼラチンはヒドロキシプロリンを含まないことが最も好ましい。ヒドロキシプロリンを含まない組換えゼラチンはより高い濃度で使用でき、その溶液はより粘度が低く、激しい撹拌の必要性がより少なく、その結果、培養細胞に対する剪断力がより少ないであろう。WO 02/070000 Alに記載されるように、本質的にヒドロキシプロリンを含まない組換えゼラチンは、天然ゼラチンと対照的にIgEを伴う免疫反応を示さない。ヒドロキシプロリンの不存在は、たとえば機能性プロリル−4−ヒドロキシラーゼ酵素で形質転換していないかまたはそれを含まないピキア属宿主、たとえばピキア・パストリスにおける発現により達成できる。
【0068】
ヒドロキシプロリンの量は、いずれかの標準的なアミノ酸分析法、たとえばHP AminoQuant Series II, operators handbook, 1990, Hewlett-Packard GmbH, Federal Republic of Germany, Waldbronn Analytical Division, HP Part No. 01090-90025に記載された方法により測定できる。
【0069】
1態様において、本発明の組換え製造した非天然ゼラチンポリペプチドは三重らせん構造を含まない。
コラーゲンコートしたマイクロキャリヤーの製造方法はUS 4,994,388に記載されている。要約すると、コアビーズへのコラーゲンコーティングの付与は2工程で行われる:コーティングおよび固定。コアビーズを酸性コラーゲン水溶液(0.01〜0.1N酢酸)に懸濁し、溶液を蒸発乾固させる。乾固したコラーゲンコートされたビーズを、次いでタンパク質架橋剤、たとえばグルタルアルデヒドを含有する溶液に懸濁し、こうしてコラーゲンコーティングを架橋させる。あるいは、コラーゲン溶液で湿潤させたコアビーズを固定工程の開始前に完全には乾燥させない。コーティング条件の変更および別のコーティング処理も当業者が容易になしうる範囲のものである。
【0070】
さらに他の態様において本発明は、細胞の表面受容体を遮断するための、およびそのような受容体を遮断する組成物を調製するための、本発明による組換えゼラチンの使用に関する。細胞の受容体の遮断は、たとえば血管形成の阻害または心臓線維芽細胞上のインテグリンの遮断に適用される。
【0071】
本発明による組換えゼラチンでコートし、その上で細胞を増殖させた細胞支持体は、たとえば皮膚の移植もしくは創傷の処置に際して、または骨もしくは軟骨の(再)増殖を増強するために適用できる。インプラント材料を本発明の組換えゼラチンでコートして細胞を接着させ、これにより移植を促進することもできる。
【0072】
1態様において本発明は、本発明による非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチドを含む組成物に関する。
1態様において、組成物は医薬組成物または栄養−もしくは栄養補助組成物である。たとえば、本発明のポリペプチド、特にマルチマーは、代用血液中に血漿エキスパンダーとして使用できる。
【0073】
本発明のさらに他の態様においては、1種類以上の本発明による組換えゼラチンを含む制御放出組成物が提供される。したがって、この組成物はさらに1種類以上の薬物を含むことができる。制御放出配合物は、当技術分野で知られているように、たとえば組換えゼラチン様タンパク質またはこれらを含む組成物を1種類以上の薬物の周囲のコーティング層として用いることにより、または薬物を内包したもしくは取り込んだマトリックスの作製のために用いることにより調製できる。制御放出組成物は、注射(皮下、静脈内または筋肉内)または経口により、または吸入により投与できる。しかし、使用する制御放出組成物を外科的に埋め込むこともできる。さらに他の適切な投与経路は、外部創傷包帯、またはさらに経皮によるものである。
【0074】
制御放出組成物は、好ましくは架橋した形の、たとえば化学架橋した組換えゼラチンを含む。本発明はさらに、痛み、癌療法、心血管疾患、心筋修復、血管形成、骨の修復および再生、創傷の処置、神経刺激/療法、または糖尿病を処置する医薬を製造するための、本明細書に記載する制御放出組成物の使用を提供する。
【0075】
本発明のさらに他の態様においては、本発明の非天然の組換えゼラチンを創傷包帯剤および/または止血剤として使用する。このために、当技術分野で既知の方法を用いて本発明の組換えゼラチンをスポンジ様材料に変換する。このスポンジに適切な抗出血化合物を含浸させることができる。さらに、この組換えゼラチンスポンジを他のスポンジ様材料と組み合わせることができ、あるいはスポンジは本発明の組換えゼラチンの水溶液を蒸発させることにより作製でき、その際この溶液はスポンジの特性、たとえば創傷への接着、血液の取込み能などを改良するための他の成分を含むことができる。本発明の組換え非天然ゼラチンと組み合わせるのに適切な化合物は、たとえばキトサンまたは酸化型再生セルロース(ORC)である。場合により、スポンジ形成の途中または後に本発明の組換えゼラチンをある程度架橋させてもよい。
【0076】
この架橋は、当技術分野で既知のいずれかの方法で行なわれる。一例は、本発明の組換えゼラチンの水溶液に架橋剤を添加し、その後、水を蒸発させるものである。架橋剤はスポンジ材料が形成された後に、スポンジに架橋剤を含浸させ、そしてスポンジを蒸発乾固することにより添加することもできる。適切な架橋剤は、たとえばアルデヒド類たとえばグルタルアルデヒド、またはカルボジイミドである。
【0077】
本発明によるスポンジを適用する医療分野はかなり広い。このスポンジは、高い血圧を伴うきわめて大きな出血領域の出血を止めるために使用できるだけでなく、毛細血管出血(滲み出る血液)を止めるためにも使用できる。以下の内部または外部外科処置は、本発明による止血スポンジを用いて効果的に実施される:一般的な外科処置、たとえば実質臓器(肝臓、腎臓、脾臓など)の外科処置、心血管外科処置、胸部外科処置、移植外科処置、整形外科処置、骨の外科処置、形成外科処置、耳、鼻および咽頭の外科処置、神経外科処置、泌尿器科および婦人科における外科処置、ならびに創傷処置などにおける止血。
【0078】
さらに他の態様においては、本発明の非天然の組換えゼラチンを皮膚充填剤として使用する。この用途においては、非天然の組換えゼラチンをまず水に溶解し、次いでより親水性の低い溶剤、たとえばアセトンの添加によりこの水溶液から沈殿させる。沈殿に際して、架橋剤、たとえば2つのリジン残基を架橋させるグルタルアルデヒドが存在してもよい。他の周知の生体適合性架橋剤は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩;EDCである。
【0079】
これらの架橋剤または架橋剤の組合わせは、ポリペプチド溶液に添加すると自然に、またはたとえばpHを調整した後に、または光開始その他の活性化機序により架橋を開始させる物質を含むことができる。
【0080】
適切な架橋剤は、好ましくは生分解中に放出された際に毒性または抗原作用を誘発しないものである。適切な架橋剤は、たとえばグルタルアルデヒド、水溶性カルボジイミド類、ビスエポキシ化合物、ホルマリン、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N−ヒドロキシ−スクシンイミド、グリシジルエーテル類、たとえばアルキレングリコールジグリシジルエーテル類またはポリグリセロールポリグリシジルエーテルのうち1種類以上である。きわめて小さな粒子を得ることができる。組換えコラーゲン粒子は1〜500ミクロンの平均サイズをもつことができ、注入用の組織充填剤として、または組織増補もしくは美容外科処置のために適切である。そのような用途について、平均粒度は好ましくは100ミクロン以上である。150〜500の平均粒度も好ましい。他の適切な平均粒度は220、250、300、350、400および450ミクロンである。組織充填剤または増補剤として適切な粒子は、粒子の注入後に塊の形成が起きずに自然な印象が得られるように、変形性であるべきである。
【0081】
本発明による組換えゼラチンは、EP−A−0926543、EP−A−1014176またはWO 01/34646に開示された組換え法により製造できる。本発明のゼラチンの製造および精製を可能にするために、EP−A−0926543およびEP−A−1014176中の例も参照される。
【0082】
したがって、前記の非天然ゼラチンポリペプチドは、それらのポリペプチドをコードする核酸配列を適切な微生物により発現させることによって製造できる。この方法は、真菌細胞または酵母細胞を用いて適切に実施できる。適切には、宿主細胞は高発現性の宿主細胞、たとえばハンゼヌラ属(Hansenula)、トリコデルマ属(Trichoderma)、コウジカビ属(Aspergillus)、アオカビ属(Penicillium)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、クリベロミセス属(Kluyveromyces)、アカパンカビ属(Neurospora)またはピキア属(Pichia)である。真菌および酵母細胞は反復配列の不適切な発現を生じにくいので、それらの方が細菌より好ましい。最も好ましくは、宿主は発現したコラーゲン構造体を攻撃する高レベルのプロテアーゼをもたないであろう。メチロトローフ酵母細胞の使用が好ましい。これに関して、ピキア属またはハンゼヌラ属はきわめて適切な発現系の例である。発現系としてのピキア・パストリスの使用は、EP−A−0926543およびEP−A−1014176に開示されている。1態様において、微生物は活性な翻訳後プロセシング機序、たとえば特にプロリンのヒドロキシル化を伴わず、リジンのヒドロキシル化も伴わない。他の態様において、宿主系は内因性のプロリンヒドロキシル化活性をもち、これにより組換えゼラチンはきわめて効果的にヒドロキシル化される。既知の工業用の酵素産生真菌宿主細胞、特に酵母細胞から、宿主細胞を本発明による組成物に適切な組換えゼラチン様タンパク質の発現に適切なものにするために必要な本明細書に記載するパラメーターと宿主細胞および発現させる配列に関する知識とを合わせたものに基づいて適切な宿主細胞を選択することは、当業者がなしうるであろう。
【0083】
したがって本発明の1観点においては、本発明による非天然の組換えゼラチンを製造するための方法であって、下記の工程を含む方法が提供される:
−前記の非天然の組換えゼラチンポリペプチドをコードする核酸配列が適切なプロモーターに作動可能な状態で連結したものを含む発現ベクターを調製し、
−酵母菌種、好ましくはメチロトローフ酵母、好ましくはピキア・パストリスを前記の発現ベクターで形質転換し、
−前記の核酸配列を発現させて本発明の非天然ゼラチンを分泌させるのに適切な発酵条件下でその酵母菌種を培養し、そして
−場合により前記ポリペプチドを培養物から単離する。
【0084】
前記ポリペプチドを宿主細胞から回収することもできるが、これは好ましくない。好ましくは、非天然の組換えゼラチンは少なくとも5g/l上清、好ましくは少なくとも7g/lのレベル、より好ましくは9g/l上清より多い量で製造される。12、13、15もしくは17もしくは19g/lまたはそれ以上もの高い分泌レベルすら達成された。好ましくは、本発明の非天然の組換えゼラチンポリペプチドを単離および精製する。
【0085】
変異宿主株、たとえば1種類以上のタンパク質分解酵素を欠如する株も使用できるが、組換えポリペプチドはタンパク質分解に対してきわめて安定かつ抵抗性であるので、これは本発明によれば必要ではない。
【0086】
配列
SEQ ID NO 1:PCM−モノマー
SEQ ID NO 2:PCM
SEQ ID NO 3:PCM−ダイマー
SEQ ID NO 4:PCM2
SEQ ID NO 5:PCM−テトラマー
SEQ ID NO 6:PCM4。
【実施例】
【0087】
実施例1:
Werten et al. (2001, Protein Engineering 14:447-454;本明細書に援用する)に詳述されたpPIC9−P4の構築と同様に、PCMに対する遺伝子を含むベクターを調製した。
【0088】
AOX1プロモーターおよびPCMに対する遺伝子を含むpPIC9−PCM由来のBglII−Notフラグメントを、pPIC9−PCMから、同酵素で消化したpPICZ A中へサブクローニングして、pPICZ−PCMを得た。pPICZ−PCMからゼオシン(Zeocin)耐性遺伝子中のDraIII部位を部位特異的変異誘発により除去して、PCMに対する遺伝子中のDraIII部位をユニークにした。pPICZ−PCMからのPCM遺伝子を含むHindIII−PflMIフラグメントを、DraIIIおよびHindIIIで消化したpPICZ−PCM中へサブクローニングした。
【0089】
これによりプラスミドpPICZ−PCM2が形成された。pPICZ−PCM2からのHindIII−PflMIフラグメントを、HindIIIおよびDraIIIで消化した同じプラスミド中へサブクローニングすることにより、プラスミドpPICZ−PCM4が生成した。
【0090】
プラスミドpPICZ−PCM、pPICZ−PCM2およびpPICZ−PCM4をPmeIで線状にし、ピキア・パストリスX−33中へ形質転換した。1.0および1.5mg/mlのゼオシン上で多重コピー組込み菌体を選択した。製造業者(Invitrogen)のプロトコルに従った。
【0091】
これらの形質転換により得られた代表的な菌株を高密度細胞培養において標準的な発酵条件下(約4のpH)で増殖させ、上清中の目的ゼラチンの収量をUPLCにより測定した(BSAを基準として使用)。
【0092】
得られた収量は下記のとおりであった:
PCM 9g/l
PCM2 12g/l
PCM4 17g/l。
【0093】
PCMのアミノ酸配列(SEQ ID NO:2):
【0094】
【化1】

【0095】
計算分子量は29.7kDaである;6つのRGDモチーフを含む。
2つの反復配列を含む、PCMモノマー配列SEQ ID NO:1を含むマルチマーPCM2を作製した(SEQ ID NO:4):
【0096】
【化2】

【0097】
計算分子量は59,0kDaである;12のRGDモチーフを含む。
4つの反復配列を含む、PCMモノマー配列SEQ ID NO:1を含むマルチマーPCM4を作製した(SEQ ID NO:6):
【0098】
【化3】

【0099】
実施例2:
マイクロキャリヤービーズの調製
平均直径100マイクロメートルのポリスチレンビーズを用いる。ヘテロ二官能性架橋剤BBA−EAC−NOSを用いて、ゼラチンをポリスチレンビーズ上に共有結合により固定化する。BBA−EAC−NOSをポリスチレンビーズに添加し、吸着させる。次いでゼラチンを添加し、このNOS合成ポリマーと反応させて、このスペーサーへの共有結合を生じさせる。次いでビーズを(320nmで)光活性化して、スペーサー(および共有結合したゼラチン)をポリスチレンビーズに共有結合により固定化する。最後に、リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.2)中の緩和な界面活性剤Tween 20で一夜洗浄することにより、ゆるく付着したゼラチンを除去する。
【0100】
細胞タイプおよび培養条件
ミドリザル(Green monkey)腎(Vero)細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、正常ラット腎線維芽(NRK−49F)細胞、およびMadin Darbyイヌ腎(MDCK)細胞を、ATCCから購入した。4種類すべての細胞タイプを75cm2のフラスコ内で37℃において5% CO2の環境で継代および維持した。VeroおよびNRK−49F細胞はダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)中で培養され、CHO細胞はハム(Ham)のF−12栄養素混合物中で培養され、MDCK細胞はアールの塩類(Earle’s salts)を含む最少必須培
地(MEM)中で培養された。
【0101】
VeroおよびCHO細胞については、培地に10%のウシ胎仔血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、20mMのHEPES緩衝液、1mMのピルビン酸ナトリウム、100ug/mlのストレプトマイシン、および100単位/mlのペニシリンを補充した(最終pH7.1)。NRK−49F細胞については、DMEMに5%のFBS、2mMのL−グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸(各0.1mM)、100μg/mlのストレプトマイシン、100単位/mlのペニシリン、および0.25μg/mlのアンホテリシンBを補充した(最終pH7.1)。MDCK細胞については、MEMに10%のFBS、2mMのL−グルタミン、非必須アミノ酸(各0.1mM)、ならびに100μg/mlのストレプトマイシン、100単位/mlのペニシリン、および0.25μg/mlのアンホテリシンBを補充した(最終pH7.1)。
【0102】
各実験の前に細胞の生理的状態を標準化するために、マイクロキャリヤービーズ接種の2〜3日前に細胞を150cm2のフラスコに継代した。細胞をフラスコから離脱させるためにトリプシン処理した(PBS中、0.05%のトリプシン、0.53mMのEDTA)。マイクロキャリヤー実験のために、細胞を遠心してトリプシン培地を除去し、培養培地に再懸濁して約1×106細胞/mlにした。生存細胞濃度をトリパン色素排除により判定した(0.9%生理食塩水中の0.4%トリパンブルー)。
【0103】
撹拌フラスコにおける細胞培養およびアッセイ
細胞付着アッセイのために、20mg/mlのコートしたポリスチレンビーズを用い、細胞濃度はそれぞれの細胞タイプにつき1.5×105細胞/mlであった。
【0104】
100mlの培養物を250mlの撹拌容器内に維持し、懸垂型の磁気インペラーで撹拌しながら(50rpm)、マイクロキャリヤーを培養した。
細胞付着の動態を上清細胞濃度の低下としてアッセイした。試料を取り出すために撹拌を短時間(約30秒間)停止し、この時点でマイクロキャリヤーは沈降し、下記に従って細胞を定量するために上清試料を取り出した。
【0105】
細胞計数のために、細胞を0.1Mクエン酸中のクリスタルバイオレット(0.1% w/w)等体積と混合することにより染色し、次いで血球計数器で計数した。培地からの細胞枯渇をビーズに付着した細胞の指標として用いた。
【0106】
培地から除かれた細胞が実際にマイクロキャリヤーに付着した(かつ細胞溶解していない)ことを証明するために、マイクロキャリヤーに付着した細胞をそれぞれの細胞付着アッセイの終了時に定量した。十分に撹拌したキャリヤー培地1mlずつを取り出し、マイクロキャリヤーを沈降させ、沈降したマイクロキャリヤーを前記のクリスタルバイオレット/クエン酸に再懸濁した。37℃で1時間インキュベートした後、懸濁液をパスツールピペットに吸入排出することにより剪断して核を放出させ、これを血球計数器で定量した。
【0107】
ゼラチンPCM(SEQ ID NO:2)を前記操作に従ってマイクロキャリヤーコーティングとして用い、US 2006/0241032に開示された4つのRGD配列をもつ配列識別番号2の参照RGD富化ゼラチンと比較した。PCMは、出発培地からの細胞枯渇数に関して、またマイクロキャリヤーへの細胞付着に関しても、改良された結果を示した。この改良は、US 2006/0241032に開示された識別番号2の配列と比較して改良されたPCMゼラチンの安定性に帰因する可能性がある。
【0108】
同様にPCM2およびPCM4を前記の操作に従ってマイクロキャリヤーコーティングとして用い、US 2006/0241032に開示された配列識別番号2のRGD富化ゼラチンのトリマー、テトラマーおよびクインタマーと比較する。PCM2およびPCM4は、おそらく改良されたそれらの安定性に帰因すると思われるが、US 2006/0241032に開示された識別番号2の配列に基づくマルチマーゼラチンと比較して、マイクロキャリヤーへの改良された細胞付着を示す。PCM2およびPCM4でコートしたマイクロキャリヤーの粒度測定も、コートしたマイクロキャリヤーの24時間保持後および細胞付着アッセイ直後に、US 2006/0241032に開示された識別番号2の配列に基づくマルチマーゼラチンと比較して、より均一な粒度分布を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも5kDaの分子量を有する非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチドであって、少なくとも80%のアミノ酸がGly−Xaa−Yaaトリプレットとして存在し、ここでGはグリシンであり、XaaおよびYaaはいずれかのアミノ酸であり、そのポリペプチドが5kDaの分子量当たり少なくとも1つのXRGDモチーフを含み、ここでXはD(Asp)およびP(Pro)またはO(ヒドロキシプロリン)以外のいずれかのアミノ酸である、前記ゼラチンポリペプチド。
【請求項2】
XがK、R、H、S、A、G、N、QおよびEよりなる群から選択される、請求項1に記載の非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチド。
【請求項3】
少なくとも2つのXRGDモチーフ、好ましくは少なくとも3つのXRGDモチーフを含む、請求項1または2に記載の非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチド。
【請求項4】
5kDaのポリペプチドの各部分が少なくとも1つのXRGD配列を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチド。
【請求項5】
10%未満、より好ましくは5%未満、最も好ましくは1%未満のプロリンがヒドロキシル化されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチド。
【請求項6】
SEQ ID NO:1に対して少なくとも60%の配列同一性を有する配列を含むか、またはそれからなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチド。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組換えゼラチンポリペプチドの少なくとも2つの反復配列を含むか、またはそれからなる、非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチド。
【請求項8】
反復配列のアミノ酸配列が同一である、請求項7に記載のポリマー状組換えゼラチン。
【請求項9】
反復配列がモノマー反復単位の間に7個未満の介在アミノ酸を含む、請求項8に記載のポリマー状組換えゼラチン。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の組換えゼラチンを含む、細胞支持体。
【請求項11】
細胞支持体が、組換えゼラチンでコートしたインプラントまたは移植材料、組換えゼラチンでコートした組織工学用骨格、歯科製品(の一部)、創傷修復製品(の一部)、人工皮膚マトリックス材料(の一部)、および組織接着剤(の一部)よりなる群から選択される、請求項10に記載の細胞支持体。
【請求項12】
細胞支持体が、組換えゼラチンでコートしたインプラントまたは移植材料、組換えゼラチンでコートした組織工学用骨格、歯科製品(の一部)、創傷修復製品(の一部)、人工皮膚マトリックス材料(の一部)、および組織接着剤(の一部)よりなる群から選択される、請求項11に記載の細胞支持体。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の組換えゼラチンを含む、制御放出組成物。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の組換えゼラチンを含む、止血組成物。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の組換えゼラチンを含む、皮膚充填剤組成物。
【請求項16】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の非天然の組換え製造したゼラチンポリペプチドを含む組成物。
【請求項17】
組成物が医薬組成物または栄養組成物もしくは栄養補助組成物である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
癌の転移を阻害し、血小板の凝集を阻止し、または外科手術後に組織の癒着を阻止する医薬を調製するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組換えゼラチンの使用。
【請求項19】
制御放出組成物を調製するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組換えゼラチンの使用。
【請求項20】
請求項1〜9に記載の組換えゼラチンを製造するための方法であって、下記を含む方法:
a)請求項1〜9に記載のポリペプチドをコードする核酸配列が適切なプロモーターに作動可能な状態で連結したものを含む発現ベクターを調製し、
b)酵母菌種を前記の発現ベクターで形質転換し、
c)前記の核酸配列を発現するのに適切な発酵条件下でその酵母菌種を培養し、
d)場合により前記ポリペプチドを培地および/または宿主細胞から単離する。

【公表番号】特表2010−519293(P2010−519293A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550817(P2009−550817)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050104
【国際公開番号】WO2008/103044
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(509077761)フジフィルム・マニュファクチュアリング・ヨーロッパ・ベスローテン・フエンノートシャップ (25)
【Fターム(参考)】