説明

止水処理用吸引治具及びこれを用いた車載用電線の止水処理方法

【課題】 車載用電線の止水処理を簡単かつ効率よく行う。
【解決手段】 例えばアース用電線10を止水処理するにあたり、アース用電線10に固定されているコネクタ端子30及びシール栓36を挿入可能な減圧室48を形成するとともにこれらが挿入される入口部46に前記シール栓36の外周面が全周にわたって密着可能な内周面を有するハウジング42を備えた止水処理用吸引治具40を用い、前記減圧室48の入口部46内にコネクタ端子30を挿入してその入口部46にシール栓36を嵌入した状態で減圧室48内を減圧することにより、アース用電線10のコネクタ側端末から導体12と被覆材14との隙間に存するエアを減圧室48側に吸引する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車載用電線に止水処理を施す技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前記車載用電線としては、高い防水性が求められるものがある。例えば、車両等に設けられる電気回路をアース端子に接続するためのアース用電線は、その端末に固定されたアース接続端子が外部に露出した状態で適当なアース部位(例えば車両のボディ)に接続されるため、当該端末から水分が侵入しやすく、当該水分が被覆材の内側を伝って回路に侵入すると当該回路の正常な動作を妨げるおそれがある。
【0003】
そこで、このようなアース用電線をはじめとする車載用電線の止水処理を行う方法として、特許文献1には、車載用電線の一方の端末を吸引するとともに他方の端末に流動性を有する止水剤を供給することにより、当該止水剤を前記車載用電線の導体と被覆材との隙間に引き込んで充填する方法、及びそのための吸引治具が開示されている。ここに開示される吸引治具は、内部に減圧室を形成するハウジングの前壁にゴム栓が取り付けられたものであり、このゴム栓の内径は前記車載用電線の被覆材の外周面が隙間なく嵌着される寸法に設定されている。そして、端子等を接続する前の電線端末をこのゴム栓に圧入した状態で前記減圧室内を減圧することにより、当該電線の導体と被覆材との隙間に存するエアが前記減圧室側に吸引されるようになっている。また一方で、前記他方の端末への止水剤の供給は、端子を接続した後で行うようになっている。
【特許文献1】特開2004−355851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の治具は、あらかじめハウジングに固定されたゴム栓に電線の端末を圧入するものであるため、その圧入時に電線が屈曲する等して装着が難しく、作業効率が悪いととともに電線を傷めやすいという問題があった。また、比較的外径の小さい被覆材の外周面をゴム栓の内周面に確実に密着させるのも容易ではなく、その密着度が低くなると減圧用ポンプのエネルギーロスが大きくなる等の不具合が生じる恐れがあった。さらに、端子を接続する前の電線端末を吸引する必要があるため、この端末に端子を接続する作業は止水処理後に行う必要があり、当該端末と止水剤を供給する側の端末の両側の端末に対して同時に端子を接続することができず、製造効率上不利であった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑み、車載用電線の止水処理を簡単かつ効率よく行うことのできる止水処理用吸引治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、導体の外側に被覆材を有して車両に搭載される電線であってその一方の端末にコネクタ端子が接続されるとともにこのコネクタ端子よりも端末から遠い側に弾性材からなるシール栓が前記被覆材の周囲に密着する状態で固定されている車載用電線の当該一方の端末からエアを吸引することにより、他方の端末に供給された流動性を有する止水剤を前記導体と被覆材との隙間に引き込んで充填するための止水処理用吸引治具であって、前記車載用電線に固定されているコネクタ端子及びシール栓を挿入可能な減圧室を形成するとともにこれらが挿入される入口部に前記シール栓の外周面が全周にわたって密着可能な内周面を有するハウジングを備え、前記減圧室内に前記コネクタ端子を挿入してその減圧室の入口部に前記シール栓を嵌入した状態で前記減圧室内を減圧することにより前記一方の端末から前記車載用電線の導体と被覆材との隙間に存するエアが前記減圧室側に吸引されるように構成されていることを特徴とするとするものである。
【0007】
この止水処理用吸引治具によれば、あらかじめ車載用電線の一方の端末に接続されたコネクタ端子とこれより端末から遠い側に被覆材の周囲に密着する状態で固定されたシール栓をともに挿入可能な減圧室を形成するハウジングが、その減圧室の入口部において、前記シール栓の外周面が全周にわたって密着可能な内周面を有していることにより、当該電線端末を減圧室内に挿入する作業を、被覆材よりも大きい外径を有するシール栓を保持しながらこれを前記入口部に嵌入するという手順によって行うことができる。このため、外径が比較的小さく屈曲しやすい電線端末をハウジングに固定されたゴム栓にそのまま圧入する従来の治具と異なり、電線を傷めたりすることなく、容易に電線の挿入を行うことができるとともに、シール栓を前記入口部の内周面に確実に密着させることが可能である。さらに、コネクタ端子を接続した状態の電線端末を吸引できることから、この端末に端子を接続する作業を止水処理前に行うことができるため、当該端末と止水剤を供給する側の端末の両側の端末に対して同時に端子を接続することができ、製造効率上有利である。
【0008】
この構成においては、前記ハウジングの複数の箇所に前記減圧室の入口部を設け、各入口部にそれぞれ前記シール栓を密着状態で嵌入可能とすることが好ましい。そのようにすれば、複数の車載用電線の端末を同時に吸引することができるため、止水処理の効率を高めることができる。
【0009】
また、前記ハウジングには、前記入口部に密着状態で嵌入されたシール栓が前記ハウジングの外側へ抜けることを防ぐための抜け止め防止機構を設けるようにするとよい。そのようにすれば、前記シール栓が前記入口部に嵌入された状態を安定して維持できるため、より確実に止水処理を行うことができる。
【0010】
この抜け止め防止機構は、例えば、前記ハウジングの一面であって前記減圧室の入口部を有する面に、さらにその前面を覆い、かつ板厚方向と直交する方向にスライド可能な可動板を設けるとともに、当該可動板に、可動板スライド前の状態で前記入口部とほぼ同じ正面形状を有してこれと重なり合うように配置された貫通穴と、この貫通穴に連設され、前記被覆材の断面よりも大きくかつ前記シール栓の断面よりも小さい寸法の幅を有して前記可動板のスライド方向と反対方向に切り欠かれた切欠部を設けることにより、前記車載用電線に固定されているシール栓を前記入口部に嵌入した後で可動板をスライドさせると前記切欠部が当該車載用電線の被覆材に嵌挿されるとともにその廻りの可動板が前記シール栓の反端末側側面の一部を覆ってこのシール栓のハウジング外側への抜けを防止するように構成することによって実現することが可能である。
【0011】
なお、前記車載用電線の種類や配設個所は特に限定されるものではないが、好ましいものとして、車両に搭載される回路をアースに接続するためのアース用電線が挙げられる。このアース用電線は、一般に車両の外部環境の影響を受けやすい個所(例えば、車両のボディ)に配設されるアース部位に接続されるため、このアース側の端末から反対側の端末へ水分が浸入するのを有効に防止することができる。
【0012】
ただし、本発明に係る止水用吸引装置は、前記アース用電線に限られず、例えば、電線途中部の被覆材が剥離されたスプライス線のように被覆材内部への水分の浸入が発生し易い種類のもの、又はコネクタに防水機能が備えられていてもその回路自体に特に高い防水性が要求される回路に接続されるものにも好適に採用することができる。
【0013】
また、本発明は、前記止水処理用吸引治具を用いた車載用電線の止水処理方法であって、車載用電線の一方の端末にコネクタ端子を接続するとともにこのコネクタ端子よりも端末から遠い側に弾性材からなるシール栓を前記被覆材の周囲に密着する状態で固定するコネクタ端子圧着工程と、このコネクタ端子圧着工程後、前記コネクタ端子を減圧室内に挿入してその減圧室の入口部に前記シール栓を密着状態で嵌入する電線挿入工程と、前記車載用電線の他方の端末に流動性を有する止水剤を供給する止水剤供給工程と、前記電線挿入工程後であってこの止水剤の供給中又は供給後に、前記減圧室内を減圧して前記車載用電線の導体と被覆材との隙間に存するエアを前記減圧室側に吸引することにより、前記止水剤を当該隙間に引き込んで充填する減圧工程とを含むものである。
【0014】
この方法によれば、端子圧着工程によって車載用電線にシール栓を取り付けた後、電線挿入工程によってこの電線端末を減圧室に挿入するため、被覆材よりも大きい外径を有するシール栓を保持しながら電線の挿入作業を行うことができ、その結果、電線を傷めたりすることなく、容易に当該作業を行うことができる。また、この減圧室内に挿入した電線端末を減圧工程によって吸引するとともに、止水剤供給工程によって他方の端末に止水剤を供給することにより、止水剤を確実に導体と被覆材との隙間に引き込んで充填し、電線内の水路を確実に遮断することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の止水処理用吸引治具によれば、車載用電線の止水処理を簡単かつ効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
なお、本実施形態にかかる止水処理用吸引治具は、車両に搭載された回路をアースに接続するためのアース用電線を止水処理するための治具として説明するが、本発明はこれに限らず、高い防水性が求められる各種の車載用電線にも適用可能である。
【0018】
まず、アース用電線について説明する。図1(a)(b)に示すように、アース用電線10は、導体12の周囲に被覆材14を有しており、その両側の端末において導体12が所定長さだけ露出している。そして、一方の端末にはコネクタ端子30が接続されるとともにシール栓36が取り付けられており、他方の端末にはアース接続端子20が接続されている。以下、コネクタ端子30が接続される側の端末をコネクタ側端末、アース接続端子20が接続される側の端末をアース側端末と呼ぶ。
【0019】
コネクタ端子30は、単一の金属板で構成され、コネクタ接続部31と、導体バレル32及びインシュレーションバレル34とを一体に有している。なお、コネクタ端子30は雌端子と雄端子のいずれであってもよいが、本実施形態では雌端子としている。このため、コネクタ接続部31は角筒状に形成されており、当該筒内に相手側の雄端子が嵌入される構造になっている。そして、導体バレル32が導体12を、インシュレーションバレル34がシール栓36を、それぞれ絞止することにより、コネクタ端子30がコネクタ側端末に固定されている。
【0020】
また、シール栓36は、被覆材14を包み込むような筒状の弾性材からなり、その外周面には全周にわたってシール用突条37が形成されている。そして、インシュレーションバレル34によって絞止されることにより、コネクタ端子30より端末から遠い側に、被覆材14と密着する状態で固定されている。なお、このシール栓36は、本発明のための専用品を用いてもよいが、本実施形態では、コネクタ接続時に電線端末が収容される図略のコネクタハウジング内へ水分が浸入するのを防止するための防水用ゴム栓をシール栓36として使用し、新たな部品コストの発生を抑えるようにしている。
【0021】
アース接続端子20は、単一の金属板で構成され、車両のボディアースに接続されるアース接続部21と、導体バレル22及びインシュレーションバレル24とを一体に有している。アース接続部21には図略のボルトが挿通可能なボルト挿通孔21aが設けられ、当該ボルトによって前記アース接続部21が車両のボディに締結されることにより、当該ボディに電気的に接続される(すなわちボディアースに接続される)ようになっている。そして、導体バレル22が導体12を、インシュレーションバレル24が被覆材14を、それぞれ絞止することにより、アース接続端子20がアース側端末に固定されている。
【0022】
次に、止水処理用吸引治具について説明する。図2に示すように、本実施形態にかかる止水処理用吸引治具40は、内部に減圧室48を形成するハウジング42を備え、これが適当な配管60及び圧力制御盤62を介して吸引ポンプ64の吸込み口に接続されることにより、減圧室48内のエアが吸引されるようになっている。そして、この減圧室48にアース用電線10のコネクタ側端末を挿入することにより、当該端末から電線内に存するエアを吸引できる構成となっている。
【0023】
この止水処理用吸引治具40の正面形状を図3(a)に、断面形状を図3(b)示す。図3(b)に示すように、ハウジング42の前壁44には、板厚方向に貫通し、減圧室48と一体の空間を形成する孔が設けられている。すなわち、当該孔は減圧室48の一部であって、減圧室48の入口部46を形成するものである。この入口部46は、アース用電線10に固定されているコネクタ端子30及びシール栓36をともに挿入することが可能な形状を有している。また、入口部46を形成している前壁44の内周面は、図示のようにシール栓36のシール用突条37が全周にわたって密着されるような内径に設定されているため、シール栓36がこの入口部46に嵌入された状態において減圧室48の密閉状態が維持されるようになっている。従って、この状態で減圧室48内が減圧されると、アース用電線10の導体12と被覆材14との隙間に存するエアが当該端末から減圧室48側に吸引されることになる。なお、入口部46は1個であってもよいが、本実施形態では、複数本のアース用電線10の端末を同時に吸引できるようにして止水処理の効率化を図るべく、入口部46は複数個設けられている。
【0024】
ハウジング42の前壁44には、さらにその前面に、板厚方向と直交する方向にスライド可能な状態で可動板50が取り付けられている。具体的には、図3(a)に示すように、可動板50の四隅に長穴58を設け、これを挿通するビス56を用いて前壁44に可動板50を緩目に締結することにより、可動板50をスライド可能に取り付けている。これにより、可動板50は、図示のY方向に、長穴58の長手方向の長さ分だけスライド可能になっている。
【0025】
この可動板50には、可動板50がスライドする前の状態で前記入口部46と同じ穴径を有してこれと重なり合うように配置された貫通穴52が設けられている。これにより、アース用電線10のコネクタ側端末を、貫通穴52を通過させてその奥にある入口部46に挿入することが可能となる。また貫通穴52は、図3(b)に示すように、電線端末を入口部46に誘い込むためのテーパ面51を有している。
【0026】
さらに、貫通穴52には図3(a)に示す切欠部54がスライド方向(Y方向)とは逆方向に連設されており、この切欠部54の幅は、被覆材14の直径より若干大きく、シール栓36の直径より小さい寸法に設定されている。これにより、アース用電線10のコネクタ側端末を入口部46に挿入したまま、可動板50をスライド方向(Y方向)にスライドさせることが可能となる。
【0027】
そして、図4(a)(b)に、その可動板50がスライドした後の状態を示す。可動板50をスライドさせると、図示のように、切欠部54がアース用電線10の被覆材14に嵌挿されるとともに、その廻りの可動板50がシール栓36の反端末側側面の一部を覆う状態となる。これにより、入口部46に嵌入されたシール栓36がハウジング42の外側へ抜けることが防止され、この嵌入状態が安定して維持されることになる。
【0028】
次に、以上説明した止水処理用吸引治具40を用いて、アース用電線10を止水処理する方法を説明する。この実施の形態にかかるアース用電線10の止水処理方法は、次の各工程を含む。
【0029】
1)端子圧着工程
この工程は、止水剤の供給前にあらかじめ、図1(a)(b)に示すアース用電線10の両側の端末に、コネクタ端子30及びアース接続端子20を圧着固定する工程である。
【0030】
ア)コネクタ端子圧着工程
アース用電線10のコネクタ側端末に対し、コネクタ端子30及びシール栓36を圧着固定する。まず、コネクタ側端末の被覆材14を所定長さだけ除去して導体12を露出させておくとともに、被覆材14の末端近傍にシール栓36を仮固定しておく。そして、コネクタ端子30の導体バレル32及びインシュレーションバレル34が開いた状態で、前記のようなアース用電線10のコネクタ側端末をセットし、その後、前記両バレル32,34をそれぞれ閉じて導体12及びシール栓36に圧着(かしめ)固定する。
【0031】
イ)アース接続端子圧着工程
同様に、アース用電線10のアース側端末に対し、アース接続端子20を圧着固定する。まず、アース側端末の被覆材14を所定長さだけ除去して導体12を露出させておく。そして、アース接続端子20の導体バレル22及びインシュレーションバレル24が開いた状態で、前記のようなアース用電線10のアース側端末をセットし、その後、前記両バレル22,24をそれぞれ閉じて導体12及び被覆材14に圧着(かしめ)固定する。
【0032】
2)電線挿入工程
この工程は、前記端子圧着工程を行ったアース用電線10のコネクタ側端末を、図2に示す止水処理用吸引治具40の減圧室48内に挿入する工程である。
【0033】
具体的には、コネクタ側端末に固定されているコネクタ端子30及びシール栓36を、可動板50の貫通穴52を通過させて、その奥にある減圧室48の入口部46に挿入する。その結果、図3(b)に示すように、コネクタ端子30が入口部46に収納され、かつシール栓36のシール用突条37が、入口部46を形成する前壁44の内周面に全周にわたって密着し、減圧室48の密閉状態が維持される。この挿入作業は、被覆材14よりも大きい外径を有するシール栓36を保持しながら、アース用電線10を傷めたりすることなく、容易に行うことが可能である。
【0034】
そして、最後に可動板50をスライドさせて、図4に示すようにシール栓36の一部を塞ぎ、当該電線端末がハウジング42の外側へ抜けることを防止する。
【0035】
3)止水剤供給工程
この工程は、前記アース用電線10のアース側端末に対して止水剤を供給する工程である。具体的には、図1(a)(b)に網掛けで示した滴下位置A、すなわちアース接続端子20の導体バレル22とインシュレーションバレル24との間に止水剤を溜めるように、図略のディスペンサによって止水剤を滴下し、これによって当該止水剤がアース側端末における導体12と被覆材14との隙間を全周にわたって覆う状態にする。なお、この滴下位置は端子構造に応じて適宜設定が可能である。
【0036】
この止水剤は、少なくとも供給時に流動性を有し、かつ、電線使用時にはその充填位置から移動しにくく、かつ電線の曲げ等に追従して変形できる程度の柔軟性を有するものが好ましい。具体的には、比較的粘度の高い液体又はゲル状のもので、その性状が供給時からほとんど時間変化しないものでもよいし、供給後に硬化し、かつ硬化後も弾性に富むものでもよい。
【0037】
具体的には、初期粘度が0.006〜6Pa・s程度のものであれば、10kPa〜100kPa程度の圧力で5〜120秒ほど減圧することにより、被覆材14内に浸透可能であることが確認されており、その材質としては、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、グリース、その他粘性及び弾性を有する接着剤が好適である。シリコーン樹脂については、2液タイプ(2液混合によって硬化が開始するタイプ)、1液タイプ(1液のみで自然硬化するタイプ)にかかわらず使用が可能である。
【0038】
以上のような止水剤の滴下は、1回で行ってもよいが、後述する減圧工程を開始すると、止水剤が被覆材14の内側に浸透していき、前記滴下位置Aに溜まっている止水剤の量が徐々に減少するため、これを補給するように追って止水剤を滴下することにより、当該滴下を複数回にわけて行うのが好ましい。これにより、滴下位置Aの止水剤の量をほぼ均一に保ちながら、十分量の止水剤を導体12と被覆材14との隙間にむらなく確実に充填することができる。
【0039】
なお、本実施形態では、前記端子圧着工程によってアース接続端子20を接続した後に当該止水剤供給工程を行っているが、これをアース接続端子20の接続前に行うことも可能である。ただしその場合には、前記のようにアース接続端子20を止水剤受けとして利用することができないため、止水剤の供給が不安定になる恐れがある。さらには、アース接続端子20の接続を止水処理後に行うことになり、当該端子接続作業をコネクタ端子30の接続作業と合わせて同時に行うことができないため、製造効率上も好ましくない。
【0040】
4)減圧工程
この工程は、前記電線挿入工程後、図2に示す止水処理用吸引治具40の減圧室48内を前記圧力制御盤62の制御下で吸引ポンプ64の作動により一定の負圧になるまで減圧する工程である。この場合において、前記のように減圧室48の入口部46には既にシール栓36が密着状態で嵌入されており、これによって減圧室48内の密閉状態が維持されるため、アース用電線10のコネクタ側端末から導体12と被覆材14との隙間に存するエアが減圧室48側に吸引されることになる。これにより、前記止水剤供給工程によって供給された止水剤がアース側端末における導体12と被覆材14との隙間に引き込まれ、止水剤の充填が確実に行われる。
【0041】
なお、この減圧工程は、止水剤供給工程による1回目の滴下によって止水剤を滴下位置Aに溜め、当該止水剤がアース側端末における導体12と被覆材14との隙間を全周にわたって覆う状態にしてから開始することが好ましい。このようにすれば、止水剤にエアが巻き込まれるのを有効に抑止しながら安定した状態で止水剤を導体12と被覆材14との隙間に引き込むことができる。そして、止水剤を複数回に分けて滴下する場合は、そのまま減圧工程を続行し、その間に2回目以降の滴下を行って止水剤の補給を行うようにすれば、良好な止水剤の充填状態を維持することができる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の止水処理用吸引治具40によれば、あらかじめアース用電線10のコネクタ側端末に接続されたコネクタ端子30とこれより端末から遠い側に被覆材14の周囲に密着する状態で固定されたシール栓36をともに挿入可能な減圧室48を形成するハウジング42が、その減圧室48の入口部46において、前記シール栓36の外周面が全周にわたって密着可能な内周面を有していることにより、アース用電線10のコネクタ側端末を減圧室48内に挿入する作業を、被覆材14よりも大きい外径を有するシール栓36を保持しながらこれを入口部46に嵌入するという手順によって行うことができる。このため、外径が比較的小さく屈曲しやすい電線をそのまま治具に圧入する必要のあった従来の治具と異なり、アース用電線10を傷めたりすることなく、容易に当該電線の挿入を行うことができるとともに、シール栓36を入口部46の内周面に確実に密着させることが可能である。さらに、コネクタ端子30を接続した状態の電線端末を吸引できることから、コネクタ端子30を接続する作業を止水処理前に行うことができるため、コネクタ側端末とアース側端末の両側の端末に対して同時に端子を接続することができ、製造効率上有利である。
【実施例1】
【0043】
前記図1〜図4に示した方法により、次の条件下で止水処理を行った。
【0044】
止水剤…シリコーンゴム(粘度0.6Pa・s)
電線断面積…0.5mm2
滴下回数…4滴
1滴あたりの止水剤滴下量…4.5〜5.5mg
減圧時の圧力…50〜70kPa
減圧時間…1滴目滴下時点から25秒間(4滴目滴下と同時に終了)
【実施例2】
【0045】
止水剤…シリコーンゴム(粘度0.6Pa・s)
電線断面積…1.25mm2
滴下回数…5滴
1滴あたりの止水剤滴下量…4.5〜5.5mg
減圧時の圧力…50〜70kPa
減圧時間…1滴目滴下時点から25秒間(5滴目滴下と同時に終了)
以上実施例1,2による止水処理を行った結果、十分な量の止水剤を導体12と被覆材14との隙間に引き込み、良好な止水剤の充填状態を実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)は本実施形態の止水処理用吸引治具による止水処理の対象となるアース用電線の平面図、(b)はその正面図である。
【図2】本実施形態の止水処理用吸引治具の全体構成を示す概略図である。
【図3】(a)は前記止水処理用吸引治具にアース用電線のコネクタ側端末を挿入した状態を示す平面図、(b)はそのX−X断面を示す断面図である。
【図4】(a)は図3の状態からさらに可動板をスライドさせたところを示す平面図、(b)はそのX−X断面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
10 アース用電線
12 導体
14 被覆材
30 コネクタ端子
36 シール栓
40 止水処理用吸引治具
42 ハウジング
46 入口部
48 減圧室
50 可動板
52 貫通穴
54 切欠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外側に被覆材を有して車両に搭載される電線であってその一方の端末にコネクタ端子が接続されるとともにこのコネクタ端子よりも端末から遠い側に弾性材からなるシール栓が前記被覆材の周囲に密着する状態で固定されている車載用電線の当該一方の端末からエアを吸引することにより、他方の端末に供給された流動性を有する止水剤を前記導体と被覆材との隙間に引き込んで充填するための止水処理用吸引治具であって、
前記車載用電線に固定されているコネクタ端子及びシール栓を挿入可能な減圧室を形成するとともにこれらが挿入される入口部に前記シール栓の外周面が全周にわたって密着可能な内周面を有するハウジングを備え、
前記減圧室内に前記コネクタ端子を挿入してその減圧室の入口部に前記シール栓を嵌入した状態で前記減圧室内を減圧することにより前記一方の端末から前記車載用電線の導体と被覆材との隙間に存するエアが前記減圧室側に吸引されるように構成されていることを特徴とする止水処理用吸引治具。
【請求項2】
請求項1記載の止水処理用吸引治具において、
前記ハウジングは複数の箇所に前記減圧室の入口部を有しており、各入口部にそれぞれ前記シール栓が密着状態で嵌入可能となっていることを特徴とする止水処理用吸引治具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の止水処理用吸引治具において、
前記ハウジングには、前記入口部に密着状態で嵌入されたシール栓が前記ハウジングの外側へ抜けることを防ぐための抜け止め防止機構が設けられていることを特徴とする止水処理用吸引治具。
【請求項4】
請求項3記載の止水処理用吸引治具において、
前記抜け止め防止機構は、
前記ハウジングの一面であって前記減圧室の入口部を有する面に、さらにその前面を覆い、かつ板厚方向と直交する方向にスライド可能な可動板を設けるとともに、
当該可動板に、可動板スライド前の状態で前記入口部とほぼ同じ正面形状を有してこれと重なり合うように配置された貫通穴と、この貫通穴に連設され、前記被覆材の断面よりも大きくかつ前記シール栓の断面よりも小さい寸法の幅を有して前記可動板のスライド方向と反対方向に切り欠かれた切欠部を設けることにより、
前記車載用電線に固定されているシール栓を前記入口部に嵌入した後で可動板をスライドさせると前記切欠部が当該車載用電線の被覆材に嵌挿されるとともにその廻りの可動板が前記シール栓の反端末側側面の一部を覆ってこのシール栓のハウジング外側への抜けを防止するように構成されていることを特徴とする止水処理用吸引治具。
【請求項5】
請求項1〜4記載の止水処理用吸引治具において、
前記車載用電線は、車両に搭載される回路をアースに接続するためのアース用電線であることを特徴とする止水処理用吸引治具。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の止水処理用吸引治具を用いた車載用電線の止水処理方法であって、
車載用電線の一方の端末にコネクタ端子を接続するとともにこのコネクタ端子よりも端末から遠い側に弾性材からなるシール栓を前記被覆材の周囲に密着する状態で固定するコネクタ端子圧着工程と、
このコネクタ端子圧着工程後、前記コネクタ端子を減圧室内に挿入してその減圧室の入口部に前記シール栓を密着状態で嵌入する電線挿入工程と、
前記車載用電線の他方の端末に流動性を有する止水剤を供給する止水剤供給工程と、
前記電線挿入工程後であってこの止水剤の供給中又は供給後に、前記減圧室内を減圧して前記車載用電線の導体と被覆材との隙間に存するエアを前記減圧室側に吸引することにより、前記止水剤を当該隙間に引き込んで充填する減圧工程とを含むことを特徴とする車載用電線の止水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−221880(P2006−221880A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32306(P2005−32306)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】