説明

止水部材、及び、その止水部材を有するワイヤハーネス、並びに、その止水部材を用いた止水部形成方法

【課題】止水部材により液体の侵入を確実に防止することができる止水部が形成されたワイヤハーネスを提供する。
【解決手段】ワイヤハーネス1は、パネル2の貫通孔2aに取り付けられたグロメット3と、グロメット3内を通された電線束4と、電線束4の各電線41間を止水した止水部Sと、を有している。この止水部Sは、一対のケース5内に未硬化のゲル状の止水材6がそれぞれ注入された止水部材8により形成されている。この止水部材8は、一対のケース5が、互いの間に電線束4を挟むとともに該電線束4に固定され、そして、未硬化の止水材6が電線41間に浸透して硬化することにより止水部Sを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の被覆電線が束ねられた電線束の所定位置に止水部を形成する止水部材、及び、前記止水部材により形成された前記止水部を有するワイヤハーネス、並びに、前記止水部材を用いた止水部形成方法に関するものである。なお、本発明の説明における『止水』は、水の浸入を阻止することに限らず、水、油、アルコール、等を含む液体全般に有効に作用することを意味するが、ここでは一般的に名称として広く用いられている『止水』を用いて説明する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の室外から室内へ電線束を配線するためにグロメットが使用されている。図11に示すこのグロメット3は、前記室外と前記室内とを仕切るパネル2に設けられた貫通孔2aに嵌め込まれて貫通孔2aを密閉状態に保ちながらこの貫通孔2aに電線束4を通させるものである。また、この電線束4は、端末に端子が取り付けられた電線41が複数束ねられて構成されたものである。
【0003】
上記電線束4は、毛細管現象等により電線41間を伝った液体が前記室内に侵入するおそれがあることから、電線束4のグロメット3内に位置付けられた箇所に止水部S1を形成することが一般的に行われている(例えば特許文献1を参照。)。また、前述したグロメット3と、電線束4と、止水部S1と、で上記ワイヤハーネス101を構成している。
【0004】
上記止水部S1は、電線束4の表面に半固体状または液状、もしくはゲル状の止水材が塗布され、この電線束4の外周がシート102で巻き締められることにより各電線41間に止水材が浸透され、このシート102と電線束4とが共にテープT1で固定されて形成されている。そして、このように止水部S1が形成された電線束4は、グロメット3内を通され、止水部S1が形成された箇所がテープT2等によりグロメット3内に固定される。
【特許文献1】特開2005−129240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のワイヤハーネス101は、梱包された状態での車両組み立て工場への輸送時や車両への組み付け時などに、電線束4が屈曲されたりひねられたりすることから(図11の点線で示す。)、止水部S1に大きな外力がかかって、止水材と電線41とが剥離してしまうことがあるという問題があった。このように止水材と電線41とが剥離してしまうと止水部S1に空隙が生じるので、電線41間を伝った液体が前記室内に侵入するおそれがあるという問題があった。
【0006】
したがって、本発明は、電線間を確実に止水することができる止水部材、及び、該止水部材により止水部が形成されたワイヤハーネス、並びに、該止水部材を用いた止水部形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、電線束の各電線間を止水した止水部を形成する止水部材であって、開口部を有する箱状の一対のケースと、これら一対のケース内にそれぞれ注入された未硬化のゲル状の止水材と、を有し、前記一対のケースが、前記開口部同士が向かい合わせになる向きで互いの間に前記電線束を挟むとともに該電線束に固定され、そして、前記未硬化の止水材が前記電線間に浸透して硬化することにより前記止水部を形成することを特徴とする止水部材である。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記一対のケースが、互いに当接して前記開口部を遮蔽する縁部と、該縁部から凹に形成され、前記電線束を通す凹部と、を有していることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載された発明は、請求項1または請求項2に記載された発明において、前記未硬化の止水材が注入された前記ケースの前記開口部が、金属フィルム,離型紙またはプラスチックフィルムで覆われた状態で保管され、そして、前記電線束を止水する際に前記金属フィルム,前記離型紙または前記プラスチックフィルムが剥がされて用いられることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載された発明は、パネルに設けられた貫通孔に取り付けられる筒状のグロメットと、該グロメットに通される電線束と、該電線束の各電線間を止水した止水部と、を有するワイヤハーネスであって、前記止水部が、請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項に記載の止水部材により形成されていることを特徴とするワイヤハーネスである。
【0011】
請求項5に記載された発明は、電線束の各電線間を止水した止水部を形成する止水部形成方法であって、未硬化のゲル状の止水材が注入された、開口部を有する箱状の一対のケースを、前記開口部同士が向かい合わせになる向きで向かい合わせ、これら一対のケース間に前記電線束を挟む止水部材取り付け工程と、前記電線間に浸透した前記止水材を硬化させて前記電線間を止水するとともに、前記一対のケースを前記電線束に固定する止水材硬化工程と、を順次有することを特徴とする止水部形成方法である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載された発明によれば、止水部材が、開口部を有する箱状の一対のケースと、これら一対のケース内にそれぞれ注入された未硬化のゲル状の止水材と、を有し、前記一対のケースが、前記開口部同士が向かい合わせになる向きで互いの間に電線束を挟むとともに該電線束に固定され、そして、前記未硬化の止水材が電線間に浸透して硬化することにより止水部を形成することから、電線束が屈曲されたりひねられたりして止水部に大きな外力がかかっても、止水材と電線とが動いてこれらが互いに剥離してしまうことを防止できるので、液体の侵入を確実に防止することができる止水部を形成することができる。また、ゲル状の止水材が電線束に塗布されることから、該止水材が電線間に確実に浸透する。
【0013】
請求項2に記載された発明によれば、前記一対のケースが、互いに当接して前記開口部を遮蔽する縁部と、該縁部から凹に形成され、前記電線束を通す凹部と、を有していることから、止水材がケース外に漏れ出すことを防止できる。
【0014】
請求項3に記載された発明によれば、前記未硬化の止水材が注入された前記ケースの前記開口部が、金属フィルム,離型紙またはプラスチックフィルムで覆われた状態で保管され、そして、前記電線束を止水する際に前記金属フィルム,前記離型紙または前記プラスチックフィルムが剥がされて用いられることから、止水材に異物が混入することを防止できる。また、止水材が吸湿したり酸化したりして劣化してしまうことを防止できる。また、止水材中の揮発成分が蒸散してしまうことを防止できる。これらのことにより、未硬化の止水材をケース内に注入した状態で保管し、この止水部材を輸送することができる。よって、この部品化された止水部材を用いることにより、止水材塗布装置を用いることなく電線束に止水部を形成することができる。
【0015】
請求項4に記載された発明によれば、前記止水部が、請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項に記載の止水部材により形成されていることから、液体の侵入を確実に防止することができる止水部を有するワイヤハーネスを提供することができる。
【0016】
請求項5に記載された止水部形成方法によれば、未硬化のゲル状の止水材が注入された、開口部を有する箱状の一対のケースを、前記開口部同士が向かい合わせになる向きで向かい合わせ、これら一対のケース間に電線束を挟む止水部材取り付け工程と、電線間に浸透した前記止水材を硬化させて前記電線間を止水するとともに、前記一対のケースを前記電線束に固定する止水材硬化工程と、を順次有することから、止水材塗布装置を用いることなく、部品化された止水部材により、液体の侵入を確実に防止することができる止水部を容易に電線束に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の第1の実施形態に係る止水部材を有するワイヤハーネス、及び、前記止水部材を用いた止水部形成方法を図1ないし図9を用いて説明する。
【0018】
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる止水部材を有するワイヤハーネスを示す断面図である。図2は、図1に示された止水部材のケースを示す斜視図である。図3は、図1に示された止水部材のケースに止水材が注入されて該ケースの開口部がプラスチックフィルムで覆われた状態を示す平面図である。図4は、図1に示された止水部材を用いた止水部形成方法を説明する説明図であり、保管時の止水部材を示す図である。図5は、図4に示された止水部材のプラスチックフィルムが剥がされた状態を示す図である。図6は、図5に示された止水部材の一対のケース同士が向かい合わされた状態を示す図である。図7は、図6に示された止水部材の一対のケース間に電線束が挟まれ、ケース同士が互いに固定された状態を示す図である。図8は、図7に示された止水部材と電線束とが共にテープで巻かれて固定された状態を示す図である。図9は、図8に示す止水部が設けられた電線束がグロメットを通される状態を示す図である。
【0019】
上記ワイヤハーネス1は、図1に示すように、自動車の室外と室内とを仕切るパネル2に設けられた貫通孔2aに取り付けられたグロメット3と、このグロメット3の内側を通された電線束4と、この電線束4の各電線41間を止水した止水部Sと、を有している。また、止水部Sは、電線束4のグロメット3内に位置付けられた部分を止水している。
【0020】
また、本発明の説明における『止水』は、水の浸入を阻止することに限らず、水、油、アルコール、等を含む液体全般に有効に作用することを意味するが、ここでは一般的に名称として広く用いられている『止水』を用いて説明する。
【0021】
上記グロメット3は、ゴムなどの弾性素材で構成され、図1に示すように、一端から他端に向かって徐々に外径が細くなるように形成された筒状の本体部30と、この本体部30の前記他端に連なった円筒状の円筒部33と、を有している。また、前記本体部30の前記一端を大径部と呼び、符号31を付す。また、前記本体部30の前記他端を小径部と呼び、符号32を付す。また、前記大径部31の外周には、本体部30の外表面から内側に向かって凹に形成された溝34が当該大径部31の全周に亘って設けられている。このようなグロメット3は、前記溝34がパネル2の貫通孔2aに密着する格好で該貫通孔2aに取り付けられる。そして、上記電線束4は、このグロメット3の内側を通されることにより、前記自動車の室外から室内へ配索される。
【0022】
上記電線束4は、両端部に端子が取り付けられた複数の電線41が1つに束ねられたものである。また、この電線41は、芯線42の外周が絶縁被覆43で覆われた被覆電線である(図10を参照。)。
【0023】
上記止水部Sは、上記電線束4の円筒部33内に位置付けられた部分における電線41間を止水した部分であり、第1の止水部材7aと、第2の止水部材7bとで構成される止水部材8により形成されている。
【0024】
上記第1の止水部材7a及び上記第2の止水部材7bは、合成樹脂で構成され、互いに同じ形状に形成されたケース5と、それぞれのケース5内に注入された止水材6と、を有している。
【0025】
上記ケース5は、図2に示すように、平面視長方形の底壁54と、この底壁54の外縁から立設した側壁50a,50b,50c,50dと、を有する外郭が直方体の箱状に形成されている。また、前記底壁54と相対する面には、開口部51が設けられている。また、互いに相対する側壁50cと側壁50dの、底壁54と離れた側の端部には、相対する側壁50c,50dから離れる方向に突出した鍔部が設けられている。この鍔部の底壁54から離れた側の面は平らに形成されている。また、この鍔部の底壁54から離れた側の平面と、側壁50a,50bの底壁54から離れた側の平らな端面とを、本明細書では縁部と呼び、符合52を付す。
【0026】
さらに、上記ケース5は、上記縁部52から底壁54に向かって凹に形成された前記電線束4を通す凹部53を有している。この凹部53の内面は、電線束4の外周に沿うように円弧状に形成されている。
【0027】
このようなケース5は、開口部51から未硬化でゲル状の上記止水材6が注入される。また、この止水部材8は、止水材6が注入されたケース5に図2に示すプラスチックフィルム10が被せられることにより、止水材6を未硬化の状態に維持することが可能となっている。また、そのほか、プラスチックフィルム10が被せられることにより、止水材6への異物混入、止水材6の吸湿及び酸化による劣化、止水材6中の揮発成分の蒸散等が防止される。
【0028】
上記プラスチックフィルム10は、ポリエチレン等の合成樹脂で構成され、薄いシート状に形成されている。また、このプラスチックフィルム10は、長方形状の第1の部分10aと、第1の部分10aの互いに相対する一対の外縁それぞれに連なった略半円形状の第2の部分10bと、を有している。即ち、第2の部分10bは、2つ設けられている。このようなプラスチックフィルム10は、第1の部分10aが開口部51を覆い、第2の部分10bが凹部53を覆う格好でケース5の外表面に取り付けられる。即ち密着する。この際のこのプラスチックフィルム10の取り付け方法は、周知のヒートシール方法または超音波シール方法を用いることができ、ケース5の外表面に取り付けられたプラスチックフィルム10は、手で容易に剥がすことができる。
【0029】
上記止水材6は、シリコーンまたはウレタンを主成分とする合成樹脂で構成されており、常温下で空気中の水分に反応して硬化する材料である。また、この止水材6は、未硬化時において、粘度が10Pa.s程度であり、可塑度が100〜130(JIS K 6249に規定する測定方法に準じて測定。)のゲル状のものを用いることが好ましい。
【0030】
このような止水材6は、図3に示すように、ケース5の上面まで注入され、注入直後にケース5に上記プラスチックフィルム10が被せられることにより未硬化状態が維持される。そして、止水部Sを形成する際にプラスチックフィルム10がケース5から剥がされることにより硬化反応を開始する。また、この止水材6は、上述した粘度及び可塑度の範囲のものを用いることにより、ケース5への注入時に凹部53から流れ出すことが防止される。
【0031】
また、本実施形態では、止水材6がケース5の上面まで注入され、ケース5にプラスチックフィルム10が被せられることにより、この止水材6が外気即ち空気と遮断されて未硬化状態が維持されるようになっているが、本発明では、ケース5内の空気を窒素置換または真空状態とすることにより、止水材6の注入量を減らすことも可能である。
【0032】
上記構成の止水部材8は、第1の止水部材7a及び第2の止水部材7bのケース5が、プラスチックフィルム10が取り除かれた状態で、開口部51同士が向かい合わせになる向きで互いの間に電線束4を挟むことにより、ケース5内のゲル状の止水材6が電線41間に浸透し、硬化する。また、第1の止水部材7a及び第2の止水部材7bのケース5同士は、電線束4を互いの間に挟んだ状態、即ち電線束4を凹部53に位置付けた状態、で縁部52同士が互いに当接して開口部51を遮蔽する。また、これら縁部52同士の間には接着剤11(図6を参照。)が塗布されることにより縁部52同士が接着される。即ちケース5同士が互いに固定される。そして、止水材6が硬化することにより、これら一対のケース5が電線束4に固定される。さらに、硬化するまでの間に止水材6が凹部53から漏れ出すことを防止するために、凹部53を通されてケース5外に位置付けられた電線束4の外周及びケース5の外周には、凹部53を遮蔽する格好でテープ91が巻き付けられる。こうして電線41間を止水した止水材6と、その周りに取り付けられた一対のケース5とで止水部Sが形成される。
【0033】
また、本発明では、未硬化のゲル状の止水材6を用いることから、このゲル状の止水材6が電線41間の細部に亘って十分に浸透するので、電線41間に空隙を作らず、電線41間を確実に止水することができる。
【0034】
また、本発明では、ケース5の側壁50a,50bに電線束4を通す凹部53を設けていることから、一対のケース5の縁部52同士を当接させることができるので、縁部52同士の間から未硬化の止水材6が漏れ出すことを防止でき、そのために、電線41間を確実に止水することができる。さらに、縁部52同士が接着剤11により隙間なく接着されて一対のケース5同士が互いに固定されるとともに、凹部53を遮蔽する格好で電線束4の外周及びケース5の外周にテープ91が巻き付けられることから、縁部52同士の間、及び、凹部53から未硬化の止水材6が漏れ出すことを確実に防止できる。
【0035】
上述したように所定部分に止水部Sが形成された電線束4は、グロメット3内部を通されて、ケース5の外表面が円筒部33の内周面に密着した状態で、円筒部33の外周と電線束4の外周とが共にテープ92によりテープ巻きされて、図1に示すワイヤハーネス1となる。
【0036】
このようなワイヤハーネス1は、貫通孔2aの内周面にグロメット3の外表面が密着し、グロメット3の円筒部33の内周面にケース5の外表面が密着し、円筒部33の内側に位置付けられた電線束4の各電線41間が止水材6により止水されていることにより、前記自動車の室外から室内に水などの液体が侵入することが防止される。
【0037】
さらに、このワイヤハーネス1は、電線束4が屈曲されたりひねられたりして止水部Sに大きな外力がかかっても、ケース5の内側に位置付けられた電線束4と止水材6とが動かないので、電線41と止水材6とが互いに剥離することがなく、そのために、液体の侵入を確実に防止できるとともにこの良好な止水性を長期に亘って保つことができる。
【0038】
続いて、上述した構成の止水部材8を用いてワイヤハーネス1の電線束4に止水部Sを形成する方法を説明する。
【0039】
まず、図4に示すように、ケース5内に止水材6が注入され、プラスチックフィルム10が被せられた第1の止水部材7a及び第2の止水部材7b、即ち止水部材8、を予め用意しておく。
【0040】
そして、図5に示すように、プラスチックフィルム10をケース5から剥がし、図6に示すように、第1の止水部材7aのケース5の縁部52に接着剤11を塗布する。
【0041】
そして、これら第1の止水部材7a及び第2の止水部材7bを開口部51同士が向かい合わせになる向きで向かい合わせ、ケース5の凹部53に電線束4が位置付けられるように電線束4を位置決めして、第1の止水部材7aと第2の止水部材7bとを互いに近付け、図7に示すように、これら第1の止水部材7aと第2の止水部材7bとの間、即ち一対のケース5間、に電線束4を挟む。また、このことにより、互いに重ねられたケース5の縁部52同士が接着されてケース5同士が互いに固定される(請求項中の止水部材取り付け工程に相当する。)。
【0042】
この際、即ち図6に示された状態では、第2の止水部材7bの開口部51が下側、即ち鉛直方向下方、に向けられることになるが、止水材6の粘性及び表面張力が作用することにより、第2の止水部材7bのケース5の開口部51から止水材6が急速に滴り落ちることはない。また、これと同様に、第1の止水部材7a及び第2の止水部材7bのケース5の凹部53から止水材6が急速に漏れ出すことはない。
【0043】
そして、図8に示すように、凹部53を通されてケース5外に位置付けられた電線束4の外周及びケース5の外周に、凹部53を遮蔽する格好でテープ91を巻き付ける。
【0044】
この状態で、所定の時間を置くことにより、ケース5内の止水材6がゆっくりと電線41間に浸透し、さらなる時間の経過により電線41間に浸透した止水材6が硬化する。また、止水材6が硬化することにより、一対のケース5が電線束4に固定される(請求項中の止水材硬化工程に相当する。)。こうして止水部材8により電線束4の所定位置に止水部Sが形成される。
【0045】
そして、図9に示すように、止水部Sが形成された電線束4をグロメット3内に通すとともに、止水部Sが形成された部分をグロメット3の円筒部33内に押し込み、ケース5の外表面を円筒部33の内周面に密着させて、円筒部33の外周と、この円筒部33からグロメット3外に引き出された電線束4の外周とにテープ92を巻き付けて、電線束4とグロメット3とを互いに固定する。こうして、図1に示すワイヤハーネス1が組み立てられる。
【0046】
上述したように、本発明の止水部形成方法によれば、従来の電線束4の止水処理に必要であった止水材塗布装置を用いることなく、部品化された止水部材8により、短時間で容易に電線束4に止水部Sを形成することができる。
【0047】
次に、本発明の第2の実施形態に係る止水部材を、図10を用いて説明する。図10は、本発明の第2の実施形態にかかる止水部材を示す断面図である。また、同図において、前述した実施形態と同一構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0048】
本実施形態の止水部材18は、前述した第1の実施形態の止水部材8と同様に、ワイヤハーネスの電線束4に止水部を形成するものである(図1を参照。)。前記止水部材18は、第1の止水部材17aと、第2の止水部材17bとを有している。
【0049】
上記第1の止水部材17a及び上記第2の止水部材17bは、合成樹脂で構成され、互いに同じ形状に形成された一対のケース15a,15bと、それぞれのケース15a,15b内に注入された止水材6と、を有している。
【0050】
上記一対のケース15a,15bは、互いの間に電線束4を挟んだ状態で、互いに係止して当該ケース15a,15b同士を固定する係止部55,56を有している。即ち、一方のケース15aは、縁部52から突出した係止部としての突起部55を有しており、他方のケース15bは、縁部52から凹に形成され、前記突起部55と係止可能な係止部としての穴部56を有している。また、これら一対のケース15a,15bは、突起部55及び穴部56以外は第1の実施形態の一対のケース5と同一構成になっている。
【0051】
上述した止水部材18によれば、縁部52に接着剤11を塗布しなくても、ケース15a,15b同士を互いに固定することができる。
【0052】
また、上述した第1の実施形態では、ケース5に取り付けられるフィルムがプラスチックフィルム10である例を説明したが、本発明では、アルミニウム等で構成された金属フィルムや離型紙などを前記プラスチックフィルム10の代わりに用いることも可能である。
【0053】
また、上述した第1の実施形態では、未硬化の止水材6が注入されたケース5にプラスチックフィルム10を取り付けて、止水部材8を保管可能に形成した例を説明したが、本発明では、必ずしもケース5,15a,15bにプラスチックフィルム10,離型紙または金属フィルムなどを取り付ける必要はなく、未硬化の止水材6が注入されたケース5,15a,15bをそのまま止水部Sの形成に用いても良い。
【0054】
また、上述した第1,2の実施形態では、空気中の水分に反応して硬化する止水材6を用いた例を説明したが、本発明では、これ以外の止水材、例えばA液とB液とが互いに混合されることにより硬化する2液タイプの止水材を用いることも可能である。その場合は、一対のケース5,15a,15bの一方にA液を注入し、他方にB液を注入するようにすれば良い。
【0055】
また、上述した第1,2の実施形態では、一対のケース5,15a,15bが、接着剤11または突起部55及び穴部56により互いに固定される例を説明したが、本発明ではこれ以外に、例えば縁部52同士をヒートシール方法を用いて溶着することにより一対のケース5,15a,15b同士を固定するようにしても良い。
【0056】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる止水部材を有するワイヤハーネスを示す断面図である。
【図2】図1に示された止水部材のケースを示す斜視図である。
【図3】図1に示された止水部材のケースに止水材が注入されて該ケースの開口部がプラスチックフィルムで覆われた状態を示す平面図である。
【図4】図1に示された止水部材を用いた止水部形成方法を説明する説明図であり、保管時の止水部材を示す図である。
【図5】図4に示された止水部材のプラスチックフィルムが剥がされた状態を示す図である。
【図6】図5に示された止水部材の一対のケース同士が向かい合わされた状態を示す図である。
【図7】図6に示された止水部材の一対のケース間に電線束が挟まれ、ケース同士が互いに固定された状態を示す図である。
【図8】図7に示された止水部材と電線束とが共にテープで巻かれて固定された状態を示す図である。
【図9】図8に示す止水部が設けられた電線束がグロメットを通される状態を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施形態にかかる止水部材を示す断面図である。
【図11】従来のワイヤハーネスを示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 ワイヤハーネス
2 パネル
2a 貫通孔
3 グロメット
4 電線束
5,15a,15b ケース
6 止水材
8,18 止水部材
10 プラスチックフィルム
41 電線
51 開口部
52 縁部
53 凹部
55 突起部(係止部)
56 穴部(係止部)
S 止水部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線束の各電線間を止水した止水部を形成する止水部材であって、
開口部を有する箱状の一対のケースと、これら一対のケース内にそれぞれ注入された未硬化のゲル状の止水材と、を有し、
前記一対のケースが、前記開口部同士が向かい合わせになる向きで互いの間に前記電線束を挟むとともに該電線束に固定され、そして、前記未硬化の止水材が前記電線間に浸透して硬化することにより前記止水部を形成する
ことを特徴とする止水部材。
【請求項2】
前記一対のケースが、互いに当接して前記開口部を遮蔽する縁部と、該縁部から凹に形成され、前記電線束を通す凹部と、を有している
ことを特徴とする請求項1に記載の止水部材。
【請求項3】
前記未硬化の止水材が注入された前記ケースの前記開口部が、金属フィルム,離型紙またはプラスチックフィルムで覆われた状態で保管され、そして、前記電線束を止水する際に前記金属フィルム,前記離型紙または前記プラスチックフィルムが剥がされて用いられる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の止水部材。
【請求項4】
パネルに設けられた貫通孔に取り付けられる筒状のグロメットと、該グロメットに通される電線束と、該電線束の各電線間を止水した止水部と、を有するワイヤハーネスであって、
前記止水部が、請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項に記載の止水部材により形成されている
ことを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項5】
電線束の各電線間を止水した止水部を形成する止水部形成方法であって、
未硬化のゲル状の止水材が注入された、開口部を有する箱状の一対のケースを、前記開口部同士が向かい合わせになる向きで向かい合わせ、これら一対のケース間に前記電線束を挟む止水部材取り付け工程と、
前記電線間に浸透した前記止水材を硬化させて前記電線間を止水するとともに、前記一対のケースを前記電線束に固定する止水材硬化工程と、
を順次有することを特徴とする止水部形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−124814(P2009−124814A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294160(P2007−294160)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】