歩行者保護性に優れたフードパネル及び車両フロント部構造
【課題】エンジン等の剛部材とフードパネルとのクリアランスを小さくしても、歩行者頭部が受ける衝撃を低減することができ、材料の選定に対する制限を緩和することが可能な、歩行者保護性に優れたフードパネル及びこれを採用した車両フロント部構造を提供する。
【解決手段】歩行者頭部が衝突した際に圧潰する、断面の形状が略ハット形状である補強部材を、アウターパネルとインナーパネルとの空隙部に設置し、衝突エネルギーを効果的に吸収する。補強部材の板厚tが0.4〜2.0mmであり、衝撃吸収壁部とフランジ部との傾斜角αが、15°〜80°であり、補強部材の板厚tと、傾斜角αとが、1.83(1−sinα)<t<4.13−3.67sinαを満足する。
【解決手段】歩行者頭部が衝突した際に圧潰する、断面の形状が略ハット形状である補強部材を、アウターパネルとインナーパネルとの空隙部に設置し、衝突エネルギーを効果的に吸収する。補強部材の板厚tが0.4〜2.0mmであり、衝撃吸収壁部とフランジ部との傾斜角αが、15°〜80°であり、補強部材の板厚tと、傾斜角αとが、1.83(1−sinα)<t<4.13−3.67sinαを満足する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者と自動車の衝突時に、歩行者、特に、歩行者の頭部を保護する性能、即ち、歩行者保護性に優れたフードパネル及びこのフードパネルを備えた車両フロント部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歩行者と自動車の衝突時における歩行者の頭部の保護が重要視され、歩行者保護性に優れるフードパネルの構造の検討が進められている。歩行者、特にその頭部がフードパネルに衝突した際には、まずアウターパネルが変形し、その後インナーパネルが変形し、衝突エネルギーが吸収される。更に、フレーム、エンジン部品などのフードパネル近傍にある部品や部材は、パネルに比べて剛性が極めて高く、それら剛性の高い部品や部材(以下、総称として剛性部材という)とフードパネルとの間隔、即ち、クリアランスが狭い場合は、フードパネルが剛性部材に接触する。
【0003】
従来、歩行者保護性は、歩行者の頭部がフードパネルに衝突した後、フードパネルを剛性部材に接触させないように、フードパネル自体の剛性を向上させることによって確保されていた。例えば、インナーパネルの変形を抑制するために、アウターパネルとインナーパネルとの空隙に衝撃吸収体を設けたフードパネルが提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に提案されたフードパネルは、衝撃力による荷重が所定の大きさを超えると、衝撃吸収体が座屈変形し、衝撃吸収体及びインナーパネルが大変形に移行し、衝撃を効果的に緩和するものである。このとき、フードの変形による移動距離を小さく抑えて衝撃エネルギーを吸収するとしているが、その許容される移動距離は、フード下の空間内を想定している。つまり、フードが剛性部材に衝突することは想定しおらず、フード下のエンジンルームに空間的余裕が必要であった。
【0004】
これに対して、本発明者らの一部は、フードパネルが衝撃により変形し、フード下にある剛性部材と接触した場合であっても、歩行者の頭部が、直接、剛性部材からの衝撃を受けないように、インナーパネルの凹凸を利用するフードパネルを提案している(例えば、特許文献2、3)。
【0005】
しかし、図1に示したように、自動車のフロント部の、ほぼ中央部にはエンジン12が収納され、周囲にはフレームが配置されている。即ち、エンジンルームを覆うフードパネルの周縁部の直下には、剛性部材として、運転席側フレーム11、フェンダー部品13、車両前方側フレーム14が存在する。特に、フード周縁部では、曲げ、ねじりといった挙動に対して特に強い剛性を必要とする。そのため、フード周縁部では、閉断面空間が広く設けられており、インナーパネルとフレームなどの剛性部材とのクリアランスが狭い。
【0006】
クリアランスの狭い領域では、歩行者の頭部が衝突した際のフードパネルの移動距離が短くなり、慣性によるエネルギー吸収が小さい。また、短時間でインナーパネルと剛性部材とが衝突するため、歩行者の頭部の運動エネルギーが高い状態のまま、インナーパネルが剛性部材に衝突してしまう。特に、車体を軽量化するために、例えば、アルミニウム合金製のフードパネルを採用した場合、歩行者の頭部が衝突した際の慣性によるエネルギー吸収は更に小さくなる。そのため、インナーパネルが剛性部材に衝突すると、歩行者頭部は強い衝撃を受け易い。
【0007】
このような問題に対して、車両の前方や後方に補強部材を設けたフードパネルが提案されている(例えば、特許文献4、5)。また、特許文献4で提案されたフードパネルは、アウターパネルとインナーパネルとの空隙に設けた補強部材が折れ曲がり易いように、応力集中部を有するハット型とした構造である。また、特許文献5で提案されたフードパネルは、アウターパネル及びインナーパネルに接合された補強部材を設け、衝撃をアウターパネル及びインナーパネルに接合された補強部材の変形により吸収させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−80873号公報
【特許文献2】特開2008−30732号公報
【特許文献3】特開2008−168844号公報
【特許文献4】特開2007−185996号公報
【特許文献5】特開2008−189224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、歩行者保護性の観点から、歩行者、特にその頭部が剛性部材からの衝撃を受けないように、フードパネルと剛性部材とのクリアランスを確保する必要がある。特に、フードパネルの周縁部では、予めフレームとの衝突を想定して、インナーパネルとアウターパネルとの空隙を拡大し、圧潰量を大きくすることで衝撃吸収性を向上させることは可能である。しかし、これでは、エンジンルーム内のスペースを占有するなど、エンジンルーム内をはじめ、車体の設計自由度が損なわれる。また、インナーパネルとアウターパネルとの間に広い空間を設けると、フードパネルの張り剛性、ねじり剛性を損なう恐れがある。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑み、フレームやエンジン部品などの剛性部材とフードパネルのインナーパネルとのクリアランスが狭い領域に歩行者が衝突した際、特にフードパネルの周縁部で、剛性部材とインナーパネルとが接触しても、歩行者保護性に優れたフードパネル及びこれを採用した車両フロント部構造の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アウターパネルとインナーパネルとの間に設けた補強部材が圧潰すると、衝撃によって加えられたエネルギーが効果的に吸収され、さらに補強部材を最適な形状にすることにより、フード下の剛性部材と衝突するときに発生する衝撃エネルギーをも吸収すことができるという知見に基づき成されたものである。特に、本発明は、補強部材の断面の形状を略ハット形状とし、フランジ部と縦壁部との間の角度である傾斜角αと、板厚tとの関係を最適化したものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0012】
(1)アルミニウム合金製のアウターパネルとインナーパネルと、該アウターパネルと該インナーパネルとの空隙部に補強部材を設けたフードパネルであって、前記補強部材は、頂部と、両端に設けたフランジ部と、前記頂部と前記フランジ部との間の縦壁部からなる略ハット形状を有し、前記フランジ部は前記インナーパネルと接合され、前記縦壁部のうち一方又は双方が歩行者の衝突時に変形する衝撃吸収壁部であり、前記補強部材の板厚tが0.4〜2.0mmであり、前記衝撃吸収壁部と前記フランジ部との傾斜角αが、15°〜80°であり、前記補強部材の板厚tと、前記傾斜角αとが、
1.83(1−sinα)<t<4.13−3.67sinα
を満足することを特徴とする歩行者保護性に優れたフードパネル。
【0013】
(2)前記補強部材の頂部がアウターパネルに接合されたことを特徴とする上記(1)に記載の歩行者保護性に優れたフードパネル。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)に記載の補強部材が、インナーパネルと剛性部材との距離が60mm以下である部位に設けられたフードパネルを備えることを特徴とする車両フロント部構造。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フードパネルのインナーパネルと剛性部材とのクリアランスが狭い領域、特に、フードパネルの周縁部においても、歩行者が衝突した際の衝撃エネルギーを効率良く吸収することができ、歩行者保護性が極めて向上し、車両のフロント構造の設計上の制限を小さくできる。例えば、自動車車体におけるアウターパネルの相対的な高さを低くすることができ、意匠に対する自由度が大きくなる。また、インナーパネルの材料として、軽量なアルミニウム合金を使用できるため、フードパネルの軽量化と歩行者保護性との両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】車両フロント部のフードパネル周辺に位置する剛性部材を模式的に示す図である。
【図2】(a)は本発明の補強部材を示す図である。(b)は本発明の補強部材を、インナーパネルの運転席側フレームに対応する部位に設置した状態を示す図である。
【図3】本発明の補強部材を設けた状態と設けない状態において、歩行者頭部が受ける3軸方向の合成加速度の時間変化を示す図である。
【図4】補強部材を設けない状態で、衝突初期における変形挙動を模式的に示す図である。
【図5】補強部材を設けない状態で、インナーパネルが運転席側フレームに衝突した際の変形挙動を模式的に示す図である。
【図6】本発明の補強部材を設けた状態で、衝突初期における変形挙動を模式的に示す図である。
【図7】本発明の補強部材を設けた状態で、インナーパネルが運転席側フレームに衝突した際の変形挙動を模式的に示す図である。
【図8】本発明の補強部材の形状を模式的に示す図である。
【図9】本発明の補強部材の板厚t及び傾斜角度αと、歩行者頭部が受ける最大加速度の相関を示す図である。
【図10】本発明の補強部材を剛性部材直上に設置した一例を模式的に示す図である。
【図11】本発明の補強部材をフードパネルの側方に設置した一例を模式的に示す図である。
【図12】本発明の補強部材の両方の縦壁部が剛性部材直上に位置した状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、歩行者保護性の観点から成されたものであり、以下、特に重要な歩行者の頭部衝突を例に説明する。なお、本発明は、歩行者の頭部衝突に限定されることはなく、また歩行者の衝突にも限定されるものでもない。あらゆる物体と自動車フードパネルとの衝突に適用可能である。
図1に示す運転席側フレーム11に対応する部位に、図2に示す補強部材31を設けたフードパネルの歩行者保護性を、有限要素法(FEMという。)によって評価した。なお、FEMによる数値解析は、アルミニウム合金製フードパネルとフレームで構成されるフロント構造を想定して行った。また、比較のために、同様にして、補強部材を設けないフードパネルの歩行者保護性も評価した。歩行者保護性は、フードパネルに歩行者頭部(模擬インパクター)が衝突した際の、歩行者頭部の重心における3軸方向の合成加速度(以下、単に加速度という。)によって評価した。
【0018】
図3に、補強部材を設けたフードパネル及び補強部材を設けないフードパネルに、模擬インパクターを衝突させた際の、模擬インパクターの加速度の時間変化を示す。図3の縦軸に示した加速度と模擬インパクターの質量の積は、衝突時に歩行者頭部が受ける衝撃力に相当する。したがって、加速度が小さいほど、歩行者保護性に優れることになる。
【0019】
通常、アルミニウム合金製のフードパネルに歩行者頭部が衝突すると、1次の加速度ピークと、2次の加速度ピークが生じる。これらは、歩行者頭部の進行方向とは逆向きに発生する加速度である。即ち、1次の加速度ピークは、衝突初期に歩行者頭部がアウターパネルの変形及びフードパネルの慣性による反力を受け、速度が減少する際に生じる加速度である。2次の加速度ピークは、更に、フードパネルの変形が進み、インナーパネルと剛性部材との接触によって、速度が減少する際に生じる加速度である。
【0020】
図3中の矢印Aで示すような低い1次の加速度ピークが発生するのは、アルミニウム合金が軽量であり、慣性によるエネルギー吸収が小さいためである。1次の加速度ピークが小さいと、歩行者頭部の運動エネルギーが高い状態のまま、インナーパネルが剛性部材に衝突する。そのため、図3中の矢印Bで示すように、1次の加速度ピークより高い2次の加速度ピークが発生し、2次の加速度ピークが最大加速度となる。
【0021】
なお、フードパネルの材質、クリアランスによっては、1次の加速度ピークの方が高くなり、1次の加速度ピークしか発生しない場合もある。例えば、鋼板製のフードパネルは、比重、強度が大きいため、衝突初期に受ける反力が大きくなり、1次の加速度ピークが最大加速度となる場合がある。また、インナーパネルと剛性部材とのクリアランスが極めて狭い場合は、衝突直後にそのまま剛性部材に接触し、1次の加速度ピークと2次の加速度ピークが合体し、1つの加速度ピークを生じる場合がある。
【0022】
フードパネルに補強部材を設けない場合、衝突初期において、図4に模式的に示したように、歩行者頭部3が受ける、アウターパネル1の変形及びフードパネル4の慣性による反力が小さくなり、図3に示したように、1次の加速度ピークが低下する。更に、変形が進み、インナーパネル2が剛性部材15に衝突した後は、図5に模式的に示したように、インナーパネル2のみが変形してエネルギーを吸収する。そのため、フードパネル4の移動、変形が制限され、歩行者頭部3が剛性部材15から受ける衝撃は大きくなる。その結果、図3に示したように、2次の加速度ピークが非常に大きくなる。
【0023】
一方、本発明による補強部材31を設けた場合、衝突初期において、歩行者頭部3とアウターパネル1が衝突した直後、図6に模式的に示したようにアウターパネル1が変形し、補強部材31の頂部34と衝突する。そのため、図3に示したように、補強部材31がない状態に比べて高い1次ピークが得られる。1次の加速度ピークが高いほど、歩行者頭部3は減速されるため、その後のインナーパネル2と剛性部材15との衝突による衝撃が緩和される。更に、図7に模式的に示したように、剛性部材15とインナーパネル2とが接触した後、補強部材31が変形して衝撃エネルギーを吸収する。その結果、図3に示したように、補強部材31を設けた場合、2次の加速度ピークは、補強部材31を設けない場合に比べて、非常に小さくなる。このように、略ハット型形状の補強部材の縦壁部のうち、変形により衝撃エネルギーを吸収する縦壁部を衝撃吸収壁部とよぶ。なお、衝撃による縦壁部の変形は、衝突の方向(通常は、自動車の前進走行を前提とする。)や補強部材の相対的位置にも、若干影響される。しかし、以下に説明するように、衝撃吸収壁部とフランジ部との傾斜角αと補強部材の板厚tを制御することにより、効率的に衝撃エネルギーを吸収させることができる。
【0024】
次に、図8に模式的に示したフードパネル4を想定し、補強部材31の板厚と形状とが、歩行者保護性に及ぼす影響について検討を行った。図8に示したように、アウターパネル1とインナーパネル2との空隙に設置された補強部材31の断面形状は、インナーパネル側がフランジ部32、33であり、アウターパネル側に頂部34を設けた略ハット形状であり、補強部材31のフランジ部32、33と、アウターパネルに近接する頂部34との間に、縦壁部35、36を有し、フランジ部32、33はインナーパネル2と接合されていると仮定した。
【0025】
また、図8に示した例では、縦壁部35、36のうち、剛性部材15に近い縦壁部36が、歩行者の頭部が衝突した際に変形し、エネルギーを吸収する衝撃吸収壁部36となる。したがって、補強部材のフランジ部33と衝撃吸収壁部36との間の角、即ち、傾斜角αは図8のα2だけとなり、この傾斜角αと、補強部材の板厚tとが、歩行者保護性に及ぼす影響をFEMによって評価した。なお、図3と同様、歩行者頭部の加速度の時間変化を数値解析によって求め、本発明では最大加速度が200G以下となるものを、歩行者保護性が良好であると評価した。このときのアウターパネル(板厚1.0mm)とインナーパネル(板厚0.8mm)で囲まれる閉断面空間の高さを25mmとした。補強部材は、アルミニウム合金製で高さ25mm、図8のα1=60°とし、板厚tと傾斜角α2を変えて解析した。その結果を図9に示す。
【0026】
図9に示したように、最大加速度が200G以下となるのは、補強部材の板厚tと、衝撃吸収壁部とフランジ部との傾斜角α2が、
1.83<t+1.83sinα2
及び
t+3.67sinα2<4.13
の範囲内であることがわかった。
【0027】
また、解析の結果、剛性部材に近い、衝撃吸収壁部とフランジ部との傾斜角αの大きさは衝撃吸収性に影響があるが、その反対側の傾斜角に対応する角である図8のα1の大きさは、補強部材の衝撃吸収性には、あまり影響がないことが分かった。したがって、補強部材の板厚tと、衝撃吸収壁部とフランジ部との傾斜角αとが、
1.83(1−sinα)<t<4.13−3.67sinα
を満足することが必要である。これは、定性的には、板厚tが厚い場合は、傾斜角αが大きすぎると衝撃吸収壁部の変形し難く、板厚tが薄い場合は、傾斜角αが小さすぎると衝撃吸収壁部が変形し易く、エネルギーの吸収が不十分であることを意味する。
【0028】
更に実用性を考えると、補強部材の板厚tは、0.4mm〜2.0mmの範囲とすることが好ましい。補強部材の板厚tは2.0mmより厚過ぎると軽量性を損ない、0.4mmより薄すぎると成形が困難になる。また、傾斜角αについても同様に、傾斜角αは15°〜80°の範囲とすることが好ましい。αが、15°より小さすぎると、上方からの衝撃を受ける補強部材の頂部をアウターパネルと接触させることが難しい場合があり、80°より大きすぎると、成形が困難になることがある。
【0029】
また、インナーパネルの板厚が1.0mm超、アウターパネルの板厚が1.2mm超である場合は、板厚が厚すぎるため、フードパネルが変形し難くなる。そのため、衝突初期の、衝撃力が大きくなりすぎる。一方、インナーパネルの板厚が0.7mm未満、アウターパネルの板厚が0.8mm未満であると、補強部材を設けても、フードパネルが変形し易いため、剛性部材と衝突した際の衝撃力が大きくなりすぎる。したがって、歩行者保護性を確保するためには、インナーパネルの板厚は0.7〜1.0mm、アウターパネルの板厚は0.8〜1.2mmの範囲であることが好ましい。
【0030】
以下、本発明のフードパネルについて、詳細に説明する。図8、図10は、本発明のフードパネルの断面の模式図である。アウターパネル1とインナーパネル2との空隙に設置された補強部材31の断面形状は、インナーパネル側がフランジ部32、33であり、アウターパネル側に頂部34を設けた略ハット形状であり、補強部材のフランジ部32、33と、アウターパネル2に近接する頂部34との間に、縦壁部35、36を有している。なお、フランジ部32、33は、例えば、スポット溶接や接着剤などによって、インナーパネル2と接合されている。
【0031】
図8では、縦壁部35、36のうち、縦壁部36のみが、歩行者の頭部が衝突した際に変形し、エネルギーを吸収する。このような場合は、縦壁部36のみが衝撃吸収壁部となる。したがって、補強部材のフランジ部33と、衝撃吸収壁部36との間の角、即ち、傾斜角α2は、補強部材の板厚tと、
1.83<t+1.83sinα2
及び
t+3.67sinα2<4.13
の範囲を満足することが必要である。この場合も、傾斜角α1、α2は、同一であっても、相違しても良い。
【0032】
一方、図10は、補強部材31が剛性部材15の直上に配置された例である。この場合、縦壁部35、36は、歩行者の頭部が衝突した際に変形し、エネルギーを吸収するため、両者が衝撃吸収壁部となる。したがって、補強部材のフランジ部32、33と、衝撃吸収壁部35、36との間の角、即ち、傾斜角α1、α2は、補強部材の板厚tと、それぞれ、
1.83(1−sinα1)<t<4.13−3.67sinα1
並びに、
1.83(1−sinα2)<t<4.13−3.67sinα2
の範囲を満足することが必要である。なお、傾斜角α1、α2は、同一であっても、相違してもよい。
【0033】
また、補強部材頂部の数点にシーラントを塗布し、補強部材とアウターパネルとを接合しても良い。補強部材の頂部をアウターパネルと接着させると、歩行者の頭部がアウターパネルに衝突した際の衝撃は、補強部材を介してインナーパネルに迅速に伝達する。これにより、慣性による衝撃エネルギーの吸収性を向上することができる。
【0034】
歩行者の頭部3がフードパネル4の中央付近に衝突する場合は、剛性部材であるエンジン部品とインナーパネル2との接触が懸念されるため、長手方向を車幅方向とした補強部材を、図10に例示したように、配設すれば良い。また、長手方向は、車両進行方向としてもよく、周辺の部品や歩行者保護性に適応させて補強部材を左右に分離してもよいし、車幅方向の中央のみに設けてもよい。
【0035】
また、歩行者の頭部がフードパネルの前方又は後方に衝突する場合は、長手方向を車幅方向とした補強部材31を、図8に例示したように配設すれば良い。この場合も、補強部材31を左右に分離してもよいし、車幅方向の中央のみに設けてもよい。
【0036】
更に、歩行者の頭部2がフードパネル4の側方に衝突する場合は、例えば、フェンダー部品13と近接するような、フードパネル4の側部に、図11に例示したように、長手方向を車両進行方向とする補強部材を配設すればよい。また、補強部材を前後に分離してもよいし、車両進行方向の中央のみに設けるなどの配設方法でもよい。
【0037】
図8、図10、図11では頂部34、衝撃吸収壁部35、36、フランジ部32、33は、いずれも平坦な形状をしているが、強度設計上、ビード部や、切欠部、また屈曲部分の内角側などに四面体形状に突出したスプリングバック防止用の補強部などを適宜設置してもよい。
【0038】
また、アウターパネルと補強部材との衝突によって生じる1次の加速度ピークを高く立ち上げるためには、アウターパネルと補強部材との間隔を狭く設定することが好ましい。 表1に、アウターパネルとインナーパネルで形成される閉断面空間の高さ25mmとした場合に、補強部材の高さによる最大加速度の測定結果を示す。実験条件は、図8に示すものと同じであり、α1=60°、α2(補強部材角度)=45°、補強部材の板厚=0.8mmで実施した。結果からもわかるように、アウターパネルとインナーパネルで形成される閉断面空間の高さに対して、80%以上の高さを有していれば、200G以下にすることができることを確認した。この高さの比率を上げれば、衝撃による加速度を低減することができ、最も望ましくは、補強部材をアウターパネルと近接させ、もしくは接合することである。特に、アウターパネルと補強部材とが、シーラントで固定される状態が最適である。アウターパネルと補強部材とがシーラントで接着されていれば、歩行者頭部とアウターパネルの衝突時の衝撃が、そのままフードパネル全体に伝達されるため、慣性によるエネルギー吸収が向上し、1次の加速度ピークが高くなる。
【0039】
【表1】
【0040】
本発明の補強部材は、インナーパネルとエンジンやフレームなどの剛性部材とのクリアランスが狭い領域に歩行者頭部が衝突した場合に、特に有効である。例えば、アルミニウム合金製のフードパネルに歩行者頭部が衝突した場合、60mmは変位することが確認されていることから、剛性部材とのクリアランス60mm以下となるような部位に有効である。したがって、車両フロント構造として、インナーパネルと剛性部材との距離が60mm以下である部位に、補強部材が設けられたフードパネルを備えることが好ましい。これにより、車両フロント構造の設計上の制限を小さくできる。例えば、自動車車体におけるアウターパネルの相対的な高さを低くすることができるなど、意匠に対する自由度を大きくすることができる。
【0041】
また、本発明のフードパネルの材料は、軽量性、加工性、材料特性の安定性等の観点から、アルミニウム合金が好適である。アルミニウム合金を採用することにより、フードパネルの軽量性と歩行者保護性とを両立することができる。なお、本発明のアウターパネル、インナーパネル、補強部材は、複雑な構造ではないため、特に成形性の優れた材料でなくとも、適用することができる。
【0042】
また、アルミニウム合金のうち、強度及び成形性と製造コストの観点から、6000系アルミニウム合金が最適である。また、成形性が特に必要とされる場合は、5000系アルミニウム合金が好ましいが、3000系、7000系のアルミニウム合金を使用しても良い。
【実施例1】
【0043】
全長が900〜1500mm、全幅が1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供用インパクターを衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。本発明の補強部材は、フードパネルの車両後方部分の下方の、車両後方側の空隙に設置させた。更に、インナーパネルからのクリアランスが55mmとなる位置に剛性部材となるフレームが備わった車両用フロント構造とした。直径165mm、重量3.5kgのインパクターを、50°の角度、35km/hの速度で衝突させた際の数値解析を、汎用の動的陽解法の解析コードで行い、歩行者頭部が受ける衝撃を求め、最大の加速度を評価した。
【0044】
補強部材は、断面が略ハット型形状であり、車幅方向に延伸した形状とした。また、インナーパネルと補強部材のフランジ部はスポット溶接によって接合されており、アウターパネルと補強部材の頂部は、シーラントで接着されているものとした。更に、図8に模式的に示したように、剛性部材15と近い縦壁部36が、歩行者の頭部が衝突した際に変形し、エネルギーを吸収する衝撃吸収壁部となる。したがって、図8の角α2が傾斜角αとなり、それと補強部材31の板厚tとが、歩行者保護性に及ぼす影響を数値解析によって評価した。
【0045】
補強部材の材質は、自動車パネル用の6000系アルミニウム合金を想定した。6000系アルミニウム合金の特性値は、Mgを0.2〜1.2%、Siを0.5〜1.5%含有し、残部Alからなるもの、更にCuを0.1〜1.5%含有するものを予め製造し、引張試験を行って求めて使用した。なお、フードパネルの材質は、同様に、自動車用のボディーパネル用6000系アルミニウム合金とし、アウターパネルの板厚は1.0mm、インナーパネルの板厚は0.8mmとした。アウターパネルとインナーパネルで囲まれる閉断面空間の高さを25mmとし、補強部材の高さも25mm、図8のα1に相当する角度を60°とした。
【0046】
数値解析結果を表2に示す。歩行者頭部が受ける衝撃において、最大加速度が200G以下となるものを良好と評価した。なお、表2のNo.9は、補強部材設置の効果を比較検証するため、補強部材を設けない従来の車両のフロント構造の数値解析結果である。
【0047】
【表2】
【0048】
No.1〜4は、補強部材の板厚が0.8mmの例である。この場合、No.2、No.3及びNo.4に示したように、傾斜角度が35°以上になると、衝撃吸収壁部の変形強度が適切になり、最大加速度が200G以下となる。一方、No.1は、傾斜角度が30°であり、板厚に対して傾斜角αが小さすぎるため、衝撃吸収壁部が変形し易くなり、歩行者頭部が受ける最大加速度が200Gを超えた比較例である。
【0049】
また、No.5〜No.8は、補強部材の板厚が1.0mmの例である。この場合は、衝撃吸収壁部の変形強度が高まり、No.6、7に示したように、傾斜角度が30°、45°では、歩行者頭部が受ける最大加速度が200G以下となった。一方、No.5に示したように、傾斜角度が25°では、板厚に対して傾斜角αが小さすぎるため、衝撃吸収壁部が変形し易くなり、No.8に示したように傾斜角度が60°では、板厚に対して傾斜角αが大きすぎるため、衝撃吸収壁部が変形し難くなる。そのため、No.5及び8は、歩行者頭部が受ける最大加速度が200Gを超えた比較例である。
【実施例2】
【0050】
実施例1と同様にして、補強部材を、6000系、5000系及び3000系アルミニウム合金とし、数値解析によって歩行者保護性を評価した。6000系、5000系及び3000系アルミニウム合金の、各アルミニウム合金の0.2%耐力、引張強度及びBH特性を表2に示す。なお、6000系合金の成分組成は、0.6%Mg、1.0%Si、残部Al及び不可避的不純物であり、5000系合金の成分組成は、4.5%Mg、残部Al及び不可避的不純物であり、3000系合金の成分組成は、1.2%Mn、1.0%Mg、残部Al及び不可避的不純物である。フードパネルと補強部材の形状は、実施例1と同じとした。
【0051】
表3に示したアルミニウム合金の引張性質は、JIS Z 2201に準拠して作製した引張試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して測定した。また、BH後の耐力は、JIS G 3135の附属書に記載された塗装焼付硬化試験方法と同様、予歪みを2%、時効温度を170℃、時効時間を20分として測定したBH量である。
【0052】
【表3】
【0053】
フードパネルの材質は自動車用のボディーパネル用6000系アルミニウム合金とし、アウターパネルの板厚は1.0mm、インナーパネルの板厚は0.8mmとした。補強部材の形状は、板厚tを1.0mm、傾斜角度αを45°とした。解析結果を表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
No.1〜3より、本発明による補強部材にいずれの合金を適用しても、最大加速度が200Gを下回り、優れた歩行者保護性が発揮されることが認められた。
【実施例3】
【0056】
図12に示すように、補強部材31の縦壁部35及び36がともに剛性部材15直上に位置した場合を想定し、実施例1と同様にして、歩行者保護性に及ぼす影響を数値解析によって評価した。この場合、縦壁部35、36とも衝撃吸収壁部となるため、傾斜角はα1とα2となる。フードパネルの材質は自動車用のボディーパネル用6000系アルミニウム合金とし、アウターパネルの板厚は1.0mm、インナーパネルの板厚は0.8mmとした。補強部材の材質は自動車用のボディーパネル用6000系アルミニウム合金とし、形状は板厚tを1.0mm、傾斜角α(=α1=α2)を45°とした。比較のため、補強部材を設けない従来の車両のフロント構造をNo.2として記入した。解析結果を表5に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
衝撃吸収壁部の片側のみが剛性部材の直上に位置する実施例1の結果に比べると、最大加速度が若干大きくなるが、本発明による補強部材によれば、歩行者頭部が受ける最大加速度を200G以下にすることができる。一方、補強部材を設けない従来の車両のフロント構造では衝撃を吸収しきれず、200Gを超える加速度が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、フードパネルのインナーパネルと剛性部材とのクリアランスが狭い領域、特に、フードパネルの周縁部においても、歩行者が衝突した際の衝撃エネルギーを効率良く吸収することができ、歩行者保護性が極めて向上し、車両のフロント構造の設計上の制限を小さくできる。例えば、自動車車体におけるアウターパネルの相対的な高さを低くすることができ、意匠に対する自由度が大きくなる。
また、インナーパネルの材料として、軽量なアルミニウム合金を使用できるため、フードパネルの軽量化と歩行者保護性との両立が可能となる。したがって、本発明によれば、意匠性に加えて、燃費性能及び運動性能の向上が可能な、歩行者保護性に優れたフードパネル及び車両のフロント構造を提供することができ、産業上の貢献が極めて高いと確信する。
【符号の説明】
【0060】
1 アウターパネル
2 インナーパネル
3 頭部(インパクター)
4 フードパネル
11 運転席側フレーム
12 エンジン
13 フェンダー部品
14 車両前方側フレーム
15 剛性部材
21 フードパネルの輪郭線
31 補強部材
32 フランジ部a
33 フランジ部b
34 頂部
35 衝撃吸収縦壁部a
36 衝撃吸収縦壁部b
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者と自動車の衝突時に、歩行者、特に、歩行者の頭部を保護する性能、即ち、歩行者保護性に優れたフードパネル及びこのフードパネルを備えた車両フロント部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歩行者と自動車の衝突時における歩行者の頭部の保護が重要視され、歩行者保護性に優れるフードパネルの構造の検討が進められている。歩行者、特にその頭部がフードパネルに衝突した際には、まずアウターパネルが変形し、その後インナーパネルが変形し、衝突エネルギーが吸収される。更に、フレーム、エンジン部品などのフードパネル近傍にある部品や部材は、パネルに比べて剛性が極めて高く、それら剛性の高い部品や部材(以下、総称として剛性部材という)とフードパネルとの間隔、即ち、クリアランスが狭い場合は、フードパネルが剛性部材に接触する。
【0003】
従来、歩行者保護性は、歩行者の頭部がフードパネルに衝突した後、フードパネルを剛性部材に接触させないように、フードパネル自体の剛性を向上させることによって確保されていた。例えば、インナーパネルの変形を抑制するために、アウターパネルとインナーパネルとの空隙に衝撃吸収体を設けたフードパネルが提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に提案されたフードパネルは、衝撃力による荷重が所定の大きさを超えると、衝撃吸収体が座屈変形し、衝撃吸収体及びインナーパネルが大変形に移行し、衝撃を効果的に緩和するものである。このとき、フードの変形による移動距離を小さく抑えて衝撃エネルギーを吸収するとしているが、その許容される移動距離は、フード下の空間内を想定している。つまり、フードが剛性部材に衝突することは想定しおらず、フード下のエンジンルームに空間的余裕が必要であった。
【0004】
これに対して、本発明者らの一部は、フードパネルが衝撃により変形し、フード下にある剛性部材と接触した場合であっても、歩行者の頭部が、直接、剛性部材からの衝撃を受けないように、インナーパネルの凹凸を利用するフードパネルを提案している(例えば、特許文献2、3)。
【0005】
しかし、図1に示したように、自動車のフロント部の、ほぼ中央部にはエンジン12が収納され、周囲にはフレームが配置されている。即ち、エンジンルームを覆うフードパネルの周縁部の直下には、剛性部材として、運転席側フレーム11、フェンダー部品13、車両前方側フレーム14が存在する。特に、フード周縁部では、曲げ、ねじりといった挙動に対して特に強い剛性を必要とする。そのため、フード周縁部では、閉断面空間が広く設けられており、インナーパネルとフレームなどの剛性部材とのクリアランスが狭い。
【0006】
クリアランスの狭い領域では、歩行者の頭部が衝突した際のフードパネルの移動距離が短くなり、慣性によるエネルギー吸収が小さい。また、短時間でインナーパネルと剛性部材とが衝突するため、歩行者の頭部の運動エネルギーが高い状態のまま、インナーパネルが剛性部材に衝突してしまう。特に、車体を軽量化するために、例えば、アルミニウム合金製のフードパネルを採用した場合、歩行者の頭部が衝突した際の慣性によるエネルギー吸収は更に小さくなる。そのため、インナーパネルが剛性部材に衝突すると、歩行者頭部は強い衝撃を受け易い。
【0007】
このような問題に対して、車両の前方や後方に補強部材を設けたフードパネルが提案されている(例えば、特許文献4、5)。また、特許文献4で提案されたフードパネルは、アウターパネルとインナーパネルとの空隙に設けた補強部材が折れ曲がり易いように、応力集中部を有するハット型とした構造である。また、特許文献5で提案されたフードパネルは、アウターパネル及びインナーパネルに接合された補強部材を設け、衝撃をアウターパネル及びインナーパネルに接合された補強部材の変形により吸収させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−80873号公報
【特許文献2】特開2008−30732号公報
【特許文献3】特開2008−168844号公報
【特許文献4】特開2007−185996号公報
【特許文献5】特開2008−189224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、歩行者保護性の観点から、歩行者、特にその頭部が剛性部材からの衝撃を受けないように、フードパネルと剛性部材とのクリアランスを確保する必要がある。特に、フードパネルの周縁部では、予めフレームとの衝突を想定して、インナーパネルとアウターパネルとの空隙を拡大し、圧潰量を大きくすることで衝撃吸収性を向上させることは可能である。しかし、これでは、エンジンルーム内のスペースを占有するなど、エンジンルーム内をはじめ、車体の設計自由度が損なわれる。また、インナーパネルとアウターパネルとの間に広い空間を設けると、フードパネルの張り剛性、ねじり剛性を損なう恐れがある。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑み、フレームやエンジン部品などの剛性部材とフードパネルのインナーパネルとのクリアランスが狭い領域に歩行者が衝突した際、特にフードパネルの周縁部で、剛性部材とインナーパネルとが接触しても、歩行者保護性に優れたフードパネル及びこれを採用した車両フロント部構造の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アウターパネルとインナーパネルとの間に設けた補強部材が圧潰すると、衝撃によって加えられたエネルギーが効果的に吸収され、さらに補強部材を最適な形状にすることにより、フード下の剛性部材と衝突するときに発生する衝撃エネルギーをも吸収すことができるという知見に基づき成されたものである。特に、本発明は、補強部材の断面の形状を略ハット形状とし、フランジ部と縦壁部との間の角度である傾斜角αと、板厚tとの関係を最適化したものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0012】
(1)アルミニウム合金製のアウターパネルとインナーパネルと、該アウターパネルと該インナーパネルとの空隙部に補強部材を設けたフードパネルであって、前記補強部材は、頂部と、両端に設けたフランジ部と、前記頂部と前記フランジ部との間の縦壁部からなる略ハット形状を有し、前記フランジ部は前記インナーパネルと接合され、前記縦壁部のうち一方又は双方が歩行者の衝突時に変形する衝撃吸収壁部であり、前記補強部材の板厚tが0.4〜2.0mmであり、前記衝撃吸収壁部と前記フランジ部との傾斜角αが、15°〜80°であり、前記補強部材の板厚tと、前記傾斜角αとが、
1.83(1−sinα)<t<4.13−3.67sinα
を満足することを特徴とする歩行者保護性に優れたフードパネル。
【0013】
(2)前記補強部材の頂部がアウターパネルに接合されたことを特徴とする上記(1)に記載の歩行者保護性に優れたフードパネル。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)に記載の補強部材が、インナーパネルと剛性部材との距離が60mm以下である部位に設けられたフードパネルを備えることを特徴とする車両フロント部構造。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フードパネルのインナーパネルと剛性部材とのクリアランスが狭い領域、特に、フードパネルの周縁部においても、歩行者が衝突した際の衝撃エネルギーを効率良く吸収することができ、歩行者保護性が極めて向上し、車両のフロント構造の設計上の制限を小さくできる。例えば、自動車車体におけるアウターパネルの相対的な高さを低くすることができ、意匠に対する自由度が大きくなる。また、インナーパネルの材料として、軽量なアルミニウム合金を使用できるため、フードパネルの軽量化と歩行者保護性との両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】車両フロント部のフードパネル周辺に位置する剛性部材を模式的に示す図である。
【図2】(a)は本発明の補強部材を示す図である。(b)は本発明の補強部材を、インナーパネルの運転席側フレームに対応する部位に設置した状態を示す図である。
【図3】本発明の補強部材を設けた状態と設けない状態において、歩行者頭部が受ける3軸方向の合成加速度の時間変化を示す図である。
【図4】補強部材を設けない状態で、衝突初期における変形挙動を模式的に示す図である。
【図5】補強部材を設けない状態で、インナーパネルが運転席側フレームに衝突した際の変形挙動を模式的に示す図である。
【図6】本発明の補強部材を設けた状態で、衝突初期における変形挙動を模式的に示す図である。
【図7】本発明の補強部材を設けた状態で、インナーパネルが運転席側フレームに衝突した際の変形挙動を模式的に示す図である。
【図8】本発明の補強部材の形状を模式的に示す図である。
【図9】本発明の補強部材の板厚t及び傾斜角度αと、歩行者頭部が受ける最大加速度の相関を示す図である。
【図10】本発明の補強部材を剛性部材直上に設置した一例を模式的に示す図である。
【図11】本発明の補強部材をフードパネルの側方に設置した一例を模式的に示す図である。
【図12】本発明の補強部材の両方の縦壁部が剛性部材直上に位置した状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、歩行者保護性の観点から成されたものであり、以下、特に重要な歩行者の頭部衝突を例に説明する。なお、本発明は、歩行者の頭部衝突に限定されることはなく、また歩行者の衝突にも限定されるものでもない。あらゆる物体と自動車フードパネルとの衝突に適用可能である。
図1に示す運転席側フレーム11に対応する部位に、図2に示す補強部材31を設けたフードパネルの歩行者保護性を、有限要素法(FEMという。)によって評価した。なお、FEMによる数値解析は、アルミニウム合金製フードパネルとフレームで構成されるフロント構造を想定して行った。また、比較のために、同様にして、補強部材を設けないフードパネルの歩行者保護性も評価した。歩行者保護性は、フードパネルに歩行者頭部(模擬インパクター)が衝突した際の、歩行者頭部の重心における3軸方向の合成加速度(以下、単に加速度という。)によって評価した。
【0018】
図3に、補強部材を設けたフードパネル及び補強部材を設けないフードパネルに、模擬インパクターを衝突させた際の、模擬インパクターの加速度の時間変化を示す。図3の縦軸に示した加速度と模擬インパクターの質量の積は、衝突時に歩行者頭部が受ける衝撃力に相当する。したがって、加速度が小さいほど、歩行者保護性に優れることになる。
【0019】
通常、アルミニウム合金製のフードパネルに歩行者頭部が衝突すると、1次の加速度ピークと、2次の加速度ピークが生じる。これらは、歩行者頭部の進行方向とは逆向きに発生する加速度である。即ち、1次の加速度ピークは、衝突初期に歩行者頭部がアウターパネルの変形及びフードパネルの慣性による反力を受け、速度が減少する際に生じる加速度である。2次の加速度ピークは、更に、フードパネルの変形が進み、インナーパネルと剛性部材との接触によって、速度が減少する際に生じる加速度である。
【0020】
図3中の矢印Aで示すような低い1次の加速度ピークが発生するのは、アルミニウム合金が軽量であり、慣性によるエネルギー吸収が小さいためである。1次の加速度ピークが小さいと、歩行者頭部の運動エネルギーが高い状態のまま、インナーパネルが剛性部材に衝突する。そのため、図3中の矢印Bで示すように、1次の加速度ピークより高い2次の加速度ピークが発生し、2次の加速度ピークが最大加速度となる。
【0021】
なお、フードパネルの材質、クリアランスによっては、1次の加速度ピークの方が高くなり、1次の加速度ピークしか発生しない場合もある。例えば、鋼板製のフードパネルは、比重、強度が大きいため、衝突初期に受ける反力が大きくなり、1次の加速度ピークが最大加速度となる場合がある。また、インナーパネルと剛性部材とのクリアランスが極めて狭い場合は、衝突直後にそのまま剛性部材に接触し、1次の加速度ピークと2次の加速度ピークが合体し、1つの加速度ピークを生じる場合がある。
【0022】
フードパネルに補強部材を設けない場合、衝突初期において、図4に模式的に示したように、歩行者頭部3が受ける、アウターパネル1の変形及びフードパネル4の慣性による反力が小さくなり、図3に示したように、1次の加速度ピークが低下する。更に、変形が進み、インナーパネル2が剛性部材15に衝突した後は、図5に模式的に示したように、インナーパネル2のみが変形してエネルギーを吸収する。そのため、フードパネル4の移動、変形が制限され、歩行者頭部3が剛性部材15から受ける衝撃は大きくなる。その結果、図3に示したように、2次の加速度ピークが非常に大きくなる。
【0023】
一方、本発明による補強部材31を設けた場合、衝突初期において、歩行者頭部3とアウターパネル1が衝突した直後、図6に模式的に示したようにアウターパネル1が変形し、補強部材31の頂部34と衝突する。そのため、図3に示したように、補強部材31がない状態に比べて高い1次ピークが得られる。1次の加速度ピークが高いほど、歩行者頭部3は減速されるため、その後のインナーパネル2と剛性部材15との衝突による衝撃が緩和される。更に、図7に模式的に示したように、剛性部材15とインナーパネル2とが接触した後、補強部材31が変形して衝撃エネルギーを吸収する。その結果、図3に示したように、補強部材31を設けた場合、2次の加速度ピークは、補強部材31を設けない場合に比べて、非常に小さくなる。このように、略ハット型形状の補強部材の縦壁部のうち、変形により衝撃エネルギーを吸収する縦壁部を衝撃吸収壁部とよぶ。なお、衝撃による縦壁部の変形は、衝突の方向(通常は、自動車の前進走行を前提とする。)や補強部材の相対的位置にも、若干影響される。しかし、以下に説明するように、衝撃吸収壁部とフランジ部との傾斜角αと補強部材の板厚tを制御することにより、効率的に衝撃エネルギーを吸収させることができる。
【0024】
次に、図8に模式的に示したフードパネル4を想定し、補強部材31の板厚と形状とが、歩行者保護性に及ぼす影響について検討を行った。図8に示したように、アウターパネル1とインナーパネル2との空隙に設置された補強部材31の断面形状は、インナーパネル側がフランジ部32、33であり、アウターパネル側に頂部34を設けた略ハット形状であり、補強部材31のフランジ部32、33と、アウターパネルに近接する頂部34との間に、縦壁部35、36を有し、フランジ部32、33はインナーパネル2と接合されていると仮定した。
【0025】
また、図8に示した例では、縦壁部35、36のうち、剛性部材15に近い縦壁部36が、歩行者の頭部が衝突した際に変形し、エネルギーを吸収する衝撃吸収壁部36となる。したがって、補強部材のフランジ部33と衝撃吸収壁部36との間の角、即ち、傾斜角αは図8のα2だけとなり、この傾斜角αと、補強部材の板厚tとが、歩行者保護性に及ぼす影響をFEMによって評価した。なお、図3と同様、歩行者頭部の加速度の時間変化を数値解析によって求め、本発明では最大加速度が200G以下となるものを、歩行者保護性が良好であると評価した。このときのアウターパネル(板厚1.0mm)とインナーパネル(板厚0.8mm)で囲まれる閉断面空間の高さを25mmとした。補強部材は、アルミニウム合金製で高さ25mm、図8のα1=60°とし、板厚tと傾斜角α2を変えて解析した。その結果を図9に示す。
【0026】
図9に示したように、最大加速度が200G以下となるのは、補強部材の板厚tと、衝撃吸収壁部とフランジ部との傾斜角α2が、
1.83<t+1.83sinα2
及び
t+3.67sinα2<4.13
の範囲内であることがわかった。
【0027】
また、解析の結果、剛性部材に近い、衝撃吸収壁部とフランジ部との傾斜角αの大きさは衝撃吸収性に影響があるが、その反対側の傾斜角に対応する角である図8のα1の大きさは、補強部材の衝撃吸収性には、あまり影響がないことが分かった。したがって、補強部材の板厚tと、衝撃吸収壁部とフランジ部との傾斜角αとが、
1.83(1−sinα)<t<4.13−3.67sinα
を満足することが必要である。これは、定性的には、板厚tが厚い場合は、傾斜角αが大きすぎると衝撃吸収壁部の変形し難く、板厚tが薄い場合は、傾斜角αが小さすぎると衝撃吸収壁部が変形し易く、エネルギーの吸収が不十分であることを意味する。
【0028】
更に実用性を考えると、補強部材の板厚tは、0.4mm〜2.0mmの範囲とすることが好ましい。補強部材の板厚tは2.0mmより厚過ぎると軽量性を損ない、0.4mmより薄すぎると成形が困難になる。また、傾斜角αについても同様に、傾斜角αは15°〜80°の範囲とすることが好ましい。αが、15°より小さすぎると、上方からの衝撃を受ける補強部材の頂部をアウターパネルと接触させることが難しい場合があり、80°より大きすぎると、成形が困難になることがある。
【0029】
また、インナーパネルの板厚が1.0mm超、アウターパネルの板厚が1.2mm超である場合は、板厚が厚すぎるため、フードパネルが変形し難くなる。そのため、衝突初期の、衝撃力が大きくなりすぎる。一方、インナーパネルの板厚が0.7mm未満、アウターパネルの板厚が0.8mm未満であると、補強部材を設けても、フードパネルが変形し易いため、剛性部材と衝突した際の衝撃力が大きくなりすぎる。したがって、歩行者保護性を確保するためには、インナーパネルの板厚は0.7〜1.0mm、アウターパネルの板厚は0.8〜1.2mmの範囲であることが好ましい。
【0030】
以下、本発明のフードパネルについて、詳細に説明する。図8、図10は、本発明のフードパネルの断面の模式図である。アウターパネル1とインナーパネル2との空隙に設置された補強部材31の断面形状は、インナーパネル側がフランジ部32、33であり、アウターパネル側に頂部34を設けた略ハット形状であり、補強部材のフランジ部32、33と、アウターパネル2に近接する頂部34との間に、縦壁部35、36を有している。なお、フランジ部32、33は、例えば、スポット溶接や接着剤などによって、インナーパネル2と接合されている。
【0031】
図8では、縦壁部35、36のうち、縦壁部36のみが、歩行者の頭部が衝突した際に変形し、エネルギーを吸収する。このような場合は、縦壁部36のみが衝撃吸収壁部となる。したがって、補強部材のフランジ部33と、衝撃吸収壁部36との間の角、即ち、傾斜角α2は、補強部材の板厚tと、
1.83<t+1.83sinα2
及び
t+3.67sinα2<4.13
の範囲を満足することが必要である。この場合も、傾斜角α1、α2は、同一であっても、相違しても良い。
【0032】
一方、図10は、補強部材31が剛性部材15の直上に配置された例である。この場合、縦壁部35、36は、歩行者の頭部が衝突した際に変形し、エネルギーを吸収するため、両者が衝撃吸収壁部となる。したがって、補強部材のフランジ部32、33と、衝撃吸収壁部35、36との間の角、即ち、傾斜角α1、α2は、補強部材の板厚tと、それぞれ、
1.83(1−sinα1)<t<4.13−3.67sinα1
並びに、
1.83(1−sinα2)<t<4.13−3.67sinα2
の範囲を満足することが必要である。なお、傾斜角α1、α2は、同一であっても、相違してもよい。
【0033】
また、補強部材頂部の数点にシーラントを塗布し、補強部材とアウターパネルとを接合しても良い。補強部材の頂部をアウターパネルと接着させると、歩行者の頭部がアウターパネルに衝突した際の衝撃は、補強部材を介してインナーパネルに迅速に伝達する。これにより、慣性による衝撃エネルギーの吸収性を向上することができる。
【0034】
歩行者の頭部3がフードパネル4の中央付近に衝突する場合は、剛性部材であるエンジン部品とインナーパネル2との接触が懸念されるため、長手方向を車幅方向とした補強部材を、図10に例示したように、配設すれば良い。また、長手方向は、車両進行方向としてもよく、周辺の部品や歩行者保護性に適応させて補強部材を左右に分離してもよいし、車幅方向の中央のみに設けてもよい。
【0035】
また、歩行者の頭部がフードパネルの前方又は後方に衝突する場合は、長手方向を車幅方向とした補強部材31を、図8に例示したように配設すれば良い。この場合も、補強部材31を左右に分離してもよいし、車幅方向の中央のみに設けてもよい。
【0036】
更に、歩行者の頭部2がフードパネル4の側方に衝突する場合は、例えば、フェンダー部品13と近接するような、フードパネル4の側部に、図11に例示したように、長手方向を車両進行方向とする補強部材を配設すればよい。また、補強部材を前後に分離してもよいし、車両進行方向の中央のみに設けるなどの配設方法でもよい。
【0037】
図8、図10、図11では頂部34、衝撃吸収壁部35、36、フランジ部32、33は、いずれも平坦な形状をしているが、強度設計上、ビード部や、切欠部、また屈曲部分の内角側などに四面体形状に突出したスプリングバック防止用の補強部などを適宜設置してもよい。
【0038】
また、アウターパネルと補強部材との衝突によって生じる1次の加速度ピークを高く立ち上げるためには、アウターパネルと補強部材との間隔を狭く設定することが好ましい。 表1に、アウターパネルとインナーパネルで形成される閉断面空間の高さ25mmとした場合に、補強部材の高さによる最大加速度の測定結果を示す。実験条件は、図8に示すものと同じであり、α1=60°、α2(補強部材角度)=45°、補強部材の板厚=0.8mmで実施した。結果からもわかるように、アウターパネルとインナーパネルで形成される閉断面空間の高さに対して、80%以上の高さを有していれば、200G以下にすることができることを確認した。この高さの比率を上げれば、衝撃による加速度を低減することができ、最も望ましくは、補強部材をアウターパネルと近接させ、もしくは接合することである。特に、アウターパネルと補強部材とが、シーラントで固定される状態が最適である。アウターパネルと補強部材とがシーラントで接着されていれば、歩行者頭部とアウターパネルの衝突時の衝撃が、そのままフードパネル全体に伝達されるため、慣性によるエネルギー吸収が向上し、1次の加速度ピークが高くなる。
【0039】
【表1】
【0040】
本発明の補強部材は、インナーパネルとエンジンやフレームなどの剛性部材とのクリアランスが狭い領域に歩行者頭部が衝突した場合に、特に有効である。例えば、アルミニウム合金製のフードパネルに歩行者頭部が衝突した場合、60mmは変位することが確認されていることから、剛性部材とのクリアランス60mm以下となるような部位に有効である。したがって、車両フロント構造として、インナーパネルと剛性部材との距離が60mm以下である部位に、補強部材が設けられたフードパネルを備えることが好ましい。これにより、車両フロント構造の設計上の制限を小さくできる。例えば、自動車車体におけるアウターパネルの相対的な高さを低くすることができるなど、意匠に対する自由度を大きくすることができる。
【0041】
また、本発明のフードパネルの材料は、軽量性、加工性、材料特性の安定性等の観点から、アルミニウム合金が好適である。アルミニウム合金を採用することにより、フードパネルの軽量性と歩行者保護性とを両立することができる。なお、本発明のアウターパネル、インナーパネル、補強部材は、複雑な構造ではないため、特に成形性の優れた材料でなくとも、適用することができる。
【0042】
また、アルミニウム合金のうち、強度及び成形性と製造コストの観点から、6000系アルミニウム合金が最適である。また、成形性が特に必要とされる場合は、5000系アルミニウム合金が好ましいが、3000系、7000系のアルミニウム合金を使用しても良い。
【実施例1】
【0043】
全長が900〜1500mm、全幅が1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供用インパクターを衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。本発明の補強部材は、フードパネルの車両後方部分の下方の、車両後方側の空隙に設置させた。更に、インナーパネルからのクリアランスが55mmとなる位置に剛性部材となるフレームが備わった車両用フロント構造とした。直径165mm、重量3.5kgのインパクターを、50°の角度、35km/hの速度で衝突させた際の数値解析を、汎用の動的陽解法の解析コードで行い、歩行者頭部が受ける衝撃を求め、最大の加速度を評価した。
【0044】
補強部材は、断面が略ハット型形状であり、車幅方向に延伸した形状とした。また、インナーパネルと補強部材のフランジ部はスポット溶接によって接合されており、アウターパネルと補強部材の頂部は、シーラントで接着されているものとした。更に、図8に模式的に示したように、剛性部材15と近い縦壁部36が、歩行者の頭部が衝突した際に変形し、エネルギーを吸収する衝撃吸収壁部となる。したがって、図8の角α2が傾斜角αとなり、それと補強部材31の板厚tとが、歩行者保護性に及ぼす影響を数値解析によって評価した。
【0045】
補強部材の材質は、自動車パネル用の6000系アルミニウム合金を想定した。6000系アルミニウム合金の特性値は、Mgを0.2〜1.2%、Siを0.5〜1.5%含有し、残部Alからなるもの、更にCuを0.1〜1.5%含有するものを予め製造し、引張試験を行って求めて使用した。なお、フードパネルの材質は、同様に、自動車用のボディーパネル用6000系アルミニウム合金とし、アウターパネルの板厚は1.0mm、インナーパネルの板厚は0.8mmとした。アウターパネルとインナーパネルで囲まれる閉断面空間の高さを25mmとし、補強部材の高さも25mm、図8のα1に相当する角度を60°とした。
【0046】
数値解析結果を表2に示す。歩行者頭部が受ける衝撃において、最大加速度が200G以下となるものを良好と評価した。なお、表2のNo.9は、補強部材設置の効果を比較検証するため、補強部材を設けない従来の車両のフロント構造の数値解析結果である。
【0047】
【表2】
【0048】
No.1〜4は、補強部材の板厚が0.8mmの例である。この場合、No.2、No.3及びNo.4に示したように、傾斜角度が35°以上になると、衝撃吸収壁部の変形強度が適切になり、最大加速度が200G以下となる。一方、No.1は、傾斜角度が30°であり、板厚に対して傾斜角αが小さすぎるため、衝撃吸収壁部が変形し易くなり、歩行者頭部が受ける最大加速度が200Gを超えた比較例である。
【0049】
また、No.5〜No.8は、補強部材の板厚が1.0mmの例である。この場合は、衝撃吸収壁部の変形強度が高まり、No.6、7に示したように、傾斜角度が30°、45°では、歩行者頭部が受ける最大加速度が200G以下となった。一方、No.5に示したように、傾斜角度が25°では、板厚に対して傾斜角αが小さすぎるため、衝撃吸収壁部が変形し易くなり、No.8に示したように傾斜角度が60°では、板厚に対して傾斜角αが大きすぎるため、衝撃吸収壁部が変形し難くなる。そのため、No.5及び8は、歩行者頭部が受ける最大加速度が200Gを超えた比較例である。
【実施例2】
【0050】
実施例1と同様にして、補強部材を、6000系、5000系及び3000系アルミニウム合金とし、数値解析によって歩行者保護性を評価した。6000系、5000系及び3000系アルミニウム合金の、各アルミニウム合金の0.2%耐力、引張強度及びBH特性を表2に示す。なお、6000系合金の成分組成は、0.6%Mg、1.0%Si、残部Al及び不可避的不純物であり、5000系合金の成分組成は、4.5%Mg、残部Al及び不可避的不純物であり、3000系合金の成分組成は、1.2%Mn、1.0%Mg、残部Al及び不可避的不純物である。フードパネルと補強部材の形状は、実施例1と同じとした。
【0051】
表3に示したアルミニウム合金の引張性質は、JIS Z 2201に準拠して作製した引張試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して測定した。また、BH後の耐力は、JIS G 3135の附属書に記載された塗装焼付硬化試験方法と同様、予歪みを2%、時効温度を170℃、時効時間を20分として測定したBH量である。
【0052】
【表3】
【0053】
フードパネルの材質は自動車用のボディーパネル用6000系アルミニウム合金とし、アウターパネルの板厚は1.0mm、インナーパネルの板厚は0.8mmとした。補強部材の形状は、板厚tを1.0mm、傾斜角度αを45°とした。解析結果を表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
No.1〜3より、本発明による補強部材にいずれの合金を適用しても、最大加速度が200Gを下回り、優れた歩行者保護性が発揮されることが認められた。
【実施例3】
【0056】
図12に示すように、補強部材31の縦壁部35及び36がともに剛性部材15直上に位置した場合を想定し、実施例1と同様にして、歩行者保護性に及ぼす影響を数値解析によって評価した。この場合、縦壁部35、36とも衝撃吸収壁部となるため、傾斜角はα1とα2となる。フードパネルの材質は自動車用のボディーパネル用6000系アルミニウム合金とし、アウターパネルの板厚は1.0mm、インナーパネルの板厚は0.8mmとした。補強部材の材質は自動車用のボディーパネル用6000系アルミニウム合金とし、形状は板厚tを1.0mm、傾斜角α(=α1=α2)を45°とした。比較のため、補強部材を設けない従来の車両のフロント構造をNo.2として記入した。解析結果を表5に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
衝撃吸収壁部の片側のみが剛性部材の直上に位置する実施例1の結果に比べると、最大加速度が若干大きくなるが、本発明による補強部材によれば、歩行者頭部が受ける最大加速度を200G以下にすることができる。一方、補強部材を設けない従来の車両のフロント構造では衝撃を吸収しきれず、200Gを超える加速度が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、フードパネルのインナーパネルと剛性部材とのクリアランスが狭い領域、特に、フードパネルの周縁部においても、歩行者が衝突した際の衝撃エネルギーを効率良く吸収することができ、歩行者保護性が極めて向上し、車両のフロント構造の設計上の制限を小さくできる。例えば、自動車車体におけるアウターパネルの相対的な高さを低くすることができ、意匠に対する自由度が大きくなる。
また、インナーパネルの材料として、軽量なアルミニウム合金を使用できるため、フードパネルの軽量化と歩行者保護性との両立が可能となる。したがって、本発明によれば、意匠性に加えて、燃費性能及び運動性能の向上が可能な、歩行者保護性に優れたフードパネル及び車両のフロント構造を提供することができ、産業上の貢献が極めて高いと確信する。
【符号の説明】
【0060】
1 アウターパネル
2 インナーパネル
3 頭部(インパクター)
4 フードパネル
11 運転席側フレーム
12 エンジン
13 フェンダー部品
14 車両前方側フレーム
15 剛性部材
21 フードパネルの輪郭線
31 補強部材
32 フランジ部a
33 フランジ部b
34 頂部
35 衝撃吸収縦壁部a
36 衝撃吸収縦壁部b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金製のアウターパネルとインナーパネルと、該アウターパネルと該インナーパネルとの空隙部に補強部材を設けたフードパネルであって、前記補強部材は、頂部と、両端に設けたフランジ部と、前記頂部と前記フランジ部との間の縦壁部からなる略ハット形状を有し、前記フランジ部は前記インナーパネルと接合され、前記縦壁部のうち一方又は双方が歩行者の衝突時に変形する衝撃吸収壁部であり、前記補強部材の板厚tが0.4〜2.0mmであり、前記衝撃吸収壁部と前記フランジ部との傾斜角αが、15°〜80°であり、前記補強部材の板厚tと、前記傾斜角αとが、
1.83(1−sinα)<t<4.13−3.67sinα
を満足することを特徴とする歩行者保護性に優れたフードパネル。
【請求項2】
前記補強部材の頂部がアウターパネルに接合されたことを特徴とする請求項1に記載の歩行者保護性に優れたフードパネル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記補強部材が、インナーパネルと剛性部材との距離が60mm以下である部位に設けられたフードパネルを備えることを特徴とする車両フロント部構造。
【請求項1】
アルミニウム合金製のアウターパネルとインナーパネルと、該アウターパネルと該インナーパネルとの空隙部に補強部材を設けたフードパネルであって、前記補強部材は、頂部と、両端に設けたフランジ部と、前記頂部と前記フランジ部との間の縦壁部からなる略ハット形状を有し、前記フランジ部は前記インナーパネルと接合され、前記縦壁部のうち一方又は双方が歩行者の衝突時に変形する衝撃吸収壁部であり、前記補強部材の板厚tが0.4〜2.0mmであり、前記衝撃吸収壁部と前記フランジ部との傾斜角αが、15°〜80°であり、前記補強部材の板厚tと、前記傾斜角αとが、
1.83(1−sinα)<t<4.13−3.67sinα
を満足することを特徴とする歩行者保護性に優れたフードパネル。
【請求項2】
前記補強部材の頂部がアウターパネルに接合されたことを特徴とする請求項1に記載の歩行者保護性に優れたフードパネル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記補強部材が、インナーパネルと剛性部材との距離が60mm以下である部位に設けられたフードパネルを備えることを特徴とする車両フロント部構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−11658(P2011−11658A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158134(P2009−158134)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】
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