説明

歩行者用エアバッグ装置

【課題】リッドに凸曲変形部が生じた場合でも、エアバッグが車体外面の規定位置に重なった状態となるように膨張展開する歩行者用エアバッグ装置を提供する。
【解決手段】リッド20は、フード3のエアバッグ通過用開口3aを覆うように配置され、その左右両端側及び中央部がヒンジ21によって該開口3aの後縁側に連結されている。リッド20が開き出して裏返し状になると、リッド20の中央付近が上方に凸曲するように変形し、凸曲変形部23が生じる。膨張したエアバッグ30の下面側には、凸曲変形部23を受容する凹部34が形成される。凹部34は、エアバッグ30の下面側を摘み縫いすることにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のフードの少なくとも一部に沿って膨張するエアバッグを有した歩行者用エアバッグ装置に係り、特に車体幅方向に延設されたケース内にエアバッグが収容されている歩行者用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車体のカウル部付近に沿ってエアバッグを膨張させて歩行者等(歩行者や自転車乗員など)を受け止めるようにした歩行者用エアバッグ装置が公知である。この歩行者用エアバッグ装置の一形態として、車体幅方向に延設されたケース内にエアバッグが収容されている歩行者用エアバッグ装置が公知である(特開2005−280556号)。
【0003】
同号公報では、フードの後部に設けられた開口の直下に該ケースが配置されている。この開口を覆うようにリッド(同号公報ではエアバッグカバーと称されている。)が設けられている。このリッドは該ケースに留め付けられている。該リッドにテアライン(破断予定部)が設けられており、エアバッグ膨張時にはテアラインに沿って該リッドが開裂し、エアバッグがフード上に膨張展開する。
【0004】
上記特開2005−280556号の図4の通り、リッドの後縁はウィンドシールドの下縁に沿って弓形に湾曲している。
【0005】
このようなリッドの後縁をフードの開口縁にヒンジ留めすることが考えられる。第5図はそのような歩行者用エアバッグ装置を備えた自動車の斜視図、第6図はエアバッグ膨張時の第5図の自動車の斜視図、第7図は第5図のVII−VII線断面図である。
【0006】
第5,6図の通り、自動車1は、4ドアセダンであり、ボンネットフード3の後部に歩行者用エアバッグ装置4が設置されている。第6図の通り、歩行者用エアバッグ装置4のエアバッグ5が膨張すると、カウルルーバー2、ウィンドシールド6及び左右のAピラー7がエアバッグ5によって覆われる。
【0007】
第7図の通り、歩行者用エアバッグ装置4は、折り畳まれたエアバッグ5を収納するためのケース8と、エアバッグ5を膨張させるためのインフレータ9と、フード3のエアバッグ通過用開口3aを閉鎖しているリッド10等を備えている。
【0008】
ケース8は車体幅方向に延在した長函状のものである。
【0009】
リッド10は、その長手方向の中央部と両端側の車体後縁側がフード3の開口3aの後縁側にヒンジ11によって留め付けられており、エアバッグ5が膨張するときには該ヒンジ11を回動中心として第7図の矢印θの通り後方側へ回動しながら開き出すよう構成されている。リッド10の前縁側はクリップ等の係止部材(図示略)によって開口3aの前縁部に対し留め付けられている。この係止部材は、エアバッグ5に押されてリッド10が開放するときには、係止を解除するよう構成されている。
【0010】
このように構成された歩行者用エアバッグ装置4を備えた自動車に対し歩行者等が衝突した場合、歩行者衝突検知センサ(図示略)の検知信号に基づいてインフレータ9が作動され、その噴出ガスによってエアバッグ5が膨張を開始する。膨張するエアバッグ5に押されてリッド10が開放し、第6図の通りエアバッグ5が車体外面に沿って展開する。
【特許文献1】特開2005−280556号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記第5図〜第7図のように、リッド10が弓形の平面視形状であり、リッド10の長手方向の中央部及び両端側がヒンジ11によってフード3に留め付けられている場合、リッド10がヒンジ11を回動中心として開放回動し、裏返し状となったときに、リッド10の中央部のヒンジ11付近が上方に向って凸となるように変形し、凸曲変形部が生じることがある。
【0012】
本発明は、このようにリッドに凸曲変形部が生じた場合でも、エアバッグが車体外面の規定位置に重なった状態となるように膨張展開する歩行者用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明(請求項1)の歩行者用エアバッグ装置は、車体の少なくともフード後部の一部に沿って膨張するエアバッグと、該エアバッグを収容した車体幅方向に延在するケースと、該エアバッグを膨張させるためのインフレータと、該ケースの上方に配置されたリッドとを有した歩行者用エアバッグ装置であって、該リッドの後縁が車体に対しヒンジによって回動可能に連結されており、該リッドの後縁は、リッドの長手方向の両端側が車体後方側となるように湾曲しており、該リッドが開放したときに該リッドの一部に上方に向って凸となる変形部が生じる歩行者用エアバッグ装置において、前記エアバッグは、膨張したときに、該変形部と重なる部位に該変形部を受容する凹部が形成されるように構成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2の歩行者用エアバッグ装置は、請求項1において、少なくとも、該リッドの長手方向の両端側と該リッドの長手方向の中間付近とにそれぞれ前記ヒンジが設けられており、前記凹部は該エアバッグの膨張時に該リッド中間付近に対峙する部位に設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項3の歩行者用エアバッグ装置は、請求項1又は2において、前記凹部はエアバッグに摘み縫いを施すことにより構成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の歩行者用エアバッグ装置にあっては、エアバッグに凹部が設けられており、開放回動したリッドの変形部が該凹部に受容される。このため、エアバッグは車体外面の展開予定領域を覆うように膨張展開する。
【0017】
請求項2のように、リッド後縁の長手方向の両端側だけでなく該長手方向の中間付近もヒンジによって車体に留め付けた場合には、リッドの中央付近に変形部が生じるので、凹部も、膨張時にリッドの該中央付近に対峙する部位に設けるのが好ましい。
【0018】
この凹部は、摘み縫いにより容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図(a)は実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置のリッドの平面図、第1図(b)は第1図(a)のB−B線矢視図、第2図はこの自動車のエアバッグ展開領域付近の平面図、第3図は第2図のIII−III線断面図、第4図は第2図の矢印IV方向からみたリッド中央部付近の斜視図である。
【0020】
なお、第2〜4図はいずれもリッドが開き、膨張したエアバッグが車体外面を覆った状態を示している。第2図においては、この膨張したエアバッグは二点鎖線にて透視状に図示されている。
【0021】
第1図(a)の通り、この実施の形態のリッド20も、前述の第5〜7図のリッド10と同様に、前縁20f及び後縁20rがいずれも中央側ほど車体前方となるように弓形に湾曲した平面視形状のものである。このリッド20にあっても、後縁20rの長手方向両端側と長手方向中央の合計3箇所にヒンジ21が設けられている。第1図(b)に示すように、このヒンジ21は突片状のものであり、その板面には、リベットやボルトなどの留付具を挿通させる孔21aが設けられている。
【0022】
符号22は、該前縁20f及び後縁20rに長手方向に間隔をあけて設けられた、クリップ等の係止部材(図示略)取付用の台座部を示す。
【0023】
このリッド20は、フード3のエアバッグ通過用開口3aを覆うように配置され、各ヒンジ21が該開口3aの後縁側にリベット、ボルト等によって固着される。また、このリッド20の前縁21f及び後縁20rは、台座部22に設けられた係止部材を介して該開口3aの縁部に係止される。
【0024】
図示は省略するが、この開口3aの直下に前記第7図と同様にケース8が配置され、このケース8内にエアバッグ30及びインフレータ9が配置される。
【0025】
このインフレータ9が作動すると、エアバッグ30が膨張し、この膨張するエアバッグ30に押されたリッド20が各ヒンジ21を回動中心として後方側へ回動して開き出す。
【0026】
なお、リッド20の両端側だけでなく中央部もヒンジ21によって開口3aの後縁部に連結されているので、リッド20が開き出して裏返し状になると、このリッド20は、第2図の如く該開口3aの後縁に沿うように本来の(開放回動する前の状態のときの)湾曲中心側へ座屈する。この際、本来湾曲外周側であったリッド20の前縁20f側がその延在方向の中央側へ押し縮められ、該リッド20の中央付近が第3〜4図の如く上方に凸曲するように変形する。この結果、該リッド20の中央付近に、上方へ突起した凸曲変形部23が生じることとなる。
【0027】
エアバッグ30の構成について第2図〜第4図を参照して次に説明する。
【0028】
このエアバッグ30は、上側パネル31と下側パネル32とを重ね合わせ、それらの周縁部を縫合して袋状としたものである。
【0029】
このエアバッグ30は、フード3の後部からウィンドシールド6の下部を覆うフード覆装部30aと、該フード覆装部30aの左右両端側に連なり、左右のAピラー7に沿って展開して各Aピラー7の少なくとも一部を覆う1対のピラー覆装部30b,30bとを有した略U形のものである。ただし、エアバッグ30の展開形状はこれに限定されるものではなく、例えば、フード後部からウィンドシールド及びAピラーの略全体を覆う略方形であってもよく、さらに、フード覆装部30aの左右両端側から左右のフェンダー部を覆うように前方に延出する1対のフェンダー覆装部を有した略H字形などであってもよい。
【0030】
エアバッグ30が膨張すると、該フード覆装部30aは、開き出して裏返し状になったリッド20の上に乗り上げるようにしてフード3の後部を覆う。
【0031】
第3,4図の通り、このエアバッグ30は、膨張したときに、フード覆装部30aの左右方向中央付近の下面側、即ち、開き出して裏返し状になったリッド20の中央付近と対峙する位置に、このリッド20の中央付近に生じる前記凸曲変形部23を受容可能な凹部34が形成されるよう構成されている。
【0032】
この実施の形態では、第3図に示すように、該フード覆装部30aの中央付近において、下側パネル32に摘み縫いが施されている(即ち、該下側パネル32の中央付近をエアバッグ外部側へ所定量摘み出し、その根元付近を縫糸等よりなるシームSで縫合している)。第3図の符号33は、この摘み縫い部を示している。これにより、エアバッグ30が膨張すると、該フード覆装部30aの中央付近において下側パネル32がエアバッグ内部側へ落ち窪み、凹部34が形成されるようになっている。なお、この摘み縫い部33は、該下側パネル32をエアバッグ内部側へ摘み出すようにして形成されてもよい。
【0033】
かかる構成の歩行者用エアバッグ装置にあっては、膨張したエアバッグ30(フード覆装部30a)の下面側の凹部34にリッド20の凸曲変形部23が受容されるため、膨張したエアバッグ30が凸曲変形部23に乗り上げて姿勢が不安定となったり、規定の展開予定位置からずれた位置に展開したりすることが防止される。
【0034】
上記の実施の形態は本発明の一例を示すものであり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0035】
例えば、リッドは、その後縁の左右両端側と中央部以外の箇所もヒンジで車体に連結されてもよい。
【0036】
上記の実施の形態では、エアバッグを摘み縫いすることにより凹部を形成しているが、これ以外の方法、例えば立体裁断や、エアバッグの上下のパネル同士を吊紐等で連結することなどにより凹部を形成するようにしてもよい。
【0037】
本発明では、リッド開放回動時にその中央部以外の箇所に凸曲変形部が形成されてもよく、複数箇所に凸曲変形部が形成されてもよい。なお、この凸曲変形部の形成位置は実験的に求められてもよく、リッドの所定位置に例えば脆弱部を設けておき、この脆弱部に凸曲変形を誘導するようにしてもよい。
【0038】
当然ながら、凹部も、この凸曲変形部の位置に合わせて、エアバッグの中央部以外の箇所に形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)図は実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置のリッドの平面図であり、(b)図は(a)図のB−B線矢視図である。
【図2】図1の自動車のエアバッグ展開領域付近の平面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図2の矢印IV方向からみたリッド中央部付近の斜視図である。
【図5】比較例に係る歩行者用エアバッグ装置を備えた自動車の斜視図である。
【図6】エアバッグ膨張時の図5の自動車の斜視図である。
【図7】図5のVII−VII線断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 自動車
3 ボンネットフード
3a 開口
4 歩行者用エアバッグ装置
5 エアバッグ
8 ケース
9 インフレータ
10,20 リッド
11,21 ヒンジ
23 凸曲変形部
30 エアバッグ
33 摘み縫い部
34 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の少なくともフード後部の一部に沿って膨張するエアバッグと、該エアバッグを収容した車体幅方向に延在するケースと、該エアバッグを膨張させるためのインフレータと、該ケースの上方に配置されたリッドとを有した歩行者用エアバッグ装置であって、
該リッドの後縁が車体に対しヒンジによって回動可能に連結されており、
該リッドの後縁は、リッドの長手方向の両端側が車体後方側となるように湾曲しており、該リッドが開放したときに該リッドの一部に上方に向って凸となる変形部が生じる歩行者用エアバッグ装置において、
前記エアバッグは、膨張したときに、該変形部と重なる部位に該変形部を受容する凹部が形成されるように構成されていることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1において、少なくとも、該リッドの長手方向の両端側と該リッドの長手方向の中間付近とにそれぞれ前記ヒンジが設けられており、
前記凹部は該エアバッグの膨張時に該リッド中間付近に対峙する部位に設けられていることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記凹部はエアバッグに摘み縫いを施すことにより構成されたものであることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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