説明

歩行者用エアバッグ装置

【課題】カバードアが支持部によってケースの後縁側に支持されており、エアバッグの膨張時に該支持部を回動基端側として開放回動可能である歩行者用エアバッグ装置において、エアバッグ膨張時のカバードアの開放回動が容易化された歩行者用エアバッグ装置を提供する。
【解決手段】歩行者用エアバッグ装置4は、折り畳まれたエアバッグ5を収納するためのケース8と、エアバッグ5を膨張させるためのインフレータ9L,9Rと、フード3のエアバッグ通過用開口3aを閉鎖しているカバードア10等を備えている。ケース8の長手方向の両端側にそれぞれインフレータ9L,9Rが設置されている。カバードア10は、車体幅方向に延在する帯板状のものであり、その後縁部の長手方向両端側がヒンジ11(11L,11R)によって開口3aの後縁部に留め付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のフードの少なくとも一部に沿って膨張するエアバッグを有した歩行者用エアバッグ装置に係り、特に車体幅方向に延設されたケース内にエアバッグが収容され、このケースがカバードアで覆われている歩行者用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車体のカウル部付近に沿ってエアバッグを膨張させて歩行者等(歩行者や自転車乗員など)を受け止めるようにした歩行者用エアバッグ装置が公知である。この歩行者用エアバッグ装置の一形態として、車体幅方向に延設されたケース内にエアバッグが収容され、このケースがカバードアで覆われている歩行者用エアバッグ装置が公知である(特開2005−280556号)。このカバードア(なお、同号公報では、カバードアは「エアバッグカバー」と称されている。)は、支持部によってケースの後縁側に支持されており、カバードアは、エアバッグの膨張時に該支持部を回動基端側として開放回動可能である。
【特許文献1】特開2005−280556号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようにカバードアが支持部によってケースの後縁側に支持されており、エアバッグの膨張時に該支持部を回動基端側として開放回動可能である歩行者用エアバッグ装置において、カバードアの支持部がカバードアの長手方向両端側から相当に離隔しており、カバードアの長手方向両端側が支持部よりも長く延出した片持ち構造になっている場合、エアバッグの膨張時にこのカバードアの長手方向両端側がエアバッグで上方に押されて変形することが考えられる。このようにカバードア両端側が変形すると、カバードアを十分に開放させるのに高い押圧力が必要となり、そのためにインフレータとして出力の大きなものが必要となる。
【0004】
本発明は、カバードアが支持部によってケースの後縁側に支持されており、エアバッグの膨張時に該支持部を回動基端側として開放回動可能である歩行者用エアバッグ装置において、エアバッグ膨張時のカバードアの開放回動が容易化された歩行者用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の歩行者用エアバッグ装置は、車体の少なくともフードの一部に沿って膨張するエアバッグと、該エアバッグを収容したケースと、該ケース又は該車体に設けられたエアバッグ通過用開口を覆うカバードアと、該エアバッグを膨張させるためのインフレータとを有した歩行者用エアバッグ装置であって、該ケースは、底部と、車体前方側の前壁部と、車体後方側の後壁部とを有しており、該ケース及びカバードアは、車体幅方向に延在しており、該カバードアは、該ケースの該後壁部又は前記開口の後縁側に、支持部を介して支持されており、該カバードアは、該支持部を回動基端側として開放回動可能である歩行者用エアバッグ装置において、該カバードアの長手方向の両端側に該支持部が配置されていることを特徴とするものである。
【0006】
請求項2の歩行者用エアバッグ装置は、請求項1において、該カバードアの長手方向の端部から、その直近に位置する支持部の該長手方向の中心位置までの距離が150mm以下であることを特徴とするものである。
【0007】
請求項3の歩行者用エアバッグ装置は、請求項1又は2において、前記インフレータのガス噴出口のカバードア長手方向の位置が、前記支持部付近又はそれよりも該カバードアの長手方向中間部側であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項4の歩行者用エアバッグ装置は、車体の少なくともフードの一部に沿って膨張するエアバッグと、該エアバッグを収容したケースと、該ケース又は該車体に設けられたエアバッグ通過用開口を覆うカバードアと、該エアバッグを膨張させるためのインフレータとを有した歩行者用エアバッグ装置であって、該ケースは、底部と、車体前方側の前壁部と、車体後方側の後壁部とを有しており、該ケース及びカバードアは、車体幅方向に延在しており、該カバードアは、該ケースの該後壁部又は前記開口の後縁側に、支持部を介して支持されており、該カバードアは、該支持部を回動基端側として開放回動可能である歩行者用エアバッグ装置において、前記インフレータのガス噴出口のカバードア長手方向の位置が、前記支持部付近又はそれよりも該カバードアの長手方向中間部側であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項5の歩行者用エアバッグ装置は、請求項3又は4において、該ガス噴出口のカバードア長手方向の位置が前記支持部付近であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項6の歩行者用エアバッグ装置は、請求項5において、カバードア長手方向における支持部の中心位置と該ガス噴出口の中心位置との差が50mm以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の歩行者用エアバッグ装置にあっては、カバードアの長手方向の両端側に支持部が配置されており、カバードアの両端側における片持ち部分の長さが短い。このため、カバードアの両端側は、膨張するエアバッグに押されても全く又は殆ど変形せず、エアバッグによる押圧力が小さくてもカバードアが迅速に開放回動する。
【0012】
請求項2の通り、カバードアの長手方向の端部から、支持部の該長手方向の中心位置までの距離を150mm以下とすることにより、上記効果がより顕著となる。
【0013】
請求項3,4の歩行者用エアバッグ装置にあっては、エアバッグの膨張時にインフレータのガス噴出口からの噴出ガス圧が支持部付近又はそれよりもカバードアの長手方向中間部側に最も強く作用し、支持部よりもカバードアの長手方向両端側に作用するエアバッグ押圧力が軽減される。これにより、カバードアの長手方向両端側の変形が防止ないし抑制され、エアバッグによる押圧力が小さくてもカバードアが迅速に開放回動する。
【0014】
請求項5の通り、ガス噴出口のカバードア長手方向位置を支持部付近とすることにより、支持部付近以外のカバードアに対し作用する押圧力が軽減される。請求項6の通り、カバードア長手方向における支持部の中心位置とガス噴出口の中心位置との差を50mm以下とすることにより、この効果がより顕著となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
第1図は実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置を備えた自動車の斜視図、第2図はエアバッグ膨張時の第1図の自動車の斜視図、第3図は第1図のIII−III線断面図、第4図は第2図のIV−IV線断面図、第5図(a)は第3図のA−A線矢視図、第5図(b)は第3図のB−B線矢視図である。ただし、第5図(b)においてはエアバッグの図示が省略されている。
【0017】
第1図の通り、自動車1は、4ドアセダンであるが、本発明は特定の車両形態に限定されない。
【0018】
この自動車1のボンネットフード3の後部に歩行者用エアバッグ装置4が設置されており、該ボンネットフード3には、この歩行者用エアバッグ装置4のエアバッグ通過用開口3aが設けられている。この開口3aは該ボンネットフード3の後縁に沿って車体幅方向に延在している。なお、この実施の形態では、該開口3aは車体幅方向の中央側ほど車体前方側となるように略弓形に湾曲している。
【0019】
第2図の通り、歩行者用エアバッグ装置4のエアバッグ5がこの開口3aを通って車体上面側へ膨張すると、ボンネットフード3の後縁部、カウルトップ2、ウィンドシールド6及び左右のAピラー7がこの膨張したエアバッグ5によって覆われる。
【0020】
第3図〜第5図の通り、歩行者用エアバッグ装置4は、折り畳まれたエアバッグ5を収納するためのケース8と、エアバッグ5を膨張させるためのインフレータ9(9L,9R)と、前記開口3aを覆うカバードア10等を備えている。
【0021】
ケース8は車体幅方向に延在した長函状のものである。このケース8は、底部8aと、前壁部8bと、後壁部8cと、左右のエンド壁8d,8dとを備え、上面が開放している。このケース8は、その上面開放部が開口3aと対面するようにボンネットフード3の裏側に配置され、ブラケット(図示略)を介して該ボンネットフード3に固定されている。
【0022】
第5図(b)の通り、このケース8は、該開口3aと同様に、車体幅方向の中央側ほど車体前方側となるように略弓型に湾曲した平面視形状を有しており、その上面開放部の開口形状が該開口3aと略合致する形状となっている。
【0023】
このケース8内に、エアバッグ5の折り畳み体が該ケース8の長手方向の一端側から他端側にかけて配設されている。
【0024】
この実施の形態では、第5図(b)の通り、該ケース8の長手方向の両端側にそれぞれインフレータ9L,9Rが設置されている。ケース8の左端側に配置されたインフレータ9Lはエアバッグ5の左半側の基部に接続され、ケース8の右端側に配置されたインフレータ9Rはエアバッグ5の右半側の基部に接続されている。
【0025】
この実施の形態では、該インフレータ9L,9Rはそれぞれ略棒状のものであり、その長手方向の一端(先端)側からガス噴出ノズル9aが突設されている。このガス噴出ノズル9aの側周面に、ガス噴出口(符号略)が周方向に間隔をあけて複数個設けられている。この実施の形態では、各ガス噴出口は、インフレータ9L,9Rの長手方向に延在する長孔状となっている。各インフレータ9L,9Rは、これらのガス噴出口から放射状にガスを噴出するよう構成されている。
【0026】
第5図(b)の通り、各インフレータ9L,9Rは、その長手方向をケース8の長手方向とし、各々の先端(ノズル9a)側がケース8の長手方向の両端側を向くように配置されている。
【0027】
前記カバードア10は、開口3aをその長手方向の一端側から他端側まで連続して覆う帯板状のものであり、第5図(a)の通り、該開口3aに沿って車体幅方向中央側ほど車体前方側となるように略弓型に湾曲した平面視形状を有している。
【0028】
なお、このカバードア10(及び該開口3a)の車体幅方向における幅員は、ケース8の上面開口の該車体幅方向における幅員よりも大きなものとなっている。これは、エアバッグ5の膨張時に該エアバッグ5が開口3aの縁部に引っ掛かることを防止するためと、ケース8の防水性の確保及び車両の意匠の面から、このようにすることが好適であることによる。
【0029】
このカバードア10の後縁部の長手方向両端側に、支持部としてのヒンジ11(11L,11R)が設けられている。この実施の形態では、該ヒンジ11はカバードア10の後縁部から下方へ延出した突片状のものであり、ボルト留め等により、開口3aの後縁部(該後縁部から突設された突片3t)に固着されている。エアバッグ5が膨張するときには、カバードア10はこのヒンジ11を回動基端側として第3図の矢印θのように後方側へ回動しながら開き出すよう構成されている。
【0030】
なお、このカバードア10の前縁側はクリップ(図示略)によって開口3aの前縁部に留め付けられている。このクリップは、エアバッグ5に押されてカバードア10が開放するときには、係止を解除するよう構成されている。
【0031】
本発明においては、カバードア10の長手方向の両端から、各々の直近に位置するヒンジ11の該長手方向における中心位置までの距離(カバードア10の左端から左側ヒンジ11Lの左右方向の中心までの距離、及びカバードア10の右端から右側ヒンジ11Rの左右方向の中心までの距離)Lは、いずれも150mm以下、とりわけ100mm以下であることが好ましい。
【0032】
第5図(b)の通り、この実施の形態では、カバードア10の長手方向における、左側インフレータ9Lのガス噴出口の配置位置は、左側ヒンジ11L付近かそれよりも若干カバードア10の長手方向中間部側とされ、右側インフレータ9Rのガス噴出口の配置位置は、右側ヒンジ11R付近かそれよりも若干カバードア10の長手方向中間部側とされている。
【0033】
本発明においては、このカバードア10の長手方向における、左側ヒンジ11Lの中心位置と左側インフレータ9Lのガス噴出口の中心位置との距離、及び右側ヒンジ11Rの中心位置と右側インフレータ9Rのガス噴出口の中心位置との距離は、それぞれ、50mm以下、とりわけ30mm以下であることが好ましい。
【0034】
このように構成された歩行者用エアバッグ装置4を備えた自動車に対し歩行者等が衝突した場合、歩行者衝突検知センサ(図示略)の検知信号に基づいてインフレータ9L,9Rが作動され、その噴出ガスによってエアバッグ5が膨張を開始する。膨張するエアバッグ5に押されてカバードア10がヒンジ11L,11Rを基点にして後方へ開き出し、第2図の通りエアバッグ5が車体外面に沿って展開する。
【0035】
この歩行者用エアバッグ装置4にあっては、カバードア10の長手方向の両端側にヒンジ11L,11Rが配置されており、カバードア10の両端側における片持ち部分(各ヒンジ11L,11Rよりも側方へ延出した部分)の長さが短い。このため、カバードア10の両端側は、膨張するエアバッグ5に押されても全く又は殆ど変形せず、エアバッグ5による押圧力が小さくてもカバードア10が迅速に開放回動する。
【0036】
この実施の形態では、カバードア10の長手方向の両端部から各々の直近に位置するヒンジ11L,11Rの該長手方向の中心位置までの距離が150mm以下となっているので、上記効果がより顕著である。
【0037】
また、この実施の形態では、カバードア10の長手方向における各インフレータ9L,9Rのガス噴出口の配置位置がそれぞれヒンジ11L,11R付近かそれよりもカバードア10の長手方向中間部側となっているので、エアバッグ5の膨張時に各インフレータ9L,9Rのガス噴出口からの噴出ガス圧がヒンジ11L,11R付近又はそれよりもカバードア10の長手方向中間部側に最も強く作用し、各ヒンジ11L,11Rよりもカバードア10の長手方向両端側に作用するエアバッグ5からの押圧力が軽減される。これにより、カバードア10の長手方向両端側の変形が防止ないし抑制され、エアバッグ5による押圧力が小さくてもカバードア10が迅速に開放回動する。
【0038】
なお、カバードア10の長手方向における各インフレータ9L,9Rのガス噴出口の配置位置を各ヒンジ11L,11R付近とすることにより、各ヒンジ11L,11R付近以外のカバードア10に対し作用する押圧力が軽減される。また、カバードア10の長手方向における各ヒンジ11L,11Rの中心位置と各インフレータ9L,9Rのガス噴出口の中心位置との差を50mm以下とすることにより、この効果がより顕著となる。
【0039】
上記実施の形態はいずれも本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態をもとりうる。
【0040】
例えば、上記実施の形態ではカバードア10は開口3aの後縁にヒンジ11によって支持されているが、ケース8の後壁部8cに対しヒンジによって支持されてもよい。本発明では、ヒンジ以外の支持部を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置を備えた自動車の斜視図である。
【図2】エアバッグ膨張時の図1の自動車の斜視図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】図3のA−A線及びB−B線断面図である。
【符号の説明】
【0042】
2 カウルトップ
3 ボンネットフード
3a 開口
4 歩行者用エアバッグ装置
5 エアバッグ
8 ケース
8a 底部
8b 前壁部
8c 後壁部
9(9L,9R) インフレータ
10 カバードア
11(11L,11R) ヒンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の少なくともフードの一部に沿って膨張するエアバッグと、該エアバッグを収容したケースと、該ケース又は該車体に設けられたエアバッグ通過用開口を覆うカバードアと、該エアバッグを膨張させるためのインフレータとを有した歩行者用エアバッグ装置であって、
該ケースは、底部と、車体前方側の前壁部と、車体後方側の後壁部とを有しており、
該ケース及びカバードアは、車体幅方向に延在しており、該カバードアは、該ケースの該後壁部又は前記開口の後縁側に、支持部を介して支持されており、該カバードアは、該支持部を回動基端側として開放回動可能である歩行者用エアバッグ装置において、
該カバードアの長手方向の両端側に該支持部が配置されていることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1において、該カバードアの長手方向の端部から、その直近に位置する支持部の該長手方向の中心位置までの距離が150mm以下であることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記インフレータのガス噴出口のカバードア長手方向の位置が、前記支持部付近又はそれよりも該カバードアの長手方向中間部側であることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項4】
車体の少なくともフードの一部に沿って膨張するエアバッグと、該エアバッグを収容したケースと、該ケース又は該車体に設けられたエアバッグ通過用開口を覆うカバードアと、該エアバッグを膨張させるためのインフレータとを有した歩行者用エアバッグ装置であって、
該ケースは、底部と、車体前方側の前壁部と、車体後方側の後壁部とを有しており、
該ケース及びカバードアは、車体幅方向に延在しており、該カバードアは、該ケースの該後壁部又は前記開口の後縁側に、支持部を介して支持されており、該カバードアは、該支持部を回動基端側として開放回動可能である歩行者用エアバッグ装置において、
前記インフレータのガス噴出口のカバードア長手方向の位置が、前記支持部付近又はそれよりも該カバードアの長手方向中間部側であることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項5】
請求項3又は4において、該ガス噴出口のカバードア長手方向の位置が前記支持部付近であることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項6】
請求項5において、カバードア長手方向における支持部の中心位置と該ガス噴出口の中心位置との差が50mm以下であることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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