説明

歪生成器及び低歪増幅器

【課題】 非線形特性を有する増幅器の歪を補償するために歪成分を生成する歪生成器において、簡単な回路構成とし、その調整が簡素化されたものとする。
【解決手段】 入力ポート12a、出力ポート12b、カップリングポート12c及びアイソレーションポート12dを有し、入力ポート12aに入力された信号に対してカップリングポート12cとアイソレーションポート12dとにそれぞれ発生する信号にレベル差があり、且つ位相差がほぼ180度となる方向性結合器12と、方向性結合器12のカップリングポート12cとアイソレーションポート12dとにそれぞれ接続された増幅器14A、14Bと、それぞれの増幅器14A、14Bからの出力のレベルを調整して合成する合成器18と、を備え、合成器18から、入力ポート12aに入力される信号に対してカップリングポート12cに接続された増幅器14Aによって発生する歪成分を取り出して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形特性を有する増幅器の歪を補償するために歪成分を生成する歪生成器及び該歪生成器を用いて歪成分を補償した低歪増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、増幅器においては、入力電力のレベルが小さい場合には、入力電力と出力電力との間に線形特性が成り立つのに対して、入力電力のレベルが大きくなると、非線形特性を持ち、この非線形特性に起因して、3次、5次・・・の歪成分が発生することが知られている。
【0003】
この歪成分を補償する増幅器としては、図7に示したフィードフォワード方式が知られている。図7に示したフィードフォワード方式による増幅器を説明する。説明を簡略化するため、今、2つの周波数f1、f2を主成分とする2周波信号110を増幅器に入力する場合を考える。2周波信号110は、ループIの分配器120により、主増幅器121へ入力される信号と遅延線124へ入力される信号に分配される。主増幅器121へ入力された信号は増幅されて、歪成分111a、111bを含む信号111として出力される。3次歪成分111aの周波数は、下側が2f1−f2、上側が2f2−f1、5次歪成分111bの周波数は、下側が3f1−2f2、上側が3f2−2f1である。歪成分は、(f2−f1)の周波数間隔で高い次数まで発生するが、ここでは、3次歪成分111aと5次歪成分111bだけを表示する。
【0004】
次に、主増幅器121の出力信号111は、分配器122により、ループIIの回路に入力される信号と減衰器123に入力される信号に分配される。そして、減衰器123に入力された信号は所望のレベルまで減衰されて信号113となる。
【0005】
一方、分配器120で分岐されて遅延線124へ入力された信号は、遅延線124で所望の時間だけ遅延された信号112となる。信号112は、非線形素子を通過していないので、入力信号110とほぼ同じ波形となっており、歪成分はない。
【0006】
これら2つの信号113及び信号112は、合成器125により合成されるが、信号113に減衰器123により適当な減衰を与え、信号112に遅延線124により適当な遅延を与えることにより、周波数f1とf2の主信号は減衰し、歪成分114a、114bが減衰を受けていない信号114として出力される。信号114は、誤差増幅器126によって増幅されて信号115となる。
【0007】
一方、分配器122で分岐されてループIIの回路に入力された信号は遅延線127で所望の時間だけ遅延された信号116となる。
【0008】
そして、これら2つの信号115及び信号116は、合成器128によって、歪成分を相殺するように合成されることで、歪が補償された増幅信号117が得られることとなる。
【0009】
この増幅器において、上記信号114を得るための機能を持つループIの回路が歪生成器に該当する。
【0010】
しかしながら、以上のフィードフォワード方式による増幅器においては、主増幅器121または誤差増幅器126による遅延時間に相当させるために、遅延線124、127の長さを長くとる必要があり(例えば1m以上のケーブルが必要となる)、回路が増大化すると共に、そのような長い遅延線による損失が無視できない、という問題がある。また、広範な温度範囲で歪生成を行うためには、主増幅器121及び誤差増幅器126の温度特性を補償する必要があるが、それぞれの温度特性が異なるために、その補償が困難である、という課題がある。
【0011】
以上のフィードフォワード方式以外の歪成分を補償する増幅器としては、特許文献1に記載されたものが知られている。
【0012】
特許文献1の中で従来技術として説明されている増幅器を図8に示す。説明のために、図7と同様に、2つの周波数f1、f2の2周波信号210を増幅器に入力する場合を考えると、2周波信号210は、分配回路221により2つの信号に分配される。一方の信号はベクトル調整回路222を介して電力増幅器223で線形に増幅され、合成回路229に入力される。分配回路221からのもう一方の出力は、分配回路224に入力されてさらに2つの信号に分配される。分配回路224の一方の出力は、ベクトル調整回路225を介して電力増幅器226で線形に増幅され、合成回路228に入力される。また、分配回路224からのもう一方の出力は電力増幅器227で歪成分を含んだ信号になり、合成回路228に入力される。
【0013】
合成回路228では、入力される2つの信号からの周波数f1、f2の成分が同振幅、逆位相となるようにベクトル調整回路225を調整することによって、合成回路228からの出力は歪成分のみの信号となる。この信号が合成回路229に入力される。
【0014】
合成回路229では、ベクトル調整回路222を調整することによって、合成回路229から出力される歪成分が、電力増幅器230で発生する歪成分と同振幅、逆位相となるようにする。このような歪を含んだ信号を電力増幅器230に入力することによって、電力増幅器230で発生する歪成分を抑圧するようにしている。
【0015】
しかしながら、この増幅器においては、ベクトル調整回路222、225で位相の調整を行わなければならず、その調整が難しく、また、回路が増大化する、という課題がある。
【0016】
引用文献1では、さらにかかる課題を解決するために、分配回路で分配された信号を線形増幅器と非線形増幅器に分配して、線形増幅器と非線形増幅器の電力出力比が4:1となるように調整し、これらの信号を逆位相で合成することにより、主電力増幅器で発生する歪成分と同振幅、逆位相の歪を生成して、主電力増幅器に入力する構成を提案している。
【0017】
しかしながら、この提案された構成では、非線形増幅器が、主電力増幅器の歪特性と同じ特性であることが必要不可欠であるが、小電力用で主電力増幅器と同じ歪特性を持つような増幅器を実現するのは困難であり、実用化が困難、もしくは、高額となる。また、線形増幅器と非線形増幅器とが異なる温度特性を持つために、広範な温度範囲で歪生成を行うためには、その補償が困難である、という問題がある。
【0018】
【特許文献1】特開2002−171136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明はかかる課題に鑑みなされたもので、簡単かつ小型の回路構成とし、調整を簡素化することができる歪生成器、及びその歪生成器を用いた低歪増幅器を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1記載による歪生成器は、入力ポート、出力ポート、カップリングポート及びアイソレーションポートを有し、入力ポートに入力された信号に対してカップリングポートとアイソレーションポートにそれぞれ発生する信号にレベル差があり、且つ位相差がほぼ180度となる、方向性結合器と、
前記方向性結合器のカップリングポートとアイソレーションポートとにそれぞれ接続された増幅器と、
それぞれの増幅器からの出力のレベルを調整して合成する合成器と、
を備え、合成器から、入力ポートに入力される信号に対してカップリングポートに接続された増幅器によって発生する歪成分を取り出して出力することを特徴とする。
【0021】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のカップリングポートとアイソレーションポートとにそれぞれ接続された増幅器が、同じ温度特性を有する同種類の増幅器であることを特徴とする。
【0022】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のカップリングポートとアイソレーションポートにそれぞれ発生する信号のレベル差が、5〜11dBであることを特徴とする。
【0023】
請求項4記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方向性結合器が、マイクロストリップライン、ストリップラインまたはディスクリート素子で作製されたものであることを特徴とする。
【0024】
請求項5記載の発明による低歪増幅器は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の歪生成器と、
前記歪生成器の方向性結合器の出力ポートからの出力を増幅する主増幅器と、
該主増幅器からの出力と、前記歪生成器の合成器からの出力とを合成する合成器と、を備えることを特徴とする。
【0025】
請求項6記載の発明による低歪増幅器は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の歪生成器と、
前記歪生成器の合成器からの出力と、前記歪生成器の方向性結合器の出力ポートからの出力とを合成する合成器と、
該合成器で合成された出力を増幅する主増幅器と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、カップリングポートとアイソレーションポートにそれぞれ発生する信号にレベル差があり、且つその位相差がほぼ180度となるという方向性結合器の特性を利用しており、カップリングポートに接続された増幅器によってその非線形領域の動作特性により歪成分を含む信号を生成し、アイソレーションポートに接続された増幅器によって歪成分を含まない信号を生成することができる。これらの両信号には180度の位相差があるので、これらを合成器で合成することにより、主信号レベルを抑えて、歪成分を主として取り出すことができる。よって、位相調整のためのベクトル調整器を必要としないために、調整が簡単で且つ構成が簡単かつ小型の歪生成器とすることができる。また、カップリングポートとアイソレーションポートとにそれぞれ接続された増幅器は同じものを使用することができる。
【0027】
即ち、カップリングポートとアイソレーションポートとにそれぞれ接続された増幅器を同じ温度特性を有する同種類の増幅器とした場合には、位相差180度であるこれら増幅出力を合成することで、温度特性が相殺されるので、温度補償の必要性を低減することができる。
【0028】
カップリングポートとアイソレーションポートにそれぞれ発生する信号のレベル差を5〜11dBとすることで、両信号の位相差をほぼ180度に維持し、且つカップリングポートに接続された増幅器を非線形領域で動作させ、アイソレーションポートに接続された増幅器を線形領域で動作させることができる。ここで、ほぼ180度とは、±10度程度の幅を意味するものとする。完全に位相差が180度でなくても、この程度の範囲で、歪成分を有効に取り出すことができる。
【0029】
また、上記歪生成器を使用して任意の低歪増幅器を構成することができる。歪生成器の方向性結合器の出力ポートからの出力を主増幅器で増幅し、歪生成器によって生成された歪成分を主増幅器の前段または後段で主増幅器で発生する歪成分とキャンセルするように合成器で合成することで、歪成分を補償することができる。歪生成器の方向性結合器の出力ポートからの出力を主増幅器で増幅することで、出力ポートからの主線路のレベルを落とすことなく、損失を抑えることができる。また、歪生成器の方向性結合器の出力ポートから主増幅器への主線路と、歪生成のための歪生成線路との間で、大きな遅延差が発生しないために、遅延素子を設けるとしても小さなものとすることができ、また、主線路に遅延線を含まずに構成することができるので、損失を一層抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0031】
(歪生成器の実施形態)
図1は、本発明の実施形態による歪生成器を表す回路図である。
【0032】
図において、歪生成器10は、方向性結合器12と、方向性結合器12に接続された2つの増幅器14A、14Bと、各増幅器14A、14Bに接続された減衰器16A、16Bと、減衰器16A、16Bに接続された合成器18とから構成される。
【0033】
方向性結合器12は、マイクロストリップライン、ストリップラインまたはインダクタンス素子のようなディスクリート素子のいずれかから構成することができ、入力ポート12a、出力ポート12b、カップリングポート12c及びアイソレーションポート12dを有する。一般的には、図2に示した1/4波長結合線路形が最も良く知られているが、これ以外の任意の方向性結合器とすることができる。
【0034】
方向性結合器12の共通の特性としては、入力ポート12aに入力された信号に対してカップリングポート12cとアイソレーションポート12dとにそれぞれ結合された信号が発生するが、これらの信号の間にレベル差があり、カップリングポート12cの方がアイソレーションポート12dよりもレベルが高く、入力信号に対する結合度を適宜設定可能であり、広い結合範囲で、カップリングポート12cに対するアイソレーションポート12dの位相差をほぼ180度に維持することができる、ということがある。
【0035】
増幅器14A、14Bは、それぞれ方向性結合器12のカップリングポート12cとアイソレーションポート12dに対して同じ位置に配置され、同じ種類のデバイスで構成される。このため、2つの増幅器14A、14Bは同じ温度特性を有する同種類、かつ、同一バイアス条件の増幅器である。また、この増幅器14A、14Bは小信号用増幅器で構成することができる。
【0036】
減衰器16A、16Bは、増幅器14A、14Bからの出力をそれぞれ減衰させるものであり、合成器18は、減衰器16A、16Bの出力を合成するものである。減衰器16A,16Bでの減衰程度を適宜調整することで、合成器18の合成比は1:1とすることができる。
【0037】
以上のように構成される歪生成器10の作用を説明する。
【0038】
説明簡略化のため、2つの周波数f1、f2を主成分とする2周波信号20が入力される場合を考える。この2周波信号は方向性結合器12により、カップリングポート12cとアイソレーションポート12dに結合する。このときに、カップリングポート12cには大レベルの信号が、アイソレーションポート12dには小レベルの信号が現われ、これらの信号の位相差は約180度となる。
【0039】
これらの2つの信号はそれぞれ増幅器14A、14Bで増幅されるが、増幅器14Aは大レベルの信号を増幅するため、非線形領域で動作し、その出力は歪成分21a、21bを含む信号21となる。ここで、歪成分21aは3次歪成分、歪成分21bは5次歪成分を表す。一方、増幅器14Bは小レベルの信号を増幅するため増幅器の線形特性領域で動作し、その出力はほとんど歪成分のない信号23となる。
【0040】
これらの信号21、23は、それぞれ減衰器16A、16Bにより主成分信号f1、f2のレベルが等しくなるようにレベル調整された信号24、25となる。これらの信号24、25を合成器18によって合成すると、主信号のレベルは、2つの信号の180度の位相差によって相殺されて抑えられ、歪成分26a、26bのレベルは抑えられずに主として歪成分26a、26bを持つ信号26が得られる。
【0041】
位相差が180度であると、主信号はほぼ完全に相殺されるが、位相差が180度±10度の範囲であれば、主信号が残ったとしても、歪成分とのレベル差を圧縮することができる。
【0042】
図3は、合成器18で合成する前のカップリングポート側の出力と、合成器18で合成後の出力とを比較した実験結果を表す波形図である。5次以上の歪成分は省略している。合成前と合成後とで、主成分が約40dB圧縮されているのに対して、歪成分はほとんど圧縮されていないことが分かる。この程度にレベル差の圧縮ができると、十分に実用に供することができる。
【0043】
図4は、図2に示す1/4波長結合線路形の方向性結合器のカップリングポートとアイソレーションポートに発生するそれぞれの信号のレベル差と位相差との関係を表すグラフである。グラフから、レベル差の広い範囲で位相差を180度±10度以内に維持することができることが分かる。カップリングポート側に接続された増幅器14Aを非線形領域で動作させ、アイソレーションポート側に接続された増幅器14Bを線形領域で動作させるために必要な2つの信号のレベル差は、5dB以上あれば可能である。よって、位相差180度±10度を保持して、必要なレベル差を持たせるためには、グラフからカップリングポートとアイソレーションポートとのレベル差を5〜11dBとすると良いことが分かる。また、このレベル差は結合度に依存しており、結合度は、公知のように方向性結合器の主線路と結合線路との間隔(図2のg)の関数であるから、間隔を適当に設定することにより、所望のレベル差を持たせることができるようになる。
【0044】
以上のようにこの歪生成器10は、方向性結合器のカップリングポートとアイソレーションポートのレベル差と約180度の位相差という特性を利用しているので、位相の調整が不要で、且つ遅延線を不要とすることができるので、回路構成が簡単且つ小型化され、調整も簡素化されている。また、2つの増幅器14A、14Bは、同じデバイスで構成されて同じ温度特性を持ち、温度特性が相殺されるので、温度補償の必要もない。仮に差分が出たとしてもその値は小さなものとなる。
【0045】
(低歪増幅器の実施形態)
図5は、上記歪生成器10を用いて構成した低歪高出力増幅器30の一実施形態を表す回路図である。
【0046】
この低歪高出力増幅器30は、歪生成器10と、歪生成器10の方向性結合器12の出力ポート12bに接続された増幅器32と、増幅器32に接続された主増幅器34と、歪生成器10の合成器18に接続された遅延線36と、遅延線36に接続された増幅器38と、主増幅器34と増幅器38とからの出力の合成を行う合成器40とから構成される。
【0047】
この低歪高出力増幅器30の作用を先と同じ2周波信号20を用いて説明する。歪生成器10の方向性結合器12によって、入力された2周波信号20は、出力ポート12bから続く主線路と、歪生成のためにカップリングポート12cとアイソレーションポート12dに結合される歪生成線路とに分割される。
【0048】
出力ポート12bに出力される主線路を通る信号27(図1参照)は、増幅器32と主増幅器34とによって増幅され、歪成分42a、42bを含む信号42となる。増幅器32は、主線路と歪生成線路とのそれぞれの増幅器に起因する遅延量が同程度となるように調整するためのものであるが、省略することも可能である。
【0049】
一方、歪生成線路において、歪生成器10によって歪成分が主として取り出された信号26は、遅延線36と増幅器38を通り、信号44となる。増幅器38は、主線路からの信号42の歪成分42a、42bと、信号44の歪成分44a、44bとが同じレベルになるような増幅度に設定されており、また、遅延線36は、主線路からの信号42と信号44とが同程度の遅延量となり、両者の歪成分の位相差が180度となるように設定されている。
【0050】
合成器40では、信号42と44とが合成されるが、歪成分42a、42bと歪成分44a、44bとの位相差が180度であるため、これらが相殺されて、歪成分が抑えられた最終出力信号46が出力される。
【0051】
合成器40は、方向性結合器のように主線路の信号に損失を与えない構造の物が使用されるとよい。この場合、アイソレーションポートは終端されている。
【0052】
遅延線36及び増幅器38は、一度設定した後は、調整不要な固定的なものとすることもできるが、広い温度範囲で主増幅器34の温度特性を補償するためには、遅延量及び増幅度を可変とし、調整可能とすることも可能である。出力信号46をモニタして、出力信号46に現われる歪成分が小さくなるように適宜調整するようにしてもよい。その場合でも、歪生成器10は温度特性に関して安定的であるため、主増幅器34による温度特性の補償のための調整を簡単に行うことができる。
【0053】
こうして、歪生成器10を用いた低歪高出力増幅器30によって、歪成分が低減されて主信号が増幅された高出力信号が出力される。
【0054】
(低歪増幅器の他の実施形態)
図6は、上記歪生成器10を用いて構成した低歪高出力増幅器50の他の実施形態を表す回路図である。
【0055】
この低歪高出力増幅器50は、歪生成器10と、歪生成器10の方向性結合器12の出力ポート12bに接続された増幅器52と、歪生成器10の合成器18に接続された遅延線56と、遅延線56に接続された増幅器58と、増幅器52と増幅器58とからの出力の合成を行う合成器54と、合成器54に接続された主増幅器60と、から構成される。
【0056】
この低歪高出力増幅器50の作用を、先と同じ2周波信号20を用いて説明する。歪生成器10の方向性結合器12によって、入力された2周波信号20は、出力ポート12bから続く主線路と、歪生成のためにカップリングポート12cとアイソレーションポート12dに結合される歪生成線路とに分割される。
【0057】
出力ポート12bに出力される主線路を通る信号27(図1参照)は、増幅器52によって増幅され、歪成分62a、62bを含む信号62となる。増幅器52は、主線路と歪生成線路とのそれぞれの増幅器に起因する遅延量が同程度となるように調整するためのものであるが、省略することも可能である。
【0058】
一方、歪生成線路において、歪生成器10によって歪成分が主として取り出された信号26は、遅延線56と増幅器58を通り、信号64となる。
【0059】
合成器54では、信号62と64とが合成されて信号66が出力されるが、ここでは、信号64の歪成分64a、64bが信号62の歪成分62a、62bと干渉して、新たな歪成分66a、66bが生成されるように、遅延線56の遅延量及び増幅器58の増幅度が設定されている。
【0060】
そして、主増幅器60で信号66が増幅されるが、上記信号66の歪成分66a、66bが主増幅器60によって新たに発生する歪成分を打ち消すようなレベルと位相となっているために、主増幅器60からの出力は歪成分が抑えられた最終出力信号68となる。
【0061】
遅延線56及び増幅器58は、一度設定した後は、調整不要な固定的なものとすることもできるが、広い温度範囲で主増幅器60の温度特性を補償するためには、遅延量及び増幅度を可変とし、調整可能とすることも可能である。出力信号68をモニタして、出力信号68に現われる歪成分が小さくなるように適宜調整するようにしてもよい。その場合でも、歪生成器10は温度特性に関して安定的であるため、主増幅器60による温度特性の補償のための調整を簡単に行うことができる。
【0062】
こうして、歪生成器10を用いた低歪高出力増幅器50によって、歪成分が低減されて主信号が増幅された高出力信号が出力される。また、この実施形態では、最終段で主増幅器60の出力をそのまま出力としているために、効率が良いものとなっている。
【0063】
以上の各低歪高出力増幅器30、50では、主線路において遅延線を設ける必要がなく、また、主線路におけるレベルを抑える必要がないため、不要な損失を防ぐことができる。
【0064】
尚、以上の実施形態において、歪生成器で用いる増幅器14A、14Bと、主増幅器34、60とは、同じ特性である必要はないが、好ましくは同じ特性または同じ材質を持つ増幅器とすると、さらに効果的に歪成分の抑圧を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の歪生成器の実施形態を表す回路図である。
【図2】歪生成器で用いられる方向性結合器の一例である1/4波長結合線路形方向性結合器の平面図である。
【図3】歪生成器における合成器による合成前のカップリングポート側出力と、合成後の出力とを比較した実験結果を表す波形図である。
【図4】方向性結合器のカップリングポートとアイソレーションポートとのレベル差と位相差との関係を表すグラフである。
【図5】図1の歪生成器を用いて構成した低歪高出力増幅器の一実施形態を表す回路図である。
【図6】図1の歪生成器を用いて構成した低歪高出力増幅器の他の実施形態を表す回路図である。
【図7】従来のフィードフォワード方式により歪成分を補償した増幅器を表す回路図である。
【図8】さらに別の従来の歪成分を補償した増幅器を表す回路図である。
【符号の説明】
【0066】
10 歪生成器
12 方向性結合器
12a 入力ポート
12b 出力ポート
12c カップリングポート
12d アイソレーションポート
14A、14B 増幅器
18 合成器
30 低歪高出力増幅器
34 主増幅器
40 合成器
50 低歪高出力増幅器
54 合成器
60 主増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力ポート、出力ポート、カップリングポート及びアイソレーションポートを有し、入力ポートに入力された信号に対してカップリングポートとアイソレーションポートにそれぞれ発生する信号にレベル差があり、且つ位相差がほぼ180度となる方向性結合器と、
前記方向性結合器のカップリングポートとアイソレーションポートとにそれぞれ接続された増幅器と、
それぞれの増幅器からの出力のレベルを調整して合成する合成器と、
を備え、合成器から、入力ポートに入力される信号に対してカップリングポートに接続された増幅器によって発生する歪成分を取り出して出力することを特徴とする歪生成器。
【請求項2】
前記カップリングポートとアイソレーションポートとにそれぞれ接続された増幅器は、同じ温度特性を有する同種類の増幅器であることを特徴とする請求項1記載の歪生成器。
【請求項3】
前記カップリングポートとアイソレーションポートにそれぞれ発生する信号のレベル差は、5〜11dBであることを特徴とする請求項1または2記載の歪生成器。
【請求項4】
前記方向性結合器は、マイクロストリップライン、ストリップラインまたはディスクリート素子で作製されたものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の歪生成器。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の歪生成器と、
前記歪生成器の方向性結合器の出力ポートからの出力を増幅する主増幅器と、
該主増幅器からの出力と、前記歪生成器の合成器からの出力とを合成する合成器と、を備えることを特徴とする低歪増幅器。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の歪生成器と、
前記歪生成器の合成器からの出力と、前記歪生成器の方向性結合器の出力ポートからの出力とを合成する合成器と、
該合成器で合成された出力を増幅する主増幅器と、
を備えることを特徴とする低歪増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−186838(P2006−186838A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380171(P2004−380171)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000003388)株式会社トキメック (103)
【Fターム(参考)】