説明

歪調整治具

【課題】歪調整作業時の作業コストを低く抑え、作業後に不要となる部品点数も減らしてコストを削減することができる歪調整装置を提供する。
【解決手段】鉄骨上柱1に取付けられる上側エレクションピース1aが挿通する上側挿通孔4と、鉄骨下柱2に取付けられる下側エレクションピース2aが挿入する下側挿入孔5とを備えた治具本体8と、治具本体に設けた下側腕部10と、上側エレクションピースに設けた上側腕部1cとの間に取付けられるジャッキ部材9とからなる歪調整治具3であって、治具本体の上側挿通孔には、上側エレクションピースの上下方向の位置決め固定を行う上部ボルト11と、治具本体に対する上側エレクションピースの左右方向の位置決め固定を行う左右ボルト13とを設け、下側挿入孔には、治具本体に対する下側エレクションピースの位置決め固定を行う下部ボルト22と、下側エレクションピースの固定を行う下側側部ボルトを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄骨柱の建て入れ調整や、鉄骨柱と鉄骨梁とを接合した鉄骨架構の歪み直し調整、あるいは、橋梁の組立てなどに好適な重量部材の接合時における歪み調整時に使用する歪調整治具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の歪調整治具のうち、重量部材である鉄骨柱と鉄骨梁とをボルトで仮止めした鉄骨架構を相手部材である既設の鉄骨柱に溶接で接合する場合に使用する歪調整治具としては、たとえば、特許文献1に開示のものを提示できる。
【0003】
この歪調整治具は、いわゆる、柱建入調整治具と言われるものであって、以下に説明する構造のもとに取り付けられる。
【0004】
すなわち、図4に示すように、所定の隙間dを空けて対向した鉄骨架構5の両側の鉄骨柱51および両側の鉄骨柱6(いずれも片側のみ図示)に、それぞれ別体のプレート53,53を互いに適宜な間隔を空けて取り付け、これらのプレート53,53の片面側または両面側に短冊状の接合板54を当てて、プレート53,53と接合板54とをボルト55(1個のみ図示)およびナットで、一定の締め付け力となるように接合する。
【0005】
これによって、鉄骨架構5と鉄骨柱6とを一定以上の力で移動自在に仮止め固定するが、このとき、接合板54のボルト孔56は、片方のプレート53に対応する部分を丸孔にし、他方のプレート53に対応する部分を長孔にしておく。
【0006】
また、上記のプレート53,53の一部を側方に突出させていわゆるエレクションピースE1,E1を設け、これらのエレクションピースE1,E1間に上記の柱建入調整治具7を取り付ける。
【0007】
この柱建入調整治具7は、図5に示すように、上下端部に二股状のブラケットB1,B2を有しており、これらのブラケットB1,B2がエレクションピースE1,E2に連結ピンなどの連結具Cで着脱自在に取り付けられる。
【0008】
柱建入調整治具7の本体部分は、図6に示すように、シリンタ体71と、このシリンダ体71に対して出没可能なロッド体72とを有する油圧シリンダ構造を有し、シリンダ体71には、上述のブラケットB1が設けられ、ロッド体72にはブラケットB2が設けられる。
【0009】
また、シリンダ体71の側部には、図4、5に示すように、柱建入調整治具7を運搬するときに使用するハンドルHが設けられている。このハンドルH内には、油を貯めるタンクTが形成されている。
【0010】
このシリンダ体71は、図6に示すように、その内部に圧力室R1および背圧室R2が設けられ、これらの圧力室R1および背圧室R2は、摺動可能なピストン73によって区画され、このピストン73は、ロッド体72に連設される。
【0011】
また、シリンダ体71には、油圧給排機構74が一体的に設けられ、この油圧給排機構74は、圧力室R1または背圧室R2の何れか一方に対して、選択的に油圧を供給または排出する。
【0012】
油圧給排機構74は、シリンダ体71に連設されているハンドルH内に形成されているタンクTと、このタンクTからの油圧をシリンダ体71内の圧力室R1および背圧室R2に供給するポンプPとを有し、ポンプPは、外部からの人力操作でポンピング作用をする。
【0013】
また、この油圧給排機構74においては、ポンプPからの油圧をシリンダ体71内の圧力室R1に供給し、または圧力室R1の油を排出する圧力室制御弁75と、ポンプPからの油圧をシリンダ体71の背圧室R2に供給し、または背圧室R2内の油を排出する背圧室制御弁76を有している。
【0014】
この油圧給排機構74は、図7に示すように、ポンプPからの油圧がポンプPの下流側でタンクTに連通するドレン通路D中に接続されたリリーフ弁77で設定される。
【0015】
また、圧力室制御弁75および背圧室制御弁76は、それぞれ外部操作で切り替わる供給ポジション75a,76aと、排出ポジション75b,76bとを有している。
【0016】
供給ポジション75a,76aは、ポンプPからの油圧を圧力室R1または背圧室R2に供給できるように設定されており、また、排出ポジション75b,76bは、ポンプPからの油圧が圧力室R1または背圧室R2側に流れる油圧を阻止するチェック弁75c,76cと、これらのチェック弁75c,76cに並列しながら圧力室R1または背圧室R2からの油圧がタンクTに流出するのを許容する可変絞り75d,76dを有している。
【0017】
また、ポンプPとタンクTとの間には、チェック弁C1が接続され、ポンプPからの油圧がタンクT側に流れるのを阻止し、ポンプPと圧力室制御弁75および背圧室制御弁76との間にチェック弁C2が接続され、各制御弁75,76からの油圧がポンプPに逆流するのを阻止している。
【0018】
このように構成された柱建入調整治具7を用いた歪調整作業について説明すると、上記の鉄骨架構5の鉄骨柱6に対する相対的な歪みを修正する場合には、両方の柱建入調整治具7を作動させるが、その作動方向は、鉄骨架構5の歪みを修正したと想定したときに、隙間dが拡大される側の柱建入調整治具7を伸長させ、隙間dが縮小される方の柱建入調整治具7を縮小させる。
【0019】
すなわち、例えば、図4に示す左側の柱建入調整治具7を所定の寸法だけ伸長させると共に、図示しない右側の柱建入調整治具7を所定の寸法だけ縮小させることにより、鉄骨架構5の上部側が右に所定量だけ旋回して、鉄骨柱6に対する相対的な歪みが修正される。
【0020】
上記した柱建入調整治具7を伸長させる場合は、図7に示すように、圧力室制御弁75を供給ポジション75aの状態に維持すると共に、背圧室制御弁76を排出ポジション76bの状態に維持し、この状態のまま、ポンプPを人力で操作して、ポンピング作用を行わせる。
【0021】
柱建入調整治具7を縮小する場合には、圧力室制御弁75を排出ポジション75bに切り替えると共に、背圧室制御弁76を供給ポジション76aに切り替えた後、ポンプPのポンピング作用を行う。
【0022】
これによって、タンクTからの油圧が供給ポジション76aにある背圧室制御弁76介して、シリンダ体71内の背圧室R2に供給され、背圧室R2が膨張する。
【0023】
このとき、シリンダ体1内の圧力室R1における油は、排出ポジション75bにある圧力室制御弁75介して、すなわち、可変絞り75dを介してタンクTに排出され、圧力室R1が収縮し、その結果、伸縮手段7が収縮する。
【0024】
そして、伸縮手段7が修正に必要な量だけ収縮した後、ポンプPにおけるポンピング作用を停止し、圧力室制御弁75を供給ポジション75aに切り替え、このとき、背圧室制御弁76は、供給ポジション76aのまま維持する。
【0025】
このようにして、鉄骨架構5の鉄骨柱6に対する相対的な歪みを修正した後、プレート53,53と接合板54とをボルト55で強固に締結し、鉄骨架構5の鉄骨柱51と鉄骨柱6の接合部を溶接すれば、上記の鉄骨架構5と鉄骨柱6とが歪を修正された状態で接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開2003‐27748公報(図1乃至図5参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
上記した特許文献1に開示の柱建入調整治具7を用いた歪調整作業にあっては、特に問題がある訳ではないが、以下のような更なる課題が発生する場合が想定される。
【0028】
すなわち、上記の柱建入調整治具7を使用する場合、この柱建入調整治具7以外に、鉄骨柱51および鉄骨柱6に夫々溶接されたプレート53,53と、これらのプレート53,53の片面側または両面側にボルト55およびナットで一定の締め付け力となるように接合された短冊状の接合板54とが別部品として必ず必要になる。
【0029】
しかも、上記の各プレート53,53には、それぞれこのプレート53,53の一部を側方に突出させたいわゆるエレクションピースE1,E1が設けられているので、プレート53,53自体が大型化して重くなるばかりでなく、部品点数が多くてコストが嵩む。
【0030】
また、上記の鉄骨架構5および鉄骨柱6が歪を修正された状態で溶接等によって接合されると、上記の各プレート53,53は、柱建入調整治具7を取り外した後、鉄骨架構5および鉄骨柱6と近接した部分において切断され、接合板54と共に廃棄物として捨てられる。
【0031】
このため、これらのプレート53,53や接合板54が大きいと、本来、廃棄物となる部分に不要なコストが嵩むばかりでなく、作業者による切断作業に長い時間を要したり、切断した上記のプレート53,53および接合板54が重くて運搬作業に手間取ったりして作業コストも嵩む。
【0032】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、歪調整作業時の作業コストを低く抑えることが出来るばかりでなく、歪調整作業後に不要となる部品点数も減らしてコストを削減することができ、その汎用性の向上を期待するのに最適となる歪調整装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0033】
上記した目的を達成するために、この発明による歪調整装置の構成を、一方部材に取付けられる一方側エレクションピースが挿通する一方側挿通孔と、他方部材に取付けられる他方側エレクションピースが挿入する他方側挿入孔とを備えた治具本体と、この治具本体に設けた本体側ジャッキ取付部と、上記の一方側エレクションピースに設けたジャッキ取付部との間に着脱可能に取付けられるジャッキ部材とから構成された歪調整治具であって、治具本体の一方側挿通孔には、上記のジャッキ部材と相俟って治具本体に対する一方側エレクションピースの上下方向の位置決め固定を行う一方側上下方向位置決め部材と、同じく治具本体に対する一方側エレクションピースの左右方向の位置決め固定を行う左右方向位置決め部材とを設けると共に、他方側挿入孔には、この挿入孔の内壁と相俟って治具本体に対する他方側エレクションピースの上下方向の位置決め固定を行う他方側上下方向位置決め部材と、治具本体に対して他方側エレクションピースの固定を行う固定部材とを設けてなるとする。
【発明の効果】
【0034】
この発明による歪調整治具にあっては、治具本体に本体側ジャッキ取付部を設けたので、従来、他方側エレクションピースに設けていたジャッキ取付部を不要にでき、その分、他方側エレクションピースを小型化することが可能になる。
【0035】
したがって、本来、廃棄される他方側エレクションピース自体の製造コストを削減できるのは勿論、他方部材から他方側エレクションピースを切断する作業や、切断した後の運搬作業を軽減でき、作業コストを削減できる。
【0036】
また、治具本体には、その一方側挿通孔に対して、ジャッキ部材と相俟って治具本体に対する一方側エレクションピースの上下方向の位置決め固定を行う一方側上下方向位置決め部材と、左右方向の位置決め固定を行う左右方向位置決め部材とを設けると共に、他方側挿入孔に対して、この挿入孔の内壁と相俟って治具本体に対する他方側エレクションピースの上下方向の位置決め固定を行う他方側上下方向位置決め部材と、固定を行う固定部材とを設けたので、この治具本体を繰り返して使用できる。
【0037】
したがって、従来例で示したような、歪調整治具以外に、エレクションピースの片面側または両面側に短冊状の接合板を当ててエレクションピースと接合板とをボルトおよびナットで接合することを不要にでき、その分、歪調整作業後に不要となる部品点数を減らして、コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明による歪調整治具の一実施形態を示す側面図である。
【図2】図1中のA‐A線位置で示す歪調整治具の縦断面図である。
【図3】図1の歪調整治具を一部破断して示す側面図である。
【図4】従来例の歪調整治具を示す側面図である。
【図5】図4に示す従来の歪調整治具の斜視図である。
【図6】図4に示す従来の歪調整治具の断面図である。
【図7】図4に示す従来の歪調整治具の油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明による歪調整治具を説明するが、図示するところは、建築物の一方部材である鉄骨上柱を他方部材である既設の鉄骨下柱に溶接で接合する際に使用する例である。
【0040】
この歪調整治具3は、いわゆる柱建入調整治具と称されるもので、図1に示すように、上記の鉄骨上柱1に溶接固定された一方側エレクションピースとしての上側エレクションピース1aが挿通される一方側挿通孔としての上側挿通孔4と、鉄骨下柱2に溶接固定された他方側エレクションピースとしての下側エレクションピース2aが挿入される他方側挿入孔としての下側挿入孔5とを備えた治具本体8と、この治具本体8に設けた本体側ジャッキ取付部と、上記の上側エレクションピース1aに設けたジャッキ取付部との間に着脱可能に取付けられるジャッキ部材9とから構成されている。
【0041】
また、治具本体8の上側挿通孔4には、上記のジャッキ部材9と相俟って治具本体に対する上側エレクションピースの上下方向の位置決め固定を行う一方側上下方向位置決め部材と、同じく治具本体に対する上側エレクションピース1aの左右方向の位置決め固定を行う左右方向位置決め部材とを設けると共に、下側挿入孔5には、この挿入孔5の内壁と相俟って治具本体8に対する下側エレクションピース2aの上下方向の位置決め固定を行う他方側上下方向位置決め部材と、治具本体8に対して下側エレクションピース2aの固定を行う固定部材とが設けられている。
【0042】
以下、更に詳述すると、上記の上側エレクションピース1aは、その上側腕部1cが上記の上側挿通孔4内を通過して外方(図1における右方向を言う)に突出するよう形成されており、その上側腕部1cに穿設された上側取付孔1bによってジャッキ取付部が構成されている。
【0043】
上記の上側挿通孔4に設けられた上側上下方向位置決め部材は、図3に示すように、上記の治具本体8の上部から上側挿通孔4内に螺入された上部ボルト11であり、この上部ボルト11の捻じ込み量を調整することで、上部ボルト11の先端を上側挿通孔内4へ侵入または退出させ、上側エレクションピース1aの上面に当接して後述するジャッキ部材9と相俟って治具本体8に対する上下方向の相対位置が調整可能となっている。
【0044】
上側挿通孔4に設けられた左右方向位置決め部材は、図2に示すように、治具本体8の側部から上側挿通孔4内に螺入された左右一対の側部ボルト12,13であり、右側部ボルト12の先端に設けた連結ピン12aが左側部ボルト13に設けられた連結孔13a内に挿入可能となっている。
【0045】
したがって、上側挿通孔4内に上側エレクションピース1aを挿入し、この上側エレクションピース1aに穿設された長孔1dを介して右側部ボルト12の連結ピン12aを左側部ボルト13の連結孔13a内に挿入して挟持することで、上側エレクションピース1aの上側挿通孔4からの抜け止めがなされるようになっている。
【0046】
このとき、右側部または左側部ボルト12,13の治具本体8に対する捻じ込み量を調整することで、左右一対の側部ボルト12,13で挟持された上側エレクションピース1aの治具本体8に対する左右方向の相対位置が調整可能となっているため、上記の鉄骨上柱1をセットしたときの鉄骨下柱2との芯ずれを修正することができるようになっている。
【0047】
また、上記の左右一対の側部ボルト12,13は、連結ピン12aが突出形成されている右側ボルト12のネジ部の端面12bと、連結孔13aが形成された左側ボルト13の端面13bが大径状に形成されており、これらの端面12b、13bを上側エレクションピース1aの側面に当接させることで、上側エレクションピース1aを安定した状態で固定できるようになっている。
【0048】
また、上記の下側挿入孔5に設けられた固定部材は、図2,3に示すように、治具本体8の一側部から下側挿入孔5内に螺入された下側側部ボルト21であり、下側側部ボルト21の先端に設けられた連結ピン21aが反対側の本体治具8に設けられた図示しない連結孔内に挿入可能となっている。
【0049】
したがって、下側挿入孔5内に下側エレクションピース2aを挿入し、この下側エレクションピース2aに穿設された長孔2bを介して下側側部ボルト21の連結ピン21aを上記の連結孔内に挿入することで、下側挿入孔5から下側エレクションピース2aが抜け止め保持される。
【0050】
そして、上記の下側側部ボルト21は、図示はしないが、上記の側部ボルト12,13と同様に、連結ピン21aが突出形成されているネジ部の端面が大径状に形成されており、この端面を下側エレクションピース2aの側面に当接させることで、安定した状態で固定できる。
【0051】
上記の下側挿入孔5に設けられた下側上下方向位置決め部材は、上記の治具本体8の下部から下側挿入孔5内に螺入された下部ボルト22であり、この下部ボルト22の捻じ込み量を調整することで、下部ボルト22の先端を下側エレクションピース2aの下面に当接させ、下側挿入孔5の上面側内壁との間で下側エレクションピース2aを挟持して上下方向の位置決め固定を実行できる。
【0052】
上記の治具本体8における下側挿入孔5の下側エレクションピース2a挿入側とは反対となる開口端部には、下側エレクションピース2a挿入時に先端が当接する位置決めプレート24が設けられており、下側エレクションピース2aの長孔2bと、下側側部ボルト21との位置決めが容易に行える。
【0053】
上記の位置決めプレート24における下側挿入孔5と反対側には、下側腕部10が突出形成されており、その腕部10に本体側取付孔10aが穿設されて本体側ジャッキ取付部を構成している。
【0054】
上記のジャッキ部材9は、本体側取付孔10aと、上側腕部1cに穿設された上側取付孔1bとの間に配置されると共に、図1,図3に示すように、シリンダ体15と、このシリンダ体15から出没することで上側エレクションピース1aの上下方向の位置調整を行うロッド体16とを有するシリンダ本体17と、このシリンダ本体17に作動油を供給する作動油供給部18と、この作動油供給部18の下端部から突出して上記のシリンダ本体17に連結する連結部19とから構成され、作動油供給部18からの作動油が上記の連結部19内に設けられた図示しない供給路を介してシリンダ本体17に供給される。
【0055】
上記の作動油供給部18は、棒状に形成されて上記の柱建入調整治具を持ち運ぶ際の把持部の役割を果たすと共に、詳細は図示しないが、その上部に突出した送りネジ18aを捻じ込むことで、内部に設けられた図示しないピストンが動き、作動油が上記の供給路を介してシリンダ本体17内に供給されて上記のロッド体16を出没させ、上記の上側エレクションピース1aの治具本体8に対する上下方向の相対位置を調整する。
【0056】
そして、上記のジャッキ部材9は、そのロッド体16上部およびシリンダ体15下部に夫々二股状のブラケットB1,B2を有しており、これらのブラケットB1,B2が上側取付孔1bおよび本体側取付孔10aに対して夫々連結ピンCで着脱可能に取付けられている。
【0057】
なお、本実施の形態では、上記のジャッキ部材9として、ネジ機構を用いた油圧シャッキを示したが、この構成に限定されるものではなく、任意の構成を選択することができる。
【0058】
以上のように構成された柱建入調整治具を用いた歪調整作業について説明すると、先ず、治具本体8に設けられた上側挿通孔4に対し、上側エレクションピース1aをその上側腕部1cが上側挿通孔4内を通過して外方に突出するよう挿入すると共に、下側エレクションピース2aを下側挿入孔5内に挿入してその先端部分を上記の位置決めプレート24に当接させる。
【0059】
この状態においては、図1,図3に示すように、下側エレクションピース2aの長孔2bと、下側側部ボルト21との位置決めされているので、初めに、治具本体8に螺入された下側側部ボルト21を捻じ込む。
【0060】
このとき、上記の連結ピン21aが下側エレクションピース2aの長孔2bを介して上記の連結孔内に挿入されると共に、ネジ部の大径の端面が下側エレクションピース2aの側面に当接する。
【0061】
同時に、上記の下部ボルト22の捻じ込み量を調整することで、下部ボルト22の先端を下側エレクションピース2aの下面に当接させて下側挿入孔5の上面側内壁との間で下側エレクションピース2aを挟持して治具本体8に対する上下方向の位置決め固定をする。
【0062】
一般に、歪調整作業をする際には、下側エレクションピース2aが治具本体8に対して確実に固定される必要があるため、これらの捻じ込みを強固に行うことで、下側エレクションピース2aを治具本体8に対して安定した状態で抜け止め固定する。
【0063】
次いで、治具本体8に螺入された上記の左右一対の側部ボルト12,13を捻じ込むと、その連結ピン12aが上側エレクションピース1aの長孔1dを介して左側ボルト13の連結孔13a内に挿入される。
【0064】
このとき、上記の連結ピン12aが上側エレクションピース1aの長孔1dを介して上記の連結孔13a内に挿入されると共に、右側ボルト12のネジ部の大径の端面12bと、左側ボルト13の挿入孔13aを有する端面13bが上側エレクションピース1aの側面に当接する。
【0065】
しかしながら、建入調整時には、上記のシャッキ部材9のロッド体16の当接によって上側エレクションピース1aが治具本体8に対して上下方向に相対移動しなければならないため、上記の左右一対の側部ボルト12,13による上側エレクションピース1aの締め付け力は、この上側エレクションピース1aが相対移動可能となる程度の力とする。
【0066】
この状態において、上記のジャッキ部材のロッド体16上部およびシリンダ体15下部に夫々設けた二股状のブラケットB1,B2を上側取付孔1bおよび本体側取付孔10aに対して夫々連結ピンCを用いて取付け、治具本体8にジャッキ部材9を着脱可能に取付ける。
【0067】
次いで、このジャッキ部材9を作動させてロッド体16を出没させることで、このロッド体16が取付けられた上側エレクションピース1aの治具本体8に対する上下方向の位置調整を行い、建入調整する。
【0068】
その後、上記の上部ボルト11を捻じ込み、上部ボルト11の先端を上側エレクションピース1aの上面に当接させ、上記のロッド体16と相俟って治具本体8に対する上下方向の位置決めを行う。
【0069】
したがって、上記の上部ボルト11は、上記の建入調整時には、上側エレクションピース1aに接触しない上側挿入孔4の上面内壁部分に退避させてある。
【0070】
また、上記の左右一対の側部ボルト12,13の治具本体8に対する捻じ込み量を調整し、治具本体8に対する上側エレクションピース1aの左右方向の位置決め固定を行うことで、上記の鉄骨上柱1をセットしたときの鉄骨下柱2との芯ずれも修正する。
【0071】
このようにして、鉄骨上柱1と鉄骨下柱2との相対的な歪みを修正した後、これら鉄骨上柱1と鉄骨下柱2との接合部を溶接すれば、上記の鉄骨上柱1と鉄骨下柱2とが歪を修正された状態で接合される。
【0072】
その後、上記のジャッキ部材9および治具本体8を、上記の上側および下側エレクションピース1a,2aから取り外し、これら上側および下側エレクションピース1a,2aを鉄骨上柱1および鉄骨下柱2と近接した部分において切断し、切断された上側および下側エレクションピース1a,2aを廃棄物として捨てる。
【0073】
なお、取り外した上記のジャッキ部材9および治具本体8は、再利用して建入調整を行う。
【0074】
以上、詳述したように、本実施の形態によれば、治具本体8に本体側ジャッキ取付部としての下側腕部10を設けたので、従来例で示したような下側エレクションピース2aに設けていたジャッキ取付部を不要にでき、その分、下側エレクションピース2aを小型化することが可能になる。
【0075】
したがって、本来、廃棄される下側エレクションピース2a自体の製造コストを削減できるのは勿論、鉄骨下柱2から下側エレクションピース2aを切断する作業や、切断した後の運搬作業を軽減でき、作業コストを削減できる。
【0076】
また、治具本体8には、その上側挿通孔1aに、上記のジャッキ部材9と相俟って上側エレクションピース1aの上下方向の位置決め固定を行う上部ボルト11と、治具本体8に対する上側エレクションピース1aの左右方向の位置決め固定を行う左右一対の側部ボルト12,13とを設けると共に、下側挿入孔5には、この挿入孔5の内壁と相俟って治具本体8に対する下側エレクションピース2aの上下方向の位置決め固定を行う下部ボルト22と、治具本体8に対して下側エレクションピース2aを固定する下側側部ボルト21を設けたので、この治具本体8を繰り返して使用することができる。
【0077】
したがって、従来例で示したような柱建入調整治具以外に、エレクションピースの片面側または両面側に当てる短冊状の接合板や、エレクションピースと接合板と接合するボルトおよびナットを不要にでき、その分、歪調整作業後に不要となる部品点数を減らして、コストを削減できる。
【0078】
また、治具本体8の側部から上側挿通孔4内に螺入された左右一対の側部ボルト12,13で上側エレクションピース1aを挟持するようにしたので、これら左右一対の側部ボルト12,13の治具本体8に対する捻じ込み量を調整することで、治具本体8に対する上側エレクションピース1aの左右位置が調整可能となり、上記の鉄骨上柱1をセットしたときの鉄骨下柱2との芯ずれも容易に修正できる。
【0079】
なお、本実施の形態では、上側および下側のエレクションピース1a,2aに対して長孔1b,2bを設け、この長孔1b,2b内に左右一対の側部ボルト12,13や、固定ボルト14を挿入して抜け止めを兼ねた固定を行っているが、必ずしも長孔1b,2bである必要はなく、長溝でも良く、場合によっては、この長孔1b,2bや長溝がなくても良い。
【産業上の利用可能性】
【0080】
鉄骨柱の建て入れ調整や、鉄骨柱と鉄骨梁とを接合した鉄骨架構の歪み直し調整、あるいは、橋梁の組立てなどに好適な重量部材の接合時における歪み調整に向く。
【符号の説明】
【0081】
1 一方部材たる鉄骨上柱
1a 一方側エレクションピースたる上側エレクションピース
1c ジャッキ取付部たる上側腕部
2 他方部材たる鉄骨下柱
2a 他方側エレクションピースたる下側エレクションピース
3 歪調整治具
4 一方側挿通孔たる上側挿通孔
5 他方側挿入孔たる下側挿入孔
8 治具本体
9 ジャッキ部材
10 本体側ジャッキ取付部たる下側腕部
11 一方側上下方向位置決め部材たる上部ボルト
12 左右方向位置決め部材たる右側部ボルト
13 左右方向位置決め部材たる左側部ボルト
15 シリンダ体
16 ロッド体
17 シリンダ本体
18 作動油供給部
19 連結部
21 固定部材たる下側側部ボルト
22 他方側上下方向位置決め部材たる下部ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方部材に取付けられる一方側エレクションピースが挿通する一方側挿通孔と、他方部材に取付けられる他方側エレクションピースが挿入する他方側挿入孔とを備えた治具本体と、この治具本体に設けた本体側ジャッキ取付部と、上記の一方側エレクションピースに設けたジャッキ取付部との間に着脱可能に取付けられるジャッキ部材とから構成された歪調整治具であって、治具本体の一方側挿通孔には、上記のジャッキ部材と相俟って治具本体に対する一方側エレクションピースの上下方向の位置決め固定を行う一方側上下方向位置決め部材と、同じく治具本体に対する一方側エレクションピースの左右方向の位置決め固定を行う左右方向位置決め部材とを設けると共に、他方側挿入孔には、この挿入孔の内壁と相俟って治具本体に対する他方側エレクションピースの上下方向の位置決め固定を行う他方側上下方向位置決め部材と、治具本体に対して他方側エレクションピースの固定を行う固定部材とを設けたことを特徴とする歪調整治具。
【請求項2】
上記の他方側挿入孔の反対側となる治具本体に腕部を突出形成し、上記の本体側ジャッキ取付部としてなる請求項1記載の歪調整治具。
【請求項3】
上記の一方側上下方向位置決め部材は、上記の治具本体の上部から一方側挿通孔内に螺入れた上部ボルトであり、この上部ボルトの先端を一方側挿通孔内へ侵入または退出させることで、上記のジャッキ部材と相俟って上部ボルトの先端に当接する一方側エレクションピースの治具本体に対する上下方向の位置決め固定を実行してなる請求項1記載の歪調整治具。
【請求項4】
上記の左右方向位置決め部材は、上記の治具本体の側部から一方側挿通孔内に螺入された左右一対の側部ボルトであり、この左右一対の側部ボルトで一方側エレクションピースを挟持すると共に、これら左右一対の側部ボルトの治具本体に対する捻じ込み量を調整することで、治具本体に対する一方側エレクションピースの左右方向の位置決め固定を実行してなる請求項1記載の歪調整治具。
【請求項5】
上記のシャッキ部材は、シリンダ体と、このシリンダ体から出没することで上記の一方側エレクションピースに当接してその上下位置を調整するロッド体を有するシリンダ本体と、このシリンダ本体に作動油を供給する作動油供給部と、この作動油供給部の下端部から突出して上記のシリンダ本体に連結する連結部とから構成され、作動油供給部からの作動油が上記の連結部に設けられた供給路を介してシリンダ本体に供給されてなる請求項1記載の歪調整治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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