説明

歯の足場

【課題】走化性、骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、又はセメント質形成性である化合物を含む無細胞の哺乳類歯形状の足場を提供する。
【解決手段】哺乳類の口腔内で歯を置き換える方法であって、歯が欠損しかつ口腔内に欠損した歯の位置に歯槽が存在している、前記方法を提供する。該方法は、欠如歯の形を有する無細胞足場を歯槽に移植することを含む。さらに、歯の足場を作成する方法を提供する。該方法は、哺乳類の歯の形状の無細胞足場を合成すること及び走化性、骨形成性、象牙質形成、エナメル質形成性、又はセメント質形成性である少なくとも1つの化合物を添加することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年6月17日に出願の米国仮出願第61/187,875号、及び2010年6月11日に出願の米国仮出願第61/354,164号の恩典を請求する; これらの明細書の記載は、本願明細書に全体として含まれるものとする。
本発明は、組織工学足場に関する。
【背景技術】
【0002】
生体医用工学及び歯科再生 歯の喪失は、う蝕、歯周病、心的外傷、遺伝病、老化を含む、種々の口腔疾患や生理学的な原因からしばしば生じる(Amar 2003, Philstrom 2005, Kim 2006)。歯の喪失は、個人の自尊心や生活の質を低下させることになる肉体的かつ精神的な苦痛につながり得る(Amar 2003, Philstrom 2005, Kim 2006)。歯科疾患の多くの形態及び制御されない糖尿病のようなある医学的状態によって、歯の喪失の危険度が増加する。無歯顎治療について、現在の選択は、歯科インプラント及び/又は従来の固定式あるいは可撤式の補綴物の使用に限られている。
近年、生体医用工学ツールの出現と開発は、医学分野における新しい患者ケア領域につながっている。例えば、予備的ヒト臨床試験によって、骨髄ストローマ幹細胞(BMSSC)又は骨髄細胞の全身注入を行う、骨形成不全をもつ児童において改良されたレベルの骨形成が報告されている(Horwitz 2001, Horwitz 2002)。歯科組織工学、材料科学及び幹細胞生物学の分野における最近の進歩は、歯の再生が可能なことを示している(Duailibi 2006)。さらに、歯又は頭蓋顔面の組織にある異なる間葉幹細胞(MSC)の最近の識別によって、象牙質、セメント質、歯周靭帯(PDL)のような歯科組織を再生するのを援助するのに潜在的臨床有効性の範囲が広げられている(Shi 2005)。乳歯や永久歯の歯髄組織に存在する歯科組織の前駆細胞は、象牙質や歯槽骨を再生するために使用し得る(Shi 2005; Zhang 2005)。さらに、ラットとブタ双方の歯蕾から分離される細胞は、予測性が限定された以外は解剖学的に正しい歯冠を生体工学によって作るために使用し得る(Duailibi 2004, Honda 2005, Young 2002, Young 2005)。
歯/歯周複合体は、しばしば個体器官と呼ばれる。この器官は相対的に小さいとみなされるが、その構造と発達の複雑さはよく認識されている。歯の構造は、3つの石灰化組織型-エナメル質、象牙質、セメント質、及び歯髄からなる。象牙質は歯の大半を占めるが、エナメル質とセメント質は、それぞれ、歯冠部と根尖部をおおっている。歯根膜は、歯の支持的役割を有し、セメント質、歯周靭帯、歯槽骨及び歯肉からなる。歯周靭帯は、シャーピー線維を介してセメント質を歯槽骨に付着させる結合組織である。歯周靭帯は、咀嚼の間、感覚認知力とクッション機械力を可能にする。
歯の構造的な複雑さにもかかわらず、生体医用工学技術の発達によって、歯の再生のために現在使われている2つの方法が生み出された。第一は、組織工学に基づき、足場医用材料の幹細胞を播種することによって歯を再生させることを意図している(Young 2002, Duailibi 2004, Honda 2005)。この技術は、歯根膜の再生に有望な結果を示した(Nakahara 2006)。第二の方法は、胎仔歯形成の発達プロセスを再現するか又は模倣することを試みている(Nakahara 2006)。この方法は、マウス胎仔から収穫した胚組織(歯科上皮と歯科間葉)を用い、胎仔における初期の歯の発生を調節する原理の理解が必要である(Ohazama 2004, Hu 2006, Nakao 2007)。これらの方法の後、多くの研究では、生物学的に設計された歯胚が、必要な栄養素と酸素を供給して組織形成を最適化する血流量が充分である、動物ホスト、通常はげっ歯類の体内に移植されている(Nakahara 2006)。
【0003】
組織再生における幹細胞の使用及び直面した難題 幹細胞は、正常組織に存在する静止細胞集団であり、非対称細胞分裂、2つの娘細胞-新しい前駆細胞/幹細胞、及び分化組織を形成することができる他の娘細胞の形成の異なった特性を示す(Hawkins 1998, Lin 1998)。歯科間葉前駆細胞は、ヒト乳歯と永久歯双方の歯髄において識別されかつ確認されている(Gronthos 2000, Mooney 1996, Shi 2005)。前述のように、未熟な歯蕾に存在するこれらの出生後の上皮及び間葉の歯科幹細胞/前駆細胞によって、エナメル質、象牙質、歯髄及び歯槽骨を含有する、生体工学的かつ解剖学的に正しいが、微小の大きさの歯冠を生成する能力が証明されている(Shi 2005; Zhang 2005)。
歯周靭帯細胞は、基底膜、セメント質、骨、及び歯周靭帯の形成を生じる再生的電位が知られている(Melcher 1985, McCulloh 1985)。生体外で鉱物化堆積物を形成する歯周靭帯幹細胞の能力によって、歯周靭帯の一次外植片に由来する細胞の分集団が証明された(Arceo 1991, Cho 1992)。歯周靭帯幹細胞には生体内で骨、象牙質及びセメント質の形成を誘導するのに適切な足場が必要であると考えられる(Gronthos 2000, Krebsbach 1998)。歯周靭帯幹細胞がヒドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム足場に組み込まれかつマウス背側の皮下領域に異所的に移植された場合、典型的なセメント質/歯周靭帯様構造が形成された(Seo 2004)。そのうえ、シャーピー線維と形態学的に類似している新しく形成されたセメント質と結合している移植片内にI型コラーゲン陽性歯周靭帯様組織が証明された(Seo 2004)。
歯幹細胞バイオテクノロジー及び細胞仲介マウス歯再生の最近の進歩は、適切な機能特性を有する生きた歯を再生させる可能性を追究する研究者を激励した(Duailibi 2004, Ohazama 2004, Shi 2005)。マウス歯は、生体内で協力して歯構造を形成するために多くの異なる幹細胞を用いて再生され得る(Duailibi 2004, Ohazama 2004, Young 2005)。さらに、ヒト歯髄幹細胞(DPSC)及び歯周靭帯幹細胞(PDLSC)が免疫無防備状態マウスに移植される場合、それぞれ、象牙質/歯髄組織及びセメント質/歯周複合体が再生されている(Gronthos 2000, Seo 2004)。しかしながら、ヒト歯の生育と発達の複雑さのために、エナメル質、象牙質/歯髄複合体を含む歯構造、及びヒトにおける機能の実体としての歯周組織の再生は、現在利用可能な再生バイオテクノロジーによる課題である(Sonomaya 2006)。
歯科組織の再生における幹細胞の使用による課題は、以前の研究において報告されている(Duailibi 2004, Young 2002, Young 2005)。生体工学的歯構造物において複数の微小歯冠の形成が可能であるが、実サイズの歯全体の再生が多くの難題に直面することが認められている。これらの難題は、ここでも、歯の発生の複雑な性質に起因する(Duailibi 2006, Tummers 2003)。
【0004】
細胞ホーミングの概念 提唱されるように、幹細胞の従来の方法-足場内播種は、細胞組織を模倣しかつ生体外で又は生体内で機能組織等価物を再形成することを意図する。細胞は、終末器官に又は骨髄のようなより未分化の供給源に由来する(Schantz 2007)。これらの方法は、細胞を収穫することから供与部位の罹患や細胞足場構造物の移植部位での不均一品質の組織形成のような問題によって制限される(Schantz 2007)。従って、細胞ホーミングの概念は、最近より多くの注意を引きつけている。細胞ホーミングは、特定の解剖学的部位のサイトカイン含浸足場に所望の細胞のホーミングを誘導することを意図する(Schantz 2007)。この方法は、細胞を播種せずに生体内組織再生を試みている。それ故、細胞ホーミングは、組織工学のための細胞方法論の拡大及び組織再生のための新規な最小限侵襲的選択を与えることができる(Schantz 2007)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記説明に基づき、歯の足場の開発がさらに求められている。本発明は、その要求を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある実施態様において、無細胞の哺乳類歯形状の足場が提供される。足場は、走化性、骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、又はセメント質形成性である化合物を含む。
他の実施態様において、哺乳類の口腔内で歯を置き換える方法が提供される。これらの実施態様において、歯は欠損し、口腔内に欠損した歯の位置に歯槽が存在している。該方法は、欠如歯の形を有する無細胞足場を歯槽に移植することを含む。
さらに、歯の足場を作成する方法が提供される。該方法は、哺乳類の歯の形をした無細胞足場を合成すること及び走化性、骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、又はセメント質形成性である少なくとも1つの化合物を添加することを含む。
他の目的及び特徴は、以下の文で部分的に明らかになり、部分的に指摘される。
当業者は、後述する図面が例示のためだけにあることを理解するであろう。図面は、いかなる形であっても本教示の範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、実施例に記載される実験の設計を示す流れ図である。
【図2】図2は、3D印刷システム(BioplotterTM)を用いた足場作製を示す写真である。パネルAは、足場を作成するために用いられるBioplotterTMを示す; パネルBは、作製されたラット下顎中切歯根(左)とヒト臼歯形状PCL-HA足場(右)を示す; パネルCは、足場を滅菌するために用いられるエチレンオキシド滅菌器を示す; パネルDは、成長因子(SDF1、BMP-7)で処理されている足場を示す; パネルEは、移植前に足場におけるコラーゲン架橋のためにインキュベートした足場を示す; パネルFは、成長因子とコラーゲンゲルが充填されている足場を示す; パネルGは、ラットに抜歯窩部位と背側部位に移植された足場を示す。
【図3】図3は、ラット背側の移植のために作製されたヒト下顎臼歯形状足場の写真である。歯冠及び歯根は、別々に作製されて、後に融着された。マイクロチャネルが明らかである。
【図4】図4は、下顎中切歯の抜歯に続いて、歯槽に根形足場を移植する写真である。パネルAは、下唇の陥没を示す; パネルBは、歯肉弁の切開と剥離を示す; パネルCは、離れた下顎中切歯の非外傷性抜歯を示し、歯槽の保存骨壁が示されている; パネルDは、抜歯した切歯と根形足場を比較して示す; パネルEは、抜歯窩に移植された足場を示す; パネルFは、縫合され、一次的に閉鎖された歯肉弁を示す。
【図5】図5は、ラット背側部位におけるヒト下顎臼歯形状足場の皮下移植の写真である。パネルAは、2cmの切開が行われていることを示す; パネルBは、皮下嚢の作成を示す; パネルCは、足場の嚢への移植を示す; パネルDは、一次閉鎖を示す。
【図6】図6は、まとめて収穫した下顎中切歯足場を示す写真である。パネルAは、収穫前に明らかであった完全な創傷癒合を示す; パネルBは、足場に接近するために行われた切開部を示す; パネルCは、まとめて収穫した足場(右)と隣接する切歯(左)を示す。
【図7】図7は、背側部位に移植された足場収穫のための手順を示す写真である。パネルAは、収穫前の完全な創傷治癒を示す; パネルBは、足場に接近するために行われた切開部を示す; パネルCは、足場の筋膜封入を示す; パネルDは、回収された足場を示す。
【図8】図8は、組織学的解析のために選ばれた領域を示す染色足場切片の顕微鏡写真である。パネルAは、下顎中切歯足場において選ばれた3つの領域を示す; パネルBは、ヒト下顎臼歯足場において選ばれた4つの領域を示す。
【図9】図9は、抜歯窩(試験グループと対照グループ)内の切歯根形足場の組織-足場接合部を示す染色足場切片の顕微鏡写真である。パネルAは、接合部での骨の内殖を示すフォンコッサ(VK)染色スライドを示す; パネルBは、足場の歯槽壁への密接な適応及び一体化を示しているヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色切片を示す; パネルCは、PCL-HAストランド間の明らかな血管形成と軟組織内殖を示しているより大きな拡大図を示す。
【図10】図10は、背側部位からのヒト下顎臼歯形状足場の組織-足場接合部を示す染色足場切片(試験グループと対照グループ)の顕微鏡写真である。パネルAは、ストランド周辺とストランドの間の組織の血管形成と内殖を示す; パネルBは、足場と封入組織の間の一体化を示すより大きな拡大図を示す。
【図11】図11は、試験足場(パネルA)と成長因子を含まない対照足場(パネルB)との細胞密度の違いを示している抜歯窩からの足場の代表的な図を示す染色足場切片の顕微鏡写真である。
【図12】図12は、試験足場(パネルA)と成長因子を含まない対照足場(パネルB)との細胞密度の違いを示している背側部位からの足場の代表的な図を示す染色足場切片の顕微鏡写真である。
【図13】図13は、実験グループと移植部位の間の細胞密度の違いを示しているグラフである。GF+:試験; GF-:対照。“*”: p < 0.05。
【図14】図14は、試験足場(パネルA)と成長因子を含まない対照足場(パネルB)との血管密度の違いを示している抜歯窩からの足場の代表的な図を示す染色足場切片の顕微鏡写真である。
【図15】図15は、試験足場(パネルA)と成長因子を含まない対照足場(パネルB)との細胞密度の違いを示している背側部位からの足場の代表的な図を示す染色足場切片の顕微鏡写真である。
【図16】図16は、実験グループと移植部位の間の血管密度の違いを示しているグラフである。GF+:試験; GF-:対照。“*”: p < 0.05。
【図17】図17は、抜歯窩(パネルA)と背側部位(パネルB)からの足場の血管直径の違いを示している代表的な図を示す染色足場切片の顕微鏡写真である。
【図18】図18は、実験グループと移植部位の間の血管直径の違いを示しているグラフである。GF+:試験; GF-:対照。“*”: p < 0.05。
【図19】図19は、鉱質化を示している抜歯窩からの実験グループ足場の代表的な図を示すVK染色足場切片の顕微鏡写真である。
【図20】図20は、鉱質化を示している背側部位からの試験グループ足場の代表的な図を示すVK染色足場切片の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、部分的には、歯形状足場が歯槽に移植される場合、細胞に足場を外因的に与えなくても、足場にコロニーを作る細胞を引きつけて、生きた歯を得るという驚くべき発見に基づく。
したがって、ある実施態様において、無細胞の哺乳類歯形状の足場が提供される。足場は、走化性、骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、又はセメント質形成性である化合物を含む。したがって、これらの足場は、細胞を外因的に加えずに移植される。実施例において確かめられるように、移植された足場のコロニー形成は、足場に移動する未変性細胞によって充分に進行する。コロニー形成は、さらに、足場に組み込まれる走化性、骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成、又はセメント質形成性化合物によって促進される。
化合物は、タンパク質、オリゴペプチド、小有機分子(すなわち、約2000mw未満、又は約1000mw又は約500mw)、金属イオン含有分子、含水炭素、又は脂質を含むがこれらに限定されないいかなる構造も有し得る。本明細書に用いられる走化性化合物は、細胞を引きつける化合物である。骨形成性化合物は、新たな骨合成を促進する化合物である。象牙質形成性化合物は、新たな象牙質合成を促進する化合物である。エナメル質形成性化合物は、歯エナメル質合成を促進する化合物である。セメント質形成性化合物は、セメント質合成を促進する化合物である。
本明細書に用いられる“足場”は、細胞の成長及び/又は組織の形成のための基質を与える構造である。足場の有効な特性は、多孔性、生体適合性及び生分解性、細胞成長を支持する能力、ならびに遺伝子-及びタンパク質-制御送達賦形剤としてのその使用である(Murphy 1999)。足場によって得られる3次元高分子の構造は、生体工学組織の最終形状を導くものである(Murphy 1999)。
【0009】
これらの実施態様の足場は、いかなる哺乳類歯の形状も有し得る。これらの実施態様の一部において、足場は、ヒト切歯、ヒト犬歯、ヒト小臼歯又はヒト大臼歯の形状を有する。
これらの実施態様における化合物は、走化性、骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、セメント質形成性であるいかなる化合物でもあり得る。限定されない例としては、血小板由来成長因子(PDGF)、内皮細胞成長因子(ECGF)、トランスフォーミング成長因子-β1(TGF-β1)、上皮成長因子(EGF)、肝細胞成長因子(HGF)、ストローマ細胞由来因子-1(SDF1)、骨形態形成タンパク質(BMP)、TGF-β、成長分化因子(GDF)、インスリン様成長因子-1(IGF1)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、象牙質基質タンパク、象牙質シアロタンパク質、骨シアロタンパク質、アメロゲニン、又はインテグリンが挙げられる。
ある実施態様において、化合物はSDF1であり、これは走化性の性質を有する。SDF1は、損傷後の組織修復のための幹細胞及び前駆細胞の補給において不可欠であると考えられるケモカインである(Kollet 2003)。SDF1は、また、走化性チャンバ内に造血前駆細胞の移動を誘導し得る(Kim 1998)。さらに、SDF1による刺激に応答する間葉幹細胞(MSC)の用量依存移動によって示されるように、SDF1は、骨髄間質細胞の骨髄への移動に重要である(Win 2004)。SDF1は、また、抗アポトーシス特性を有し、他の成長因子の存在下にγ-照射のアポトーシスの効果から直接に造血幹細胞を保護する(Herodin 2003)。さらに、骨髄に由来する間葉幹細胞(MSC)は、SDF1の方に移動するように向けられ得る(Schantz 2007)。
【0010】
他の実施態様において、化合物は、BMPである。BMP2、BMP6及びBMP9は、明らかにMSCの骨形成分化のための最も強力な薬剤であり、BMPの残りは、骨芽細胞前駆細胞及び骨芽細胞の最終分化を促進させるのにより効果的である(Cheng 2003)。
これらの実施態様のある態様において、BMPは、BMP-7である。BMP-7は、間葉細胞の骨及び軟骨への形質転換に鍵となる役割を果たしている。BMP-7治療は、さまざまな細胞タイプの骨芽細胞分化の遺伝マーカーの全てを充分に誘導することである(Chen 2004)。BMP-7がヒト臨床使用に食品医薬品局(FDA)の承認を受けていることに留意されたい。
多くの研究によって、成長因子を移植部位に送達するために担体中の外因性成長因子の役割と作用が調べられている。担体は組織形成に必要な追加因子に寄与し得ないが、成長プロセスの重要な成分ではあり得る(Wozney 1990)。担体機能の1つは、移植部位に因子を維持することであるので、その局所濃度を高めることである。担体は、また、組織が形成し得る環境として使用するので、新たな組織が形成され得る領域を画成することを援助する(Whang 1998)。コラーゲン担体又は合成担体は、送達賦形剤として用いられており、この物理化学的性質は、これらが作成する微小環境と共に、誘導結果に役割を果たしている。担体は、固体異種間(例えば、ヒドロキシアパタイト) (Kuboki 1995, Murata 1998)、固体アロプラスト(ポリエチレンポリマー)材料(Saito 1998, Isobe 1999)、又は自家(Sweeney 1995, Schwartz 1998)、同種(Bax 1999, Viljanen 1997)、もしくはアロプラスト由来(Santos 1998)のゲル、又は上記の組み合わせ(Alpaslan 1996)であり得る。
【0011】
担体機能の1つは、因子を移植部位に維持するので、その局所濃度を高めることである。コラーゲン基質は、最初の含浸の間にBMPの65%までを保持し、それを2相: 移植時間内の初期相と担体の種類及びその幾何特性に左右される第2相に放出する(Uludag 1999)。BMPは、担体に結合せず(Uludag 1999)、むしろ、特定の設計を他のものより骨誘導により好都合にする構造で物理的に入り込むようになると考えられる(Tsuruga 1997)。コラーゲンスポンジ担体の場合、質量法、コラーゲン架橋法及び滅菌法は、BMP沈殿、次にコラゲナーゼによるスポンジ分解の抵抗に影響を及ぼす(Friess 1999)。コラーゲン担体は、また、高分子マトリックスと比較して再生体の骨密度が増加することになり得る(Cochran 1997)。
BMP-7は、間葉細胞の骨及び軟骨への形質転換において、鍵となる役割を果たしている。BMP-7治療は、さまざまな細胞タイプの骨芽細胞分化の遺伝マーカーの全てを充分に誘導することである(Chen 2004)。BMP-7がヒト臨床使用に食品医薬品局(FDA)の承認を受けていることに留意することも価値がある。
これらの足場の一部において、走化性成長因子だけでなく骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、セメント質形成性である成長因子が存在する。具体的実施態様において、走化性成長因子はSDF1であり、骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、又はセメント質形成性の成長因子はBMP-7である。
これらの実施態様の足場は、さらに、他のいかなる生理活性分子、例えば、抗菌物質又は追加の走化性成長因子又は他の骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、セメント質形成性の成長因子も含み得る。ある実施態様において、足場は、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)、ヒドロキシエチルデンプン、デキストラン、又はこれらの組み合わせの添加によって強化される。適用の組成物に用いられるこれらの化合物の適切な濃度は、当業者に知られているか、又は過度の実験をせずに容易に確認され得る。
【0012】
足場における化合物の濃度は、化合物の種類、その生理学的な役割、及び所望の治療効果又は診断効果によって異なる。治療的有効量は、一般的には、過度の毒性を含まずに所望の効果を示すのに充分な濃度の治療剤である。ある実施態様において、足場は、BMP-7を足場に約10ng/g〜1000μg/g 足場で、SDF1を足場に約10ng/g〜1000μg/g 足場で含む。より個々の実施態様において、BMP-7は足場中に約100μg/g 足場で、SDF1は足場中に約100μg/g 足場である。
化合物は、いかなる既知の方法によっても足場に組み込まれ得る。ある実施態様において、化合物は、実施例に記載されるように、足場の細孔に組み込まれるゲル、例えばコラーゲンゲルに埋め込まれる。
あるいは、足場の表面上に化合物を共有結合で結合するために化学修飾法が用いられてもよい。アルデヒド化合物、カルボジイミド等の当該技術において周知のカップリング剤を用いて共有結合を形成するために、足場の表面官能基が化合物の反応性官能基とカップリングし得る。さらに、スペーサー分子を用いて、表面反応基と生体分子の反応基にすき間を作り、基質の表面上にこのような分子のより可撓性を可能にすることができる。生体分子を基質の内部又は外部に付着させる他の類似の方法も当業者に既知である。
あるいは、封入賦形剤のような担体ベース系を介して基質の中に又はその上に化合物が導入され得る。このような賦形剤は、徐放性組成物として有効である。例えば、成長因子は、増強された安定性及び/又は長期にわたる送達を与えるためにマイクロカプセル化され得る。封入賦形剤としては、微小粒子、リポソーム、マイクロスフェア等、又は種々の割合で所望の放出プロファイルを与える上記のいずれかの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。薬剤の他の徐放性送達方法は、当業者に既知である。さらに、これらの及び他の系は、基質内で薬剤の一体化/放出を最適化するために併用及び/又は変更され得る。
【0013】
ポリマーのマイクロスフェアは、天然に存在するポリマーか又は合成ポリマーを用いて製造することができ、0.1〜500μmのサイズ範囲の微粒子系である。ポリマーミセル及びポリマーソームは、マイクロスフェアに特徴が似ているポリマーの送達媒体であり、本明細書に記載される化合物の封入及び基質一体化も容易にすることができる。種々の有効荷重のためのマイクロスフェアの製造、封入、及び安定化は、当該技術の範囲内である(例えば、Varde & Pack (2004) Expert Opin. Biol. 4(1) 35-51を参照のこと)。マイクロスフェアの放出速度は、ポリマーの種類、ポリマー分子量、コポリマー組成物、マイクロスフェア製剤に添加される賦形剤、及びマイクロスフェアサイズによって調整され得る。マイクロスフェアを形成するのに有効なポリマー材料としては、PLA、PLGA、DPPCで被覆されたPLGA、DPPC、DSPC、EVAc、ゼラチン、アルブミン、キトサン、デキストラン、DL-PLG、SDLM、PEG(例えば、ProMaxx)、ヒアルロン酸ナトリウム、ジケトピペラジン誘導体(例えば、Technosphere)、リン酸カルシウム-PEG粒子、及び/又はオリゴ糖誘導体DPPG(例えば、Solidose)が挙げられる。封入は、例えば、水/油単一エマルジョン法、水-油-水二重エマルジョン法、又は凍結乾燥を用いて達成され得る。いくつかの市販封入技術が利用できる(例えば、ProLease(登録商標), Alkerme)。
リポソームは、また、化合物を足場と一体化するために使用し得る。リポソームの薬剤担持能と放出速度は、脂質組成、サイズ、電荷、薬剤/脂質比率、及び送達方法に左右され得る。従来のリポソームは、中性脂質又はアニオン脂質(天然又は合成)から構成される。一般的に用いられる脂質は、レシチン、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトールである。リポソーム封入法は、当該技術において一般に知られている(Galovic et al. (2002) Eur. J. Pharm. Sci. 15, 441-448; Wagner et al. (2002) J. Liposome Res. 12, 259-270)。ターゲットリポソームや反応性リポソームもまた、薬剤と基質を組み合わせて使用し得る。ターゲットリポソームは、ターゲッティングリガンド、例えば、モノクローナル抗体又はレクチンを有し、これらの表面に付着されており、特異受容体及び/又は細胞型との交互作用が可能になる。反応性リポソーム又は多形性リポソームには広範囲のリポソームが含まれ、その共通の特性は具体的な交互作用の際に相と構造を変える傾向である(例えば、pH感受性リポソーム)。例えば、Lasic (1997) Liposomes in Gene Delivery, CRC Press, FL)を参照のこと。
【0014】
これらの実施態様の足場は、当業者が有効として認識したいかなる材料によっても作製され得る。適切なマトリックス材料は、例えば、Ma and Elisseeff, ed. (2005) Scaffolding in Tissue Engineering, CRC, ISBN 1574445219; Saltzman (2004) Tissue Engineering: Engineering Principles for the Design of Replacement Organs and Tissues, Oxford ISBN 019514130Xに述べられている。足場の全部又は部分に潜在的に有効な材料の限定されない例としては、ポリ(エチレン)グリコール、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ無水物、ポリグラクチン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリシアノアクリレート、ポリホスファゼン、分解性ポリウレタン、ポリアクリレート、エチレン-酢酸ビニルポリマー及び他のアシル置換酢酸セルロース及びこれらの誘導体、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリ(ビニルイミダゾール)、クロロスルホン化ポリオレフィン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、テフロン(登録商標)、ナイロン、アガロース、アルギン酸塩(例えば、アルギン酸カルシウムゲル)、フィブリン、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、コラーゲン(例えば、コラーゲンゲル)、ゼラチン、ヒアルロン酸、キチン、及び他の適切なポリマー及びバイオポリマー、又は上記の類縁体、混合物、組み合わせ、及び誘導体が挙げられる。
ある実施態様において、足場は、骨伝導性材料を含む組成物から作製される。骨伝導性材料の限定されない例は、ヒドロキシアパタイト(HA)である。HAは、その優れた生体適合性と高い生物活性のために長年の骨代用品として用いられてきた(Liao 2006, Nebahat 2006, Lijun 2006, Wei 2003)。
【0015】
HAは良好な生物活性と骨伝導率を有するが、これは非常に脆性であり、固有の引張特性が不充分である。それ故、ある実施態様において、HAは、ε-ポリカプロラクトン(PCL)と組み合わせられる。生体内で分解するのに数年かかり、さらに生体適合性であり、比較的安価であり、さらに多量に利用できることから、PCLは良好な骨足場材料である(Rich 2002, Kim 2004)。PCLとHAの組み合わせ(PCL-HA)によって、生物活性、生分解性、及び強度の望ましい組み合わせが得られる(Patcharaporn 2005, Rezwan 2006, Landis 1995, Ziv 1994)。複合体PCL-HAの材料は、生体適合性、細胞-接着、増殖、及び分化の最適足場特性を有すると考えられている(Zhao 2008)。ある実施態様において、足場は、約80wt%のポリカプロラクトンと約20wt%のヒドロキシアパタイトの混合物からなる。他の実施態様において、足場は、どこでも約60wt%のポリカプロラクトンと約40wt%のヒドロキシアパタイト〜約95wt%のポリカプロラクトンと約5wt%のヒドロキシアパタイトからなる。例えば、足場は、約70wt%のポリカプロラクトンと約30wt%のヒドロキシアパタイトからなり得る。他の例として、足場は、約90wt%のポリカプロラクトンと約10wt%のヒドロキシアパタイトからなり得る。
ある実施態様において、足場は、高い多孔性を有する。このような多孔質構造は、細胞移動、接着、及び新しい骨組織の内殖のための空間を与える(Gazdag 1995, Rezwan 2006, Mano 2004, Shin 2003, Kim 2001, Leong 2003)。
足場の細孔とチャネルは、さまざまな直径を有するように設計され得る。例えば、足場の細孔は、直径範囲がマイクロメートルからミリメートルまでであり得る。ある実施態様において、マトリックス材料の細孔には、マイクロチャネルが含まれる。マイクロチャネルは、一般的には、約0.1μm〜約1,000μm、例えば、約50μm〜約500μm(例えば、約100μm、150μm、約200μm、約250μm、約300μm、約350μm、約400μm、約450μm、約500μm、又は550μm)の平均径を有する。当業者は、マイクロチャネル直径の分布が正規分布あるいは非正規分布を含む分布を有することになることを理解するであろう。ある実施態様において、マイクロチャネルは、マトリックス材料の天然に存在する特徴である。他の実施態様において、マイクロチャネルは、マトリックス材料に生じるように設計される。
【0016】
ある実施態様において、化合物は、マイクロチャネル内のゲルに埋め込まれる。いかなるゲルも、このために使用し得る。ある実施態様において、ゲルは、コラーゲンゲルである。
種々の実施態様において、足場は、さらに、非多孔性キャップを備える。このようなキャップは、さらに、足場に強度を与え、感染を防止する。非多孔性キャップは、細孔を含まないこと以外は、単に同一材料の残りの足場であり得る。あるいは、非多孔性キャップは、異なる材料、例えば、典型的なキャップ歯科材料、例えば磁器又は金であり得る。
哺乳類の口腔内の歯を置換する方法もまた、本明細書に提供される。これらの実施態様において、歯は欠損し、口腔内に欠損した歯の位置に歯槽が存在している。該方法は、欠如歯の形状を有する無細胞足場を歯槽に移植することを含む。
多孔質足場の作製には、微粒子浸出、ガス発泡、エレクトロスピニング、凍結乾燥、スラリーからセラミックの発泡、ポリマースポンジの形成を含むいくつかの方法が用いられる(Mikos 1994, Mooney 1996, Qing 2002, Sylvain 2006)。しかしながら、これらの方法を用いることにより調製される足場は、細孔の構造及び相互連結性を制御するのにいくつかの欠点を有し、これは組織工学における細胞侵入に関してその用途を制限することになる(Yeong 2004, Tan 2003)。
ある実施態様において、該方法は、さらに、コンピュータ支援設計(CAD)によって存在しない歯のモデルを作成すること、及び足場をバイオプロッタで合成することを含む。このような方法により、高い多孔性及び良好な相互連結性を有する足場を得ることができる。実施例に記載されるように、制御可能で再現可能な多孔性及び明確な3Dミクロ構造を有する3次元(3D)足場が作成され得る。溶融堆積モデリング、選択的レーザー焼結、3Dプリント、多相ジェット凝固、3Dプロットのようなラピッドプロトタイピング(RP)法が提唱されている(Hutmacher 2001, Moroni 2006)。
【0017】
ラピッドプロトタイピングの鍵となる特徴は、ソリッドフリーフォーム製造(SFF)プロセスである: 複合対象物の層状を作るように用いられる層の配列に3Dコンピュータモデルが切断される。レーザービーム誘導焼結(選択的レーザー焼結)又は特殊結合剤を用いた溶融物の凝固、層光重合又は粒子の結合によって層が得られる(Landers 2002)。近年では、特殊ラピッドプロトタイピングシステム(BioplotterTM、EnvisionTec、ドイツ)が導入され、種々の内部構築を有する解剖学的形状足場の設計と製造を可能にし、それによって、孔径、多孔性、浸透性、及び剛性の正確な制御を可能にする(Landers 2002; Landers 2005)。組織特異的PCL-HA足場を作るためのBioplotterTMを用いるプロトタイピングプロセスには、標的組織又は組織欠損の3D形態学的情報が必要であり、これはコンピュータ断層撮影(CT)又は磁気共鳴映像法(MRI)によって得ることができる。欠損した歯が口腔のもう一方の側に相対物を有する場合、その相対物は欠如歯のための足場を設計するモデルとして使用され得る。
上で得られた情報は、次に、CADによって機能足場を設計するために用いられ、BioplotterTMシステムに移される。そのシステムにおいて、BioplotterTM機は、足場材料(例えば、PCL-HA)を収集プレート上で層状に融解するとともに分配する。細孔、例えばマイクロチャネルが、設計の一部として作成され得る。RPシステムによって作製された3D足場は、著しい細胞侵入を生じることになるので、理想的な足場の特性を有する(Heo 2007)。これらの3D足場は、患者に組織特異的な解剖学的形状だけでなく栄養の輸送と血管化のための最適化内部ミクロ構造を与えることによって、臨床応用への可能性があり得る。これらの方法の詳細は、さらに、国際公開第2009006558号パンフレットに示されており、この明細書の記載は本願明細書に含まれるものとする。
【0018】
歯の足場を作成する方法がさらに提供される。該方法は、哺乳類の歯の形をした無細胞足場を合成すること及び走化性、骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、セメント質形成性である少なくとも1つの化合物を添加することを含む。これらの方法のある実施態様において、歯は哺乳類において欠損した歯のように成形され、該方法は、さらに、コンピュータ支援設計(CAD)によって欠損した歯のモデルを作成すること、及び足場をバイオプロッタで合成することを含む。欠損した歯が口腔内に相対物、例えば、大臼歯を有する場合、該方法は、類似の大臼歯、例えば、口腔のもう一方の側にCTスキャンを作成することをさらに含み、ここで、CADは第二大臼歯のCTスキャンデータを用いて、足場を設計する。
これらの方法の若干の実施態様において、化合物は、血小板由来成長因子(PDGF)、内皮細胞成長因子(ECGF)、トランスフォーミング成長因子-β1(TGF-β1)、上皮成長因子(EGF)、肝細胞成長因子(HGF)、ストローマ細胞由来因子支質-1(SDF1)、骨形態形成タンパク質(BMP)、TGF-β、成長分化因子(GDF)、インスリン様成長因子-1(IGF1)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、象牙質基質タンパク、象牙質シアロタンパク質、骨シアロタンパク質、アメロゲニン、又はインテグリンである。
他の実施態様において、足場は、骨伝導性材料を含む組成物から作製される。上記のように、有効な骨伝導性材料の例は、ヒドロキシアパタイトである。一例は、さらに、上記のようにε-ポリカプロラクトンとヒドロキシアパタイトの混合物である。これらの方法の種々の実施態様において、足場は、直径が50〜500μmのマイクロチャネルを備えている。さらに実施態様において、足場は、さらに、非多孔性キャップを備えている。
【0019】
ある実施態様において、本発明の特定の実施態様を記載するとともに特許を請求するために用いられる、成分の量を表す数、特性、例えば、分子量、反応条件等は、ある場合には、用語“約”によって変更されるものとして理解されるべきである。ある実施態様において、用語“約”は、数値を求めるために使われているデバイス又は方法の平均の標準偏差を数値が含むことを示すために用いられている。ある実施態様において、明細書及び添付の特許請求の範囲に示される数値パラメータは、具体的実施態様によって得ようとする所望の特性によって異なり得る近似値である。ある実施態様において、数値パラメータは、報告された有効数字の数を考慮して、また、通常の丸め手法を適用することによって解釈されなければならない。本発明のある実施態様の幅広い範囲を示している数値範囲及びパラメータが近似値であるにも関わらず、個々の実施例に示される数値は実行可能なように正確に報告されている。本発明のある実施態様に示される数値は、必然的に、それぞれの試験測定でわかった標準偏差から得られるある種の誤差を含有することになる。本明細書における数値の範囲の説明は、単に、範囲内に入るそれぞれの各数値を個別に示す簡便な方法として使用するものである。本明細書に特に明記されない限り、個別の各数値は、あたかも本明細書に個別に列挙されたかのように明細書に組み込まれている。
ある実施形態において、具体的な実施態様を記載することに関連して(特に下記の特許請求の範囲の一部に関連して)用いられる用語“a”及び“an”及び“the”及び類似の説明は、特にことわらない限り、単数及び複数双方を包含すると解釈され得る。ある実施態様において、特許請求の範囲を含む本明細書に用いられる用語“又は”は、特に代替物のみを意味することを明確に示されない限り又は代替物が相互に独占的でない限り“及び/又は”を意味するために用いられている。
用語“含む”、“有する”、“包含する”は、制限のない連結動詞である。これらの動詞、例えば“含む”、“含んでいる”、“有する”、“有している”、“包含する”、“包含している”の1つ以上のいかなる形又は時制も制限がない。例えば、1つ以上の工程を“含む”、“有する”又は“包含する”いかなる方法も、1つ以上の工程だけを有することに限定されず、挙げられていない他の工程にも及び得る。同様に、1つ以上の特徴を“含む”、“有する”又は、“包含する”いかなる組成物又は装置も、1つ以上の特徴だけを有することに限定されず、挙げられてない他の特徴にも及び得る。
【0020】
本明細書に記載されたすべての方法は、本明細書に特に明記されないかあるいは前後関係によって明らかに否定されない限りいかなる適切な順序においても行われ得る。すべての例、又は本明細書のある種の実施態様に関して示された例示的語法(例えば“例えば”)の使用は、単に本発明をより良く明らかにするものであり、特許請求される本発明の範囲を制限しない。明細書における言語は、本発明の実施に不可欠な特許請求されていない要素を示すものとして解釈されてはならない。
本明細書に開示される本発明の別の要素又は実施態様のグループ化は、制限として解釈されるべきではない。各グループの部分は、個別に又は本明細書に見られるグループ又は他の要素の他の部分と組み合わせて示され、特許請求され得る。グループの1つ以上の部分が、便宜又は特許性のためのグループに含まれるか又は削除され得る。このような包含又は削除が生じる場合、明細書はこの中に修正されるグループを含有すると考えられるので、添付の特許請求の範囲に用いられるすべてのマーカッシュグループの明細書が達成される。
本出願に引用されたすべての出版物、特許、特許出願、及び他の文献は、個々の各出版物、特許、特許出願又は他の文献がすべての目的のために全体として組み込まれるように詳細にかつ個別に示されたのと同じ程度まですべての目的のために本願明細書に組み込まれる。本明細書における文献の引用は、これが本発明に対する先行技術であると認めるものと解釈されない。
本発明を詳細に記載してきたが、修正、変更、及び等価実施態様が、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲を逸脱することなく可能であることは明らかである。さらにまた、本開示におけるすべての実施例が限定されない実施例として示されることも理解されるべきである。
【実施例】
【0021】
本発明をさらに具体的に説明するために以下の限定されない実施例を示す。本発明者らが見出した方法が本発明の実施において充分に機能することを以下の実施例に開示される技術が示しているので、その実施のための方法の実施例を構成するとみなされ得ることを当業者は理解するべきである。しかしながら、本開示を考慮して、開示される個々の実施態様において多くの変更を行うことができ、なお本発明の精神と範囲から逸脱することなく同様の又は類似の結果が得られることを当業者は理解するべきである。
実施例1: 細胞ホーミングによる解剖学的に正しい歯の再生
歯学の基本的な任務の1つは、病気の、欠落した及び消失した歯科構造の修復である。現在、歯損失の通例の治療には、外科的に配置された歯科用インプラントを含む又は含まない歯科補綴学的管理が含まれる。歯科用インプラントは、その報告された高い成功率にもかかわらず、弛緩、感染症、骨損失のような合併症を含まないことがない。近年では、開業医と科学者の間で別個の歯科構造又は歯全体が生体医用工学手掛りを用いて再生することができるという共通の願いがある。しかしながら、この新しい領域はいくつかの障害に直面したが、それは少なくとも再生の複雑性と歯科構造の形態ではない。本実験は、生体工学によって作られた歯の足場によって、また、歯の発生に重要であることが知られる成長因子の送達によって歯科器官全体の再生を確立するものである。まず、BioplotterTM機を用いてε-ポリカプロラクトンとヒドロキシアパタイト(PCL-HA)のハイブリッドの層堆積によるラピッドプロトタイピングによって実大のヒト歯の足場を作製した。同時に、スプラグダウレイラットの下顎中切歯根の形をした足場を3Dにおいて作った。次に、足場にストローマ細胞由来因子-1(SDF1)と骨形成タンパク質7(BMP-7)を注入した。試験グループと対照グループは各々22匹のスプラグダウレイラット-11であった。ラットの各々において、ヒトの下顎臼歯形状足場を背側部位において皮下に移植し、ラット下顎切歯根形状足場を2つの下顎中切歯の1つの外科的摘出後の抜歯窩に移植した。実験グループの足場にSDF1とBMP-7を含浸させ、対照グループの足場に成長因子を含浸させた。移植されたすべての足場を、移植9週間後に収穫し、組織内植、細胞侵入、血管形成及び鉱質化を組織学的に評価した。
【0022】
材料及び方法 この実験の開始前にコロンビア大学動物実験委員会(IACUC)からの承認を得た。この実験は、生後12週の雄スプラグダウレイラット(Charles River、ニューヨーク)の下顎中切歯の抜歯窩と皮下背側部位を用いた。すべての部位にPCL-HA足場を入れた。合計22匹のSDラットを2つのグループ: 実験グループと対照グループの各々が11匹のラットの2つのグループにランダムに分けた。図1に示されるように、各ラットは識別番号-#1〜#11と、#12〜#22-それぞれ試験グループと対照グループを示した。ラットを購入後1週間の順化期間の間、対で12時間の明/暗周期で維持し、外科的手順の前にラットの固形飼料(Rodent Laboratory Chow 5001, Ormond Veterinary Supply, Ontario, カナダ)と自由に水を与えた。表1は、実験グループ及び移植した足場の数をまとめたものである。
【0023】

表1. 実験グループ及び移植した足場の数。E = 抜歯窩部位移植;D = 背側皮下移植。
【0024】
ラットの下顎中切歯の抜歯窩と背側皮下ごとの各実験部位に、1つのPCL-HA足場を外科的に入れた。抜歯窩部位に、下顎中切歯の歯根に似た足場を入れた。背側部位に、ヒトの下顎臼歯の形状である足場を入れた。試験グループラットに移植した足場をSDF1とBMP-7で含浸させ、対照グループにコラーゲンゲルのみによる足場を入れた。実験室解析と定量化のための足場の収穫の前の手術後9週間、すべてのラットを保持した。
【0025】
足場調製 ラット下顎中切歯根形状の及びヒト下顎臼歯形状のPCL-HA足場を、3D印刷システムを用いて層状堆積によって作製した(BioplotterTM、Envision TEC、Gladbeck、ドイツ)(図2A、図2B)。複合体は、80wt%のポリカプロラクトン(PCL)(Mw 〜65,000、Sigma、セントルイス、ミズーリ州)と20wt%のヒドロキシアパタイト(HA)(Sigma、セントルイス、ミズーリ州)からなった。PCL-HAを120℃のチャンバ内で融解し、27ゲージ金属ニードル(DL technology、ハヴァーヒル、マサチューセッツ州)によって分配して、相互配置したストランドと相互接続したマイクロチャネルを作成した(図3)。ヒト下顎臼歯形状足場の歯冠と歯根の構造を、個々に作製し、後に溶融して、ワンピースとしてその連続作製に直面した問題点のために歯全体を形成した(図3)。すべての足場には、直径200μmのPCL-HAストランドの咬合構造によって作成される直径200μmのマイクロチャネルが含まれた(図3)。足場の高分子3D構造は、最終結果の外部形態の形成に寄与することを意味し、マイクロチャネルによる内部構造が細胞占有と組織内殖のための場所を与えるものである。作製されたすべての足場を、SDF1とBMP-7を含有するコラーゲンゲル(試験グループ)と、成長因子を含まないコラーゲンゲル(対照グループ)で処理する前に、24時間エチレンオキシド滅菌器内で滅菌した(図2C)。足場の処理は、無菌実験技術を用いた層流フード内で行った。
試験グループについて、100ng/mlのストローマ細胞由来因子-1(SDF1)(R&D systems、ミネソタ州)と100ng/mlの骨形成タンパク質-7(BMP-7) (R&D systems、ミネソタ州)を2mg/mlの中和されたウシI型コラーゲン(Cultrex(登録商標)、R&D Systems、ミネアポリス、ミネソタ州)中で混ぜ合わせた。次に、成長因子-コラーゲン溶液を、PCL-HA足場におけるマイクロチャネルに注入し、37℃で加湿されたインキュベータ内で1時間架橋した。SDF1とBMP-7を充填したコラーゲンゲルを、表2にまとめられるようにPBS、10×PBS、NaOHの混合物中で調製した。SDF1とBMP-7の用量は、先行研究に基づいて選ばれた。走化性分析から、間葉幹細胞が100ng/mlの濃度で最大走化性を有するSDF1刺激の方に成長することがわかった(Schantz 2007)。100ng/mlのBMP-7濃度は、コラーゲン担体上の骨芽細胞成長を促進させることに効果的であることがわかった(Laflamme 2008)。対照グループの足場は、滅菌後いかなる成長因子も充填しなかった。むしろ、手術の前に試験グループに記載された同様の方法で、コラーゲンゲルのみをマイクロチャネルに注入した。
【0026】
表2.試験グループ足場に送達される成長因子溶液の詳細。

【0027】
外科的手順 生後12週のスプラグダウレイラット(Charles River、ニューヨーク州)を購入し、約1週間順化させた。すべてのラットをケタミン(80mg/kg、IP)とキシラジン(5mg/kg、IP)の混液で麻酔した。麻酔深度を、手順の間、指趾への圧刺激によって監視し; 必要な場合、ケタミン(全量の1/3: 25mg/kg、IP)のみを投与して、必要に応じて麻酔深度を維持した。手術の間、パルス-オキシメーターデバイスを用いて、脈拍数及び酸素飽和レベルを監視した。
外科的技術は、2つのグループの間で同一にした(図4、図5)。下顎中切歯の注意深い非外傷性外科的摘出を行い、続いて直ちに歯根形足場を抜歯窩に移植した(図4C、図4D、図4E)。歯科モールを用いてできるだけ非外傷的に摘出手順を行い、歯槽の骨壁を保存するように注意した(図4C)。構造物の移植の間、構造物のパッシブフィッティングによって唇側壁を保存するように注意した(図4E)。移植後、皮弁を一次閉鎖のために伸展させ、ポリグリラクチン縫合材料を用いて、各歯槽を1つ又は2つの単一結節縫合によって閉鎖した(Vicryl 5-0、Johnson and Johnson、NJ)(図4F)。
同じラットの背側部位で、用意されたヒト下顎臼歯形状足場の皮下移植を行った(図5)。長さ2cmの横切開を入れ、皮下領域を鋭い外科はさみを用いて取り除き、嚢窩になった(図5B)。皮下に作られた嚢窩にヒト下顎臼歯形状足場を移植した(図5C)。部位をポリグリラクチン縫合材料(バイクリル5-0、Johnson and Johnson、ニュージャージー州)で閉じ、閉鎖の前に気泡が混入しなかったことを確認した(図5D)。一次閉鎖のために複数の単一結節縫合をした。
移植手順終了後、動物集中治療室に移動する前に麻酔のためにブプレノルフィン(0.05mg/kg、IP)を投与した。3〜5日間の回復期間、ラットを獣医が密接に監視し、12時間の明/暗周期で一匹使用ケージに入れ、安楽死の前の9週間ラット固形飼料(Rodent Laboratory Chow 5001、Ormond Veterinary Supply、オンタリオ、カナダ)と自由に水を与えた。9週間の間に、ラットを定期的にいかなる感染又は疾患の徴候も密接に監視した。このような徴候が見られた場合に適当な管理を行った。残っている切歯を継続的な成長を監視して、不正咬合と結果として生じる栄養不足を回避した。必要とされる場合、咀嚼の容易さのために歯を切り取った。手術9週間後に、収穫直前に過量のペントバルビタール注射IPを用いて各ラットを人道的に安楽死させた。
【0028】
収穫と実験の手順 収穫前に、下顎中切歯抜歯窩の上の歯肉組織が足場を露出せずに維持されたことは明らかであった(図6A)。背側部位もまた、その最適創傷癒合を示した(図7A)。
残りの隣接する中切歯及び歯槽骨を含む、下顎における足場をまとめて収穫した(図6)。周囲の筋膜が足場を封入している背側足場を回収した(図7)。5μm厚スライド作製及び各試料のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)及びフォンコッサ(VK)の染色のために組織学研究室に運搬する前に、すべての収穫した構造物を10%ホルマリンに貯蔵した。
【0029】
細胞ホーミング、血管化及び鉱質化の定量化 細胞ホーミング、血管化及び鉱質化の定量化は、実験グループと移植部位の間の細胞密度、血管形成(血管数と直径)、及び鉱質化の存在の観察された違いに基づいたものである。
どのラットがどのグループに属したかを知らない盲検の検査者によって定量化手順を行った。各足場のスライドを調べる前に、どの領域が組織学的データ解析に関与するかについて決定した。図8に示されるようにスライド上に準備された足場の3分の1の冠状、3分の1の中央部分及び3分の1の尖端の中央領域に注目することが同意された。それ故、抜歯窩から収穫した足場は、評価される3つの領域を有し(図8A)、背側部位からの足場が2つの歯根の存在のために評価される4つの領域を有した(図8B)。100×倍率でデジタルリサーチ顕微鏡(Leica DM6000、Leica、スイス)を用いて各スライドを充分に調べた。スライド写真をデジタル的に撮った。顕微鏡、Leica Application Suite(LAS)を備えたソフトウエアプログラムを用いて、同意された領域内の細胞と血管の定量化を実施した。後に、計数を数字/mm2に変換した。コンピュータソフトウェアプログラム(Photoshop CS)を用いて血管直径を測定し、ミリメータ(mm)に変換した。鉱質化の有無も評価した。
【0030】
統計分析 コンピュータプログラム(Microsoft Office Excel 2007)を用いてすべての統計分析を行った。前述の各変数について、平均値と標準偏差値を算出した。2つの実験グループの間及び移植部位の間の有意水準を求めるためにスチューデントt検定を実施した。p 値<0.05を有意であるとみなした。
【0031】
結果
PCL-HA足場との組織一体化。図9及び図10で明らかなように、双方のグループの双方の移植部位からのすべての足場から、組織-足場境界領域が比較的堅い組織と足場の適応を示すことがわかった。移植部位に関係なく、2つのグループの間にいかなる注目すべき違いもなかったように見えた。しかしながら、一体化の顕微鏡的特性は、2つの移植部位の間で異なるように見えた。抜歯窩内の足場については、境界面は、おそらく線維ライニングによって、注目すべき骨と足場適応に特徴を有した。ある境界面は、足場のストランドの間で骨内殖を示した(図9A、図9B)。また、足場と歯槽壁の境界面での血管形成と軟組織内殖が確かな証拠であった(図9C)。組織がPCL-HAストランド周辺で、また、それらの間で成長するように見えた(図9C)。組織は、また、歯槽骨壁に沿っていた(図9C)。背側部位は、境界面が足場の内部によく軟組織内殖を有することを示した(図10A、図10B)。
【0032】
細胞侵入及び密度 PCL-HA足場を用いる以前の研究は、PCL-HA足場からなるストランド周辺で細胞侵入及び増殖を証明した(Heo 2007)。図11及び図12に示されるように、各埋め込み部位の試験グループと対照グループの間に細胞密度(細胞/mm2)レベルの注目すべき違いがあった。図11は抜歯窩から回収された足場の代表的な領域を表し、図12は背側部位足場、それぞれ、試験グループと対照グループからの領域を表す。試験グループ足場から観察される細胞密度は、対照グループ-p=0.049及びp=0.001、それぞれ、抜歯窩部位及び背側部位からのものよりはるかに大きかった。抜歯窩から回収された足場は、背側部位-p=0.016及びp=0.002、それぞれ、試験グループ及び対照グループからのものより密度の高い細胞集団を有した(FIG. 13)。
【0033】
血管形成 血管形成は、双方の実験グループから収穫した足場の全ての範囲内で明らかであった(FIG. 14、15)。一般に、移植部位-p=0.011及びp=0.002、それぞれ、抜歯窩及び背側部位に関係なく、対照より試験グループ足場において観察される血管形成(血管/mm2)の程度がより大きかった(図16)。しかしながら、抜歯窩からの足場に観察される密度は、グループ-p=0.222とp=0.095、それぞれ、試験グループと対照グループの間のその統計的な意味のなさにもかかわらず見たところは全体的により大きかった(図16)。
背側移植部位の血管直径(μm)は、抜歯窩-p=0.028とp=0.022、それぞれ、試験グループと対照グループより大きかった(図18)。しかしながら、実験グループ-p=0.426とp=0.732、それぞれ、抜歯窩と背側部位の統計的な差異はなかった(図18)。スライドの代表的な写真から、血管直径が抜歯窩からより背側部位から収穫した足場において非常に大きく見えることがわかった(図17A、図17B)。図18に示されるように、背側足場の中で、対照グループの中の血管直径の見かけの平均値がより大きいが、差異は統計的有意性(p=0.732)に達しなかった。
【0034】
鉱質化 鉱質化領域は、試験グループ足場のみに観察された(図19、図20)。試験グループ抜歯と試験グループ背側移植部位からの足場は、フォンコッサ(VK)スライドにおいて鉱質化の領域を示した。双方の移植部位において、鉱質化は、足場によく見られ、組織と足場の境界領域には見られなかった。
【0035】
考察
細胞移植は、培養拡張した又は修飾した組織前駆体、又は完全に形成された組織の移植又は注入を含む細胞ベースの治療の仮想方策である(Mooney 1996)。しかしながら、培養拡張成体細胞の治療的移植は、寿命の制限、遅い増殖、延長培養期間の間の細胞表現型の喪失を含む、いくつかの重要な障害を有する(Muschler et al. 2004)。したがって、細胞送達方法の技術的かつ経済的生存度は、特に実質的な生体外細胞操作を必要とするものについては疑問視された(Muschler et al. 2004)。近年、細胞ホーミングによって組織を再生するのに続いて、しばしば、生得的細胞の形態発生を組織化する関心が増大してきた(Stosich et al. 2007)。細胞ホーミングは、所定の解剖区画への内因性細胞の能動的補給として定義され、組織再生の研究中の方法を示す(Quesenberry 1998)。Schantzは、同様に、この方策を“細胞ホーミング”と称して、それを“サイトカイン充填足場の中に組織形成を誘導する未変性幹細胞の部位特異的ホーミング”として定義した(Schantz 2007)。多くの成体組織において、幹細胞ホーミング移動は、成熟細胞の進行中の交換及び損傷細胞の再生に重要である(Laird et al. 2008)。
本結果は、境界領域での密接な組織と足場の適応、続いてホスト細胞と血管の内殖の大規模(〜17 mm)足場への成功したホーミングに寄与したPCL-HAの層状堆積によって作成された(200μm径)相互接続したマイクロチャネルの内部構造(200μm径)を示している。SDF1とBMP-7を有する足場は、ホスト細胞侵入を促進させた。
骨髄微小環境においてストローマ細胞によって分泌されるストローマ細胞由来因子-1(SDF-1)は、その同族受容体、CXCケモカイン受容体4(CXCR4)を発現する前駆細胞の補給によって細胞ホーミングを促進させるのに基本的役割を果たす(Vandervelde 2005)。CXCR4+陽性細胞は、骨髄においてCD34+造血幹細胞(HSC)と間葉幹細胞(MSC)を含む(Brenner et al. 2004; Wynn et al. 2004; Honczarenko et al. 2006; Cheng et al. 2008)。これらの細胞が血管化と骨再生にとって重要であるので、我々は3D足場に取り入れられるSDF-1が局所細胞だけでなく造血幹細胞及びMSCも補給したと推測する。
【0036】
SDF1に加えて、BMP-7が足場とともに送達された。BMP-7が間葉細胞の骨芽細胞への形質転換において中心的な役割を果たすので、SDF1によって補給される幹細胞/前駆細胞のBMP-7仲介骨形成分化によって、我々の無細胞足場において観察される異所性又は同所性鉱質化が達成されたと推測される。しかしながら、結果は、双方の移植部位において、SDF1とBMP-7を有する足場に明らかな鉱質化がほとんどなくかつ一様でなかったことを示す。最適未満の骨形成は、BMP-7が急速に放出するためであり得るので、コラーゲンが急速に生体内で分解する。
興味深いことに、豊富な血液及び骨髄細胞にもかかわらず、背側と比較して抜歯移植部位においてより鉱質化されない領域が観察された。これは、下顎中切歯の除去の後の抜歯窩の治癒がおそらく足場の移植のために遅れたという理由であり得る。長時間の手術時間もまた、術後の吸収をよりうけやすい紙のように薄い唇側壁につながり得る。歯と周囲組織の双方が極めて脆弱であるので、ラット下顎切歯の非外傷性摘出手順が極めて技術的に要求が多いことが知られている。小ラット下顎の処理も同様に、さらに手順を複雑にする。
組織学的評価は、この研究において、歯槽の多くがこれらの唇側骨口蓋を失ったことを確認する。これは、残りの唇側壁の極度の薄さによるものであり得る。唇側の吸収と同時歯槽リモデリングのこのプロセスの間に、骨破壊活性を増加することができるという可能性を我々は提起する。ラット臼歯抜歯窩の治癒プロセスが3相: 初期相(1-5日間)、その間に凝血の器質化が完了し、歯槽が上皮によって部分的に覆われる; 骨形成相(5-20日間); 及び若い骨が成熟し、歯槽堤が再構築される骨リモデリング相(20-60日間)に分けられることが以前に確認されている(Pietrokovski 1967)。組織形態計測学的分析は、無歯下顎が摘出後112日まで高さと幅の双方の縮小の結果として著しい寸法の縮小を受けることを示した(Elsubeihi 2004)。収穫手順が移植9週目に行われるという事実を考慮すると、リモデリング及び収縮が収穫時に活発に行われることは可能であり得る。
まとめると、本所見は、生体内ラットのモデルにおいて、血管形成と血管化が同時のPCL-HA足場に生得的細胞が移動するために誘導され得ることを証明した。本実験から、対照グループの足場よりSDF1とBMP-7で含浸したPCL-HA足場において誇張された細胞侵入と血管形成が強調された。皮下背側部位と比較してより大きな程度の細胞内殖と血管形成が抜歯窩部位において示された。これらの所見から、抜歯窩部位においてSDF1とBMP-7で含浸した足場が最大の増殖可能性を示すことが確認された。したがって、SDF1とBMP-7の存在下抜歯窩に観察される豊富な細胞密度と血管密度を示すことによって、細胞ホーミング技術を用いた歯の同所性再生への可能性が示された。
【0037】
実施例2: 走化性による再生; 歯槽幹細胞/前駆細胞のPDGF誘導補給
幹細胞/前駆細胞を多くの組織から分離した。骨髄は、造血幹細胞(HSC)及び間葉幹細胞/ストローマ細胞(MSC)双方を含む幹細胞/前駆細胞の豊富な供給源の1つとして知られている。線維芽細胞のようなMSCが1970年代に長骨の骨髄において最初に発見されたが、顔の歯槽骨骨髄が、おそらく少なくとも骨形成分化に対する潜在能が大きい、長骨MSCに類似の細胞を含有することが後にわかった。中胚葉由来四肢MSCの胚起原が異なる歯槽MSCが神経冠細胞/間葉細胞に由来するので、本実施例はMSCの走化性による組織再生のための新規なモデルを追究した。歯髄は、歯の唯一の軟組織であり、器官として歯のホメオスターシスを維持する。根管治療は、生存可能な歯髄組織が摘除されるとともに生体不活性熱可塑性材料と置き換えられる最も一般の歯科治療の1つである。ポスト根管歯は、生物学的生存度が奪われ、それ故、再感染、破折及び心的外傷に影響されやすい。歯髄が歯槽骨髄に結合するので、本発明者らは歯槽MSCが歯髄組織を再生するために補給され得ると考えた。
医学的に必要な抜歯を受けた複数の健康な患者から小歯槽骨試料を入手した。単核細胞と接着細胞がわずかに培養拡張した。初期継代MSC(p3)を最初にふるいにかけ、免疫細胞化学及びフローサイトメトリーによってStro-1、CD105、CD73、CD44及びCD90、しかし、CD34に対しては負に発現することがわかった。歯槽MSCは、それぞれ化学的に定義された培養液中で骨形成、脂肪生成、軟骨形成及び筋原性の細胞に分化した。歯槽MSCの移動は、複数のサイトカイン及び成長因子の影響を受けているトランスウェル挿入システムで実験した。
50ng/mlのPDGFββは、複数の時点で細胞移動を精巧にするのに最も有意であった。受容体発現を確認した。
同時に、これらの所見は、組織再生に対して内因性及び/又は移植された幹細胞/前駆細胞の補給を誘導することを証明している。
【0038】
参考文献



















































上記を考慮して、本発明のいくつかの利点が達成されかつ他の利点も達成されることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無細胞の哺乳類歯形状の足場であって、走化性、骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、又はセメント質形成性である化合物を含む、前記足場。
【請求項2】
ヒト切歯、ヒト犬歯、ヒト小臼歯又はヒト大臼歯の形を有する、請求項1に記載の足場。
【請求項3】
ヒト大臼歯の形を有する、請求項1又は2に記載の足場。
【請求項4】
化合物が、血小板由来成長因子(PDGF)、内皮細胞成長因子(ECGF)、トランスフォーミング成長因子-β1(TGF-β1)、上皮成長因子(EGF)、肝細胞成長因子(HGF)、ストローマ細胞由来因子-1(SDF1)、骨形態形成タンパク質(BMP)、TGF-β、成長分化因子(GDF)、インスリン様成長因子-1(IGF1)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、象牙質基質タンパク質、象牙質シアロタンパク質、骨シアロタンパク質、アメロゲニン、又はインテグリンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の足場。
【請求項5】
化合物が、SDF1である、請求項3に記載の足場。
【請求項6】
化合物が、BMPである、請求項3に記載の足場。
【請求項7】
BMPが、BMP-7である、請求項6に記載の足場。
【請求項8】
走化性成長因子及び骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、又はセメント質形成性である成長因子を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の足場。
【請求項9】
走化性成長因子がSDF1であり、骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、又はセメント質形成性の成長因子がBMP-7である、請求項8に記載の足場。
【請求項10】
BMP-7が、足場中に約10ng/g〜1000μg/g 足場であり、SDF1が、足場中に約10ng/g〜1000μg/g 足場である、請求項9に記載の足場。
【請求項11】
BMP-7が、足場中に約100μg/g 足場であり、SDF1が、足場中に約100μg/g 足場である、請求項9に記載の足場。
【請求項12】
骨伝導性材料を含む組成物から作製される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の足場。
【請求項13】
骨伝導性材料が、ヒドロキシアパタイトである、請求項12に記載の足場。
【請求項14】
組成物が、ε-ポリカプロラクトンとヒドロキシアパタイトの混合物である、請求項12に記載の足場。
【請求項15】
混合物が、約80wt%のポリカプロラクトンと約20wt%のヒドロキシアパタイトである、請求項14に記載の足場。
【請求項16】
直径が50〜500μmのマイクロチャネルを備えている、請求項1〜15のいずれか1項に記載の足場。
【請求項17】
直径が約200μmのマイクロチャネルを備えている、請求項1〜16のいずれか1項の足場。
【請求項18】
化合物がマイクロチャネルの中にゲルで埋め込まれる、請求項16に記載の足場。
【請求項19】
ゲルが、コラーゲンゲルである、請求項18に記載の足場。
【請求項20】
非多孔性キャップをさらに備えている、請求項18に記載の足場。
【請求項21】
直径が約200μmのマイクロチャネル;
マイクロチャネルに約100ng/mlゲルの濃度のコラーゲンゲルで埋め込まれるBMP-7;
マイクロチャネルに約100ng/mlゲルの濃度のコラーゲンゲルで埋め込まれるSDF1; 及び
非多孔性キャップ
を備えている、請求項17に記載の足場。
【請求項22】
化合物が、徐放性製剤である、請求項1〜21のいずれか1項に記載の足場。
【請求項23】
哺乳類の口腔内で歯を置き換える方法であって、歯が欠損しかつ口腔内に欠損した歯の位置に歯槽が存在し、欠如歯の形を有する無細胞足場を歯槽に移植することを含む、前記方法。
【請求項24】
欠損した歯のモデルをコンピュータ支援設計(CAD)によって作成すること及び足場をバイオプロッタで合成することをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
欠損した歯がヒト口腔からの第一大臼歯であり、CTスキャンが第一大臼歯に類似するが口腔のもう一方の側の第二大臼歯でできており、CADが第二大臼歯のCTスキャンデータを用いて足場を設計する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
足場が、走化性、骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、又はセメント質形成性である化合物からなる、請求項23〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
化合物が、血小板由来成長因子(PDGF)、内皮細胞成長因子(ECGF)、トランスフォーミング成長因子-β1(TGF-β1)、上皮成長因子(EGF)、肝細胞成長因子(HGF)、ストローマ細胞由来因子-1(SDF1)、骨形態形成タンパク質(BMP)、TGF-β、成長分化因子(GDF)、インスリン様成長因子-1(IGF1)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、象牙質基質タンパク質、象牙質シアロタンパク質、骨シアロタンパク質、アメロゲニン、又はインテグリンである、請求項23〜26のいずれか1項に記載の足場。
【請求項28】
化合物が、SDF1である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
化合物が、BMPである、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
BMPが、BMP-7である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
足場が、骨伝導性材料を含む組成物から作製される、請求項23〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
骨伝導性材料が、ヒドロキシアパタイトである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
組成物が、ε-ポリカプロラクトンとヒドロキシアパタイトの混合物である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
混合物が、約80wt%のポリカプロラクトンと約20wt%のヒドロキシアパタイトである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
足場が、約50〜約500μmの直径を有するマイクロチャネルを備えている、請求項23〜34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
足場が、約200μmの直径を有するマイクロチャネルを備えている、請求項23〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
化合物が、マイクロチャネルにコラーゲンゲルで埋め込まれる、請求項23〜36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
化合物が、約100ng/mlゲルの濃度のSDF1であり、ゲルが、さらに、約100ng/mlゲルの濃度のBMP-7を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
足場が、非多孔性キャップを備えている、請求項23〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
歯の足場の作成方法であって、無細胞足場を哺乳類の歯の形で合成すること及び走化性、骨形成性、象牙質形成性、エナメル質形成性、又はセメント質形成性である少なくとも1つの化合物を添加することを含む、前記方法。
【請求項41】
哺乳類において欠損した歯のように歯が成形され、欠損した歯のモデルをコンピュータ支援設計(CAD)によって作成すること、及び足場をバイオプロッタで合成することをさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
欠損した歯がヒト口腔からの第一大臼歯であり、CTスキャンが第一大臼歯に類似するが口腔のもう一方の側の第二大臼歯でできており、CADが第二大臼歯のCTスキャンデータを用いて足場を設計する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
化合物が、血小板由来成長因子(PDGF)、内皮細胞成長因子(ECGF)、トランスフォーミング成長因子-β1(TGF-β1)、上皮成長因子(EGF)、肝細胞成長因子(HGF)、ストローマ細胞由来因子-1(SDF1)、骨形態形成タンパク質(BMP)、TGF-β、成長分化因子(GDF)、インスリン様成長因子-1(IGF1)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、象牙質基質タンパク質、象牙質シアロタンパク質、骨シアロタンパク質、アメロゲニン、又はインテグリンである、請求項40〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
化合物が、SDF1である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
化合物が、BMPである、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
BMPが、BMP-7である、請求項45に記載の足場。
【請求項47】
足場が、骨伝導性材料を含む組成物から作製される、請求項40〜46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
骨伝導性材料が、ヒドロキシアパタイトである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
組成物が、ε-ポリカプロラクトンとヒドロキシアパタイトの混合物である、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
足場が、50〜500μmの直径を有するマイクロチャネルを備えている、請求項40〜49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
足場が、非多孔性キャップをさらに備えている、請求項40〜50のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20A】
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【図20B】
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【公表番号】特表2012−530548(P2012−530548A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516308(P2012−516308)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/039035
【国際公開番号】WO2010/148229
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PHOTOSHOP
【出願人】(506118526)ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニヴァーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク (25)
【Fターム(参考)】