説明

歯周病治療材

【課題】歯周組織の再生を速やかに促し、組織の再生に合わせて分解され、除去のための再手術を不要とする。
【解決手段】生分解性ポリマーからなる膜状に形成され、厚さ方向の一側に平均気孔径100〜500μmの大気孔2を備え、厚さ方向の他側に平均気孔径0.1〜5μmの小気孔4を備え、大気孔2と小気孔4とが相互に連通している歯周病治療材1を提供する。これにより、歯肉と歯槽骨とが区画され、再生した歯肉の歯槽骨側への侵入が防止されて歯槽骨の円滑な再生が促進され、歯槽骨側からの血液供給が大気孔2に連通する小気孔4を介して歯肉側に向けて行われることで、歯肉の再生促進が図られる。そして、生分解性ポリマーからなる歯周病治療材1が時間の経過とともに分解されて消失することで、治癒後に歯周病治療材1を除去する再手術を行わなくて済み、患者にかかる負担を軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病治療材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、歯周病で破壊、吸収された歯周組織を再生する方法として、GTR法が知られている。このGTR法は、歯槽骨と歯肉との間に生体親和性の高い膜材を配置することにより、歯槽骨より速く再生する歯肉が歯槽骨を覆ってしまうのを防いで、歯根が露出しないように歯槽骨を再生させる方法である。
【0003】
このGTR法に使用される膜材としては、ミリポアフィルタやポリ4フッ化エチレン膜などの膜材や、生体吸収性の高いポリ乳酸やポリグリコール酸、あるいはコラーゲンから構成された膜材が使用されている(例えば、特許文献1〜5参照。)。
また、ポリフッ化ビニリデンやフッ化ビニリデンを主成分とする共重合体を用い、平均粒径0.1〜5μmの連通孔を有する骨誘導膜は知られている(例えば、特許文献6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−49692号公報
【特許文献2】特開平6−38992号公報
【特許文献3】特開平7−265337号公報
【特許文献4】特開2002−85547号公報
【特許文献5】特開2005−278909号公報
【特許文献6】特開平7−498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜特許文献5の材料により構成された膜材は、歯肉の浸入を防ぐと同時に歯槽骨側から歯肉への血液供給を遮断してしまうため、歯肉の再生速度が遅くなり、治癒されるまでに相当の時間を要し、患者にかかる負担が大きいという問題がある。
【0006】
また、特許文献6の材料により構成された膜材は、連通孔を介して血液供給がなされるために、歯肉の再生速度の問題は解決されるものの、歯槽骨の再生に関しては、この膜材によって確保されたスペース内において歯槽骨が自然に再生されていくのを待つしかない。このため、歯肉の再生については改善されるが、歯槽骨の再生については、やはり、治療期間が長期に及ぶため、患者にかかる負担が軽減されないという不都合がある。さらに、特許文献6の材料により構成された膜材は、生体非吸収性であるため、組織再生後に膜材を取り除く再手術が必要であり、患者にかかる負担は大きい。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、歯周組織の再生を速やかに促し、組織の再生に合わせて分解され、除去のための再手術を不要とする歯周病治療材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生分解性ポリマーからなる膜状に形成され、厚さ方向の一側に平均気孔径100〜500μmの大気孔を備え、厚さ方向の他側に平均気孔径0.1〜5μmの小気孔を備え、前記大気孔と前記小気孔とが相互に連通している歯周病治療材を提供する。
【0009】
本発明によれば、大気孔を有する側の表面を歯槽骨側に向け、小気孔を有する側の表面を歯肉側に向けて歯槽骨と歯肉との間に設置することにより、歯肉と歯槽骨とが区画され、歯肉は小気孔を通過できずに歯槽骨側に侵入することが防止される。また、歯槽骨側からの血液供給は、大気孔と、該大気孔に連通する小気孔を介して歯肉側に向けて行われる。これにより歯肉の再生促進が図られる。
【0010】
さらに、歯槽骨側には大気孔が配置されているので、大気孔内に骨形成細胞と毛細血管が侵入することにより骨形成作用が促進され、歯槽骨の早期再生が図られる。そして、生分解性ポリマーにより形成されているので、時間の経過とともに、すなわち、歯槽骨および歯肉の再生とともに分解されて消失する。これにより、治癒後に歯周病治療材を除去する再手術を行わなくて済み、患者にかかる負担を軽減することができる。
【0011】
上記発明においては、カルボキシメチル化セルロースにより構成されていることが好ましい。
また、上記発明においては、前記大気孔を有する第1の多孔質層と、前記小気孔を有する第2の多孔質層とを厚さ方向に積層してなることとしてもよい。
【0012】
また、上記発明においては、厚さ方向に沿って前記大気孔から前記小気孔まで平均気孔径が徐々に変化することとしてもよい。
また、上記発明においては、前記大気孔を有する多孔質層の一表面に、前記小気孔を有するフィルムを貼り付けてなることとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、歯周組織の再生を速やかに促し、組織の再生に合わせて分解され、除去のための再手術を不要とすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る歯周病治療材の縦断面の写真を示す図である。
【図2】図1の歯周病治療材を歯周病の発生した部位に適用した状態を示す縦断面図である。
【図3】図1の歯周病治療材の変形例における縦断面の写真を示す図である。
【図4】図1の歯周病治療材の他の変形例における縦断面の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る歯周病治療材1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る歯周病治療材1は、生分解性ポリマー、例えば、カルボキシメチル化セルロースにより膜状に構成されている。
【0016】
この歯周病治療材1は、図1に示されるように、3層構造を有しており、厚さ方向の一面側に最も大きな平均気孔径の大気孔2を有する第1の多孔質層3と、厚さ方向の他面側に最も小さな平均気孔径の小気孔4を有する第2の多孔質層5と、厚さ方向の中央に中間の大きさの平均気孔径の中気孔6を有する第3の多孔質層7とを厚さ方向に積層状態に備えた多層構造に形成されている。
【0017】
第1の多孔質層3の大気孔2は、平均気孔径略100〜500μmであり、歯周病治療材1の厚さ方向の一面側に開放されている。この大気孔2内には、骨形成細胞が侵入し易く、また、毛細血管も侵入し易くなっている。歯槽骨A(図2参照。)側から骨形成細胞および毛細血管が侵入することで、骨毛生細胞による骨形成作用が促進され、歯槽骨Aが早期に再生されるようになっている。
【0018】
第2の多孔質層5の小気孔4は、平均気孔径略0.5〜1μmであり、歯周病治療材1の厚さ方向の他面側に開放されている。この小気孔4内は、歯肉細胞が侵入するには平均気孔径が小さ過ぎるため、再生してきた歯肉Bが歯槽骨A側に侵入してくることを防止することができる。一方、この小気孔の平均気孔径であれば、血液は通すことができるようになっている。
【0019】
そして、本実施形態に係る歯周病治療材1によれば、第1〜第3多孔質層3,5,7の各気孔2,4,6が相互に連通し、厚さ方向に貫通している。これにより、血液が歯槽骨A側から歯肉B側へと歯周病治療材1を厚さ方向に貫通して供給されようになっている。
【0020】
このような歯周病治療材1は、例えば、以下の方法によって製造することができる。
(1)生分解性ポリマーを良溶媒および該良溶媒と混和し得る貧溶媒の混合物に溶解し、基板上に一定の厚さにキャストした後、適当な温度、湿度条件下において溶媒を除去する乾式法。
(2)生分解ポリマーを良溶媒に溶解し、基板上に一定の厚さの膜状にキャストした後、貧溶媒で凝固させる湿式法。
(3)生分解性ポリマーを適当な溶媒に溶解した後、凍結乾燥する方法。
(4)生分解性ポリマーを適当な溶媒に溶解した溶液中に溶出可能な物質を混入したものを基板上に一定の厚さでキャストした後に、上記物質を溶出する方法。
ここで、溶出可能な物質は例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムあるいは硝酸ナトリウム等の金属塩であり、水に浸漬することにより溶出する。
(5)生分解性ポリマーを適当な溶媒に溶解したものを基板上に一定の厚さでキャストした後に、熱あるいはレーザ等によって穿孔する方法。
【0021】
このように構成された本実施形態に係る歯周病治療材1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る歯周病治療材1を用いて歯周病の発生部位の治療を行うには、歯槽骨A側に第1の多孔質層3を向け、歯肉B側に第2の多孔質層5を向けて、歯槽骨Aと歯肉Bとの間を区画するように配置する。
【0022】
これにより、歯槽骨Aが歯肉Bから隔離される。歯肉B側に向かっている第2の多孔質層5には、平均気孔径略0.5〜1μmの小気孔4が備えられ、当該小気孔4内には歯肉細胞は侵入できないので、歯肉Bが再生しても、歯槽骨A側に侵入して来ることが防止される。したがって、歯槽骨Aの再生が再生されてきた歯肉Bによって阻害されることを防止することができる。
【0023】
歯槽骨Aは、本実施形態に係る歯周病治療材1によって歯肉Bから区画されたスペース内において再生する。その結果、再生後に歯根Cが露出してしまう不都合の発生を防止することができる。
【0024】
また、その際に、歯槽骨Aは、該歯槽骨A側に向いた歯周病治療材1の第1の多孔質層3の大気孔2内に骨形成細胞および毛細血管を侵入させることができる。したがって、歯槽骨Aは歯周病治療材1の第1の多孔質層3を足場として成長が促進され、早期に再生することができる。
【0025】
さらに、本実施形態に係る歯周病治療材1によれば、第1の多孔質層3の大気孔2と第2の多孔質層5の小気孔4とが、第3の多孔質層7の中気孔6を介して相互に連通し、厚さ方向に貫通しているので、歯槽骨A側から気孔2,6,4を通して血液を歯肉B側に供給することができる。これにより、歯肉Bの再生が円滑に行われる。
【0026】
そして、本実施形態に係る歯周病治療材1は、生分解性ポリマーであるカルボキシメチル化セルロースにより構成されているので、時間の経過とともに分解されて消失していく。したがって、本実施形態に係る歯周病治療材1によれば、歯肉Bおよび歯槽骨Aの再生の円滑な再生を促すので早期に歯周病を治癒させることができ、患者にかかる負担を軽減することができる。また、歯肉Bや歯槽骨Aの再生に伴って歯周病治療材1が分解されて消失していくので、歯周病が治癒された後に、歯周病治療材1を取り除くための再手術を行う必要がなく、これによっても、患者にかかる負担を軽減することができるという利点がある。
【0027】
なお、本実施形態においては、3つの多孔質層3,5,7を積層状態としたものを例示したが、これに代えて、第3の多孔質層7を有しない2層構造の歯周病治療材1を採用してもよいし、4層以上の多層構造の歯周病治療材1を採用してもよい。
また、多層構造に代えて、図3に示されるように、大気孔2から小気孔4まで厚さ方向に連続的に平均気孔径が変化する歯周病治療材1’採用してもよい。
【0028】
また、図4に示されるように、厚さ方向の大部分を大気孔2を有する第1の多孔質層3により構成し、その一表面に小気孔4を有する第2の多孔質層を構成するフィルム5’を貼り付けた形態の歯周病治療材1’’を採用してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1,1’,1’’歯周病治療材
2 大気孔
3 第1の多孔質層
4 小気孔
5 第2の多孔質層
5’ フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリマーからなる膜状に形成され、
厚さ方向の一側に平均気孔径100〜500μmの大気孔を備え、
厚さ方向の他側に平均気孔径0.1〜5μmの小気孔を備え、
前記大気孔と前記小気孔とが相互に連通している歯周病治療材。
【請求項2】
カルボキシメチル化セルロースにより構成されている請求項1に記載の歯周病治療材。
【請求項3】
前記大気孔を有する第1の多孔質層と、前記小気孔を有する第2の多孔質層とを厚さ方向に積層してなる請求項1に記載の歯周病治療材。
【請求項4】
厚さ方向に沿って前記大気孔から前記小気孔まで平均気孔径が徐々に変化する請求項1に記載の歯周病治療材。
【請求項5】
前記大気孔を有する多孔質層の一表面に、前記小気孔を有するフィルムを貼り付けてなる請求項1に記載の歯周病治療材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−284220(P2010−284220A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138587(P2009−138587)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】