歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラム
【課題】非侵襲で、インプラント全周囲の三次元的な骨吸収量を正確に評価可能とする。
【解決手段】歯科インプラント手術後のインプラントを含む患部周囲の3次元画像を入力する術後画像入力ステップS101と、インプラントを含む患部周囲の任意時間経過後の3次元画像を入力する診断対象画像入力ステップS102と、インプラントを含む患部周囲の3次元画像に対し、インプラント軸を基準とした所定空間中のインプラント埋設に係る骨体積を算出する体積算出ステップS104〜S110と、術後画像入力ステップS101及び診断対象画像入力ステップS102で入力した3次元画像それぞれに対して体積算出ステップS104〜S110で体積を算出させ、算出された2つの体積から骨吸収量を算出する骨吸収量算出ステップS113,S114とをコンピュータに実行させる。
【解決手段】歯科インプラント手術後のインプラントを含む患部周囲の3次元画像を入力する術後画像入力ステップS101と、インプラントを含む患部周囲の任意時間経過後の3次元画像を入力する診断対象画像入力ステップS102と、インプラントを含む患部周囲の3次元画像に対し、インプラント軸を基準とした所定空間中のインプラント埋設に係る骨体積を算出する体積算出ステップS104〜S110と、術後画像入力ステップS101及び診断対象画像入力ステップS102で入力した3次元画像それぞれに対して体積算出ステップS104〜S110で体積を算出させ、算出された2つの体積から骨吸収量を算出する骨吸収量算出ステップS113,S114とをコンピュータに実行させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
1998年にトロント会議でコンセンサスがとられた歯科インプラントの成功の基準の一つに、機能開始一年以降の経年的な一年ごとの垂直的骨吸収は平均0.2[mm]以下である、という項目がある。
【0003】
歯科インプラント埋入時の処置が正しくなされていない場合、数年が経過するとインプラント体に接する歯槽骨に骨吸収が発生し、インプラントを把持することが困難となる。そのため、インプラント体に接する歯槽骨の垂直的骨吸収量を経過年数に従って確認することは予防処置として重要である。この種の技術に関し、各種提案がなされている。(例えば、非特許文献1及び非特許文献2)
現行の垂直的骨吸収の計測方法はX線透視画像による二次元的な評価と、ポケットプローベによる侵襲を伴う計測のみである.
X線透視画像による二次元的な垂直的骨吸収の算出方法は、以下のような手法で行なわれている。
【0004】
まず、同一条件で撮影された術後の二次元X線透視画像と数年経過後の二次元X線透視画像を用意する。画像上で、インプラントの頂上部すなわちアバットメントとの連結部分からインプラント体側面に沿って下方に垂線を引き、骨の存在する位置までの距離を求める。この距離を術後と数年経過後とで比較することで、インプラント体に接している歯槽骨の減少距離を測定している。
【0005】
年間垂直的骨吸収が0.2[mm]以下という基準を満たしていれば、インプラント体は上記トロント会議における成功基準を満たし、健康状態を維持していると判断される。なお、ある計測方法を用いた骨量の有無のチェック手法は、同一の患者に対して同じ手法が一貫して適用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"Comparison of Cone-Beam Imaging with Orthopantomography and Computerized Tomography for Assesment in Presurgical Implant Dentistry" Timo Dreseidler et al, P.216-P.225, The International Journal of Oral & Maxillofacial Implants, Volume 24, Number 2, 2009.
【非特許文献2】"Immediate and early loading of Straumann implants with a chemically modified surfice (SLActive) in the posterior mandible and maxilla: 1-year results from aprospective multicenter study" Jeffrey Ganeles et al, P.1119-P.1128, Clin. Oral Impl. Res. 19, 2008, The Authors. Journal compilation.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記前者の二次元X線透視画法は、計測範囲が部分的であり、正確性を欠いている。また上記後者のポケットプローベによる検査法は、全周を計測できるが、インプラント体を傷つけて細菌感染を惹起する虞がある。
【0008】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、非侵襲で、且つインプラント全周囲の三次元的な骨吸収量を正確に評価することが可能な歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、歯科インプラント手術後のインプラントを含む患部周囲の3次元画像を入力する術後画像入力ステップと、上記術後画像入力ステップで入力したインプラントを含む患部周囲の任意時間経過後の3次元画像を入力する診断対象画像入力ステップと、インプラントを含む患部周囲の3次元画像に対し、インプラント軸を基準とした所定空間中のインプラント埋設に係る骨体積を算出する体積算出ステップと、上記術後画像入力ステップ及び上記診断対象画像入力ステップで入力した各3次元画像それぞれに対して上記体積算出ステップで体積を算出させ、算出された2つの体積から骨吸収量を算出する骨吸収量算出ステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非侵襲で、且つインプラント全周囲の三次元的な骨吸収量を正確に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラムをインストールしたパーソナルコンピュータのハードウェア構成を示すブロック図。
【図2】同実施形態に係る骨吸収量計測プログラムの処理内容を示すフローチャート。
【図3】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図4】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図5】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図6】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図7】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図8】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図9】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図10】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラムをインストールしたパーソナルコンピュータ(以下「PC」)10のハードウェア構成を示す。各種処理制御を司るCPU11とフロントサイドバスFSBを介してノースブリッジ12が接続される。
【0013】
このノースブリッジ12は、さらにメモリバスMBを介してメインメモリ13と、またグラフィクスインタフェースAGPを介してグラフィックコントローラ14及びグラフィックメモリ15と接続される他、サウスブリッジ16とも接続され、主としてこれらの間での入出力制御を実行する。
【0014】
サウスブリッジ16は、PCI−Expressバス17、キーボード/マウス18、ビデオエンコーダ19、ハードディスク装置(HDD)20、ネットワークインタフェース(I/F)21、及びマルチディスクドライブ22と接続され、主としてこれら周辺回路とノースブリッジ12との間の入出力制御を行なう。
【0015】
上記ハードディスク装置20内に、OS(オペレーティングシステム)と各種のアプリケーションプログラム、各種のデータファイル等に加えて、歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラム等が予めインストールされているものとする。
【0016】
なお、上記ビデオエンコーダ19は、与えられたデジタル値の画像信号からアナログ値の画像信号であるRGBビデオ信号を生成して出力し、ここでは図示しないディスプレイ部に送ることで、画像が表示される。
【0017】
また、上記マルチディスクドライブ22は、例えばCD(Compact Disc)規格、DVD(Digital Versatile Disc)規格に則った光ディスク媒体の再生と記録が可能であり、後述するヘリカル型X線CT装置、コーンビーム型X線CT装置で取得した断層写真等を記録した光ディスク媒体を再生して読出すことで、患者の口蓋の断層3次元形状データを入力してハードディスク装置20に記録可能とする。
【0018】
なお、これらPC10を構成する個々の要素は、きわめて一般的な周知の技術であるのでその説明は省略するものとする。
【0019】
次に上記実施形態の動作について説明する。
本プログラムの実行の前準備として、予めインプラント埋入手術を行なった患部のX線CT画像の撮影を行なう。撮影はヘリカル型X線CT装置、あるいはコーンビーム型X線CT装置にて行なう。
【0020】
例えば、スライス間隔が0.125[mm]でピクセルスケールが0.125[mm]である場合、1ピクセルあたりの誤差は0.001953125[mm3]となる。
【0021】
一方で、骨吸収が発生する程度の期間、例えば1年を経て、再度同条件にてヘリカル型X線CT装置、あるいはコーンビーム型X線CT装置にて患部の撮影を行なう。
【0022】
本実施形態のPC10では、上記術後の患部画像、及び診断対象とする期間経過後の患部画像の2次元断層写真の画像データがマルチディスクドライブ22あるいはハードディスク装置20に予め記憶されているものとする。
【0023】
本実施形態によるプログラム実行時には、まず上記術後と診断対象とする期間経過後の各画像データをマルチディスクドライブ22あるいはハードディスク装置20に記憶して随時読出し可能としておく(ステップS101,S102)。
【0024】
次いで、まず術後の患部画像を読出し(ステップS103)、それら2次元断層画像から3次元画像を構築した上で、そのSagittal面、及びCoronal面それぞれで画像中のインプラントの軸を設定する。
【0025】
図3(A)、図3(B)は、その際の画像を例示するもので、図中のインプラントの中心軸部をIAとする。当該軸IAを設定後、以後の画像を図4(A)、図4(B)に示すように上記インプラント軸IAを基準としたものに変更する(ステップS104)。
【0026】
次に、インプラントのサイズに合わせた仮想的な計測ソケットを選択し、インプラントの位置を基準として画像中に重畳所定表示させる(ステップS105)。
【0027】
図5(A)、図5(B)は当該ソケットSCを選択して表示させた状態を例示するものである。ここでは、図示する如く円柱状の直径10.0[mm]、深さ14.0[mm]のソケットSCを用いた例を示している。
【0028】
こうして選択したソケットSC内で、骨の輝度値に対応する三次元領域をカバーするマスクデータを作成する(ステップS106)。
図6はこのとき再生されるマスクデータをハッチングで示すものである。この状態では、まだ骨吸収とは直接関係ない部分で、骨の輝度値が低いためにマスクされていない部分が存在している。
【0029】
そのため、計測の誤差を軽減するために、骨吸収部とは直接関係のない部分、図7中のラインCLより下の部分に関しては、円柱状のソケットSCの内部における領域を骨が存在していない領域もすべて骨が存在しているものと仮想して図8に示すようにマスクで塗りつぶす(ステップS107)。
【0030】
次いで、上記3次元画像を構成する個々の2次元断層(スライス)画像についても、本プログラムが予め有するマスク描画ツールを使ってマスクの補正を行なう(ステップS108)。すなわち、上述した方法によってマスクを作成するが、コーンビーム型X線CT装置を使って得た画像データの場合には、輝度の揺らぎがあり、本来は骨である部分にマスクがかからない部分が発生する可能性がある。そのため、最終的にはユーザが上記キーボード/マウス18を用いて手作業によるオペレートでそのような不完全な部分の修正処理を行なう。
【0031】
図9中の円部CAで囲まれている小さな箇所は、本来は骨であるにも関わらず、輝度が低いために骨とは認識されず、マスクがかかっていない。そのため、図10に示すように本プログラムのマスク描画ツールを使って塗りつぶしを行なう。この処理は3次元画像を構成する個々の2次元画像スライスすべてに対して行なう(ステップS109)。
【0032】
上記ステップS109で2次元画像すべてに対するマスク処理を終えたと判断すると、次いでピクセル・スケールとスライス・ピッチとから1ピクセル当たりのボクセルサイズを求め、マスク部分の体積を算出する(ステップS110)。
【0033】
例えば、ピクセル・スケールが0.125[mm]、スライス・ピッチが0.125[mm]であった場合、1ボクセルの体積は
0.125×0.125×0.125=0.001953125(mm3)
となる。このボクセル体積を使って、上記ステップS106〜S109の固定で、ソケットSC内のマスクで塗りつぶされた領域のピクセル数分だけ積算することでマスク体積を算出することができる。
こうして算出したマスク部分は、術後のインプラントに対するものとして保持しておく。
【0034】
次いで、上記マスク部分の体積計算が診断対象となる期間経過後の患部画像に対するものではないことを確認すると(ステップS111)、あらためて診断対象とする期間経過後の患部画像を読出した上で(ステップS112)、同様にマスク体積を算出するべく、上記ステップS104からの処理を再度実行する。
【0035】
そして、期間経過後の患部画像からもマスク体積を算出すると、上記ステップS111でそれを確認し、続いて術後と期間経過後それぞれに算出したマスク体積から、骨吸収量を算出する(ステップS113)。
【0036】
現在、骨吸収の体積に基準値はないため、二次元で計測した際の高さに換算する必要がある(ステップS114)。その換算の方法を以下に示す。
【0037】
例えば体積の差分が2.5[mm3]であった場合、骨吸収による高さの低下は、例えば
2.5(mm3) / (52 (mm) - 2.12 (mm))π = 0.00722(mm)
(但し、5 (mm):円筒ソケットの半径、
2.1 (mm):インプラント体の半径。)
のような計算で求めることができる。
【0038】
上記計算によれば、インプラント体の周囲2.9[mm]のドーナツ状の歯槽骨において、平均0.00722[mm]だけ垂直的骨吸収が生じたことになる。
【0039】
上記の例では、得られた垂直的骨吸収の値が、現在指標となっている年間垂直的骨吸収である0.2[mm]と比較しても充分に小さいものである。そのため歯科医師は、上記のように算出された結果を参照して、適切にインプラントが埋入されていたことが判断できる。
【0040】
以上詳述した如く本実施形態によれば、X線CT装置で得た画像データを基としているために非侵襲で、且つインプラントの全周囲にわたる三次元的な骨吸収量の評価が可能である。すなわち、該画像中の顎骨に埋入したインプラント体自体の形状変化がないことを利用し、インプラントの位置を基準として、その周囲の一定の三次元的空間領域における骨体積を計測することで、きわめて正確に骨吸収量を算出することができる。
【0041】
なお、上記実施形態では、計側ソケットの直径、及び深さの設定を任意に変更し、インプラント体周囲の歯槽骨の測定領域を自由に設定することが可能である。
【0042】
その場合、計測ソケットの中心には、インプラント体の各メーカにより提供される、インプラントシンボル(そのインプラントの形状、体積に押した画像データ)を配置することで、本プログラム上でのソケットとの重ね合わせを容易にすることができる。
【0043】
なお、参考までに、各種歯科X線診断機器における被曝量(単位は[μSv(マイクロシーベルト)]を列記しておくと、
一年間に自然界で被爆するX線量 :2400[μSv]
医科用X線CT装置で顎骨撮影時 :200〜500[μSv]
CBCT(歯科用コーンビーム型X線CT装置)で
80[mm]×80[mm]の範囲撮影時:100[μSv]未満
胸部X線撮影 : 50[μSv]
パノラマX線写真 : 40[μSv]
デンタルX線写真 : 15[μSv]
デジタルパノラマX線写真 : 3〜9[μSv]
デジタルデンタルX線写真 : 8[μSv]
であり、
CBCT(歯科用コーンビーム型X線CT装置)で
40[mm]×40[mm]の範囲撮影時:11[μSv]※1
:31〜50[μSv]※2
(※1:Provisional guidelines 2009、
※2:T Okano Dentomaxillofacial Radiology (2009) 38, 79−85 )
となる。
【0044】
したがって、3次元歯科用X線CT装置(モリタ社製:3DX MULTI−IMAGE MICRO CT)の40[mm]×40[mm]の範囲でのCT撮影におけるX線被曝量は、従来の二次元X線透視画法に用いられるデジタルレントゲン撮影時の被曝量の三倍程度なので、得られる情報量の多さを評価すると、医療倫理的にもなんら問題がないものと考えられる。
【0045】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上述した実施形態で実行される機能は可能な限り適宜組み合わせて実施しても良い。上述した実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件による適宜の組み合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、効果が得られるのであれば、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0046】
10…パーソナルコンピュータ(PC)、11…CPU、12…ノースブリッジ、13…メインメモリ、14…グラフィックコントローラ、15…グラフィックメモリ、16…サウスブリッジ、17…PCI−Expressバス、18…キーボード/マウス、19…ビデオエンコーダ、20…ハードディスク装置(HDD)、21…ネットワークインタフェース、22…マルチディスクドライブ、AGP…グラフィクスインタフェース、FSB…フロントサイドバス、MB…メモリバス。
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
1998年にトロント会議でコンセンサスがとられた歯科インプラントの成功の基準の一つに、機能開始一年以降の経年的な一年ごとの垂直的骨吸収は平均0.2[mm]以下である、という項目がある。
【0003】
歯科インプラント埋入時の処置が正しくなされていない場合、数年が経過するとインプラント体に接する歯槽骨に骨吸収が発生し、インプラントを把持することが困難となる。そのため、インプラント体に接する歯槽骨の垂直的骨吸収量を経過年数に従って確認することは予防処置として重要である。この種の技術に関し、各種提案がなされている。(例えば、非特許文献1及び非特許文献2)
現行の垂直的骨吸収の計測方法はX線透視画像による二次元的な評価と、ポケットプローベによる侵襲を伴う計測のみである.
X線透視画像による二次元的な垂直的骨吸収の算出方法は、以下のような手法で行なわれている。
【0004】
まず、同一条件で撮影された術後の二次元X線透視画像と数年経過後の二次元X線透視画像を用意する。画像上で、インプラントの頂上部すなわちアバットメントとの連結部分からインプラント体側面に沿って下方に垂線を引き、骨の存在する位置までの距離を求める。この距離を術後と数年経過後とで比較することで、インプラント体に接している歯槽骨の減少距離を測定している。
【0005】
年間垂直的骨吸収が0.2[mm]以下という基準を満たしていれば、インプラント体は上記トロント会議における成功基準を満たし、健康状態を維持していると判断される。なお、ある計測方法を用いた骨量の有無のチェック手法は、同一の患者に対して同じ手法が一貫して適用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"Comparison of Cone-Beam Imaging with Orthopantomography and Computerized Tomography for Assesment in Presurgical Implant Dentistry" Timo Dreseidler et al, P.216-P.225, The International Journal of Oral & Maxillofacial Implants, Volume 24, Number 2, 2009.
【非特許文献2】"Immediate and early loading of Straumann implants with a chemically modified surfice (SLActive) in the posterior mandible and maxilla: 1-year results from aprospective multicenter study" Jeffrey Ganeles et al, P.1119-P.1128, Clin. Oral Impl. Res. 19, 2008, The Authors. Journal compilation.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記前者の二次元X線透視画法は、計測範囲が部分的であり、正確性を欠いている。また上記後者のポケットプローベによる検査法は、全周を計測できるが、インプラント体を傷つけて細菌感染を惹起する虞がある。
【0008】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、非侵襲で、且つインプラント全周囲の三次元的な骨吸収量を正確に評価することが可能な歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、歯科インプラント手術後のインプラントを含む患部周囲の3次元画像を入力する術後画像入力ステップと、上記術後画像入力ステップで入力したインプラントを含む患部周囲の任意時間経過後の3次元画像を入力する診断対象画像入力ステップと、インプラントを含む患部周囲の3次元画像に対し、インプラント軸を基準とした所定空間中のインプラント埋設に係る骨体積を算出する体積算出ステップと、上記術後画像入力ステップ及び上記診断対象画像入力ステップで入力した各3次元画像それぞれに対して上記体積算出ステップで体積を算出させ、算出された2つの体積から骨吸収量を算出する骨吸収量算出ステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非侵襲で、且つインプラント全周囲の三次元的な骨吸収量を正確に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラムをインストールしたパーソナルコンピュータのハードウェア構成を示すブロック図。
【図2】同実施形態に係る骨吸収量計測プログラムの処理内容を示すフローチャート。
【図3】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図4】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図5】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図6】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図7】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図8】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図9】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【図10】同実施形態に係るインプラントを含む周辺の断層画像を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラムをインストールしたパーソナルコンピュータ(以下「PC」)10のハードウェア構成を示す。各種処理制御を司るCPU11とフロントサイドバスFSBを介してノースブリッジ12が接続される。
【0013】
このノースブリッジ12は、さらにメモリバスMBを介してメインメモリ13と、またグラフィクスインタフェースAGPを介してグラフィックコントローラ14及びグラフィックメモリ15と接続される他、サウスブリッジ16とも接続され、主としてこれらの間での入出力制御を実行する。
【0014】
サウスブリッジ16は、PCI−Expressバス17、キーボード/マウス18、ビデオエンコーダ19、ハードディスク装置(HDD)20、ネットワークインタフェース(I/F)21、及びマルチディスクドライブ22と接続され、主としてこれら周辺回路とノースブリッジ12との間の入出力制御を行なう。
【0015】
上記ハードディスク装置20内に、OS(オペレーティングシステム)と各種のアプリケーションプログラム、各種のデータファイル等に加えて、歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラム等が予めインストールされているものとする。
【0016】
なお、上記ビデオエンコーダ19は、与えられたデジタル値の画像信号からアナログ値の画像信号であるRGBビデオ信号を生成して出力し、ここでは図示しないディスプレイ部に送ることで、画像が表示される。
【0017】
また、上記マルチディスクドライブ22は、例えばCD(Compact Disc)規格、DVD(Digital Versatile Disc)規格に則った光ディスク媒体の再生と記録が可能であり、後述するヘリカル型X線CT装置、コーンビーム型X線CT装置で取得した断層写真等を記録した光ディスク媒体を再生して読出すことで、患者の口蓋の断層3次元形状データを入力してハードディスク装置20に記録可能とする。
【0018】
なお、これらPC10を構成する個々の要素は、きわめて一般的な周知の技術であるのでその説明は省略するものとする。
【0019】
次に上記実施形態の動作について説明する。
本プログラムの実行の前準備として、予めインプラント埋入手術を行なった患部のX線CT画像の撮影を行なう。撮影はヘリカル型X線CT装置、あるいはコーンビーム型X線CT装置にて行なう。
【0020】
例えば、スライス間隔が0.125[mm]でピクセルスケールが0.125[mm]である場合、1ピクセルあたりの誤差は0.001953125[mm3]となる。
【0021】
一方で、骨吸収が発生する程度の期間、例えば1年を経て、再度同条件にてヘリカル型X線CT装置、あるいはコーンビーム型X線CT装置にて患部の撮影を行なう。
【0022】
本実施形態のPC10では、上記術後の患部画像、及び診断対象とする期間経過後の患部画像の2次元断層写真の画像データがマルチディスクドライブ22あるいはハードディスク装置20に予め記憶されているものとする。
【0023】
本実施形態によるプログラム実行時には、まず上記術後と診断対象とする期間経過後の各画像データをマルチディスクドライブ22あるいはハードディスク装置20に記憶して随時読出し可能としておく(ステップS101,S102)。
【0024】
次いで、まず術後の患部画像を読出し(ステップS103)、それら2次元断層画像から3次元画像を構築した上で、そのSagittal面、及びCoronal面それぞれで画像中のインプラントの軸を設定する。
【0025】
図3(A)、図3(B)は、その際の画像を例示するもので、図中のインプラントの中心軸部をIAとする。当該軸IAを設定後、以後の画像を図4(A)、図4(B)に示すように上記インプラント軸IAを基準としたものに変更する(ステップS104)。
【0026】
次に、インプラントのサイズに合わせた仮想的な計測ソケットを選択し、インプラントの位置を基準として画像中に重畳所定表示させる(ステップS105)。
【0027】
図5(A)、図5(B)は当該ソケットSCを選択して表示させた状態を例示するものである。ここでは、図示する如く円柱状の直径10.0[mm]、深さ14.0[mm]のソケットSCを用いた例を示している。
【0028】
こうして選択したソケットSC内で、骨の輝度値に対応する三次元領域をカバーするマスクデータを作成する(ステップS106)。
図6はこのとき再生されるマスクデータをハッチングで示すものである。この状態では、まだ骨吸収とは直接関係ない部分で、骨の輝度値が低いためにマスクされていない部分が存在している。
【0029】
そのため、計測の誤差を軽減するために、骨吸収部とは直接関係のない部分、図7中のラインCLより下の部分に関しては、円柱状のソケットSCの内部における領域を骨が存在していない領域もすべて骨が存在しているものと仮想して図8に示すようにマスクで塗りつぶす(ステップS107)。
【0030】
次いで、上記3次元画像を構成する個々の2次元断層(スライス)画像についても、本プログラムが予め有するマスク描画ツールを使ってマスクの補正を行なう(ステップS108)。すなわち、上述した方法によってマスクを作成するが、コーンビーム型X線CT装置を使って得た画像データの場合には、輝度の揺らぎがあり、本来は骨である部分にマスクがかからない部分が発生する可能性がある。そのため、最終的にはユーザが上記キーボード/マウス18を用いて手作業によるオペレートでそのような不完全な部分の修正処理を行なう。
【0031】
図9中の円部CAで囲まれている小さな箇所は、本来は骨であるにも関わらず、輝度が低いために骨とは認識されず、マスクがかかっていない。そのため、図10に示すように本プログラムのマスク描画ツールを使って塗りつぶしを行なう。この処理は3次元画像を構成する個々の2次元画像スライスすべてに対して行なう(ステップS109)。
【0032】
上記ステップS109で2次元画像すべてに対するマスク処理を終えたと判断すると、次いでピクセル・スケールとスライス・ピッチとから1ピクセル当たりのボクセルサイズを求め、マスク部分の体積を算出する(ステップS110)。
【0033】
例えば、ピクセル・スケールが0.125[mm]、スライス・ピッチが0.125[mm]であった場合、1ボクセルの体積は
0.125×0.125×0.125=0.001953125(mm3)
となる。このボクセル体積を使って、上記ステップS106〜S109の固定で、ソケットSC内のマスクで塗りつぶされた領域のピクセル数分だけ積算することでマスク体積を算出することができる。
こうして算出したマスク部分は、術後のインプラントに対するものとして保持しておく。
【0034】
次いで、上記マスク部分の体積計算が診断対象となる期間経過後の患部画像に対するものではないことを確認すると(ステップS111)、あらためて診断対象とする期間経過後の患部画像を読出した上で(ステップS112)、同様にマスク体積を算出するべく、上記ステップS104からの処理を再度実行する。
【0035】
そして、期間経過後の患部画像からもマスク体積を算出すると、上記ステップS111でそれを確認し、続いて術後と期間経過後それぞれに算出したマスク体積から、骨吸収量を算出する(ステップS113)。
【0036】
現在、骨吸収の体積に基準値はないため、二次元で計測した際の高さに換算する必要がある(ステップS114)。その換算の方法を以下に示す。
【0037】
例えば体積の差分が2.5[mm3]であった場合、骨吸収による高さの低下は、例えば
2.5(mm3) / (52 (mm) - 2.12 (mm))π = 0.00722(mm)
(但し、5 (mm):円筒ソケットの半径、
2.1 (mm):インプラント体の半径。)
のような計算で求めることができる。
【0038】
上記計算によれば、インプラント体の周囲2.9[mm]のドーナツ状の歯槽骨において、平均0.00722[mm]だけ垂直的骨吸収が生じたことになる。
【0039】
上記の例では、得られた垂直的骨吸収の値が、現在指標となっている年間垂直的骨吸収である0.2[mm]と比較しても充分に小さいものである。そのため歯科医師は、上記のように算出された結果を参照して、適切にインプラントが埋入されていたことが判断できる。
【0040】
以上詳述した如く本実施形態によれば、X線CT装置で得た画像データを基としているために非侵襲で、且つインプラントの全周囲にわたる三次元的な骨吸収量の評価が可能である。すなわち、該画像中の顎骨に埋入したインプラント体自体の形状変化がないことを利用し、インプラントの位置を基準として、その周囲の一定の三次元的空間領域における骨体積を計測することで、きわめて正確に骨吸収量を算出することができる。
【0041】
なお、上記実施形態では、計側ソケットの直径、及び深さの設定を任意に変更し、インプラント体周囲の歯槽骨の測定領域を自由に設定することが可能である。
【0042】
その場合、計測ソケットの中心には、インプラント体の各メーカにより提供される、インプラントシンボル(そのインプラントの形状、体積に押した画像データ)を配置することで、本プログラム上でのソケットとの重ね合わせを容易にすることができる。
【0043】
なお、参考までに、各種歯科X線診断機器における被曝量(単位は[μSv(マイクロシーベルト)]を列記しておくと、
一年間に自然界で被爆するX線量 :2400[μSv]
医科用X線CT装置で顎骨撮影時 :200〜500[μSv]
CBCT(歯科用コーンビーム型X線CT装置)で
80[mm]×80[mm]の範囲撮影時:100[μSv]未満
胸部X線撮影 : 50[μSv]
パノラマX線写真 : 40[μSv]
デンタルX線写真 : 15[μSv]
デジタルパノラマX線写真 : 3〜9[μSv]
デジタルデンタルX線写真 : 8[μSv]
であり、
CBCT(歯科用コーンビーム型X線CT装置)で
40[mm]×40[mm]の範囲撮影時:11[μSv]※1
:31〜50[μSv]※2
(※1:Provisional guidelines 2009、
※2:T Okano Dentomaxillofacial Radiology (2009) 38, 79−85 )
となる。
【0044】
したがって、3次元歯科用X線CT装置(モリタ社製:3DX MULTI−IMAGE MICRO CT)の40[mm]×40[mm]の範囲でのCT撮影におけるX線被曝量は、従来の二次元X線透視画法に用いられるデジタルレントゲン撮影時の被曝量の三倍程度なので、得られる情報量の多さを評価すると、医療倫理的にもなんら問題がないものと考えられる。
【0045】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上述した実施形態で実行される機能は可能な限り適宜組み合わせて実施しても良い。上述した実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件による適宜の組み合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、効果が得られるのであれば、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0046】
10…パーソナルコンピュータ(PC)、11…CPU、12…ノースブリッジ、13…メインメモリ、14…グラフィックコントローラ、15…グラフィックメモリ、16…サウスブリッジ、17…PCI−Expressバス、18…キーボード/マウス、19…ビデオエンコーダ、20…ハードディスク装置(HDD)、21…ネットワークインタフェース、22…マルチディスクドライブ、AGP…グラフィクスインタフェース、FSB…フロントサイドバス、MB…メモリバス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科インプラント手術後のインプラントを含む患部周囲の3次元画像を入力する術後画像入力ステップと、
上記術後画像入力ステップで入力したインプラントを含む患部周囲の任意時間経過後の3次元画像を入力する診断対象画像入力ステップと、
インプラントを含む患部周囲の3次元画像に対し、インプラント軸を基準とした所定空間中のインプラント埋設に係る骨体積を算出する体積算出ステップと、
上記術後画像入力ステップ及び上記診断対象画像入力ステップで入力した各3次元画像それぞれに対して上記体積算出ステップで体積を算出させ、算出された2つの体積から骨吸収量を算出する骨吸収量算出ステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とする歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラム。
【請求項2】
上記骨吸収量算出ステップで算出した骨吸収量を2次元画像で計測した高さ値に換算する高さ換算ステップをさらに具備したことを特徴とする請求項1記載の歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラム。
【請求項3】
上記術後画像入力ステップ及び診断対象画像入力ステップは、複数の2次元画像を積層した3次元画像を入力し、
上記3次元画像を構成する複数の2次元画像の個々に対してインプラント埋設に係る骨体積部分を補正する補正ステップをさらに具備し、
上記体積算出ステップは、上記補正ステップで補正後の3次元画像から骨体積を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラム。
【請求項1】
歯科インプラント手術後のインプラントを含む患部周囲の3次元画像を入力する術後画像入力ステップと、
上記術後画像入力ステップで入力したインプラントを含む患部周囲の任意時間経過後の3次元画像を入力する診断対象画像入力ステップと、
インプラントを含む患部周囲の3次元画像に対し、インプラント軸を基準とした所定空間中のインプラント埋設に係る骨体積を算出する体積算出ステップと、
上記術後画像入力ステップ及び上記診断対象画像入力ステップで入力した各3次元画像それぞれに対して上記体積算出ステップで体積を算出させ、算出された2つの体積から骨吸収量を算出する骨吸収量算出ステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とする歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラム。
【請求項2】
上記骨吸収量算出ステップで算出した骨吸収量を2次元画像で計測した高さ値に換算する高さ換算ステップをさらに具備したことを特徴とする請求項1記載の歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラム。
【請求項3】
上記術後画像入力ステップ及び診断対象画像入力ステップは、複数の2次元画像を積層した3次元画像を入力し、
上記3次元画像を構成する複数の2次元画像の個々に対してインプラント埋設に係る骨体積部分を補正する補正ステップをさらに具備し、
上記体積算出ステップは、上記補正ステップで補正後の3次元画像から骨体積を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の歯科インプラント手術後の骨吸収量計測プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−36597(P2011−36597A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189272(P2009−189272)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(501198855)株式会社 レキシー (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(501198855)株式会社 レキシー (6)
【Fターム(参考)】
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