説明

歯科治療用椅子

【課題】老人や身体具愚者などに優しく、かつ体形に合わせて各部の調整ができる歯科治療用椅子を提供する。
【解決手段】レッグレスト3の前折れ式とカンター式とを1台の歯科治療用椅子にて共用できるようにすることにより前折れ式による乗降の容易さ、カンター式による寝心地の良さの両者の特徴が得られる。更にバックレスト1の下端とコンターシート2の後端との間に生じる隙間を患者の体形などによって調整することにより寝心地をよくすると共にバックレスト1の後傾作動中に生じる頭ずれをなくし、また座面を前傾可能にし、かつレッグレスト3をコンターシート2の裏面側まで回動することにより乗降を容易にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老人や身体具愚者などに優しく、かつ体形に合わせて各部の調整ができる歯科治療用椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の歯科治療用椅子にはバックレストの後傾作動に連動してコンターシート及びレッグレストがチルトし、かつバックレスト、コンターシート及びレッグレストの全体が上下動する方式の椅子がある。そしてこれらの椅子は図8に示されるように、バックレスト1を後傾した際にバックレスト1の下端とコンターシート2の後端との間に大きな隙間Wができ、かつ上下方向に段差が生じるが、この隙間Wを調整することができないために患者の体形によってはこの隙間Wのために腰部が浮き上がった状態になり、リラックスした寝姿が得られなかった。また従来の歯科治療用椅子はレッグレストの前折れ式とカンター式とは別々の椅子にて構成されていた。この他に例えば特許文献1から特許文献6に示される発明が公知である。
【0003】
特許文献1の発明は、バックレストの後傾作動に連動してコンターシートがチルトする際にバックレストの下端に対してコンターシートの後端が下方にずれて隙間が生じることにより患者の体形によっては腰の部分に大きな負担がかかることを防止するためにコンターシートの後端をリフトアップできるように構成されたものである。
【0004】
特許文献2の発明は、バックレストを最大限の半分程度後傾させることによりコンターシートが連動して最大にチルトし、バックレストを最大限に後傾させることによりコンターシートが連動して最大より小さくチルトすることにより膝の位置を低くして患者を楽な診療姿勢にするものである。
【0005】
特許文献3の発明は、座部の前端縁を支軸にしてその後端側をバックレストと共にリフトアップすることにより座面を前傾して患者の起立を容易にするように構成されたものである。
【0006】
特許文献4の発明は、コンターシートの後端側をリフトアップして前傾することにより乗降を容易にし、かつ全体を後傾して診療姿勢にすることができるように構成されたものである。
【0007】
特許文献5の発明は、レッグレストが前折れ式で、かつレッグレストをコンターシートの裏面側まで回動できるように構成されたものである。
【0008】
特許文献6の発明は、コンターシートの後端縁を支軸として前端側を下げることにより老人や子供の椅子に対する乗降を容易にしたものである。
【0009】
しかしながら、前記特許文献1の場合は、コンターシートの後端をリフトアップするように構成されてはいるが、アクチュエータを用いてバックレストの後傾作動に連動してリフトアップする構成については記述されていない。
【0010】
特許文献2の場合は、バックレストの後傾作動に連動してコンターシートのチルト角度を自動的に調整して患者に楽な姿勢を保たせるものではあるが、バックレストの下端とコンターシートの後端との位置関係を調整することについては記載されていない。
【0011】
特許文献3から6の場合は、いずれもコンターシートの座面を前傾することについて記述されているが、アクチュエータを用いて前傾させることについては記述されていない。
又、上記文献のいずれにおいてもレッグレストの前折れ式と、前折れを任意に固定するカンター式の両者を1台の椅子にて共用する構成について記述されていない。

【特許文献1】特表2005−529644号公報
【特許文献2】特開2001−327558号公報
【特許文献3】特開2001−321240号公報
【特許文献4】特開平11−226065号公報
【特許文献5】特開2005−198679号公報
【特許文献6】特許第3563885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
解決しようとする問題点は、歯科治療用椅子に対する乗降が困難であったり、危険が生じたり、また長時間の診療に耐えて寝心地のよいリラックスした気分を与えることができなかったことと、レッグレストの前折れ式とカンター式とを1台歯科治療用椅子にて共用することができなかったなどの点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明ではレッグレストの前折れ式とカンター式とを1台歯科治療用椅子にて共用できるように構成する。更にバックレストの下端とコンターシートの後端との間に生じる隙間を患者の体形などによって調整できるように構成する。また座面を前傾可能にし、かつレッグレストをコンターシーとの裏面側まで回動可能に構成する。更に前記各構成の各部をアクチュエータにてバックレストの後傾作動に連動または単動させる構成などを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の歯科治療用椅子は、レッグレストの前折れ式とカンター式とを1台の椅子で共用することができるので、前折れ式による乗降の容易さ、カンター式の寝心地の良さの両特徴が得られる。またバックレストの下端とコンターシートの後端との間に生じる隙間を調整することによりバックレストの後傾作動時に生じるヘッドレストとの頭ずれがなくなり患者のストレスが解消されるという副次効果が得られる。これにより頭部がずれた後にヘッドレストの位置調整をする必要がなくなる。更に座面を前傾しかつレッグレストをコンターシートの裏面側まで回動することにより乗降が容易かつ安全になるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
患者の乗降を容易かつ安全にし、患者の老若、身体不具者または体形などに応じて最適な姿勢を保たせて寝心地をよくするという目的をアクチュエータによりバックレスト、コンターシート及びレッグレストのチルトを連動または単動する機構にて実現した。
【実施例】
【0016】
図1から図7は,本発明の実施例を示し、図1はバックレストを後傾した歯科治療用椅子の全体図、図2はアクチュエータによるコンターシートの挙動を示す図、図3はレッグレストのリフト機構を示す図、図4はアクチュエータによるレッグレストの挙動を示す図、図5はバックレストの後傾時におけるコンターシートの挙動を示す図、図6は着座姿勢におけるレッグレストの挙動を示す図、図7は着座姿勢におけるコンターシートの後端側リフトアップを示す図である。
【0017】
図1に示すように本発明の歯科治療用椅子はバックレスト1、コンターシート2、レッグレスト3及びヘッドレスト4を備え、バックレスト1の後傾作動に連動してコンターシート2及びレッグレスト3のチルトが可能、かつバックレスト1、コンターシート2及びレッグレスト3の全体が上台ベース5の下方に設けられた図示しない昇降機構により上下動可能に構成されている。
【0018】
従来はレッグレスト3の前折れが可能な前折れ式と、レッグレスト3とコンターシート2との相対角度が任意に固定されて前折れ不可能に構成されたカンター式とは別々の椅子にて構成されていたが、本願発明では前記両者を1台の椅子にて共用可能に構成した。以下、その構成について述べる。
【0019】
まず本発明の歯科治療用椅子は図1に示すように、コンターシート2の下面と上台ベース5との間にリフト機構6が設けられている。このリフト機構6は、コンターシート2の裏面に固設されたシートリンクベース7の一端とトラックフレーム8との間にチルトリンクベース9が回動自在に連結され、チルトリンクベース9の中ほどとシートリンクベース7の他端との間にシートナット受け10を介してシートアクチュエータ11が設けられている。
【0020】
この機構は、図2の説明図に示すようにシートアクチュエータ11の伸縮作動にてシートリンクベース7がA点を支点としB点が円弧を描いて回動することにより図1の矢印で示すようにコンターシート2の後端がリフトアップする。
【0021】
一方、図3に示すようにレッグレスト3の下面にはリフト機構12が設けられている。このリフト機構12は、レッグレスト3の下面に固設されたレッグリンクベース13の一端が前記コンターシート2側のシートリンクベース7の一端に回動自在に連結され、一方、チルトリンクベース9の一端とレッグリンクベース13の先端近傍との間にレッグナット受け14を介してレッグアクチュエータ15が設けられている。
【0022】
この機構は、図4の説明図に示されるようにレッグアクチュエータ15を伸縮作動することによりレッグリンクベース13がC点を支点としてD点が円弧を描いて回動することによりレッグリンクベース13の他端側が矢印で示すように回動する。
【0023】
上記構成により本発明の歯科治療用椅子は、図1に示すようにコンターシート2の下面に設けられたリフト機構6により、バックレスト1の後傾に連動してコンターシート2の後端がリフトアップ、即ち、逆チルトすることによりコンターシート2の後端をバックレスト1の下端に近づけることができるので、図5に示すようなバックレスト1の下端とコンターシート2の後端との間に生じる隙間に段差がなくなり、子供や妊婦、老人、身体不具者その他標準体形ではないなど、患者の状況に対応してリラックスできる寝姿にすることができる。またコンターシート2の後端側をバックレスト1の後傾作動に連動してリフトアップすることによりバックレスト1の後傾時に生じる患者の頭部とヘッドレスト3とのずれを防止することもできる。なお、このコンターシート2のリフトアップはバックレスト1の後傾作動に連動させずに単独にリフトアップすることもできる。
【0024】
また、図6に示すようにレッグレスト3はリフト機構12により下方に回動し、垂直位置を超えてコンターシート2の裏面側まで回動することができる。これにより患者は踵をコンターシート2の下面まで挿入することができるので起立が容易になる。また図7に示すようにコンターシート2の後端側をリフト機構6にてリフトアップすると共に椅子全体をリフトアップすることにより起立が容易になり老人や身体不具者などに対する介助が不要になる。なお、これらの操作はアームレスト16にスイッチ17を設けて患者自身が操作するようにしてもよい。
【0025】
また、上記の通りにレッグレスト3の前折れ式として使用することができると同時に前折れ角度を任意に固定した状態でバックレスト3の後傾に連動してコンターシート2の後端をリフトアップすることによりカンター式として使用することもできる。従って、1台の椅子にて前折れ式とコンター式の両者を共用することができる。
以上に示した本発明の歯科治療用椅子における構成各部は図示しない制御部の電気的指令に基づいて連動または単動にて作動させることができる。またアクチュエータはこれに代えて油圧シリンダーを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】バックレストを後傾した歯科治療用椅子の全体図である。
【図2】アクチュエータによるコンターシートの挙動を示す図である。
【図3】レッグレストのリフト機構を示す図である。
【図4】アクチュエータによるレッグレストの挙動を示す図である。
【図5】バックレストの後傾時におけるコンターシートの挙動を示す図である。
【図6】着座姿勢におけるレッグレストの挙動を示す図である。
【図7】着座姿勢におけるコンターシートの後端側リフトアップを示す図である。
【図8】従来の歯科治療用椅子の説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 バックレスト
2 コンターシート
3 レッグレスト
4 ヘッドレスト
5 上台ベース
6 コンターシートのリフト機構
7 シートリンクベース
8 トラックフレーム
9 チルトリンクベース
10 シートナット受け
11 シートアクチュエータ
12 レッグレストのリフト機構
13 レッグリンクベース
14 レッグナット受け
15 レッグアクチュエータ
16 アームレスト
17 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックレスト、コンターシート、レッグレスト及びヘッドレストを備え、バックレストの後傾作動に連動してコンターシート及びレッグレストのチルトが可能、かつ前記バックレスト、コンターシート、レッグレスト及びヘッドレストの全体が上下動可能に構成された椅子において、前記レッグレストの前折れが可能な前折れ式と、前記レッグレストとコンターシートとの相対角度が任意に固定されて前折れ不可能に構成されたカンター式の両者を1台の椅子にて共用可能に構成したことを特徴とする歯科治療用椅子。
【請求項2】
前記前折れ式に構成されたレッグレストの前折れを垂直下方から更にコンターシートの裏面側にアクチュエータを用いて回動することを特徴とする請求項1記載の歯科治療用椅子。
【請求項3】
前記コンターシートを、その前端縁を軸としてアクチュエータを用いて後端側をリフトアップすることにより座面を前傾することを特徴とする請求項1または2記載の歯科治療用椅子。
【請求項4】
バックレスト、コンターシート、レッグレスト及びヘッドレストを備え、バックレストの後傾作動に連動してコンターシート及びレッグレストのチルトが可能に構成された椅子において、コンターシートの後端がバックレストの下端に接近する方向にアクチュエータを用いてリフトアップしつつチルトすることを特徴とする歯科治療用椅子。
【請求項5】
前記コンターシートの後端側を単独にリフトアップすることを可能に構成したことを特徴とする請求項4記載の歯科治療用椅子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−29533(P2008−29533A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205331(P2006−205331)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000141598)株式会社吉田製作所 (117)
【Fターム(参考)】