説明

歯科用接着材

【課題】 歯質との接着に関してエッチング処理やプライマー処理などの前処理を必要とせず、且つ歯質との高い接着強度および接着耐久性を有する歯科用の接着材を得る。
【解決手段】(A)2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート等の、少なくとも1つのリン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルにおいて、水への溶解度が5g/100g以上であるラジカル性単量体、(B)6−メタクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート等の、少なくとも1つのリン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルにおいて、水への溶解度が1g/100g以下であるラジカル重合性単量体、(C)水、および(D)光重合開始剤を含有し、かつ均一な組成を形成していることを特徴とする歯科用接着材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科医療分野等における歯の修復に際し、修復材料と歯質との高い接着強度を実現する為の歯科用接着材に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕等により損傷を受けた歯の修復には、主にコンポジットレジンと呼ばれる充填材料が用いられる。このコンポジットレジンは歯の空洞に充填後重合硬化して使用されるのが一般的である。しかし、この材料自体歯質への接着性を持たない為、歯科用接着材が併用される。この接着材にはコンポジットレジンの硬化に際して発生する内部応力、即ちコンポジットレジンと歯質との界面に生じる引張り応力に打ち勝つだけの接着強度が要求される。さもないと過酷な口腔環境下での長期使用により脱落する可能性があるのみならず、コンポジットレジンと歯質の界面で間隙を生じ、そこから細菌が侵入して歯髄に悪影響を与える恐れがあるためである。
【0003】
歯の硬組織はエナメル質と象牙質から成り、臨床的には双方への接着が要求される。従来、接着性の向上を目的として、接着材塗布に先立ち歯の表面を前処理する方法が用いられてきた。このような前処理材としては、歯の表面を脱灰する酸水溶液が一般的であり、リン酸、クエン酸、マレイン酸等の酸水溶液が用いられてきた。エナメル質の場合、処理面との接着機構は、酸水溶液の脱灰による粗造な表面へ、接着材が浸透して硬化するというマクロな機械的嵌合であるのに対し、象牙質の場合には、脱灰後に歯質表面に露出するスポンジ状のコラーゲン繊維の微細な空隙に、接着材が浸透して硬化するミクロな機械的嵌合であると言われている。但し、コラーゲン繊維への浸透はエナメル質表面ほど容易ではなく、酸水溶液による処理後に更にプライマーと呼ばれる浸透促進材が一般的に用いられる。即ち、この方法ではエナメル質と象牙質の双方に対して良好な接着強度を得るためには、歯科用接着材を塗布する前に2段階の前処理が必要な3ステップシステムであり、操作が煩雑であるという問題があった。
【0004】
この操作の煩雑さの軽減を目的として、酸水溶液の脱灰機能と象牙質プライマーの浸透促進機能を併せ持つセルフエッチングプライマーと歯科用接着材で処理する2ステップシステム(特許文献1、2)が提案された。また、近年、酸水溶液の脱灰機能と象牙質プライマーの浸透促進機能及び歯質への接着材としての機能すべてを併せ持つ接着材で処理する1ステップシステム(特許文献3、4参照)が提案された。これらの1ステップシステム型の接着材において、歯質を脱灰するための酸として、1分子中に酸性基とラジカル重合性を併せ持った化合物が用いられている。酸性基としては、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、スルホ基(−SOH)等が用いられ様々な化合物が知られている。
【0005】
しかしながら、このような酸性基を含有した重合性単量体は、一般的に機械的強度が低く、また耐水性も悪いため、水分を多く含む口腔内という過酷な条件下で長期間安定した接着力を維持するのは必ずしも十分とは言えなかった。耐水性を向上させるために長鎖のアルキル基や芳香族基を分子中に含んだ酸性基含有重合性単量体も開示されているが(特許文献5)、このような重合性単量体は歯質の脱灰力が十分でないという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平06−009327号公報
【特許文献2】特開平06−024928号公報
【特許文献3】特開平10−236912号公報
【特許文献4】特開平10−245525号公報
【特許文献5】特開昭58−21607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は歯科用修復物の歯質との接着に関してエッチング処理やプライマー処理などの前処理を必要としなくても、歯質と高い接着強度で接着し、その接着の耐久性にも優れる歯科用の接着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、酸性基含有ラジカル重合性単量体、水、および重合開始剤からなる歯質用接着材において、該酸性基含有ラジカル重合性単量体として、リン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルを用い、これの水への溶解度が異なる特定の2種を組み合わせて用いることにより、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、(A)少なくとも1つのリン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルにおいて、水への溶解度が5g/100g以上であるラジカル重合性単量体、(B)少なくとも1つのリン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルにおいて、水への溶解度が1g/100g以下であるラジカル重合性単量体、(C)水、および(D)光重合開始剤を含有し、かつ均一な組成を形成していることを特徴とする歯科用接着材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の歯科用接着材によれば、歯科用修復物の歯質との接着に際して、エッチング処理やプライマー処理などの前処理を行わなくても、歯質と該歯科用修復物を高い接着強度で接着することができ、その接着の耐久性にも優れたものとすることができる。したがって、エッチング処理やプライマー処理などの前処理を必要としない、1ステップシステム型の接着材として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の歯科用接着材(以下、単に本発明の接着材)は、(A)少なくとも1つのリン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルにおいて、水への溶解度が5g/100g以上であるラジカル重合性単量体、(B)少なくとも1つのリン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルにおいて、水への溶解度が1g/100g以下であるラジカル重合性単量体、(C)水、および(D)重合開始剤を含有し、かつ均一な組成を形成していることを特徴とする。以下、これら各成分について説明する。
【0012】
本発明の接着材の(A)成分および(B)成分であるリン酸基含有ラジカル重合性単量体は、接着材に用いた時に歯質を脱灰し、かつ接着材を歯質に浸透させるために用いられる。親水的な歯質に浸透させる為にはリン酸基含有ラジカル重合性単量体の該リン酸基は親水的な官能基であり有利であるが、一方で、口腔内のような水分が多量に存在する状況では、あまりに親水的でも接着後の耐久性が不足し歯科用修復物の脱落の原因になる。一方、上述のように長鎖のアルキル鎖などをつけて疎水的にしたリン酸基含有ラジカル重合性単量体を用いると、歯質の脱灰および歯質への浸透性が低下し、初期接着力が低下する。
【0013】
こうした状況にあって本発明では、上記リン酸基の親水的な性状を強く帯びている、水への溶解度が5g/100g以上である(A)成分のラジカル性単量体と、長鎖のアルキル鎖が導入される等して、水への溶解度が1g/100g以下である(B)成分のラジカル重合性単量体とを組み合わせることにより、歯質への浸透性、いわゆる初期接着力と長期水中保存した状態での該接着力の耐久性とを両立させることに成功したものである。
【0014】
上記リン酸基含有ラジカル重合性単量体において、リン酸基とは、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}等の遊離の酸基のみならず、当該リン酸性基のOHがハロゲンに置換された酸ハロゲン化物基(例えば、−P(=O)Cl)等などを示す。リン酸基含有ラジカル重合性単量体が有する、これらリン酸基の数は、(A)成分もB)成分も、少なくとも1つあればよいが、通常は、1〜2個有するのが好ましい。
【0015】
また、(メタ)アクリル基とは、アクリル基およびメタクリル基を示す。
【0016】
本発明の接着材に使用する(A)成分は、上記(メタ)アクリル酸エステルのうち、水への溶解度が5g/100g以上のものである。歯質への浸透性の良好さを勘案すると、該(A)成分の(メタ)アクリル酸エステルの水への溶解度は、10g/100g以上であるのが好ましい。なお、本発明において、(メタ)アクリル酸エステルの水への溶解度は、25℃の温度下で測定した値を言う。
【0017】
好適な具体例を例示すれば、下記一般式(I)、(II)
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
〔式(I)、(II)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rはエーテル結合および/またはエステル結合を有していても良い、炭素原子の総数が1〜25であって、連続した炭素原子の数は3以下である2価の有機残基である。〕
で示される化合物が挙げられる。
【0021】
ここで、Rの有機残基は、炭素原子の総数が1〜25のものが好ましいが、良好な歯質への浸透性を得る観点からは1〜18であるのが好適である。また、このRの有機残基において、炭素原子の総数が4以上の場合は、途中にエーテル結合やエステル結合が介在されて、その連続した炭素原子の数が3以下であることが必要である。この場合、エーテル結合を介在するものの方が好ましい。なお、上記Rの有機残基は、直鎖状だけでなく分岐鎖状であっても良く、その場合、連続した炭素原子の数とは、直鎖上の炭素原子だけでなく、分岐鎖上の炭素原子も数える。
【0022】
本発明において、Rの有機残基のうち好適なものは、炭素原子の総数が1〜3のアルキレン基、下記
【0023】
【化3】

【0024】
〔但し、Rは炭素原子数1〜3のアルキレン基であり、nは1〜7、好適には1〜5の整数である。〕
で示される基、及び下記
【0025】
【化4】

【0026】
〔但し、Rは炭素原子数1〜3のアルキレン基であり、nは1〜7、好適には1〜5の整数である。〕
で示される基等が挙げられる。具体的には、
【0027】
【化5】

【0028】
で示される基等が好ましい。
【0029】
本発明において最も好ましく使用される(A)成分を具体的に例示すると、以下のものが挙げられる。
【0030】
【化6】

【0031】
〔但し、Rは水素原子またはメチル基である。〕
本発明の接着材に使用する(B)成分は、前記(メタ)アクリル酸エステルのうち、水への溶解度が1g/100g以下のものである。得られる接着材の機械的強度や、接着の耐久性を優れたものにする観点からは、該(B)成分の(メタ)アクリル酸エステルの水への溶解度は、0.5g/100g以下であるのが好ましい。
【0032】
好適な具体例を例示すれば、下記一般式(III)、(IV)
【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
〔式(III)、(IV)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rはエーテル結合および/またはエステル結合を有していても良い、炭素原子の総数が4〜20であって、連続した炭素原子の数が4以上の炭化水素基を少なくとも一単位含む2価の有機残基である。〕
で示される化合物が挙げられる。
【0036】
ここで、Rの有機残基は、炭素原子の総数が4〜20のものが好ましいが、接着耐久性をより優れたものにする観点からは8〜20であるのが好適である。また、このRの有機残基は、途中にエーテル結合やエステル結合が介在されていても良いが、その場合、連続した炭素原子の数が4以上の炭化水素基を少なくとも一単位含むことが必要である。なお、上記Rの有機残基も、直鎖状だけでなく分岐鎖状であっても良く、その場合、連続した炭素原子の数とは、直鎖上の炭素原子だけでなく、分岐鎖上の炭素原子も数える。
【0037】
本発明において、Rの有機残基のうち好適なものは、炭素数が4〜20、好適には8〜20の炭化水素基、下記
【0038】
【化9】

【0039】
〔但し、Rは炭素原子数4〜20の炭化水素基である。〕
で示される基、及び
【0040】
【化10】

【0041】
〔但し、Rは炭素原子数4〜20の炭化水素基である。〕
で示される基等が挙げられる。こごて、上記炭化水素基には、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基、アリーレンアルキレン基等が挙げられる。Rの有機残基の具体的なものとしては、
【0042】
【化11】

【0043】
で示される基等が好ましい。
【0044】
本発明において最も好ましく使用される(B)成分を具体的に例示すると、以下のものが挙げられる。
【0045】
【化12】

【0046】
〔Rは水素原子またはメチル基を表す。〕
本発明の接着材における(A)成分及び(B)成分の配合量は、特に制限されるものではなく適宜決定すれば良いが、少なすぎると歯質の脱灰性が小さくなるため、(A)成分と(B)成分の合計が、(A)〜(C)成分の合計を100質量部として70〜99質量部配合することが好ましい。より好ましくは、85〜95質量部である。
【0047】
また、(A)成分と(B)成分の比は、歯質の脱灰性と得られる接着材の機械的強度や接着の耐久性とを共に良好にする観点からは、(A)/(B)=0.05〜20の質量比の範囲から採択するのが好ましく、さらに上記性状をより優れたものとし、さらには液の均一性を良好なものにする観点からは、特に、0.25〜4の範囲とするのが最適である。
本発明の接着材に使用する(C)水は、(A)、(B)成分と共に歯質脱灰作用を持たせる為には必須である。該水は、保存安定性、生体適合性および接着性に有害な不純物を実質的に含まないことが好ましく、例としては脱イオン水、蒸留水等が挙げられる。本発明の接着材における該水の配合量は、特に限定されるものではなく適宜設定すれば良いが、少なすぎると歯質の脱灰性が小さくなり、他方、あまりに多いと接着材の硬化体の機械的強度が低くなり、また、液の均一性も低下する傾向があるため、(A)〜(C)成分の合計を100質量部として1〜30質量部配合することが好ましい。より好ましくは5〜15質量部である。
本発明の接着材に使用する(D)光重合開始剤としては、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体、ベンゾフェノン、p,p’−ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p’−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体、さらには、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤からなる系が挙げられる。これらの中でも特に好ましいのは、α−ジケトン系の光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系の光重合開始剤、及びアリールボレート化合物/色素/光酸発生剤を組み合わせた系からなる光重合開始剤である。
【0048】
上記α−ジケトンとしてはカンファーキノン、ベンジルが好ましく、また、アシルホスフォンオキサイドとしては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが好ましい。なお、これらα−ジケトン及びアシルホスフォンオキサイドは単独でも光重合活性を示すが、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ラウリル、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミン化合物と併用することがより高い活性を得られて好ましい。
【0049】
また、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤系の光重合開始剤については特開平9−3109号公報等に記されているものが好適に用いられるが、より具体的には、テトラフェニルホウ素ナトリウム塩等のアリールボレート化合物を、色素として3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3,3’−カルボニルビス(4−シアノ−7−ジエチルアミノクマリン等のクマリン系の色素を、光酸発生剤として、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、またはジフェニルヨードニウム塩化合物を用いたものが特に好適に使用できる。
【0050】
本発明の光重合開始剤はそれぞれ単独で配合するのみならず、必要に応じて複数の種類を組み合わせて配合することもできる。これらの配合量は本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、調整する硬化性組成物の用途や目的に応じ適宜決定すれば良いが、好ましくはα−ジケトン又はアシルホスフィンオキサイドの場合には、(A)〜(C)成分の合計を100質量部として、0.01〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部であり、さらに必要に応じてアミン化合物を0.01〜20質量部加えれば良い。また、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤系の場合、色素が0.001〜1質量部、光酸発生剤が0.01〜10質量部とすれば良い。
【0051】
本発明の接着材は、接着強度の安定化の為に組成が均一に混合されていることが必要である。(A)〜(D)成分は、前記説明した配合量及び配合比の範囲であれば、通常は、均一な組成になるが、場合によってはその均一性が十分でないこともあり、こうした場合には、上記(A)〜(D)成分の混和性を向上させ、均一な組成の接着材を得るために(E)相溶剤を添加することが好ましい。該相溶剤としては、本発明の接着材を均一にすることができるものであれば制限なく使用できるが、水溶性有機溶媒、水溶性ラジカル重合性単量体等が好適に用いられる。
【0052】
該水溶性有機溶媒は、水溶性を示すものであれば公知の有機溶媒が何等制限なく使用できる。ここで言う水溶性とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であることを言う。このような水溶性有機溶媒として具体的に例示すると、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する為害性を考慮すると、エタノール、プロパノール又はアセトンが好ましい。
【0053】
該水溶性ラジカル重合性単量体としては、1分子中に少なくとも1つのラジカル重合性不飽和基を持ち、且つ水溶性であれば既存のものが制限なく使用できる。但しここで水溶性とは、該化合物の10gが水100gに均一に溶解できる場合をいう。具体的に例示すると、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,4−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3,4−トリヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の多価アルコール類あるいはポリエチレングリコール類の(メタ)アクリル酸エステル類、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアミノアルコールの(メタ)アクリル酸アミド類、2ー(メタ)アクリロイルオキシ ジハイドロジェン フォスフェート等のリン酸モノエステル系化合物の(メタ)アクリル酸エステル類、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン等が挙げられ、これらは単独または二種以上を混合して使用する事ができる。
【0054】
上記水溶性重合性単量体の中でも、組成物の調製が容易なため水と任意の割合で混合可能という点から、多価アルコール類が好適に使用され、さらに象牙質接着力を考慮すると、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが最も好適に使用される。
【0055】
本発明の接着材における(E)相溶剤の配合量は、配合される各成分が均一となる程度であれば良いが、一般的には(A)〜(C)成分の合計を100質量部として10〜60質量部配合すれば良い。より好ましくは15〜50質量部である。
【0056】
本発明の接着材には、上記成分が配合されていればその効果を発現するが、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて歯科用接着材の配合成分として公知の他の成分、例えば、リン酸基以外の酸性基含有ラジカル重合性単量体や酸性基を有しないラジカル重合性単量体、無機充填材、有機充填材あるいは無機−有機複合充填材等の充填材、紫外線吸収剤、重合禁止剤、重合抑制剤、染料、顔料などが配合されていてもよい。これらの他の成分の配合量は、一般には、本発明の接着材(A)〜(E)成分の合計100質量部に対して50質量部以下、好適には40質量部以下であるのが好ましい。
【0057】
リン酸基以外の酸性基含有ラジカル重合性単量体を具体的に例示すると、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンマレート、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル サクシネート、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート、N,O−ジ(メタ)アクリロイルチロシン、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート アンハイドライド、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、4−アクリロイルオキシブチルトリメリテート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等が例示される。
【0058】
酸性基を有しないラジカル重合性単量体としては、歯科分野で使用可能な公知のものが制限なく使用できる。具体的に例示すると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0059】
本発明の接着材の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の歯科用接着材の製造方法に従えばよく、一般的には、赤色光などの不活性光下に、配合される全成分を秤取り、均一溶液になるまでよく混合すればよい。
【0060】
本発明の接着材の使用方法もまた、公知の歯科用接着材の使用方法に従えばよく、一般的には、齲蝕部を取り除くなどした被着体となる歯質に本発明の接着材を塗布、5〜60秒程度放置後に、必要であれば圧縮空気などを軽く吹きつけて揮発性成分を揮発させ、ついで歯科用照射器を用いて可視光を照射し重合、硬化させればよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例および比較例で使用した化合物とその略称を(1)に、本発明の歯科用接着材のエナメル質、象牙質接着強度測定方法を(2)に示す。
(1)略称
(A)成分
PM1;2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート (水への溶解度:任意)
PE;テトラエチエングリコールジハイドロジェンフォスフェート モノメタクリレート(水への溶解度:5.5g/100g)
(B)成分
MHP;6−メタクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート (水への溶解度:0.5g/100g以下)
MDP;10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート (水への溶解度:0.5g/100g以下)
(D)成分
CQ;カンファーキノン
DMBE;N,N−ジメチルp−安息香酸エチル
TPO;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
(E)成分
EtOH;エタノール
その他成分
MAC−10;11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカンボン酸
UDMA;1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルオキサン
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
(2)エナメル質、象牙質接着強度測定方法
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、往水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に本発明の歯科用接着材を塗布し、20秒間放置後圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。
【0062】
次に、可視光線照射器(トクソーパワーライト、(株)トクヤマデンタル社製)にて10秒間光照射し接着材を硬化させた。更にその上に歯科用コンポジットレジン(パルフィークエステライト(株)トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して接着試験片を作製した。
【0063】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を初期接着強度とした。また、同様に作製した接着試験片を熱衝撃試験機にて4℃と60℃の水中に1分間ずつ交互に浸漬し、これを3000回行った後で上記と同様に引張り接着強度を測定し、その値を耐久性後の接着強度とした。
【0064】
実施例1
(A)成分として6gのPM1、(B)成分として3gのMHP、(C)成分として1gの水、(D)成分として0.05gのCQと0.05gのDMBEを量りとり混合攪拌して均一な液体の歯科用接着材を調整した。該接着材を用いて、エナメル質、象牙質接着強度を測定した。接着材の組成を表1に、初期接着強度及び接着耐久性の結果を表2に示した。
【0065】
実施例2〜13、比較例1〜4
実施例1の方法に準じ組成の異なる接着材を調整した。接着材の組成を表1に、初期接着強度及び接着耐久性の結果を表2に示した。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
実施例1〜13は、各成分が本発明で示される成分比を満足するように配合されたものであるが、いずれの場合においても初期及び耐久性後において高い接着強度が得られている。
【0069】
これに対して、比較例1では(B)成分である、少なくとも1つのリン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルにおいて、水への溶解度が1g/100g以下であるラジカル重合性単量体が配合されていない為、初期接着強度は高いが耐久性後の接着強度は低下している。比較例2では、(A)成分である、少なくとも1つのリン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルにおいて、水への溶解度が5g/100g以上であるラジカル性単量体が配合されていない為、歯質の脱灰力が弱く初期接着強度が低下している。比較例3では(C)成分である、水が配合されていない為、歯質の脱灰力が弱く初期接着強度が低下している。比較例4では(D)成分である光重合開始剤が配合されていない為、該接着材が硬化せず、接着強度は0MPaであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)少なくとも1つのリン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルにおいて、水への溶解度が5g/100g以上であるラジカル性単量体、(B)少なくとも1つのリン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルにおいて、水への溶解度が1g/100g以下であるラジカル重合性単量体、(C)水、および(D)光重合開始剤を含有し、かつ均一な組成を形成していることを特徴とする歯科用接着材。
【請求項2】
さらに、(E)相溶剤を含有する請求項1記載の歯科用接着材。

【公開番号】特開2007−137798(P2007−137798A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331571(P2005−331571)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】