歯車創成プロフィールおよび歯車創成プロフィールを用いた動力伝達装置
【課題】噛合い部では相手の歯面に対する接触面積が増加し、面圧を低下させて相手の歯面に対する伝達力の増加をもたらし、しかも、相手の歯面に対する圧力角が小さくなり、この点からも相手の歯面への伝達力を増大させる歯車創成プロフィールおよび歯車創成プロフィールを用いた動力伝達装置を提供する。
【解決手段】負転位ラック24におけるラック歯24aは、負の転位曲線のループ状の結節部により創成加工されている。ピンピニオン25の回転時、ピンピニオン25の円柱ピン25aがラック歯24aの歯末24bに圧接する。ピンピニオン25は歯面が凹状にして相手のラック歯24aとは、噛合時の弾性変形もあって面接触で噛み合う。ラック歯24aに対する円柱ピン25aの接触面積が増加し、面圧を低下させて剛性が高くなるとともに、伝達力が増加する。
【解決手段】負転位ラック24におけるラック歯24aは、負の転位曲線のループ状の結節部により創成加工されている。ピンピニオン25の回転時、ピンピニオン25の円柱ピン25aがラック歯24aの歯末24bに圧接する。ピンピニオン25は歯面が凹状にして相手のラック歯24aとは、噛合時の弾性変形もあって面接触で噛み合う。ラック歯24aに対する円柱ピン25aの接触面積が増加し、面圧を低下させて剛性が高くなるとともに、伝達力が増加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負の転位曲線を用いて歯切り創成する歯車創成プロフィール、ならびに歯車創成プロフィールにより形成された歯車を噛合させた動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
減速機などの動力伝達装置において、ピン歯車に噛み合う歯車またはラックの歯形プロフィールとして、トロコイド曲線あるいはインボリュート曲線を基本として創成された歯面が用いられてきている。トロコイド曲線に基づく歯面は、通常では基本曲線を正方向に転位させた滑らかな歯形曲線に基づいている。この場合、歯形の大部分が凸状曲面となり、ピン歯車の円曲面と歯形の凸状曲面との噛合い部での接触面積は小さくなる。
【0003】
このため、ピン歯車から歯車への伝達力に対する噛合い部での面圧が高くなり、歯車材質の有効強度を十分に活用できず、伝達力の向上に制限があり、耐久寿命にも改良の限界があった。
歯車の噛合い部における面圧を低下させるべく、歯面同士が面接触を行うと想定される歯車に下記のものがある。
すなわち、歯車を加工成形する際に歯形プロフィールの歯末および歯元を略半円形状にし、両者の中心点をピッチ円上に位置させている。これにより、歯同士の噛合い率を2倍にし、完全な円当たりを実現させて転がり摩擦効果で騒音振動の減少を図っている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
歯車の製造時には、型を使用してプレス加工、鍛造、焼結、射出成形などを行って歯面の形成を容易に実現できるとしている。型の形成にあっては、CADやCAD/CAMにより得られたNCデータに基づいてNCレーザー加工機、NC放電加工機、NCマシニングセンターなどのNC複合加工機を用いて形成している。
【特許文献1】特開2002−98219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の歯車では、噛み合う相手歯車が円形のため、精度よく円滑に噛合するとしているが、円弧上の歯末が相手の歯元に滑りながら噛合するため、圧力角を規定し難いとともに、相手歯車への伝達力が小さく伝達効率が低下すると考えられる。
【0006】
本発明は上記の事情を考慮してなされたもので、その第1目的は、歯面同士の噛合い部で凹状の歯面に対して面接触接となるため、歯面同士の接触面積が大きくなり、歯面への伝達力に対する面圧が高くなり、伝達容量の増加ひいては耐久寿命の向上に寄与する歯車創成プロフィールおよび歯車創成プロフィールを用いた動力伝達装置を提供するにある。
【0007】
本発明の第2目的は、相手の歯面に対する圧力角が小さくなり、この点からも相手の歯面への伝達力が大きくなり、伝達効率を向上させる歯車創成プロフィールおよび歯車創成プロフィールを用いた動力伝達装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(請求項1について)
歯車創成プロフィールにおいて、その基礎円を転がり面上に転がす時に形成された転がり曲線の軌跡のうち、結節部となる変曲点付近で上下にわたってループを形成する負の転位曲線に沿って歯車の歯面を創成したことを特徴とする。
【0009】
今日では、トロコイド曲線やインボリュート曲線などの転がり曲線に基づく歯形は、基本曲線そのものとなったり、正の方向に転位させた滑らかな曲線により創成されるのが通常である。これに対して、転がり曲線で負の方向への転位量を増加させてゆくと、転がり曲線は、滑らかなコイル状を描き、結節部となる変曲点付近で上下にわたってループを形成する。
【0010】
このループに基づいて歯形のプロフィールを創成することにより歯面が凹状になる。このため、相手の歯面とは、噛合時の弾性変形もあって面接触で噛み合う。この結果、両者の噛合い部では相手の歯面に対する接触面積が増加し、面圧を低下させて剛性を高める。このため、相手の歯面に対する伝達力(伝達容量)の増加をもたらし、耐久寿命の向上に寄与する。
しかも、相手の歯面に対する圧力角が小さくなり、この点からも相手の歯面への伝達力が大きくなり、伝達効率を向上させることができる。
【0011】
(請求項2について)
転がり曲線の軌跡は、転位トロコイド曲線あるいは転位インボリュート曲線であることを特徴とする。この場合に描く軌跡は、転がり曲線のなかでも、よく知られているため、歯形プロフィールの創成を行い易い利点がある。
【0012】
(請求項3について)
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位外歯ピニオンとピンラックとを外接状態に噛合させて動力伝達装置を構成している。
これにより、請求項1と同様の効果を有する回転−直線変換機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
【0013】
(請求項4について)
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位外歯ピニオンとピンピニオンとを外接状態に噛合させて動力伝達装置を構成している。
これにより、請求項1と同様の効果を有する回転伝達機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
【0014】
(請求項5について)
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位外歯ピニオンの外部にピンピニオンを内接状態に噛合させて動力伝達装置を構成している。
これにより、請求項1と同様の効果を有する回転伝達機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
【0015】
(請求項6について)
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位内歯ピニオンの内部にピンピニオンを内接状態に噛合させて動力伝達装置を構成している。
これによっても、請求項1と同様の効果を有する回転伝達機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
【0016】
(請求項7について)
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位ラックとピンピニオンとを噛合させて動力伝達装置を構成している。
これによっても、請求項1と同様の効果を有する回転伝達機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
【0017】
(請求項8について)
負転位外歯ピニオンとピンピニオンとは所定の歯数差をもっており、負転位外歯ピニオンはピンピニオンに噛合しながら自転成分および公転成分を含む回転を行うようになっている。負転位外歯ピニオンの回転に伴い、負転位外歯ピニオンの自転成分のみをピンピニオンに伝える継手部が設けられ、負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの歯数差に基づく変速機構を構成する。
【0018】
この場合、負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの歯数差が大きいと、請求項1と同様の効果を有する増・減速機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
また、負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの歯数差が小さいと、請求項1と同様の効果を有する差動減速機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明では、噛合い部では相手の歯面に対する接触面積が増加し、面圧を低下させて相手の歯面に対する伝達力の増加をもたらし、しかも、相手の歯面に対する圧力角が小さくなり、この点からも相手の歯面への伝達力(伝達容量)を増大させることができる。
【実施例1】
【0020】
図1ないし図3に基づいて本発明の実施例1を説明する。
図1の(a)は、転がり曲線のうちトロコイド曲線の概略図であり、基礎円1を転がり面2に沿って転がすことにより得られる。固定点3、4、5を基礎円1上をはじめ内外のいずれに決めるかにより、基本曲線6(正規のサイクロイド曲線)、正の転位曲線7(内サイクロイド曲線)、および負の転位曲線8(外サイクロイド曲線)となる。負の転位曲線8では、コイル波状の軌跡となっており、その変曲点付近で上下にわたってループを形成した結節部9を備えている。
【0021】
図1の(b)は、転がり曲線のうちインボリュート曲線の概略図であり、基礎円10に巻いた糸11の先端部11aを接線方向に弛ませないように繰り出すことにより得られる。固定点12、13、14を基礎円10上をはじめ内外のいずれに決めるかにより、基本曲線15(正規のインボリュート曲線)、負の転位曲線16(内インボリュート曲線)、および正の転位曲線17(外インボリュート曲線)となる。負の転位曲線16(内インボリュート曲線)では、コイル波状の軌跡となっており、その変曲点付近で上下にわたってループを形成する結節部19を備えている。
【0022】
本発明では、転がり曲線のうち負の転位曲線8、16を用いて歯面プロフィールを創成する。転位歯車の創成にあっては、図2に示すように正転位あるいは負転位を行う転位歯車がある。正転位では、標準歯車20の歯形曲線を基礎円24A(中心O、半径R)に対して歯先円21と歯底円22とを正の転位量Sとして外側へずらして大きくした歯形23を用いる{図2の(a)参照}。
これに対して、負転位では、標準歯車20aの歯形曲線を基礎円24B(中心O、半径R)に対して歯先円21aと歯底円22aとを負の転位量Sとして内側へずらして小さくした歯形23aを用いる{図2の(b)参照}。
【0023】
本発明の各実施例では、転がり曲線のうち負の転位曲線8、16におけるループ波状の結節部9、19により創成した歯形を用いて歯車を加工している。この例として、負転位ラック24(ペリコロイドラック)とピンピニオン25とを噛合させて構成した動力伝達装置26が挙げられる(図3参照)。
【0024】
この場合、負転位ラック24におけるラック歯24aの歯末24b、歯元24cおよび歯底24dがなす歯面のプロフィールは、例えば負の転位曲線8の結節部9により凹状の歯形を創成加工されている。ピンピニオン25の回転が負転位ラック24に伝達される時、ピンピニオン25の円柱ピン25aがラック歯24aの歯末24b近傍に圧接して伝達力を与える(回転−直線変換機構)。
【0025】
上記構成では、負の転位曲線8の結節部9に基づいてラック歯24aのプロフィールを創成することにより歯面が凹状になる。この状態で、ピンピニオン25は、噛合時の弾性変形もあって、ラック歯24aの歯面に対して面接触で噛み合う。この結果、両者の噛合い部27では、ピンピニオン25のラック歯24aに対する接触面積が増加し、面圧を低下させて剛性を高める。このため、ラック歯24aの歯面に対する伝達力(伝達容量)の増加をもたらし、耐久寿命の向上に寄与する。
しかも、後述する実施例2で述べるように、ピンピニオン25のラック歯24aに対する圧力角が小さくなり、この点からもラック歯24aへの伝達力が大きくなり、伝達効率を向上させることができる。
【実施例2】
【0026】
図4および図5の(a)は本発明の実施例2を示す。
実施例2では、負の転位曲線16の結節部19{図1の(b)参照}により負転位外歯ピニオン29(ペリインボリュートピニオン)の歯面プロフィールを創成加工している。負転位外歯ピニオン29をピンラック28と噛合させて動力伝達装置30を構成している(図4参照)。負転位外歯ピニオン29の回転がピンラック28に伝達される時、噛合い部31で負転位外歯ピニオン29が歯末29b近傍をピンラック28の円柱ピン28aに圧接させて伝達力を与える(回転−直線変換機構)。このように構成しても実施例1と同様な効果が得られるものである。
【0027】
この場合、図5の(a)に示すように、負転位外歯ピニオン29のピニオン歯29aとピンラック28の円柱ピン28aとは噛合い部31で圧接して比較的小さな圧力角θ1(17.764°)を形成する。負転位外歯ピニオン29における基準ピッチ円32の噛合い部31を通る径方向の直線をNとし、円柱ピン28aに対する噛合い部31での接線をMとすると、圧力角θ1は径方向の直線Nと接線Mとがなす挟角を意味する。
これに対して、図5の(b)に示すように、正の転位曲線17{図1の(b)参照}により創成した正の転位ピニオンのピニオン歯Qがピンラックの円柱ピンPに対してなす圧力角ω1(26.327°)は比較的大きい。
【実施例3】
【0028】
図6および図7の(a)は本発明の実施例3を示す。
実施例3では、負の転位曲線8の結節部9{図1の(a)参照}により負転位外歯ピニオン33(外歯ペリトロコイドピニオン)におけるピニオン歯33aの歯面プロフィールを創成加工している。負転位外歯ピニオン33をピンピニオン34と噛合させて動力伝達装置(増・減速機構)35を構成している{図6の(a)、(b)参照}。このように構成しても実施例1と同様な効果が得られる。
【0029】
ちなみに、噛合い部36において、ピニオン歯33aの歯末33b近傍とピンピニオン34の円柱ピン34aとがなす圧力角θ2は9.597°である{図7の(a)参照}。 これに対して、図7の(b)に示すように、正の転位曲線7{図1の(a)参照}により創成した正の転位ピニオンのピニオン歯Q1がピンラックの円柱ピンP1に対してなす圧力角ω2は21.555°と比較的大きい。
【実施例4】
【0030】
図8および図9の(a)は本発明の実施例4を示す。
実施例4では、負の転位曲線8の結節部9{図1の(a)参照}により負転位外歯ピニオン37(外歯ペリトロコイドピニオン)の歯面プロフィールを創成加工している。負転位外歯ピニオン37のピニオン歯37aをピンピニオン38の円柱ピン38aと内接状態に噛合させて動力伝達装置(増・減速機構)39を構成している{図8の(b)参照}。
【0031】
この場合、図8の(a)に示すように、負の転位曲線8の結節部9の軌跡に沿って創成円9aを移動させることにより、円柱ピン38aと同径の創成円9aが描く包絡線9bが得られる。この包絡線9bを創成プロフィールとして負転位外歯ピニオン37のピニオン歯37aを加工している。このように構成しても実施例1と同様な効果が得られる。
【0032】
ちなみに、噛合い部40において、負転位外歯ピニオン37の歯末37b近傍とピンピニオン38の円柱ピン38aとがなす圧力角θ3は15.16°である{図9の(a)参照}。これに対して、図9の(b)に示すように、正の転位曲線7{図1の(a)参照}により創成したる正の転位外歯ピニオンのピニオン歯Q2がピンラックの円柱ピンP2に対してなす圧力角ω3は23.033°と比較的大きい。
【実施例5】
【0033】
図10の(a)、(b)は本発明の実施例5を示す。
実施例5では、負の転位曲線8の結節部9{図1の(a)参照}により負転位内歯ピニオン41(内歯ペリトロコイドピニオン)の歯面プロフィールを創成加工している。負転位内歯ピニオン41のピニオン歯41aをピンピニオン42の円柱ピン42aと内接状態に噛合させて動力伝達装置(増・減速機構)43を構成している{図10の(b)参照}。このように構成しても実施例1と同様な効果が得られる。
この場合、図10の(a)に示す噛合い部44において、負転位内歯ピニオン41の歯末41b近傍とピンピニオン42の円柱ピン42aとがなす圧力角は実施例4と同様に考えられる。
【実施例6】
【0034】
図11の(a)、(b)および図12は本発明の実施例6を示す。
実施例6では、負の転位曲線8の結節部9{図1の(a)参照}により負転位外歯ピニオン45(外歯ペリトロコイドピニオン)の歯面プロフィールを創成加工している。負転位外歯ピニオン45のピニオン歯45aをピンピニオン46の円柱ピン46aと内接状態に噛合させて動力伝達装置(差動減速機構)47を構成している{図11の(a)参照}。
【0035】
負転位外歯ピニオン45は、ピンピニオン46に対する噛合時、偏心状態に組付けられている。負転位外歯ピニオン45には、内側円49に沿って複数の挿通円部50を形成して静止部材(図示せず)に設けられた突部51を偏心量Eだけ隙間を余して遊嵌状態に挿入している。負転位外歯ピニオン45の挿通円部50と突部51とで継手部52を構成している。
【0036】
負転位外歯ピニオン45に矢印A方向に入力が与えられると、負転位外歯ピニオン45は、ピンピニオン46に噛み合いながら自転成分および公転成分を伴った偏心回転運動を行う。挿通円部50が内周縁部を突部51の外周部に沿って矢印B方向に回転変位させることにより、負転位外歯ピニオン45の公転成分が相殺されて矢印C方向の自転成分のみがピンピニオン46に出力として伝えられる。この出力は、負転位外歯ピニオン45とピンピニオン46との歯数差に応じた回転数となった変速状態にある。このように構成しても実施例1と同様な効果が得られる。
【0037】
この場合、噛合い部53において、負転位外歯ピニオン45の歯末45b近傍とピンピニオン46の円柱ピン46aとがなす圧力角θ4は極めて小さいことが予測される{図11の(b)参照}。これに対して、図11の(c)に示すように、正の転位曲線7{図1の(a)参照}により創成したる正の転位外歯ピニオンのピニオン歯Q3が内歯ピンピニオンの円柱ピンP3に対してなす圧力角ω4は比較的大きい。
【0038】
ちなみに、図12の(a)、(b)は、負転位外歯ピニオン45とピンピニオン46とがなす圧力角を歯面の噛合い位置(No.0〜23)に応じて実測した結果を示す。この結果によれば、負転位外歯ピニオン45に対するピンピニオン46の噛合状態が十分な時(特にNo.3、4)、これらの圧力角が6.6°や0.4°と極めて小さくなることが分かる。
【0039】
これに対して、図13の(a)、(b)に示すように、正の転位外歯ピニオンのピニオン歯Q3が内歯ピンピニオンの円柱ピンP3に対してなす圧力角は、No.3、4で31.3°や30.5°と比較的大きい。
この場合、比較条件を同一とするため、ピンピニオン46および内歯ピンピニオン円柱ピンP3を大円歯数として46個、負転位外歯ピニオン45および正の転位外歯ピニオンのピニオン歯Q3を小円歯数として45個と設定している。基礎円ピッチはいずれも8mmで、負転位外歯ピニオン45の転位量を−10mm、正の転位外歯ピニオンの転位量を+10mmにしている。
【0040】
(変形例)
(a)なお、実施例1〜6では、転がり曲線としてトロコイドやインボリュート系の曲線を用いたが、他の曲線を適用してもよい。
(b)実施例6における継手部52には、挿通円部50と突部51とからなるものに限らず、オルダム継手などを用いてもよく、要は偏心運動から公転成分を相殺できる伝達継手であればよい。
(c)転がり曲線に基づく負の転位量としては、使用状況、設置場所あるいは負荷荷重などによって所望に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の歯車創成プロフィールおよび歯車創成プロフィールを用いた動力伝達装置では、歯面同士の噛合い部で凹状の歯面に対して面接触接となるため、歯面同士の接触面積が大きくなり、歯面への伝達力に対する面圧が高くなり、伝達容量の増加ひいては耐久寿命の向上に寄与する。しかも相手の歯面に対する圧力角が小さくなり、この点からも相手の歯面への伝達力が大きくなり、伝達効率が向上する。小型で高性能な動力伝達装置が入手できる有益性から生産の効率化を求める需要者の増加に伴い、機械産業界へ広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(a)は転位トロコイド曲線の概略図(実施例1)、(b)は転位インボリュート曲線の概略図である(実施例1)。
【図2】(a)は標準歯車を正転位する態様を示す概略図、(b)は標準歯車を負転位する態様を示す概略図である(実施例1)。
【図3】負転位ラックとピンピニオンとを噛合させて構成した動力伝達装置の概略図である(実施例1)。
【図4】負転位外歯ピニオンをピンラックと噛合させて構成した動力伝達装置の概略図である(実施例2)。
【図5】(a)は負転位外歯ピニオンとピンラックとの圧力角を示す概略図である(実施例2)、(b)は比較のため正の転位外歯ピニオンとピンラックとの圧力角を示す概略図である。
【図6】(a)は負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの噛合い部を示す概略図(実施例3)、(b)は負転位外歯ピニオンをピンピニオンと噛合させて構成した動力伝達装置の概略図である(実施例3)。
【図7】(a)は負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの圧力角を示す概略図である(実施例3)、(b)は比較のため正の転位外歯ピニオンとピンピニオンとの圧力角を示す概略図である。
【図8】(a)は負転位外歯ピニオンをピンピニオンと内接状態に噛合させて構成した動力伝達装置の概略図(実施例4)、(b)は負の転位曲線に沿って創成円を移動させて得た包絡線を示す概略図である(実施例4)。
【図9】(a)は負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの圧力角を示す概略図である(実施例4)、(b)は比較のため正の転位外歯ピニオンとピンピニオンとの圧力角を示す概略図である。
【図10】(a)は負転位内歯ピニオンとピンピニオンとの噛合い部を示す概略図(実施例5)、(b)は負転位内歯ピニオンをピンピニオンと内接状態に噛合させて構成した動力伝達装置を示す概略図である(実施例5)。
【図11】(a)は負転位外歯ピニオンをピンピニオンと内接状態に噛合させて構成した動力伝達装置を示す概略図(実施例6)、(b)は負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの圧力角を示す概略図である(実施例6)、(c)は比較のため正の転位外歯ピニオンとピンピニオンとの圧力角を示す概略図である。
【図12】(a)は負転位外歯ピニオンとピンピニオンとがなす圧力角を歯面の噛合い位置に応じて実測した図表(実施例6)、(b)は負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの噛合状態を示す概略図である(実施例6)。
【図13】(a)は比較のため正の転位外歯ピニオンとピンピニオンとがなす圧力角を歯面の噛合い位置に応じて実測した図表、(b)は正の転位外歯ピニオンとピンピニオンとの噛合状態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0043】
1、10 基礎円
2 転がり面
8、16 負の転位曲線
9、19 結節部
24 負転位ラック
24a ラック歯(歯面)
25、34、38、42、46 ピンピニオン
26、30、35、39、43、47 動力伝達装置
27、31、36、40、44 噛合い部
28 ピンラック
29、33、37、45 負転位外歯ピニオン
29a、33a、37a、41a、45a ピニオン歯(歯面)
41 負転位内歯ピニオン
【技術分野】
【0001】
本発明は、負の転位曲線を用いて歯切り創成する歯車創成プロフィール、ならびに歯車創成プロフィールにより形成された歯車を噛合させた動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
減速機などの動力伝達装置において、ピン歯車に噛み合う歯車またはラックの歯形プロフィールとして、トロコイド曲線あるいはインボリュート曲線を基本として創成された歯面が用いられてきている。トロコイド曲線に基づく歯面は、通常では基本曲線を正方向に転位させた滑らかな歯形曲線に基づいている。この場合、歯形の大部分が凸状曲面となり、ピン歯車の円曲面と歯形の凸状曲面との噛合い部での接触面積は小さくなる。
【0003】
このため、ピン歯車から歯車への伝達力に対する噛合い部での面圧が高くなり、歯車材質の有効強度を十分に活用できず、伝達力の向上に制限があり、耐久寿命にも改良の限界があった。
歯車の噛合い部における面圧を低下させるべく、歯面同士が面接触を行うと想定される歯車に下記のものがある。
すなわち、歯車を加工成形する際に歯形プロフィールの歯末および歯元を略半円形状にし、両者の中心点をピッチ円上に位置させている。これにより、歯同士の噛合い率を2倍にし、完全な円当たりを実現させて転がり摩擦効果で騒音振動の減少を図っている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
歯車の製造時には、型を使用してプレス加工、鍛造、焼結、射出成形などを行って歯面の形成を容易に実現できるとしている。型の形成にあっては、CADやCAD/CAMにより得られたNCデータに基づいてNCレーザー加工機、NC放電加工機、NCマシニングセンターなどのNC複合加工機を用いて形成している。
【特許文献1】特開2002−98219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の歯車では、噛み合う相手歯車が円形のため、精度よく円滑に噛合するとしているが、円弧上の歯末が相手の歯元に滑りながら噛合するため、圧力角を規定し難いとともに、相手歯車への伝達力が小さく伝達効率が低下すると考えられる。
【0006】
本発明は上記の事情を考慮してなされたもので、その第1目的は、歯面同士の噛合い部で凹状の歯面に対して面接触接となるため、歯面同士の接触面積が大きくなり、歯面への伝達力に対する面圧が高くなり、伝達容量の増加ひいては耐久寿命の向上に寄与する歯車創成プロフィールおよび歯車創成プロフィールを用いた動力伝達装置を提供するにある。
【0007】
本発明の第2目的は、相手の歯面に対する圧力角が小さくなり、この点からも相手の歯面への伝達力が大きくなり、伝達効率を向上させる歯車創成プロフィールおよび歯車創成プロフィールを用いた動力伝達装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(請求項1について)
歯車創成プロフィールにおいて、その基礎円を転がり面上に転がす時に形成された転がり曲線の軌跡のうち、結節部となる変曲点付近で上下にわたってループを形成する負の転位曲線に沿って歯車の歯面を創成したことを特徴とする。
【0009】
今日では、トロコイド曲線やインボリュート曲線などの転がり曲線に基づく歯形は、基本曲線そのものとなったり、正の方向に転位させた滑らかな曲線により創成されるのが通常である。これに対して、転がり曲線で負の方向への転位量を増加させてゆくと、転がり曲線は、滑らかなコイル状を描き、結節部となる変曲点付近で上下にわたってループを形成する。
【0010】
このループに基づいて歯形のプロフィールを創成することにより歯面が凹状になる。このため、相手の歯面とは、噛合時の弾性変形もあって面接触で噛み合う。この結果、両者の噛合い部では相手の歯面に対する接触面積が増加し、面圧を低下させて剛性を高める。このため、相手の歯面に対する伝達力(伝達容量)の増加をもたらし、耐久寿命の向上に寄与する。
しかも、相手の歯面に対する圧力角が小さくなり、この点からも相手の歯面への伝達力が大きくなり、伝達効率を向上させることができる。
【0011】
(請求項2について)
転がり曲線の軌跡は、転位トロコイド曲線あるいは転位インボリュート曲線であることを特徴とする。この場合に描く軌跡は、転がり曲線のなかでも、よく知られているため、歯形プロフィールの創成を行い易い利点がある。
【0012】
(請求項3について)
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位外歯ピニオンとピンラックとを外接状態に噛合させて動力伝達装置を構成している。
これにより、請求項1と同様の効果を有する回転−直線変換機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
【0013】
(請求項4について)
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位外歯ピニオンとピンピニオンとを外接状態に噛合させて動力伝達装置を構成している。
これにより、請求項1と同様の効果を有する回転伝達機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
【0014】
(請求項5について)
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位外歯ピニオンの外部にピンピニオンを内接状態に噛合させて動力伝達装置を構成している。
これにより、請求項1と同様の効果を有する回転伝達機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
【0015】
(請求項6について)
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位内歯ピニオンの内部にピンピニオンを内接状態に噛合させて動力伝達装置を構成している。
これによっても、請求項1と同様の効果を有する回転伝達機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
【0016】
(請求項7について)
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位ラックとピンピニオンとを噛合させて動力伝達装置を構成している。
これによっても、請求項1と同様の効果を有する回転伝達機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
【0017】
(請求項8について)
負転位外歯ピニオンとピンピニオンとは所定の歯数差をもっており、負転位外歯ピニオンはピンピニオンに噛合しながら自転成分および公転成分を含む回転を行うようになっている。負転位外歯ピニオンの回転に伴い、負転位外歯ピニオンの自転成分のみをピンピニオンに伝える継手部が設けられ、負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの歯数差に基づく変速機構を構成する。
【0018】
この場合、負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの歯数差が大きいと、請求項1と同様の効果を有する増・減速機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
また、負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの歯数差が小さいと、請求項1と同様の効果を有する差動減速機構としての動力伝達装置を実現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明では、噛合い部では相手の歯面に対する接触面積が増加し、面圧を低下させて相手の歯面に対する伝達力の増加をもたらし、しかも、相手の歯面に対する圧力角が小さくなり、この点からも相手の歯面への伝達力(伝達容量)を増大させることができる。
【実施例1】
【0020】
図1ないし図3に基づいて本発明の実施例1を説明する。
図1の(a)は、転がり曲線のうちトロコイド曲線の概略図であり、基礎円1を転がり面2に沿って転がすことにより得られる。固定点3、4、5を基礎円1上をはじめ内外のいずれに決めるかにより、基本曲線6(正規のサイクロイド曲線)、正の転位曲線7(内サイクロイド曲線)、および負の転位曲線8(外サイクロイド曲線)となる。負の転位曲線8では、コイル波状の軌跡となっており、その変曲点付近で上下にわたってループを形成した結節部9を備えている。
【0021】
図1の(b)は、転がり曲線のうちインボリュート曲線の概略図であり、基礎円10に巻いた糸11の先端部11aを接線方向に弛ませないように繰り出すことにより得られる。固定点12、13、14を基礎円10上をはじめ内外のいずれに決めるかにより、基本曲線15(正規のインボリュート曲線)、負の転位曲線16(内インボリュート曲線)、および正の転位曲線17(外インボリュート曲線)となる。負の転位曲線16(内インボリュート曲線)では、コイル波状の軌跡となっており、その変曲点付近で上下にわたってループを形成する結節部19を備えている。
【0022】
本発明では、転がり曲線のうち負の転位曲線8、16を用いて歯面プロフィールを創成する。転位歯車の創成にあっては、図2に示すように正転位あるいは負転位を行う転位歯車がある。正転位では、標準歯車20の歯形曲線を基礎円24A(中心O、半径R)に対して歯先円21と歯底円22とを正の転位量Sとして外側へずらして大きくした歯形23を用いる{図2の(a)参照}。
これに対して、負転位では、標準歯車20aの歯形曲線を基礎円24B(中心O、半径R)に対して歯先円21aと歯底円22aとを負の転位量Sとして内側へずらして小さくした歯形23aを用いる{図2の(b)参照}。
【0023】
本発明の各実施例では、転がり曲線のうち負の転位曲線8、16におけるループ波状の結節部9、19により創成した歯形を用いて歯車を加工している。この例として、負転位ラック24(ペリコロイドラック)とピンピニオン25とを噛合させて構成した動力伝達装置26が挙げられる(図3参照)。
【0024】
この場合、負転位ラック24におけるラック歯24aの歯末24b、歯元24cおよび歯底24dがなす歯面のプロフィールは、例えば負の転位曲線8の結節部9により凹状の歯形を創成加工されている。ピンピニオン25の回転が負転位ラック24に伝達される時、ピンピニオン25の円柱ピン25aがラック歯24aの歯末24b近傍に圧接して伝達力を与える(回転−直線変換機構)。
【0025】
上記構成では、負の転位曲線8の結節部9に基づいてラック歯24aのプロフィールを創成することにより歯面が凹状になる。この状態で、ピンピニオン25は、噛合時の弾性変形もあって、ラック歯24aの歯面に対して面接触で噛み合う。この結果、両者の噛合い部27では、ピンピニオン25のラック歯24aに対する接触面積が増加し、面圧を低下させて剛性を高める。このため、ラック歯24aの歯面に対する伝達力(伝達容量)の増加をもたらし、耐久寿命の向上に寄与する。
しかも、後述する実施例2で述べるように、ピンピニオン25のラック歯24aに対する圧力角が小さくなり、この点からもラック歯24aへの伝達力が大きくなり、伝達効率を向上させることができる。
【実施例2】
【0026】
図4および図5の(a)は本発明の実施例2を示す。
実施例2では、負の転位曲線16の結節部19{図1の(b)参照}により負転位外歯ピニオン29(ペリインボリュートピニオン)の歯面プロフィールを創成加工している。負転位外歯ピニオン29をピンラック28と噛合させて動力伝達装置30を構成している(図4参照)。負転位外歯ピニオン29の回転がピンラック28に伝達される時、噛合い部31で負転位外歯ピニオン29が歯末29b近傍をピンラック28の円柱ピン28aに圧接させて伝達力を与える(回転−直線変換機構)。このように構成しても実施例1と同様な効果が得られるものである。
【0027】
この場合、図5の(a)に示すように、負転位外歯ピニオン29のピニオン歯29aとピンラック28の円柱ピン28aとは噛合い部31で圧接して比較的小さな圧力角θ1(17.764°)を形成する。負転位外歯ピニオン29における基準ピッチ円32の噛合い部31を通る径方向の直線をNとし、円柱ピン28aに対する噛合い部31での接線をMとすると、圧力角θ1は径方向の直線Nと接線Mとがなす挟角を意味する。
これに対して、図5の(b)に示すように、正の転位曲線17{図1の(b)参照}により創成した正の転位ピニオンのピニオン歯Qがピンラックの円柱ピンPに対してなす圧力角ω1(26.327°)は比較的大きい。
【実施例3】
【0028】
図6および図7の(a)は本発明の実施例3を示す。
実施例3では、負の転位曲線8の結節部9{図1の(a)参照}により負転位外歯ピニオン33(外歯ペリトロコイドピニオン)におけるピニオン歯33aの歯面プロフィールを創成加工している。負転位外歯ピニオン33をピンピニオン34と噛合させて動力伝達装置(増・減速機構)35を構成している{図6の(a)、(b)参照}。このように構成しても実施例1と同様な効果が得られる。
【0029】
ちなみに、噛合い部36において、ピニオン歯33aの歯末33b近傍とピンピニオン34の円柱ピン34aとがなす圧力角θ2は9.597°である{図7の(a)参照}。 これに対して、図7の(b)に示すように、正の転位曲線7{図1の(a)参照}により創成した正の転位ピニオンのピニオン歯Q1がピンラックの円柱ピンP1に対してなす圧力角ω2は21.555°と比較的大きい。
【実施例4】
【0030】
図8および図9の(a)は本発明の実施例4を示す。
実施例4では、負の転位曲線8の結節部9{図1の(a)参照}により負転位外歯ピニオン37(外歯ペリトロコイドピニオン)の歯面プロフィールを創成加工している。負転位外歯ピニオン37のピニオン歯37aをピンピニオン38の円柱ピン38aと内接状態に噛合させて動力伝達装置(増・減速機構)39を構成している{図8の(b)参照}。
【0031】
この場合、図8の(a)に示すように、負の転位曲線8の結節部9の軌跡に沿って創成円9aを移動させることにより、円柱ピン38aと同径の創成円9aが描く包絡線9bが得られる。この包絡線9bを創成プロフィールとして負転位外歯ピニオン37のピニオン歯37aを加工している。このように構成しても実施例1と同様な効果が得られる。
【0032】
ちなみに、噛合い部40において、負転位外歯ピニオン37の歯末37b近傍とピンピニオン38の円柱ピン38aとがなす圧力角θ3は15.16°である{図9の(a)参照}。これに対して、図9の(b)に示すように、正の転位曲線7{図1の(a)参照}により創成したる正の転位外歯ピニオンのピニオン歯Q2がピンラックの円柱ピンP2に対してなす圧力角ω3は23.033°と比較的大きい。
【実施例5】
【0033】
図10の(a)、(b)は本発明の実施例5を示す。
実施例5では、負の転位曲線8の結節部9{図1の(a)参照}により負転位内歯ピニオン41(内歯ペリトロコイドピニオン)の歯面プロフィールを創成加工している。負転位内歯ピニオン41のピニオン歯41aをピンピニオン42の円柱ピン42aと内接状態に噛合させて動力伝達装置(増・減速機構)43を構成している{図10の(b)参照}。このように構成しても実施例1と同様な効果が得られる。
この場合、図10の(a)に示す噛合い部44において、負転位内歯ピニオン41の歯末41b近傍とピンピニオン42の円柱ピン42aとがなす圧力角は実施例4と同様に考えられる。
【実施例6】
【0034】
図11の(a)、(b)および図12は本発明の実施例6を示す。
実施例6では、負の転位曲線8の結節部9{図1の(a)参照}により負転位外歯ピニオン45(外歯ペリトロコイドピニオン)の歯面プロフィールを創成加工している。負転位外歯ピニオン45のピニオン歯45aをピンピニオン46の円柱ピン46aと内接状態に噛合させて動力伝達装置(差動減速機構)47を構成している{図11の(a)参照}。
【0035】
負転位外歯ピニオン45は、ピンピニオン46に対する噛合時、偏心状態に組付けられている。負転位外歯ピニオン45には、内側円49に沿って複数の挿通円部50を形成して静止部材(図示せず)に設けられた突部51を偏心量Eだけ隙間を余して遊嵌状態に挿入している。負転位外歯ピニオン45の挿通円部50と突部51とで継手部52を構成している。
【0036】
負転位外歯ピニオン45に矢印A方向に入力が与えられると、負転位外歯ピニオン45は、ピンピニオン46に噛み合いながら自転成分および公転成分を伴った偏心回転運動を行う。挿通円部50が内周縁部を突部51の外周部に沿って矢印B方向に回転変位させることにより、負転位外歯ピニオン45の公転成分が相殺されて矢印C方向の自転成分のみがピンピニオン46に出力として伝えられる。この出力は、負転位外歯ピニオン45とピンピニオン46との歯数差に応じた回転数となった変速状態にある。このように構成しても実施例1と同様な効果が得られる。
【0037】
この場合、噛合い部53において、負転位外歯ピニオン45の歯末45b近傍とピンピニオン46の円柱ピン46aとがなす圧力角θ4は極めて小さいことが予測される{図11の(b)参照}。これに対して、図11の(c)に示すように、正の転位曲線7{図1の(a)参照}により創成したる正の転位外歯ピニオンのピニオン歯Q3が内歯ピンピニオンの円柱ピンP3に対してなす圧力角ω4は比較的大きい。
【0038】
ちなみに、図12の(a)、(b)は、負転位外歯ピニオン45とピンピニオン46とがなす圧力角を歯面の噛合い位置(No.0〜23)に応じて実測した結果を示す。この結果によれば、負転位外歯ピニオン45に対するピンピニオン46の噛合状態が十分な時(特にNo.3、4)、これらの圧力角が6.6°や0.4°と極めて小さくなることが分かる。
【0039】
これに対して、図13の(a)、(b)に示すように、正の転位外歯ピニオンのピニオン歯Q3が内歯ピンピニオンの円柱ピンP3に対してなす圧力角は、No.3、4で31.3°や30.5°と比較的大きい。
この場合、比較条件を同一とするため、ピンピニオン46および内歯ピンピニオン円柱ピンP3を大円歯数として46個、負転位外歯ピニオン45および正の転位外歯ピニオンのピニオン歯Q3を小円歯数として45個と設定している。基礎円ピッチはいずれも8mmで、負転位外歯ピニオン45の転位量を−10mm、正の転位外歯ピニオンの転位量を+10mmにしている。
【0040】
(変形例)
(a)なお、実施例1〜6では、転がり曲線としてトロコイドやインボリュート系の曲線を用いたが、他の曲線を適用してもよい。
(b)実施例6における継手部52には、挿通円部50と突部51とからなるものに限らず、オルダム継手などを用いてもよく、要は偏心運動から公転成分を相殺できる伝達継手であればよい。
(c)転がり曲線に基づく負の転位量としては、使用状況、設置場所あるいは負荷荷重などによって所望に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の歯車創成プロフィールおよび歯車創成プロフィールを用いた動力伝達装置では、歯面同士の噛合い部で凹状の歯面に対して面接触接となるため、歯面同士の接触面積が大きくなり、歯面への伝達力に対する面圧が高くなり、伝達容量の増加ひいては耐久寿命の向上に寄与する。しかも相手の歯面に対する圧力角が小さくなり、この点からも相手の歯面への伝達力が大きくなり、伝達効率が向上する。小型で高性能な動力伝達装置が入手できる有益性から生産の効率化を求める需要者の増加に伴い、機械産業界へ広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(a)は転位トロコイド曲線の概略図(実施例1)、(b)は転位インボリュート曲線の概略図である(実施例1)。
【図2】(a)は標準歯車を正転位する態様を示す概略図、(b)は標準歯車を負転位する態様を示す概略図である(実施例1)。
【図3】負転位ラックとピンピニオンとを噛合させて構成した動力伝達装置の概略図である(実施例1)。
【図4】負転位外歯ピニオンをピンラックと噛合させて構成した動力伝達装置の概略図である(実施例2)。
【図5】(a)は負転位外歯ピニオンとピンラックとの圧力角を示す概略図である(実施例2)、(b)は比較のため正の転位外歯ピニオンとピンラックとの圧力角を示す概略図である。
【図6】(a)は負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの噛合い部を示す概略図(実施例3)、(b)は負転位外歯ピニオンをピンピニオンと噛合させて構成した動力伝達装置の概略図である(実施例3)。
【図7】(a)は負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの圧力角を示す概略図である(実施例3)、(b)は比較のため正の転位外歯ピニオンとピンピニオンとの圧力角を示す概略図である。
【図8】(a)は負転位外歯ピニオンをピンピニオンと内接状態に噛合させて構成した動力伝達装置の概略図(実施例4)、(b)は負の転位曲線に沿って創成円を移動させて得た包絡線を示す概略図である(実施例4)。
【図9】(a)は負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの圧力角を示す概略図である(実施例4)、(b)は比較のため正の転位外歯ピニオンとピンピニオンとの圧力角を示す概略図である。
【図10】(a)は負転位内歯ピニオンとピンピニオンとの噛合い部を示す概略図(実施例5)、(b)は負転位内歯ピニオンをピンピニオンと内接状態に噛合させて構成した動力伝達装置を示す概略図である(実施例5)。
【図11】(a)は負転位外歯ピニオンをピンピニオンと内接状態に噛合させて構成した動力伝達装置を示す概略図(実施例6)、(b)は負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの圧力角を示す概略図である(実施例6)、(c)は比較のため正の転位外歯ピニオンとピンピニオンとの圧力角を示す概略図である。
【図12】(a)は負転位外歯ピニオンとピンピニオンとがなす圧力角を歯面の噛合い位置に応じて実測した図表(実施例6)、(b)は負転位外歯ピニオンとピンピニオンとの噛合状態を示す概略図である(実施例6)。
【図13】(a)は比較のため正の転位外歯ピニオンとピンピニオンとがなす圧力角を歯面の噛合い位置に応じて実測した図表、(b)は正の転位外歯ピニオンとピンピニオンとの噛合状態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0043】
1、10 基礎円
2 転がり面
8、16 負の転位曲線
9、19 結節部
24 負転位ラック
24a ラック歯(歯面)
25、34、38、42、46 ピンピニオン
26、30、35、39、43、47 動力伝達装置
27、31、36、40、44 噛合い部
28 ピンラック
29、33、37、45 負転位外歯ピニオン
29a、33a、37a、41a、45a ピニオン歯(歯面)
41 負転位内歯ピニオン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車創成プロフィールにおいて、その基礎円を転がり面上に転がす時に形成された転がり曲線の軌跡のうち、結節部となる変曲点付近で上下にわたってループを形成する負の転位曲線に沿って歯車の歯面を創成したことを特徴とする歯車創成プロフィール。
【請求項2】
前記転がり曲線の軌跡は、転位トロコイド曲線あるいは転位インボリュート曲線であることを特徴とする請求項1に記載の歯車創成プロフィール。
【請求項3】
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位外歯ピニオンとピンラックとを外接状態に噛合させてなる動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位外歯ピニオンとピンピニオンとを外接状態に噛合させてなる動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位外歯ピニオンの外部にピンピニオンを内接状態に噛合させてなる動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位内歯ピニオンの内部にピンピニオンを内接状態に噛合させてなる動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位ラックとピンピニオンとを噛合させてなる動力伝達装置。
【請求項8】
前記負転位外歯ピニオンと前記ピンピニオンとは所定の歯数差をもっており、前記負転位外歯ピニオンは前記ピンピニオンに噛合しながら自転成分および公転成分を含む回転を行うようになっており、
前記負転位外歯ピニオンの回転に伴い、前記負転位外歯ピニオンの自転成分のみを前記ピンピニオンに伝える継手部が設けられ、前記負転位外歯ピニオンと前記ピンピニオンとの歯数差に基づく変速機構を構成することを特徴とする請求項5に記載の動力伝達装置。
【請求項1】
歯車創成プロフィールにおいて、その基礎円を転がり面上に転がす時に形成された転がり曲線の軌跡のうち、結節部となる変曲点付近で上下にわたってループを形成する負の転位曲線に沿って歯車の歯面を創成したことを特徴とする歯車創成プロフィール。
【請求項2】
前記転がり曲線の軌跡は、転位トロコイド曲線あるいは転位インボリュート曲線であることを特徴とする請求項1に記載の歯車創成プロフィール。
【請求項3】
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位外歯ピニオンとピンラックとを外接状態に噛合させてなる動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位外歯ピニオンとピンピニオンとを外接状態に噛合させてなる動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位外歯ピニオンの外部にピンピニオンを内接状態に噛合させてなる動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位内歯ピニオンの内部にピンピニオンを内接状態に噛合させてなる動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1に記載の歯車創成プロフィールにより歯切り形成した負転位ラックとピンピニオンとを噛合させてなる動力伝達装置。
【請求項8】
前記負転位外歯ピニオンと前記ピンピニオンとは所定の歯数差をもっており、前記負転位外歯ピニオンは前記ピンピニオンに噛合しながら自転成分および公転成分を含む回転を行うようになっており、
前記負転位外歯ピニオンの回転に伴い、前記負転位外歯ピニオンの自転成分のみを前記ピンピニオンに伝える継手部が設けられ、前記負転位外歯ピニオンと前記ピンピニオンとの歯数差に基づく変速機構を構成することを特徴とする請求項5に記載の動力伝達装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−215552(P2008−215552A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56210(P2007−56210)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000124188)加茂精工株式会社 (14)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000124188)加茂精工株式会社 (14)
【Fターム(参考)】
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