説明

歯車及びこれを用いたプリンタ

【課題】安価であって、優れた制振効果を発揮する歯車及びこれを用いたプリンタを提供すること。
【解決手段】回転軸31と、この回転軸31と駆動される歯車本体41とを備えた歯車21であって、歯車本体41は、外部から駆動力を受ける受け側歯車部材42と、この受け側歯車部材42の駆動力が伝達される駆動側歯車部材43とを有し、受け側歯車部材42と駆動側歯車部材43の主面42b,43bどうしが制振材50を介して接続されて、駆動側歯車部材43に対してのみ従動する部材を噛合させる構成となっており、回転軸31は、受け側歯車部材42に接続されている受け側回転軸38と、駆動側歯車部材43に接続されている駆動側回転軸39とに分かれて互いに接触していない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車及びこれを用いたプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、従来の一般的に用いられている歯車100の概略断面図である。この図に示すように、従来の歯車100は、コスト抑制のため回転軸200と歯車本体300とを一体化せず、歯車本体300の貫通孔に回転軸200を挿通して、Cリング400で固定することが多い。
しかし、このように回転軸200と歯車本体300とを別々に形成する方法だと、回転軸200と歯車本体300との間の隙間Sによりガタつく恐れがあり、このようなガタつきが騒音の原因になっている。特に、プリンタでは、一つのモータをもって複数の紙送り用のローラに回転力を伝達するため、複雑な駆動系を必要とし、そこから発生する振動・騒音が問題になっている。
また、歯車本体300はCリング400により留められているため、図9の上下方向にガタつく恐れもあり、やはりこのガタつきが騒音の原因になっている。
【0003】
図10は、このような振動・騒音問題を解決するためになされた発明であって、一対の歯車2,3からなる歯車装置1の概略斜視図である(例えば、特許文献1参照)。
この図の歯車1は、駆動側の歯車2と、この歯車2の回転力を伝達される従動側の歯車3とを有し、従動側の歯車3については、弾力を有する制振材6を挟み込んで2枚の歯車板4,5を重ねて形成するようになっている。
【0004】
そして、歯車2,3が噛合していなときは(図示せず)、歯車板4の歯部7と歯車板5の歯部8とが円周方向に所定の距離をずらして位相が異なるように配置しておき、歯車2,3を噛合させる際に、図示するように、歯部7と歯部8の位相が同じになるように噛合させている。これにより、歯車2,3が噛合しているときは、弾力のある制振材6の付勢力によって、歯部7,8と歯車2の歯部9との間におけるガタつきを解消し、騒音の発生を抑制できる。
【0005】
【特許文献1】特開平7−208583号の公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、図10の歯車1では、歯部7,8と歯車2の歯部9との間におけるガタつきが解消されても、図10の上下方向の振動について、制振効果を発揮することはない。
また、図10の歯車1では、モータ等の駆動源(図示せず)から発生する振動は、回転軸(図示せず)を伝わって歯車2に伝達され、この歯車板2に伝達された振動は、歯車3の歯車板4,5にも伝達されることになる。また、歯車3が駆動側であったとしても、同じように歯車2,3間において、駆動源の振動は伝達される。このため、図10のような歯車1では、確かに歯車2,3間のガタつきは有効に抑制されるとしても、モータ等の駆動源の振動を抑制するまでは至らず、その制振効果は十分ではない。
なお、図10のような歯車ではなく、歯車の材料を柔軟性のある材料にして低騒音化する方法もあるが、そのような材料は一般的にコストが高く、また、耐久性との関係で、歯車の材料の柔軟化にも限界がある。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためのものであり、安価であって、優れた制振効果を発揮する歯車及びこれを用いたプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的は、第1の発明によれば、回転軸と、この回転軸と駆動される歯車本体とを備えた歯車であって、前記歯車本体は、外部から駆動力を受ける受け側歯車部材と、この受け側歯車部材の駆動力が伝達される駆動側歯車部材とを有し、前記受け側歯車部材と前記駆動側歯車部材の主面どうしが制振材を介して接続されて、前記駆動側歯車部材に対してのみ従動する部材を噛合させる構成となっており、前記回転軸は、前記受け側歯車部材に接続されている受け側回転軸と、前記駆動側歯車部材に接続されている駆動側回転軸とに分かれて互いに接触していない歯車により達成される。
【0009】
第1の発明の構成によれば、歯車本体は、外部から駆動力を受ける受け側歯車部材と、受け側歯車部材の駆動力が伝達される駆動側歯車部材とを有し、受け側歯車部材と駆動側歯車部材の主面どうしが制振材を介して接続されている。このため、受け側歯車部材と駆動側歯車部材との間において、制振材は振動の伝達を抑制しつつ駆動力を伝達する。
また、回転軸については、受け側歯車部材に接続されている受け側回転軸と、駆動側歯車部材に接続されている駆動側回転軸とに分かれて互いに接触していない。このため、モータ等の駆動源で発生した振動は、回転軸を伝わって駆動側の歯車部材に伝達されることもない。したがって、駆動側歯車部材については、受け側歯車部材からも回転軸からも振動が伝達されることを防止できる。
そして、この駆動側歯車部材に対してのみ従動する歯車等の部材を噛合させる構成となっているので、モータ等の駆動源で発生した振動が、従動する歯車等の部材に伝達されることを有効に防止できる。
かくして、本発明の効果として、安価であって、優れた制振効果を発揮する歯車を提供することができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明の構成において、前記受け側回転軸を受ける軸受けと、前記駆動側回転軸を受ける軸受けにより、前記制振材を圧縮して前記歯車本体を挟むようにしたことを特徴とする。
第2の発明の構成によれば、受け側回転軸を受ける軸受けと、駆動側回転軸を受ける軸受けとで、制振材を圧縮して歯車本体を挟むようにした。したがって、制振材は、回転軸及びこの回転軸に接続された歯車本体を軸受けに押し付けようとするため、この押し付ける方向のガタつきを有効に防止できる。
【0011】
第3の発明は、第1または第2の発明の構成において、前記受け側歯車部材、及び/又は前記駆動側歯車部材には、前記制振材側に突出した突起部が設けられていることを特徴とする。
第3の発明の構成によれば、受け側歯車部材、及び/又は駆動側歯車部材には、制振材側に突出した突起部が設けられている。したがって、受け側歯車部材と駆動側歯車部材とが制振材を介して接続されていたとしても、突起部と制振材とが係止して、駆動側歯車部材は、受け側歯車部材の回転に対して安定して追随することになる。
【0012】
第4の発明は、第1ないし第3の発明のいずれかの構成において、前記受け側歯車部材と前記駆動側歯車部材との間における前記制振材に、穴を開けるようにしたことを特徴とする。
第4の発明の構成によれば、受け側歯車部材と駆動側歯車部材との間における制振材に穴を開けるようにしたので、制振材の弾性力に変化を加えて、例えば、歯車を軸受に押し付ける力などを調整し、歯車の回転を安定させることができる。
【0013】
また、上述の目的は、第5の発明によれば、回転軸と、この回転軸と駆動される歯車本体とを備えた歯車であって、前記歯車本体は、外部からの駆動力を受ける受け側歯車部材と、この受け側歯車部材の駆動力が伝達される駆動側歯車部材とを有し、前記受け側歯車部材と前記駆動側歯車部材の主面どうしが制振材を介して接続されて、前記駆動側歯車部材に対してのみ従動する部材を噛合させる構成となっており、前記回転軸は、前記歯車本体と接触しておらず、その一方の端部側から突出した突出部と、他方の端部側から突出した他方の突出部とで、前記制振材を圧縮して、前記制振材とは異なる第2の制振材を介して前記歯車本体を挟むようにした歯車により達成される。
【0014】
第5の発明の構成によれば、第1の発明と同様に、受け側歯車部材と駆動側歯車部材の主面どうしが制振材を介して接続されているため、受け側歯車部材と駆動側歯車部材との間において、振動の伝達を抑制しつつ駆動力を伝達する。また、回転軸は歯車本体と接触していないので、モータ等の駆動源で発生した振動が、回転軸を伝わって、直接、歯車本体に伝達されることもない。したがって、駆動側歯車部材については、受け側歯車部材からも回転軸からも振動が伝達されることを防止している。そして、この駆動側歯車部材に対してのみ従動する部材を噛合する構成となっているので、モータ等の駆動源で発生した振動が伝達されることを有効に防止できる。
また、回転軸については、その一方の端部側から突出した突出部と、他方の端部側から突出した他方の突出部とで、制振材とは異なる第2の制振材を介して歯車本体を挟むようにした。このため、回転軸と歯車本体との間は、第2の制振材によって、振動の伝達を抑制しつつ駆動力を伝達できる。
また、回転軸の一方の端部側から突出した突出部と、他方の端部側から突出した他方の突出部とで、制振材を圧縮して歯車本体を挟むようにした。したがって、制振材は、歯車本体を突出部に押し付けるため、この押し付ける方向の歯車本体のガタつきを有効に防止できる。
かくして、本発明の効果として、安価であって、優れた制振効果を発揮する歯車を提供することができる。
【0015】
また、上述の目的は、第6の発明によれば、回転軸とこの回転軸と駆動される歯車本体とを備えた歯車を用いて、駆動源の駆動力を順次伝達するようにしたプリンタであって、前記歯車本体は、前記駆動源からの駆動力を受ける受け側歯車部材と、この受け側歯車部材の駆動力が伝達される駆動側歯車部材とを有し、前記受け側歯車部材と前記駆動側歯車部材の主面どうしが制振材を介して接続されて、前記駆動側歯車部材に対してのみ従動する部材を噛合させる構成となっており、前記回転軸は、前記受け側歯車部材に接続されている受け側回転軸と、前記駆動側歯車部材に接続されている駆動側回転軸とに分かれて互いに接触していないプリンタにより達成される。
【0016】
第6の発明の構成によれば、プリンタの歯車は、第1の発明と同様に、歯車本体について、受け側歯車部材と駆動側歯車部材との主面どうしが制振材を介して接続されている。また、回転軸については、受け側回転軸と駆動側回転軸とに分かれて互いに接触していない。したがって、第1の発明と同様に、駆動側歯車部材については、受け側歯車部材からも回転軸からも振動が伝達されることを防止している。そして、この駆動側歯車部材に対してのみ従動する部材を噛合する構成となっているので、モータ等の駆動源で発生した振動が歯車間等で伝達されることを有効に防止できる。
かくして、本発明の効果として、安価であって、優れた制振効果を発揮するプリンタを提供することができる。
【0017】
第7の発明は、第6の発明の構成において、前記受け側回転軸を受ける軸受けと、前記駆動側回転軸を受ける軸受けとで、前記制振材を圧縮して前記歯車本体を挟むようにしたことを特徴とする。
第7の発明の構成によれば、受け側回転軸を受ける軸受けと、駆動側回転軸を受ける軸受けとで、制振材を圧縮して歯車本体を挟むようにしたため、第2の発明と同様に、制振材が押し付ける方向の歯車本体および回転軸のガタつきを有効に防止できる。
【0018】
また、上述の目的は、第8の発明によれば、回転軸とこの回転軸と駆動される歯車本体とを備えた歯車を用いて、駆動源の駆動力を順次伝達するようにしたプリンタであって、前記歯車本体は、前記駆動源からの駆動力を受ける受け側歯車部材と、この受け側歯車部材の駆動力が伝達される駆動側歯車部材とを有し、前記受け側歯車部材と前記駆動側歯車部材の主面どうしが制振材を介して接続されて、前記駆動側歯車部材に対してのみ従動する部材を噛合させる構成となっており、前記回転軸は、前記歯車本体と接触しておらず、その一方の端部側から突出した突出部と、他方の端部側から突出した他方の突出部とで、前記制振材を圧縮して、前記制振材とは異なる第2の制振材を介して前記歯車本体を挟むようにした歯車装置により達成される。
【0019】
第8の発明の構成によれば、第5の発明と同様に、歯車本体については、受け側歯車部材と駆動側歯車部材との主面どうしが制振材を介して接続されている。また、回転軸については、歯車本体と接触していない。このため、第5の発明と同様に、駆動側歯車部材については、受け側歯車部材からも回転軸からも振動が伝達されることを防止できる。そして、この駆動側歯車部材に対してのみ従動する歯車等の部材を噛合する構成としているので、モータ等の駆動源で発生した振動が歯車間等で伝達されることを有効に防止できる。そして、回転軸については、その一方の端部側から突出した突出部と、他方の端部側から突出した他方の突出部とで、制振材とは異なる第2の制振材を介して歯車本体を挟むようにしたため、回転軸と歯車本体との間は、第2の制振材によって振動の伝達を抑制しつつ駆動力を伝達できる。また、回転軸の一方の端部側から突出した突出部と、他方の端部側から突出した他方の突出部とで、制振材を圧縮して歯車本体を挟むようにした。したがって、第5の発明と同様に、制振材は受け側歯車部材と駆動側歯車部材とが離間する方向に作用して、ガタつきを有効に防止できる。
かくして、本発明の効果として、安価であって、優れた制振効果を発揮するプリンタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1および図2は、本発明の第1の実施形態に係る歯車装置10を用いた紙送り機構を有するプリンタ12を示しており、図1はその概略縦断面図、図2は図1を矢印E方向から見た概略断面図である。尚、図面が煩雑にならないように、歯車装置10と関連した部分のみを図示しており、その他の内部機構は省略している。また、歯車の噛合する歯部も省略している。
このプリンタ12は、筐体13内に、紙等の印刷媒体Pを、トレーから給紙して転写部に搬送するための給紙ローラ(歯車に隠れているため図示せず)、レーザー方式等により印刷媒体Pに印刷して搬送する転写部ローラ14、及び印刷した状態を安定させて搬送する定着部ローラ15の順に搬送しながら、外部に送り出すようになっている。なお、図1及び図2では、全てのローラを図示していない。
【0021】
この際、上述した各ローラ14,15等は、駆動源の一例であるモータMの駆動力で回転するようになっており、このモータMの駆動力を各ローラ14,15等に伝達するための手段として、歯車装置10や搬送用ベルト16がある。
このうち歯車装置10は、複数の歯車21〜26を用いて、モータMの駆動力を図示しない給紙ローラや定着部ローラ15に伝達するようにしている。すなわち、一つのモータMで複数のローラ15等を同期して駆動させ、かつ、モータMの回転を印刷媒体Pの搬送速度に合わせられるように、複数の歯車21〜26が噛合されている。
具体的には、モータMの駆動力は、まず歯車21に伝達され、次いで、歯車21に伝達された駆動力は、歯車21の周縁に列設された歯部(図示せず)と歯車22の周縁に列設された歯部(図示せず)とが噛合することで歯車22に伝達され、同様にして、歯車23、歯車24、歯車25、及び歯車26に順次伝達できるようになっている。
【0022】
これら複数の歯車21〜26は、それぞれ、回転軸31〜36と、この回転軸31〜36と一体に駆動される歯車本体41〜46とを備えている。
回転軸31〜36は、筐体13内の、例えば、一般的な亜鉛鍍金鋼板(JIS:SECC)からなるシャーシ18に対して回転自在に取り付けられている。
シャーシ18は、その内部空間S1が他の筐体13内の空間S2から封止されており、互いに平行な2枚の平板18a,18bを有している。そして、この2枚の平板18a,18bのうち1枚又は2枚をもって、各回転軸31〜36が互いに平行になるように支持されている。例えば、歯車21の回転軸31は、一方の端部31aが平板18aに、他方の端部31bが平板18bに、それぞれ支持されている。
【0023】
歯車本体41〜46は、回転軸31〜36が平行な平行軸歯車となっている。また、歯車本体41〜46は、それぞれ、歯すじが回転軸31〜36に対して平行であって、円筒状からなる所謂平歯車となっているが、本発明はこのような形態に限られることなく、例えば、はすば歯車、やまば歯車、或いは、交差軸や食い違い軸の歯車等を組み合わせて形成するようにしてもよい。
【0024】
ここで、このような歯車装置10に設けられた複数の歯車21〜26のうち、歯車21については、他の歯車22等と異なった構成となっているので、これを詳細に説明する。
図3ないし図5は、歯車21を説明するための図であり、図3は歯車21についての概略分解斜視図、図4は歯車21を図2のシャーシ18に取り付けた状態における図3のA−A線の位置で切断した場合の概略断面図、図5は図3のB−B線の位置で切断した場合の概略断面図である。
【0025】
これらの図に示されるように、歯車21の一部を構成する歯車本体41は、外部から駆動力を受ける受け側歯車部材42と、この受け側歯車部材42の駆動力が伝達される駆動側歯車部材43とを有している。
具体的には、受け側歯車部材42および駆動側歯車部材43は、それぞれ、周縁に歯部42a,43aが設けられた円柱状であって略同一形状となっており、互いに平行に配置されている。また、受け側歯車部材42と駆動側歯車部材43とは、歯部42aと歯部43aとが回転方向R1に対して同一の位置に設けられて位相が同じになるようにして、その主面42b,43bが対向して配置されている。
【0026】
そして、受け側歯車部材42の歯部42aが、図1及び図2に示す外部の駆動源であるモータMと噛合されて、モータMから駆動力を受けるようになっている。また、この受け側歯車部材42の駆動力が伝達されて回転する駆動側歯車部材43に対してのみ従動する部材を噛合させる構成となっており、本実施形態の場合、駆動側歯車部材43の歯部43aが、隣接する歯車22の歯車本体42(図1参照)と噛合して、歯車22に駆動力を伝達するようになっている。
【0027】
この際、受け側歯車部材42の駆動力は、制振材50を介して駆動側歯車部材43に伝達するようになっている。
すなわち、受け側歯車部材42と駆動側歯車部材43の主面42b,43bどうしが、制振材50を介して接続されており、受け側歯車部材42と駆動側歯車部材43とは接触しないようになっている。
【0028】
具体的には、制振材50は、シリコンゴム、天然ゴム、熱可塑性エラストマー等の振動を吸収し、弾力性のある制振性材料で形成され、歯車部材42,43の互いに対向する歯部42a,43aを除いた主面42b,43bの部分で挟み込まれている。なお、制振材50は、歯車部材42,43に対して接着剤で接合され、或いは、歯車部材42,43を射出成形機の金型内に配置して、インサート成形で一体に成形するようにしてもよい。
【0029】
また、受け側歯車部材42、及び/又は駆動側歯車部材43には、主面42a,43aに突出した突起部46が設けられている。
本実施形態の突起部46は、図5に示すように、制振材50の厚み寸法D1よりも小さな長さ寸法L1を有し、制振材50側に食い込むように複数突出している。これにより、受け側歯車部材42が回転して、その回転力を制振材50を介して駆動側歯車部材43に伝達する際、突起部46と制振材50とが係止することになる。したがって、駆動側歯車部材43は、受け側歯車部材42の回転に対して安定して追随し、受け側歯車部材42の歯部42aと駆動側歯車部材43の歯部43aとの位相の幅がずれないようになっている。
【0030】
突起部46は、円錐状、円柱状、矩形状等を問わないが、図3に示すように、回転方向R1と略垂直な方向に沿って延びるように形成された矩形状にすることがより好ましく、これにより、受け側歯車部材42が回転した際、その回転力を制振材50を介して効率よく駆動側歯車部材43に伝達することができる。
さらに、本実施形態の突起部46は、図5に示すように、受け側歯車部材42および駆動側歯車部材43の双方に設けられており、受け側歯車部材42に設けられた突起部46と、駆動側歯車部材43に設けられた突起部46とが、回転方向R1を見て重なる部分(図5の符号H1の範囲内の部分)を有するように配置されている。これにより、受け側歯車部材42が回転すると、受け側歯車部材42の突起部46の先端部が、制振材50を介して、対向する駆動側歯車部材43の突起部46の先端部を押して、駆動側歯車部材43にその回転力を効率よく伝達することになる。
【0031】
一方、歯車21の一部を構成する回転軸31は、図3及び図4に示すように、受け側歯車部材42に接続されている受け側回転軸38と、駆動側歯車部材43に接続されている駆動側回転軸39とに分かれて互いに接触しないようになっている。
すなわち、本実施形態の回転軸31は二部材からなっており、そのうち受け側回転軸38は受け側歯車部材42に接続されて、駆動側歯車部材43には接続されておらず、駆動側回転軸39は駆動側歯車部材43に接続されて、受け側歯車部材42に接続されないようになっている。そして、受け側回転軸38と駆動側回転軸39との間にも、制振材50が配置されている。
なお、図4に示されるように、受け側回転軸38の制振材50に接した端部は、その他の部分に比べて外径が大きく形成され、受け側歯車部材42の凹部42cに係合している。また、駆動側回転軸39も、同様にして、駆動側歯車部材43の凹部43cに係合している。
【0032】
さらに、本実施形態の回転軸31は、受け側回転軸38を受ける軸受け52と、駆動側回転軸39を受ける軸受け51により、制振材50を圧縮して歯車本体41を挟むようにしている。
すなわち、本実施形態の場合、図4に示すように、軸受け52は互いに対向するシャーシ18a,18bのうち一方のシャーシ18aに、軸受け51は他方のシャーシ18bに固定されているので、この2枚のシャーシ18a,18bにより、歯車本体41は挟み込まれている。
【0033】
これらの軸受け52,51は、歯車本体41から離れるに従って内径が小さくなるようにした円錐状の穴50a,51aを有しており、この穴50a,51aに、受け側回転軸38および駆動側回転軸39の先端に向かうに従って外径が小さくなる円錐状の先端部が挿入されている。また、軸受け52,51は、例えば、砲金、真鍮、制振合金等の合金からなり、磨耗防止と制振作用をもって、低騒音化に寄与するようになっている。
【0034】
そして、この受け側歯車部材42に接続固定された受け側回転軸38を制振材50側に押しながら軸受け52に挿入し、駆動側歯車部材43に接続固定された駆動側回転軸39を制振材50側に押しながら軸受け51に挿入することで、歯車21の回転に支障がないように、制振材50を自然開放された状態に比べて内側に(即ち、受け側歯車部材42と駆動側歯車部材43とが接近する方向に)圧縮するようにしている。このため、制振材50は、受け側歯車部材42と駆動側歯車部材43とを、互いに離間する方向に押し付けようとするため、受け側回転軸38と軸受け52とのガタつき、駆動側回転軸39と軸受け51とのガタつきを抑制することができる。
【0035】
本発明の第1の実施形態は以上のように構成されており、図4に示されるように、歯車本体21は、受け側歯車部材42と駆動側歯車部材43との主面どうしが制振材50を介して接続されているため、受け側歯車部材42と駆動側歯車部材43との間において、制振材50は振動の伝達を抑制しつつ駆動力を伝達する。また、回転軸31についても、受け側回転軸38と駆動側回転軸39とが互いに接触していないため、モータM等の駆動源で発生した振動は、回転軸31を伝わって駆動側歯車部材43に伝達されることもない。
したがって、駆動側歯車部材43については、受け側歯車部材42からも回転軸31からも振動が伝達されることを防止できる。
そして、この駆動側歯車部材43に対してのみ従動する部材を噛合させる構成となっているので、モータM等の駆動源で発生した振動が、従動する歯車22(図2参照)等の部材に伝達されることを有効に防止できる。
【0036】
なお、本発明は、上述した特徴的な構成を有する歯車(本実施形態では歯車21)が、図1に示す歯車装置10の複数の歯車群のうち、いずれの歯車であってもよいが、図1に示すように、歯車21が外部の駆動源であるモータMと直接噛合することで、モータMの振動をいち早く吸収して、低騒音化を高めることができる。
【0037】
図6は、本発明の上述した第1の実施形態の変形例に係る歯車21−1であって、図4に対応した概略断面図である。なお、図6は図3のA−A線の断面である図4に対応しているため、上述した突起部46は表れないが、理解の便宜のために、突起部46の位置をずらして図示している。
この歯車21−1については、図1ないし図5の実施形態で用いた符号と同一の符号を付した箇所は共通する構成であるから、重複した説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0038】
図6の歯車21−1が上述した実施形態に係る歯車21と異なるのでは、制振材50についてのみである。
すなわち、受け側歯車部材42と駆動側歯車部材43との間における制振材50に、穴54を開けるようにした。
穴54は、本実施形態の場合、丸穴であって複数形成されており、回転方向R1について、受け側歯車部材42に設けられた突起部46と、駆動側歯車部材43に設けられた突起部46との間に配置されている。また、穴54は、受け側歯車部材42の突起部46と、駆動側歯車部材43の突起部46とが、回転方向R1を見て重なる高さ方向の範囲(図5の符号H1の範囲)に配置されている。
【0039】
本発明の第1の実施形態の変形例は以上のように構成され、受け側歯車部材42と駆動側歯車部材43との間における制振材50に穴54を開けるようにしたので、制振材50の弾性力に変化を加えて、例えば、歯車21−1を軸受に50,51押し付ける力などを調整し、歯車21−1の回転を安定させることができる。
【0040】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る歯車21−2であって、図4に対応した概略断面図である。
この歯車21−2については、図1ないし図6の実施形態で用いた符号と同一の符号を付した箇所は共通する構成であるから、重複した説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0041】
図7の歯車21−2が、第1の実施形態に係る歯車21と主に異なるのは、歯車本体41と回転軸60との駆動力の伝達構造、及び軸受けについてである。
すなわち、第2の実施形態の回転軸60は、歯車本体41と接触しておらず、その一方の端部60a側から突出した突出部62と、他方の端部60b側から突出した他方の突出部64とで、制振材50を圧縮するようにして、この制振材50とは異なる第2の制振材66を介して歯車本体41を挟むようにした。
【0042】
具体的には、一つの歯車21に設けられる回転軸60は1本であって、受け側歯車部材42および駆動側歯車部材43の夫々に設けられた貫通孔42c,43cに挿通されている。この貫通孔42c,43cは、受け側歯車部材42および駆動側歯車部材43の夫々の中央部に形成されており、回転軸60の外径よりも大きな内径を有し、回転軸60と貫通孔42c,43cの内面とが接触せずに内部空間S3が形成されている。
なお、受け側歯車部材42と駆動側歯車部材43との間に介在する制振材50の中央部にも貫通孔50aが設けられており、本実施形態の場合、貫通孔50aの内面と回転軸60とが接触して、回転軸60の回転力が制振材50にも伝達されるようになっている。
【0043】
また、回転軸60の駆動側歯車部材43側の端部60bは、一枚のシャーシ18bに設けられた軸受け53に挿通されて回転自在に支持されている。一方、回転軸60の受け側歯車部材42側の端部60aは、シャーシや軸受けに接続されずに自由端となっている。
なお、軸受け53は、回転軸60の一方が自由端となっても、回転軸60を挟持するなどして支持できるようになっている。本実施形態の場合、軸受け53は、図7に示すようにメタル軸受けを用いて回転軸60を支持しているが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば図8に示すように、回転軸60に接続された内輪72が、ボールベアリング74を介して、内輪72の外側の外輪76に回転自在に支持されるようにしてもよく、これにより回転軸60を円滑に回転させることができる。
【0044】
そして、回転軸60の受け側歯車部材42よりも外側には、受け側歯車部材42の主面と平行になるように、Cリングや座金などで周側面から突出した突出部62が形成されている。一方、回転軸60の駆動側歯車部材43よりも外側であって、軸受け51よりも内側には、駆動側歯車部材43の主面と平行になるように、Cリングや座金などにより、周側面から突出した突出部64が形成されている。これにより、突出部62と突出部64により、歯車本体41を、第2の制振材66を介して外側から挟み込んでいる。なお、突出部64と軸受け51とは接触していない。
【0045】
この際、突出部62と受け側歯車部材42との間、および突出部64と駆動側歯車部材43との間には、第2の制振材66が介在している。なお、第2の制振材66は、制振材50と同様の材料が用いられている。そして、突出部62,64で、制振材50を圧縮して、第2の制振材66を介して歯車本体41を挟むようにすると共に、突出部62と受け側歯車部材42との間の第2の制振材66、及び突出部64と駆動側歯車部材43との間の第2の制振材66も圧縮(突出部62,64と歯車本体41とを接近する方向に圧縮)している。これにより、回転軸60の駆動力は、突出部62,64、及び第2の制振材66を介して、歯車本体41に伝達されると共に、回転軸60の振動が歯車本体41に伝達することを有効に防止できる。
【0046】
なお、受け側歯車部材42の貫通孔42cの突出部62側の開口部付近42d、及び駆動側歯車部材43の貫通孔43cの突出部64側の開口部付近43dはテーパ状になっている(即ち、貫通孔42c,43cの外側の開口部付近42d,43dの内径は、突出部62,64側に向かうに従って除々に大きくなっている)。
そして、このテーパ状の開口部付近42d,43dに、第2の制振材66を配置している。これにより、回転軸60の駆動力は、水平方向及び高さ方向の双方のベクトルに対して伝達されることになり、突出部62,64の歯車本体41を押す力を歯車本体41に伝えると共に、回転軸60の回転力を歯車本体41に伝えることができる。
【0047】
本発明の実施形態の第2の実施形態に係る歯車21−2は以上のように構成され、第1の実施形態と同様に、受け側歯車部材42と駆動側歯車部材43の主面どうしが制振材50を介して接続されているため、受け側歯車部材42と駆動側歯車部材43との間において、振動の伝達を抑制しつつ駆動力を伝達できる。
また、回転軸60は歯車本体41と直接接触していないので、モータ等の駆動源で発生した振動が回転軸60を伝わって、直接、歯車本体41に伝達されることもない。したがって、駆動側歯車部材43については、受け側歯車部材42からも回転軸60からも振動が伝達されることを防止できる。
また、回転軸60については、その一方の端部60a側から突出した突出部62と、他方の端部60b側から突出した突出部64とで、第2の制振材66を介して歯車本体41を挟むようにした。このため、回転軸60と歯車本体41との間は、第2の制振材66によって、振動の伝達を抑制しつつ駆動力を伝達できる。
また、突出部62と突出部64とで、制振材50を圧縮して歯車本体41を挟むようにしたため、制振材50は、歯車本体41を突出部62,64に押し付け、この押し付ける方向の歯車本体41のガタつきを有効に防止できる。
【0048】
本発明は上述の実施形態に限定されない。各実施形態や各変形例の各構成はこれらを適宜組み合わせたり、省略し、図示しない他の構成と組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る歯車装置を用いた紙送り機構を有するプリンタの概略縦断面図。
【図2】図1を矢印E方向から見た場合の概略断面図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る歯車についての概略分解斜視図。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る歯車を図2のシャーシに取り付けた状態における図3のA−A線の位置で切断した場合の概略断面図。
【図5】図3のB−B線の位置で切断した場合の概略断面図。
【図6】本発明の第1の実施形態の変形例に係る歯車であって、図4に対応した概略断面図。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る歯車であって、図4に対応した概略断面図。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る歯車を支持する構造に関する変形例。
【図9】従来の一般的に用いられている歯車の概略断面図
【図10】従来の一対の歯車からなる歯車装置の概略斜視図。
【符号の説明】
【0050】
10・・・歯車装置、21,22,23,24,25,26,21−1,21−2・・・歯車、31,32,33,34,35,36,60・・・回転軸、41・・・歯車本体、42・・・受け側歯車部材、43・・・駆動側歯車部材、51,52,53・・・軸受け、50・・・制振材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、この回転軸と駆動される歯車本体とを備えた歯車であって、
前記歯車本体は、外部から駆動力を受ける受け側歯車部材と、この受け側歯車部材の駆動力が伝達される駆動側歯車部材とを有し、前記受け側歯車部材と前記駆動側歯車部材の主面どうしが制振材を介して接続されて、前記駆動側歯車部材に対してのみ従動する部材を噛合させる構成となっており、
前記回転軸は、前記受け側歯車部材に接続されている受け側回転軸と、前記駆動側歯車部材に接続されている駆動側回転軸とに分かれて互いに接触していない
ことを特徴とする歯車。
【請求項2】
前記受け側回転軸を受ける軸受けと、前記駆動側回転軸を受ける軸受けにより、前記制振材を圧縮して前記歯車本体を挟むようにしたことを特徴とする請求項1に記載の歯車。
【請求項3】
前記受け側歯車部材、及び/又は前記駆動側歯車部材には、前記制振材に突出した突起部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の歯車。
【請求項4】
前記受け側歯車部材と前記駆動側歯車部材との間における前記制振材に、穴を開けるようにしたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の歯車。
【請求項5】
回転軸と、この回転軸と駆動される歯車本体とを備えた歯車であって、
前記歯車本体は、外部からの駆動力を受ける受け側歯車部材と、この受け側歯車部材の駆動力が伝達される駆動側歯車部材とを有し、前記受け側歯車部材と前記駆動側歯車部材の主面どうしが制振材を介して接続されて、前記駆動側歯車部材に対してのみ従動する部材を噛合させる構成となっており、
前記回転軸は、前記歯車本体と接触しておらず、その一方の端部側から突出した突出部と、他方の端部側から突出した他方の突出部とで、前記制振材を圧縮して、前記制振材とは異なる第2の制振材を介して前記歯車本体を挟むようにした
ことを特徴とする歯車。
【請求項6】
回転軸とこの回転軸と駆動される歯車本体とを備えた歯車を用いて、駆動源の駆動力を順次伝達するようにしたプリンタであって、
前記歯車本体は、前記駆動源からの駆動力を受ける受け側歯車部材と、この受け側歯車部材の駆動力が伝達される駆動側歯車部材とを有し、前記受け側歯車部材と前記駆動側歯車部材の主面どうしが制振材を介して接続されて、前記駆動側歯車部材に対してのみ従動する部材を噛合させる構成となっており、
前記回転軸は、前記受け側歯車部材に接続されている受け側回転軸と、前記駆動側歯車部材に接続されている駆動側回転軸とに分かれて互いに接触していない
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項7】
前記受け側回転軸を受ける軸受けと、前記駆動側回転軸を受ける軸受けとで、前記制振材を圧縮して前記歯車本体を挟むようにしたことを特徴とする請求項6に記載のプリンタ。
【請求項8】
回転軸とこの回転軸と駆動される歯車本体とを備えた歯車を用いて、駆動源の駆動力を順次伝達するようにしたプリンタであって、
前記歯車本体は、前記駆動源からの駆動力を受ける受け側歯車部材と、この受け側歯車部材の駆動力が伝達される駆動側歯車部材とを有し、前記受け側歯車部材と前記駆動側歯車部材の主面どうしが制振材を介して接続されて、前記駆動側歯車部材に対してのみ従動する部材を噛合させる構成となっており、
前記回転軸は、前記歯車本体と接触しておらず、その一方の端部側から突出した突出部と、他方の端部側から突出した他方の突出部とで、前記制振材を圧縮して、前記制振材とは異なる第2の制振材を介して前記歯車本体を挟むようにした
ことを特徴とするプリンタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−292265(P2007−292265A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123607(P2006−123607)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】