説明

殺菌洗浄処理装置およびその方法

【課題】短時間でバラツキのない高い殺菌効果を得ることの可能な殺菌洗浄処理装置と方法を提供する。
【解決手段】タンク1に貯水された強酸性電解水を、該強酸性電解水を吸い込む経路にエジェクター部2を設けてポンプ3によって吸引し、その吸引した該強酸性電解水を吐水口の手前に設けたキャビテーションノズル10を通過させて微細気泡を含む強酸性電解水を吐水する装置において、該エジェクター部2を、該タンク内の該強酸性電解水から気相中に自然放出される塩素ガスを含む気体を取り込み、かつそれによって取り込まれた該塩素ガスを含む気体を吐水口に向かって流れる該強酸性電解水に混入させるように構成し、該吐水口から塩素ガスを含む微細気泡の溶解する強酸性電解水を吐水させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は殺菌洗浄処理装置およびその方法に関し、特に手指や各種医療器具等を洗浄・殺菌・消毒するに有用な強酸性電解水を用いる殺菌洗浄処理装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強酸性電解水は病原菌、ウイルスに高い殺菌活性・不活性化活性を示す。医療分野では、認可されている手指や内視鏡の洗浄消毒の他、機器や環境の消毒、体の清拭、さらには褥瘡や創部の治療などにも利用されている。
【0003】
強酸性電解水のもつ問題点としては、強酸性電解水中の殺菌作用をもたらしている次亜塩素酸(有効塩素)は濃度が低いため被処理物に有機物が存在すると活性が著しく低下することがある。
【0004】
特許文献1には、塩化物塩水溶液を電気分解して得られる強酸性電解水中で空気を噴出させ、強酸性電解水から排出される塩素ガスを回収し、回収した塩素ガスを元の強酸性電解水中で噴出させ、その強酸性電解水の殺菌効果を高める技術が開示されている。また、特許文献1には、殺菌工程として被処理物を強アルカリ性電解水に浸漬させ洗浄を行ったのち、前述の強酸性電解水に浸漬させて殺菌を行ない、最後に、被処理物の殺菌に用いた強酸性電解水に前述の被処理物の洗浄に用いた強アルカリ性電解水を加え、殺菌に用いた強酸性電解水を中和させることも開示されている。
【0005】
特許文献1では、前記のとおり、強酸性電解水中に空気を噴出(曝気)させ、その強酸性電解水から塩素ガスを強制的に排出し、排出された塩素ガスを回収し元の強酸性電解水に戻す(循環)工程を行ない続けることによって強酸性電解水の殺菌力を向上させようとしている。しかし、塩素ガスを強酸性電解水中で噴出循環し続けることによって強酸性電解水自体の有効塩素濃度が急速に低下することは、たとえば特許文献1にも記載されており、特許文献1の試験(表4に記載の試験結果)にも、生成直後の残留塩素濃度が90mg/lであったのに対し、噴出開始から5分後には残留塩素濃度が45mg/lと半分に低下すること、また、噴出開始から10分後には残留塩素濃度が25mg/lとなりS.aureusへの殺菌力が急激に低下することが示されている。なお、S.aureus、P.aeruginosaおよびE.coliに対してはいずれも5秒以内で殺菌を可能にしているとしてその効果を主張しているが、未処理の強酸性電解水であっても有効塩素濃度が40ppm以上であれば5秒以内に殺菌されることは強電解水企業協議会編「強酸性電解水使用マニュアル」によってすでに開示されており周知の事実である。つまり特許文献1に記載の技術は強酸性電解水の殺菌効果が不十分であるといえる。
【0006】
特許文献2には、強アルカリ性電解水を収容する洗浄槽と強酸性電解水を収容する殺菌槽からなり、微細気泡が溶解されている強アルカリ性電解水中に野菜を浸漬させて、その野菜の凹凸やすき間に付着している汚れを除去し、次いで強酸性電解水中に野菜を浸漬させて物品の殺菌効果を高める野菜の洗浄殺菌装置および洗浄殺菌方法が開示されている。
【0007】
特許文献2では強アルカリ性電解水に加圧気体を接触させて強アルカリ性電解水に微細気泡を溶解させる加圧溶解方式が用いられているが、この方式は機器の電源を入れてから瞬時に微細気泡を得ることができないため、結果的に気体溶解水を得るまでに時間がかかるという難点がある。さらに気体溶解水が得られる時間は加圧溶解タンクの容積も起因する。また特許文献2は被処理物の有機物除去は可能であるが、付着している菌が芽胞菌などの強酸性電解水に対して対抗性の強い菌の場合は、殺菌が不十分になることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3921231号公報
【特許文献2】特開2007−60950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、強酸性電解水を用いる手指や医療器具等の洗浄において、短時間でバラツキのない高い殺菌効果を得ることの可能な殺菌洗浄処理装置およびその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1に、タンクに貯水された強酸性電解水を、該強酸性電解水を吸い込む経路にエジェクター部を設けてポンプによって吸引し、その吸引した該強酸性電解水を吐水口の手前に設けたキャビテーションノズルを通過させて微細気泡を含む強酸性電解水を吐水する装置において、
該エジェクター部を、該タンク内の該強酸性電解水から気相中に自然放出される塩素ガスを含む気体を取り込み、かつそれによって取り込まれた該塩素ガスを含む気体を吐水口に向かって流れる該強酸性電解水に混入させるように構成し該吐水口から塩素ガスを含む微細気泡の溶解する強酸性電解水を吐水させるようにしたことを特徴とする殺菌洗浄装置である。
【0011】
本発明は、第2に、タンクに貯水された強酸性電解水を、該強酸性電解水を吸い込む経路にエジェクター部を設けてポンプによって吸引し、その吸引した該強酸性電解水を吐水口の手前に設けたキャビテーションノズルを通過させて微細気泡を含む強酸性電解水を吐水するに際し、
該エジェクター部で、該タンク内の該強酸性電解水から気相中に自然放出される塩素ガスを含む気体を取り込み、かつそれによって取り込まれた該塩素ガスを含む気体を吐水口に向かって流れる該強酸性電解水に混入させ、該吐水口から塩素ガスを含む微細気泡の溶解する強酸性電解水を吐水することを特徴とする殺菌洗浄方法。
【0012】
本発明は、第3に、該吐水口に向かって流れる該強酸性電解水に混入される該塩素ガスを含む気体の塩素ガス濃度が100〜400ppmであって、該塩素ガスを含む気体と該強酸性電解水の混合比率が1:20〜1:5である上記第2の方法である。
【0013】
本発明は、第4に、該タンク内の塩素ガスを含む気相と強酸性電解水液相の容積比が5:1〜1:5である上記第2または第3の方法である。
【0014】
本発明は、第5に、該強酸性電解水のpHが2.2〜2.7であり、かつその有効塩素濃度が20〜60ppmである上記第2〜第4のいずれかの方法である。
【0015】
本発明は、第6に、該吐水口から吐水される塩素ガスを含む微細気泡の溶解する強酸性電解水中の微細気泡の気泡径が1〜50μmである上記第2〜第5のいずれかの方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の装置および方法を用いることにより短時間でバラツキのない高い殺菌洗浄効果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の装置および方法の好ましい態様の工程概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、前記した所定の強酸性電解水の吐水と強アルカリ性電解水の吐水との併用が好ましく、この好ましい態様の一例を示したのが図1である。
【0019】
電解水生成装置(図示せず)において塩化ナトリウム混合水を電気分解することによって陽極側に強酸性電解水、陰極側に強アルカリ性電解水を生成し、その生成された強酸性電解水を貯水するための強酸性電解水貯水タンク1と生成された強アルカリ性電解水を貯水するための強アルカリ性電解水貯水タンク4を備え、
強酸性電解水貯水タンク1内の上部には強酸性電解水貯水タンク1内に貯水された強酸性電解水から自然放出される塩素ガスを含む気体を取り込むための塩素ガス含有気体給気口17を内設し、強酸性電解水貯水タンク1内の下部には強酸性電解水貯水タンク1内に貯水された強酸性電解水を吸引するための強酸性電解水給水口16が設けられ、強酸性電解水貯水タンク1内の強酸性電解水の貯水量を検出し、満水、渇水等の情報を電気的に伝達して電解水生成装置の電解水の生成を制御するための強酸性電解水フロートセンサ12が内設され、強酸性電解水貯水タンク1内の塩素ガスを含む気体が強酸性電解水貯水タンク1外に吸引されたり、強酸性電解水貯水タンク1内への電解水生成装置からの強酸性電解水の入水や強酸性電解水貯水タンク1外に強酸性電解水が吸引された際に強酸性電解水貯水タンク1内の圧力変化を吸収するための吸排気口14を設け、吸排気口14から外気に接する端部には吸排気口14から強酸性電解水貯水タンク1外への塩素ガスの漏れを防ぎかつ強酸性電解水貯水タンク1外から強酸性電解水貯水タンク1内への大気塵等の侵入を防ぐための活性炭フィルタと除塵フィルタからなるフィルタ22を備えている。
【0020】
強アルカリ性電解水貯水タンク4には、強アルカリ性電解水貯水タンク4内の下部に強アルカリ性電解水貯水タンク4内に貯水された強アルカリ性電解水を吸引するための強アルカリ性電解水給水口18が設けられ、強アルカリ性電解水貯水タンク4内の強アルカリ性電解水の貯水量を検出し、満水、渇水等の情報を電気的に伝達して電解水生成装置の電解水の生成を制御するための強アルカリ性電解水フロートセンサ13が内設され、強アルカリ性電解水貯水タンク4内への電解水生成装置からの強アルカリ性電解水の入水や強アルカリ性電解水貯水タンク4外に強アルカリ性電解水が吸引された際に強アルカリ性電解水貯水タンク4内の圧力変化を吸収するための吸排気口15を設け、吸排気口15から外気に接する端部には強アルカリ性電解水貯水タンク4外から強アルカリ性電解水貯水タンク4内への大気塵等の侵入を防ぐための除塵フィルタからなるフィルタ23を備えている。
【0021】
強酸性電解水貯水タンク1内の強酸性電解水は強酸性電解水給水口16からホース等を通じて強酸性電解水吐水ポンプ3によって吸引され、その強酸性電解水給水口16から強酸性電解水吐水ポンプ3の間には、塩素ガス含有気体給気口17から吸引した強酸性電解水貯水タンク1内の塩素ガスを含む気体を、強酸性電解水吐水ポンプ3によって吸引した強酸性電解水に混入させるための塩素ガス含有気体取り込みエジェクター2が、塩素ガス含有気体給気口17からホースを通じて設けられていて、強酸性電解水吐水ポンプ3を稼動させて強酸性電解水を吸引することによって塩素ガス含有気体取り込みエジェクター2でエジエクター効果が働き、強酸性電解水吐水ポンプ3によって吸引した強酸性電解水に塩素ガス含有気体給気口17を通じて強酸性電解水貯水タンク1内の塩素ガスを含む気体が混入される。
【0022】
強アルカリ性電解水貯水タンク4内の強アルカリ性電解水は強アルカリ性電解水給水口18からホース等を通じて強アルカリ性電解水吐水ポンプ6によって吸引され、その強アルカリ性電解水給水口18から強アルカリ性電解水吐水ポンプ6の間には、強アルカリ性電解水吐水ポンプ6によって吸引した強アルカリ性電解水に空気を混入させるための空気取り込みエジェクター5が設けられていて、空気取り込みエジェクター5には本装置の周囲の環境空気を取り込むための空気給気口19が設けられている。強アルカリ性電解水吐水ポンプ6を稼動させて強アルカリ性電解水貯水タンク4から強アルカリ性電解水を吸引することによって空気取り込みエジェクター5でエジエクター効果が働き、強アルカリ性電解水吐水ポンプ6によって吸引した強アルカリ性電解水に空気給気口19を通じて本装置の周囲の環境空気が混入される。さらに空気給気口19には本装置の周囲の環境空気からの大気塵等の侵入を防ぐためのフィルタを備えていることが望ましい(図示せず)。
【0023】
塩素ガスを含む気体が混入された強酸性電解水は強酸性電解水吐水ポンプ3によって強酸性電解水逆止弁7へ送られる。また空気が混入された強アルカリ性電解水は強アルカリ性電解水逆止弁8に送られる。さらに強酸性電解水逆止弁7および強アルカリ性電解水逆止弁8の下流側には強酸性電解水と強アルカリ性電解水を混合させることなくどちらかの電解水を選択し吐水するための電解水切替え三方弁9を備え、電解水切替え三方弁9の下流側にはどちらの電解水を選択した場合においても電解水に含まれる気体を微細気泡化するキャビテーションノズル10を通過させて吐水口11から微細気泡の溶解された電解水が吐水されるようになっている。
【0024】
本発明の装置および方法をより具体的に説明する。制御部(図示せず)では、電解水生成制御と吐水制御と排水制御が行われ、電解水生成制御部の電解水生成装置としては、強酸性電解水の水質が有効塩素濃度20〜60ppmの範囲のものが生成されるものを用いることが望ましい。また電解水生成制御部では電解水生成装置によって生成された強酸性電解水の水質の自己判定機能を備えるものが望ましく、pH2.2〜2.7から外れている場合は強酸性電解水タンク1に供給されることなく自動的に排水されるようになっていることが望ましい。
【0025】
強酸性電解水タンク1および強アルカリ性電解水タンク4としては遮光容器製のタンクが好ましく、さらに強酸性電解水タンク1および強酸性電解水や塩素ガスを含む気体の接触するホース等の配管部材はポリプロピレンやポリエチレンなどのオレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、フッ素ゴムなどをはじめとする耐酸性を有する材料によって構成することが好ましい。
【0026】
強酸性電解水フロートセンサ12の上段12aおよび下段12bは、上段12aが強酸性電解水タンク1内の強酸性電解水の満水検知、下段12bが渇水検知であり、強酸性電解水フロートセンサ12は少なくとも外表面部材が耐酸性材料からなるものが望ましい。また強アルカリ性電解水フロートセンサ13の上段13aおよび下段13bは、上段13aが強アルカリ性電解水タンク4内の強アルカリ性電解水の満水検知、下段13bが渇水検知である。
【0027】
電解水生成装置において生成された設定範囲内の水質の強酸性電解水および強アルカリ性電解水は、両電解水がそれぞれ貯水タンク内で満水になるとそれぞれの貯水タンク内のフロートセンサ上段12a、13aで検知され電解水生成装置の電解水生成が自動停止する。フロートセンサ上段12a、13aが強酸性電解水、強アルカリ性電解水のどちらか一方でも満水を検知していない状態になると電解水生成が自動開始する機能をもち、両電解水貯水タンクにはともにオーバーフロー口(図示せず)がフロートセンサ上段12a、13aとほぼ同じ高さの位置に設けられ、両電解水がともに満水を検知するまで電解水生成装置から電解水が送られてくるようになっていて、どちらか片方の電解水貯水タンクが満水状態にある場合、その満水状態側の貯水タンクではオーバーフロー口から電解水が流れ出てその電解水は排水処理される。また貯水タンクにオーバーフロー口を設けない場合、フロートセンサ上段12a、13aのどちらか片方で満水を検知した際には電解水生成制御部においてその満水側の電解水が貯水タンクに供給されることのないよう電磁弁などを用いて電解水の送水側を切り替えて自動的に排水側に送水されるように制御することも可能である。
【0028】
また強酸性電解水、強アルカリ性電解水のどちらか一方の電解水が貯水タンク内で渇水になると貯水タンク内のフロートセンサ下段12b、13bが検知し、この場合吐水制御部では自動的に吐水が停止される。このとき同時に電解水生成待ちのブザーや音声案内或いは表示画面等から渇水状態であることが分かるように通知されるように構成することが望ましい。
【0029】
強酸性電解水貯水タンク1内の気相中の塩素ガス濃度は、100〜400ppm程度が望ましいく、そのような塩素ガス濃度を得るためには強酸性電解水貯水タンク1内の塩素ガス含有気体相と強酸性電解水相の容積比を、5:1〜1:5程度にすることが望ましい。そのため前述したオーバーフロー口、強酸性電解水フロートセンサ12の上段12aの高さが1:5の範囲の容積比となる位置で設けられていることが望ましい。塩素ガス含有気体相と強酸性電解水相の容積比5:1の制御は渇水検知用の強酸性電解水フロートセンサ12の下段12bを兼用することも可能であるし、別途液面レベルスイッチを設けて制御することも可能である。
【0030】
強酸性電解水吐水ポンプ3および強アルカリ性電解水ポンプ6としては吐水圧0.4MPa程度の能力を持つ仕様のポンプが望ましく、また強酸性電解水へ塩素ガス含有気体を取り込む混合比率は、塩素ガス含有気体と強酸性電解水が1:20〜1:5の割合で混在していることが望ましい。その気体取り込み用の塩素ガス含有気体取り込みエジェクター2は耐酸性樹脂製の材質からなるものが望ましい。
【0031】
電解水に溶解させる微細気泡は、エジェクター方式によって電解水に混入させた気体を、キャビテーション方式によって微細気泡化させることが望ましく、微細気泡の気泡径は、1〜50μmが望ましい。また吐水口11となる吐水ノズルは節水の役目を果たすためシャワー方式が望ましい。
【0032】
吐水制御では、両電解水の吐水時間を任意で設定することができ、吐水する電解水の切替えは電磁弁である電解水切替え三方弁9にて自動的に切替を行なうことが可能になっている。
【0033】
本発明の装置の構成としては強酸性電解水吐水ポンプ3と強アルカリ性電解水吐水ポンプ6を1台のポンプで兼ねることも可能であり、その場合強酸性電解水側は塩素ガス含有気体取り込みエジェクター2の下流側に強酸性電解水逆止弁7を配し、一方強アルカリ性電解水側は空気取り込みエジェクター5の下流側に強アルカリ性電解水逆止弁8を配し、両電解水の強酸性電解水逆止弁7、強アルカリ性電解水逆止弁8の下流側に電解水切替え三方弁9次いで吐水ポンプという順に一部接続順を変更することで可能となる。
【0034】
本発明における強酸性電解水の使用では既に述べたように、強酸性電解水貯水タンク1に貯水した強酸性電解水を被処理物へ吐水する際、強酸性電解水吐水ポンプ3の強酸性電解水吸込み経路に設けたエジェクター2において吐水を行なう際の強酸性電解水吐水ポンプ3による水流によって生じる負圧を利用し、強酸性電解水貯水タンク1気相中の強酸性電解水から自然排出された塩素ガスを含む気体を強酸性電解水吐水ポンプ3によって吸引した強酸性電解水中に取り込み、吐水口11の直前に設けたキャビテーションノズル10を用いてこの塩素ガス含有気体をせん断により微細化しかつ塩素ガス含有気体の微細気泡の均一性を高め強酸性電解水中に塩素ガス含有気体の微細気泡を溶解させている。これにより強酸性電解水が保有する殺菌力に塩素ガスが保有する殺菌力が加わり、殺菌力を向上させることが可能となる。
【0035】
本発明の効果についてさらに述べる。
被処理物に強酸性電解水への対抗性が強い芽胞菌などが付着していると、殺菌効果にバラツキが生じるが、本発明により強酸性電解水中に強酸性電解水から自然放出される塩素ガス含有微細気泡を溶解させることで一般細菌は勿論だが芽胞菌に対しても短時間で殺菌効果が得られ、殺菌効果のバラツキが低減できる。また、被処理物に有機物による汚れが付着している場合も殺菌効果にバラツキが生じるので、塩素ガス含有微細気泡の溶解された強酸性電解水による殺菌処理前に強アルカリ性電解水中に前記した方法で環境中の空気を取り込み、空気微細気泡を溶解させ被処理物の有機物除去を行なうことが望ましい。強アルカリ性電解水に空気微細気泡を溶解させることで洗浄力が向上することは、先行技術により知られている。この技術を応用し被処理物の有機物除去を確実に行ない、殺菌効果の高い塩素ガス含有微細気泡の溶解された強酸性電解水で殺菌処理を行なうことで殺菌効果のバラツキを一層低減することができる。
【0036】
特許文献1のように貯水タンク内の強酸性電解水中で空気或いは塩素ガスを含む気体を曝気すると、曝気で生じる気泡径はmmレベル以上になる。気泡径が大きいと強酸性電解水中での気泡は上昇速度が速いため強酸性電解水に溶け込むことができない。また、曝気を続けると強酸性電解水自身の有効塩素濃度が低下し殺菌力が低下する。これに対し吐水直前に強酸性電解水中から自然放出される塩素ガスを含む気体を取り込み、微細気泡化して強酸性電解水中に溶解させるという本発明の方法は、貯水タンク内の強酸性電解水自体の有効塩素濃度が低下することがないため強酸性電解水を貯水してから長時間が経過しても高い殺菌力を得ることができ、その劣化していない強酸性電解水にさらに塩素ガス含有微細気泡が溶け込んで混在しているため極めて高い殺菌をもつものとなる。
【0037】
また、加圧溶解方式による微細気泡含有水の作製手段は、液体に気体を溶解させる時間を要し瞬時に微細気泡を形成することができない。しかし本発明ではエジェクターによって気体を電解水に混入させ、キャビテーション方式によって瞬時に微細気泡化して電解水に溶解させることができるため、必要な時にすぐに高い殺菌力をもつ強酸性電解水を得ることができる。
【0038】
〔実施例〕
実験により、本発明の効果を検証する。
殺菌力向上について 〜その1〜
大腸菌を用いて殺菌力の評価試験を行ない、塩素ガス含有微細気泡自体が保有する殺菌力を確認すると共に空気微細気泡との殺菌力の比較を行なった。
【0039】
「試験方法」
試験水(1800μl)と大腸菌(200μl)を所定時間接触させた後、100μl採取し寒天培地二枚に接種しコンラージ棒にて塗り広げ、インキュベーター(孵卵器)にて37℃、48時間培養を行なう。48時間後、寒天培地上の大腸菌コロニーをカウントする。
【0040】
「試験条件」
試 験 菌 : 大腸菌
試験菌液濃度: 9.90×10cfu/mL菌液濃度
試 験 水 : I 純水
II 純水に空気微細気泡を溶解(以下、純水+空気と記載)
III 純水に塩素ガス含有微細気泡を溶解
(以下、純水+塩素ガスと記載)
菌との接触時間:試験水Iは、5分間
試験水II、IIIは3分間と5分間の二通り
微細気泡の発生 :キャビテーション方式
微細気泡の粒径 :空気、塩素ガス含有気体共に1〜50μm
塩素ガス濃度 :100ppm
空気の混合比率 :空気:純水=1:5
塩素ガス含有気体の混合比率:塩素ガス含有気体:純水=1:5
【0041】
「試験結果」
表1より試験水Iの純水と試験水IIの純水+空気は同等の殺菌力であったが、これらに比べ試験水IIIの純水+塩素ガスは3分、5分の接触時間で大腸菌を完全に殺菌できるという結果が得られた。この結果より塩素ガス含有微細気泡は空気微細気泡よりも高い殺菌力を有しており、かつ塩素ガス含有微細気泡自体が高い殺菌力を有していることが確認できた。
【0042】
【表1】

【0043】
殺菌力向上について 〜その2〜
強酸性電解水に塩素ガス含有微細気泡を溶解させ、強酸性電解水と比較し強酸性電解水が保有している殺菌力よりも高い効果が得られるかを確認した。また、試験に使用する菌は強酸性電解水への対抗性が強い芽胞菌を用いて行なった。
【0044】
「試験方法」
試験水(1800μl)と芽胞菌(200μl)を所定時間接触させた後、強酸性電解水の反応を停止させるため0.1%チオ硫酸ナトリウム水溶液を等量(2000μl)添加し、100μlつづ採取し寒天培地二枚に接種しコンラージ棒にて塗り広げ、インキュベーター(孵卵器)にて37℃、48時間培養を行なう。48時間後、寒天培地上の芽胞菌コロニーをカウントする。
【0045】
「試験条件」
試 験 菌 :芽胞菌
試験菌液濃度:i 1.98×10cfu/mL菌液濃度
ii 1.98×10cfu/mL菌液濃度
試 験 水 :I 強酸性電解水(以下、強酸性水)
II 強酸性電解水に塩素ガス含有微細気泡を溶解
(以下、強酸性電解水+塩素ガス)
III 15リットル容量のタンクに10リットルの強酸性電解水を入
れ、その強酸性電解水中に塩素ガス含有気体の回収と噴出を毎分5リ
ットルの流量で連続5分間行った強酸性電解水
(以下、特許文献1に記載の強酸性電解水)
菌との接触時間 :各試験水とも15秒、30秒、60秒の3通り
微細気泡の発生 :キャビテーション方式
微細気泡の粒径 :1〜50μm
塩素ガス濃度 :250±150ppm
塩素ガス含有気体の混合比率:塩素ガス含有気体:強酸性電解水=1:20〜1:5
強酸性電解水の有効塩素濃度:40±20ppm
強酸性電解水のpH :2.4±0.2
※ 除菌率は2枚の生菌数の平均値より算出
【0046】
「試験結果」
有効塩素濃度40ppmの強酸性電解水による105〜6の濃度の芽胞菌への殺菌効果は、秒単位での接触時間では殺菌効果は不完全であるが、5分以内であれば殺菌効果が得られるということは強電解水企業協議会編「強酸性電解水使用マニュアル」に記載されており、強酸性電解水が芽胞菌の殺菌に長時間を要すことは既知である。
試験菌液濃度iの1.98×10cfu/mL菌液の殺菌結果では、試験水Iの強酸性電解水および試験水IIIの特許文献1に記載の強酸性電解水はともにコロニーをカウントすることができないほど生菌数が多い結果であったが、試験水IIの強酸性電解水+塩素ガスは15秒、30秒、60秒の接触時間で97%程度の除菌率が得られ、試験水IIの強酸性電解水は明らかに他の試験水より殺菌効果が優れるという結果となった。
【0047】
また、試験菌液濃度iiの1.98×10cfu/mL菌液の殺菌結果においては、長めの接触時間である60秒の接触時間であっても試験水Iの強酸性電解水および試験水IIIの特許文献1に記載の強酸性電解水はともに70%台の除菌率にとどまったにも係らず、試験水IIの強酸性電解水+塩素ガスは接触時間15秒、30秒、60秒全てにおいて除菌率が100%という結果であった。特に接触時間がもっとも短い15秒においては、試験水Iの強酸性電解水では51.8%、試験水IIIの特許文献1に記載の強酸性電解水では68.2%となっており、本発明により得られる試験水IIの電解水は瞬時に作用する優れた殺菌力をもつものであるということが確認できた。
【0048】
【表2】

【0049】
手指洗浄試験について
不特定の菌に対する殺菌力の評価を行なうため、菌が常在する手指に着目し手指洗浄試験を行なった。また、手指は日々汚染度合いが異なるため、複数日間の汚染状況を把握した上でその汚染状況をベースとして殺菌効果を確認する。
【0050】
「評価方法」
手指洗浄試験は、実際に数種類の洗浄液と吐水時間による日常手指洗浄を行い、パームスタンプ法にて手指洗浄後の生菌数を測定し除菌効果の判定を行う。また、ATP(アデノシン三リン酸)法にて洗浄後のATPを測定し有機物除去効果の判定を行う。被験者の日常の生菌数とATPの測定結果をベースとし、ベースと洗浄後の結果を比較して殺菌効果の確認を行う。
【0051】
「ベース測定」
被験者1名につき、ランダムな3日間、13時〜17時に測定する。
1.利き手をATPスワブにて拭い、ATP測定器にて測定する。
2.利き手をパームスタンプに3秒間押し当てる。(37℃、48時間培養)
※ 被験者1名につき、3日間(1回/日×3日間)の平均値をベースとして算出する。
【0052】
「手指洗浄方法」
1.時計、指輪などの装飾品をはずす
2.各洗浄パターンにおいて合計10秒間吐水し、日常行なっている手技で手洗いを行なう
3.清潔なペーパータオル(2枚)で水分をふき取る
【0053】
「手洗い条件」
別々の日に試験を行ない、試験時間はベース測定と同様の13〜17時とする。
手指洗浄の洗浄パターンをa〜cの3パターンにて実施する。洗浄パターンを表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
「電解水等の条件」
強酸性電解水条件
有効塩素濃度:40±20ppm
pH:2.4±0.2
塩素ガス条件
塩素ガス濃度:250±150ppm
塩素ガス含有気体の混合比率:塩素ガス含有気体:強酸性電解水=1:20〜1:5
微細気泡条件
発生方法:キャビテーション方式
粒径範囲:1〜50μm
【0056】
「洗浄後の測定」
1.手洗い後、利き手をATPスワブにて拭い、ATP測定器にて測定する。
2.利き手をパームスタンプに3秒間押し当てる。(37℃、48時間培養)
3.ベースライン平均値と各洗浄パターンによる測定値を用いて、洗浄効果(ATP除去率、除菌率)を求める。
【0057】
「評価項目」
パームスタンプ法による一般細菌(生菌)数の測定
パームスタンプ:SCD培地(37℃、48時間培養)
除菌率=100×(ベースコロニー数−洗浄後コロニー数)/ベースコロニー数
ATP法による有機物汚れの測定
手のひら、指と指の間、指先、爪の隙間をスワブキットでふき取り、ATP測定器により測定を行う
除去率=100×(ベースATP値−洗浄後ATP値)/ベースATP値
【0058】
「試験結果」
ベース結果
被験者12名のATPと生菌数のベースライン測定の結果を下記の表に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
洗浄評価(洗浄パターンaの強アルカリ性電解水と、洗浄パターンbおよびcの強アルカリ性電解水に空気微細気泡を溶解させた洗浄水との比較)
表7の試験結果より、洗浄パターンa,b,cの全てにおいて各被験者のATPのベースに対する除去率の平均値が80%程度という良好な有機物除去結果が得られた。さらに洗浄パターンbおよびcのように強アルカリ性電解水に空気による微細気泡を溶解させることで、洗浄パターンaの強アルカリ性電解水のみよりも10%弱の効果向上が確認できた。一般に食品分野におけるATP値は、1500(RLU/swab)以下であれば清浄であるとされており、表6各被験者のATP除去結果の平均値が全洗浄パターンにおいてほとんどが1500(RLU/swab)以下であることからも。また従来からいわれている通り強アルカリ性電解水に空気微細気泡を溶解させることによる洗浄効果の向上が確認できた。よって殺菌処理を行なう前に空気微細気泡を溶解させた強アルカリ性電解水で被処理物を洗浄することが望ましい。
【0062】
【表6】

【0063】
【表7】

【0064】
殺菌効果の評価
(洗浄パターンaの強酸性電解水、洗浄パターンb強酸性電解水+空気微細気泡、洗浄パターンc強酸性電解水+塩素ガス含有微細気泡の比較)
各試験条件洗浄パターンにおける各被験者のベースに対する除菌率の平均値は表9より、a64.8%、b80.8%、c92.6%であった。洗浄パターンcの強酸性電解水+塩素ガス含有微細気泡は、洗浄パターンaの強酸性電解水、洗浄パターンbの強酸性電解水+空気微細気泡よりも高い除菌効果が得られ、強酸性電解水に塩素ガス含有微細気泡を溶解させることで殺菌力が向上することがわかった。また、標準偏差がa42.9%、b22.9%、c5.8%という結果が得られ、この結果からも強酸性電解水に塩素ガス含有微細気泡を溶解させることで、除菌効果のバラツキを低減させ、安定して殺菌効果が得られることが確認できた。
【0065】
【表8】

【0066】
【表9】

【0067】
強酸性電解水貯水タンク内の塩素ガス濃度について
強酸性電解水貯水タンク内の塩素ガス含有気相と強酸性電解水液相の容積との関係で塩素ガス濃度がどの様に変化するかを確認した。
【0068】
試験方法は、24L容量の貯水タンク内に強酸性電解水を4〜20Lまで2L間隔で貯水し、その都度貯水タンク内の塩素ガス濃度を測定する。測定は貯水タンクの最上面と水面直近で行う。
【0069】
【表10】

【0070】
表10より、気相:液相=5:1では塩素ガス濃度が100ppm、気相:液相=1:5では400ppmという結果が得られた。強酸性電解水の貯水量と気相容積の関係がこの範囲に収まるように液面レベルスイッチを設け、殺菌効果を向上させるために必要な塩素ガス濃度を保つこともできる。
【符号の説明】
【0071】
1 強酸性電解水貯水タンク
2 塩素ガス含有気体取り込みエジェクター
3 強酸性電解水吐水ポンプ
4 強アルカリ性電解水貯水タンク
5 空気取り込みエジェクター
6 強アルカリ性電解水吐水ポンプ
7 強酸性電解水逆止弁
8 強アルカリ性電解水逆止弁
9 電解水切替え三方弁
10 キャビテーションノズル
11 吐水口
12 強酸性電解水フロートセンサ
13 強アルカリ性電解水フロートセンサ
14 吸排気口
15 吸排気口
16 強酸性電解水給水口
17 塩素ガス含有気体給気口
18 強アルカリ性電解水給水口
19 空気給気口
20 強酸性電解水入水口
21 強アルカリ性電解水入水口
22 フィルタ
23 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクに貯水された強酸性電解水を、該強酸性電解水を吸い込む経路にエジェクター部を設けてポンプによって吸引し、その吸引した該強酸性電解水を吐水口の手前に設けたキャビテーションノズルを通過させて微細気泡を含む強酸性電解水を吐水する装置において、
該エジェクター部を該タンク内の該強酸性電解水から気相中に自然放出される塩素ガスを含む気体を取り込み、かつそれによって取り込まれた該塩素ガスを含む気体を吐水口に向かって流れる該強酸性電解水に混入させるように構成し、該吐水口から塩素ガスを含む微細気泡の溶解する強酸性電解水を吐水させるようにしたことを特徴とする殺菌・洗浄装置。
【請求項2】
タンクに貯水された強酸性電解水を、該強酸性電解水を吸い込む経路にエジェクター部を設けてポンプによって吸引し、その吸引した該強酸性電解水を吐水口の手前に設けたキャビテーションノズルを通過させて微細気泡を含む強酸性電解水を吐水するに際し、
該エジェクター部で、該タンク内の該強酸性電解水から気相中に自然放出される塩素ガスを含む気体を取り込み、かつそれによって取り込まれた該塩素ガスを含む気体を吐水口に向かって流れる該強酸性電解水に混入させ、該吐水口から塩素ガスを含む微細気泡の溶解する強酸性電解水を吐水することを特徴とする殺菌・洗浄方法。
【請求項3】
該吐水口に向かって流れる該強酸性電解水に混入される該塩素ガスを含む気体の塩素ガス濃度が100〜400ppmであって、該塩素ガスを含む気体と該強酸性電解水の混合比率が1:20〜1:5である請求項2記載の方法。
【請求項4】
該タンク内の塩素ガスを含む気相と強酸性電解水液相の容積比が5:1〜1:5である請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
該強酸性電解水のpHが2.2〜2.7であり、かつその有効塩素濃度が20〜60ppmである請求項2〜4のいずれか1項の方法。
【請求項6】
該吐水口から吐水される塩素ガスを含む微細気泡の溶解する強酸性電解水中の微細気泡の気泡径が1〜50μmである請求項2〜5のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−217785(P2011−217785A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86794(P2010−86794)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000162940)興研株式会社 (75)
【Fターム(参考)】