説明

殺菌生ジャガイモの製造方法

【課題】剥皮、芽取りした状態の生のジャガイモであって、風味、品質の劣化が起きることなく、冷蔵で日持ちする殺菌生ジャガイモの製造方法を提供する。
【解決手段】剥皮した生のジャガイモを、80℃以上の液温で5秒〜5分間接液処理した後、有効塩素濃度が25〜500ppmである次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩と、0.01%〜1%のアスコルビン酸又はアスコルビン酸塩を含む溶液に30分〜30時間浸漬処理する殺菌生ジャガイモの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌生ジャガイモの製造方法に関する。詳しくは、剥皮、芽取りした状態の生のジャガイモであって、風味、品質の劣化が起きることなく、冷蔵で日持ちをする殺菌生ジャガイモの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、女性の社会進出等の社会環境の変化の中で、レストラン、飲食店等の外食産業、惣菜や弁当等の中食産業は年々規模を拡大しており、このため、大量調理をする現場が増加している。このような大量調理の現場では原料の下処理に大変な作業時間を有しており、中でも、ポテトサラダ、カレー、おでんを始めとしあらゆる料理に大量に用いられるジャガイモは、原料のイモを水洗いし、剥皮し、芽取りするといったように、大変下処理時間のかかるものであった。
【0003】
そこで、下処理を行なうことなく料理に利用できる、すでに剥皮し、芽取りした状態のジャガイモの流通が望まれるようになっている。しかし、水洗いし、剥皮、芽取りした状態のジャガイモは細菌が繁殖しやすく日持ちしないため、そのままでは流通できるものではなかった。
【0004】
このような状況下、野菜の殺菌方法としては亜塩素酸塩や次亜塩素酸塩溶液で処理する方法が知られており、特開平11−276063号公報(特許文献1)には、野菜を亜塩素酸塩と次亜塩素酸塩を溶解した溶液で処理する方法が記載されている。しかし、上記ジャガイモに応用した場合、亜塩素酸塩と次亜塩素酸塩溶液での処理は殺菌効果がある一方で、ジャガイモの品質を劣化させてしまう場合があった。
【0005】
また、特開平6−46812号公報(特許文献2)には、カット野菜を次亜塩素酸ソーダ溶液で洗浄した後、酢酸溶液で洗浄する方法が記載されている。しかし、上記ジャガイモに応用した場合、当該方法においても殺菌効果はあるものの、ジャガイモに酸味がついてしまったり、加熱調理しても硬い状態であるなど、風味や品質のよいものが得られなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平11−276063号公報
【特許文献2】特開平6−46812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、剥皮し、芽取りした状態の生のジャガイモであって、風味、品質の劣化が起きることなく、冷蔵で日持ちをする殺菌生ジャガイモの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく処理剤等、様々な諸条件について鋭意研究を重ねた結果、剥皮した生のジャガイモを、特定条件で接液処理した後、特定の有効塩素濃度である次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩と、特定濃度のアスコルビン酸又はアスコルビン酸塩を含む溶液に特定時間浸漬処理することにより、意外にも、風味、品質の劣化が起きることなく、冷蔵で日持ちをする生のジャガイモを得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)剥皮した生のジャガイモを、80℃以上の液温で5秒〜5分間接液処理した後、有効塩素濃度が25〜500ppmである次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩と、0.01%〜1%のアスコルビン酸又はアスコルビン酸塩を含む溶液に30分〜30時間浸漬処理することを特徴とした殺菌生ジャガイモの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、剥皮、芽取りした状態の生のジャガイモであって、風味、品質の劣化が起きることなく、冷蔵で日持ちをする殺菌生ジャガイモを提供できることから、外食産業や中食産業向けの下処理した殺菌生ジャガイモとして、当該産業の生産性向上に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0012】
本発明は、殺菌生ジャガイモの製造方法であり、剥皮した生のジャガイモを、80℃以上の液温で5秒〜5分間接液処理した後、有効塩素濃度が25〜500ppmである次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩と、0.01%〜1%のアスコルビン酸又はアスコルビン酸塩を含む溶液に30分〜30時間浸漬処理することを特徴とする。これにより、剥皮、芽取りした状態の生のジャガイモであっても、風味、品質の劣化が起きることなく、冷蔵で日持ちをする殺菌生ジャガイモを得ることができる。
【0013】
本発明においてジャガイモとは、地下茎の先端が肥大した塊茎を食用とするナス科の一年生作物で、数十種の品種がありいずれの品種を用いることも可能である。前記ジャガイモの剥皮は、手作業により、あるいは機械により行なうことが出来るが、品位を保持する観点からスチームピーラーを用いることが好ましい。
【0014】
本発明は、剥皮した生のジャガイモを芽取りし、次いで80℃以上、好ましくは85℃以上の液温で5秒〜5分間、好ましくは10秒〜3分間接液処理を行なう。接液処理方法は、例えば、ブランチングする方法、蒸煮する方法、シャワーリングする方法等が挙げられ、特にブランチング処理であるとジャガイモが均一に接液処理できるため好ましい。接液処理が前記温度より低い温度又は前記時間より短い時間であると、後述の溶液に浸漬させても、殺菌効果が不十分な場合があり、その後保存中に菌が多量に増殖し日持ちができないためである。一方、前記時間より長い時間であるとジャガイモの表面が煮えてしまい好ましい製品が得られないためである。なお、105℃以上であると処理を行う雰囲気を加圧状態とする必要があり、そのため大規模な設備を要し、また、連続的に処理を施すことが難しく生産性に劣り好ましくない。
【0015】
次に、接液処理を行ったジャガイモを、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩と、アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩を含む溶液に浸漬処理する。ここで次亜塩素酸塩とは、次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ソーダ)、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸の水素が金属に置換されて生じる塩をいい、また、アスコルビン酸塩としては、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム等のアスコルビン酸の水素が金属に置換されて生じる塩をいう。それぞれ食品に用いることのできるものであればいずれのものでもよい。なお本発明は、飽和食塩水を電気分解し水道水で使用に適した濃度に希釈した、次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする電解次亜水を用いてもよい。前記電解次亜水は、長期間にわたり有効塩素濃度を維持するため好ましい。
【0016】
次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩の有効塩素濃度は25〜500ppm、好ましくは50〜200ppmであるとよく、アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩の濃度は0.01%〜1%、好ましくは0.05〜0.5%であるとよい。次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩の有効塩素濃度が前記範囲より低い濃度であると、殺菌効果が十分ではなく保存中に菌が多量に増殖してしまうため、日持ちができず、一方前記範囲より高い濃度であっても、期待するほど効果が得られず好ましくないためである。また、アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩の濃度が前記範囲より低い濃度であると、保存中に外観が悪くなり日持ちができず、一方前記範囲より高い濃度であると、ジャガイモに酸味がついてしまったり、加熱調理しても硬い状態であるなど、風味、品質のよいものが得られないためである。なお、浸漬溶液の温度は5〜25℃が好ましく、5℃より低い温度であると工業的製造がし難く、一方25℃より高い温度であるとその後の工程で菌が多量に増殖する場合があるためである。
【0017】
上記次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩と、アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩を含む溶液へのジャガイモの浸漬時間は、30分〜30時間、好ましくは45分〜24時間である。前記浸漬時間より短い時間であると殺菌効果が不十分な場合があり、保存中に菌が多量に増殖し日持ちができないためである。一方前記時間より長い時間であると、ジャガイモに酸味がついてしまったり、加熱調理しても硬いものであり、風味、品質のよいものが得られないためである。
【0018】
以上の方法で得られた殺菌生ジャガイモは常法に則り、液切した後、ポリ袋等の容器に充填し密封する。この際、真空シールを行い密封すると風味、品質の劣化が起き難く好ましい。
【0019】
以下、本発明について、実施例、比較例、並びに試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0020】
[実施例1]
生のジャガイモを水洗いし、スチームピーラーで剥皮した後、芽取りし、90℃の熱水で20秒間ブランチング処理を行なった。次いで、電解次亜水生成機(ダイキハイクロレーター、大機エンジニアリング(株)製)にて製造した有効塩素濃度が50ppmである電解次亜水と0.1%のL−アスコルビン酸ナトリウムを含む溶液に1時間浸漬処理を行い、液切りした後真空シールを行い殺菌生ジャガイモを得た。
【0021】
[実施例2]
生のジャガイモを水洗いし、スチームピーラーで剥皮した後、芽取りし、80℃の熱水で1分間ブランチング処理を行なった。次いで、有効塩素濃度が50ppmである電解次亜水(実施例1と同様に製造したもの)と0.1%のL−アスコルビン酸ナトリウムを含む溶液に1時間浸漬処理を行い、液切りした後真空シールを行い殺菌生ジャガイモを得た。
【0022】
[比較例1]
実施例1の生ジャガイモの処理方法において、ブランチング処理を行なわなかった以外は同様な方法で生ジャガイモの処理を行い殺菌生ジャガイモを得た。
【0023】
[比較例2]
実施例1の生ジャガイモの処理方法において、60℃の温水で20秒間ブランチング処理を行なった以外は同様な方法で、生ジャガイモの処理を行い殺菌生ジャガイモを得た。
【0024】
[比較例3]
実施例1の生ジャガイモの処理方法において、60℃の温水で10分間ブランチング処理を行なった以外は同様な方法で、生ジャガイモの処理を行い殺菌生ジャガイモを得た。
【0025】
[比較例4]
実施例1の生ジャガイモの処理方法において、90℃の熱水で15分間ブランチング処理を行なった以外は同様な方法で、生ジャガイモの処理を行い殺菌ジャガイモを得た。
【0026】
[試験例1]
実施例1及び2、並びに比較例1乃至4で得られたそれぞれの殺菌生ジャガイモについて、接液処理条件(液温及び時間)の違いによる得られたジャガイモの日持ちについて評価した。具体的には、冷蔵(10℃)で4日間保存し、保存前後の殺菌生ジャガイモの一般生菌数について評価した。
【0027】
【表1】

【0028】
表1より、80℃以上の液温で5秒〜5分間接液処理を行った実施例1及び2の殺菌生ジャガイモは、接液処理を行なわなかった比較例1、80℃より低い液温で接液処理を行った比較例2と比較し、保存前後の一般生菌数が少なく、80℃より低い液温で5分より長い時間接液処理を行った比較例3と比較し、保存後の一般生菌数が少なく、4日間日持ちをするものであることが理解される。また、5分より長い時間接液処理を行った比較例4の殺菌ジャガイモは、表面が煮えてしまい好ましい製品が得られなかった。
【0029】
[実施例3]
生のジャガイモを水洗いし、スチームピーラーで剥皮した後、芽取りし、90℃の熱水で20秒間ブランチング処理を行なった。次いで、有効塩素濃度が200ppmである次亜塩素酸ナトリウムと0.3%のL−アスコルビン酸を含む溶液に30分間浸漬処理を行い、液切りした後真空シールを行い殺菌生ジャガイモを得た。
【0030】
[比較例5]
実施例1の生ジャガイモの処理方法において、ブランチング処理を行なった後、有効塩素濃度が50ppmである電解次亜水(実施例1と同様に製造したもの)に浸漬処理を行った以外は同様な方法で生ジャガイモの処理を行い殺菌生ジャガイモを得た。
【0031】
[比較例6]
実施例1の生ジャガイモの処理方法において、ブランチング処理を行なった後、0.1%のL−アスコルビン酸ナトリウム溶液に浸漬処理を行った以外は同様な方法で生ジャガイモの処理を行い殺菌生ジャガイモを得た。
【0032】
[比較例7]
実施例1の生ジャガイモの処理方法において、ブランチング処理を行なった後、有効塩素濃度が50ppmである電解次亜水(実施例1と同様に製造したもの)に1時間浸漬処理し、次いで0.1%のL−アスコルビン酸ナトリウム溶液に1時間浸漬処理を行った以外は同様な方法で生ジャガイモの処理を行い殺菌生ジャガイモを得た。
【0033】
[比較例8]
実施例1の生ジャガイモの処理方法において、ブランチング処理を行なった後、0.1%のL−アスコルビン酸ナトリウム溶液に1時間浸漬処理し、次いで有効塩素濃度が50ppmである電解次亜水(実施例1と同様に製造したもの)に1時間浸漬処理を行った以外は同様な方法で生ジャガイモの処理を行い殺菌生ジャガイモを得た。
【0034】
[試験例2]
実施例1及び3、並びに比較例5乃至8で得られたそれぞれの殺菌生ジャガイモについて、浸漬条件の違いによる得られた殺菌生ジャガイモの日持ち及び外観の違いについて評価した。具体的には、冷蔵(10℃)で4日間保存し、保存前後の殺菌生ジャガイモの一般生菌数及び外観について評価した。
【0035】
【表2】

【0036】
表2より、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩と、アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩を含む溶液に浸漬処理を行った実施例1及び3の殺菌生ジャガイモは、電解次亜水のみに浸漬処理を行った比較例5、アスコルビン酸ナトリウム溶液に浸漬処理行った後電解次亜水に浸漬処理を行った比較例8の殺菌生ジャガイモと比較し、外観が優れていることが理解される。また、アスコルビン酸塩溶液のみに浸漬処理を行った比較例6、電解次亜水に浸漬処理を行った後アスコルビン酸ナトリウム溶液にて浸漬処理を行った比較例7の殺菌生ジャガイモは、保存後の菌数が非常に多く日持ちをするものではなかった。
【0037】
[試験例3]
実施例1で得られた殺菌生ジャガイモについて、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩と、アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩を含む溶液への生ジャガイモの浸漬処理時間の違いによる日持ち及び品質の違いについて評価した。具体的には、冷蔵(10℃)で4日間保存し、保存後の一般生菌数、並びに保存後の殺菌生ジャガイモを98℃の蒸気で50分間蒸煮したジャガイモの風味及び硬さについて評価を行なった。
【0038】
【表3】

【0039】
表3より、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩と、アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩を含む溶液での生ジャガイモの浸漬処理時間が30分〜30時間であった殺菌生ジャガイモは、浸漬処理時間が30分より短い時間であった殺菌生ジャガイモと比較し、保存後の菌数が少なく4日間日持ちするものであることが理解される。また、上記溶液での浸漬時間が30分〜30時間であった殺菌ジャガイモは、浸漬処理浸漬処理時間が30時間より長い時間であった殺菌生ジャガイモと比較し、蒸煮後の風味、硬さが優れており、品質のよいものであることが理解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥皮した生のジャガイモを、80℃以上の液温で5秒〜5分間接液処理した後、有効塩素濃度が25〜500ppmである次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩と、0.01%〜1%のアスコルビン酸又はアスコルビン酸塩を含む溶液に30分〜30時間浸漬処理することを特徴とした殺菌生ジャガイモの製造方法。


【公開番号】特開2008−193950(P2008−193950A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32579(P2007−32579)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】