説明

殻粉食品及び穀粉食品の製造方法

【課題】生茶葉に含まれている酵素によって穀粉食品の食感や風味が改善されていると共に、その酵素によって生成する茶ポリフェノールやその分解物、遊離アミノ酸などからなる生理活性成分を豊富に含む、穀粉食品を提供する。
【解決手段】酵素活性が損なわれていない生茶葉又はその処理物と、穀粉と、水とを、原料として少なくとも混合し、その原料に、前記生茶葉に由来する酵素を酵素的に作用させて穀粉食品を製造する。前記生茶葉の処理物は、生茶葉をそのままあるいは水存在下で破砕しスラリー状に調製したもの、又はこれを固液分離して得られた茶葉抽出液や茶葉抽出残渣であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殻粉食品及び穀粉食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末の茶、抹茶等を穀粉に練り込んで製造したパン類、麺類、クッキー等が上市されている。
【0003】
また、製茶された茶葉に含まれている成分には、エピガロカテキンガレートを代表とする緑茶カテキン類や、紅茶の紅色色素であるテアフラビン類等、種々の医薬的、保健的機能性があることが知られている。具体的には、カテキン類には、抗酸化、抗腫瘍、血中コレステロール上昇抑制、血糖値低下など、メチル化カテキン類には、抗アレルギー、花粉症対策など、テアフラビン類には、抗酸化、抗腫瘍、血糖値低下、血小板凝集阻害など、カフェインには、中枢神経興奮、強心、利尿、代謝促進作用など、テアニンには、血圧降下、脳神経機能調節作用など、GABA(γ-アミノ酪酸)には、血圧降下、抑制性神経伝達物質としての作用など、没食子酸には、抗肥満、抗酸化など、サポニンには、抗ぜんそく、抗菌、血圧降下作用などの医薬的、保健的機能性があることが、それぞれ知られている。
【0004】
これらの機能性を、穀粉を原料とする食品に付与すべく、例えば、下記特許文献1には、茶から精製したカテキン類をパン生地に添加してパンを製造することが記載されている。
【0005】
一方、下記特許文献2〜5には、生茶葉の酵素を利用して茶葉に含まれるカテキン類からテアフラビン類を生成させて、これを豊富に含有する茶飲料を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−200032号公報
【特許文献2】国際公開第2009/119109号
【特許文献3】国際公開第2009/119112号
【特許文献4】国際公開第2009/119113号
【特許文献5】国際公開第2009/119111号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生茶葉には、茶の機能性成分や香り、風味成分などを生成し、又は製茶工程で醸成するのにはたらく酵素など、さまざまな酵素が含まれている。
【0008】
上市されている粉末の茶、抹茶等を穀粉に練り込んで製造したパン類、麺類、クッキー等は、緑茶の色を鮮やかにした食品がほとんどで、粉末茶、抹茶の量は非常に少なく、製茶の熟成、殺菌等の工程で生茶葉の酵素は失活しているため、生茶葉に含まれている酵素の機能性を期待できる食品ではなかった。
【0009】
また、上記特許文献1のように茶から精製したカテキン類等の茶成分を添加するものにおいては、その特定の茶成分の精製の工程等において、生茶葉の酵素は失活し、又は除かれてしまう。
【0010】
一方、上記特許文献2〜5には、生茶葉に含まれている酵素を利用することが記載されている。しかしながら、茶飲料又はテアフラビンを製造するものであり、穀粉を原料とする食品に利用する技術ではなかった。
【0011】
このように、従来、生茶葉に含まれている酵素を、パン類、麺類、クッキー等の穀粉食品の食感や風味の改善、生理活性成分の付与等に利用するという発想はなかった。
【0012】
本発明の目的は、生茶葉に含まれている酵素によって穀粉食品の食感や風味が改善されていると共に、その酵素によって生成する茶ポリフェノールやその分解物、遊離アミノ酸などからなる生理活性成分を豊富に含む、穀粉食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の1つは、酵素活性が損なわれていない生茶葉又はその処理物と、殻粉と、水とを、原料として少なくとも混合し、該原料に前記生茶葉に由来する酵素を酵素的に作用させる工程を経て得られたものであることを特徴とする殻粉食品を提供するものである。
【0014】
本発明の殻粉食品においては、テアニンを少なくとも含有し、テアニン1に対する遊離アミノ酸の総量の質量比が2.5〜200であることが好ましい。
【0015】
また、γ-アミノ酪酸と没食子酸を少なくとも含有し、γ-アミノ酪酸1に対する没食子酸の質量比が0.3〜4.0であることが好ましい。
【0016】
また、前記殻粉食品100g中にリジンを0.01mg以上含有することが好ましい。
【0017】
また、前記殻粉食品100g中にテアフラビンを0.01mg以上含有することが好ましい。
【0018】
また、前記生茶葉がメチル化カテキンを含有する茶葉を含み、前記穀粉食品中にメチル化カテキンを少なくとも含有することが好ましい。
【0019】
また、ポリフェノール類、没食子酸、ガレート型カテキンを少なくとも含有し、没食子酸/ポリフェノール類の質量比率が0.5%以上、ガレート型カテキン/総カテキンの質量比率が36%以上、非エピ型カテキン/総カテキンの質量比率が25%以下であることが好ましい。
【0020】
また、食物繊維を2〜20質量%含有することが好ましい。
【0021】
本発明の殻粉食品は、パン、麺、パスタ、クッキー、ビスケット、ケーキ、餃子の皮、シュウマイの皮、ピザの皮、ナンの皮、又は饅頭皮であることが好ましいが、原料に穀粉を含んだあらゆる食品に適応できる。
【0022】
本発明の殻粉食品によれば、酵素活性が損なわれていない生茶葉又はその処理物と、殻粉と、水とを、原料として少なくとも混合し、その原料に前記生茶葉に由来する酵素を酵素的に作用させる工程を経て得られたものであるので、穀粉食品の食感や風味が改善される。すなわち、パンなどの場合、もちもち感やしっとり感が向上し、焼き上がりの香りも高く、風味も良好である。麺、パスタなどの場合、つるつる感、コシが強くもちもち感が向上し風味も良好である。クッキーなどの場合、さくさく感が向上する。中華まんじゅうなどの場合、もちもち感が向上する。
【0023】
また、その酵素によって生成する茶ポリフェノールやその分解物、遊離アミノ酸などからなる生理活性成分を豊富に含んでいる。
【0024】
たとえば、茶葉中に含まれる酵素によって穀粉、茶葉、その他の原料に含まれる蛋白質が分解されるので、遊離アミノ酸を豊富に含んでいる。また、茶葉中の脱炭酸酵素により穀粉、茶葉、その他の原料に含まれるグルタミン酸がγ-アミノ酪酸へと変換されるので、血圧降下、抑制性神経伝達物質の作用が報告されているγ-アミノ酪酸を豊富に含んでいる。また、茶葉中に多く含まれるガレート型カテキンのガレートエステル部分が茶葉中に含まれる酵素によって分解されるので、抗肥満、抗酸化などの生理活性作用を有する没食子酸を豊富に含んでいる。また、茶葉中に含まれる酵素によって、穀粉、茶葉、その他の原料に含まれる蛋白質を分解し遊離アミノ酸が生成されるが、酵素的に作用させる時間を長くとった場合には、通常のプロテアーゼ等による小麦グルテンの加水分解では生成できないほどのリジンが高含有に得られるので、リジンを豊富に含んでいる。小麦粉食品はリジン含有量が少ないことは知られている。リジン含有量を豊富に含むと小麦粉蛋白質の有効利用が高まり、子供の成育改善、タンパク栄養状態の改善(プレアルブミンレベルの上昇)および免疫力の改善が期待される。また、茶葉中に含まれる酵素には、カテキン類をテアフラビン及びガレート型テアフラビンに変換するのに適したポリフェノールオキシダーゼ活性やペルオキシダーゼ活性を有するものが含まれているので、カテキン類からテアフラビン又はガレート型テアフラビンが生成され、これらを豊富に含んでいる。テアフラビン又はガレート型テアフラビンは血糖値上昇活性、抗菌性、血栓形成阻害効果、抗酸化活性等の機能性が報告され、カテキンの機能性に比べ同等か非常に上回っている。しかし、紅茶製法による紅茶葉にはテアフラビンは微量もしくは含有されていない。本技術ではテアフラビン又はガレート型テアフラビンが豊富に含まれている。また、メチル化カテキンを含有する茶葉では、テアフラビンを生成させる時、一般の紅茶製法ではメチル化カテキンがほぼ完全に消失してしまう。また、上記特許文献4では茶葉酵素によりメチル化カテキン残存下、テアフラビン生成はできるが、ガレート型テアフラビン生成の場合はメチル化カテキンがほぼ完全に消失した。このように、通常、メチル化カテキン残存下、ガレート型テアフラビンを生成することは困難であるが、本発明の殻粉食品によれば、メチル化カテキン残存下、ガレート型テアフラビンを生成することができ、これらを豊富に含んでいる。
【0025】
また、本発明の殻粉食品によれば、抗肥満や生活習慣病対策などへの生理作用が期待できる食物繊維を豊富に含んでいる。
【0026】
本発明のもう1つは、酵素活性が損なわれていない生茶葉又はその処理物と、殻粉と、水とを、原料として少なくとも混合し、該原料に、前記生茶葉に由来する酵素を酵素的に作用させる工程を有することを特徴とする穀粉食品の製造方法を提供するものである。
【0027】
本発明の穀粉食品の製造方法によれば、酵素活性が損なわれていない生茶葉又はその処理物と、殻粉と、水とを、原料として少なくとも混合し、その原料に、前記生茶葉に由来する酵素を酵素的に作用させるので、穀粉食品の食感や風味が改善する。すなわち、パンなどの場合、もちもち感やしっとり感が向上し、焼き上がりの香りも高く、風味も良好である。麺、パスタなどの場合、つるつる感、コシが強くもちもち感が向上し風味も良好である。クッキーなどの場合、さくさく感が向上する。中華まんじゅうなどの場合、もちもち感が向上する。
【0028】
また、その酵素によって生成する茶ポリフェノールやその分解物、遊離アミノ酸などからなる生理活性成分を豊富に含む、穀粉食品を製造することができる。すなわち、茶葉中に含まれる酵素によって、遊離アミノ酸、γ-アミノ酪酸、没食子酸、リジン、テアフラビン、ガレート型テアフラビンなどの生成量が格段に上昇するので、これらを豊富に含む穀粉食品を製造することができる。
【0029】
本発明の穀粉食品の製造方法においては、前記生茶葉の処理物は、生茶葉をそのままあるいは水存在下で破砕しスラリー状に調製したスラリー状調製物であることが好ましい。これによれば、他の原料との混合が容易である。
【0030】
本発明の穀粉食品の製造方法においては、その穀粉食品が、パン、麺、パスタ、クッキー、ビスケット、ケーキ、餃子の皮、シュウマイの皮、ピザの皮、ナンの皮、又は饅頭皮であることが好ましいが、原料に穀物粉を含んだあらゆる食品に適応できる。
【0031】
なお、本発明においては、前記生茶葉の処理物は、生茶葉をそのままあるいは水存在下で破砕した生茶葉破砕物、これをスラリー状に調製したスラリー状調製物、又はこれを固液分離して得られた茶葉抽出液と茶葉抽出残渣のうち、(1)生茶葉破砕物、(2)スラリー状調製物、(3)茶葉抽出液及び茶葉抽出残渣、(4)茶葉抽出残渣、(5)茶葉抽出液及び酵素失活処理した茶葉抽出残渣、(6)茶葉抽出液、及び(7)酵素失活処理した茶葉抽出液及び茶葉抽出残渣からなる群から選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。
【0032】
以下にその理由を挙げる。
(1)生茶葉破砕物を用いる場合
本発明の別の態様においては、生茶葉の酵素活性を失活させることなく、そのまま破砕した生茶葉破砕物を用いる。非常に簡便に取り扱える点が最大の利点である。また茶葉の食物繊維を全て利用することができる。しかし微粉砕が難しいため食感が悪くなる食品(パン、麺、饅頭皮など)もある。また水中破砕でないため酵素の働きを完全に利用する事ができない場合もある。例えばテアフラビンは生成するが没食子酸含有量が少ないなどの問題点がある。
【0033】
(2)スラリー状調製物を用いる場合
本発明の別の態様においては、生茶葉の酵素活性を失活させることなく、そのままあるいは水存在下で破砕した茶葉のスラリーを用いる。固液分離の手間がなく、酵素活性も100%使用できる点で上記(1)および下記(3)〜(7)に比べ優位である。また茶葉の食物繊維を全て利用することができる。しかし、パン酵母などを用いるパンの場合、パンの膨らみが一定せず商品製造の管理が難しい。一方、パン酵母を用いない麺の場合は簡便に使用できる。生茶葉の酵素活性の全てを使用したので、遊離アミノ酸含有量、γ-アミノ酪酸、没食子酸、リジン、テアフラビンおよびガレート型テアフラビンの生成量が上昇する。しかしスラリーに空気がかなり含まれているため酸素存在下で働くポリフェノールオキシダーゼが優勢となりペルオキシダーゼ、加水分解酵素の働きが悪くなり、味、食感が劣る食品の場合もある。
【0034】
(3)茶葉抽出液及び茶葉抽出残渣を用いる場合
本発明の別の態様においては、生茶葉の酵素活性を失活させることなく、そのままあるいは水存在下で破砕し破砕した茶葉のスラリーを固液分離して得られた、茶葉抽出液と茶葉抽出残渣を用いる。
特にパンの場合、茶葉のスラリーを固液分離せずにそのままスラリーごと添加するとパンの膨らみがあまり良くないため、水分量の調節を行いパンの膨らみ調整を行なう必要がある。しかし茶葉のスラリーを固液分離すると、ペルオキシダーゼ、加水分解酵素の働きが良くなるため、茶葉抽出液と茶葉抽出残渣をパンに添加すると、パンの膨らみは良好でパンのもちもち感やしっとり感が向上し、焼き上がりの香りも高くなり、風味も良好となる。パン以外も、麺、パスタ等の場合、つるつる感、コシが強くもちもち感が向上し風味がさらに向上する。クッキーの場合、さくさく感が向上する。中華まんじゅうの場合、もちもち感が向上する。また、生茶葉の酵素活性の全てを使用したので、遊離アミノ酸含有量、γ-アミノ酪酸、没食子酸、リジン、テアフラビンおよびガレート型テアフラビンの生成量が格段に上昇する。また茶葉の食物繊維を全て利用することができる。
【0035】
(4)茶葉抽出残渣を用いる場合
本発明の別の態様においては、生茶葉の酵素活性を失活させることなく、そのままあるいは水存在下で破砕した茶葉のスラリーを固液分離して得られた、茶葉抽出液と茶葉抽出残渣のうち、茶葉抽出残渣のみを用いる。
これによれば、生地中の水の割合を少なくしなければならないクッキー等の場合にも、茶葉抽出残渣を用いるだけで食感が良好となり、遊離アミノ酸含有量、γ-アミノ酪酸、没食子酸、リジン、テアフラビンおよびガレート型テアフラビンの生成量も上昇する。
【0036】
(5)茶葉抽出液及び酵素失活処理した茶葉抽出残渣を用いる場合
本発明の別の態様においては、生茶葉の酵素活性の一部を失活させて用いる。すなわち、生茶葉の酵素活性を失活させることなく、そのままあるいは水存在下で破砕した茶葉のスラリーを固液分離して得られた、茶葉抽出液と茶葉抽出残渣のうち、ほぼ完全に酵素活性が残存した茶葉抽出液と、例えば熱処理等により酵素活性がほぼ完全に失活した茶葉抽出残渣とを用いる。本態様の特徴は、カテキンをテアフラビンまたはガレート型テアフラビンに変換するポリフェノールオキシダーゼやペルオキシダーゼがほぼ完全に失活しているのでテアフラビンまたはガレート型テアフラビンの生成がなく、カテキンをそのまま含有した緑茶成分含有穀粉食品が得られることにある。そして、酵素活性がほぼ完全に残存した茶葉抽出液を用いることで、遊離アミノ酸含有量、γ-アミノ酪酸、没食子酸、リジンの上昇量をある程度期待できる。また茶葉の食物繊維を全て利用することができる。更に、本態様の最大の特徴は、カテキンが存在するとパンの膨らみが悪くなり、パンの場合ぱさつきが生じ、麺、パスタ等の場合、ぼそぼそ感が生じるが、茶葉抽出液中に含まれるペルオキシダーゼが、小麦粉に含まれるグルテンのS−S結合を促進するため、パンの膨らみや食感、麺、パスタ等の食感を改善する作用効果が得られることにある。
【0037】
(6)茶葉抽出液を用いる場合
本発明の別の態様においては、生茶葉の酵素活性の一部を用いる。すなわち、生茶葉の酵素活性を失活させることなく、そのままあるいは水存在下で破砕した茶葉のスラリーを固液分離して得られた、茶葉抽出液と茶葉抽出残渣のうち、酵素活性がほぼ完全に残存した茶葉抽出液のみを用いる。紅富貴はやぶきたに比べとくに2番茶以降の茶葉は葉及び茎が固いため茶葉抽出残渣の繊維が食感を非常に悪くする。この解決法として茶葉量を多くし茶葉抽出液を用いればカテキン量が多くてもペルオキシダーゼ活性によりパンの膨らみも良好な利点がある。本態様の特徴は、カテキンをテアフラビンまたはガレート型テアフラビンに変換するポリフェノールオキシダーゼやペルオキシダーゼが少ないのでテアフラビンまたはガレート型テアフラビンの生成がなく、カテキンをそのまま含有した緑茶成分含有穀粉食品が得られることにある。そして、酵素活性がほぼ完全に残存した茶葉抽出液を用いることで、遊離アミノ酸含有量、γ-アミノ酪酸、没食子酸、リジンの上昇量をある程度期待できる。
【0038】
(7)酵素失活処理した茶葉抽出液及び茶葉抽出残渣を用いる場合
茶葉抽出残渣の酵素活性を利用し遊離アミノ酸含有量、γ-アミノ酪酸、没食子酸、リジン、テアフラビンおよびガレート型テアフラビンの生成量を上昇させるが、茶葉抽出液は酵素活性が失活しているので抽出液の色は緑色が保たれる。食品の色を緑色に保ちたい場合、本方法が推奨される。また茶葉の食物繊維を全て利用することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、生茶葉に含まれている酵素によって穀粉食品の食感や風味が改善されていると共に、その酵素によって生成する茶ポリフェノールやその分解物、遊離アミノ酸などからなる生理活性成分を豊富に含む、穀粉食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】パン100g中に含まれるアスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、及びスレオニンの含有量(mg)を表したグラフである。
【図2】パン100g中に含まれるアルギニン、テアニン、アラニン、チロシン、GABA(γ−アミノ酪酸)、及びメチオニンの含有量(mg)を表したグラフである。
【図3】パン100g中に含まれるバリン、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシン、及びリジンの含有量(mg)を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明に用いられる茶葉の品種としては、一般に栽培されている緑茶品種および紅茶品種のいずれの茶葉も用いることができる。日本で栽培されている代表的な茶葉としては、あさつゆ、やぶきた、やまとみどり、まきのはらわせ、かなやみどり、おくみどり、おおいわせ、おくひかり、めいりょく、さみどり、こまかげ、やまなみ、みねかおり、はつもみじ等の緑茶品種、紅富貴、紅ほまれ、紅ふじ、べにひかり、ひめみどり、やまとみどり、おくみどり、からべに等の紅茶品種などがあるが、本発明においては、これらの品種に限らず、世界中で栽培されているいずれの品種の茶葉も用いることができる。
【0042】
茶葉の採取時期は、1番茶、2番茶、3番茶、4番茶のいずれでもよい。ただし、それぞれの葉ごとにカテキン類の量や、ポリフェノールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、タンナーゼ、加水分解酵素等の酵素の活性が異なるため、用いる材料の茶葉により反応条件を適宜調節することが好ましい。なお、1番茶はアミノ酸量が多いので味がより優れる。
【0043】
本発明において、「酵素活性が損なわれていない生茶葉又はその処理物」とは、茶葉中の酵素を実質的に失活しないで維持して含むものを意味する。例えば、もともと生茶葉中に含まれているペルオキシダーゼの活性を指標にした場合には、その25%以上の活性が残存していることが好ましく、60%以上残存していることがより好ましく、90%以上残存していることが最も好ましい。25%未満では酵素的に作用させる工程を経ることによる効果を全て生かすことが難しくなる。したがって、収穫後、萎凋、揉捻、加熱、発酵、乾燥などの製茶にかかわる処理が施される前の茶葉を用いることが好ましい。ただし、茶葉中の酵素を実質的に失活しないで維持して含むものであれば、収穫後、萎凋等の処理を行ったものでも使用することができる。具体的には、摘んだ直後の生茶葉、生茶葉を摘んだ直後萎凋した茶葉、摘んだ直後または萎凋後、真空パックまたは空気が触れない状態で冷凍保存したもの、摘んだ直後または萎凋後、凍結乾燥したもの等を好ましく例示できる。冷凍温度−80℃、−40℃、−20℃などで、冷凍期間1年以上冷凍保存した茶葉なども用いることができる。
【0044】
本発明において、上記生茶葉又はその処理物には、各種茶葉をそのままあるいは水存在下で破砕等処理したものや、それを固液分離して得られる抽出液や抽出残渣を含む。その形態に特に制限はなく、みじん切りのごとく粗く裁断したものや、裁断したものを凍結乾燥したものなども用いることができるが、他の原料との混合のしやすさの観点からは、破砕し、スラリー状に調製したものであることが好ましい。破砕温度や破砕物の粒径も、酵素活性を維持できれば特に制限はないが、繊維まで破砕することが好ましく、食感を期待する観点からは、より細かいほうがよい(たとえば、粒径サイズ1μm〜1mm)。また、冷凍した生茶葉は解凍せずに、冷凍したままあるいは冷凍したまま茶葉に水を加え破砕すればよい。解凍すると、発酵が早まるため葉が赤くなるので、冷凍した茶葉をそのままあるいは水を加え破砕するのがよい。もしくは水を加え酵素活性が維持できればしばらく放置後破砕してもよい。凍結乾燥した生茶葉はそのまま、あるいは水を加えて破砕してもよい。裁断した生茶葉を凍結乾燥した場合は、そのままあるいは水を加えて使用できる。
【0045】
破砕する手段としては、茶葉が破砕できればよく特に制限されない。例えば調理用ミキサー、マスコロイダー、ウルトラマイザー、ヒスコトロン、ハンマーミル、ホモゲナイザー、石臼機などを用いることができる。例えば、茶葉50gに対して0.2〜3.0当量の水を加えてこれらの破砕手段で数秒から数分、好ましくは1分間程度破砕することで、懸濁状の茶葉破砕物を得ることができる。
【0046】
その破砕は、繊維まで破砕することができる破砕機を用いるのが望ましい。破砕時間は空気を巻き込むミキサーの場合、メチル化カテキンを含有する品種例えば紅富貴の場合、1分間を超えて破砕するとメチル化カテキンは消失し始めるので、緑茶色(カテキン入り)のパン及び紅茶色(テアフラビン入り)の穀粉食品を作る場合などには、全て1分間程度とする。メチル化カテキンを含有しない茶葉を用いて、緑茶色(カテキン入り)の穀粉食品を製造する場合などにも、1分間程度破砕する。紅茶色の穀粉食品(テアフラビン入り)を製造する場合などには、1分から10分間程度破砕してよい。1分間程度破砕の場合、テアフラビンは産生しないが、5分間程度破砕の場合だと、破砕中にテアフラビンが産生する。テアフラビン量を多く産生させたい場合、破砕時間を10分間程度にしてもよいが、この場合、得られる穀粉食品のアミノ酸量は、破砕中にミキサー内で行なわれるテアフラビン生成に伴う発酵によりアミノ酸量が減る場合もある。また、破砕中にミキサー内で行なわれる発酵では没食子酸の生成量が少ない。テアフラビン量とアミノ酸量と没食子酸を多く生成させたい場合、破砕時間は1分から2分間程度とすることが好ましい。
【0047】
本発明においては、生茶葉をそのままあるいは水存在下で破砕しスラリー状に調製し、これを固液分離して、その固液分離により得られた液体部分(以下、「濾過液」ともいう。)を茶葉抽出液として用いることができる。また、その固液分離により得られた固体部分(以下、「茶残渣」ともいう。)を茶葉抽出残渣として、それぞれ上記生茶葉の処理物として用いることができる。固液分離する手段としては、茶葉の少なくとも大部分と液体部分が分離できればよく特に制限されない。例えば目の細かい茶こし器などでの濾過や、遠心分離の操作などでもよい。作業性の観点から、布によるろ過などで行なうことが好ましい。
【0048】
なお、上記茶葉濾過液と上記茶葉抽出残渣とを用いる場合、その茶葉抽出液と茶葉抽出残渣とは、共通の原料生茶葉から共通の工程を経て得られたものである必要はなく、別々の原料生茶葉もしくは別々の工程で得られたものを併用することができる。
【0049】
本発明においては、上記茶葉抽出残渣は、酵素失活処理を施した後に、酵素活性の残存した上記茶葉濾過液とともに用いてもよい。後述するように上記茶葉抽出残渣はパンを紅茶色する活性(テアフラビン産生させる活性)を有しているが、酵素失活処理を施すことで、その活性を失活させて穀粉食品を薄緑色(カテキンを残存させる)にすることができる。酵素活性の失活させる条件に特に制限はない。例えば、熱処理、電子レンジ加熱処理、薬品処理等が挙げられる。熱処理の条件にも特に制限はないが、一気に酵素失活するのがよい。例えば、上記茶葉抽出残渣25gに対して0.5〜3.0当量の熱湯を加えて布にて固液分離することにより行なうことができる。得られた茶葉抽出残渣は布にてよくしぼることが好ましい。その絞り汁は上記茶葉抽出液と合わせてもよい。
【0050】
本発明の殻粉食品は、上記に説明した酵素活性が損なわれていない生茶葉又はその処理物と、殻粉と、水とを少なくとも混合し、その生茶葉に由来する酵素を酵素的に作用させる工程を経て、得ることができる。ここで「酵素的に作用させる」とは、上記に説明した酵素活性が損なわれていない生茶葉又はその処理物に含まれる酵素を、茶葉成分自体又はその他の殻粉食品の原料成分に対して、酵素による物質的変換が実質的に生じるように作用させることをいう。その場合、温度や時間等の条件は、得ようとする穀粉食品の種類によって適宜選択することができ、特に制限はないが、通常−10〜75℃程度、より好ましくは0〜45℃程度で、3分〜48時間程度、より好ましくは5分〜24時間程度作用させることでよい。その条件の範囲外であると酵素による実質的な物質的変換が生じにくい。なお、本願発明においては穀粉と酵素が相互作用しているため、通常の酵素の至適温度より広い温度で酵素による物質的変換が生じる。すなわち、−10℃から75℃で、酵素による実質的な物質的変換が生じ得る。
【0051】
本発明の殻粉食品は、パン、麺、パスタ、クッキー、ビスケット、ケーキ、餃子の皮、シュウマイの皮、ピザの皮、ナンの皮、又は饅頭皮等の穀粉食品をいう。そして、食品100g中の食品分析などで使われる水分も含んだ状態のものを意味し、パンは焼成後だけでなく、焼成前の生地の形態をも含む。麺、パスタ、餃子・シュウマイの皮、ピザの皮、ナンの皮は生の形態だけでなく茹でた後や乾燥した後の形態をも含む。また、クッキー、ビスケット、ケーキ、や饅頭皮は、一般に焼成や熱処理したものが消費者に商品として提供されるが、本発明の殻粉食品には、焼成前や加熱処理前の半製品の形態をも含む。しかし、餃子・シュウマイの餡、饅頭の餡等は含まない。
【0052】
本発明の穀粉食品の製品の例としては、食パン、山食パン、蒸しパン、菓子パン、プルマン、イギリス食パン、ワンローフ、バゲット、フランスパン、スイートロール、バンズ、テーブルロール、クロワッサン、デニッシュ、イングリッシュマフィン、ベーグル、ドーナツ、フリッター又はロールパン等のパン類、うどん、そば、又は中華麺等の麺類、パスタ、餃子の皮、シュウマイの皮、ピザの皮、ナンの皮、クッキー、ビスケット、ケーキ、中華まんじゅう、小麦饅頭、又はふかし饅頭等の饅頭類が挙げられるが、穀粉を原料とするあらゆる食品に適用できる。
【0053】
なお、本発明の穀粉食品によれば、後述する実施例で示されるように、整腸作用、体重増加抑制作用、内臓脂肪低減作用等、種々の生理活性効果が期待できる。
【0054】
以下にその製造方法について具体的に説明する。
【0055】
本発明において用いられる穀粉としては、穀粉食品の原料として用いることができるものであれば特に制限はなく、例えば、グルテンを含む原料として小麦(強力粉、中力粉、薄力粉)、オートムギ、ライムギ、オオムギ、デュラム小麦、コーンフラワー、ひえ、あわ、そば粉等や未加工澱粉、澱粉、グルテンを含まない米等を例示することができる。本発明においては、原料の一部にグルテンを含む穀粉を使用する事が望ましい。グルテンを含む穀粉は本技術のペルオキシダーゼ活性によりグルテンのS-S結合を促進しカテキンなどS-S結合を切断させる成分存在下でもパンの膨らみや食感、麺、パスタ等の食感を改善する作用効果が得られる。またS-S結合促進作用はテアフラビンや没食子酸や、γ-アミノ酪酸や遊離アミノ酸等が生成させる酵素反応が進行しやすい環境を作り出す作用効果も得られる。
【0056】
本発明においては、上記に説明した酵素活性が損なわれていない生茶葉又はその処理物として、上記茶葉抽出液を用いる場合には、それを穀粉食品の主成分となる小麦粉、ライ麦粉、米粉などの穀粉の100質量部に対して、1〜80質量部、好ましくは5〜75質量部、最も好ましくは10〜70質量部程度添加して穀粉食品生地を調製する。1質量部未満だと生活習慣病等の機能性が得られず、色のみの食品となる。80質量部以上であると食品の製造が困難または食品食感が衰える。1から80質量部の範囲は機能性、食品製造及び食感からも問題は無い。また、上記茶葉抽出残渣を用いる場合には、それを穀粉食品の主成分となる小麦粉、ライ麦粉、米粉などの穀粉の100質量部に対して、0.05〜80質量部、好ましくは0.35〜75質量部、最も好ましくは1〜70質量部程度添加して穀粉食品生地を調製する。0.05質量部未満だと生活習慣病等の機能性が得られず、色のみの食品となる。80質量部を超えると食品の製造が困難または食品食感が衰える。0.05から80質量部の範囲は機能性、食品製造及び食感からも問題は無い。それらの添加の態様について特に制限はないが上記茶葉抽出液は、調製される穀粉食品生地の水分の源の主要部分がその茶葉濾過液に由来することとなるような割合で、上記殻粉等の原料に加えて、常法により混捏して、穀粉食品生地を調製することが好ましい。また、上記茶葉抽出残渣は、穀粉食品生地の主成分となる小麦粉、ライ麦粉、米粉などの殻粉に予め混ぜ込んでおき、上記殻粉等の原料として、常法により混捏して、穀粉食品生地を調製することが好ましい。
【0057】
イーストを含有するパン生地の場合は、上記のようにして調製したパン生地を直捏法又は中種法によって発酵させ、分割、丸目、ねかし、整形、型詰、焙炉、焼成などの工程を経てパンを製造する。これらのパン製造工程は、常法に従って行えばよく、本発明において特に限定されるものではない。ねかし時間を調節することにより、アミノ酸量、テアフラビン量、没食子酸量、リジン含有量を調節できる。
【0058】
また、膨脹剤を使用し、イーストを含有しないパン生地の場合は、適宜形状に成形し、ねかし、焼成、油ちょう、蒸煮などの加熱処理を行うことにより、パン類を製造することができる。ねかし時間を調節することにより、アミノ酸量、テアフラビン量、没食子酸量、リジン含有量を調節できる。
【0059】
イーストを含有しない麺類、パスタ、クッキー生地、餃子の皮の場合、適宜形状に成形し、焼成、油ちょう、蒸煮、煮などの加熱処理を行うことにより、製造することができる。または適宜形状に成型したままで製造することができる。ねかし時間を調節することにより、アミノ酸量、テアフラビン量、没食子酸量、リジン含有量を調節できる。
【0060】
本発明においては、更に以下のようにして穀粉食品に含まれる生理活性成分等の量を、その穀粉食品の調製過程で制御できる。
【0061】
たとえば、カテキンを残存させたい場合、または遊離アミノ酸含有量を適当量増量したい場合、上記固液分離により得られた茶葉濾過液を穀粉に添加すればよい。あるいは茶葉濾過液と酵素活性を失活させた茶葉抽出残渣を穀粉に添加すればよい。
【0062】
たとえば、カテキンをテアフラビンに変換させたい場合、遊離アミノ酸含有量をより増量させたい場合、リジン含有量を増量させたい場合、あるいは没食子酸含有量をより増量させたい場合、上記固液分離により得られた茶葉濾過液と酵素活性を維持した茶葉抽出残渣を穀粉に添加すればよい。あるいは酵素活性を維持した茶葉抽出残渣を穀粉に添加すればよい。あるいは上記生茶葉をそのまま破砕し、穀粉に添加してもよい。あるいは上記生茶葉をそのまま破砕し水を添加して穀粉に添加してもよい。あるいは上記生茶葉に水存在下破砕したスラリーを直接穀粉に添加してもよい。あるいは酵素失活処理した茶葉抽出液及び茶葉抽出残渣を穀粉に添加すればよい。
【0063】
このとき、たとえばテアフラビン量、遊離アミノ酸量、リジン含有量、没食子酸含有量をより増量させたい場合、パンの場合、事前に生地を寝かせた後、発酵させればよい。麺、パスタ、クッキー生地、餃子・シュウマイの皮生地、饅頭皮生地の場合、加熱処理前に生地を長くねかせればよい。
【0064】
本発明の一態様においては、上記茶葉が、紅富貴、紅ほまれ、紅ふじ、べにひかり、ひめみどり、やまとみどり、おくみどり、及びからべにからなる群から選ばれた紅茶品種の茶葉であることが好ましい。紅茶品種である紅富貴茶等の生茶葉にはメチル化カテキン類が含まれるが、通常、紅茶の製茶工程で消失してしまう。本発明においては、意外にも、上記に説明した生茶葉からの酵素の活性、又は上記茶葉抽出残渣の穀粉食品を紅茶色する活性(テアフラビン生成)にもかかわらず、メチル化カテキン類(EGCGメチル、及びECGメチル)が消失してしまうようなことがない。
【0065】
こうして得られた本発明の穀粉食品は、生茶葉に含まれている酵素を失活させずに且つ有効量で添加して穀粉食品生地を調製して得られているので、パンのもちもち感やしっとり感が向上し、焼き上がりの香りや茶の風味も良好となる。麺、パスタのこしやつるつる感やもちもち感が向上しまた、茶の風味も良好となる。
【0066】
本発明の殻粉食品においては、テアニンを少なくとも含有し、テアニン1に対する遊離アミノ酸の総量の質量比が2.5〜200であることが好ましい。また、γ-アミノ酪酸と没食子酸を少なくとも含有し、γ-アミノ酪酸1に対する没食子酸の質量比が0.3〜4.0であることが好ましい。また、殻粉食品100g中にリジンを0.01mg以上含有することが好ましく、0.1mg以上含有することがより好ましく、1mg以上がさらに好ましい。0.01mg未満の場合、小麦タンパクの有効利用が期待できない。あるいは、殻粉食品100g中に、上記生茶葉又はその処理物に含まれる酵素で酵素的に生成するリジンを0.01mg以上含有することが好ましく、0.1mg以上含有することがより好ましく、1mg以上がさらに好ましい。0.01mg未満の場合、小麦タンパクの有効利用が期待できない。また、殻粉食品100g中にテアフラビンを0.01mg以上含有することが好ましく、1mg以上含有することがより好ましく、2mg以上がさらに好ましい。0.01mg未満の場合、テアフラビンの機能性が期待できない。あるいは、殻粉食品100g中に、上記生茶葉又はその処理物に含まれる酵素で酵素的に生成するテアフラビンを0.01mg以上含有することが好ましく、1mg以上含有することがより好ましく、2mg以上含有する事がさらに好ましい。0.01mg未満の場合、テアフラビンの機能性が期待できない。また、ポリフェノール類、没食子酸、ガレート型カテキンを少なくとも含有し、没食子酸/ポリフェノール類の質量比率が0.5%以上、好ましくは0.8%以上、最も好ましくは1.0%以上であり、ガレート型カテキン/総カテキンの質量比率が36%以上、好ましくは51%以上、最も好ましく52%以上であり、非エピ型カテキン/総カテキンの質量比率(以下、「異性化率」ともいう。)が25%以下、好ましくは23%以下、最も好ましくは20%以下であることが好ましい。没食子酸/ポリフェノール類の質量比率が0.5%未満の場合、没食子酸の抗肥満効果が期待できない。ガレート型カテキン/総カテキンの質量比率が36%未満の場合、緑茶カテキンで一番機能性が期待されるエピガロカテキンガレートが少なく、機能性が期待できない。非エピ型カテキン/総カテキンの質量比率(異性化率)が25%を超えると、機能性が高いと報告されているエピカテキンの含有量が低くなり、機能性が期待できない場合もある。また非天然成分である非エピ型カテキンが多いと天然成分がすくないというマイナスイメージが強くなる。これらのポリフェノール類由来成分は、主に、原料として用いた茶葉由来している。また、食物繊維を2〜20質量%含有することが好ましく、2.5〜15質量%含むことがより好ましい。2質量%未満だと、食物繊維の機能性が利用できない。20質量%を超えると食感が悪くなる傾向がみられる。
【0067】
なお、本発明において「遊離アミノ酸の総量」とは、テアニン、γ-アミノ酪酸(GABA)、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、スレオニン、アルギニン、アラニン、チロシン、メチオニン、バリン、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシン、及びリジンの総量を意味する。
【0068】
なお、本発明において、「メチル化カテキン」とは、エピガロカテキン3-(3”-O-メチル)ガレート(EGCGメチル)、エピカテキン3-(3”-O-メチル)ガレート(ECGメチル)を意味する。
【0069】
なお、本発明において、「ポリフェノール類」は、その量を、「五訂 日本食品標準分析表」で定められたタンニンとして測定する、Folin-Denisの方法で測定することができる。ポリフェノール類とはカテキン類、プロアントシア二ジン類、加水分解型タンニン、テアフラビン類、テアシネンシン類など、多数のフェノール性水酸基をもつ化合物の総称である。
【0070】
なお、本発明において、「総カテキン」とは、ガロカテキン(GC)、エピガロカテキン(EGC)、カテキン(C)、エピカテキン(EC)、エピガロカテキンガレート(EGCG)、ガロカテキンガレート(GCG)、エピカテキンガレート(ECG)、及びカテキンガレート(CG)を意味する。
【0071】
なお、本発明において、「テアフラビン」あるいは「テアフラビン類」とは、テアフラビン(TF)、テアフラビン-3-ガレート(TF3G)、テアフラビン-3’-ガレート(TF3'G)、及びテアフラビン-3,3’-ジガレート(TFDG)を意味する。
【0072】
なお、本発明において、「ガレート型カテキン」とは、上記「総カテキン」のうち、ガロカテキン(GC)、エピガロカテキン(EGC)、エピガロカテキンガレート(EGCG)、ガロカテキンガレート(GCG)、エピカテキンガレート(ECG)、及びカテキンガレート(CG)を意味する。また、「非エピ型カテキン」とは、上記「総カテキン」のうち、ガロカテキン(GC)、カテキン(C)、ガロカテキンガレート(GCG)、及びカテキンガレート(CG)を意味する。またその異性化率は、下記の式(1)により計算される値を意味する。
・異性化率(%)={(非エピ型カテキン量)÷(総カテキン量)}×100 ・・・
(1)
【0073】
茶由来の天然カテキンは水溶液中で82℃程度の温度でエピ型から非エピ型への異性化が起こる。したがって、例えば、市販の緑茶飲料製品は加熱殺菌が施されていることからこの異性化率が50%近くになるものもある。その点、本発明によれば、後述する実施例で示されるように、意外にも、パンの焼成過程で熱処理されているにもかかわらず、熱によるカテキン類の非エピ型への異性化率が低く抑えられている。
【0074】
なお、本発明において「食物繊維」とは、穀粉および茶葉などに含まれる食物繊維を指し、水溶性繊維と水不溶性繊維の総称であり、その量を、プロスキー法で測定することができる。
【0075】
以下には、本発明の別の態様として、パンを製造する例を挙げる。
【0076】
すなわち、本発明によればその一態様として、生茶葉に熱処理を施すことなく水を加えて破砕し固液分離して得られた、茶葉抽出液と茶葉抽出残渣とを添加してパン生地を調製し、このパン生地を加熱処理することを特徴とする茶葉入りパンの製造方法を提供することができる。
【0077】
この茶葉入りパンの製造方法によれば、生茶葉に熱処理を施すことなく水を加えて破砕して茶葉抽出液を得るので、生茶葉に含まれる酵素が失活することなく豊富に含有された茶葉抽出液が得られる。そして、この茶葉抽出液を添加して調製したパン生地でパンを製造すると、パンのもちもち感やしっとり感が向上し、焼き上がりの香りも高くなり、風味も良好となる。
【0078】
また、パン生地に茶葉抽出残渣を添加すると、パンの膨らみを阻害する傾向を示すが、前記茶葉抽出液と共に添加することによって、パンの膨らみが維持されることがわかった。
この理由はよくわからないが、茶葉抽出液中に含まれるペルオキシダーゼが、小麦粉に含まれるグルテンのS−S結合を促進するためと考えられる。
【0079】
更に、茶葉抽出液と茶葉抽出残渣とを固液分離して添加するようにしたので、茶葉抽出残渣の添加量を適宜調製して、パンの膨らみを更に良好にすることもできる。
【0080】
この茶葉入りパンの製造方法の一つの態様においては、前記茶葉抽出残渣は、熱処理を施した後に添加してパン生地を調製することが好ましい。前記茶葉抽出残渣に含まれる酵素は茶葉を紅茶色にする活性を有しているが、熱処理を施すことで、その活性を失活させて茶葉を緑色に保ち、パンを薄緑色にすることができる。
【0081】
この茶葉入りパンの製造方法の別の態様においては、前記茶葉抽出残渣は、熱処理を施すことなく添加してパン生地を調製することが好ましい。この態様によれば、前記茶葉抽出残渣に含まれる酵素によって、茶葉が紅茶色となるため、紅茶色のパンを得ることができる。また、茶葉抽出残渣中に含まれる酵素が失活することなく添加されるので、パンのもちもち感やしっとり感が更に向上し、焼き上がりの香りも高くなり、風味も更に良好になる。
【0082】
この茶葉入りパンの製造方法においては、前記茶葉が、緑茶品種の茶葉又は紅茶品種の茶葉であることが好ましい。
【0083】
また、本発明によればその別の一態様として、生茶葉に熱処理を施すことなく水を加えて破砕し固液分離して得られた、茶葉抽出液と茶葉抽出残渣とを含有するパン生地を用いて製造された茶葉入りパンであって、ポリフェノール類、没食子酸、ガレート型カテキンを少なくとも含有し、没食子酸/ポリフェノール類の質量比率が0.5%以上、ガレート型カテキン/総カテキンの質量比率が36%以上、非エピ型カテキン/総カテキンの質量比率(異性化率)が25%以下であることを特徴とする茶葉入りパンを提供することができる。
【0084】
この茶葉入りパンによれば、生茶葉に熱処理を施すことなく水を加えて破砕し固液分離して得られた、茶葉抽出液と茶葉抽出残渣とを含有するパン生地を用いて製造されているので、生茶葉に含まれている酵素により、パンのもちもち感やしっとり感が向上し、焼き上がりの香りも高く、風味も良好である。また、茶葉抽出液中及び茶葉抽出残渣に含まれる酵素によって、茶葉抽出液及び茶葉抽出残渣中に多く含まれるガレート型カテキンのガレートエステル部分が分解されるので、抗肥満、抗酸化などの生理活性作用を有する没食子酸を豊富に含んでいる。
【0085】
この茶葉入りパンにおいては、パン100g中に、遊離アミノ酸の総量を40mg以上含有することが好ましい。これらのアミノ酸類は、原料として用いた茶葉、及びパン生地の主成分となる小麦粉、ライ麦粉、米粉などの殻粉に由来している。
【0086】
この茶葉入りパンにおいては、前記茶葉抽出残渣が、熱処理を施されたものからなり、緑茶色を呈することが好ましい。
【0087】
この茶葉入りパンにおいては、前記茶葉抽出残渣が、熱処理を施されていないものからなり、紅茶色を呈することが好ましい。この場合、テアフラビン類を含有することが好ましい。茶葉抽出残渣にはカテキン類をテアフラビンに変換するのに適したポリフェノールオキシダーゼやペルオキシダーゼ活性を有しているためパン製造中にテアフラビンを生成することができる。さらにこの態様では、固液分離して得られた茶葉抽出残渣にも生茶葉に含まれる酵素が有効に残存しているので、その酵素及び前記茶葉抽出液の酵素により、パンのもちもち感やしっとり感が向上し、焼き上がりの香りも高く、風味も更に良好となる。
【0088】
この茶葉入りパンにおいては、前記茶葉としては、緑茶品種の茶葉又は紅茶品種の茶葉を用いることができる。特に、紅富貴、紅ほまれ、紅ふじ、べにひかり、ひめみどり、やまとみどり、おくみどり、及びからべにからなる群から選ばれた紅茶品種の茶葉であり、メチル化カテキン類を含有することが好ましい。
【0089】
この茶葉入りパンにおいては、上記生茶葉に水を加えて破砕し固液分離して得られた上記茶葉抽出残渣を含有させることが好ましい。この態様によれば、後述する実施例で示されるように、茶葉抽出残渣がパンを紅茶色にする活性を有するので紅茶色を呈するパンとすることができる。また、後述する実施例で示されるように、茶葉抽出残渣がパン中にテアフラビン類を生成する活性を有するのでテアフラビン類を含有するパンとすることができる。すなわち、緑茶品種、紅茶品種では生茶葉にはテアフラビン類は一切含有しないがパンの製造工程でテアフラビン類を含有する茶葉入りパンとすることができる。なお、上述したように、この茶葉抽出残渣がパンを紅茶色にする活性は熱処理により失活するので、その活性を失活させて薄緑色を呈するパンとすることができる。この場合、テアフラビン類は生成しない。
【0090】
この茶葉入りパンにおいては、紅富貴、紅ほまれ、紅ふじ、べにひかり、ひめみどり、やまとみどり、おくみどり、及びからべにからなる群から選ばれた紅茶品種の茶葉であることが好ましい。この態様によれば、上述のとおり紅茶品種である紅富貴茶等の生茶葉にはメチル化カテキン類が含まれ、通常の紅茶の製茶工程で消失してしまうのであるが、意外にも、パンの製造方法においては、メチル化カテキン類(EGCGメチル、及びECGメチル)が消失してしまうようなことがない。したがって、メチル化カテキン類を含有するパンとすることができる。特に、メチル化カテキン類が含まれる茶葉による上記茶葉抽出残渣を含有させてテアフラビン類を含有するパンとすると、お茶飲料の分野では紅茶に製茶したのでは得られないメチル化カテキン類と、紅茶に製茶しなければ得られないテアフラビン類とを含有する、特有の成分を含有する茶葉入りパンとすることができる。
【0091】
この茶葉入りパンの製品の例としては、食パン、山食パン、蒸しパン、菓子パン、プルマン、イギリス食パン、ワンローフ、バゲット、フランスパン、スイートロール、バンズ、テーブルロール、クロワッサン、デニッシュ、イングリッシュマフィン、ベーグル、ドーナツ、フリッター又はロールパン等のパン類が挙げられる。
【0092】
この茶葉入りパンの製造方法又は茶葉入りパンによれば、茶葉に由来するカテキン類やテアフラビン類等ポリフェノール類やその分解物などからなる生理活性成分を豊富に含み、生茶葉に含まれている酵素をパン生地に添加することにより、食感や、焼き上がりの香りや、風味が改善されたパンを提供することができる。
【0093】
また、この茶葉入りパンによれば、後述する実施例で示されるように、整腸作用、体重増加抑制作用、内臓脂肪低減作用等、種々の生理活性効果がもたらされる。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0095】
以下にパンの実施例を記す。なお、以下の例では、パン生地に配合する茶葉由来材料をそれぞれ替える以外は、次のような共通の方法にてパンを作った。すなわち、小麦粉の1種である強力粉280g、バター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5g、更に茶葉由来材料を加えてパン生地とし、そのパン生地にドライイースト4.2gを加えて、ホームベーカリー(パナソニック株式会社「ホームベーカリーSD-BMS101」)の早焼きコース(2時間:短時間の生地ねかし)、又は長時間予約発酵(8時間生地を寝かせた後発酵させる予約発酵)にてパンを焼いた。
【0096】
<実施例1>(やぶきた2番茶早焼きコース)…緑茶成分含有
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gに約150mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。茶残渣は熱湯を加えて固液分離する操作で熱処理を施した後、布にて濾過し残渣を良くしぼった。濾過液及び室温まで冷めた茶残渣のしぼり液を併せ水を加え総量180mlとした。強力粉280gに得られた茶残渣の25gを加え均一になるように混ぜた後、バター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5gを加えた後、その総量180mlとした濾過液を加え、これをパンの生地にしてホームベーカリーの早焼きコース(2時間)にてパンを作った。
【0097】
その結果、内部が薄緑色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが14.5cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感があり、食感、味ともに良好なパンであった。更に、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。
【0098】
<実施例2> (やぶきた2番茶早焼きコース)…紅茶成分含有
茶残渣に熱湯による熱処理を施さない以外は実施例1と同様にしてパンを作った。
【0099】
その結果、内部が紅茶色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが14.5cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感があり、食感、味ともに良好なパンであった。更に、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。
【0100】
<実施例3> (紅富貴2番茶早焼きコース)…緑茶成分含有
生茶葉として紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gを用いる以外は実施例1と同様にしてパンを作った。
【0101】
その結果、内部が薄緑色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが14cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感があり、食感、味ともに良好なパンであった。更に、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。
【0102】
<実施例4> (紅富貴2番茶早焼きコース)…紅茶成分含有
茶残渣に熱湯による熱処理を施さない以外は実施例3と同様にしてパンを作った。
【0103】
その結果、内部が紅茶色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが14cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感があり、食感、味ともに良好なパンであった。更に、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。
【0104】
<実施例5> (やぶきた1番茶早焼きコース)…緑茶成分含有
生茶葉としてやぶきた茶1番茶の生茶葉(含水率約80%)50gを用いる以外は実施例1と同様にしてパンを作った。
【0105】
その結果、内部が薄緑色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが15cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感があり、食感、味ともに良好なパンであった。更に、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。
【0106】
<実施例6> (やぶきた1番茶早焼きコース)…紅茶成分含有
生茶葉としてやぶきた茶1番茶の生茶葉(含水率約80%)50gを用いる以外は実施例2と同様にしてパンを作った。
【0107】
その結果、内部が紅茶色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが14.5cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感があり、食感、味ともに良好なパンであった。更に、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。
【0108】
<実施例7> (紅富貴1番茶早焼きコース)…緑茶成分含有
生茶葉として紅富貴茶1番茶の生茶葉(含水率約80%)50gを用いる以外は実施例3と同様にしてパンを作った。
【0109】
その結果、内部が薄緑色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが14.5cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感があり、食感、味ともに良好なパンであった。更に、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。
【0110】
<実施例8> (紅富貴1番茶早焼きコース)…紅茶成分含有
生茶葉として紅富貴茶1番茶の生茶葉(含水率約80%)50gを用いる以外は実施例4と同様にしてパンを作った。
【0111】
その結果、内部が紅茶色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが14cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感があり、食感、味ともに良好なパンであった。更に、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。
【0112】
<実施例9> (紅富貴2番茶早焼きコース)…紅茶成分含有
紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)100gに約140mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液を布にて濾過し、得られた茶残渣をよくしぼった。濾過液及び茶残渣のしぼり液を併せ水を加えて総量180mlとした。強力粉280gに得られた茶残渣の25gを加え均一になるように混ぜた後、バター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5gを加えた後、その総量180mlとした濾過液を加え、これをパンの生地にしてホームベーカリーの早焼きコース(2時間)にてパンを作った。
【0113】
その結果、内部が紅茶色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが14.5cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感があり、食感、味ともに良好なパンであった。更に、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。
【0114】
<実施例10>(やぶきた2番茶長時間予約発酵)…緑茶成分含有
ホームベーカリーの長時間予約発酵(8時間)にて製造した以外は実施例1と同様にしてパンを作った。
【0115】
その結果、内部が薄緑色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが14.5cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感があり、食感、味ともに良好なパンであった。更に、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。
【0116】
<実施例11>(やぶきた2番茶長時間予約発酵)…紅茶成分含有
茶残渣に熱湯による熱処理を施さない以外は実施例10と同様にしてホームベーカリーの長時間予約発酵(8時間)にてパンを作った。
【0117】
その結果、内部が紅茶色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが14.5cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感があり、食感、味ともに良好なパンであった。更に、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。
【0118】
<実施例12> (やぶきた2番茶早焼きコース)…紅茶成分含有
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)40gに約140mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液に水を加え総量180mlとした(スラリー状調製物)。強力粉280gにバター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5gを加えた後、そのミキサー液(スラリー状調製物)180mlを加え、これをパンの生地にしてホームベーカリーの早焼きコース(2時間)にてパンを作った。
【0119】
その結果、内部が紅茶色を呈する、食感、味ともに良好なパンが得られた。このパンは、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。しかし、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが8.5cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみが得られなかった。
【0120】
<実施例13> (やぶきた2番茶早焼きコース)…紅茶成分含有
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)40gに約140mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液(スラリー状調製物)に水を加え総量148mlとした。強力粉280gにバター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5gを加えた後、そのミキサー液(スラリー状調製物)148mlを加え、これをパンの生地にしてホームベーカリーの早焼きコース(2時間)にてパンを作った。
【0121】
その結果、内部が紅茶色を呈する、食感、味ともに良好なパンが得られた。このパンは、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。また、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが13.8cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみが得られた。
【0122】
<実施例14> (紅富貴1番茶早焼きコース)…緑茶成分含有
紅富貴茶1番茶の生茶葉(含水率約80%)100gに約150mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液を布にて濾過し、得られた茶残渣をよくしぼった。濾過液及び茶残渣のしぼり液を併せ水を加えて総量200mlとした。強力粉280gにバター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5gを加えた後、その総量200mlとした濾過液を加え、これをパンの生地にしてホームベーカリーの早焼きコース(2時間)にてパンを作った。
【0123】
その結果、内部が薄緑色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが15cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感があり、食感、味ともに良好なパンであった。更に、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。しかしながら、茶残渣を添加しないので、後述するように、没食子酸の含有量が非常に少なかった。
【0124】
<実施例15> 米粉含有パン
やぶきた茶1番茶の生茶葉(含水率約80%)50gに約150mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。茶残渣は熱湯を加えて固液分離する操作で熱処理を施した後、布にて濾過し残渣を良くしぼった。濾過液及び室温まで冷めた茶残渣のしぼり液を併せ水を加え総量180mlとした。強力粉230gと米粉50gに得られた茶残渣の25gを加え均一になるように混ぜた後、バター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5gを加えた後、その総量180mlとした濾過液を加え、これをパンの生地にしてホームベーカリーの早焼きコース(2時間)にてパンを作った。
【0125】
その結果、内部が紅色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが12.5cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感があり、食感、味ともに良好なパンであった。更に、茶の風味が強く焼成時の甘い香りも高かった。
【0126】
<比較例1>
煎茶の葉10gを熱湯180mlにて抽出後、濾過し、水を加えて濾過液を200mlとした。強力粉280gにバター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5gを加えた後、その濾過液200mlを加え、これをパンの生地にしてホームベーカリーの早焼きコース(2時間)にてパンを作った。
【0127】
その結果、内部が薄緑色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが15cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していたが、パンの弾力感にかけ、もちもち感がなくぱさついたパンで、口に含むと団子になり食感が非常に悪かった。また、茶の風味が全くなく焼成時の香りも弱かった。
【0128】
<比較例2>
煎茶の茶葉10gに約140mlの熱湯を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液を布にて濾過し、得られた茶残渣をよくしぼった。濾過液及び茶残渣のしぼり液を併せ水を加えて総量180mlとした。強力粉280gに得られた茶残渣を加え均一に混ぜた後、バター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5gを加えた後、その総量180mlとした濾過液を加え、これをパンの生地にしてホームベーカリーの早焼きコース(2時間)にてパンを作った。
【0129】
その結果、内部が薄緑色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが15cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していたが、パンの弾力感にかけ、もちもち感がなくぱさついたパンで、口に含むと団子になり食感が非常に悪かった。また、茶の風味が全くなく焼成時の香りも弱かった。
【0130】
<比較例3>
ほうじ茶10gを熱湯180mlにて抽出後、濾過し、水を加えて濾過液を200mlとした。強力粉280gにバター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5gを加えた後、その濾過液200mlを加え、これをパンの生地にしてホームベーカリーの早焼きコース(2時間)にてパンを作った。
【0131】
その結果、内部が薄茶色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが18.5cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみが得られ、食感、味ともに良好であった。しかし、茶の風味が弱く焼成時の香りも弱かった。なお、一般にほうじ茶の抽出物には総カテキン類の含有量がきわめて少ないことが知られている。
【0132】
<比較例4>
紅茶の葉10gを熱湯180mlにて抽出後、濾過し、水を加えて濾過液を200mlとした。強力粉280gにバター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5gを加えた後、その濾過液200mlを加え、これをパンの生地にしてホームベーカリーの早焼きコース(2時間)にてパンを作った。
【0133】
その結果、内部が紅茶色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが16cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみが得られ、食感、味ともに良好であった。しかし、茶の風味が弱く焼成時の香りも弱かった。製茶した紅茶葉はカテキン類が煎茶葉に比べ含有量が少ない。一般に紅茶はカテキン類が発酵工程でテアフラビン類やテアルビジンに変化するがテアフラビン含有量は非常にすくないことが知られている。
【0134】
<比較例5>
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)100gを電子レンジにて1〜2分間加熱した後、約150mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液を布にて濾過し、得られた茶残渣をよくしぼった。濾過液及び茶残渣のしぼり液を併せ水を加えて総量200mlとした。強力粉280gにバター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5gを加えた後、その総量200mlとした濾過液を加え、これをパンの生地にしてホームベーカリーの早焼きコース(2時間)にてパンを作った。
【0135】
その結果、内部が薄緑色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが14cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していたが、パンの弾力感にかけ、もちもち感がなくぱさついたパンで、口に含むと団子になり食感が非常に悪かった。また、茶の風味が全くなく焼成時の香りも弱かった。
【0136】
<比較例6>
やぶきた茶1番茶の生葉(含水率約80%)50gに熱湯150mlを加えて、なべにてよく加熱した。冷えた後、ミキサーにて加熱し1分間破砕した。ミキサーした液を布にて濾過し、残渣を良くしぼった。濾過液及び茶残渣のしぼり液を併せ水を加え総量180mlとした。強力粉280gに得られた茶残渣の25gを加え均一になるように混ぜた後、バター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5gを加えた後、その総量180mlとした濾過液のうち160mlを加え、これをパンの生地にしてホームベーカリーの早焼きコース(2時間)にてパンを作った。
【0137】
その結果、内部が薄緑色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが14cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していたが、パンの弾力感にかけ、もちもち感がなくぱさついたパンで、口に含むと団子になり食感が非常に悪かった。また、茶の風味が全くなく焼成時の香りも弱かった。
【0138】
<対照例1>
強力粉280gにバター10g、砂糖17g、スキムミルク12g、塩5gを加えた後、水200mlを加えてパン生地とし、そのパン生地にドライイースト4.2gを加えて常法に従い発酵させ、ホームベーカリーの早焼きコース(2時間)にてパンを作った。
【0139】
その結果、内部が白色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが15cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感が弱く、焼成時の香りも弱かった。なお、茶葉由来材料を含まないため、茶の風味がなかった。
【0140】
<対照例2>
ホームベーカリーの長時間予約発酵(8時間)を使用する以外は対照例1と同様にしてパンを作った。その結果、内部が白色を呈するパンが得られた。このパンは、所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが15cmであり、焼成時のパンの通常の膨らみを呈していた。また、もちもち感、しっとり感が弱く、焼成時の香りも弱かった。なお、茶葉由来材料を含まないため、茶の風味がなかった。
【0141】
<試験例1>
上記実施例1〜15、比較例1〜6、対照例1,2で得られたパンの特徴をまとめて下記表1に示す。
【0142】
【表1】

【0143】
表1に示す各パンの特徴をまとめると、以下のとおりである。
【0144】
(1)比較例1のように製茶された煎茶の熱湯抽出液を用いたパンや、比較例2のように製茶された煎茶の熱湯抽出液と茶残渣とを用いたパンや、比較例5のように電子レンジで1〜2分加熱処理した生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を固液分離して得られた濾過液と茶残渣とを用いたパンでは、パンの弾力感にかけ、もちもち感がなくぱさついたパンで、口に含むと団子になり食感が非常に悪かった。また、茶の風味が全くなく焼成時の香りも弱かった。
【0145】
(2)比較例3のように製茶されたほうじ茶の熱湯抽出液を用いたパンや、比較例4のように製茶された紅茶の熱湯抽出液を用いたパンではカテキン量が少ないため、上記(1)のような食感に関する不都合は生じなかったが、茶の風味が弱く焼成時の香りも弱かった。
【0146】
(3)実施例1〜11のように生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を固液分離して得られた濾過液と茶残渣とを用いたパンでは、食感、味ともに良好なパンが得られ、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。そして、焼成時のパンの通常の膨らみが安定して得られた。
【0147】
(4)実施例12、13のように生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液(スラリー状調製物)を用いたパンでは、食感、味ともに良好なパンが得られ、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。しかし、パン生地として配合するミキサー液の液量が多い実施例12のパンでは所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが8.5cmとなるなど、生茶葉のミキサー液(スラリー状調製物)を用いたパンでは焼成時のパンの膨らみが安定して得られないという傾向があった。しかし、パン生地として配合するミキサー液の液量を少なくした実施例13のパンでは所定の枠型にはめて焼成した焼成後の高さが13.8cmとなるなど、焼成時のパンの膨らみを安定して得られる。
【0148】
(5)実施例14のように生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を固液分離して得られた濾過液を用いたパンでは、食感、味ともに良好なパンが得られ、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。そして、焼成時のパンの通常の膨らみが安定して得られ、内部は薄緑色を呈するパンであった。しかしながら、後述するように没食子酸の含有量が非常に少なかった。
【0149】
(6)実施例15のように強力粉にグルテンを含まない米粉を配合し、生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を固液分離して得られた濾過液と茶残渣とを用いたパンでは、米粉配合によりパンの高さは9cmであったが、食感、味ともに良好なパンが得られ、茶の風味が強く焼成時の香りも高かった。
【0150】
(7)実施例12、13のように生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液(スラリー状調製物)を全て配合したパンでは焼成時のパンの膨らみが不安定であるが実施例13のようにミキサー液(スラリー状調製物)の水の量を少なくすれば通常のパンの膨らみが得られる。
【0151】
(8)実施例1〜11のパンのうち、熱湯で熱処理した茶残渣を用いた実施例1、3、5、7、10のパンでは、内部が薄緑色を呈するパンが得られ、熱湯で熱処理しない茶残渣を用いた実施例2、4、6、8、9、11のパンでは、内部が紅茶色を呈するパンが得られた。
【0152】
(9)実施例12、13のように生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液(スラリー状調製物)を全て配合したパンでは内部が紅茶色を呈するパンが得られた。実施例14のように生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を固液分離して得られた濾過液のみを配合したパンでは内部が薄緑色を呈するパンが得られた。
【0153】
上記の結果から、次のことが考えられた。
【0154】
(ア)製茶工程や電子レンジ又は熱湯で処理した茶素材を添加したパン(比較例1、2、5、6)では、茶素材を含まない対照例1のパンに比べて、食感が悪くなっていた。これは、茶素材に含まれるカテキン類によりパンの粘弾性を阻害されたためであると考えられた。また、比較例1、2、5、及び6のパンでは、茶の風味が全くなく焼成時の香りも弱かった。
【0155】
(イ)生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を、更に固液分離してその濾過液及び茶残渣を用いることにより、その濾過液及び茶残渣の何らかの成分(特に、熱により失活する酵素)によってパンのもちもち感や、しっとり感が増強され、焼成時の香りも高くなったと考えられた(特に、実施例1〜11と、比較例5又は6との比較)。
【0156】
(ウ)生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液(スラリー状調製物)を用いることにより、食感、味ともに良好なパンが得られたが、ミキサーによる破砕時にミキサー液(スラリー状調製物)に巻き込まれた空気がパン生地のグルテンのS-S結合形成を阻害し、パン生地の発酵時の炭酸ガスを保持するグルテンの網目構造の形成を阻害したため、焼成時のパンの膨らみが安定して得られなかったと考えられた(実施例12)。また、ミキサー液(スラリー状調製物)に含まれる茶残渣がパンの膨化を妨げる要因となっていることも考えられた。しかし、ミキサー液総量(スラリー状調製物)を減らす為に水の量を少なくすればパンの膨らみが改善される(実施例13)
【0157】
(エ)生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を、更に固液分離してその濾過液を用いることにより、ミキサーによる破砕時にミキサー液に巻き込まれた空気が抜け、パン生地のグルテンのS-S結合形成が良好であり、炭酸ガスを保持するグルテンの網目構造の形成が良好であっため、焼成時のパンの膨らみが安定して得られたと考えられた(実施例1〜11)。また、ミキサー液(スラリー状調製物)に含まれる茶残渣の添加量を調節して、焼成時のパンの膨らみ確保できるものと考えられた(特に実施例9)。
【0158】
(オ)生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を、更に固液分離して、その濾過液と茶残渣とを用いることにより、その茶残渣を熱湯で処理しない場合にはその茶残渣の何らかの成分(特に酵素)によってパンが紅茶色になり(実施例2、4、6、8、9、11)、その茶残渣を熱湯で処理することにより(実施例1、3、5、7、10)そのパンを紅茶色にする何らかの成分が失活して茶葉入りパンが薄緑色に保たれたと考えられた。
【0159】
(カ)生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を、更に固液分離して、その濾過液を用いることによりパンを紅茶色にする酵素が存在しないため茶葉入りパンが薄緑色に保たれたと考えられた(実施例14)。
【0160】
<試験例2>
上記実施例1〜11、14、15、比較例6、対照例1,2で得られたパンの成分分析の結果をまとめて下記表2〜4に示す。なお、パンの成分分析は、常法により、高速液体クロマトグラフィーで測定した。測定は、厚生労働省食品衛生法登録検査機関である株式会社エコプロリサーチに委託した。
【0161】
【表2】

【0162】
【表3】

【0163】
【表4】

【0164】
表2〜4に示す各パンの成分の特徴をまとめると、以下のとおりである。
【0165】
(1)対照例1のように茶葉由来材料を含まないパンでは、カテキン類やテアフラビン類、メチル化カテキン類が実質的に含まれていない。
【0166】
(2)実施例2、4、6、8、9、11のように茶葉由来材料として、生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を、更に固液分離して得られた濾過液と熱湯で処理しない茶残渣とを用いたパンは、テアフラビン類を実質的に含むのに対して、実施例1、3、5、7、10のように茶葉由来材料として、上記茶残渣を熱湯で処理して用いたパンでは、テアフラビン類が実質的に含まれていない。なお、そのテアフラビン類とは、テアフラビン(TF)、テアフラビン-3-ガレート(TF3G)、テアフラビン-3’-ガレート(TF3'G)、及びテアフラビン-3,3’-ジガレート(TFDG)である。
【0167】
(3)実施例12、13のように茶葉由来材料として、生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液(スラリー状調製物)を配合したパンではテアフラビン類を実質的に含む。
【0168】
(4)実施例14のように茶葉由来材料として、生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液(スラリー状調製物)を、更に固液分離して得られた濾過液を配合したパンではテアフラビン類が実質的に含まれていない。
【0169】
(5)実施例3、4、7、8、9、14のように、茶葉として紅富貴茶葉を用いたパンは、メチル化カテキン類を実質的に含む。なお、そのメチル化カテキン類とは、エピガロカテキン3-(3”-O-メチル)ガレート(EGCGメチル)、及びエピカテキン3-(3”-O-メチル)ガレート(ECGメチル)である。
【0170】
(6)茶葉由来材料を含むパン(生地のねかし時間が短い)(実施例1〜9、12〜15)では、茶葉由来材料を含まないパン(生地のねかし時間が短い)(対照例1)に比べて、総じてアミノ酸類の含有量が増加していた。なお、そのアミノ酸類とは、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、スレオニン、アルギニン、テアニン、アラニン、チロシン、GABA(γ−アミノ酪酸)、メチオニン、バリン、フェニルアラニン、イソロイシン、及びロイシンである。
【0171】
(7)茶葉由来材料を含むパン(生地のねかし時間が長い)(実施例10、11)では、茶葉由来材料を含まないパン(生地のねかし時間が短い)(対照例2)に比べて、総じてアミノ酸類の含有量が同等または減少した。なお、そのアミノ酸類とは、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、スレオニン、アルギニン、テアニン、アラニン、チロシン、GABA(γ−アミノ酪酸)、メチオニン、バリン、フェニルアラニン、イソロイシン、及びロイシンである。しかし、GABAおよびリジン含有量を増加させた。
【0172】
(8)実施例14のように生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を固液分離して得られた濾過液のみを用い、その茶残渣を添加しないパンでは、没食子酸の含有量が非常に少なかった。また、茶葉全体に熱湯処理を施した茶葉由来材料を含むパン(比較例6)においても、茶残渣のみに熱湯処理を施した茶葉由来材料を含むパン(実施例1,3,5,7,10)や、生葉のすべてを生かした茶葉由来材料を含むパン(実施例2、4、6、8、9、11)に比べて、没食子酸の含有量が、顕著に低減していた。
【0173】
上記の結果から、次のことが考えられた。
【0174】
(ア)茶成分について
一般に、製茶された緑茶にはテアフラビン類が含まれず、紅茶の製茶工程で生ずるものと考えられているが、生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を、更に固液分離して、その濾過液と茶残渣とを用いることにより、または生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液(スラリー状調製物)を丸ごと用いることにより、紅茶の製茶工程を経ずともパンの製造中にテアフラビン類が生じた。すなわち、その茶残渣を熱湯で処理しない場合にはその茶残渣の何らかの成分(特に酵素)によってパン中にテアフラビン類が生じ(実施例2、4、6、8、9、11)、その茶残渣を添加しないか(実施例14)、又はその茶残渣を熱湯で処理することにより(実施例1、3、5、7、10)、そのパン中にテアフラビン類を生じさせる何らかの成分が失活してパン中にテアフラビン類が生じないものと考えられた。
【0175】
また、紅茶品種である紅富貴茶の生茶葉に含まれるメチル化カテキン類(EGCGメチル、及びECGメチル)は、通常の紅茶の製茶工程で消失してしまう。上記のパンの製造方法では紅茶の製茶工程を模したようにテアフラビン類を生じ、パンの色も紅茶色になるのではあるが、メチル化カテキン類(EGCGメチル、及びECGメチル)をほぼ100%残存させることができた(実施例4、8、9)。
【0176】
更に、実施例14のように生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を固液分離して得られた濾過液のみを用い、その茶残渣を添加しないパンでは、没食子酸の含有量が非常に少なかった。また、茶葉全体に熱湯処理を施した茶葉由来材料を含むパン(比較例6)においても、顕著に低減していた。これは、没食子酸が、生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を固液分離して得られた茶残渣に含まれるガレート型カテキン類から、主に濾過液又は茶残渣に含まれる何らかの成分(特に酵素)によって分解して生成するためであると考えられた。
【0177】
(イ)アミノ酸成分について
パンの原料の小麦等に含まれる遊離アミノ酸はパンの製造工程でイースト菌が窒素源として利用するため、激減することが知られている。その点、茶葉由来材料を含むパン(実施例1〜11、14、15)では、茶葉由来材料を含まないパン(対照例1、2)に比べて、総じてアミノ酸類が増加していた。また、茶葉全体に熱湯処理を施した茶葉由来材料を含むパン(比較例6)に比べて、茶残渣のみに熱湯処理を施した茶葉由来材料を含むパン(実施例1,3,5,7、10)や、生葉のすべてを生かした茶葉由来材料を含むパン(実施例2、4、6、8、9、11)のほうが、総じてアミノ酸類の含有量が増加していた。したがって、上記ミキサー液からの濾過液及び/又は茶残渣の何らかの成分(特に酵素)によってパン中のアミノ酸類の含量が増加していることが考えられた。
【0178】
<試験例3>
上記実施例1〜11、14で得られたパンに含まれるカテキン類について更に考察した。すなわち、下記の式(1)にしたがってカテキン類の異性化率を求めた。
・異性化率(%)={(非エピ型カテキン量)÷(総カテキン量)}×100 ・・・(1)
ここで、非エピ型カテキンとは、上記カテキン類のうち、ガロカテキン(GC)、カテキン(C)、ガロカテキンガレート(GCG)、及びカテキンガレート(CG)である。その結果を下記表5に示す。
【0179】
【表5】

【0180】
その結果、生地のねかし時間が短い場合、パンの焼成過程で熱処理されているにもかかわらず、熱によるカテキン類の非エピ型への異性化率が低く抑えられていた。これは、小麦粉内にカテキン類が取り込まれたことによりカテキン類がタンパク質と強固に結合しているため、焼成時の熱による異性化が抑えられたものと考えられた。一方、生地のねかし時間が長い場合、異性化率の抑制はある程度抑えられた。
【0181】
<試験例4>
上記実施例1〜11、14で得られたパンに含まれるテアフラビン類について更に考察した。すなわち、原料とした生茶葉(含水率約80%)の質量100gに対して換算したテアフラビン類の質量(mg)を求めた。また、パン100gあたりのテアフラビン類の質量(mg)を求めた。
【0182】
【表6】

【0183】
その結果、茶残渣を熱処理した場合には、カテキンのテアフラビンへの変換が起こらずテアフラビンは生成しなかった(実施例1、3、5、7、10)。また、茶抽出液を用いた場合にも、同様にテアフラビンは生成しなかった(実施例14)。
【0184】
一方、茶残渣を熱処理せずに用いた場合には、カテキンのテアフラビンへの変換が起こりテアフラビンが生成された。この場合、生地のねかし時間が短い短発酵(実施例2、4、6、8、9)に比べ生地のねかし時間が長い(実施例11)のほうがカテキンのテアフラビンの変換率が大きく、実施例11のパンでは、原料とした生茶葉(含水率約80%)の質量100gに対して換算したテアフラビンの質量比が113.7mgであった。また、パン100gあたりテアフラビンの質量が12.5mgであった。
【0185】
<試験例5>
生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液(スラリー状調製物)、またはミキサー液を、更に固液分離して、その濾過液と茶残渣とを用いることにより、その濾過液及び/又は茶残渣の何らかの成分(特に酵素)によってパン中のアミノ酸類の含量が増加していることが考えられたので、それを検証した。
【0186】
すなわち、上記実施例6のパンの製造において、その原料として用いられた本山茶1番茶の生葉50gについて、これを熱湯150mlを入れたなべにてよく加熱し失活させて用いた以外は、上記実施例6と同様にしてパンを製造し、比較例6のパンとした。この比較例6のパンのアミノ酸類の含有量について成分分析を行った。下記表7には、その結果を、上記実施例5、6と対照例1で得られたパンのアミノ酸類の含有量とともにまとめた。また、図1〜図3にはグラフとして示した。更に、下記表8には、上記実施例1〜11、14、15比較例6と対照例1、2で得られたパンの遊離アミノ酸の総量の含有量、テアニン1に対する遊離アミノ酸の総量の質量比、γ-アミノ酪酸1に対する没食子酸の質量比、遊離アミノ酸1に対するリジンの総量の質量比、原料とした穀粉の質量100gに対して換算したリジンの質量(mg)、パン100gあたりのリジンの質量(mg)をまとめた。
【0187】
【表7】

【0188】
【表8】

【0189】
その結果、茶葉を入れない対照例1、2のパンに比べて、一番茶の生茶葉を使用した実施例5、6及び比較例6のパンで、アミノ酸類の含有量は総じて増加した。また、茶葉全体に熱湯処理を施した比較例6に比べ、実施例5、6では、アミノ酸類の含有量が、総じてより増加していた。特に上記濾過液及び茶残渣を利用した実施例6で、最も増加していた(表7、表8、図1〜3)。
【0190】
以上から、生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液(スラリー状調製物)、またはミキサー液を、更に固液分離して、その濾過液と茶残渣とを用いることにより、その濾過液及び/又は茶残渣の何らかの成分(特に酵素)によってパン中のアミノ酸類の含量が、総じて増加することが明らかとなった。
【0191】
また、表2、3、4、8に示すように、遊離アミノ酸の中でもテアニンの含有量は増えないかまたは減少する傾向にあった。特に生地のねかし時間が長い実施例10、11ではテアニン量が減少した。また、γ-アミノ酪酸含有量は上昇する傾向にあった。また没食子酸含有用も上昇する傾向にあった。ただし、固液分離した抽出液には没食子酸を増やす傾向は見られなかった。また、遊離アミノ酸の中でもリジン含有量は生地のねかし時間が短い短発酵の場合、ほとんどなかった。しかし生地のねかし時間が長い長時間予約発酵をすることによりリジン含有量が増大した。対照例2でもリジン含有量は対照例1に比べ上昇するが、実施例10、11の含有量の増加は非常に大きかった。
【0192】
<試験例6>
上記実施例5,6,8、比較例6、及び対照例1で得られたパンの旨味、苦味、及び渋味について、味覚センサー(味認識装置TS-5000Z)(インテリジェントセンサーテクノロジー株式会社製)を用いて測定・評価した。
【0193】
具体的には、それぞれのパン10gに蒸留水40mlを加えミキサーした後、ミキサー液を遠心分離にかけた上清液を評価液とし測定した。結果を、対照例1で得られたパンを基準(0)とし、その他のパンの相対評価値で示した。
【0194】
【表9】

【0195】
その結果、表9に示すように、実施例5,6,8、及び比較例6のパンは、カテキン類を含有しているパンであるにもかかわらず、苦味、渋味に関して、対照例1とほぼ同程度の味評価を示した。
【0196】
一方、旨味に関しては、茶葉全体に熱湯処理を施した比較例6(旨味の相対評価1.71)に比べて、茶残渣のみに熱湯処理を施した実施例5(旨味の相対評価3.82)、生葉のすべてを生かした実施例6(旨味の相対評価4.74)及び実施例8(旨味の相対評価4.01)のほうが、顕著に高くなっていた。
【0197】
以上から、生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を、更に固液分離して、その濾過液と茶残渣とを用いることにより、その濾過液及び/又は茶残渣の何らかの成分(特に酵素)によってパンの旨みが、顕著に増強されることが明らかとなった。
【0198】
以下にうどんの実施例を記す。なお、以下の例では、うどんに配合する茶葉由来材料をそれぞれ替える以外は、次のような共通の方法にてうどんを作った。すなわち、強力粉150g、薄力粉150g、塩10g、更に茶葉由来材料を加えた後、ホームベーカリー(パナソニック株式会社「ホームベーカリーSD-BMS101」)のうどんコースにてうどんの生地を作り、冷蔵庫内で約8時間休ませた。
【0199】
<実施例16>やぶきた茶緑茶成分含有うどん
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gに約100mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。茶残渣は熱湯を加えて固液分離する操作で熱処理を施した後、布にて濾過し残渣を良くしぼった。濾過液及び室温まで冷めた茶残渣のしぼり液を併せ水を加え総量150mlとした。強力粉150gと薄力粉150gに得られた茶残渣の25gを加え均一になるように混ぜた後、塩10g、濾過液150mlを加えた後、これをうどんの生地にしてうどんを作った。
【0200】
<実施例17>やぶきた茶紅茶成分含有うどん
茶残渣に熱湯による熱処理を施さない以外は実施例16と同様にしてうどんを作った。
【0201】
<実施例18>メチル化カテキン含有紅富貴茶:緑茶成分含有うどん
生茶葉として紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gを用いる以外は実施例16と同様にしてうどんを作った。
【0202】
<実施例19>メチル化カテキン含有紅富貴茶:紅茶成分含有うどん
生茶葉として紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gを用いる以外は実施17と同様にしてうどんを作った。
【0203】
<実施例20>やぶきた茶紅茶成分含有うどん
熱湯による熱処理を施さない以外は実施例16と同様にして茶残渣を得、その25gに強力粉150gと薄力粉150gを加え均一になるように混ぜた後、塩10g、水150mlを加えた後、これをうどんの生地にしてうどんを作った。
【0204】
<実施例21>やぶきた茶緑茶成分含有うどん
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gに約100mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。濾過液に水を加え総量150mlとした。強力粉150gと薄力粉150gに塩10g、濾過液150mlを加えた後、これをうどんの生地にしてうどんを作った。
【0205】
<実施例22>やぶきた茶紅茶成分含有うどん
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gに約100mlの水を加えミキサーにて1分間破砕したミキサー液に水を加え総量150mlとした。強力粉150gと薄力粉150gに塩10g、ミキサー液(スラリー状調製物)150mlを加えた後、これをうどんの生地にしてうどんを作った。
【0206】
<比較例7>
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gに熱湯100mlを加えて、なべにてよく加熱した。冷えた後、ミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。濾過液及び室温まで冷めた茶残渣のしぼり液を併せ水を加え総量150mlとした。強力粉150gと薄力粉150gに得られた茶残渣の25gを加え均一になるように混ぜた後、塩10g、濾過液150mlを加えた後、これをうどんの生地にしてうどんを作った。
【0207】
<対照例3>
強力粉150gと薄力粉150gに塩10g、水150mlを加えた後、これをうどんの生地にしてうどんを作った。
【0208】
<試験例7>
上記実施例16〜22、比較例7、対照例3で得られたうどんの特徴をまとめて下記表10に示す。
【0209】
【表10】

【0210】
<試験例8>
上記実施例16〜19、比較例7、対照例3で得られたうどんの成分分析の結果をまとめて下記表11に示す。なお、うどんの成分分析は、常法により、高速液体クロマトグラフィーで測定した。測定は、厚生労働省食品衛生法登録検査機関である株式会社エコプロリサーチに委託した。
【0211】
【表11】

【0212】
表11に示す各うどんの成分の特徴をまとめると、以下のとおりである。
【0213】
(1)対照例3のように茶葉由来材料を含まないうどんでは、カテキン類やテアフラビン類、メチル化カテキン類が実質的に含まれていない。
【0214】
(2)実施例17、19のように茶葉由来材料として、生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を、更に固液分離して得られた濾過液と熱湯で処理しない茶残渣とを用いたうどんは、テアフラビン類を実質的に含むのに対して、実施例16、18のように茶葉由来材料として、上記茶残渣を熱湯で処理して用いたうどんでは、テアフラビン類が実質的に含まれていない。なお、そのテアフラビン類とは、テアフラビン(TF)、テアフラビン-3-ガレート(TF3G)、テアフラビン-3’-ガレート(TF3'G)、及びテアフラビン-3,3’-ジガレート(TFDG)である。
【0215】
(3)実施例18、19のように、茶葉として紅富貴茶葉を用いたパンは、メチル化カテキン類を実質的に含む。なお、そのメチル化カテキン類とは、エピガロカテキン3-(3”-O-メチル)ガレート(EGCGメチル)、及びエピカテキン3-(3”-O-メチル)ガレート(ECGメチル)である。
【0216】
(4)茶葉由来材料を含むうどん(実施例16〜19)では、茶葉由来材料を含まないうどん(対照例3)に比べて、総じてアミノ酸類の含有量が増加していた。なお、そのアミノ酸類とは、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、スレオニン、アルギニン、テアニン、アラニン、チロシン、GABA(γ−アミノ酪酸)、メチオニン、バリン、フェニルアラニン、イソロイシン、及びロイシンである。
【0217】
(5) 実施例17、19のように生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を固液分離して得られた濾過液および茶残渣を用いたうどんでは茶葉全体に熱湯処理を施した茶葉由来材料を含むうどん(比較例7)に比べ没食子酸の含有量が非常に高くなった。
【0218】
(6)酵素が失活していない茶葉由来材料を含むうどん(実施例16〜19)では、茶葉由来材料を含まないうどん(対照例3)及び酵素が失活した茶葉由来材料を含むうどん(比較例7)に比べて、格段にリジン含有量が増加した。特に全ての酵素を使用した実施例17、19では32倍から47倍まで含有量が上昇した。
【0219】
上記の結果から、次のことが考えられた。
【0220】
(ア)茶成分について
一般に、製茶された緑茶にはテアフラビン類が含まれず、紅茶の製茶工程で生ずるものと考えられているが、生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を、更に固液分離して、その濾過液と茶残渣とを用いることにより、または生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液(スラリー状調製物)を丸ごと用いることにより、紅茶の製茶工程を経ずともパンの製造中にテアフラビン類が生じた。すなわち、その茶残渣を熱湯で処理しない場合にはその茶残渣の何らかの成分(特に酵素)によってパン中にテアフラビン類が生じ(実施例17、19)、その茶残渣を熱湯で処理することにより(実施例16、18)、そのうどん中にテアフラビン類を生じさせる何らかの成分が失活してパン中にテアフラビン類が生じないものと考えられた。
【0221】
また、紅茶品種である紅富貴茶の生茶葉に含まれるメチル化カテキン類(EGCGメチル、及びECGメチル)は、通常の紅茶の製茶工程で消失してしまう。上記のうどんの製造方法では紅茶の製茶工程を模したようにテアフラビン類を生じ、パンの色も紅茶色になるのではあるが、メチル化カテキン類(EGCGメチル、及びECGメチル)をほぼ100%残存させることができた(実施例19)。ガレート型テアフラビンとメチル化カテキンが共存できたのは世界初である。
【0222】
更に、実施例17、19のように生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を固液分離して得られた濾過液と茶残渣を添加したうどんでは、没食子酸の含有量が茶葉全体に熱湯処理を施した茶葉由来材料を含むうどん(比較例7)に比べ2倍量まで増えた。没食子酸が、生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液を固液分離して得られた茶残渣に含まれるガレート型カテキン類から、主に濾過液又は茶残渣に含まれる何らかの成分(特に酵素)によって分解して生成するためであると考えられた。
【0223】
(イ)アミノ酸成分について
同一茶葉で酵素を全て生かした茶葉由来材料を含むうどん(実施例17)では、酵素を100%失活させた茶葉由来材料をうどん(比較例7)に比べて、1.5倍以上アミノ酸類が増加していた。上記ミキサー液からの濾過液及び/又は茶残渣の何らかの成分(特に酵素)によってパン中のアミノ酸類の含量が増加していることが考えられた。
【0224】
<試験例9>
上記実施例16〜19で得られたうどんに含まれるカテキン類について更に考察した。すなわち、下記の式(1)にしたがってカテキン類の異性化率を求めた。
・異性化率(%)={(非エピ型カテキン量)÷(総カテキン量)}×100 ・・・(1)
ここで、非エピ型カテキンとは、上記カテキン類のうち、ガロカテキン(GC)、カテキン(C)、ガロカテキンガレート(GCG)、及びカテキンガレート(CG)である。その結果を下記表12に示す。
【0225】
【表12】

【0226】
麺類製造では熱処理過程が無いので異性化率は非常に低い。麺類をゆでてもこの効果は維持できた。
【0227】
<試験例10>
上記実施例16〜19で得られたうどんに含まれるテアフラビン類について更に考察した。すなわち、原料とした生茶葉(含水率約80%)の質量100gに対して換算したテアフラビン類の質量(mg)を求めた。また、生うどん100gあたりのテアフラビン質量(mg)を求めた。
【0228】
【表13】

【0229】
その結果、茶残渣を熱処理した場合には、カテキンのテアフラビンへの変換が起こらずテアフラビンは生成しなかった(実施例16、18)。
【0230】
一方、茶残渣を熱処理せずに用いた場合には、カテキンのテアフラビンへの変換が起こりテアフラビンが生成された(実施例17、19)。この場合、麺類は生地のねかし時間が比較的長いためカテキンのテアフラビンへの変換率が大きく、原料とした生茶葉(含水率約80%)の質量100gに対して換算したテアフラビンの質量比がいずれも190mg以上であった。また、生うどん100gあたりのテアフラビンの質量が19mg以上であった。
【0231】
<試験例11>
生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液(スラリー状調製物)、またはミキサー液を、更に固液分離して、その濾過液と茶残渣とを用いることにより、その濾過液及び/又は茶残渣の何らかの成分(特に酵素)によってパン中のアミノ酸類の含量が増加していることが考えられたので、それを検証した。
【0232】
すなわち、下記表14には、上記実施例16〜19、対照例3と比較例7で得られたうどんの遊離アミノ酸の総量の含有量、テアニン1に対する遊離アミノ酸の総量の質量比、γ-アミノ酪酸1に対する没食子酸の質量比、遊離アミノ酸1に対するリジンの質量比、原料とした穀粉の質量100gに対して換算したリジンの質量(mg)、うどん100gあたりのリジンの質量(mg)をまとめた。
【0233】
【表14】

【0234】
その結果、茶葉を入れない対照例3のうどんに比べて、2番茶の生茶葉を使用した実施例16、17及び比較例7のうどんで、アミノ酸類の含有量は総じて増加した。また、茶葉全体に熱湯処理を施した比較例7に比べ、上記濾過液及び茶残渣を利用した実施例17で、最も増加していた。
【0235】
以上から、生茶葉に水を加えてミキサーで破砕したそのミキサー液(スラリー状調製物)、またはミキサー液を、更に固液分離して、その濾過液と茶残渣とを用いることにより、その濾過液及び/又は茶残渣の何らかの成分(特に酵素)によってうどん中のアミノ酸類の含量が、総じて増加することが明らかとなった。
【0236】
遊離アミノ酸の中でもテアニンの含有量は増えないかまたは減少する傾向にあった。一方、γ-アミノ酪酸含有量は上昇する傾向にあった。また没食子酸含有用も上昇する傾向にあった。麺類の場合、比較的長く生地がねかされるためリジン含有量が飛躍的に増大した。濾過液及び失活した茶残渣を使用した実施例16、18でも約10倍、濾過液及び茶残渣を使用した実施例17、19では約30倍から50倍に増加していることは特筆すべきであった。
【0237】
以下に、餃子の皮、パスタ、クッキー、饅頭皮の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0238】
<実施例23>やぶきた茶緑茶成分含有餃子の皮
強力粉300gを使用する以外、実施例16と同様にしてホームベーカリー(パナソニック株式会社「ホームベーカリーSD-BMS101」)のうどんコースにて餃子の皮の生地を作り、冷蔵庫内で約8時間休ませた。
【0239】
<実施例24>やぶきた茶紅茶成分含有餃子の皮
茶残渣に熱湯による熱処理を施さない以外は実施例23と同様にして餃子の皮を作った。
【0240】
<実施例25>メチル化カテキン含有紅富貴茶:緑茶成分含有餃子の皮
生茶葉として紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gを用いる以外は実施例23と同様にして餃子の皮を作った。
【0241】
<実施例26>メチル化カテキン含有紅富貴茶:紅茶成分含有餃子の皮
生茶葉として紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gを用いる以外は実施例24と同様にして餃子の皮を作った。
【0242】
<実施例27>やぶきた茶紅茶成分含有餃子の皮
強力粉300gに実施例23で得られた酵素失活させない茶残渣の25gを加え均一になるように混ぜた後、塩10g、水150mlを加えた後、ホームベーカリー(パナソニック株式会社「ホームベーカリーSD-BMS101」)のうどんコースにて餃子の皮の生地を作り、冷蔵庫内で約8時間休ませた。
【0243】
<実施例28>やぶきた茶緑茶成分含有餃子の皮
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gに約100mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。濾過液に水を加え総量150mlとした。強力粉300gに塩10g、濾過液150mlを加えた後、ホームベーカリー(パナソニック株式会社「ホームベーカリーSD-BMS101」)のうどんコースにて餃子の皮の生地を作り、冷蔵庫内で約8時間休ませた。
【0244】
<実施例29>やぶきた茶紅茶成分含有餃子の皮
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gに約100mlの水を加えミキサーにて1分間破砕したミキサー液に水を加え総量150mlとした。強力粉300gに塩10g、ミキサー液(スラリー状調製物)150mlを加えた後、ホームベーカリー(パナソニック株式会社「ホームベーカリーSD-BMS101」)のうどんコースにて餃子の皮の生地を作り、冷蔵庫内で約8時間休ませた。
【0245】
<実施例30>やぶきた茶緑茶成分含有パスタ
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gに約80mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。茶残渣は熱湯を加えて固液分離する操作で熱処理を施した後、布にて濾過し残渣を良くしぼった。濾過液及び室温まで冷めた茶残渣のしぼり液を併せ水を加え総量110mlとした。強力粉150gと薄力粉150gに得られた茶残渣の25gを加え均一になるように混ぜた後、塩5g、溶き卵50g、オリーブ油小さじ1、濾過液110mlを加えた後、ホームベーカリー(パナソニック株式会社「ホームベーカリーSD-BMS101」)のパスタコースにて生地を作り、冷蔵庫内で約8時間休ませた。
【0246】
<実施例31>やぶきた茶紅茶成分含有パスタ
茶残渣に熱湯による熱処理を施さない以外は実施例30と同様にしてパスタを作った。
【0247】
<実施例32>メチル化カテキン含有紅富貴茶:緑茶成分含有パスタ
生茶葉として紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gを用いる以外は実施例30と同様にしてパスタを作った。
【0248】
<実施例33>メチル化カテキン含有紅富貴茶:紅茶成分含有パスタ
生茶葉として紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gを用いる以外は実施例31と同様にしてパスタを作った。
【0249】
<実施例34>やぶきた茶紅茶成分含有パスタ
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gに約80mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。その茶残渣25gを用いる以外は実施例30と同様にしてパスタを作った。
【0250】
<実施例35>やぶきた茶緑茶成分含有パスタ
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gに約100mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。濾過液に水を加え総量150mlとした。濾過液150mlを用いる以外は実施例30と同様にしてパスタを作った。
【0251】
<実施例36>やぶきた茶紅茶成分含有パスタ
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gに約100mlの水を加えミキサーにて1分間破砕したミキサー液に水を加え総量150mlとした。ミキサー液150ml(スラリー状調製物)を用いる以外は実施例30と同様にしてパスタを作った。
【0252】
<実施例37>やぶきた茶紅茶成分含有クッキー
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)26.5gに約50mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。バター60gを白っぽくなるまで練り砂糖60gを2から3回にわけて加えさらによく混ぜた。茶残渣をさらに加えよく混ぜた後、卵1/2個、バニラエッセンスを加えよく混ぜた。更に、薄力粉130gとベーキングパウダーを小さじ1/3をあわせてふるい入れ、練らないように混ぜた。ラップに包み室温または冷蔵庫で数時間放置し、その後オーブンで170℃で約15から20分焼いた。
【0253】
<実施例38>やぶきた茶紅茶成分含有クッキー
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)26.5gに約50mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。バター60gを白っぽくなるまで練り砂糖60gを2から3回にわけて加えさらによく混ぜた。茶残渣をさらに加えよく混ぜた後、とき卵30ml、濾過液20ml、バニラエッセンスを加えよく混ぜた。更に、薄力粉130gとベーキングパウダーを小さじ1/3をあわせてふるい入れ、練らないように混ぜた。ラップに包み室温または冷蔵庫で数時間放置し、その後オーブンで170℃で約15から20分焼いた。
【0254】
<実施例39>やぶきた茶紅茶成分含有クッキー
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)26.5gに約50mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。バター60gを白っぽくなるまで練り砂糖60gを2から3回にわけて加えさらによく混ぜた。さらに茶葉ミキサー液丸ごと加えよく混ぜた後、とき卵30ml、バニラエッセンスを加えよく混ぜた。更に、薄力粉130gとベーキングパウダーを小さじ1/3をあわせてふるい入れ、練らないように混ぜた。ラップに包み室温または冷蔵庫で数時間放置し、その後オーブンで170℃で約15から20分焼いた。
【0255】
<実施例40>やぶきた茶緑茶成分含有クッキー
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)26.5gに約50mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。茶残渣は熱湯を加えて固液分離する操作で熱処理を施した後、布にて濾過し残渣を良くしぼった。バター60gを白っぽくなるまで練り砂糖60gを2から3回にわけて加えさらによく混ぜた。茶残渣をさらに加えよく混ぜた後、溶き卵30ml、濾過液20ml、バニラエッセンスを加えよく混ぜた。更に、薄力粉130gとベーキングパウダーを小さじ1/3をあわせてふるい入れ、練らないように混ぜた。ラップに包み室温または冷蔵庫で数時間放置し、その後オーブンで170℃で約15から20分焼いた。
【0256】
<実施例41>紅富貴茶紅茶成分含有クッキー
生茶葉として紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)26.5gを用いる以外は実施例37と同様にしてクッキーを作った。
【0257】
<実施例42>紅富貴茶紅茶成分含有クッキー
生茶葉として紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)26.5gを用いる以外は実施例38と同様にしてクッキーを作った。
【0258】
<実施例43>紅富貴茶紅茶成分含有クッキー
生茶葉として紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)26.5gを用いる以外は実施例39と同様にしてクッキーを作った。
【0259】
<実施例44>紅富貴茶緑茶成分含有クッキー
生茶葉として紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)26.5gを用いる以外は実施例40と同様にしてクッキーを作った。
【0260】
以下に中華まんじゅうの生地の実施例を記す。なお、以下の例では、まんじゅう生地に配合する茶葉由来材料をそれぞれ替える以外は、次のような共通の方法にてまんじゅう生地を作った。すなわち、強力粉300g、砂糖30g、ラード30g、更に茶葉由来材料を加えた後、ドライイースト10gを加えてこねた後室温下で20分程休ませた。その後、薄力粉200g、塩7g、ベーキングパウダー15gを加えさらにこね、30分から適当な時間休ませて生地を作った。
【0261】
<実施例45>やぶきた茶緑茶成分含有中華まんじゅう生地
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)80gに約160mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。茶残渣は熱湯を加えて固液分離する操作で熱処理を施した後、布にて濾過し残渣を良くしぼった。濾過液及び室温まで冷めた茶残渣のしぼり液を併せ水を加え総量300mlとした。強力粉300gに得られた茶残渣の40gを加え均一になるように混ぜた後、砂糖30g、ラード30g、ドライイースト10g、濾過液300mlを加えてこねた後、室温下で20分程休ませた。その後、薄力粉200g、塩7g、ベーキングパウダー15gを加えさらにこね、30分から適当な時間休ませて生地を作った。
【0262】
<実施例46>やぶきた茶紅茶成分含有中華まんじゅう生地
茶残渣に熱湯による熱処理を施さない以外は実施例45と同様にしてまんじゅう生地を作った。
【0263】
<実施例47>メチル化カテキン含有紅富貴茶:緑茶成分含有中華まんじゅう生地
生茶葉として紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gを用いる以外は実施例45と同様にして生地を作った。
【0264】
<実施例48>メチル化カテキン含有紅富貴茶:紅茶成分含有中華まんじゅう生地
生茶葉として紅富貴茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)50gを用いる以外は実施46と同様にして生地を作った。
【0265】
<実施例49>やぶきた茶紅茶成分含有中華まんじゅう生地
熱湯による熱処理を施さない以外は実施例45と同様にして茶残渣40gを得た。強力粉300gに得られた茶残渣の40gを加え均一になるように混ぜた後、砂糖30g、ラード30g、ドライイースト10g、水300mlを加えてこねた後、室温下で20分程休ませた。その後、薄力粉200g、塩7g、ベーキングパウダー15gを加えさらにこね、30分から適当な時間休ませて生地を作った。
【0266】
<実施例50>やぶきた茶緑茶成分含有中華まんじゅう生地
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)80gに約250mlの水を加えミキサーにて1分間破砕した。ミキサーした液をこし器にて濾過し、濾過液と残渣に分けた。濾過液に水を加え総量300mlとした。強力粉300gに砂糖30g、ラード30g、ドライイースト10g、濾過液300mlを加えてこねた後、室温下で20分程休ませた。その後、薄力粉200g、塩7g、ベーキングパウダー15gを加えさらにこね、30分から適当な時間休ませて生地を作った。
【0267】
<実施例51>やぶきた茶紅茶成分含有中華まんじゅう生地
やぶきた茶2番茶の生茶葉(含水率約80%)80gに約250mlの水を加えミキサーにて1分間破砕したミキサー液に水を加え総量300mlとした。強力粉300gに砂糖30g、ラード30g、ドライイースト10g、ミキサー液300ml(スラリー状調製物)を加えてこねた後、室温下で20分程休ませた。その後、薄力粉200g、塩7g、ベーキングパウダー15gを加えさらにこね、30分から適当な時間休ませて生地を作った。
【0268】
<動物試験>
高脂肪食誘発肥満モデルマウスC57BL6の5週齢の雄のマウスを使用し、2ヶ月間の飼育を行い、餌として実施例1のパン、実施例2のパン及び対照例1のパンを与え体重、尾静脈随時及び尾静脈空腹時の推移、糞量、尿量、臓器内脂肪、血液成分にどのような効果があるかどうかを調べた。
【0269】
試験は以下のように行った。
(1)マウスの飼育
高脂肪食誘発肥満モデルマウスC57BL6の5週齢の雄性マウスを購入してから実験環境に慣らす為に7日間予備飼育してから健全な動物を実験に使用した。飼育室の環境は温度を23±1℃、湿度を55±5%の一定とし明暗は12時間周期(明8:00-20:00)とした。実験動物はプラスチック製のケージを用いて1つのケージあたり1匹のマウスを入れ動物飼育室内で飼育した。
(2)試料の摂取
マウスは1群7匹で3群に分け、それぞれに実施例1のパン、実施例2のパン、及び対照例1のパンを与えた。各群に与える試料と飲料は下記表15に示した。なお、水は給水瓶にいれ、餌と水は自由摂取させた。
【0270】
【表15】

【0271】
各測定結果は、平均±標準偏差で表し、3群以上の検定にはBonferroni検定による多重比較検定を行ない、危険率5%未満をもって有意(*)、危険率1%未満をもって有意(**)とした。
【0272】
<参考例1> [体重の変化]
試験開始後、7週齢、8週齢、9週齢又は11週齢に達したマウスの体重を測定した。なお、体重測定は14時間絶食後に行った。
【0273】
【表16】

【0274】
その結果、表16に示すように、8週齢となった段階で比べると、実施例1のパンを摂取させたI群は、対照例1のパンを摂取させたIII群と比較して危険率5%未満で有意に体重が低下した。また、9週齢及び11週齢となった段階で比べると、実施例1のパンを摂取させたI群及び実施例2のパンを摂取させたII群とも、対照例1のパンを摂取させたIII群と比較して危険率1%未満で有意に体重が低下した。
【0275】
<参考例2> [飼料及び飲料の摂取量]
試験期間中の餌及び飲料水の摂取量を2日おきに測定した。1日あたりの平均飼料摂取量及び平均飲料水摂取量を、下記表17に示す。
【0276】
【表17】

【0277】
その結果、実施例2のパンを摂取させたII群の食餌量は、危険率1%未満で有意に低下していた。
【0278】
<参考例3> [糞量の測定]
各群のマウスを個別の代謝ゲージにて24時間飼育し、24時間後の糞量を測定した。その結果を下記表18に示す。
【0279】
【表18】

【0280】
実施例1のパンを摂取させたI群及び実施例2のパンを摂取させたII群は、対照例1のパンを摂取させたIII群に比べ、危険率1%で有意に糞量が増加していた。特にII群では、上記参考例2で示したように飼料の摂取量が低下したにもかかわらず、排泄量が増加していた。したがって、排泄量が多いことが体重増加抑制の一因であると考えられた。
【0281】
<参考例4> [随時血糖値の測定]
試験開始後、7週齢、8週齢、9週齢、10週齢又は11週齢に達したマウスの随時血糖値を測定した。測定血糖値は、午後1時にマウスの尾静脈から採血を行い、簡易血糖測定システム(テルモ株式会社製メディセーフミニGR102)にて測定した。
【0282】
【表19】

【0283】
その結果、表19に示すように、実施例1のパンを摂取させたI群では、7週齢、9週齢、11週齢において、対照例1のパンを摂取させたIII群に比べて、危険率5%または1%未満の有意差で、随時血糖値が低下した。実施例2のパンを摂取させたII群では、7週齢、11週齢において、対照例1のパンを摂取させたIII群に比べて、危険率5%未満の有意差で、随時血糖値は低下した。
【0284】
<参考例5> [空腹時血糖値]
試験開始後、7週齢、8週齢、9週齢、10週齢又は11週齢に達したマウスの空腹時血糖値を測定した。空腹時血糖値は、プラスチックゲージに床敷も無い状態で14時間絶食後、マウスの尾静脈から採血を行い、簡易血糖測定システム(テルモ株式会社製)にて測定した。
【0285】
【表20】

【0286】
その結果、表20に示すように、実施例1のパンを摂取させたI群、及び実施例2のパンを摂取させたII群では、対照例1のパンを摂取させたIII群に比べて、空腹時血糖値が、正常の範囲ではあるが総じて高い値を示した。したがって、実施例のパンを摂取させたI群及びII群では、対照例1のパンを摂取させたIII群と比べて、随時血糖値と空腹時血糖値との差が小さかった。このことから実施例のパンを摂取させたI群及びII群では、対照例1のパンを摂取させたIII群と比べて、飼料の消化吸収が長時間にわたりなされていることが示唆された。またそのことが体重増加抑制の一因と考えられた。
【0287】
<参考例6> [臓器重量]
試験開始後、12週齢に達したマウスを14時間絶食後、麻酔下(ジエチルエーテル)で開腹し、速やかに肝臓、腎臓、脾臓摘出しその重量を測定した。
【0288】
【表21】

【0289】
その結果、表21に示すように、実施例1のパンを摂取させたI群では、肝臓、腎臓及び脾臓とも、対照例1のパンを摂取させたIII群に比べて、危険率1%未満の有意差で低い重量を示した。また、実施例2のパンを摂取させたII群では、III群に比べて、肝臓、腎臓において危険率1%未満の有意差で低い重量を示した。
【0290】
<参考例7> [臓器脂肪組織量]
試験開始後、12週齢に達したマウスを14時間絶食後、麻酔下(ジエチルエーテル)で開腹し、速やかに腎臓周囲脂肪、睾丸周囲脂肪、腸管周囲脂肪、皮下脂肪を摘出しその重量を測定した。結果は、対照例1のパンを摂取させたIII群の脂肪量を100として相対値を表した。
【0291】
【表22】

【0292】
その結果、表22に示すように、腎臓、睾丸周囲、腸管周囲脂肪量は、実施例1のパンを摂取させたI群、及び実施例2のパンを摂取させたII群とも、対照例1のパンを摂取させたIII群に比べて、危険率1%未満の有意差で低い脂肪重量を示した。臀部皮下脂肪量に関しては、実施例1のパンを摂取させたI群では、対照例1のパンを摂取させたIII群に比べて、危険率1%未満の有意差で低い脂肪重量を示した。実施例2のパンを摂取させたII群では、危険率5%未満の有意差で低い脂肪重量を示した。
【0293】
<参考例8> [血液生化学検査]
試験開始後、12週齢に達したマウスを14時間絶食後、麻酔下(ジエチルエーテル)に頸動脈からシリンジを用いて採血し、それから得られた血漿を血液自動分析装置(「日立7180」株式会社 日立製作所製)で測定を行った。測定はオリエンタル酵母工業株式会社に委託した。
【0294】
【表23】

【0295】
その結果、表23に示すように、実施例1のパンを摂取させたI群では、対照例1のパンを摂取させたIII群に比べて、グルコース値が危険率5%未満の有意差で減少していた。また、実施例2のパンを摂取させたII群では、対照例1のパンを摂取させたIII群に比べて、遊離脂肪酸量(NEFA)が危険率1%未満の有意差で低下していた。
【0296】
<参考例9> [マウスの脱毛度]
実験に使用した高脂肪食誘発肥満モデルマウスC57BL6は脱毛遺伝子をもっているため、飼育期間中に脱毛することが報告されている。例えば、上記の動物試験の条件においても、マウスに水を飲ませた場合、脱毛は認められなかったが、市販の紅茶飲料や緑茶飲料をマウスに長期間飲ませると、脱毛が認められ、脱毛部以外の毛の量も少なくなり地肌が見えるようになった。
【0297】
その点、実施例1のパンを摂取させたI群、及び実施例2のパンを摂取させたII群は、茶成分が大量に含有しているにもかかわらず、飼育期間中、いずれも脱毛の症状が全くみられず、地肌も見えず毛はふさふさで、色、つやなどの毛質も良好に維持されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素活性が損なわれていない生茶葉又はその処理物と、殻粉と、水とを、原料として少なくとも混合し、該原料に前記生茶葉に由来する酵素を酵素的に作用させる工程を経て得られたものであることを特徴とする殻粉食品。
【請求項2】
テアニンを少なくとも含有し、テアニン1に対する遊離アミノ酸の総量の質量比が2.5〜200である請求項1記載の殻粉食品。
【請求項3】
γ-アミノ酪酸と没食子酸を少なくとも含有し、γ-アミノ酪酸1に対する没食子酸の質量比が0.3〜4.0である請求項1又は2記載の殻粉食品。
【請求項4】
前記殻粉食品100g中にリジンを0.01mg以上含有する請求項1〜3のいずれか1つに記載の殻粉食品。
【請求項5】
前記殻粉食品100g中にテアフラビンを0.01mg以上含有する請求項1〜4のいずれか1つに記載の殻粉食品。
【請求項6】
前記生茶葉がメチル化カテキンを含有する茶葉を含み、前記穀粉食品中にメチル化カテキンを少なくとも含有する請求項1〜5のいずれか1つに記載の殻粉食品。
【請求項7】
ポリフェノール類、没食子酸、ガレート型カテキンを少なくとも含有し、没食子酸/ポリフェノール類の質量比率が0.5%以上、ガレート型カテキン/総カテキンの質量比率が36%以上、非エピ型カテキン/総カテキンの質量比率が25%以下である請求項1〜6のいずれか1つに記載の殻粉食品。
【請求項8】
食物繊維を2〜20質量%含有する請求項1〜7のいずれか1つに記載の殻粉食品。
【請求項9】
前記生茶葉の処理物は、生茶葉をそのままあるいは水存在下で破砕した生茶葉破砕物、これをスラリー状に調製したスラリー状調製物、又はこれを固液分離して得られた茶葉抽出液と茶葉抽出残渣のうち、(1)生茶葉破砕物、(2)スラリー状調製物、(3)茶葉抽出液及び茶葉抽出残渣、(4)茶葉抽出残渣、(5)茶葉抽出液及び酵素失活処理した茶葉抽出残渣、(6)茶葉抽出液、及び(7)酵素失活処理した茶葉抽出液及び茶葉抽出残渣からなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項1〜8のいずれか1つに記載の殻粉食品。
【請求項10】
パン、麺、パスタ、クッキー、ビスケット、ケーキ、餃子の皮、シュウマイの皮、ピザの皮、ナンの皮、又は饅頭皮である請求項1〜9のいずれか1つに記載の殻粉食品。
【請求項11】
酵素活性が損なわれていない生茶葉又はその処理物と、殻粉と、水とを、原料として少なくとも混合し、該原料に、前記生茶葉に由来する酵素を酵素的に作用させる工程を有することを特徴とする穀粉食品の製造方法。
【請求項12】
前記生茶葉の処理物は、生茶葉をそのままあるいは水存在下で破砕した生茶葉破砕物、これをスラリー状に調製したスラリー状調製物、又はこれを固液分離して得られた茶葉抽出液と茶葉抽出残渣のうち、(1)生茶葉破砕物、(2)スラリー状調製物、(3)茶葉抽出液及び茶葉抽出残渣、(4)茶葉抽出残渣、(5)茶葉抽出液及び酵素失活処理した茶葉抽出残渣、(6)茶葉抽出液、及び(7)酵素失活処理した茶葉抽出液及び茶葉抽出残渣からなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項11記載の穀粉食品の製造方法。
【請求項13】
穀粉食品が、パン、麺、パスタ、クッキー、ビスケット、ケーキ、餃子の皮、シュウマイの皮、ピザの皮、ナンの皮、又は饅頭皮である請求項11又は12記載の穀粉食品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−87576(P2011−87576A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214123(P2010−214123)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(509264095)
【Fターム(参考)】