母材の着脱方法及び光ファイバの製造方法
【課題】支持体に対する母材の着脱において、各種材料や使用部材を破損することなく、簡便に行うことができ、大型の母材へも適用できる母材の着脱方法の提供。
【解決手段】母材2の上端部20と支持体3には、これらを連結する連結ピン11を挿通するための第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aが設けられており、母材2及び支持体3のこれら貫通孔に連結ピン11を挿通し、連結ピン11に母材2を懸架させることで、支持体3に母材2を取り付ける母材の取り付け工程において、母材2の懸架解消に伴い、重力に基づくモーメントの作用で、挿通軸の周りに回転可能に連結ピン11を配置し、母材2を支持体3から取り外す母材の取り外し工程において、連結ピン11の回転後に、連結ピン11を前記貫通孔から抜出する。
【解決手段】母材2の上端部20と支持体3には、これらを連結する連結ピン11を挿通するための第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aが設けられており、母材2及び支持体3のこれら貫通孔に連結ピン11を挿通し、連結ピン11に母材2を懸架させることで、支持体3に母材2を取り付ける母材の取り付け工程において、母材2の懸架解消に伴い、重力に基づくモーメントの作用で、挿通軸の周りに回転可能に連結ピン11を配置し、母材2を支持体3から取り外す母材の取り外し工程において、連結ピン11の回転後に、連結ピン11を前記貫通孔から抜出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの製造時に使用する母材の支持体に対する着脱方法、及び該着脱方法を適用した光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを製造するまでには、複数の工程を順次行うことが必要である。具体的には、(a)VAD法や外付け法等を適用して、ガラスとなる微粒子をターゲットに堆積させて石英多孔質母材を製造する工程、(b)石英多孔質母材を焼結炉中で脱水及び焼結させて、透明な光ファイバ母材を製造する工程、(c)光ファイバ母材の先端部を加工する工程、(d)光ファイバ母材の屈折率分布をプリフォームアナライザで測定する工程、(e)光ファイバ母材を紡糸して光ファイバを製造する工程、等である。これらの工程では、ターゲット、石英多孔質母材、光ファイバ母材等の各母材を、固定された棒状の支持体に懸架させて支持することが必要となる。
【0003】
母材を支持体で支持する時の、支持体に対する母材の着脱方法としては、母材の上端部と支持体にそれぞれ貫通孔を設け、これら貫通孔に連結ピンを挿通して、母材と支持体とを連結する手法が開示されている(特許文献1及び2参照)。ここで、図11を参照しながら、前記連結方法について、具体的に説明する。
【0004】
まず、図11(a)に示すように、把持装置(図示略)を使用して母材2を上昇させ、上端部20を支持体3の下端部に設けられた凹部30へ嵌合させる。母材2の上端部20には第一の貫通孔20aが設けられ、支持体3の凹部30には第二の貫通孔30aが設けられており、嵌合時には、これら貫通孔が連通するように母材2と支持体3を位置合わせする。なお、図11においては、支持体3のみ断面表示している。
次いで、図11(b)に示すように、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aに、棒状の連結ピン9を挿通し、さらに図11(c)に示すように、把持装置を使用して母材2を僅かに下降させて、母材2を連結ピン9に懸架させることで、母材2を支持する。連結ピン9は、通常、石英ガラスからなる。
次いで、母材2に対して所望の処理を行った後、図11(d)に示すように、把持装置を使用して処理後の母材2を僅かに上昇させることで、連結ピン9に母材2からの下向きの力が印加されないようにして、連結ピン9への母材2の懸架を解消する。
次いで、図11(e)に示すように、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aから連結ピン9を抜出し、母材2を支持体3から取り外す。
この従来の着脱方法は、簡便であるだけでなく、使用する母材と連結ピンの加工も容易である等の利点を有しており、光ファイバの各種製造工程で広く普及している。
【0005】
通常、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aの内径は、いずれも連結ピン9の外径よりも僅かに大きいだけのサイズに設定される。これは、内径が大き過ぎると、母材2を支持した際に母材2が位置ずれを起こし易く、また、母材2及び支持体3の強度が低下して破損し易いためである。したがって、図11(d)に示すように、母材2を上昇させる場合には、連結ピン9を抜出可能とするための、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aの位置合わせを精密に行う必要がある。なぜなら、母材2を過度に上昇させてしまうと、連結ピン9を破損させて使用できなくしてしまったり、最悪の場合には折ってしまい、母材を落下させてしまうからである。連結ピン9の強度を向上させるために、窒化ケイ素、アルミナ等のセラミックス、あるいは白金等の金属からなる連結ピンも提案されている。しかし、セラミックスからなる連結ピンを使用した場合には、母材中に不純物が混入する可能性があり、さらに、石英多孔質母材の脱水及び焼結工程では、高温の塩素ガス雰囲気下に曝され、劣化してしまう。そして、金属からなる連結ピンは、白金等の劣化し難い材質のものは高コストであり、実用性に乏しい。したがって、連結ピンとしては、石英ガラスからなるものを使用せざるを得ないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−322357号公報
【特許文献2】特開2004−115289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、従来は、図11(d)〜(e)に示すような母材2の上昇から取り外しまでの工程で、作業者が経験に基づいて慎重に作業することを強いられていた。例えば、連結ピン9が抜出し難い場合、これは、母材2が依然連結ピン9に懸架された状態のままであるからなのか、あるいは連結ピン9への母材2の懸架は解消されているが、第一の貫通孔20a又は第二の貫通孔30aと連結ピン9との隙間にガラス微粒子等の異物が挟まっているためなのか、等の判断が困難になることがある。この場合には、母材2の上昇及び下降を繰り返したり、より強い力で連結ピン9の抜出を試みたりする必要がある。これらの操作を自動で行う場合も同様であり、しかも設備が大型化してしまう。しかし、これらの操作も、結局は連結ピンの破損を抑制できるものではなく、その結果、連結ピンや母材の破損を完全には抑制できないという問題点があった。さらに、作業効率が低いという問題点があった。そして、このような危険性がある以上、大型の母材を取り扱うことが困難であるという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、支持体に対する母材の着脱において、各種材料や使用部材を破損することなく、簡便に行うことができ、大型の母材へも適用できる母材の着脱方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、
本発明は、光ファイバの製造に使用される母材を懸架して支持するための支持体に対する、母材の着脱方法であって、前記母材の上端部と前記支持体には、これらを連結する連結ピンを挿通するための貫通孔が設けられており、前記母材及び支持体の貫通孔に前記連結ピンを挿通し、該連結ピンに前記母材を懸架させることで、前記支持体に前記母材を取り付ける母材の取り付け工程において、前記母材の懸架解消に伴い、重力に基づくモーメントの作用で、挿通軸の周りに回転可能に前記連結ピンを配置し、前記母材を前記支持体から取り外す母材の取り外し工程において、前記連結ピンの回転後に、前記連結ピンを前記貫通孔から抜出することを特徴とする母材の着脱方法を提供する。
本発明の母材の着脱方法においては、把持された前記母材及び支持体の少なくとも一方が上下動可能とされ、支持体に対する母材の相対的な上下方向の位置が調節可能とされており、前記取り付け工程において、前記母材を相対的に上昇させて、前記母材及び支持体の貫通孔を位置合わせした後、これら貫通孔に前記連結ピンを挿通し、次いで、前記母材を相対的に下降させて、該母材を前記連結ピンに懸架させ、前記取り外し工程において、前記母材を相対的に上昇させて、前記連結ピンへの前記母材の懸架を解消することが好ましい。
本発明の母材の着脱方法においては、前記連結ピンが、前記母材及び支持体の貫通孔へ挿通するための挿通部と、該挿通部と所定の角度をなす非挿通部とを備え、前記取り付け工程において、前記非挿通部の中心軸と鉛直方向とのなす角度が、0°及び180°以外となるように、前記連結ピンを配置することが好ましい。
本発明の母材の着脱方法においては、前記モーメントを1×10−2(N・cm)以上とすることを特徴とすることが好ましい。
本発明の母材の着脱方法においては、前記連結ピンの材質が石英ガラスであることが好ましい。
本発明の母材の着脱方法においては、前記連結ピンが無色透明又は一部が白色であることが好ましい。
本発明の母材の着脱方法においては、前記支持体が着脱可能な接続部材を備え、該接続部材と前記母材とを連結することが好ましい。
また、本発明は、上記本発明の着脱方法で母材を支持体に対して着脱する着脱工程を有することを特徴とする光ファイバの製造方法を提供する。
本発明の光ファイバの製造方法においては、ターゲットへガラス微粒子を堆積させて石英多孔質母材を製造する工程、石英多孔質母材を焼結あるいは脱水及び焼結させて光ファイバ母材を製造する工程、光ファイバ母材の先端を加工する工程、及び光ファイバ母材を紡糸して光ファイバを製造する工程からなる群から選択される一つ以上の工程が、前記着脱工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、支持体に対する母材の着脱を、各種材料や使用部材を破損することなく、簡便に行うことができ、大型の母材へも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明で使用する連結ピンを例示する正面図である。
【図2】図1の連結ピンを母材及び支持体の貫通孔に挿通させた状態を例示する概略図である。
【図3】図1の連結ピンを母材及び支持体の貫通孔に挿通させた状態の他の例を示す概略図である。
【図4】本発明で使用する連結ピンの他の例を示す図である。
【図5】本発明で使用する連結ピンの他の例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図6】本発明の着脱方法を説明するための概略図である。
【図7】本発明で使用する接続部材を備えた支持体を例示する概略図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線における横断面図である。
【図8】他の支持体を使用して、図1の連結ピンを母材及び支持体の貫通孔に挿通させた状態を例示する概略図である。
【図9】実施例1〜10、比較例1〜4における、連結ピンの表面粗さと連結ピンに作用するモーメントとの関係をプロットしたグラフである。
【図10】参考例1及び2における着脱方法を説明するための概略図である。
【図11】連結ピンを使用して母材と支持体とを連結させる従来の支持方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<母材の着脱方法>
本発明の母材の着脱方法は、光ファイバの製造に使用される母材を懸架して支持するための支持体に対する、母材の着脱方法であって、前記母材の上端部と前記支持体には、これらを連結する連結ピンを挿通するための貫通孔が設けられており、前記母材及び支持体の貫通孔に前記連結ピンを挿通し、該連結ピンに前記母材を懸架させることで、前記支持体に前記母材を取り付ける母材の取り付け工程において、前記母材の懸架解消に伴い、重力に基づくモーメントの作用で、挿通軸の周りに回転可能に前記連結ピンを配置し、前記母材を前記支持体から取り外す母材の取り外し工程において、前記連結ピンの回転後に、前記連結ピンを前記貫通孔から抜出することを特徴とする。
本発明の着脱方法では、連結ピンに重力以外の下向きの力が印加されていない時に、重力に基づくモーメントの作用で連結ピンが挿通軸の周りに回転するように、連結ピンの形状及び挿通時の配置を調節することにより、その優れた効果を発揮する。
【0013】
本発明において、母材とは、光ファイバの製造に使用される材料全般を指し、具体的には、紡糸して光ファイバとするための光ファイバ母材、焼結あるいは脱水及び焼結させて光ファイバ母材とするための石英多孔質母材、ガラスとなる微粒子を堆積させて石英多孔質母材とするためのターゲット等が例示できる。
母材は、通常、支持体で支持するための部位で、光ファイバの製造には供されない部位であるダミー部を端部に有する。ダミー部は、例えば、母材本体に加熱融着等の手段でダミー部材を別途接続することで設けられ、また、ダミー部材を接続することなく、母材の端部をそのままダミー部とすることもある。本発明において、母材とは、このようなダミー部を端部に備えたものを指す。そして、ダミー部には、後述するように、支持体への連結に使用する貫通孔が設けられる。
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明で使用する連結ピンを例示する正面図である。
ここに例示する連結ピン11は、略L字状であり、長軸部11aと短軸部11bとのなす角度ψ1は90°である。連結ピン11は、長軸部11a及び短軸部11bのいずれもが貫通孔への挿通部となり得る点で汎用性が高く、しかも作製が容易なものである。
【0015】
連結ピン11の材質は特に限定されず、公知の連結ピンの場合と同様で良いが、ガラス類であることが好ましく、石英ガラスがより好ましい。
連結ピン11は、無色透明であるか、又は一部が白色であることが好ましい。一部を白色とすれば、視認性が良くなることで、取り扱い性が向上する。
また、連結ピン11として、石英ガラス中に微量の気泡を含む不透明ガラスからなるもの、表面の一部又は全面を擦り仕上げしたガラスからなるもの、表面の一部又は全面をガラス微粒子でコーティングしたもの等を使用することで、耐熱性が向上し、さらに、上記のように一部が白色となるので、取り扱い性も向上する。
また、連結ピン11として、表面の一部又は全面を火炎研磨することで、表面粗さ(Ra)を低減でき、後述する本発明の着脱方法において、連結ピンを一層容易に回転させることができる。
さらに、連結ピン11の作製時に、火炎研磨、延伸加工、擦り仕上げ等の行った後、アニーリング(加熱処理)することにより、クラックの発生を抑制できる。
【0016】
長軸部11a及び短軸部11bのいずれか一方は、母材及び支持体の貫通孔への挿通部となり、残りの一方が連結ピン11をその挿通軸の周りに回転させるモーメントを生ずる部位となる。長軸部11a及び短軸部11bのいずれを貫通孔への挿通部とするかは、任意に選択できる。なお、ここでは、長軸部11aの軸方向の長さLa1と、短軸部11bの軸方向の長さLb1とが異なる例を示しているが、同じでも良い。
【0017】
長軸部11a及び短軸部11bのそれぞれの軸方向に対して垂直な断面は、いずれも略円形状であり、且つその直径(長軸部11aの外径da1及び短軸部11bの外径db1)は、先端部を除いて同じとなっている。長軸部11a及び短軸部11bの先端部は、いずれも漸次外径が縮小するテーパ状又は曲面状となっている。なお、長軸部11a及び短軸部11bの少なくとも一方の先端部は、このように外径が変化せず、等しく同じ外径となっていても良いが、貫通孔への挿通部となる方の先端部を、上記のように外径を変化させることで、貫通孔への挿通及び貫通孔からの抜出が容易となる。
【0018】
長軸部11a及び短軸部11bのうち、貫通孔への挿通部となる方の長さ(La1又はLb1)は、挿通部とならない方の外径分を除いて、挿通長さに対して同等以上であれば良い。ここで「挿通長さ」とは、通常、使用する母材と支持体の貫通孔の長さのうちの、長い方のことである。通常、例えば、40〜50kg程度の母材に対しては、この時使用する支持体3の大きさを考慮すると、挿通部となる方の長さは10〜15cmであることが好ましい。
【0019】
一方、長軸部11a及び短軸部11bのうち、貫通孔への挿通部とならない方(非挿通部)の長さは、連結ピン11を回転させるのに十分なモーメントを生ずる長さであれば良い。したがって、非挿通部の長さは、その形状等も考慮して適宜設定すれば良い。例えば、断面形状がほぼ一定の棒状である非挿通部の場合、その長さは、40〜50kg程度の母材に対しては、1cm以上であることが好ましい。長さの上限は特に限定されないが、取り扱い性を考慮すると、12cm程度であることが好ましい。
【0020】
長軸部11aの外径da1及び短軸部11bの外径db1の大きさは、母材2や支持体3の大きさ等に応じて、適宜調節去れば良い。例えば、40〜50kg程度の母材に対しては、1〜5cmであることが好ましい。
【0021】
ここで、連結ピン11に作用するモーメントについて、図2を参照しながら説明する。図2は、連結ピン11を貫通孔に挿通した状態を例示する概略図である。ただし、支持体のみ断面表示している。ここでは、図11で説明した母材2及び支持体3を使用した場合について説明する。すなわち、母材2の上端部20には第一の貫通孔20aが設けられ、支持体3の凹部30には第二の貫通孔30aが設けられている。そして、これら貫通孔は、いずれもほぼ一直線に形成されており、軸に対して垂直な断面の形状は略円形状である。このような形状とすることで、連結ピン11の挿通及び抜出が一層容易となる。
【0022】
母材2の上端部20は支持体3の下端部に設けられた凹部30へ嵌合され、連結ピン11の長軸部11aが、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aに挿通されている。したがって、ここでは、連結ピン11のうち、短軸部11bに作用するモーメントについて説明する。
短軸部11bの鉛直方向(ここでは、母材の軸方向に一致する)とのなす角度をθ、短軸部11bの軸方向中央部に作用する重力をFb1(N)とした場合、連結ピン11に作用するモーメントM(N・cm)は、下記式(1)で表される、短軸部11bに作用するモーメントMb(N・cm)となる。
Mb=Fb1×Lb1cosθ/2 ・・・・(1)
【0023】
なお、図2の配置形態に基づくモーメントMでは、連結ピン11のうち、貫通孔への挿通部である長軸部11aの影響を無視している。これは、本発明において、使用される連結ピン11のサイズを考慮した場合、与える影響が極めて僅かだからである。連結ピンの挿通部が与える影響としては、貫通孔との間の摩擦力に基づくモーメントに起因するものが挙げられる。
ここで、長軸部11aの質量をW(kg)とした場合の、連結ピン11に作用するモーメントM(N・cm)について、図3を参照しながら説明する。この場合、長軸部11aに作用する摩擦力をFa1(N)、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aと、長軸部11aとの間の摩擦係数をμとすると、該摩擦力に基づくモーメントMa(N・cm)は、Mbの方向を正の方向とした場合、下記式(2)で表される。
Ma=−Fa1×da1/2=μ×9.8W×da1/2 ・・・・(2)
【0024】
通常、ガラス面間の静摩擦係数は0.94程度であると言われているが、この値をそのまま上記式(2)に適用した場合、Fa1は非常に大きな値となって、連結ピン11が回転することはほとんどなくなってしまい、実態に整合しない。これは、摩擦係数が、対象となる物体の形状や表面状態等の要素の影響を強く受けるのに対し、このような要素を考慮していないからではないかと推測される。これに対して、後述する実施例等を含めた検討結果から、本発明者らは、上記式(2)においてμを0.01程度とした場合に、実態に極めて整合した結果が得られることを見出している。
以上のような観点から、通常は、モーメントMaは考慮せずに、上記式(1)で表されるモーメントMbを考慮して、連結ピン11を選択すれば十分である。そして、例えば、長軸部11aの外径da1が短軸部11bの外径db1よりも極めて大きい場合等、モーメントMaの影響を無視できない場合に、連結ピン11に作用するモーメントM(N・cm)を、Mb+Maとして、連結ピン11を選択すれば良い。
【0025】
図1では、略L字状の連結ピンとして、先端部を除いて、又は先端部も含めて、長軸部11a及び短軸部11bが略円柱状の棒状である場合について説明したが、本発明においてはこれに限定されない。例えば、長軸部11a及び短軸部11bのうち、挿通部とはならない方については、先端部に向けて外径が拡大する部位を有する形状であるものを、好ましいものとして例示できる。このような形状とすることにより、連結ピンに作用するモーメントを一層大きくでき、本発明の一層優れた効果が得られる。
【0026】
図4は、このような形状を有する連結ピンのうち、長軸部を挿通部とするものを例示する正面図である。
図4(a)の連結ピン111は、先端部以外が略円柱状であり、先端部に前記略円柱状部位よりも大きい外径の略球状部を備えた短軸部111bを有するものである。
図4(b)の連結ピン112は、先端部に向けて外径が拡大する略円錐台状の短軸部112bを有するものである。
図4(c)の連結ピン113は、先端部に向けて外径が拡大し、その拡大率が先端部に向けて漸次減少するような曲面を側面に有する短軸部113bを有するものである。
図4(d)の連結ピン114は、外径が異なる二種の略円柱状の部位が、外径が大きい方が先端部を構成するように接続された短軸部114bを有するものである。
【0027】
なお、ここに例示したものは、本発明に適した連結ピンのごく一部であり、連結ピンはこれらに限定されないことは言うまでもない。例えば、図4(a)においては、短軸部の先端部の形状を略球状ではなく、略円柱状、略円錐台状、略角柱状、略角錐台状等にしても良い。また、図4(b)においては、短軸部の形状を略円錐台状ではなく、略角錐台状等にしても良い。また、図4(c)において、外径の拡大率が先端部に向けて漸次増大するようにしても良い。また、図4(d)においては、短軸部の形状を略円柱状ではなく、略円錐台状、略角柱状、略角錐台状等にしても良い。そして、図4(a)〜(d)のものをはじめ、複数の形状を組み合わせて構成されたものでも良い。
【0028】
長軸部11a及び短軸部11bのうち、挿通部となる方も同様に、略円柱状以外の形状でも良く、好ましいものとしては、軸方向に対して垂直な断面における外径が一定であるものが例示でき、より具体的には、略角柱状であるものが例示できる。
【0029】
長軸部11a及び短軸部11bが、先端部を除いて、又は先端部も含めて、略円柱状以外の形状である場合には、その軸方向に対して垂直な断面における径の最大値を、前記da1又はdb1と同様にすることが好ましい。
【0030】
長軸部11a及び短軸部11bは、その軸方向に対して垂直な断面における形状が同じでも良いし、異なっていても良い。そして、径の大きさも同じでも良いし、異なっていても良い。
【0031】
また、ここでは、ψ1が90°である例を示しているが、90°以外の角度でも良い。ただし、La1及びLb1の大きさを固定した場合、連結ピン11に作用するモーメントが最大となるのは90°の場合である。
【0032】
図5は、本発明で使用する連結ピンの他の例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
ここに例示する連結ピン12は、略T字状である。すなわち、長軸部と短軸部との接続部が、短軸部の軸方向中央部に移動している点で、前記連結ピン11と異なる。連結ピン12は、手で持ち易く、取り扱い易い点で連結ピン11よりも優れる。
【0033】
連結ピン12は、長軸部12a及び短軸部12bからなり、短軸部12bは、長軸部12aとの接続部を境にして、第一の短軸部12b1と第二の短軸部12b2とからなる。そして、長軸部12aと第一の短軸部12b1とのなす角度ψ21、長軸部12aと第二の短軸部12b2とのなす角度ψ22は、いずれも90°である。また、第一の短軸部12b1と第二の短軸部12b2とのなす角度ψ20は180°である。さらに、長軸部12aの外径da2、第一の短軸部12b1の外径db21、第二の短軸部12b2の外径db22は、先端部を除いていずれも同じとなっている。ただし、本発明においては、これら外径の少なくとも一つは異なっていても良い。
【0034】
連結ピン12は、長軸部12aが貫通孔への挿通部となり、短軸部12bがモーメントを生ずる部位となる。
ここでは、長軸部12aの軸方向の長さLa2と、短軸部12bの軸方向の長さLb2(すなわち、第一の短軸部12b1の軸方向の長さLb21と、第二の短軸部12b2の軸方向の長さLb22との和)とが異なる例を示しているが、同じでも良い。
また、ここでは、第一の短軸部12b1と第二の短軸部12b2とのなす角度ψ20が180°である例を示しているが、180°より小さくても良いし、大きくても良く、任意に設定できる。ただし、本発明においては、連結ピンを容易に作製でき、十分な効果が得られることから、180°であることが好ましい。
また、ここでは、ψ21及びψ22がいずれも90°である例を示しているが、ψ21及びψ22は、互いに異なる角度でも良く、90°より小さくても良いし、大きくても良い。ただし、Lb21及びLb22の大きさを固定した場合、連結ピン11に作用するモーメントが最大となるのは、ψ21及びψ22がいずれも90°の場合である。そして、このような連結ピン12は、作製も容易である。
【0035】
連結ピン12は、上記の点以外は、連結ピン11と同様である。したがって、例えば、第一の短軸部12b1及び第二の短軸部12b2の少なくとも一方が、連結ピン11における短軸部11bと同様に、先端部に向けて外径が拡大する部位を有する形状(図4に示す形状)であっても良い。
【0036】
連結ピン12に作用するモーメントについては、連結ピン11の場合と同様に考えて、第一の短軸部12b1及び第二の短軸部12b2に作用する二つのモーメントを合算すれば良い。すなわち、図2において、連結ピン11に代わり連結ピン12を使用し、第一の短軸部12b1が第二の短軸部12b2よりも上方に位置するように、連結ピン12を第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aに挿通させた場合、第一の短軸部12b1の鉛直方向(ここでは、母材の軸方向に一致する)とのなす角度をθ、第一の短軸部12b1の軸方向中央部に作用する重力をFb1(N)、第二の短軸部12b2の軸方向中央部に作用する重力をFb2(N)とすると、第一の短軸部12b1に作用する第一のモーメントMb1(N・cm)は、下記式(3)で表される。また、Mb1の方向を正の方向とした場合、第二の短軸部12b2に作用する第二のモーメントMb2(N・cm)は、下記式(4)で表される。そして、連結ピン12に作用するモーメントM(N・cm)は、下記式(5)で表される、短軸部11bに作用するモーメントMb(N・cm)となる。また、必要に応じて、長軸部12aのモーメントも考慮すれば良い。
Mb1=Fb1×Lb21cosθ/2 ・・・・(3)
Mb2=−Fb2×Lb22cosθ/2 ・・・・(4)
Mb=Mb1+Mb2 ・・・・(5)
【0037】
連結ピンのモーメントによる回転は、連結ピンの表面状態等の影響を受けるが、本発明においては、後述する実施例でも説明するように、モーメントを1×10−2(N・cm)以上とすることで、表面状態によらず、円滑に連結ピンを回転させることができる。また、モーメントの上限は特に限定されないが、実用的な観点から、2.5(N・cm)以下であることが好ましい。このようにすることで、必要以上にモーメントを作用させることなく、十分に本発明の効果が得られる。
【0038】
次に、図6を参照しながら、本発明の着脱方法について説明する。図6の上段には、連結ピンの貫通孔への挿通方向から見た図(正面図、ただし、支持体のみ断面表示している)を、下段には、連結ピンの貫通孔への挿通方向に対して垂直な方向から見た図(側面図、ただし、支持体のみ断面表示している)をそれぞれ示す。なお、図6で示す連結ピン及び支持体は、いずれも図2で説明したものと同様である。本発明の着脱方法は、支持体に母材を取り付ける母材の取り付け工程と、母材を支持体から取り外す母材の取り外し工程に、それぞれ特徴がある。
【0039】
(母材の取り付け工程)
まず、図6(a)に示すように、把持され位置が固定された支持体3に対して、把持された母材2を上昇させ、上端部20を支持体3の下端部に設けられた凹部30へ嵌合させる。そして、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aが連通するように、これら貫通孔を位置合わせする。この時は、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aの中心軸が一致するように位置合わせすることが好ましい。なお、母材2及び支持体3を把持する手段は、いずれも公知のもので良く、例えば、母材2を把持する手段であれば、母材2を下部から支持するものや、母材2に鍔部がある場合には、この鍔部で支持するものが例示できる。
【0040】
次いで、図6(b)に示すように、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aに、連結ピン11を挿通する。ここでは、長軸部11aが挿通部となっている。この時、短軸部11bの鉛直方向(ここでは、母材2の軸方向に一致する)とのなす角度θが0°及び180°以外の角度となるように、連結ピン11を配置する。このようにすることで、長軸部11aに重力以外の下向きの力が印加されていない状態で、重力に基づくモーメントの作用により、連結ピン11は挿通軸(長軸部11aの中心軸)の周りに回転可能となる。前記θは、70〜110°であることが好ましく、90°であることが特に好ましい。このようにすることで、短軸部11bに作用するモーメントを大きくできると共に、連結ピンの回転の有無を容易に認識でき、本発明の一層優れた効果が得られる。図6(b)でθは90°である。
【0041】
次いで、連結ピン11の前記配置を維持したまま、図6(c)に示すように、母材2を僅かに下降させて、母材2を連結ピン11に懸架させることで、母材2を支持する。この時、長軸部11aは、母材2によって重力以外の下向きの力が印加され、第一の貫通孔20aの内表面と第二の貫通孔30aの内表面とで挟持されるので、長軸部11aは挿通時の前記配置が維持される。
以上により、母材の取り付け工程が完了する。
【0042】
(母材の取り外し工程)
次いで、母材2に対して所望の処理を行った後、図6(d)に示すように、処理後の母材2を僅かに上昇させることで、連結ピン11への母材2の懸架を解消する。このようにすることで、長軸部11aには、母材2からの下向きの力が印加されなくなるので、重力に基づくモーメントの作用により、連結ピン11は挿通軸(長軸部11aの中心軸)の周りに回転し、通常は前記角度θがほぼ0°となる。そして、長軸部11aは、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aの内表面と軽度に接触するか、又は非接触となるので、連結ピン11は抜出が容易な状態となる。
【0043】
連結ピン11の回転を確認した後は、直ちに母材2の上昇を停止させ、長軸部11aの上部が、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aの上部内表面と接触することで、大きな力を印加されないようにする。
【0044】
次いで、図6(e)に示すように、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aから連結ピン11を抜出して、母材2を支持体3から取り外す。この時、連結ピン11は容易に抜出できるので、連結ピン11、母材2及び支持体3の破損が抑制される。例えば、連結ピン11が折れることもないので、母材2が落下することもない。
以上により、母材の取り外し工程が完了する。
【0045】
なお、ここでは、支持体3の位置を固定し、母材2を上昇及び下降させて、貫通孔の位置合わせや、母材2の連結ピン11への懸架及びその解消等を行う例を示しているが、本発明においてはこれに限定されず、支持体3に対する母材2の相対的な上下方向の位置が調節可能となっていれば良い。すなわち、母材2を固定し、支持体3を上昇及び下降させても良いし、母材2及び支持体3の双方を上昇及び下降させても良い。そのためには、把持された母材2及び支持体3の少なくとも一方が上下動可能とされていれば良い。
【0046】
ここまでは、支持体として、下端部に凹部が設けられ、該凹部に母材の上端部を嵌合させて、母材を連結するものについて説明したが、本発明においてはこれに限定されず、母材の支持に使用し得るものであればいかなるものでも良い。例えば、支持体本体に着脱可能な接続部材を備え、該接続部材と母材とを連結することで、母材を支持するものが例示できる。ここで、接続部材は、謂わばジョイントとして機能するものである。
【0047】
図7は、本発明で使用する接続部材を備えた支持体を例示する概略図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線における横断面図である。ただし、(a)においては、接続部材41のみ断面表示している。
ここに示す支持体4は、本体40と接続部材41とからなる。接続部材41の下端部には、母材2の上端部20を嵌合させるための第一の凹部410が設けられ、上端部には、本体40の突出された下端部400を嵌合させるための第二の凹部420が設けられている。そして、第一の凹部410には、第二の貫通孔410aが設けられ、第二の凹部420には、第三の貫通孔420aが設けられている。さらに、本体40の下端部400には、第四の貫通孔400aが設けられている。
第二の貫通孔410aは、先に説明した支持体3における第二の貫通孔30aと同様のものであり、前記連結ピンで母材2を連結するためのものである。また、第三の貫通孔420aも、第二の貫通孔30aと同様のものであり、前記連結ピンで本体40を連結するためのものである。そして、第四の貫通孔400aも、第二の貫通孔30aと同様のものであり、前記連結ピンで接続部材41を連結するためのものである。
第一の凹部410と第二の凹部420は、ここに示すように独立して設けられていても良いし、互いに底部が貫通され、連通して一体に形成されていても良い。
【0048】
支持体4を使用する場合も、前記支持体3を使用する場合と同様に、本発明の着脱方法を適用できる。図8は、支持体4を使用して、図1の連結ピンを母材及び支持体の貫通孔に挿通させた状態を例示する概略図である。ただし、接続部材41のみ断面表示している。
すなわち、母材2の上端部20を接続部材41の第一の凹部410に嵌合させ、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔410aが連通するように、これら貫通孔を位置合わせする。そして、これら貫通孔に連結ピン11を挿通し、母材2を連結ピン11に懸架させることで、母材2を支持する。
【0049】
支持体4における本体40と接続部材41との連結も、同様に行うことができる。すなわち、本体40の下端部400を接続部材41の第二の凹部420に嵌合させ、第三の貫通孔420a及び第四の貫通孔400aが連通するように、これら貫通孔を位置合わせする。そして、これら貫通孔に連結ピン11を挿通し、接続部材41を連結ピン11に懸架させることで、接続部材41を支持する。
母材2及び接続部材41の連結、並びに本体40及び接続部材41の連結は、どちらを先におこなっても良いが、通常は、本体40及び接続部材41の連結を先に行う方が、母材2及び接続部材41の連結を一層容易に行うことができる点で好ましい。
【0050】
母材2に対して所望の処理を行った後は、例えば、母材2を僅かに上昇させることで、連結ピン11への母材2の懸架を解消し、連結ピン11が挿通軸の周りに回転したことを確認してから、母材2の上昇を停止させ、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔410aから連結ピン11を抜出して、母材2を接続部材41から取り外す。
【0051】
支持体4における本体40からの接続部材41の取り外しも、同様に行うことができる。例えば、接続部材41を僅かに上昇させることで、連結ピン11への接続部材41の懸架を解消し、連結ピン11が挿通軸の周りに回転したことを確認してから、接続部材41の上昇を停止させ、第三の貫通孔420a及び第四の貫通孔400aから連結ピン11を抜出して、接続部材41を本体40から取り外す。
【0052】
母材2の接続部材41からの取り外し、及び接続部材41の本体40からの取り外しは、どちらを先におこなっても良いが、通常は、母材2の接続部材41からの取り外しを先に行う方が、一層容易に行うことができる点で好ましい。
【0053】
なお、本発明において支持体4を使用する場合には、母材2の破損を抑制でき、また、本体40に対する接続部材41の着脱は、必ずしも毎回行うものではないことから、本体40と接続部材41との連結には、必ずしも連結ピン11等の、モーメントの作用を受けるものを使用しなくても良い。ただし、支持体4の破損も抑制できる点で、連結ピン11等を使用することが好ましい。
【0054】
本発明において、連結ピンの回転の容易さは、主に連結ピンの挿通部と貫通孔との間の摩擦力、及びモーメントの大きさに依存する。円滑に回転させるためには、例えば、連結ピンの表面を滑らかにすれば良く、表面粗さ(Ra)が6μm以下であることが好ましく、4.5μm以下であることがより好ましい。さらに、1.0×10−2未満等の小さいモーメントでも連結ピンを円滑に回転させるためには、表面粗さが0.3μm以下であることが好ましい。表面粗さを低減するためには、火炎研磨等の公知の手法を適用すれば良い。
一方、連結ピンに作用するモーメントは、1.0×10−3(N・cm)以上であることが好ましく、2.5×10−3(N・cm)以上であることがより好ましい。そして、連結ピンの表面粗さによらず、本発明の効果を得るためには、8.0×10−3(N・cm)以上であることが好ましく、1.0×10−2(N・cm)以上であることがより好ましい。
【0055】
本発明の着脱方法によれば、連結ピンの回転を確認するだけで、連結ピンの抜出のタイミングを正確に判断できるので、母材等の各種材料、並びに連結ピン及び支持体等の使用部材を破損することがない。そして、母材又は支持体の本来不必要な上昇及び下降操作も省略できるので、着脱を簡便且つ効率的に行うことができる。さらに、操作が簡便であることに加え、大きい連結ピンも容易に適用できるので、大型の母材も容易に取り扱うことができる。
【0056】
<光ファイバの製造方法>
本発明の光ファイバの製造方法は、上記本発明の着脱方法で母材を支持体に対して着脱する着脱工程を有することを特徴とする。
前記着脱工程を有する工程としては、ターゲットへガラス微粒子を堆積させて石英多孔質母材を製造する工程、石英多孔質母材を焼結あるいは脱水及び焼結させて光ファイバ母材を製造する工程、光ファイバ母材の先端を加工する工程、及び光ファイバ母材を紡糸して光ファイバを製造する工程等が例示できる。これらの一つ以上の工程で、前記着脱工程を行うことができる。
【0057】
本発明の光ファイバの製造方法は、前記着脱工程を有すること以外は、公知の製造方法と同様である。そして、母材の着脱を簡便且つ効率的に行うことができるので、光ファイバを効率良く製造できる。さらに、良質な母材を使用することで、光特性に優れる光ファイバを製造できる。
【実施例】
【0058】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
VAD法で作製した直径40mm、長さ1400mmの母材本体の両端にダミー部材を接続し、外付け法により直径230mm、質量約45kgの石英多孔質母材を作製した。ダミー部材のうち、支持体に連結されるものが、母材の前記上端部に該当する。
次いで、この石英多孔質母材のうち上部の前記ダミー部材と、棒状の支持体とをそれぞれ接続部材を介して、図8に示すように連結ピンで連結し、石英多孔質母材を僅かに下降させて連結ピンに懸架させ、石英多孔質母材を支持体に取り付けた。この時使用した連結ピンは、図1に示すものであり、長軸部11aの長さLa1が12.0cm、短軸部11bの長さLb1が3.0cmであり、長軸部の外径da1と短軸部の外径db1が共に1.7cmであり、長軸部と短軸部とのなす角度ψ1は90°である。また、連結ピンの表面は火炎研磨されており、表面粗さ(Ra)が0.18μmであった。そして、連結ピンの短軸部の鉛直方向とのなす角度θを90°とした。この条件下での連結ピンに作用するモーメントMは、前記式(1)によれば、2.2×10−1(N・cm)である。
上記のように取り付けた石英多孔質母材を焼結炉中で脱水及び焼結させることで、透明な光ファイバ母材を作製した。
【0060】
次いで、光ファイバ母材の下部を把持装置で把持し、この状態で光ファイバ母材を上方に約3mm上昇させたところ、連結ピンがその長軸部の中心軸の周りに回転して、短軸部が下方に向いた状態(θが0°の状態)となり、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架が解消されたことを確認できた。そこで、光ファイバ母材を停止させ、連結ピンを抜出し、光ファイバ母材を接続部材から取り外した。
以上の操作を合計20回行い、それぞれにおいて、取り外した後のダミー部材の貫通孔(第一の貫通孔)、接続部材の貫通孔(第二の貫通孔)、連結ピンの様子を目視で観察した。結果を表1に示す。
表1に示すように、20回全ての操作において、ダミー部材と接続部材の双方の貫通孔、連結ピンに欠損や破損が見られず、良好な状態が維持されていた。また、作業も簡便で迅速に行うことができ、作業効率が高かった。
【0061】
[実施例2〜9]
角度θを表1〜2に示すようにしたこと以外は、実施例1と同様に、透明な光ファイバ母材を作製し、接続部材から取り外した後のダミー部材の貫通孔と、接続部材の貫通孔の様子を目視で観察した。結果を表1〜2に示す。
表1〜2に示すように、いずれの連結ピンの場合にも、20回全ての操作において、ダミー部材と接続部材の双方の貫通孔、連結ピンに欠損や破損が見られず、良好な状態が維持されていた。また、作業も簡便で迅速に行うことができ、作業効率が高かった。
【0062】
[比較例1〜5]
角度θを表3に示すようにしたこと以外は、実施例1と同様に、透明な光ファイバ母材を作製し、接続部材から取り外した後のダミー部材の貫通孔と、接続部材の貫通孔の様子を目視で観察した。結果を表3に示す。
【0063】
比較例1では、20回のうち、17回の操作では特に異常が認められなかったが、3回の操作では連結ピンが円滑に回転しなかったため、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架の解消を確認できなかった。そのため、連結ピンを一回で抜出できず、抜出を何度も試みながら光ファイバ母材の上昇及び下降を繰り返した後に連結ピンを抜出し、ようやく光ファイバ母材を接続部材から取り外した。このように、作業も煩雑で長時間を要し、作業効率が低かった。そして、ダミー部材、接続部材及び連結ピンを観察したところ、この3回のいずれの操作においても、連結ピンの表面には擦り傷が生じ、ダミー部材の貫通孔には欠損が生じていた。
これに対して、表面粗さ(Ra)が同程度である、後述する実施例10(Ra:0.4μm)では、連結ピンを一回で抜出でき、ダミー部材、接続部材及び連結ピンはいずれも良好な状態が維持されていた。そして、比較例1と実施例10とでは、モーメントMが異なっており、比較例1で上記問題点が発生した理由は、モーメントMの値が小さいことにあると考えられた。
【0064】
比較例2では、20回のうち、19回の操作では特に異常が認められなかったが、1回の操作では連結ピンが円滑に回転しなかったため、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架の解消を確認できなかった。そのため、比較例1の場合と同様に、連結ピンを一回で抜出できず、抜出を何度も試みながら光ファイバ母材の上昇及び下降を繰り返した後に連結ピンを抜出し、ようやく光ファイバ母材を接続部材から取り外した。このように、作業も煩雑で長時間を要し、作業効率が低かった。そして、ダミー部材、接続部材及び連結ピンを観察したところ、連結ピンの表面に擦り傷が生じていた。
これに対して、表面粗さ(Ra)が同程度である実施例3(Ra:0.9μm)では、上記のように連結ピンを一回で抜出でき、ダミー部材、接続部材及び連結ピンはいずれも良好な状態が維持されていた。そして、比較例2と実施例3とでは、モーメントMが異なっており、比較例2で上記問題点が発生した理由は、モーメントMの値が小さいことにあると考えられた。
【0065】
比較例3では、20回のうち、18回の操作では特に異常が認められなかったが、1回の操作では連結ピンが円滑に回転しなかったため、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架の解消を確認できなかった。そのため、比較例1の場合と同様に、連結ピンを一回で抜出できず、抜出を何度も試みながら光ファイバ母材の上昇及び下降を繰り返した後に連結ピンを抜出し、ようやく光ファイバ母材を接続部材から取り外した。このように、作業も煩雑で長時間を要し、作業効率が低かった。そして、ダミー部材、接続部材及び連結ピンを観察したところ、連結ピンの表面には擦り傷が生じており、ダミー部材の貫通孔内部には、当初見られなかったガラス粉が混入していて、連結ピンが貫通孔に引っ掛かり易い状態であった。一方、残りの1回の操作では、作製した光ファイバ母材の取り外し中に連結ピンが折れ、光ファイバ母材が焼結炉内に落下してしまった。
これに対して、表面粗さ(Ra)が同程度である実施例5(Ra:0.3μm)では、上記のように連結ピンを一回で抜出でき、ダミー部材、接続部材及び連結ピンはいずれも良好な状態が維持されていた。そして、比較例3と実施例5とでは、モーメントMの値が異なっており、比較例3で上記問題点が発生した理由は、モーメントMの値が小さいことにあると考えられた。
【0066】
比較例4では、20回のうち、19回の操作では特に異常が認められなかったが、1回の操作では連結ピンが円滑に回転しなかったため、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架の解消を確認できなかった。そのため、比較例1の場合と同様に、連結ピンを一回で抜出できず、抜出を何度も試みながら光ファイバ母材の上昇及び下降を繰り返した後に連結ピンを抜出し、ようやく光ファイバ母材を接続部材から取り外した。このように、作業も煩雑で長時間を要し、作業効率が低かった。そして、ダミー部材、接続部材及び連結ピンを観察したところ、連結ピンの表面には擦り傷が生じており、ダミー部材の貫通孔内部には、当初見られなかったガラス粉が混入していて、連結ピンが貫通孔に引っ掛かり易い状態であった。
これに対して、表面粗さ(Ra)が同じであるである実施例6(Ra:1.5μm)と、4.2倍である実施例4(Ra:4.2μm)では、いずれも上記のように連結ピンを一回で抜出でき、ダミー部材、接続部材及び連結ピンはいずれも良好な状態が維持されていた。そして、比較例4と実施例4及び6とでは、モーメントMが異なっており、比較例4で上記問題点が発生した理由は、モーメントMの値が小さいことにあると考えられた。
【0067】
比較例5では、連結ピンが回転せず、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架の解消を確認できなかったため、連結ピンの抜出を試行錯誤しながら何度も試みた。その結果、20回のうち、18回の操作では特に異常が認められなかったが、2回の操作では、抜出を何度も試みながら光ファイバ母材の上昇及び下降を繰り返した後に連結ピンを抜出し、ようやく光ファイバ母材を接続部材から取り外した。その結果、ダミー部材、接続部材及び連結ピンを観察したところ、連結ピンの表面とダミー部材の貫通孔内部には擦り傷が生じていた。このように、表面粗さ(Ra)の値が十分に小さいにも関わらず、上記問題点が発生してしまった。また、作業も煩雑で長時間を要し、作業効率が著しく低かった。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
[実施例10]
連結ピンとして、図5に示すものであり、La2が12cm、Lb21が3.0cm、Lb22が4.0cmであり、長軸部12aの外径da2、第一の短軸部12b1の外径db21、第二の短軸部12b2の外径db22は、いずれも1.7cmであり、長軸部と第一の短軸部とのなす角度ψ21、長軸部と第二の短軸部とのなす角度ψ22がいずれも90°であり、第一の短軸部と第二の短軸部とのなす角度ψ20が180°であるもの使用し、その取り付け時の角度θを表4に示すようにしたこと以外は、実施例1と同様に、透明な光ファイバ母材を作製した。この条件下での連結ピンに作用するモーメントMは、前記式(5)によれば、1.9×10−2(N・cm)である。そして、取り外した後のダミー部材の貫通孔(第一の貫通孔)、接続部材の貫通孔(第二の貫通孔)、連結ピンの貫通孔の様子を目視で観察した。結果を表4に示す。
光ファイバ母材作製時には、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架が解消されたことを確認でき、連結ピンを一回で抜出できた。その結果、表4に示すように、20回全ての操作において、ダミー部材と接続部材の双方の貫通孔、連結ピンに欠損や破損が見られず、良好な状態が維持されていた。また、作業も簡便で迅速に行うことができ、作業効率が高かった。
【0072】
【表4】
【0073】
実施例1〜10、比較例1〜4における、連結ピンの表面粗さと連結ピンに作用するモーメントとの関係をプロットしたグラフを図9に示す。図9中のプロットエリアに付した番号は、それぞれ実施例及び比較例の番号を示す。
図9からも明らかなように、表面を火炎研磨した連結ピン(実施例1、7〜9)では、表面粗さ(Ra)が0.2μm未満であり、表面を擦り仕上げした連結ピン(実施例2、3、5、6、10)では、表面粗さが2.2μm未満であって、全ての実施例で良好な結果が得られた。また、連結ピンとして不透明石英を使用したもの(実施例4)では、表面粗さが4.2μmと大きかったが、モーメントが大きいことにより、良好な結果が得られた。
さらに図9から、連結ピンの表面粗さによらず、本発明の効果を得るためには、連結ピンに作用するモーメントを1.0×10−2以上とするのが好ましいことが判明した。また、モーメントが1.0×10−2未満の場合には、本発明の効果を得るためには、表面粗さを0.3以下とするのが好ましいことが判明した。
【0074】
[参考例1]
連結ピンの挿通部と貫通孔との間の摩擦力に基づくモーメントの影響を調べるため、以下の実験を行った。
図10に示すように、ダミー部材20’と棒状の支持体4とをそれぞれ接続部材41を介して、連結ピン11で連結し、ダミー部材20’を懸架させた。この時使用した連結ピン11は、長軸部の外径da1が3.5mmであり、短軸部の外径db1(1.7mm)よりも大きいこと以外は、実施例1と同様のものである。そして、ダミー部材20’にさらに荷重台9を懸架させ、この荷重台9に40kgの錘91を載置した。連結ピン11の短軸部の鉛直方向とのなす角度θは90°とした。この条件下で、連結ピン11に作用するモーメントの合計(M=Mb+Ma(N・cm))は、1.8×10−1(N・cm)である。
次いで、荷重台9と共にダミー部材20’をリフター(図示略)で3mm上昇させたところ、ダミー部材20’を懸架していた連結ピン11がその長軸部の中心軸の周りに回転して、短軸部が下方に向いた状態(θが0°の状態)となり、連結ピン11へのダミー部材20’及び荷重台9の懸架が解消されたことを確認できた。そこで、リフターを停止させ、連結ピン11を抜出し、ダミー部材を接続部材から取り外した。
以上の操作を合計20回行い、それぞれにおいて、取り外した後のダミー部材11の貫通孔(第一の貫通孔)、接続部材の貫通孔(第二の貫通孔)、連結ピンの様子を目視で観察した。結果を表5に示す。
【0075】
表5に示すように、20回全ての操作において、ダミー部材と接続部材の双方の貫通孔、連結ピンに欠損や破損が見られず、良好な状態が維持されていた。また、作業も簡便で迅速に行うことができ、作業効率が高かった。
ここで得られた結果は、挿通部の影響は通常無視し得るという先の知見と、連結ピンに作用するモーメントを1.0×10−2以上とすれば、連結ピンの表面粗さによらず、本発明の効果を得られるという先の知見を支持するものであった。
【0076】
[参考例2]
連結ピンとして、長軸部の外径da1が4.1mmであり、短軸部の外径db1(1.3mm)よりも大きいこと以外は、実施例6と同様のものを使用し、かかる連結ピンを使用したこと以外は、参考例1と同様にダミー部材と荷重台を懸架させた後、荷重台と共にダミー部材をリフターで上昇させた。なお、連結ピン11に作用するモーメントの合計(M=Mb+Ma(N・cm))は、2.0×10−2(N・cm)である。
上記操作を合計20回行い、それぞれにおいて、取り外した後のダミー部材の貫通孔(第一の貫通孔)、接続部材の貫通孔(第二の貫通孔)、連結ピンの様子を目視で観察した。結果を表5に示す。
表5に示すように、20回全ての操作において、ダミー部材と接続部材の双方の貫通孔、連結ピンに欠損や破損が見られず、良好な状態が維持されていた。また、作業も簡便で迅速に行うことができ、作業効率が高かった。
ここで得られた結果は、参考例1の場合と同様に、挿通部の影響は通常無視し得るという先の知見と、連結ピンに作用するモーメントを1.0×10−2以上とすれば、連結ピンの表面粗さによらず、本発明の効果を得られるという先の知見を支持するものであった。
【0077】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、光ファイバの製造工程全般で利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
2・・・母材、20・・・母材の上端部、3,4・・・支持体、40・・・本体、41・・・接続部材、11・・・連結ピン、11a・・・長軸部、11b・・・短軸部、20a・・・第一の貫通孔、400a・・・第四の貫通孔、30a,410a・・・第二の貫通孔、420a・・・第三の貫通孔、M・・・モーメント
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの製造時に使用する母材の支持体に対する着脱方法、及び該着脱方法を適用した光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを製造するまでには、複数の工程を順次行うことが必要である。具体的には、(a)VAD法や外付け法等を適用して、ガラスとなる微粒子をターゲットに堆積させて石英多孔質母材を製造する工程、(b)石英多孔質母材を焼結炉中で脱水及び焼結させて、透明な光ファイバ母材を製造する工程、(c)光ファイバ母材の先端部を加工する工程、(d)光ファイバ母材の屈折率分布をプリフォームアナライザで測定する工程、(e)光ファイバ母材を紡糸して光ファイバを製造する工程、等である。これらの工程では、ターゲット、石英多孔質母材、光ファイバ母材等の各母材を、固定された棒状の支持体に懸架させて支持することが必要となる。
【0003】
母材を支持体で支持する時の、支持体に対する母材の着脱方法としては、母材の上端部と支持体にそれぞれ貫通孔を設け、これら貫通孔に連結ピンを挿通して、母材と支持体とを連結する手法が開示されている(特許文献1及び2参照)。ここで、図11を参照しながら、前記連結方法について、具体的に説明する。
【0004】
まず、図11(a)に示すように、把持装置(図示略)を使用して母材2を上昇させ、上端部20を支持体3の下端部に設けられた凹部30へ嵌合させる。母材2の上端部20には第一の貫通孔20aが設けられ、支持体3の凹部30には第二の貫通孔30aが設けられており、嵌合時には、これら貫通孔が連通するように母材2と支持体3を位置合わせする。なお、図11においては、支持体3のみ断面表示している。
次いで、図11(b)に示すように、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aに、棒状の連結ピン9を挿通し、さらに図11(c)に示すように、把持装置を使用して母材2を僅かに下降させて、母材2を連結ピン9に懸架させることで、母材2を支持する。連結ピン9は、通常、石英ガラスからなる。
次いで、母材2に対して所望の処理を行った後、図11(d)に示すように、把持装置を使用して処理後の母材2を僅かに上昇させることで、連結ピン9に母材2からの下向きの力が印加されないようにして、連結ピン9への母材2の懸架を解消する。
次いで、図11(e)に示すように、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aから連結ピン9を抜出し、母材2を支持体3から取り外す。
この従来の着脱方法は、簡便であるだけでなく、使用する母材と連結ピンの加工も容易である等の利点を有しており、光ファイバの各種製造工程で広く普及している。
【0005】
通常、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aの内径は、いずれも連結ピン9の外径よりも僅かに大きいだけのサイズに設定される。これは、内径が大き過ぎると、母材2を支持した際に母材2が位置ずれを起こし易く、また、母材2及び支持体3の強度が低下して破損し易いためである。したがって、図11(d)に示すように、母材2を上昇させる場合には、連結ピン9を抜出可能とするための、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aの位置合わせを精密に行う必要がある。なぜなら、母材2を過度に上昇させてしまうと、連結ピン9を破損させて使用できなくしてしまったり、最悪の場合には折ってしまい、母材を落下させてしまうからである。連結ピン9の強度を向上させるために、窒化ケイ素、アルミナ等のセラミックス、あるいは白金等の金属からなる連結ピンも提案されている。しかし、セラミックスからなる連結ピンを使用した場合には、母材中に不純物が混入する可能性があり、さらに、石英多孔質母材の脱水及び焼結工程では、高温の塩素ガス雰囲気下に曝され、劣化してしまう。そして、金属からなる連結ピンは、白金等の劣化し難い材質のものは高コストであり、実用性に乏しい。したがって、連結ピンとしては、石英ガラスからなるものを使用せざるを得ないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−322357号公報
【特許文献2】特開2004−115289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、従来は、図11(d)〜(e)に示すような母材2の上昇から取り外しまでの工程で、作業者が経験に基づいて慎重に作業することを強いられていた。例えば、連結ピン9が抜出し難い場合、これは、母材2が依然連結ピン9に懸架された状態のままであるからなのか、あるいは連結ピン9への母材2の懸架は解消されているが、第一の貫通孔20a又は第二の貫通孔30aと連結ピン9との隙間にガラス微粒子等の異物が挟まっているためなのか、等の判断が困難になることがある。この場合には、母材2の上昇及び下降を繰り返したり、より強い力で連結ピン9の抜出を試みたりする必要がある。これらの操作を自動で行う場合も同様であり、しかも設備が大型化してしまう。しかし、これらの操作も、結局は連結ピンの破損を抑制できるものではなく、その結果、連結ピンや母材の破損を完全には抑制できないという問題点があった。さらに、作業効率が低いという問題点があった。そして、このような危険性がある以上、大型の母材を取り扱うことが困難であるという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、支持体に対する母材の着脱において、各種材料や使用部材を破損することなく、簡便に行うことができ、大型の母材へも適用できる母材の着脱方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、
本発明は、光ファイバの製造に使用される母材を懸架して支持するための支持体に対する、母材の着脱方法であって、前記母材の上端部と前記支持体には、これらを連結する連結ピンを挿通するための貫通孔が設けられており、前記母材及び支持体の貫通孔に前記連結ピンを挿通し、該連結ピンに前記母材を懸架させることで、前記支持体に前記母材を取り付ける母材の取り付け工程において、前記母材の懸架解消に伴い、重力に基づくモーメントの作用で、挿通軸の周りに回転可能に前記連結ピンを配置し、前記母材を前記支持体から取り外す母材の取り外し工程において、前記連結ピンの回転後に、前記連結ピンを前記貫通孔から抜出することを特徴とする母材の着脱方法を提供する。
本発明の母材の着脱方法においては、把持された前記母材及び支持体の少なくとも一方が上下動可能とされ、支持体に対する母材の相対的な上下方向の位置が調節可能とされており、前記取り付け工程において、前記母材を相対的に上昇させて、前記母材及び支持体の貫通孔を位置合わせした後、これら貫通孔に前記連結ピンを挿通し、次いで、前記母材を相対的に下降させて、該母材を前記連結ピンに懸架させ、前記取り外し工程において、前記母材を相対的に上昇させて、前記連結ピンへの前記母材の懸架を解消することが好ましい。
本発明の母材の着脱方法においては、前記連結ピンが、前記母材及び支持体の貫通孔へ挿通するための挿通部と、該挿通部と所定の角度をなす非挿通部とを備え、前記取り付け工程において、前記非挿通部の中心軸と鉛直方向とのなす角度が、0°及び180°以外となるように、前記連結ピンを配置することが好ましい。
本発明の母材の着脱方法においては、前記モーメントを1×10−2(N・cm)以上とすることを特徴とすることが好ましい。
本発明の母材の着脱方法においては、前記連結ピンの材質が石英ガラスであることが好ましい。
本発明の母材の着脱方法においては、前記連結ピンが無色透明又は一部が白色であることが好ましい。
本発明の母材の着脱方法においては、前記支持体が着脱可能な接続部材を備え、該接続部材と前記母材とを連結することが好ましい。
また、本発明は、上記本発明の着脱方法で母材を支持体に対して着脱する着脱工程を有することを特徴とする光ファイバの製造方法を提供する。
本発明の光ファイバの製造方法においては、ターゲットへガラス微粒子を堆積させて石英多孔質母材を製造する工程、石英多孔質母材を焼結あるいは脱水及び焼結させて光ファイバ母材を製造する工程、光ファイバ母材の先端を加工する工程、及び光ファイバ母材を紡糸して光ファイバを製造する工程からなる群から選択される一つ以上の工程が、前記着脱工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、支持体に対する母材の着脱を、各種材料や使用部材を破損することなく、簡便に行うことができ、大型の母材へも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明で使用する連結ピンを例示する正面図である。
【図2】図1の連結ピンを母材及び支持体の貫通孔に挿通させた状態を例示する概略図である。
【図3】図1の連結ピンを母材及び支持体の貫通孔に挿通させた状態の他の例を示す概略図である。
【図4】本発明で使用する連結ピンの他の例を示す図である。
【図5】本発明で使用する連結ピンの他の例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図6】本発明の着脱方法を説明するための概略図である。
【図7】本発明で使用する接続部材を備えた支持体を例示する概略図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線における横断面図である。
【図8】他の支持体を使用して、図1の連結ピンを母材及び支持体の貫通孔に挿通させた状態を例示する概略図である。
【図9】実施例1〜10、比較例1〜4における、連結ピンの表面粗さと連結ピンに作用するモーメントとの関係をプロットしたグラフである。
【図10】参考例1及び2における着脱方法を説明するための概略図である。
【図11】連結ピンを使用して母材と支持体とを連結させる従来の支持方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<母材の着脱方法>
本発明の母材の着脱方法は、光ファイバの製造に使用される母材を懸架して支持するための支持体に対する、母材の着脱方法であって、前記母材の上端部と前記支持体には、これらを連結する連結ピンを挿通するための貫通孔が設けられており、前記母材及び支持体の貫通孔に前記連結ピンを挿通し、該連結ピンに前記母材を懸架させることで、前記支持体に前記母材を取り付ける母材の取り付け工程において、前記母材の懸架解消に伴い、重力に基づくモーメントの作用で、挿通軸の周りに回転可能に前記連結ピンを配置し、前記母材を前記支持体から取り外す母材の取り外し工程において、前記連結ピンの回転後に、前記連結ピンを前記貫通孔から抜出することを特徴とする。
本発明の着脱方法では、連結ピンに重力以外の下向きの力が印加されていない時に、重力に基づくモーメントの作用で連結ピンが挿通軸の周りに回転するように、連結ピンの形状及び挿通時の配置を調節することにより、その優れた効果を発揮する。
【0013】
本発明において、母材とは、光ファイバの製造に使用される材料全般を指し、具体的には、紡糸して光ファイバとするための光ファイバ母材、焼結あるいは脱水及び焼結させて光ファイバ母材とするための石英多孔質母材、ガラスとなる微粒子を堆積させて石英多孔質母材とするためのターゲット等が例示できる。
母材は、通常、支持体で支持するための部位で、光ファイバの製造には供されない部位であるダミー部を端部に有する。ダミー部は、例えば、母材本体に加熱融着等の手段でダミー部材を別途接続することで設けられ、また、ダミー部材を接続することなく、母材の端部をそのままダミー部とすることもある。本発明において、母材とは、このようなダミー部を端部に備えたものを指す。そして、ダミー部には、後述するように、支持体への連結に使用する貫通孔が設けられる。
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明で使用する連結ピンを例示する正面図である。
ここに例示する連結ピン11は、略L字状であり、長軸部11aと短軸部11bとのなす角度ψ1は90°である。連結ピン11は、長軸部11a及び短軸部11bのいずれもが貫通孔への挿通部となり得る点で汎用性が高く、しかも作製が容易なものである。
【0015】
連結ピン11の材質は特に限定されず、公知の連結ピンの場合と同様で良いが、ガラス類であることが好ましく、石英ガラスがより好ましい。
連結ピン11は、無色透明であるか、又は一部が白色であることが好ましい。一部を白色とすれば、視認性が良くなることで、取り扱い性が向上する。
また、連結ピン11として、石英ガラス中に微量の気泡を含む不透明ガラスからなるもの、表面の一部又は全面を擦り仕上げしたガラスからなるもの、表面の一部又は全面をガラス微粒子でコーティングしたもの等を使用することで、耐熱性が向上し、さらに、上記のように一部が白色となるので、取り扱い性も向上する。
また、連結ピン11として、表面の一部又は全面を火炎研磨することで、表面粗さ(Ra)を低減でき、後述する本発明の着脱方法において、連結ピンを一層容易に回転させることができる。
さらに、連結ピン11の作製時に、火炎研磨、延伸加工、擦り仕上げ等の行った後、アニーリング(加熱処理)することにより、クラックの発生を抑制できる。
【0016】
長軸部11a及び短軸部11bのいずれか一方は、母材及び支持体の貫通孔への挿通部となり、残りの一方が連結ピン11をその挿通軸の周りに回転させるモーメントを生ずる部位となる。長軸部11a及び短軸部11bのいずれを貫通孔への挿通部とするかは、任意に選択できる。なお、ここでは、長軸部11aの軸方向の長さLa1と、短軸部11bの軸方向の長さLb1とが異なる例を示しているが、同じでも良い。
【0017】
長軸部11a及び短軸部11bのそれぞれの軸方向に対して垂直な断面は、いずれも略円形状であり、且つその直径(長軸部11aの外径da1及び短軸部11bの外径db1)は、先端部を除いて同じとなっている。長軸部11a及び短軸部11bの先端部は、いずれも漸次外径が縮小するテーパ状又は曲面状となっている。なお、長軸部11a及び短軸部11bの少なくとも一方の先端部は、このように外径が変化せず、等しく同じ外径となっていても良いが、貫通孔への挿通部となる方の先端部を、上記のように外径を変化させることで、貫通孔への挿通及び貫通孔からの抜出が容易となる。
【0018】
長軸部11a及び短軸部11bのうち、貫通孔への挿通部となる方の長さ(La1又はLb1)は、挿通部とならない方の外径分を除いて、挿通長さに対して同等以上であれば良い。ここで「挿通長さ」とは、通常、使用する母材と支持体の貫通孔の長さのうちの、長い方のことである。通常、例えば、40〜50kg程度の母材に対しては、この時使用する支持体3の大きさを考慮すると、挿通部となる方の長さは10〜15cmであることが好ましい。
【0019】
一方、長軸部11a及び短軸部11bのうち、貫通孔への挿通部とならない方(非挿通部)の長さは、連結ピン11を回転させるのに十分なモーメントを生ずる長さであれば良い。したがって、非挿通部の長さは、その形状等も考慮して適宜設定すれば良い。例えば、断面形状がほぼ一定の棒状である非挿通部の場合、その長さは、40〜50kg程度の母材に対しては、1cm以上であることが好ましい。長さの上限は特に限定されないが、取り扱い性を考慮すると、12cm程度であることが好ましい。
【0020】
長軸部11aの外径da1及び短軸部11bの外径db1の大きさは、母材2や支持体3の大きさ等に応じて、適宜調節去れば良い。例えば、40〜50kg程度の母材に対しては、1〜5cmであることが好ましい。
【0021】
ここで、連結ピン11に作用するモーメントについて、図2を参照しながら説明する。図2は、連結ピン11を貫通孔に挿通した状態を例示する概略図である。ただし、支持体のみ断面表示している。ここでは、図11で説明した母材2及び支持体3を使用した場合について説明する。すなわち、母材2の上端部20には第一の貫通孔20aが設けられ、支持体3の凹部30には第二の貫通孔30aが設けられている。そして、これら貫通孔は、いずれもほぼ一直線に形成されており、軸に対して垂直な断面の形状は略円形状である。このような形状とすることで、連結ピン11の挿通及び抜出が一層容易となる。
【0022】
母材2の上端部20は支持体3の下端部に設けられた凹部30へ嵌合され、連結ピン11の長軸部11aが、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aに挿通されている。したがって、ここでは、連結ピン11のうち、短軸部11bに作用するモーメントについて説明する。
短軸部11bの鉛直方向(ここでは、母材の軸方向に一致する)とのなす角度をθ、短軸部11bの軸方向中央部に作用する重力をFb1(N)とした場合、連結ピン11に作用するモーメントM(N・cm)は、下記式(1)で表される、短軸部11bに作用するモーメントMb(N・cm)となる。
Mb=Fb1×Lb1cosθ/2 ・・・・(1)
【0023】
なお、図2の配置形態に基づくモーメントMでは、連結ピン11のうち、貫通孔への挿通部である長軸部11aの影響を無視している。これは、本発明において、使用される連結ピン11のサイズを考慮した場合、与える影響が極めて僅かだからである。連結ピンの挿通部が与える影響としては、貫通孔との間の摩擦力に基づくモーメントに起因するものが挙げられる。
ここで、長軸部11aの質量をW(kg)とした場合の、連結ピン11に作用するモーメントM(N・cm)について、図3を参照しながら説明する。この場合、長軸部11aに作用する摩擦力をFa1(N)、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aと、長軸部11aとの間の摩擦係数をμとすると、該摩擦力に基づくモーメントMa(N・cm)は、Mbの方向を正の方向とした場合、下記式(2)で表される。
Ma=−Fa1×da1/2=μ×9.8W×da1/2 ・・・・(2)
【0024】
通常、ガラス面間の静摩擦係数は0.94程度であると言われているが、この値をそのまま上記式(2)に適用した場合、Fa1は非常に大きな値となって、連結ピン11が回転することはほとんどなくなってしまい、実態に整合しない。これは、摩擦係数が、対象となる物体の形状や表面状態等の要素の影響を強く受けるのに対し、このような要素を考慮していないからではないかと推測される。これに対して、後述する実施例等を含めた検討結果から、本発明者らは、上記式(2)においてμを0.01程度とした場合に、実態に極めて整合した結果が得られることを見出している。
以上のような観点から、通常は、モーメントMaは考慮せずに、上記式(1)で表されるモーメントMbを考慮して、連結ピン11を選択すれば十分である。そして、例えば、長軸部11aの外径da1が短軸部11bの外径db1よりも極めて大きい場合等、モーメントMaの影響を無視できない場合に、連結ピン11に作用するモーメントM(N・cm)を、Mb+Maとして、連結ピン11を選択すれば良い。
【0025】
図1では、略L字状の連結ピンとして、先端部を除いて、又は先端部も含めて、長軸部11a及び短軸部11bが略円柱状の棒状である場合について説明したが、本発明においてはこれに限定されない。例えば、長軸部11a及び短軸部11bのうち、挿通部とはならない方については、先端部に向けて外径が拡大する部位を有する形状であるものを、好ましいものとして例示できる。このような形状とすることにより、連結ピンに作用するモーメントを一層大きくでき、本発明の一層優れた効果が得られる。
【0026】
図4は、このような形状を有する連結ピンのうち、長軸部を挿通部とするものを例示する正面図である。
図4(a)の連結ピン111は、先端部以外が略円柱状であり、先端部に前記略円柱状部位よりも大きい外径の略球状部を備えた短軸部111bを有するものである。
図4(b)の連結ピン112は、先端部に向けて外径が拡大する略円錐台状の短軸部112bを有するものである。
図4(c)の連結ピン113は、先端部に向けて外径が拡大し、その拡大率が先端部に向けて漸次減少するような曲面を側面に有する短軸部113bを有するものである。
図4(d)の連結ピン114は、外径が異なる二種の略円柱状の部位が、外径が大きい方が先端部を構成するように接続された短軸部114bを有するものである。
【0027】
なお、ここに例示したものは、本発明に適した連結ピンのごく一部であり、連結ピンはこれらに限定されないことは言うまでもない。例えば、図4(a)においては、短軸部の先端部の形状を略球状ではなく、略円柱状、略円錐台状、略角柱状、略角錐台状等にしても良い。また、図4(b)においては、短軸部の形状を略円錐台状ではなく、略角錐台状等にしても良い。また、図4(c)において、外径の拡大率が先端部に向けて漸次増大するようにしても良い。また、図4(d)においては、短軸部の形状を略円柱状ではなく、略円錐台状、略角柱状、略角錐台状等にしても良い。そして、図4(a)〜(d)のものをはじめ、複数の形状を組み合わせて構成されたものでも良い。
【0028】
長軸部11a及び短軸部11bのうち、挿通部となる方も同様に、略円柱状以外の形状でも良く、好ましいものとしては、軸方向に対して垂直な断面における外径が一定であるものが例示でき、より具体的には、略角柱状であるものが例示できる。
【0029】
長軸部11a及び短軸部11bが、先端部を除いて、又は先端部も含めて、略円柱状以外の形状である場合には、その軸方向に対して垂直な断面における径の最大値を、前記da1又はdb1と同様にすることが好ましい。
【0030】
長軸部11a及び短軸部11bは、その軸方向に対して垂直な断面における形状が同じでも良いし、異なっていても良い。そして、径の大きさも同じでも良いし、異なっていても良い。
【0031】
また、ここでは、ψ1が90°である例を示しているが、90°以外の角度でも良い。ただし、La1及びLb1の大きさを固定した場合、連結ピン11に作用するモーメントが最大となるのは90°の場合である。
【0032】
図5は、本発明で使用する連結ピンの他の例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
ここに例示する連結ピン12は、略T字状である。すなわち、長軸部と短軸部との接続部が、短軸部の軸方向中央部に移動している点で、前記連結ピン11と異なる。連結ピン12は、手で持ち易く、取り扱い易い点で連結ピン11よりも優れる。
【0033】
連結ピン12は、長軸部12a及び短軸部12bからなり、短軸部12bは、長軸部12aとの接続部を境にして、第一の短軸部12b1と第二の短軸部12b2とからなる。そして、長軸部12aと第一の短軸部12b1とのなす角度ψ21、長軸部12aと第二の短軸部12b2とのなす角度ψ22は、いずれも90°である。また、第一の短軸部12b1と第二の短軸部12b2とのなす角度ψ20は180°である。さらに、長軸部12aの外径da2、第一の短軸部12b1の外径db21、第二の短軸部12b2の外径db22は、先端部を除いていずれも同じとなっている。ただし、本発明においては、これら外径の少なくとも一つは異なっていても良い。
【0034】
連結ピン12は、長軸部12aが貫通孔への挿通部となり、短軸部12bがモーメントを生ずる部位となる。
ここでは、長軸部12aの軸方向の長さLa2と、短軸部12bの軸方向の長さLb2(すなわち、第一の短軸部12b1の軸方向の長さLb21と、第二の短軸部12b2の軸方向の長さLb22との和)とが異なる例を示しているが、同じでも良い。
また、ここでは、第一の短軸部12b1と第二の短軸部12b2とのなす角度ψ20が180°である例を示しているが、180°より小さくても良いし、大きくても良く、任意に設定できる。ただし、本発明においては、連結ピンを容易に作製でき、十分な効果が得られることから、180°であることが好ましい。
また、ここでは、ψ21及びψ22がいずれも90°である例を示しているが、ψ21及びψ22は、互いに異なる角度でも良く、90°より小さくても良いし、大きくても良い。ただし、Lb21及びLb22の大きさを固定した場合、連結ピン11に作用するモーメントが最大となるのは、ψ21及びψ22がいずれも90°の場合である。そして、このような連結ピン12は、作製も容易である。
【0035】
連結ピン12は、上記の点以外は、連結ピン11と同様である。したがって、例えば、第一の短軸部12b1及び第二の短軸部12b2の少なくとも一方が、連結ピン11における短軸部11bと同様に、先端部に向けて外径が拡大する部位を有する形状(図4に示す形状)であっても良い。
【0036】
連結ピン12に作用するモーメントについては、連結ピン11の場合と同様に考えて、第一の短軸部12b1及び第二の短軸部12b2に作用する二つのモーメントを合算すれば良い。すなわち、図2において、連結ピン11に代わり連結ピン12を使用し、第一の短軸部12b1が第二の短軸部12b2よりも上方に位置するように、連結ピン12を第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aに挿通させた場合、第一の短軸部12b1の鉛直方向(ここでは、母材の軸方向に一致する)とのなす角度をθ、第一の短軸部12b1の軸方向中央部に作用する重力をFb1(N)、第二の短軸部12b2の軸方向中央部に作用する重力をFb2(N)とすると、第一の短軸部12b1に作用する第一のモーメントMb1(N・cm)は、下記式(3)で表される。また、Mb1の方向を正の方向とした場合、第二の短軸部12b2に作用する第二のモーメントMb2(N・cm)は、下記式(4)で表される。そして、連結ピン12に作用するモーメントM(N・cm)は、下記式(5)で表される、短軸部11bに作用するモーメントMb(N・cm)となる。また、必要に応じて、長軸部12aのモーメントも考慮すれば良い。
Mb1=Fb1×Lb21cosθ/2 ・・・・(3)
Mb2=−Fb2×Lb22cosθ/2 ・・・・(4)
Mb=Mb1+Mb2 ・・・・(5)
【0037】
連結ピンのモーメントによる回転は、連結ピンの表面状態等の影響を受けるが、本発明においては、後述する実施例でも説明するように、モーメントを1×10−2(N・cm)以上とすることで、表面状態によらず、円滑に連結ピンを回転させることができる。また、モーメントの上限は特に限定されないが、実用的な観点から、2.5(N・cm)以下であることが好ましい。このようにすることで、必要以上にモーメントを作用させることなく、十分に本発明の効果が得られる。
【0038】
次に、図6を参照しながら、本発明の着脱方法について説明する。図6の上段には、連結ピンの貫通孔への挿通方向から見た図(正面図、ただし、支持体のみ断面表示している)を、下段には、連結ピンの貫通孔への挿通方向に対して垂直な方向から見た図(側面図、ただし、支持体のみ断面表示している)をそれぞれ示す。なお、図6で示す連結ピン及び支持体は、いずれも図2で説明したものと同様である。本発明の着脱方法は、支持体に母材を取り付ける母材の取り付け工程と、母材を支持体から取り外す母材の取り外し工程に、それぞれ特徴がある。
【0039】
(母材の取り付け工程)
まず、図6(a)に示すように、把持され位置が固定された支持体3に対して、把持された母材2を上昇させ、上端部20を支持体3の下端部に設けられた凹部30へ嵌合させる。そして、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aが連通するように、これら貫通孔を位置合わせする。この時は、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aの中心軸が一致するように位置合わせすることが好ましい。なお、母材2及び支持体3を把持する手段は、いずれも公知のもので良く、例えば、母材2を把持する手段であれば、母材2を下部から支持するものや、母材2に鍔部がある場合には、この鍔部で支持するものが例示できる。
【0040】
次いで、図6(b)に示すように、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aに、連結ピン11を挿通する。ここでは、長軸部11aが挿通部となっている。この時、短軸部11bの鉛直方向(ここでは、母材2の軸方向に一致する)とのなす角度θが0°及び180°以外の角度となるように、連結ピン11を配置する。このようにすることで、長軸部11aに重力以外の下向きの力が印加されていない状態で、重力に基づくモーメントの作用により、連結ピン11は挿通軸(長軸部11aの中心軸)の周りに回転可能となる。前記θは、70〜110°であることが好ましく、90°であることが特に好ましい。このようにすることで、短軸部11bに作用するモーメントを大きくできると共に、連結ピンの回転の有無を容易に認識でき、本発明の一層優れた効果が得られる。図6(b)でθは90°である。
【0041】
次いで、連結ピン11の前記配置を維持したまま、図6(c)に示すように、母材2を僅かに下降させて、母材2を連結ピン11に懸架させることで、母材2を支持する。この時、長軸部11aは、母材2によって重力以外の下向きの力が印加され、第一の貫通孔20aの内表面と第二の貫通孔30aの内表面とで挟持されるので、長軸部11aは挿通時の前記配置が維持される。
以上により、母材の取り付け工程が完了する。
【0042】
(母材の取り外し工程)
次いで、母材2に対して所望の処理を行った後、図6(d)に示すように、処理後の母材2を僅かに上昇させることで、連結ピン11への母材2の懸架を解消する。このようにすることで、長軸部11aには、母材2からの下向きの力が印加されなくなるので、重力に基づくモーメントの作用により、連結ピン11は挿通軸(長軸部11aの中心軸)の周りに回転し、通常は前記角度θがほぼ0°となる。そして、長軸部11aは、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aの内表面と軽度に接触するか、又は非接触となるので、連結ピン11は抜出が容易な状態となる。
【0043】
連結ピン11の回転を確認した後は、直ちに母材2の上昇を停止させ、長軸部11aの上部が、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aの上部内表面と接触することで、大きな力を印加されないようにする。
【0044】
次いで、図6(e)に示すように、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔30aから連結ピン11を抜出して、母材2を支持体3から取り外す。この時、連結ピン11は容易に抜出できるので、連結ピン11、母材2及び支持体3の破損が抑制される。例えば、連結ピン11が折れることもないので、母材2が落下することもない。
以上により、母材の取り外し工程が完了する。
【0045】
なお、ここでは、支持体3の位置を固定し、母材2を上昇及び下降させて、貫通孔の位置合わせや、母材2の連結ピン11への懸架及びその解消等を行う例を示しているが、本発明においてはこれに限定されず、支持体3に対する母材2の相対的な上下方向の位置が調節可能となっていれば良い。すなわち、母材2を固定し、支持体3を上昇及び下降させても良いし、母材2及び支持体3の双方を上昇及び下降させても良い。そのためには、把持された母材2及び支持体3の少なくとも一方が上下動可能とされていれば良い。
【0046】
ここまでは、支持体として、下端部に凹部が設けられ、該凹部に母材の上端部を嵌合させて、母材を連結するものについて説明したが、本発明においてはこれに限定されず、母材の支持に使用し得るものであればいかなるものでも良い。例えば、支持体本体に着脱可能な接続部材を備え、該接続部材と母材とを連結することで、母材を支持するものが例示できる。ここで、接続部材は、謂わばジョイントとして機能するものである。
【0047】
図7は、本発明で使用する接続部材を備えた支持体を例示する概略図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線における横断面図である。ただし、(a)においては、接続部材41のみ断面表示している。
ここに示す支持体4は、本体40と接続部材41とからなる。接続部材41の下端部には、母材2の上端部20を嵌合させるための第一の凹部410が設けられ、上端部には、本体40の突出された下端部400を嵌合させるための第二の凹部420が設けられている。そして、第一の凹部410には、第二の貫通孔410aが設けられ、第二の凹部420には、第三の貫通孔420aが設けられている。さらに、本体40の下端部400には、第四の貫通孔400aが設けられている。
第二の貫通孔410aは、先に説明した支持体3における第二の貫通孔30aと同様のものであり、前記連結ピンで母材2を連結するためのものである。また、第三の貫通孔420aも、第二の貫通孔30aと同様のものであり、前記連結ピンで本体40を連結するためのものである。そして、第四の貫通孔400aも、第二の貫通孔30aと同様のものであり、前記連結ピンで接続部材41を連結するためのものである。
第一の凹部410と第二の凹部420は、ここに示すように独立して設けられていても良いし、互いに底部が貫通され、連通して一体に形成されていても良い。
【0048】
支持体4を使用する場合も、前記支持体3を使用する場合と同様に、本発明の着脱方法を適用できる。図8は、支持体4を使用して、図1の連結ピンを母材及び支持体の貫通孔に挿通させた状態を例示する概略図である。ただし、接続部材41のみ断面表示している。
すなわち、母材2の上端部20を接続部材41の第一の凹部410に嵌合させ、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔410aが連通するように、これら貫通孔を位置合わせする。そして、これら貫通孔に連結ピン11を挿通し、母材2を連結ピン11に懸架させることで、母材2を支持する。
【0049】
支持体4における本体40と接続部材41との連結も、同様に行うことができる。すなわち、本体40の下端部400を接続部材41の第二の凹部420に嵌合させ、第三の貫通孔420a及び第四の貫通孔400aが連通するように、これら貫通孔を位置合わせする。そして、これら貫通孔に連結ピン11を挿通し、接続部材41を連結ピン11に懸架させることで、接続部材41を支持する。
母材2及び接続部材41の連結、並びに本体40及び接続部材41の連結は、どちらを先におこなっても良いが、通常は、本体40及び接続部材41の連結を先に行う方が、母材2及び接続部材41の連結を一層容易に行うことができる点で好ましい。
【0050】
母材2に対して所望の処理を行った後は、例えば、母材2を僅かに上昇させることで、連結ピン11への母材2の懸架を解消し、連結ピン11が挿通軸の周りに回転したことを確認してから、母材2の上昇を停止させ、第一の貫通孔20a及び第二の貫通孔410aから連結ピン11を抜出して、母材2を接続部材41から取り外す。
【0051】
支持体4における本体40からの接続部材41の取り外しも、同様に行うことができる。例えば、接続部材41を僅かに上昇させることで、連結ピン11への接続部材41の懸架を解消し、連結ピン11が挿通軸の周りに回転したことを確認してから、接続部材41の上昇を停止させ、第三の貫通孔420a及び第四の貫通孔400aから連結ピン11を抜出して、接続部材41を本体40から取り外す。
【0052】
母材2の接続部材41からの取り外し、及び接続部材41の本体40からの取り外しは、どちらを先におこなっても良いが、通常は、母材2の接続部材41からの取り外しを先に行う方が、一層容易に行うことができる点で好ましい。
【0053】
なお、本発明において支持体4を使用する場合には、母材2の破損を抑制でき、また、本体40に対する接続部材41の着脱は、必ずしも毎回行うものではないことから、本体40と接続部材41との連結には、必ずしも連結ピン11等の、モーメントの作用を受けるものを使用しなくても良い。ただし、支持体4の破損も抑制できる点で、連結ピン11等を使用することが好ましい。
【0054】
本発明において、連結ピンの回転の容易さは、主に連結ピンの挿通部と貫通孔との間の摩擦力、及びモーメントの大きさに依存する。円滑に回転させるためには、例えば、連結ピンの表面を滑らかにすれば良く、表面粗さ(Ra)が6μm以下であることが好ましく、4.5μm以下であることがより好ましい。さらに、1.0×10−2未満等の小さいモーメントでも連結ピンを円滑に回転させるためには、表面粗さが0.3μm以下であることが好ましい。表面粗さを低減するためには、火炎研磨等の公知の手法を適用すれば良い。
一方、連結ピンに作用するモーメントは、1.0×10−3(N・cm)以上であることが好ましく、2.5×10−3(N・cm)以上であることがより好ましい。そして、連結ピンの表面粗さによらず、本発明の効果を得るためには、8.0×10−3(N・cm)以上であることが好ましく、1.0×10−2(N・cm)以上であることがより好ましい。
【0055】
本発明の着脱方法によれば、連結ピンの回転を確認するだけで、連結ピンの抜出のタイミングを正確に判断できるので、母材等の各種材料、並びに連結ピン及び支持体等の使用部材を破損することがない。そして、母材又は支持体の本来不必要な上昇及び下降操作も省略できるので、着脱を簡便且つ効率的に行うことができる。さらに、操作が簡便であることに加え、大きい連結ピンも容易に適用できるので、大型の母材も容易に取り扱うことができる。
【0056】
<光ファイバの製造方法>
本発明の光ファイバの製造方法は、上記本発明の着脱方法で母材を支持体に対して着脱する着脱工程を有することを特徴とする。
前記着脱工程を有する工程としては、ターゲットへガラス微粒子を堆積させて石英多孔質母材を製造する工程、石英多孔質母材を焼結あるいは脱水及び焼結させて光ファイバ母材を製造する工程、光ファイバ母材の先端を加工する工程、及び光ファイバ母材を紡糸して光ファイバを製造する工程等が例示できる。これらの一つ以上の工程で、前記着脱工程を行うことができる。
【0057】
本発明の光ファイバの製造方法は、前記着脱工程を有すること以外は、公知の製造方法と同様である。そして、母材の着脱を簡便且つ効率的に行うことができるので、光ファイバを効率良く製造できる。さらに、良質な母材を使用することで、光特性に優れる光ファイバを製造できる。
【実施例】
【0058】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
VAD法で作製した直径40mm、長さ1400mmの母材本体の両端にダミー部材を接続し、外付け法により直径230mm、質量約45kgの石英多孔質母材を作製した。ダミー部材のうち、支持体に連結されるものが、母材の前記上端部に該当する。
次いで、この石英多孔質母材のうち上部の前記ダミー部材と、棒状の支持体とをそれぞれ接続部材を介して、図8に示すように連結ピンで連結し、石英多孔質母材を僅かに下降させて連結ピンに懸架させ、石英多孔質母材を支持体に取り付けた。この時使用した連結ピンは、図1に示すものであり、長軸部11aの長さLa1が12.0cm、短軸部11bの長さLb1が3.0cmであり、長軸部の外径da1と短軸部の外径db1が共に1.7cmであり、長軸部と短軸部とのなす角度ψ1は90°である。また、連結ピンの表面は火炎研磨されており、表面粗さ(Ra)が0.18μmであった。そして、連結ピンの短軸部の鉛直方向とのなす角度θを90°とした。この条件下での連結ピンに作用するモーメントMは、前記式(1)によれば、2.2×10−1(N・cm)である。
上記のように取り付けた石英多孔質母材を焼結炉中で脱水及び焼結させることで、透明な光ファイバ母材を作製した。
【0060】
次いで、光ファイバ母材の下部を把持装置で把持し、この状態で光ファイバ母材を上方に約3mm上昇させたところ、連結ピンがその長軸部の中心軸の周りに回転して、短軸部が下方に向いた状態(θが0°の状態)となり、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架が解消されたことを確認できた。そこで、光ファイバ母材を停止させ、連結ピンを抜出し、光ファイバ母材を接続部材から取り外した。
以上の操作を合計20回行い、それぞれにおいて、取り外した後のダミー部材の貫通孔(第一の貫通孔)、接続部材の貫通孔(第二の貫通孔)、連結ピンの様子を目視で観察した。結果を表1に示す。
表1に示すように、20回全ての操作において、ダミー部材と接続部材の双方の貫通孔、連結ピンに欠損や破損が見られず、良好な状態が維持されていた。また、作業も簡便で迅速に行うことができ、作業効率が高かった。
【0061】
[実施例2〜9]
角度θを表1〜2に示すようにしたこと以外は、実施例1と同様に、透明な光ファイバ母材を作製し、接続部材から取り外した後のダミー部材の貫通孔と、接続部材の貫通孔の様子を目視で観察した。結果を表1〜2に示す。
表1〜2に示すように、いずれの連結ピンの場合にも、20回全ての操作において、ダミー部材と接続部材の双方の貫通孔、連結ピンに欠損や破損が見られず、良好な状態が維持されていた。また、作業も簡便で迅速に行うことができ、作業効率が高かった。
【0062】
[比較例1〜5]
角度θを表3に示すようにしたこと以外は、実施例1と同様に、透明な光ファイバ母材を作製し、接続部材から取り外した後のダミー部材の貫通孔と、接続部材の貫通孔の様子を目視で観察した。結果を表3に示す。
【0063】
比較例1では、20回のうち、17回の操作では特に異常が認められなかったが、3回の操作では連結ピンが円滑に回転しなかったため、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架の解消を確認できなかった。そのため、連結ピンを一回で抜出できず、抜出を何度も試みながら光ファイバ母材の上昇及び下降を繰り返した後に連結ピンを抜出し、ようやく光ファイバ母材を接続部材から取り外した。このように、作業も煩雑で長時間を要し、作業効率が低かった。そして、ダミー部材、接続部材及び連結ピンを観察したところ、この3回のいずれの操作においても、連結ピンの表面には擦り傷が生じ、ダミー部材の貫通孔には欠損が生じていた。
これに対して、表面粗さ(Ra)が同程度である、後述する実施例10(Ra:0.4μm)では、連結ピンを一回で抜出でき、ダミー部材、接続部材及び連結ピンはいずれも良好な状態が維持されていた。そして、比較例1と実施例10とでは、モーメントMが異なっており、比較例1で上記問題点が発生した理由は、モーメントMの値が小さいことにあると考えられた。
【0064】
比較例2では、20回のうち、19回の操作では特に異常が認められなかったが、1回の操作では連結ピンが円滑に回転しなかったため、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架の解消を確認できなかった。そのため、比較例1の場合と同様に、連結ピンを一回で抜出できず、抜出を何度も試みながら光ファイバ母材の上昇及び下降を繰り返した後に連結ピンを抜出し、ようやく光ファイバ母材を接続部材から取り外した。このように、作業も煩雑で長時間を要し、作業効率が低かった。そして、ダミー部材、接続部材及び連結ピンを観察したところ、連結ピンの表面に擦り傷が生じていた。
これに対して、表面粗さ(Ra)が同程度である実施例3(Ra:0.9μm)では、上記のように連結ピンを一回で抜出でき、ダミー部材、接続部材及び連結ピンはいずれも良好な状態が維持されていた。そして、比較例2と実施例3とでは、モーメントMが異なっており、比較例2で上記問題点が発生した理由は、モーメントMの値が小さいことにあると考えられた。
【0065】
比較例3では、20回のうち、18回の操作では特に異常が認められなかったが、1回の操作では連結ピンが円滑に回転しなかったため、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架の解消を確認できなかった。そのため、比較例1の場合と同様に、連結ピンを一回で抜出できず、抜出を何度も試みながら光ファイバ母材の上昇及び下降を繰り返した後に連結ピンを抜出し、ようやく光ファイバ母材を接続部材から取り外した。このように、作業も煩雑で長時間を要し、作業効率が低かった。そして、ダミー部材、接続部材及び連結ピンを観察したところ、連結ピンの表面には擦り傷が生じており、ダミー部材の貫通孔内部には、当初見られなかったガラス粉が混入していて、連結ピンが貫通孔に引っ掛かり易い状態であった。一方、残りの1回の操作では、作製した光ファイバ母材の取り外し中に連結ピンが折れ、光ファイバ母材が焼結炉内に落下してしまった。
これに対して、表面粗さ(Ra)が同程度である実施例5(Ra:0.3μm)では、上記のように連結ピンを一回で抜出でき、ダミー部材、接続部材及び連結ピンはいずれも良好な状態が維持されていた。そして、比較例3と実施例5とでは、モーメントMの値が異なっており、比較例3で上記問題点が発生した理由は、モーメントMの値が小さいことにあると考えられた。
【0066】
比較例4では、20回のうち、19回の操作では特に異常が認められなかったが、1回の操作では連結ピンが円滑に回転しなかったため、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架の解消を確認できなかった。そのため、比較例1の場合と同様に、連結ピンを一回で抜出できず、抜出を何度も試みながら光ファイバ母材の上昇及び下降を繰り返した後に連結ピンを抜出し、ようやく光ファイバ母材を接続部材から取り外した。このように、作業も煩雑で長時間を要し、作業効率が低かった。そして、ダミー部材、接続部材及び連結ピンを観察したところ、連結ピンの表面には擦り傷が生じており、ダミー部材の貫通孔内部には、当初見られなかったガラス粉が混入していて、連結ピンが貫通孔に引っ掛かり易い状態であった。
これに対して、表面粗さ(Ra)が同じであるである実施例6(Ra:1.5μm)と、4.2倍である実施例4(Ra:4.2μm)では、いずれも上記のように連結ピンを一回で抜出でき、ダミー部材、接続部材及び連結ピンはいずれも良好な状態が維持されていた。そして、比較例4と実施例4及び6とでは、モーメントMが異なっており、比較例4で上記問題点が発生した理由は、モーメントMの値が小さいことにあると考えられた。
【0067】
比較例5では、連結ピンが回転せず、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架の解消を確認できなかったため、連結ピンの抜出を試行錯誤しながら何度も試みた。その結果、20回のうち、18回の操作では特に異常が認められなかったが、2回の操作では、抜出を何度も試みながら光ファイバ母材の上昇及び下降を繰り返した後に連結ピンを抜出し、ようやく光ファイバ母材を接続部材から取り外した。その結果、ダミー部材、接続部材及び連結ピンを観察したところ、連結ピンの表面とダミー部材の貫通孔内部には擦り傷が生じていた。このように、表面粗さ(Ra)の値が十分に小さいにも関わらず、上記問題点が発生してしまった。また、作業も煩雑で長時間を要し、作業効率が著しく低かった。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
[実施例10]
連結ピンとして、図5に示すものであり、La2が12cm、Lb21が3.0cm、Lb22が4.0cmであり、長軸部12aの外径da2、第一の短軸部12b1の外径db21、第二の短軸部12b2の外径db22は、いずれも1.7cmであり、長軸部と第一の短軸部とのなす角度ψ21、長軸部と第二の短軸部とのなす角度ψ22がいずれも90°であり、第一の短軸部と第二の短軸部とのなす角度ψ20が180°であるもの使用し、その取り付け時の角度θを表4に示すようにしたこと以外は、実施例1と同様に、透明な光ファイバ母材を作製した。この条件下での連結ピンに作用するモーメントMは、前記式(5)によれば、1.9×10−2(N・cm)である。そして、取り外した後のダミー部材の貫通孔(第一の貫通孔)、接続部材の貫通孔(第二の貫通孔)、連結ピンの貫通孔の様子を目視で観察した。結果を表4に示す。
光ファイバ母材作製時には、連結ピンへの光ファイバ母材の懸架が解消されたことを確認でき、連結ピンを一回で抜出できた。その結果、表4に示すように、20回全ての操作において、ダミー部材と接続部材の双方の貫通孔、連結ピンに欠損や破損が見られず、良好な状態が維持されていた。また、作業も簡便で迅速に行うことができ、作業効率が高かった。
【0072】
【表4】
【0073】
実施例1〜10、比較例1〜4における、連結ピンの表面粗さと連結ピンに作用するモーメントとの関係をプロットしたグラフを図9に示す。図9中のプロットエリアに付した番号は、それぞれ実施例及び比較例の番号を示す。
図9からも明らかなように、表面を火炎研磨した連結ピン(実施例1、7〜9)では、表面粗さ(Ra)が0.2μm未満であり、表面を擦り仕上げした連結ピン(実施例2、3、5、6、10)では、表面粗さが2.2μm未満であって、全ての実施例で良好な結果が得られた。また、連結ピンとして不透明石英を使用したもの(実施例4)では、表面粗さが4.2μmと大きかったが、モーメントが大きいことにより、良好な結果が得られた。
さらに図9から、連結ピンの表面粗さによらず、本発明の効果を得るためには、連結ピンに作用するモーメントを1.0×10−2以上とするのが好ましいことが判明した。また、モーメントが1.0×10−2未満の場合には、本発明の効果を得るためには、表面粗さを0.3以下とするのが好ましいことが判明した。
【0074】
[参考例1]
連結ピンの挿通部と貫通孔との間の摩擦力に基づくモーメントの影響を調べるため、以下の実験を行った。
図10に示すように、ダミー部材20’と棒状の支持体4とをそれぞれ接続部材41を介して、連結ピン11で連結し、ダミー部材20’を懸架させた。この時使用した連結ピン11は、長軸部の外径da1が3.5mmであり、短軸部の外径db1(1.7mm)よりも大きいこと以外は、実施例1と同様のものである。そして、ダミー部材20’にさらに荷重台9を懸架させ、この荷重台9に40kgの錘91を載置した。連結ピン11の短軸部の鉛直方向とのなす角度θは90°とした。この条件下で、連結ピン11に作用するモーメントの合計(M=Mb+Ma(N・cm))は、1.8×10−1(N・cm)である。
次いで、荷重台9と共にダミー部材20’をリフター(図示略)で3mm上昇させたところ、ダミー部材20’を懸架していた連結ピン11がその長軸部の中心軸の周りに回転して、短軸部が下方に向いた状態(θが0°の状態)となり、連結ピン11へのダミー部材20’及び荷重台9の懸架が解消されたことを確認できた。そこで、リフターを停止させ、連結ピン11を抜出し、ダミー部材を接続部材から取り外した。
以上の操作を合計20回行い、それぞれにおいて、取り外した後のダミー部材11の貫通孔(第一の貫通孔)、接続部材の貫通孔(第二の貫通孔)、連結ピンの様子を目視で観察した。結果を表5に示す。
【0075】
表5に示すように、20回全ての操作において、ダミー部材と接続部材の双方の貫通孔、連結ピンに欠損や破損が見られず、良好な状態が維持されていた。また、作業も簡便で迅速に行うことができ、作業効率が高かった。
ここで得られた結果は、挿通部の影響は通常無視し得るという先の知見と、連結ピンに作用するモーメントを1.0×10−2以上とすれば、連結ピンの表面粗さによらず、本発明の効果を得られるという先の知見を支持するものであった。
【0076】
[参考例2]
連結ピンとして、長軸部の外径da1が4.1mmであり、短軸部の外径db1(1.3mm)よりも大きいこと以外は、実施例6と同様のものを使用し、かかる連結ピンを使用したこと以外は、参考例1と同様にダミー部材と荷重台を懸架させた後、荷重台と共にダミー部材をリフターで上昇させた。なお、連結ピン11に作用するモーメントの合計(M=Mb+Ma(N・cm))は、2.0×10−2(N・cm)である。
上記操作を合計20回行い、それぞれにおいて、取り外した後のダミー部材の貫通孔(第一の貫通孔)、接続部材の貫通孔(第二の貫通孔)、連結ピンの様子を目視で観察した。結果を表5に示す。
表5に示すように、20回全ての操作において、ダミー部材と接続部材の双方の貫通孔、連結ピンに欠損や破損が見られず、良好な状態が維持されていた。また、作業も簡便で迅速に行うことができ、作業効率が高かった。
ここで得られた結果は、参考例1の場合と同様に、挿通部の影響は通常無視し得るという先の知見と、連結ピンに作用するモーメントを1.0×10−2以上とすれば、連結ピンの表面粗さによらず、本発明の効果を得られるという先の知見を支持するものであった。
【0077】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、光ファイバの製造工程全般で利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
2・・・母材、20・・・母材の上端部、3,4・・・支持体、40・・・本体、41・・・接続部材、11・・・連結ピン、11a・・・長軸部、11b・・・短軸部、20a・・・第一の貫通孔、400a・・・第四の貫通孔、30a,410a・・・第二の貫通孔、420a・・・第三の貫通孔、M・・・モーメント
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの製造に使用される母材を懸架して支持するための支持体に対する、母材の着脱方法であって、
前記母材の上端部と前記支持体には、これらを連結する連結ピンを挿通するための貫通孔が設けられており、
前記母材及び支持体の貫通孔に前記連結ピンを挿通し、該連結ピンに前記母材を懸架させることで、前記支持体に前記母材を取り付ける母材の取り付け工程において、前記母材の懸架解消に伴い、重力に基づくモーメントの作用で、挿通軸の周りに回転可能に前記連結ピンを配置し、
前記母材を前記支持体から取り外す母材の取り外し工程において、前記連結ピンの回転後に、前記連結ピンを前記貫通孔から抜出することを特徴とする母材の着脱方法。
【請求項2】
把持された前記母材及び支持体の少なくとも一方が上下動可能とされ、支持体に対する母材の相対的な上下方向の位置が調節可能とされており、
前記取り付け工程において、前記母材を相対的に上昇させて、前記母材及び支持体の貫通孔を位置合わせした後、これら貫通孔に前記連結ピンを挿通し、次いで、前記母材を相対的に下降させて、該母材を前記連結ピンに懸架させ、
前記取り外し工程において、前記母材を相対的に上昇させて、前記連結ピンへの前記母材の懸架を解消することを特徴とする請求項1に記載の母材の着脱方法。
【請求項3】
前記連結ピンが、前記母材及び支持体の貫通孔へ挿通するための挿通部と、該挿通部と所定の角度をなす非挿通部とを備え、
前記取り付け工程において、前記非挿通部の中心軸と鉛直方向とのなす角度が、0°及び180°以外となるように、前記連結ピンを配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の母材の着脱方法。
【請求項4】
前記モーメントを1×10−2(N・cm)以上とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の母材の着脱方法。
【請求項5】
前記連結ピンの材質が石英ガラスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の母材の着脱方法。
【請求項6】
前記連結ピンが無色透明又は一部が白色であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の母材の着脱方法。
【請求項7】
前記支持体が着脱可能な接続部材を備え、該接続部材と前記母材とを連結することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の母材の着脱方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の着脱方法で母材を支持体に対して着脱する着脱工程を有することを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項9】
ターゲットへガラス微粒子を堆積させて石英多孔質母材を製造する工程、石英多孔質母材を焼結あるいは脱水及び焼結させて光ファイバ母材を製造する工程、光ファイバ母材の先端を加工する工程、及び光ファイバ母材を紡糸して光ファイバを製造する工程からなる群から選択される一つ以上の工程が、前記着脱工程を有することを特徴とする請求項8に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項1】
光ファイバの製造に使用される母材を懸架して支持するための支持体に対する、母材の着脱方法であって、
前記母材の上端部と前記支持体には、これらを連結する連結ピンを挿通するための貫通孔が設けられており、
前記母材及び支持体の貫通孔に前記連結ピンを挿通し、該連結ピンに前記母材を懸架させることで、前記支持体に前記母材を取り付ける母材の取り付け工程において、前記母材の懸架解消に伴い、重力に基づくモーメントの作用で、挿通軸の周りに回転可能に前記連結ピンを配置し、
前記母材を前記支持体から取り外す母材の取り外し工程において、前記連結ピンの回転後に、前記連結ピンを前記貫通孔から抜出することを特徴とする母材の着脱方法。
【請求項2】
把持された前記母材及び支持体の少なくとも一方が上下動可能とされ、支持体に対する母材の相対的な上下方向の位置が調節可能とされており、
前記取り付け工程において、前記母材を相対的に上昇させて、前記母材及び支持体の貫通孔を位置合わせした後、これら貫通孔に前記連結ピンを挿通し、次いで、前記母材を相対的に下降させて、該母材を前記連結ピンに懸架させ、
前記取り外し工程において、前記母材を相対的に上昇させて、前記連結ピンへの前記母材の懸架を解消することを特徴とする請求項1に記載の母材の着脱方法。
【請求項3】
前記連結ピンが、前記母材及び支持体の貫通孔へ挿通するための挿通部と、該挿通部と所定の角度をなす非挿通部とを備え、
前記取り付け工程において、前記非挿通部の中心軸と鉛直方向とのなす角度が、0°及び180°以外となるように、前記連結ピンを配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の母材の着脱方法。
【請求項4】
前記モーメントを1×10−2(N・cm)以上とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の母材の着脱方法。
【請求項5】
前記連結ピンの材質が石英ガラスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の母材の着脱方法。
【請求項6】
前記連結ピンが無色透明又は一部が白色であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の母材の着脱方法。
【請求項7】
前記支持体が着脱可能な接続部材を備え、該接続部材と前記母材とを連結することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の母材の着脱方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の着脱方法で母材を支持体に対して着脱する着脱工程を有することを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項9】
ターゲットへガラス微粒子を堆積させて石英多孔質母材を製造する工程、石英多孔質母材を焼結あるいは脱水及び焼結させて光ファイバ母材を製造する工程、光ファイバ母材の先端を加工する工程、及び光ファイバ母材を紡糸して光ファイバを製造する工程からなる群から選択される一つ以上の工程が、前記着脱工程を有することを特徴とする請求項8に記載の光ファイバの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−184232(P2011−184232A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50779(P2010−50779)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]