説明

比重分別装置および比重分別方法、ならびにそれを用いて得られたプラスチック原料またはプラスチック部材

【課題】 混合プラスチック部材をプラスチック組成物の系統ごとに分離することができ、該プラスチック組成物からマテリアルリサイクルによりプラスチック原料またはプラスチック成形体を製造することができる、効率的かつ低コストにプラスチック廃材を再資源化し得る比重分別装置および比重分別方法、またそれによって得られたプラスチック原料、プラスチック部材を提供する。
【解決手段】 その内部に比重分離液を収容する液槽と、比重の異なる複数種のプラスチック廃材で構成された混合物の破砕片を液槽に投入するための投入手段と、前記混合物を比重分離液中に沈降させる沈降手段と、前記液槽に設けられた浮上成分の取出口と、前記液槽に設けられた沈降成分の排出手段とを備え、前記沈降手段は、その少なくとも一部が回転軸が液面に平行な回転体である比重分別装置、およびそれを用いた比重分別方法。上記比重分別方法を用いて得られたプラスチック原料またはプラスチック部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック廃材を再資源化するための比重分別装置および比重分別方法に関する。また本発明は、上記比重分別方法を用いて得られた、プラスチック原料またはプラスチック部材にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラスチック廃材の再資源化時に比重の異なる複数種のプラスチックで構成された混合物をプラスチック組成物の系統ごとに分離する方法として、混合物の比重差を利用し、液体中でプラスチック組成物の系統ごとに分離する方法が、広く用いられてきた。
【0003】
このような分離方法の従来技術として、特許文献1や特許文献2に記載されているように、投入部で、スクリューコンベアにより、塊状で給送されてくるプラスチック混合物を解いて攪拌し、気泡を抜き、洗濯して液槽の液中に放出し、浮上物と沈降物とに分離し、その後、水車やコンベアにより、浮上したプラスチックを排出部に送り、排出部でプラスチックを排出するものがあった。しかし、特許文献1、2に開示されたような攪拌工程にスクリューコンベアを使用する方法では、スクリューコンベア内でプラスチックが固まって移動するため、混合物を、十分に解きほぐすことができない。そのため、比重の軽いプラスチックと絡まった比重の重いプラスチックが沈降せず、混合物を分別するのに十分な選別能力を有するとはいえない。
【0004】
また特許文献3には、廃棄プラスチックを洗浄槽で解いて攪拌し、気泡を抜き、洗濯し、その後、比重分離槽に投入され、櫛型かき羽根により、液の流れを乱すことなく機械的衝撃により、解きほぐして、分離効率を向上させる廃棄プラスチック材の選別機が開示されている。特許文献3に開示された選別機では、液面で機械的衝撃を与えているため、解きほぐされても、分離液より若干比重が重いプラスチックは、表面張力が働き、沈むことはない。そのため、混合物を分別するのに十分な選別能力を有するとはいえない。
【0005】
また特許文献4には、廃棄プラスチックを攪拌機により気泡を除去し、また、攪拌機の発生する、下降旋回流により、水中に押し込み、分離効率を向上させる方法が開示されている。しかし、特許文献4に開示された方法では、水流により廃棄プラスチックを水中に押し込むため、底部や両サイドの壁部付近で乱流が発生し、両サイドの壁部付近のプラスチックを水中に押し込めない場合や、底部にある比重が重いプラスチックが、再び水面に浮上する現象が発生する。そのため、混合物を分別するのに十分な選別能力を有するとはいえない。
【特許文献1】特開2003−126727号公報
【特許文献2】特開平7−75744号公報
【特許文献3】特公平7−90181号公報
【特許文献4】特開平6−126743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、混合プラスチック部材をプラスチック組成物の系統ごとに分離することができ、該プラスチック組成物からマテリアルリサイクルによりプラスチック原料またはプラスチック成形体を製造することができる、効率的かつ低コストにプラスチック廃材を再資源化し得る比重分別装置および比重分別方法を提供することである。
【0007】
また、本発明の目的は、より詳しくは、混合プラスチック部材の比重差を利用し、液体中でプラスチック組成物の系統ごとに分離する方法において、処理すべきプラスチック廃材の表面に付着する気泡を効率的かつ低コストで除去するとともに、固まったプラスチック廃材を解きほぐしながら、表面張力が働かない液中に投入することより、市場から回収された混合プラスチック廃材から混合プラスチック部材を分離して、さらにその混合プラスチック部材をプラスチック組成物の系統ごとに分離することができ、該プラスチック組成物からマテリアルリサイクルによりプラスチック原料またはプラスチック成形体を製造することができ、サーマルリサイクルされるプラスチック廃材を低減できる、効率的かつ低コストにプラスチック廃材を再資源化可能な比重分別装置および比重分別方法を提供することである。
【0008】
また、本発明の別な目的は、市場から回収されたプラスチック廃材からマテリアルリサイクルにより得られる、プラスチック原料またはプラスチック部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、その内部に比重分離液を収容する液槽と、比重の異なる複数種のプラスチック廃材で構成された混合物の破砕片を液槽に投入するための投入手段と、前記混合物を比重分離液中に沈降させる沈降手段と、前記液槽に設けられた浮上成分の取出口と、前記液槽に設けられた沈降成分の排出手段とを備える比重分離装置であって、前記沈降手段は、回転軸が液面に平行な回転体を少なくとも一部に有するものであることを特徴とする比重分別装置である。
【0010】
ここにおいて、前記回転体は、円柱状または円筒状であり、回転軸が液面に平行であって液面の上方となり、かつ回転体の一部が比重分離液に浸かるように配置され、一定方向に回転することが、好ましい。
【0011】
本発明の比重分別装置における回転体の表層が、水面と回転体の外周面とのなす角をθとしたとき、混合物との動摩擦係数μがtanθより大きい材料で形成されていることが好ましい。
【0012】
本発明の比重分別装置における回転体はブラシローラであるのが好ましく、当該ブラシローラは0.3mm以下の径を有する線状体で構成されているのがより好ましい。
【0013】
本発明の比重分別装置において、回転体の下流側における液面と回転体の上流側における液面とに高低差があり、前記下流側における液面高さから前記上流側における液面高さを引いた値が30mm以上となるように、回転体の回転数が調整されたものであることが、好ましい。
【0014】
本発明の比重分別装置は、前記液槽の底面および/または側面に形成された排液口を有することが好ましい。
【0015】
また本発明の比重分別装置においては、回転体の下流側に、その上端が液面下となる隔壁が設けられたことを特徴とすることが好ましい。
【0016】
本発明の比重分別装置はまた、前記隔壁で仕切られた前記液槽内の各分割領域にそれぞれ少なくとも1箇所の排液口が形成されてなることが好ましい。
【0017】
また本発明の比重分別装置における前記排液口の開口部における最小寸法は、被選別物の平均粒径の3倍以上であることが好ましい。
【0018】
本発明においては、前記分割領域のうち、回転体が設けられた領域以外の領域に、搬送用のブラシローラが設けられたことを特徴とすることが好ましい。
【0019】
また本発明の比重分別装置における沈降成分の排出手段は、液槽の底から一方端壁に一定の角度をもって取り付けられ、駆動手段によって回転されるスクリューコンベアから構成されたものであることが好ましい。
【0020】
前記スクリューコンベアは、比重分離液の液面近傍に配置される部分の底部に、沈降成分の平均径より小さい径を有する孔が複数個形成されたガイドを有するものであることが、より好ましい。
【0021】
本発明の比重分別装置に用いられる比重分離液は、水であることが好ましい。
本発明はまた、比重の異なる複数種のプラスチック廃材で構成された混合物の破砕片を液槽に投入し、前記混合物を液中に少なくとも1回以上沈降させる工程と、浮上成分を前記液槽の外部へ取り出す工程と、液底に沈む沈降成分を前記液槽の外部へ取り出す工程とを有する混合物の比重分別方法であって、前記混合物の沈降のうち少なくとも1回が、回転軸が液面に平行な回転体により行われることを特徴とする混合物の比重分別方法をも提供する。
【0022】
ここにおいて、比重の異なる複数種の材料で構成された混合物がエアコン、テレビ、冷蔵庫および洗濯機からなる群から選ばれる家電製品の廃棄物から発生する混合プラスチックであることが好ましい。
【0023】
また本発明は、上述した本発明の比重分別方法によって回収されたプラスチックから製造されたものである、プラスチック原料またはプラスチック部材を提供する。ここにおいて、前記プラスチック原料はペレット状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の比重分別装置および比重分別方法によれば、表面に気泡が付着しているプラスチックや比重の軽いプラスチックに乗って、浮上している比重の重いプラスチックを含んだ全てのプラスチックが、気泡を取り除かれ、解きほぐされながら、表面張力が働かない液中に投入されることにより、また、1度沈降した比重の重いプラスチックが、再び浮上することがないことにより、プラスチックの比重分離精度が向上する。これにより、純度のよい、樹脂を製造することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明の好ましい一例の比重分別装置を模式的に示す図である。本発明の比重分別装置は、その内部に比重分離液を収容する液槽1と、比重の異なる複数種のプラスチック廃材で構成された混合物の破砕片を液槽に投入するための投入手段と、前記混合物を比重分離液中に沈降させる沈降手段と、前記液槽1に設けられた浮上成分の取出口6と、前記液槽1に設けられた沈降成分の排出手段とを備える基本構成を有する。
【0026】
本発明における投入手段は、混合物の破砕片を搬送するためのたとえばコンベア9(好ましくはスクリューコンベア)を有する。投入手段がスクリューコンベアを有することで、比重分離液への投入前に、混合物の破砕片を、大雑把に浮上物と沈降物とに分けることができるという利点がある。
【0027】
コンベア9は、好ましくは、液槽1に混合物の破砕片を投入し得るように、その搬送方向前方が液槽1内の比重分離液に浸かり、搬送方向後方に向かうにつれて上方に向かうように傾斜して設置される。コンベア9は、その搬送方向が水平方向に対して成す角度が30〜50°であるように傾斜されてなるのが好ましい。前記角度が30°未満であると、破砕片を液中に投入する距離が増え、装置が大型化するという傾向にあるためであり、また前記角度が50°を超えると、液中の破砕片を安定して液中に解放しにくくなる傾向にあるためである。
【0028】
投入手段は、好ましくは、図1に示すように混合物の破砕片をコンベア9上に供給するための供給コンベア2およびホッパー3をさらに備える。また投入手段は、図1に示すようにコンベア9に駆動装置8(たとえばモータ)が取り付けられてなるのが好ましい。かかる構成により、混合物の破砕片は、供給コンベア2によりホッパー3に投入された後、ホッパー3からコンベア9上に自重で移動し、その後、駆動装置8により回転するコンベア9により、液槽1中の比重分離液に投入される。
【0029】
液槽1内の比重分離液に投入された混合物の破砕片は、比重分離液より比重が軽いため液面に浮上するものと、比重分離液より比重が重いため液中に沈降するものと、比重分離液より比重は重いが、気泡が付着しているため、または、比重の軽いプラスチックに乗っているため、浮上しているものとの、大きく分けて3つに分離する。本発明の比重分別装置は、このうち液面に浮上したものを比重分離液中に沈降させるための沈降手段を備え、この沈降手段が、図1に示すように回転軸が液面に平行な回転体4をその少なくとも一部に有することをその大きな特徴とするものである。
【0030】
本発明の比重分別装置によれば、表面に気泡が付着しているプラスチックや比重の軽いプラスチックに乗って、浮上している比重の重いプラスチックを含んだ全てのプラスチックが、気泡を取り除かれ、解きほぐされながら、表面張力が働かない液中に投入される。また、比重分離液より比重は重いが、気泡が付着しているため、または、比重の軽いプラスチックに乗っているため、浮上しているものについても、沈降手段によって液槽1に沈降させ、沈降成分とすることができる。沈降手段にて沈降を行った際、液槽1の底部においては殆ど液の流れがないため、沈降成分が再び液面に浮上して浮上物と混ざることはない。結果、従来技術と比較して、プラスチックの比重分離精度が向上された比重分別装置を提供することができる。
【0031】
沈降手段の前記回転体4は、円柱状または円筒状であり、回転軸が液面に平行であって液面の上方となり、かつ回転体4の一部が比重分離液に浸かるように配置され、一定方向に回転するものであることが好ましい。回転軸が液面の上方となるように設置されることで、水面と回転体の外周円とが接する部分での、水面に対する回転体の外周円の接線のなす角が鋭角となり、液中に沈め易くなるとともに、回転軸にゴムが噛みこむことも低減できるという利点がある。なお、図1には、沈降手段が1個の回転体4を有する場合を示しているが、本発明の比重分別装置はこれに限られるものではなく、複数個の回転体を有するように実現されてもよい。また、本発明の比重分別装置は、沈降手段の少なくとも一部が回転体4であればよく、沈降手段として回転体以外の手段(たとえば、羽根付きのコンベアなど)を有していてもよい。
【0032】
回転体4は、その外径については特に制限されるものではないが、50〜300mmであることが好ましい。外径が50mm未満であると、液面の変動により、液面部の回転体の接線の変動が大きく、安定して液中に破砕片を送り込めないという傾向にあるためであり、また、外径が300mmを超えると、装置が大型化して装置コストが上がる傾向にあるためである。
【0033】
回転体4の回転は、たとえばモータ(図示せず)により駆動し、混合物の破砕片の搬送方向前方に比重分離液中の混合物を進行させる方向に回転させる(図1には、図1の紙面に関して回転体4の左側に前記投入手段のコンベア9が設置され、回転体4が時計回りに回転し、図1の紙面に関して左側へ向かって混合物の破砕片が進行するように設置されてなる例を示している。)。これにより、混合物の破砕片は、コンベア9により液槽1内の比重分離液に投入された後、回転体4により発生する液流によって回転体4に向かって流される。なお、本発明の比重分別装置における液槽1内の比重分離液は、上述のように回転体4の回転によって液流が発生しているが、本明細書において、この液流に関し上流となる側(図1では、紙面に関し右側)を「上流側」と呼称し、下流となる側(図1では、紙面に関し左側)を「下流側」と呼称する。
【0034】
ここで、図2は、図1に示した比重分別装置における沈降手段の回転体4を一部拡大して示す模式図である。上述のように混合物の破砕片のうち浮上物は、回転体4に向かって流された後、回転体4に接触する。これにより、浮上物は、図2に示すように摩擦力によって接線方向F2に力を受け、比重分離液中に沈む。その後、浮上物は浮力により液面にまで上昇してまた回転体4に触れ、接線方向に力を受けて、回転体4から離れる。なお、浮上物の回転体4に接触する位置が、重心位置からずれるため、浮上物は、スピン運動も行う。この動作を数回繰り返しながら、浮上物は下流側に進んでいく。
【0035】
本発明の比重分別装置では、浮上物は、回転体4と摩擦することにより、汚れや傷などにより浮上物表面付着した、気泡が取り除かれると同時に解きほぐされながら、表面張力が働かない液中に入る。このことにより、比重分離液より比重が大きいが、気泡が付着しているため浮上しているプラスチックや軽いプラスチックに乗っているため、浮上しているプラスチックが底部に向かって沈む。
【0036】
本発明の比重分別装置は、回転体4の表層が、水面と回転体の外周面とのなす角をθとしたとき、混合物との動摩擦係数μがtanθより大きい材料で形成されていることが好ましい。これにより、回転体4に接触した浮上物を比重分離液中に沈めることができる。ここで、浮上物の浮力をF1としたとき、浮上物の接線下方向にかかる力は、F1μcosθであり、また、浮上物の接線上方向にかかる力は、F1sinθとなり、浮上物はμ>tanθを満たすときのみ、浮上物は接線下方向に進む。
【0037】
このように混合物との動摩擦係数μがtanθより大きい材料である回転体4は、たとえば、回転体4としてブラシローラを用いる、または、回転体4の表層の形成材料としてたとえばシボ付きのNR(天然ゴム)を用いることで実現することができる。中でも、動摩擦係数μを大きくとることができることから、回転体4はブラシローラであるのが好ましい。またブラシローラの中でも、特にSUS研磨用ブラシが、動摩擦係数μが大きく、またさびないためよい。
【0038】
また本発明の比重分別装置において、回転体4としてブラシローラを用いる場合、当該ブラシローラは好ましくは0.3mm以下の径を有する線状体で構成されているのがより好ましい。0.3mm以下の径を有する線状体で構成されたブラシローラを用いることで、高い泡除去効果を得ることができる。
【0039】
また、ブラシローラにおける前記線状体は、その長さについては特に制限されるものではないが、10〜150mmであるのが好ましい。線状体の長さが10mm未満であると、ブラシの製造が困難である傾向にあるためであり、また線状体の長さが150mmを超えると、装置が大型化して、装置コストが上がる傾向にあるためである。
【0040】
また、ブラシローラにおける前記線状体のピッチは、線状体の線径以上であれば、特に制限されるものではない。線状体のピッチが線径未満であると、ブラシが製造できないためである。また線状体のピッチは、好ましくは5mm以下である。線状体のピッチが5mmを超える場合には、破砕片の形状にもよるが、ブラシに噛みこむという傾向にあるためである。
【0041】
上述した回転体4により、比重分離液中の浮上物は、回転体の摩擦力により液とともに液面より高く持ち上げられ、その後、確実に比重分離液中に入り込むように構成される。すなわち、回転体4の下流側における液面高さが、上流側における液面高さよりも高くなるように構成される。これにより、浮上物はさらに解きほぐされて、比重の重いプラスチックは沈降するようになる。
【0042】
本発明の比重分別装置においては、前記下流側における液面高さから前記上流側における液面高さを引いた値が、好ましくは30mm以上となるように、回転体4の回転数が調整されてなる。回転体4の回転数を上げるに従って、回転体4に下流側から隣接する比重分離液を持ち上げる量が増加し、結果として回転体の下流側における液面高さと上流側における液面高さとの差Hが増加し、それに伴って本発明で比重分別されるプラスチックの純度も上昇する。このプラスチックの純度は、前記液面高さの差Hが30mmを超えると飽和するため(実験例にて後述)、本発明の比重分別装置では、前記液面高さの差Hが30mm以下となるように、回転体4の回転数を調整することが好ましい。上述のように調整するための回転体4の回転数は、具体的には110rpm以上(より好適には110〜120rpm)である。
【0043】
本発明の比重分別装置は、液槽1に排液口16が設けられる。本発明の比重分別装置に限らず、湿式比重分別装置において、一部の被選別物が何らかの不可抗力によって本来の選別経路から外れることは不可避である。たとえば、前記比重分離液の表面張力によって被選別物が前記液槽内壁面に付着したままになったり、各装置の隙間からこぼれた沈降物が液槽底部に堆積したりする。よって、比重分別装置は適宜、比重分離液を排出して前記液槽に付着あるいは堆積した被選別物を除去するためのメンテナンス作業が必要である。液槽1に排液口16を設けることにより、メンテナンス時に液体だけでなく堆積した沈降物も速やかに排出することができる。また、水槽1内壁面に付着した被選別物はホースで洗い流すことが容易であり、このときも洗浄水と被選別物とを速やかに排出することができる。排液口16は、液槽1の底面および/または側面に形成されたものであることが好ましく、液槽1の底面に形成されたものであることがより好ましい。
【0044】
本発明の比重分別装置はまた、図1に示すように、回転体の下流側に、その上端が液面下となる隔壁13が設けられてなるのが好ましい。このような隔壁13を設けてなることで、混合物の分離精度が向上する(0,5%程度向上)ためである。すなわち、回転体により発生した液流は、隔壁13が形成された領域においては隔壁13の上端と液面との間のみの流れとなる。また、浮上物のうち完全に浮上しているものは、隔壁13の上端と液面との間を通過して隔壁13の下流側へと流されるが、比重分離液の液中を深くさまよっている混合物は隔壁13で止められ、隔壁13に沿って浮上するもののみが隔壁13の下流側へと移動できることになる。
【0045】
なお、隔壁13は、下部に隙間を有するように形成されたものであることが好ましい。隔壁13が下部に隙間を有することで、隔壁13の下流側で沈降したもの(沈降成分)が、当該隙間を通過して隔壁13の上流側へ移動し、後述する沈降成分の排出手段によって、当該沈降成分を液槽1の外に排出させることができるためである。
【0046】
本発明の比重分別装置はまた、前記隔壁13で仕切られた前記液槽1内の各分割領域にそれぞれ少なくとも1箇所の排液口が形成されてなることが好ましい。図1には、各分割領域において、液槽1の底面にそれぞれ1個ずつ排液口16を設けてなる例を示している。この構成により、排液口16が1箇所だけのときに比べ、この隔壁13により仕切られた各分割領域における比重分離液の排出および沈降成分の排出が改善される。また、ある特定の分割領域だけメンテナンスしたい場合、たとえば、各分割領域の間で、前記比重分離液の汚れ方や堆積物(沈降成分)の溜まり方に差異があり、液槽1全てをメンテナンスする必要がない場合などは、前記比重分離液の排出量低減やメンテナンス作業(時間と手間)の削減に寄与することができるという利点もある。
【0047】
また本発明の比重分別装置における排液口16の開口部における最小寸法は、被選別物の平均粒径の好ましくは3倍以上、より好ましくは5〜10倍であるように選ばれる。かかる構成により、液槽1に付着あるいは堆積した被選別物(沈降成分)が排液口16を通過する際、引っ掛かったり詰まったりすることがないので、メンテナンス時、前記比重分離液とともに速やかに排出することができる。前記排液口16の開口部における最小寸法は、具体的には、45mm程度である。
【0048】
本発明の比重分別装置は、前記前記分割領域のうち、回転体が設けられた領域以外の領域に、搬送用のブラシローラが設けられてなるのが好ましい。図1には、隔壁13の下流側に、さらに搬送用ブラシローラ5を設けてなる例を示している。このような搬送用ブラシローラ5をさらに備えることで、隔壁13の下流側での浮上物を当該浮上物を液槽1外に取り出すための取出口6にまで円滑に搬送することができる。
【0049】
搬送用ブラシローラ5は、円柱状または円筒状であり、回転軸が液面に平行であって液面の上方となり、かつ回転体の一部が比重分離液に浸かるように配置され、一定方向に回転するものであることが好ましい。また、搬送ブラシローラ5の外径については特に制限されるものではないが、50〜300mmであることが好ましく、100〜200mmであることがより好ましい。
【0050】
また搬送用ブラシローラ5のブラシ部は、線径が0.1〜5mmの線状体を用いたものであることが好ましい。線径が0.1mm未満であると、線状体が切断され易い傾向にあるためであり、また線状体の線径が5mmを超えると、ブラシローラが大型化してしまう傾向にあるためである。
【0051】
また、搬送用ブラシローラ5における前記線状体は、その長さについては特に制限されるものではないが、10〜150mmであるのが好ましい。線状体の長さが10mm未満であると、ブラシの製造が困難である傾向にあるためであり、また線状体の長さが150mmを超えると、装置が大型化して、装置コストが上がる傾向にあるためである。
【0052】
また、搬送用ブラシローラ5における前記線状体のピッチは、当該線状体の線径以上であるならば、特に制限されるものではない。線状体のピッチが線径未満である場合には、ブラシを製造することができないためである。また、線状体のピッチは5mm以下であることが好ましい。線状体のピッチが5mmを超えると、破砕片がブラシに噛みこむ傾向にあるためである。
【0053】
搬送用ブラシローラ5は、緩やかな均一な液流を表層部でのみ起こすことにより、沈んだものをかき乱すことなく、浮遊物を排出口6にまで搬送し得ることから、10〜50rpmの回転数で回転させることが好ましく、20〜30rpmの回転数で回転させることがより好ましい。
【0054】
上述した搬送用ブラシローラ5で搬送された浮上物は、取出口6より液槽1外に比重分離液とともに排出される。図1に示す例の本発明の比重分別装置では、取出口6より取り出された浮上物を、脱液機7に投入し得る構成としている。脱液機7に投入された浮上物は、比重分離液と分離され、回収される。
【0055】
本発明の比重分別装置における沈降成分の排出手段は、好ましくは、液槽1の底から一方端壁に一定の角度をもって取り付けられ、駆動手段によって回転されるスクリューコンベア10から構成される。上述したように、投入手段により液槽1内の比重分離液に投入された混合物の破砕片のうち、比重分離液より比重の重いものは沈降成分となる。また、比重分離液より比重は重いが、気泡が付着しているため、または、比重の軽いプラスチックに乗っているため、浮上しているものについても、沈降手段によって液槽1に沈降し、沈降成分となる。沈降手段にて沈降を行った際、液槽1の底部においては殆ど液の流れがないため、沈降成分が再び液面に浮上して浮上物と混ざることはない。沈降成分の排出手段は、この沈降成分を液槽1の外へ排出するためのものである。
【0056】
沈降成分の排出手段がスクリューコンベア10で構成されることで、沈降成分である比重の重いプラスチックを安定的に液面上にまで運ばれ、液槽1外に落下させることができる。このスクリューコンベア10は、一定の角度をなして傾斜するように設置されるが、当該角度は0〜90°であるのが好ましく、20〜70°であるのがより好ましい。前記角度が20°未満であると、液切れが悪くなる傾向にあるためであり、また、前記角度が70°を超えると、安定して破砕片を持ち上げられない傾向にあるためである。
【0057】
前記スクリューコンベア10は、比重分離液の液面近傍に配置される部分の底部に、沈降物の平均径より小さい径を有する孔17が複数個形成されたガイド11を有するものであることが好ましい。図1には、ガイド11の底部に1個の孔17が形成されているが、これは代表例を示したものであり、実際には孔17が複数個(たとえば300〜1000個)底部に形成されている。このような孔17が形成されていることで、孔17から比重分離液のみが通過し、沈降成分についてはガイド11上に捕捉される。さらに、液面近傍では、比重分離液がガイド11の底部に向かい流れるようになり、重いプラスチックが液流に乗り、液槽1に戻され、再び液面に浮上し、浮上物に混ざることなく、出口方向に搬送され、排出される。ガイド11は、たとえば、スクリューコンベア10の幅方向に向かうにつれて上方に向かうように傾斜するように、液槽1の幅方向の両壁(図1の紙面に関する手前側と奥側の両壁)にまで拡がるように形成され、沈降成分がスクリューコンベア10に集められるようになっている。なお、孔17の径は、具体的には、2〜5mm程度である。
【0058】
図1に示すような構成とすることにより、1本のスクリューコンベア10で沈降成分の排出と脱液とを効率的に行うことができ、比重分別装置全体の小型化とコストダウンを図ることができる。
【0059】
なお、スクリューコンベア10の回転数は、沈降物が水流で舞い上がらない回転数に抑えることが好ましい。具体的には、スクリューの形状により変化するものであるが、スクリューコンベア10の回転数は60rpm以下であるのが好ましい。
【0060】
ここで、本発明の比重分別装置に供される、比重の異なる複数種の材料で構成された混合物は、プラスチック部材を備えた使用済み製品の破砕物であることが望ましい。ここで、プラスチック部材を備えた使用済み製品とは、エアコン、テレビ、冷蔵庫および洗濯機からなる群から選ばれる製品であることが推奨される。
【0061】
ここで、使用済み製品として廃棄されたエアコン、テレビ、冷蔵庫および洗濯機(本明細書において「家電4品目」と呼称する)から回収されたプラスチック系破砕物のプラスチック組成物の系統別の構成比および比重の代表的な一例について、表1および表2を用いて説明する。
【0062】
表1には、家電4品目から回収されたプラスチック部材に用いられるプラスチック組成物の系統別の構成比の代表的な一例を示す。また、表2には、主要な系統別のプラスチック組成物の比重の範囲の代表的な一例を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
表1から明らかなように、家電4品目から回収されたプラスチック部材において、ポリオレフィン系プラスチック組成物およびポリスチレン系プラスチック組成物からなるプラスチック部材をマテリアルリサイクルすることができれば、家電4品目のプラスチック部材の再資源化率は60%を超えるといえる。
【0066】
また、これらの表から明らかなように、家電4品目に多量に使用されているポリオレフィン系プラスチック組成物の比重の範囲は、一般に0.89〜0.91の範囲に含まれることが分かる。また、ポリスチレン系プラスチック組成物の比重の範囲は、一般に1.04〜1.05の範囲に含まれることが分かる。そして、その他の系統のプラスチック組成物からなる部材の大部分は、その比重が、一般に1.10〜2.00の範囲に含まれることが分かる。
【0067】
ここで、本明細書において、「プラスチック組成物」と呼称する際には、狭義のプラスチック組成物のみを示すのではなく、ゴム組成物や高分子組成物なども含む広い意味でのプラスチック組成物を示すものとする。
【0068】
そして、上記より、一般的には、比重が1.06〜1.10の範囲にある比重分離液を用いることにより、ポリオレフィン系プラスチック組成物およびポリスチレン系プラスチック組成物からなる部材と、その他の系統のプラスチック組成物からなる部材とを分離することが可能であることが分かる。また、上記より、一般的には、比重が0.92〜1.01の範囲にある比重分離液(中でも比重が0.95〜1.00の範囲にある比重分離液)を用いることにより、ポリオレフィン系プラスチック組成物からなる部材と、ポリスチレン系プラスチック組成物からなる部材とを分離することが可能であることが分かる。
【0069】
本発明の比重分別装置において用いられる比重分離液は、たとえばポリオレフィン系プラスチック組成物を分別回収する際には該比重分離液の比重は0.92以上であることが好ましく、特に0.95以上であることがより好ましい。また、この比重は1.01以下であることが好ましく、特に1.00以下であることがより好ましい。この比重が0.92未満の場合には、ポリオレフィン系プラスチックの一部が沈降し回収率が低下するという傾向があり、この比重が1.01を超えると、ポリスチレン系プラスチックの一部が混入するという傾向があるためである。ここで、比重が0.92以上かつ1.01以下の上記比重分離液は、特に限定するものではないが、水であることが望ましい。
【0070】
さらに、たとえばポリオレフィン系やポリスチレン系以外の、その他の系統のプラスチック組成物を分別回収する際には、該液体の比重は1.00以上であることが好ましく、特に1.01以上であることがより好ましい。また、この比重は1.10以下であることが好ましく、特に1.08以下であることがより好ましい。この比重が1.00未満の場合には、ポリオレフィン系プラスチックが混入するという傾向があり、この比重が1.10を超えると、ポリアミド系、ポリカーボネート系、ゴムなどが混入するという傾向がある。ここで、比重を1.10以下かつ1.00以上である上記比重分離液は、特に限定するものではないが、水にNaClを溶解した溶液であることが望ましい。あるいはその他の有機物あるいは無機物などを溶解させた溶液あるいはその混合溶液でもよい。
【0071】
さらに、該プラスチック廃材をポリオレフィン系プラスチック組成物、ポリスチレン系プラスチック組成物およびその他の系統のプラスチック組成物の3系統のプラスチック組成物に分別回収する際には、比重が0.92以上かつ1.01以下の上記液体および1.10以下かつ1.00以上である上記液体の2種類を用いるのがよい。この際、特に順序を限定するものではないが、比重が1.00以上かつ1.10以下の上記液体を用いてポリオレフィン系プラスチック組成物およびポリスチレン系プラスチック組成物と、その他の系統のプラスチック組成物とに分離した後、比重が0.92以上かつ1.01以下の上記液体を用いてポリオレフィン系プラスチック組成物とポリスチレン系プラスチック組成物とを分離することが望ましい。
【0072】
本発明はまた、比重の異なる複数種のプラスチック廃材で構成された混合物の破砕片を液槽に投入し、前記混合物を液中に少なくとも1回以上沈降させる工程と、浮上成分を前記液槽の外部へ取り出す工程と、液底に沈む沈降成分を前記液槽の外部へ取り出す工程とを有する、混合物の比重分別方法であって、前記混合物の沈降のうち少なくとも1回が、回転軸が液面に平行な回転体により行われることを特徴とする混合物の比重分別方法をも提供する。このような本発明の比重分別方法における混合物の破砕片を液槽に投入し、前記混合物を液中に少なくとも1回以上沈降させる工程は、混合物を投入する作業と混合物を沈降させる作業とは、別に行ってもよく、また同時に行ってもよい。かかる本発明の比重分別方法は、上述した本発明の比重分別装置を用いて好適に行うことができる。
【0073】
図3は、本発明の比重分別方法の好ましい一例を示すフローチャートである。以下、図3を用いて、本発明の比重分別方法をさらに詳細に説明する。
【0074】
この具体例においては、まず、図3に示すように、家庭などから廃棄された使用済みの家電4品目を回収する(ステップ101)。そして、該家電4品目の廃棄物を解体して、コンプレッサ、熱交換器などの大型の金属部品や、洗濯機の水槽、冷蔵庫の野菜ケースなどの大型のプラスチック成形品を部品ごとに回収する(ステップ102)。本発明では、このステップ102の手解体において、プラスチック廃材を選択的に回収し得ることが好ましい。
【0075】
次に、大型金属部材などが回収された家電4品目の廃棄物の残りの部材を、たとえば衝撃式破砕装置やせん断式破砕装置などの大型破砕機で粗破砕する(ステップ103)。ステップ103における破砕物の粒径は、特に制限されるものではないが、10mm以上であるのが好ましく、40mm以上であることがより好ましい。また、破砕物の粒径は80mm以下であることが好ましく、60mm以下であることがより好ましい。破砕物の粒径が10mm未満または80mmを超える場合には、次工程での金属の選別精度が低下するという傾向があり、さらに粒径が10mm未満の場合には、破砕に長時間を要するため、プラスチックが溶融あるいは熱酸化劣化を起こすという傾向があり、また、粒径が80mmを超えると、嵩比重が小さくなり以後の工程での作業性に悪影響を及ぼすという傾向がある。具体的には、粒径が60mm程度となるように破砕するのが特に好ましい。なお、コンプレッサ、熱交換器をはじめとする大型の金属部材などの破砕が困難な部材は、予め分解してプラスチック部材を含む廃棄物から取り外しておいてもよい。
【0076】
続いて、該家電4品目の廃棄物の破砕物を、鉄、銅、アルミニウムなどで形成された金属系破砕物とプラスチック系破砕物に選別する(ステップ104)。当該ステップにおける破砕された廃棄物を金属系破砕物とプラスチック系破砕物との選別には、たとえば、鉄の選別に適した磁力を用いた選別装置、アルミニウムや銅の選別に適した渦電流を用いた選別装置、粒度を均一にしてふるいにかけるトロンメル装置などを好適に用いることができる。
【0077】
次に、金属系破砕物を選別(ステップ104)した後のプラスチック系破砕物より、低嵩比重破砕物をさらに選別することが好ましい(ステップ105)。ここで、低嵩比重破砕物とは、嵩比重が0.3以下の破砕物を意味する。低嵩比重破砕物の具体例としては、ポリウレタン系断熱材の破砕物や発泡スチロール系の破砕物などが挙げられる。この低嵩比重破砕物は、たとえば風力を用いた選別装置や、振動ふるいを用いた装置により選別することができる。なお、破砕された廃棄物を金属系破砕物とプラスチック系破砕物と低嵩比重破砕物とに選別する際に、風力による選別、磁力による選別、渦電流による選別を行う場合には、その順序は特に特に制限するものではないが、選別の効率の観点からは、まず磁力により鉄系金属破砕物を分離し、次いで渦電流によりアルミニウム系金属や銅系金属の破砕物を選別し、続いて風力により低嵩比重破砕物を選別し、残った混合プラスチック系の破砕物を、以下のステップに供することが好ましい。
【0078】
前記で得られた混合プラスチック系の破砕物は、微破砕工程(ステップ106)に供される。この微破砕は、たとえば、せん断式破砕装置を用いて行うことができる(微破砕後のものを、以下「微破砕物」と呼ぶ。)。微破砕物の大きさに特に制限はないが、5mm以上であることが好ましく、特に8mm以上であることがより好ましい。また、この粒径は30mm以下であることが好ましく、特に20mm以下であることが好ましい。この粒径が5mm未満の場合には、破砕に長時間を要するためプラスチックが溶融あるいは熱酸化劣化を起こすという傾向があり、この粒径が30mmを超えると、加熱成形工程での作業性に悪影響を及ぼすという傾向があるためである。
【0079】
この混合プラスチック系の破砕物には、ポリプロピレン(比重:0.9)およびポリエチレン(比重:0.9)以外に、銅線、ステンレス鋼製ビス、ABS樹脂(比重:1.05)、ポリスチレン(比重:1.05)、ポリウレタン樹脂(比重:1.12)、ポリ円化ビニル(比重:1.3)、ポリ塩化ビニリデン(比重:1.7)などの異種プラスチックが含まれている。
【0080】
なお、本発明の比重分別方法においては、手解体(ステップ102)により回収された水槽、冷蔵庫の野菜ケースなどの大型のプラスチック成形品を、上述したステップ103〜ステップ105のステップを経ることなく、そのまま微破砕工程(ステップ106)に供するようにしてもよい。
【0081】
このようにして微破砕工程(ステップ106)を経た混合物が、本発明でいう「混合物の破砕片」に相当する。次に、この混合物の破砕片を、比重分離工程に供する(ステップ107)。本発明の比重分別方法では、この比重分離工程において、上述したように混合物の破砕片を比重の異なる複数種のプラスチック廃材で構成された混合物の破砕片を液槽に投入し、前記混合物を液中に少なくとも1回以上沈降させる工程と、浮上成分を前記液槽の外部へ取り出す工程と、液底に沈む沈降成分を前記液槽の外部へ取り出す工程とを有する。さらに、前記混合物の沈降のうち少なくとも1回が、回転軸が液面に平行な回転体により行うことを特徴とする。好ましくは、このような湿式比重分離工程を、上述した本発明の比重分別装置を用いて行う。
【0082】
そして、湿式比重分離工程により系統ごとに選別されたプラスチック廃材を、成形し、成形用プラスチック原料とし(ステップ108)、このプラスチック原料を射出成形機に投入しプラスチック成形体を作成する(ステップ109)のが、好ましい。このように、本発明の比重分別方法においては、系統別に分離されたプラスチック廃材を加熱溶融した後、特定の形状に成形することにより、マテリアルリサイクルを行うことが好ましい。
【0083】
マテリアルリサイクルされるプラスチックの具体例としては、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリカーボネート系、ポリメチルメタクリレート系などのプラスチックが挙げられる。これらの中でも、ポリエチレン系やポリプロピレン系などのポリオレフィン系プラスチック、およびポリスチレン系、ABS系などのポリスチレン系プラスチックは、表3に示されるように、他のプラスチックに比べて加工性、経済性などの点で優れているので、本発明の比重分別方法にて好適にマテリアルリサイクルすることが可能である。
【0084】
すなわち、本発明の比重分別方法にて分離回収されるプラスチック廃材は、ポリオレフィン系プラスチック組成物、ポリスチレン系プラスチック組成物およびその他の系統のプラスチック組成物よりなる群から選ばれる少なくともいずれかであり、該ポリオレフィン系プラスチック組成物の比重が0.85〜1.00(より好適には0.89〜0.91)の範囲にあり、該ポリスチレン系プラスチック組成物の比重が1.00〜1.08(より好適には1.04〜1.05)にあり、該その他の系統のプラスチック組成物の大部分の比重が1.08〜2.00(より好適には1.10〜2.00)の範囲にあることが、好ましい。また、本発明における被回収物は、ポリオレフィン系プラスチック組成物および/またはポリスチレン系プラスチック組成物および/またはその他の系統のプラスチック組成物であることが、好ましい。
【0085】
ここで、プラスチックの融点をT℃とすると、この時の加熱温度はT℃以上であることが好ましく、特に(T+10)℃以上であることがより好ましい。また、このときの加熱温度は(T+120)℃以下であることが好ましく、特に(T+80)℃以下であることがより好ましい。このときの加熱温度がT℃未満の場合には、該プラスチックが十分に溶融しないために成形し難いという傾向があり、このときの加熱温度が(T+120)℃を超えると、該プラスチックが熱劣化するという傾向がある。
【0086】
本発明の比重分別方法は、図3に示した各ステップの全てを備える必要はなく、比重の異なる複数種のプラスチック廃材で構成された混合物の破砕片を液槽に投入し、前記混合物を液中に少なくとも1回以上沈降させる工程と、浮上成分を前記液槽の外部へ取り出す工程と、液底に沈む沈降成分を前記液槽の外部へ取り出す工程とを有し、前記混合物の沈降のうち少なくとも1回が、回転軸が液面に平行な回転体により行われるものであればよい。
【0087】
また、本発明の比重分別方法には、図3に示されていないステップが必要により付加、あるいは削除されていても構わない。
【0088】
本発明はまた、上述した本発明の比重分別方法によって回収されたプラスチックから製造されたプラスチック原料をも提供する。本発明のプラスチック原料は、ペレット状であることが好ましい。このとき、このペレットの粒径は1mm以上であることが好ましく、特に2mm以上であることがより好ましい。また、このペレットの粒径は8mm以下であることが好ましく、特に5mm以下であることがより好ましい。このペレットの粒径が1mm未満の場合には、浮遊するため作業性が低下するという傾向があり、このペレットの粒径が8mmを超えると、成形機のシリンダー内で十分に溶融しないため均一混練されないという傾向があるためである。
【0089】
なお、ペレット状のプラスチック原料を成形する場合、押出成形した後に、シートカット、ストランドカット、ホットエアカット、アンダーウォーターカットなどのいずれの方法により造粒してもよい。これらの造粒方法の中でも、後に射出成形により特定の形状に成形する場合には、樹脂原料の供給が円滑に行え、大量処理にも対応できるアンダーウォーターカットが特に好ましい。
【0090】
なお、本発明のプラスチック原料の形状としては、ペレット状に特に限定されるものではなく、たとえばシート状、フィルム状、パイプ状などいずれの形態であってもよく、押出成形機の種類、使用の態様あるいは求められる特性などから適宜決定すればよい。
【0091】
さらに、本発明のプラスチック原料には、熱安定剤や光安定剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー、銅害防止剤、抗菌剤、着色剤などの添加剤を、必要により、本発明の効果を害しない範囲の量で添加してもよい。
【0092】
さらに本発明は、上述した本発明の比重分別方法によって回収されたプラスチックから製造されたプラスチック成形体も提供する。本発明の方法により製造されたプラスチック成形体は、プラスチックからなる部材(プラスチック部材)であってもよい。この場合、このプラスチック部材は、エアコン、テレビ、冷蔵庫および洗濯機よりなる群から選ばれる製品に用いられることが好ましい。
【0093】
前記プラスチック部材は、上記のプラスチック原料から、射出成形などの方法を用いて成形することができる。このとき用いる射出成形機としては、特に限定するものではないが、たとえばスクリューインライン式射出成形機、プランジャ式射出成形機などが挙げられる。
【0094】
また、このプラスチック部材の成形のステップをより簡略化するために、ペレット状などの形状を有するプラスチック原料を作製することなく、破砕したプラスチックを射出成形機にそのまま投入し、プラスチックからなる部材を直接作製しても構わない。
【0095】
さらに、このプラスチックからなる部材は、熱安定剤や光安定剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー、銅害防止剤、抗菌剤、着色剤などの添加剤を、必要により、本発明の効果を害しない範囲の量で添加した上で成形して作製してもよい。これらの添加剤を添加するステップとしては、押出成形機または射出成形機への上記のプラスチック原料または破砕したプラスチックの投入時が好ましい。
【0096】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0097】
<実施例1>
図3に示す手順に従って、実験材料に含まれるポリプロピレン(比重:0.90)およびポリエチレン(比重:0.93)を分別回収した。なお、実験材料は、プラスチック組成物からなる成形体を備えた製品としてエアコン、テレビ、冷蔵庫および洗濯機を入手し、その製品を廃棄物として用いて、手解体を行った(ステップ102)後、通常の破砕機を用いて粗破砕して(ステップ103)得られた破砕物を、通常の磁力を用いた選別機により金属系破砕物を選別し(ステップ104)、さらに通常の風力を用いた選別機により低嵩比重破砕物を選別した(ステップ105)。このようにして、破砕物より金属系破砕物および低嵩比重破砕物を除いた残りのプラスチック混合物を、通常の破砕機を用いて微破砕して(ステップ106)調製した。
【0098】
上述のようにして調製した実験材料(平均粒径:14mm)を、図1に示した本発明の比重分別装置を用いて、比重分離液を収容した液槽に投入し、湿式比重分離工程(ステップ107)に供した。当該実施例で用いた比重分別装置において、投入手段には、その搬送方向が水平方向に対して成す角度が45°となるようにその搬送方向前方が液槽内の比重分離液に浸かり、搬送方向後方に向かうにつれて上方に向かうように傾斜して設置されたスクリューコンベアを用いた。沈降手段としては、外径150mmの円柱体に、ブラシ体(線径:0.2mm、長さ:37.5mm、ピッチ:0.4mmの線状体を有する)を設けたSUSブラシローラを回転数が110rpmとなるように調整した。接触角θはπ/6とした。また、隔壁13の下流側には、外径50mmの円柱体に、ブラシ体(線径:0.4mm、長さ:50mm、ピッチ:10mmの線状体が千鳥格子状で細密充填されてなる)を設けたポリプロピレン製の搬送用ブラシローラ5を設け、回転数が100rpmとなるように調整した。さらに、沈降手段の排出手段として、液槽1の底から一方端壁に角度25°をもって取り付けられたスクリューコンベア10を用いた。沈降手段の排出手段のスクリューコンベア10には、その底部に径5mmの孔17を500個有するガイド11を設けた。また、排液口16の開口部は、被選別物の平均粒径の3倍以上のものが通過できるよう210mmの最小寸法を有する円形状とした。また、分離回収するものはオレフィン系のプラスチックとし、比重分離液として水を用いた。また液深は1100mmとした。
【0099】
次に、湿式比重選別で回収された浮上物を脱水、乾燥した後、スクリュー径45mmの二軸溶融混練押出機を用いて230℃で溶融混練し、ペレット状のプラスチック原料を作成した。
【0100】
次に、作成したペレット状のプラスチック原料を10トン射出成形機をホッパーに投入し、成形温度230℃、金型温度40℃の射出成形条件で成形し、プラスチック成形体を作成した。
【0101】
<実施例2>
沈降手段として、外径150mmの円柱体に、ブラシ体(線径:0.3mm、長さ:37.5mm、ピッチ:0.6mmの線状体を有する)を設けたSUSブラシローラを回転数が500rpmとなるように調整したものを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0102】
<実施例3>
沈降手段として、外径150mmの円柱体に、ブラシ体(線径:0.4mm、長さ:37.5mm、ピッチ:0.8mmの線状体を有する)を設けたSUSブラシローラを回転数が500rpmとなるように調整したものを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0103】
<比較例1>
沈降手段として、櫛型かき羽根を用い、回転数を20rpmに調整した以外は、実施例1と同様にした。
【0104】
<比較例2>
沈降手段として、ポリプロピレン製の管状物(外径:150mm、内径:140mm、長さ:60cm)を用い、回転数を113rpmに調整した以外は、実施例1と同様にした。結果、浮上物の搬送を行うことができず、比重分別することができなかった。
【0105】
上述した実施例1〜3、比較例1のそれぞれについて、得られたプラスチック成形体をTHF溶液に浸すことにより、含まれるポリスチレン系プラスチック組成物を溶解し、残渣重量と溶解重量を測定することでポリオレフィン系プラスチック系組成物純度(PP純度)(重量%)を算出した。また、沈降手段に用いた回転体の2.5kg加重時の動摩擦係数μも算出した。結果を表3に示す。
【0106】
【表3】

【0107】
表3から明らかなように、動摩擦係数μの低い回転体を沈降手段に用いた場合、浮上物を水中に搬送することができず、比重分別を行うことができなかった(比較例2)。これに対し、動摩擦係数μの高い回転体を沈降手段に用いた実施例1〜3では、浮上物は解きほぐされながら再び水面下に沈み、分離精度が向上され、高いPP純度を得ることができた。
【0108】
また表3に示す結果は、沈降手段としてブラシローラを用いた場合、線状体の線径が細いほど分離精度が高く、線径が0.3mmで分離精度が飽和することも示している。これは、ブラシローラの線状体の線径が細いほど浮上物の表面に付着している気泡とブラシローラの線状体とが接触する確率が向上し、気泡除去効果が向上するためと考えられる。一方、線径0.3mm以下の線状体を有するブラシローラを用いても、気泡とブラシローラの線状体とが接触する確率に変化がなくなり、分離精度が向上するものと考えられる。
【0109】
<実施例4>
回転体4の回転数を50rpmとした以外は、実施例2と同様にした。
【0110】
<実施例5>
回転体4の回転数を80rpmとした以外は、実施例2と同様にした。
【0111】
<実施例6>
回転体4の回転数を140rpmとした以外は、実施例2と同様にした。
【0112】
実施例1、4〜6のそれぞれについて、分離回収されたポリオレフィン系プラスチックからPP純度(重量%)を算出した。また、回転体4の下流側における液面高さと上流側における液面高さとの差Hをそれぞれ算出した。結果を表4に示す。
【0113】
【表4】

【0114】
表4から分かるように、回転体4の回転数を上げるに従い、回転体の下流側において比重分離液を持ち上げる量が増加して、下流側における液面高さと上流側における液面高さとの差Hが増加し、それに伴ってPP純度も向上するが、当該液面高さの差Hが30mmを越えるとPP純度が飽和する。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の好ましい一例の比重分別装置を模式的に示す図である。
【図2】図1に示した比重分別装置における沈降手段4の回転体を一部拡大して示す模式図である。
【図3】本発明の比重分別方法の好ましい一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0116】
1 液槽、2 供給コンベア、3 ホッパー、4 回転体、5 搬送用ブラシローラ、6 取出口、7 脱液機、8 駆動装置、9 コンベア、10 スクリューコンベア、11 ガイド、13 隔壁、16 排液口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部に比重分離液を収容する液槽と、
比重の異なる複数種のプラスチック廃材で構成された混合物の破砕片を液槽に投入するための投入手段と、
前記混合物を比重分離液中に沈降させる沈降手段と、
前記液槽に設けた浮上成分の取出口と、
前記液槽に設けた沈降成分の排出手段とを備える比重分離装置であって、
前記沈降手段は、回転軸が液面に平行な回転体を少なくとも一部に有するものであることを特徴とする比重分別装置。
【請求項2】
前記回転体は、円柱状または円筒状であり、回転軸が液面に平行であって液面の上方となり、かつ回転体の一部が比重分離液に浸かるように配置され、一定方向に回転することを特徴とする、請求項1に記載の比重分別装置。
【請求項3】
回転体の表層が、水面と回転体の外周面とのなす角をθとしたとき、混合物との動摩擦係数μがtanθより大きい材料で形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の比重分別装置。
【請求項4】
回転体がブラシローラである、請求項1〜3のいずれかに記載の比重分別装置。
【請求項5】
前記ブラシローラが0.3mm以下の径を有する線状体で構成されている、請求項4に記載の比重分別装置。
【請求項6】
回転体の下流側における液面と回転体の上流側における液面とに高低差があり、前記下流側における液面高さから前記上流側における液面高さを引いた値が30mm以上となるように、回転体の回転数が調整されたものである、請求項1〜5のいずれかに記載の比重分別装置。
【請求項7】
前記液槽の底面および/または側面に排液口が形成されたものである、請求項1〜6のいずれかに記載の比重分別装置。
【請求項8】
回転体の下流側に、その上端が液面下となる隔壁が設けられたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の比重分別装置。
【請求項9】
前記隔壁で仕切られた前記液槽内の各分割領域にそれぞれ少なくとも1箇所の排液口が形成されてなることを特徴とする、請求項8に記載の比重分別装置。
【請求項10】
前記排液口の開口部における最小寸法は、被選別物の平均粒径の3倍以上であることを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載の比重分別装置。
【請求項11】
前記分割領域のうち、回転体が設けられた領域以外の領域に、搬送用のブラシローラが設けられたことを特徴とする、請求項8〜10のいずれかに記載の比重分別装置。
【請求項12】
沈降成分の排出手段が、液槽の底から一方端壁に一定の角度をもって取り付けられ、駆動手段によって回転されるスクリューコンベアから構成されたものである、請求項1〜11のいずれかに記載の比重分別装置。
【請求項13】
前記スクリューコンベアは、比重分離液の液面近傍に配置される部分の底部に、沈降成分の平均径より小さい径を有する孔が複数個形成されたガイドを有するものである、請求項2に記載の比重分別装置。
【請求項14】
比重分離液が水であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の比重分別装置。
【請求項15】
比重の異なる複数種のプラスチック廃材で構成された混合物の破砕片を液槽に投入し、前記混合物を液中に少なくとも1回以上沈降させる工程と、
浮上成分を前記液槽の外部へ取り出す工程と、
液底に沈む沈降成分を前記液槽の外部へ取り出す工程とを有する、混合物の比重分別方法であって、
前記混合物の沈降のうち少なくとも1回が、回転軸が液面に平行な回転体により行われることを特徴とする混合物の比重分別方法。
【請求項16】
比重の異なる複数種の材料で構成された混合物がエアコン、テレビ、冷蔵庫および洗濯機からなる群から選ばれる家電製品の廃棄物から発生する混合プラスチックであることを特徴とする、請求項15に記載の比重分別方法。
【請求項17】
請求項15に記載された比重分別方法によって回収されたプラスチックから製造されたものである、プラスチック原料。
【請求項18】
ペレット状であることを特徴とする請求項17に記載のプラスチック原料。
【請求項19】
請求項15に記載された比重分別方法によって回収されたプラスチックから製造されたプラスチック部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−326506(P2006−326506A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154395(P2005−154395)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】